説明

ジアルキルハイドロパーオキシベンゼンの製造方法

【課題】高い選択率でジアルキルハイドロパーオキシベンゼンを製造する。
【解決手段】下記の工程を含み、酸化工程が複数の反応区分からなり、第一の反応区分の温度が全反応区分の平均温度よりも2.5℃以上高いジアルキルハイドロパーオキシベンゼンの製造方法に係るものである。
酸化工程:ジアルキルベンゼンを含有する酸化原料液を酸化反応に付し、ジアルキルハイドロパーオキシベンゼン、未反応ジアルキルベンゼン及び副生ハイドロパーオキシベンゼン類を含むpH9〜12の酸化反応液を得る
水溶液抽出工程:酸化反応液をアルカリ水溶液を用いて抽出し、ジアルキルハイドロパーオキシベンゼン、副生ハイドロパーオキシベンゼン類を主として含む水層とジアルキルベンゼンを含む油層を得る
リサイクル工程:水溶液抽出工程で得られた油層の少なくとも一部を循環オイルとして前記酸化工程にリサイクル供給する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアルキルハイドロパーオキシベンゼンの製造方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、ジアルキルベンゼンを酸化することによりジアルキルハイドロパーオキシベンゼンに変換するジアルキルハイドロパーオキシベンゼンの製造方法であって、高い選択率でジアルキルハイドロパーオキシベンゼンを製造するという優れた特徴を有するジアルキルハイドロパーオキシベンゼンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジアルキルベンゼンを含有する酸化原料液を酸化反応に付すことによりジアルキルハイドロパーオキシベンゼンを製造する方法は、たとえば特許文献1に1,3−ジ−(2−ヒドロペルオキシ−2−プロピル)ベンゼンを製造する方法を代表的な例として、開示されている。ここで、酸化反応液中には1,3−ジ−(2−ヒドロペルオキシ−2−プロピル)ベンゼン(以下、「DHPO」と記す。)の他、3−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)−1−(2−ヒドロペルオキシ−2−プロピル)ベンゼン(以下、「CHPO」と記す。)3−イソプロピル−1−(2−ヒドロペルオキシ−2−プロピル)ベンゼン(以下、「MHPO」と記す。)、未反応1,3−ジイソプロピルベンゼン(以下、「MDC」と記す。)及び副生する1,3−ジ−(2−ハイドロキシ−2−プロピル)−ベンゼン(以下、「DCA」と記す。)が含有されている。該酸化反応液は水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液を用いた抽出に付され、DHPO及びCHPOを主として含有する水層並びにMHPO、MDC及びDCAを主として含有する油層が得られる。そして、該油層の一部は、MHPO及びMDCを回収する目的で、循環オイルとして酸化工程にリサイクル供給されるのが通常である。ところが、従来の技術によると、該循環オイルは、前記の水溶液抽出工程で用いたアルカリなどの抽出剤成分を含有しており、該アルカリ分は、循環オイルとともに酸化工程に供給される。該アルカリ分は、酸化工程においてCHPOおよびDCAの生成を促進し、DHPOの選択率を低下させるため、DHPO選択率の向上は困難であった。
【0003】
さらに特許文献2には、該循環オイル中の該アルカリ分を水で洗浄することにより、酸化反応器内のpHを制御することが開示されている。しかし、酸化反応器内のpHを7〜7.5の範囲に維持しているため、リサイクルされる循環オイル量を大きくすることができず、リサイクルされる原料中のMDC濃度を高く維持することができていなかった。
【0004】
【特許文献1】特開2002−322146号公報
【特許文献2】特開昭59−82327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる状況に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、イソプロピルハイドロパーオキシイソプロピルベンゼン及びジアルキルベンゼンを主として含有する循環オイルを、原料液として酸化反応に付すことにより、ジアルキルハイドロパーオキシベンゼンを製造する方法であって、循環オイルに含有される水溶液抽出工程で用いたアルカリ分の影響により、ジアルキルハイドロパーオキシベンゼン選択率の向上は困難であるという従来技術の問題点を解消し、高い選択率でジアルキルハイドロパーオキシベンゼンを製造する方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、ジアルキルベンゼンの液相酸化によるジアルキルハイドロパーオキシベンゼンの製造方法において、下記の工程を含み、酸化工程が複数の反応区分からなり、第一の反応区分の温度が全反応区分の平均温度よりも2.5℃以上高いジアルキルハイドロパーオキシベンゼンの製造方法に係るものである。
酸化工程:ジアルキルベンゼンを含有する酸化原料液を酸化反応に付し、ジアルキルハイドロパーオキシベンゼン、未反応ジアルキルベンゼン及び副生ハイドロパーオキシベンゼン類を含有するpH9〜12の酸化反応液を得る工程
水溶液抽出工程:酸化反応液をアルカリ水溶液を用いる抽出に付し、ジアルキルハイドロパーオキシベンゼン、副生ハイドロパーオキシベンゼン類を主として含有する水層並びにジアルキルベンゼンを主として含有する油層を得る工程
リサイクル工程:水溶液抽出工程で得られた油層の少なくとも一部を循環オイルとして前記酸化工程にリサイクル供給する工程
【発明の効果】
【0007】
本発明により、イソプロピルハイドロパーオキシイソプロピルベンゼン及びジアルキルベンゼンを主として含有する循環オイルを、原料液として酸化反応に付すことにより、ジアルキルハイドロパーオキシベンゼンを製造する方法であって、循環オイルに含有される水溶液抽出工程抽剤として用いるアルカリ分の影響により、ジアルキルハイドロパーオキシベンゼン選択率の向上は困難であるという従来技術の問題点を解消し、高い選択率でジアルキルハイドロパーオキシベンゼンを製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
酸化に供するジアルキルベンゼンとしては、ジイソプロピルベンゼンが挙げられる。具体的には、メタジイソプロピルベンゼン(MDC)、パラジイソプロピルベンゼンなどが例示できる。本発明方法はイソプロピル基を含有するジイソプロピルベンゼンに好適に使用できる。
【0009】
本発明の具体例としては、ジイソプロピルベンゼンがメタジイソプロピルベンゼン(MDC)であり、ジイソプロピルハイドロパーオキシベンゼンがメタジイソプロピルハイドロパーオキシベンゼン(DHPO)であり、イソプロピルハイドロパーオキシイソプロピルベンゼンが1−イソプロピル−3−イソプロピルハイドロパーオキシベンゼン(MHPO)である場合をあげることができる。
【0010】
以下、本発明を適用する具体的な例をメタジイソプロピルベンゼン(MDC)からメタジイソプロピルハイドロパーオキシベンゼン(DHPO)を得るプロセスを用いて説明するが、本発明は該プロセスに限定されるものではない。
【0011】
また、説明するプロセスは代表的な例であり、適宜変更が可能である。また、下記にあげたプロセス中の工程は、代表的なものであり、必要に応じ、工程が追加あるいは削除される。
【0012】
本発明の酸化工程は、ジアルキルベンゼンを含有する酸化原料液を酸化反応に付し、ジアルキルハイドロパーオキシベンゼン、未反応ジアルキルベンゼン及び副生ハイドロパーオキシベンゼン類を含有するpH9〜12の酸化反応液を得る工程である。本工程を実施する装置及び条件としては、次のものをあげることができる。
【0013】
酸化原料液中には、主原料であるMHPO20〜60重量%、MDC10〜40重量%の他、DHPO0〜5重量%、CHPO0〜10重量%及びDCA0〜5重量%が通常含有される。酸化剤としては、通常、空気又は純酸素が用いられる。通常の反応条件としては、温度70〜110℃、圧力0〜1MPa(G)、滞留時間0〜50時間などをあげることができる。別途、水分調整として、反応液に水を加えて、エマルジョン状態で酸化反応に付してもよい。酸化工程に用いる装置としては、たとえば流通式反応槽や反応塔などをあげることができる。
【0014】
酸化工程で得られる酸化反応液中の成分の通常の濃度としては、DHPO3〜30重量%、CHPO0〜10重量%、MHPO20〜60重量%、MDC0〜35重量%及びDCA0〜5重量%をあげることができる。
【0015】
酸化工程で得られる酸化反応液のpHは9〜12であり、このましくは9〜11である。該pHが低すぎるとハイドロパーオキサイドの酸分解が促進され、また装置腐食が懸念される。一方該pHが高すぎるとハイドロパーオキサイドのアルカリ分解が促進されるので好ましくない。
【0016】
水溶液抽出工程は、酸化反応液をアルカリ水溶液を用いる抽出に付し、ジアルキルハイドロパーオキシベンゼン、副生ハイドロパーオキシベンゼン類を主として含有する水層並びにジアルキルベンゼンを主として含有する油層を得る工程である。
【0017】
(水/油)重量比は、通常0.2〜5である。水溶液としてはアルカリ水溶液が好ましく、アルカリとしては水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ水溶液中のアルカリ濃度は、通常0.1〜30重量%である。通常の抽出条件としては、温度0〜70℃、1〜10段の向流抽出をあげることができる。水溶液抽出工程に用いる装置としては、たとえばミキサーセトラーや抽出塔などをあげることができる。
【0018】
リサイクル工程は、水溶液抽出工程で得られた油層の少なくとも一部を循環オイルとして前記酸化工程にリサイクル供給する工程である。循環オイルとしては、水溶液抽出工程で得られた油層の一部又は全部が用いられるが、通常は水溶液抽出工程で得られた油層の90〜100%が用いられる。
【0019】
循環オイル中には、前記水溶液抽出工程由来のアルカリ分が含まれる。該アルカリ分はナトリウムカチオンとして、通常50〜3000重量ppmである。また、循環オイルのpHは、通常12〜13である。
【0020】
本発明においては、酸化工程が複数の反応区分からなり、第一の反応区分の温度が全反応区分の平均温度よりも2.5℃以上高くする必要があり、好ましくは3.5℃以上高くする必要がある。このようにすることにより、前記の課題が解決できる。ただし、エネルギーロス及びハイドロパーオキサイドの熱劣化の観点から、20℃以上にすることは好ましくない。
【0021】
また、循環オイルを酸化工程前に洗浄水と接触し、分液した後に酸化工程へ供給することにより、さらに高い効果を得ることができる。
【0022】
洗浄水としては、水や酸化反応液を分液した後の分液水、酸化工程において発生する廃棄ガス凝縮水といった、プロセスにおいて発生する水層を用いることができる。これらは循環オイルと直接混合しても良く、水で希釈後に用いても良い。洗浄水の量は、循環オイルに対して0.01〜10重量%である。混合条件としては、温度0〜80℃、混合時間1〜180分をあげることができる。また、混合操作に用いる装置としては、たとえばラインミキサーや混合槽などをあげることができる。
【0023】
上記接触操作後、分液した後における循環オイルpHは、通常7〜13となるが、好ましくは循環オイルのpHが7〜11の範囲内となるように、洗浄水の量を調整する。分液操作に用いる装置としては、たとえばセトラーなどをあげることができる。
【0024】
上記操作により、循環オイルに含有される水溶液抽出工程で用いたアルカリ分の影響を減少し、高い選択率でDHPOを製造することができる。
また、酸化工程にリサイクルされる循環オイル量を増加させることができ、この操作により、酸化反応器へリサイクルされるMDC濃度を増大させることが可能により、反応速度を上昇させることができる。
【0025】
本発明においては、かつ酸化工程が複数の反応区分からなり、第一の反応区分の温度が全反応区分の平均温度よりも2.5℃以上高いことが必要である。このようにすることにより、第一の反応区分で生成する有機酸を増加させることができる。そして、上記操作により、第一の反応器及び区分内のpHを下げることが可能になり、酸化工程にリサイクルされる循環オイル量をさらに増加させることができる。この操作により、酸化反応器へリサイクルされるMDC濃度をさらに増大させることが可能になり、反応速度を上昇させることができる。なお、反応温度の調整は、熱交換器等を使用した温水等による加熱や空気や冷却水等を使用した除熱等の操作をすることにより実施できる。
【0026】
本発明における「反応区分」とは、温度、圧力及び組成が均一な区分を言い、例ととして、ひとつの反応器内に堰を設けて区画した区分、独立した反応器により形成された区分等をあげることができる。反応区分の数は、経済性、反応成績等から決定されるが、通常2〜10である。
【実施例】
【0027】
次に本発明を実施例により説明する。
実施例1
3基の酸化反応器が直列に配置された酸化工程(反応区分数=3)を用いた。第一反応器へリサイクル成分を含む酸化原料油(DHPO:0.5重量%、MHPO:42.0重量%、MDC:24.7重量%を含む)を毎時67容量部連続的に供給し、反応器出口の酸素濃度が5%になるように空気供給量を制御し、各塔の平均温度が88.5℃(第一反応器温度92.0℃、第二反応器温度90.5℃、第三反応器温度83.0℃)、0.3MPa、水分3〜4重量%、pH9〜11に調整し、滞留時間10時間にて酸化反応させた。この酸化反応溶液にフレッシュMDCを毎時5容量部連続供給し、分離水を除去した。ここで得た分離水を、洗浄水として使用した。また、分液後の酸化反応溶液から目的反応生成物であるDHPO等を分離するため、アルカリ抽出工程において7重量%水酸化ナトリウム水溶液で抽出し、DHPOを含む水酸化ナトリウム水溶液を得た。苛性で抽出した後の酸化反応溶液は、酸化工程にリサイクル供給する前に洗浄水(酸化分離水)と混合し、分液後、ほとんどリサイクルして使用した。
次にDHPOを含む水酸化ナトリウム水溶液から目的反応生成物であるDHPO等を分離するため、メチルイソブチルケトン抽出工程において、メチルイソブチルケトン(以下「MIBK」)で抽出し、DHPOを含むMIBK溶液を得た。その結果、毎時5.09容量部のDHPOが得られた。収率は、74.5%となった。
【0028】
比較例1
酸化反応器へリサイクル成分を含む酸化原料油(DHPO:0.2重量%、MHPO:38.7重量%、MDC:24.5重量%を含む)を毎時72容量部連続的に供給したこと及び平均反応温度を86.8℃(第一反応器温度85.5℃、第二反応器温度87.5℃、第三反応器温度87.5℃)にした以外は実施例1と同様の反応を行った。その結果、毎時3.16容量部のDHPOが得られた。収率は、66.1%となった。


【0029】
【表1】


DHPO収率=(DHPO生成mol量/MDC供給mol量)
【0030】
表1から明らかなとおり、本発明の条件を満足する実施例1は、本発明の条件を満足しない比較例1に比べ、DHPOの収量及び収率に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアルキルベンゼンの液相酸化によるジアルキルハイドロパーオキシベンゼンの製造方法において、下記の工程を含み、酸化工程が複数の反応区分からなり、第一の反応区分の温度が全反応区分の平均温度よりも2.5℃以上高いジアルキルハイドロパーオキシベンゼンの製造方法。
酸化工程:ジアルキルベンゼンを含有する酸化原料液を酸化反応に付し、ジアルキルハイドロパーオキシベンゼン、未反応ジアルキルベンゼン及び副生ハイドロパーオキシベンゼン類を含有するpH9〜12の酸化反応液を得る工程
水溶液抽出工程:酸化反応液をアルカリ水溶液を用いる抽出に付し、ジアルキルハイドロパーオキシベンゼン、副生ハイドロパーオキシベンゼン類を主として含有する水層並びにジアルキルベンゼンを主として含有する油層を得る工程
リサイクル工程:水溶液抽出工程で得られた油層の少なくとも一部を循環オイルとして前記酸化工程にリサイクル供給する工程
【請求項2】
上記循環オイルを酸化工程前に洗浄水と接触し、分液した後に酸化工程へ供給する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ジアルキルベンゼンがジイソプロピルベンゼンであり、ジアルキルハイドロパーオキシベンゼンがジイソプロピルハイドロパーオキシベンゼンである請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
ジイソプロピルベンゼンがメタジイソプロピルベンゼンであり、ジイソプロピルハイドロパーオキシベンゼンがメタジイソプロピルハイドロパーオキシベンゼンである請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
洗浄水が酸化反応液を分液した後の分液水である請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
水溶液抽出のアルカリ水溶液が水酸化ナトリウム水溶液である請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−246511(P2007−246511A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28978(P2007−28978)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】