説明

ジェットインク及びインクジェット印刷方法

本発明は、基材上へインクを印刷して、LEDからの放射線を使用してインクを硬化させる工程を含んでなる、インクジェット印刷方法に関する。本発明はまた、かかる方法に用いられるカチオン性インクジェット用インクに関し、オキシラン、環状エステル又は環状カーボネートモノマーのうちの少なくとも1つを含有するカチオン硬化性成分と、ヨードニウム塩光重合開始剤を含有する光重合開始システムと、増感剤を含んでなるインクであって、前記光重合開始システムが300nm〜420nmの範囲の波長で放射線を吸収できるインクに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット印刷用インク(ジェットインク)、及びインクジェット印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フリーラジカル硬化可能なジェットインクが開発されており、それは放射線(紫外線又は電子ビーム放射線)への暴露により生じるフリーラジカル中間体を介する連鎖反応によって直ちに架橋する、重合可能なモノマーを含有する。フリーラジカル硬化可能なジェットインクは、噴出が確実に行えることや、高い自由度で調製できる性質を有することが知られている。それらを用いることで、様々なメディア上に良好な特性を付与することが可能となり、例えばアート紙及びプラスチック製の包装材料への用途が挙げられる。しかしながら、不適当な基材(例えばアクリル)に塗布した場合には、フリーラジカル硬化可能なジェットインクは接着性が良好でないことが従来知られている。更に、フリーラジカル硬化可能なジェットインクは硬化の際に顕著な収縮を示すため、望ましくない場合が多い。更に、フリーラジカル硬化可能なインクの硬化は、フリーラジカル中間体と反応する分子状酸素の存在下により阻害され、またそれゆえに、フリーラジカル硬化成分を有するインクを使用して印刷を行う場合は、分子酸素が実質的にない不活性雰囲気を設定することが通常必要である。
【0003】
カチオン硬化可能なジェットインクは、カチオン中間体を介する連鎖反応によって硬化する。フリーラジカル硬化可能なインクと比較して所望の基材に対する接着性が向上したカチオン硬化可能なジェットインクは、従来から存在する印刷方法(例えばフレキソ印刷又はグラビア印刷)への使用を目的として開発された。しかしながら、カチオン硬化可能なインクのための適切な原料が市販されていないため、かかるインクの調製が柔軟性を欠くことや、完全に硬化させるために長い硬化時間及び/又は大量の放射線が必要となることにより、それらのインクジェット印刷への使用は限定されたものとなっている。
【0004】
放射線硬化可能なインクを使用した印刷方法では、インクの硬化に適切な波長でエネルギーを放射する放射線源が必要となる。200nm〜450nmの波長で放射線を発するUVランプがこの用途に広く用いられている。しかしながら、従来のUVランプ(例えば水銀放電ランプ)の使用には、多くの課題が存在する。すなわち従来のUVランプでは、所望の波長の放射線は、発さられる放射線のほんの一部に過ぎないため、非常に効率が悪い。従来のUVランプはまた感温性であり、ゆえにそれらは加温時にのみ所望の波長の光を発する。すなわち、ランプの応答時間は遅くなる傾向があり、ゆえにそれらを使用前に加温する必要性や、又はランプを待機モードに維持するときの温度維持の必要性が生じるが、それはエネルギーの浪費に繋がる。従来のUVランプでは、光強度が一定しないことが多く、それにより硬化後のインクの性質も一定しなくなる。更に、おそらく最も重要なことに、従来のUVランプは通常大きく重いため、それらをインクジェット印刷ヘッド(特に可動キャリッジに装着した印刷ヘッドやシングルパスの印刷ヘッド)に装着するのが困難である。シングルパス印刷ヘッドを使用した印刷方法では、単一の比較的低い光強度(例えば500mJ/cm未満)か、又は印刷ヘッド上若しくはその付近に通常装着される放射線源からの放射線により急速に硬化する調製インクの使用が必要となる。「シングルパス」印刷システムとは、画像が印刷ヘッドの下に存在する基材の単一のパス上に印刷されるシステムのことを指す。通常、シングルパス印刷ヘッドは、基材の幅全体にわたる程の十分な広さを有する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のUVランプ以外の光源からの放射線を使用し、またそれにより高度な硬化レベルを有し、様々な基材上への良好な接着などの許容できる特性を有する硬化インク膜が提供される、インクジェット式印刷方法に対するニーズが存在する。特に、インクが比較的低い線量においても効率的な硬化効果を示す、シングルパスインクジェット印刷方法に対するニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材上へインクを印刷し、LEDからの放射線を使用してインクを硬化させる工程を含んでなるインクジェット印刷方法の提供に関し、当該インクはカチオン硬化可能な成分、ヨードニウム塩光重合開始剤及び増感剤を含んでなり、当該カチオン硬化可能な成分は少なくとも1つのオキシラン、環状カーボネート又は環状エステルモノマーを含んでなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
カチオン硬化可能なモノマー、オリゴマー又はプレポリマーを含んでなるインクがLEDからの放射線を使用して硬化するとき、増感剤との組み合わせによるヨードニウム塩光重合開始剤の使用により、良好なレベルの硬化が得られることを見出した。
【0008】
LED装置は典型的には、従来のUVランプと比較して低コストの装置である。更に、LED紫外線源は、比較的低い温度で操作することができ、予熱を必要とせず、迅速な応答時間を有し、比較的コンパクトで軽く、デジタル機材及び移動キャリッジに装備された印刷ヘッドに装着するのが比較的容易である。LED放射線源はLED装置のアレイから構成されてもよい。LED装置のアレイは、例えば、シングルパス印刷ヘッドの幅全体に装着してもよい。
【0009】
好適には、LED放射線源が存在する領域に不活性環境が設けられない。本発明に係るカチオン硬化性インクジェットインクは酸素の存在下で硬化させてもよく、硬化の間、不活発な無酸素環境(例えば窒素ブランケット)を付与して酸素による阻害を防止する必要がない。
【0010】
好適には、当該インクは加熱した印刷ヘッドから塗布される。
【0011】
好適には、当該印刷はシングルパスインクジェット印刷方法である。
【0012】
従来、LEDは概して近UV範囲(例えば300nmより長い波長、通常約390nm)の紫外線スペクトルの長い波長側の光を発するため、カチオン硬化可能なインクはLEDからの放射線を使用した硬化に適合しないと考えられていた。カチオン硬化インク剤に通常使用される光重合開始剤は、限られた波長範囲の紫外線のみを吸収するため、利用可能なLED装置の放出スペクトルとの適合性は理想とは離れていた。更に、上記したように、従来のUV源を使用した場合には、カチオン硬化性インクの硬化に比較的大きい線量の放射線及び/又は長い硬化時間が必要であった。すなわち、カチオン硬化性インクはLED装置から発される放射線により硬化する物質としての適切な候補であるとは考えられず、またカチオン硬化性インクを硬化させるためにLEDを使用することは従来実際的でなかった。
【0013】
本発明において、当該カチオン硬化性インクがLED UVランプによる照射を受けたときに良好な硬化レベルを示しうることを見出した。すなわち、ヨードニウム塩(光重合開始剤)は通常、LED紫外線源により励起される300nm(ヨードニウム塩の典型的な吸収ピークは約250nm)以上の波長では、増感剤の非存在下ではカチオン連鎖反応の開始に充分な放射線を吸収しないが、ヨードニウム塩光重合開始剤が増感剤によって効果的に増感されると、LED装置により発される波長範囲で紫外線を吸収し、一方他のタイプの光重合開始剤(例えばトリアリールスルホニウム塩)では効果的な増感が更に困難で、通常LED放射線源から発せられる比較的長い波長の放射線を吸収しないことを見出した。その工程で用いられるヨードニウム塩光開始剤は、様々な供給源から入手してもよく、ジトリルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(商品名Omnicat 440として市販)を含有する本発明のインクが好ましい。
【0014】
好適には、当該増感剤は300nm〜420nmの範囲の波長で放射線を吸収できる。LED紫外線源は通常、390nm以下の範囲の波長で放射線を発し、それが市販のLED装置における一般のピークの放出波長である。好ましくは、当該増感剤は360〜405nm、好ましくは380〜400nmの範囲の波長で放射線を吸収する。より好適には、当該増感剤は、置換及び非置換の多環芳香族化合物(例えばナフタレン、アントラセン及びピラセン)、及び置換及び非置換のチオキサントン及びキサントンからなる群から選択される。かかる増感剤が、特にヨードニウム塩の増感に効果的で、LED UV源により発される波長(例えば300nm〜420nmの範囲の波長)で放射線を吸収することが解っている。かかる波長で放射線を吸収する他の増感剤を本発明のインク用増感剤として用いてもよく、複合芳香族化合物(例えばヒドロキシ基を含むアルキルフェノン光重合開始剤)などが挙げられる。当該増感剤は好ましくはアントラセンであり、より好ましくはアルコキシアントラセンであり、更に好ましくは、当該増感剤はジブトキシアントラセン(DBA)である。DBAが、本発明のインク組成物に用いられる特に有効な増感剤であることを見出した。
【0015】
また、チオキサントン増感剤が本発明のインク組成物に用いられる有効な増感剤であることを見出した。チオキサントンはまた、特に若干のインク組成物にとり好適な溶解性を示す。更に、チオキサントンは通常、比較的良好な毒性プロファイルを有する。
【0016】
好適には、当該増感剤は式Iで表されるチオキサントンである。
【化1】

式中、各Rは水素、C1−12アルキル基、C1−12アルコキシ基又はハロゲンから独立に選択される。好ましくは、当該増感剤は1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン(CPTX)又はイソプロピルチオキサントン(ITX)である。
【0017】
ITXは比較的廉価な増感剤である。本発明のインク組成物への使用に適する他のチオキサントン開始剤としては、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−ブチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン及び2−プロポキシチオキサントンが挙げられる。
【0018】
好適には、当該インクは、全インク組成に対して1〜10重量%の光重合開始剤を含有する。光開始剤のかかる濃度が2〜6重量%の範囲であるのが好ましく、それにより良好な硬化レベルを示すインク組成物が得られることを見出した。好適には、光重合開始剤:増感剤の比率(重量)は20:1〜0.1:1、好ましくは10:1〜1:1の比率であり、より好ましくは光重合開始剤:増感剤の比率(重量)は4:1〜2:1である。かかる増感剤の濃度により、インク組成物がLED放射線源からの紫外線による照射を受けるときに良好な硬化レベルが得られることを見出した。
【0019】
好適なモノマー(また用語「モノマー」には重合可能なオリゴマー及びプレポリマーが含まれる)としては、脂環式エポキシドを有するオキシラン分子、特に3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3、4−エポキシシクロヘキシルカルボン酸エステルが好ましい。エチレンオキシド(別名エポキサイド)モノマーはカチオン性の開環重合を受ける分子であり、特に脂環式のオキシランを含有する印刷インキに広く用いられる。
【0020】
好適には、当該インクは20%〜80重量%、好ましくは20%〜50重量%でオキシランモノマーを含有する。本発明に係る若干のインク組成物が少なくとも20重量%のオキシランモノマーを含むときに、特に良好な硬化特性を示すことを見出した。脂環式のオキシラン(商品名:Cyracure UVR6105、UVR6107、UVR6110及びUVR6128(Dow社製の市販品)など)は、直鎖状オキシランと比較して急速に硬化する傾向を有するために特に好ましい。他の好ましいオキシランとしては、ポリオールのグリシジルエーテルなどのエポキシ官能性オリゴマー/モノマーが挙げられる。不飽和原料のエポキシ化によって生じるオキシランもまた好適であり、例えばエポキシ化ダイズ油、エポキシ化ポリブタジエン又はエポキシ化アルケンなどが挙げられる。天然由来オキシランもまた好適であり、Vernonia galamensisから抽出した植物油が例示される。
【0021】
多くの適切なオキシラン(脂環式のオキシランを含む)が高粘性であることはすなわち、重合可能な分子種としてのオキシランなどのジェットインキ成分は通常、組成物の粘性を低下させるための希釈剤として機能する他の化合物によって「希釈(cut)」されなければならないことを意味する。
【0022】
好適には、当該インクは環状エステルを含有する。本発明に係る硬化可能なインクジェット用インクへの環状エステル化合物(例えばラクトン)の添加により、インクに対して、良好な硬化特性と共にインクジェット印刷に適する粘性が提供されることを見出した。この発見は驚くべきことである。何故なら、環状エステルはカチオン硬化性インクにおいて不活性の分子種であり、それによりインクの硬化に対して好ましくない影響を与え、特に、それを高濃度で用いた場合には硬化速度を低下させ、フィルム粘着性を高めてしまうと考えられていたからである。
【0023】
環状エステルは市販されており、比較的廉価で、実質的に無臭で、優れた健康及び安全プロフィールを有する。
【0024】
好適には、当該環状エステルとしては4−、5−、6−又は7−員のラクトン環が挙げられる。5〜7員(環中に4〜6個の炭素原子)の歪んだ環を有するエステルが好適であることを見出した。当該環状エステルはブチロラクトン、バレロラクトン又はカプロラクトンからなる群から選択されるのが好ましく、また好ましい環状エステルはγ−ブチロラクトン又はε−カプロラクトンである。かかるラクトンは低い粘性を有し、良好な硬化プロファイルを有するインクの調製に使用できる。更に、それらは比較的安価で、入手も容易である。
【0025】
好適には、当該インクは少なくとも3%、好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%及び特に好ましくは少なくとも12重量%の環状エステルを含有する。インクジェット用インク組成物中の環状エステルのレベルが3%以上であるときでも、従来考えられていたようなインクの硬化における不都合はなく、また、それがインクに対して少なくとも12%、例えば少なくとも15重量%の量で存在するとき、インク組成物の粘度が顕著に低下することを見出した。好適には、当該インクは環状エステルを50%以下、好ましくは40%未満、より好ましくは35重量%未満で含有する。環状エステルのレベルはインクに対して10〜30重量%、特に15〜25重量%が好ましい。
【0026】
好適には、当該インクは環状カーボネートを含有する。本発明に係るカチオン硬化性インクジェットに環状カーボネート成分を含有させることにより、インクに対して、良好な硬化特性と共にインクジェット印刷に適する粘性が付与されることを見出した。環状カーボネートは従来、大部分の製造業者及びエンドユーザーから不活性成分であるため、硬化に対して良好な影響を及ぼさず、特に高濃度で含有させるべきではないと考えられていたため、この発見は驚くべきものである。
【0027】
好適には、環状カーボネートは4−、5−、6−又は7−員環を有し、より好ましくは5−員の環状カーボネートを有する。好適な環状カーボネートとしては、炭酸プロピレン、グリセリンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、エチレンカーボネート及びブチレンカーボネートが挙げられる。炭酸プロピレンが特に好ましい。
【0028】
好適には、当該インクは、少なくとも3%、好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも8%、特に好ましくは少なくとも10重量%の環状カーボネートを含有する。インクジェット用インク組成物に対して環状カーボネートのレベルが3%以上であるときでも、従来考えられていたようなインクの硬化における不都合はなく、また、それがインクに対して少なくとも8%、例えば少なくとも10重量%の量で存在するとき、インク組成物の粘度が顕著に低下することを見出した。好適には、当該インクは50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは35%未満、特に好ましくは25%未満(いずれも重量%)で環状カーボネートを含有する。インク中の環状カーボネートの濃度は、5〜25%、特に8〜15重量%が好適である。
【0029】
特にプロピレンカーボネートを含有させることにより、低い線量の紫外線によるインクの硬化が可能となることを見出した。
【0030】
好ましくは、当該インクはインク組成物の全重量に対して3〜30重量%、好ましくは5〜20重量%のレベルでプロピレンカーボネートを含有する。好ましくは、当該インクは環状エステル及び/又は環状カーボネートとの組み合わせでオキシランを含有する。
【0031】
オキシラン、環状カーボネート又は環状エステルのうちの少なくとも1つに加えて、本発明のインクはオキセタンモノマーを更に含んでなってもよい。オキセタンモノマーの代わりに、又はそれに加えて、インク組成物はビニルエーテルを含んでなってもよい。オキセタン及びビニルエーテルモノマーは、カチオン硬化したインク組成物の粘性の低下(例えば25℃で50cPs未満)を助長することが知られている。
【0032】
単官能性のオキセタンを高濃度で使用した場合には硬化レベルが通常悪化するため、それらは低濃度で使用する場合でしか好適でないという不利な点がある。二官能性のオキセタンが用いられることもあるが、インクジェット印刷用インクの粘性低下に必要となる濃度では、フィルム収縮、接着性の低下及びフィルムの脆弱化が生じうる。また、オキセタン及び若干のビニルエーテル化合物をインク組成物に使用することに基づくアプローチが行われたが、それらの材料はプラスチックを攻撃又はエッチングしないため、膨張可能なプラスチック基材に対する接着性が低いことが示されている。
【0033】
オキシランモノマーを含有本発明の組成物は、少なくとも1つの環状カーボネート及び/又は環状エステルにより希釈されるのが好ましく、それによりインクジェット印刷における適切な粘性の付与に必要となるオキセタン及び/又はビニルエーテルの濃度が減少する。環状カーボネート若しくは環状エステルによる、オキセタン又はビニルエーテル(粘性低下薬)の置換が、比較的低いUV線量の場合でも硬化レベル及び速度を向上させることを見出した。
【0034】
好適には、硬化の際の線量は500mJ未満/cm、より好ましくは200mJ未満/cmである。本発明のインク組成物は、従来のカチオン硬化性インクと比較して、更にはフリーラジカル硬化性インクと比較して低いUV線量で硬化するため、使用するLEDの数及び/又は強度が減少でき、更にそれに伴うコストの節減が可能となる。
【0035】
本発明は更に、カチオン性のインクジェット印刷用インクの提供に関し、当該インクは300nm〜420nmの範囲の波長で放射線を吸収できる光重合開始システムであって、ヨードニウム塩光重合開始剤及び増感剤を含む光重合開始システムと、少なくとも1つの放射線重合可能なモノマー(すなわちオキシラン、環状エステル又は環状カーボネート)を含有するカチオン硬化性成分を含んでなる。
【0036】
インクジェット印刷への使用に適するインクの粘性は、例えば25℃で50mPas未満、好ましくは25℃で35mPas未満である。
【0037】
本発明のインク調製物の主成分と組み合わせて使用できる添加剤としては、安定化剤、可塑剤、色素、ワックス、潤滑補助剤、平滑補助剤、接着促進剤、界面活性剤及び充填材が挙げられる。本発明の組成物は通常、上記の添加剤として、1つ以上の色素、染料、ワックス、安定化剤及び流動補助剤を含んでなり、それらは例えば「The Printing Ink Manual」(5th Edition,edited by R.H.Leachら、(1993)、Blueprint)に記載されている。
【実施例】
【0038】
本発明を、表1に示す特定の実施態様を参照しながら例示する。
【0039】
表1は、増感剤を含まない比較例(エントリー1)を含めた、本発明(エントリー2〜5)の4つのインク組成物を示す。
【0040】























表1:インクの組成
【0041】
表1のインクを12のミクロン厚の硬質ビニルPVC基材上へ落とし、更に395nmの光を発するPhoson RX−10 LED放射線源を用いて硬化させた。IL390c光バグを使用して放射線量を測定した。すべての成分を、組成物全体の重量%で示す。P.I.=光重合開始剤。
【0042】
エントリー1は、適切な増感剤の非存在下では、LED放射線源を使用してもインクが硬化しないことを示す。Omnicat 440光重合開始剤(ジトリルヨードニウムヘキサフルオロホスフェートの商品名)と共にITX、CPTX及びDBA増感剤を含有するインク組成物では、エントリー2〜4に示すように、適切なネイルスクラッチ試験及びMEK摩擦成績結果に示されるように、全て400mJ/cm未満の比較的低い紫外線量で良好な硬化を示した。光重合開始剤及び増感剤(光重合開始剤:増感剤の比率は3:1に維持)の量を2倍にすることにより、エントリー5とエントリー2との比較から分かるように、インクの硬化に必要となる放射線量が著しく減少した。しかしながら、これによりインク粘度が上昇した。以上より、これらの実施形態は、本発明のインクが低い放射線量における良好な硬化特性と粘性との間のバランスを有し、それにより、良好な硬化特性を付与する上記の好適な成分組成を有するインク組成物を用いたインクジェット印刷にとり好適なものとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット印刷方法であって、基材上へインクを印刷し、LEDからの放射線を使用して当該インクを硬化させる工程を含んでなり、当該インクがカチオン硬化性成分、ヨードニウム塩光重合開始剤及び増感剤を含んでなり、当該カチオン硬化性成分がオキシラン、環状カーボネート又は環状エステルモノマーのうちの少なくとも1つを含んでなる方法。
【請求項2】
前記増感剤が300nm〜420nmの範囲の波長で放射線を吸収できる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記増感剤が置換及び非置換の多環芳香族化合物(例えばナフタレン、アントラセン及びピラセン)、及び置換及び非置換のチオキサントン及びキサントンからなる群から選択される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記増感剤がジブトキシアントラセンである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記増感剤が式Iのチオキサントンである、請求項3記載の方法
【化1】

(式中、各Rは水素、C1−12アルキル基、C1−12アルコキシ基又はハロゲンから独立に選択される)。
【請求項6】
前記増感剤が1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン又はイソプロピルチオキサントンである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記インクが、インク成分の全重量に対して1〜10%の濃度で光重合開始剤を含有する、請求項1から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
光重合開始剤:増感剤の重量比率が20:1〜0.1:1である、請求項1から7記載の方法。
【請求項9】
光重合開始剤:増感剤の重量比率が4:1〜2:1である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
LED放射線源の領域に不活性な環境が設けられない、請求項1から9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
カチオン性インクジェット印刷用インクであって、300nm〜420nmの範囲の波長で放射線を吸収できる光重合開始システムであって、ヨードニウム塩光重合開始剤及び増感剤を含む光重合開始システムと、オキシラン、環状エステル又は環状カーボネートのうちの少なくとも1つの放射線重合可能なモノマーを含有するカチオン硬化性成分を含んでなるインク。
【請求項12】
前記粘性が25℃において50mPas未満である、請求項11記載のインク。

【公表番号】特表2009−504441(P2009−504441A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−525617(P2008−525617)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【国際出願番号】PCT/GB2006/002911
【国際公開番号】WO2007/017644
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(506397202)サン ケミカル ビー.ブイ. (11)
【Fターム(参考)】