説明

ジェットポンプの健全性監視装置

【課題】再循環系統の設置されるジェットポンプの運転状況を監視し、破損などの不具合の生じたジェットポンプを直ちに検出することができる健全性監視装置を提供する。
【解決手段】原子炉再循環系に設置された各ジェットポンプの流量を検出するプラントデータ検出部202と、プラントデータ検出部202により測定された流量データに基づいて、あらかじめ決められた所定の流量指標値を演算し、この流量指標値と、所定の判定パラメータとを比較することにより、原子炉再循環系のジェットポンプの健全性を評価する健全性評価部203と、健全性評価部203の評価結果を表示するジェットポンプデータ表示部204と、とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子炉において、炉心に冷却水を循環するジェットポンプの健全性を監視するジェットポンプの健全性監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、沸騰水型原子炉からなる原子力発電プラントでは、各種プラントデータを監視して異常な兆候を早期に検出することによって、プラントの健全性を維持している。このようなプラント異常監視システムの従来技術としては、以下のようなものがある。
【0003】
特許文献1は、特徴量抽出部とプラントの運転状態を示す状態量を検出する検出部とデータベースを備えた監視システムを開示している。この監視システムでは、特徴量群の経時変化に基づきプラントの状態が異常であるか正常であるかが容易に、かつ、正確に判別される。
【0004】
特許文献2は、プラントの重点監視パラメータについて許容パラメータ値と比較しプラントの重点監視パラメータが許容パラメータ範囲外である場合に警報を出すことにより、損傷部や補修部などを有し重点監視を必要とする機器の異常兆候を早い段階で信頼性を損なうことなく検知するプラントの監視診断システムを開示している。
【0005】
特許文献3は、プラントの製造、点検・保守及び運転等の履歴を考慮して、異常を的確に分析診断し、高信頼性、定期点検の簡素化が可能なプラントの診断システムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−277247号公報
【特許文献2】特開平9−113673号公報
【特許文献3】特開平6−331507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術に係るプラント監視システムは、いずれもプラント全体の異常を監視するものであり、特定の炉内構造物や機器を監視対象とするものではなかった。
【0008】
沸騰水型原子炉プラントにおいて、原子炉の安全な稼働を確保していく上できわめて重要な機能を担っている機器として、例えば、原子炉再循環系統に設けられるジェットポンプがある。このジェットポンプは沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器内に複数設置されている炉内機器であり、炉心冷却にとって重要な炉心流量を維持する機能を有している。もし、ジェットポンプが破損すると、炉心流量が低下し、炉心冷却が十分に行なわれなくなるおそれがある。それを未然に防止するためには、ジェットポンプに破損などの不具合がないかを常時監視し、万一、ジェットポンプが破損するような事態が生じた場合には速やかに安全性確保の措置を講じることが必要不可欠である。
【0009】
他方、上述した従来技術に係る監視システムは、プラント全体に亘ってその異常を監視するものであり、対象をジェットポンプに特定した健全性監視装置ではない。今後、プラントの高経年化に伴い、ジェットポンプのような重要な炉内機器の異常を早期に検出・監視できるようにするシステムを構築する必要性は大きい。
【0010】
そこで、本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、再循環系統の設置されるジェットポンプの運転状況を監視し、破損などの不具合の生じたジェットポンプを直ちに検出することができるジェットポンプの健全性監視装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、沸騰水型原子炉プラントの炉心流量を維持する原子炉再循環系を構成するジェットポンプが健全に機能しているかを監視するジェットポンプ健全性監視装置であって、前記原子炉再循環系に設置された各ジェットポンプの流量を検出するプラントデータ検出部と、前記プラントデータ検出部により測定された流量データに基づいて、あらかじめ決められた所定の流量指標値を演算し、この流量指標値と、所定の判定パラメータとを比較することにより、前記原子炉再循環系のジェットポンプの健全性を評価する健全性評価部と、前記健全性評価部の評価結果を表示するジェットポンプデータ表示部と、を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、炉心冷却にとって重大な炉心流量を維持する機能を有している原子炉再循環系のどの系統にジェットポンプの破損等の不具合が生じていると判定することができ、さらには、不具合の生じたジェットポンプを具体的に特定することが可能になるので、ジェットポンプ破損などが生じた後の迅速な安全措置を行うことが可能になり、炉心流量を確実に維持し、炉内健全性を適切に監視し、もって原子炉の安全性確保に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態によるジェットポンプの健全性監視装置の構成説明図である。
【図2】原子炉内に配置された再循環系を示す模式図である。
【図3】本発明の第1実施形態による健全性評価部の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1実施形態において、不具合の生じたジェットポンプを特定する処理手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2実施形態によるジェットポンプの健全性監視装置の構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明によるジェットポンプ健全性監視装置の実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
第1実施形態
図1は、本発明が適用される沸騰水型原子炉を示す。図1において、参照番号10は、原子炉圧力容器を示す。この原子炉圧力容器10の中には、炉心シュラウド12が設置されている。この炉心シュラウド12の内部に核分裂を起こして熱を発生する炉心11がある。炉心11の内部には、下部プレナム14、上部プレナム16が区画されている。
【0015】
原子炉圧力容器10と炉心シュラウド12の間のダウンカマ13には原子炉再循環系の構成要素であるジェットポンプ20が、この実施形態では全部で20台設置されている。炉心流量は、2系統ある原子炉再循環系により確保されている。各系統の原子炉再循環系は、それぞれ再循環吸込配管21、再循環ポンプ22、再循環吐出配管23、ヘッダー24、外部ライザー管25、内部ライザー管26およびジェットポンプ20から構成されている。
【0016】
図2に示されるように、各系統の原子炉再循環系ではヘッダー24からは外部ライザー管25が5本出ており、また、内部ライザー管26は2手に分岐して各系統あたり10台のジェットポンプ20が繋げられている。
【0017】
各系統の原子炉再循環系では、再循環ポンプ22により昇圧された冷却水がジェットポンプ20に流入すると、ジェットポンプ20はダウンカマ13内の冷却水を吸い込む。ジェットポンプ20から吐出された冷却水は、下部プレナム14、炉心11に流れる。炉心11では、核分裂で発生した熱により、冷却水の一部は蒸気となり、水と蒸気は上部プレナム16、気水分離器17を流れて水と蒸気が分離される。蒸気は主蒸気配管30からタービン(図示せず) へ流入して発電に利用される。一方、タービンで発電した後の蒸気は水となり給水配管31を通って原子炉圧力容器10に戻される。
【0018】
以上のような原子炉再循環系では、ジェットポンプ20に何らかの異常が発生した場合、炉心流量を維持できなくなる恐れがある。また、ジェットポンプ20が破損した場合も同様に、炉心流量が維持できなくなりプラントの運転に支障が出てくる。
【0019】
そこで、このようなジェットポンプ20の異常や破損を速やかに検出することを目的として、次のようなジェットポンプ健全性監視装置が設けられている。
【0020】
図1において、ジェットポンプ健全性監視装置200は、2系統の原子炉再循環系にそれぞれ設置された各々のジェットポンプ20の流量を検出するプラントデータ検出部202と、健全性評価部203を備えている。健全性評価部203は、プラントデータ検出部202により検出された流量データに基づいて、ジェットポンプ20の健全性を評価する上での指標となる、あらかじめ決められた所定の流量指標値を演算するとともに、この流量指標値と、しきい値としての異常判定パラメータとを比較することにより、前記原子炉再循環系のジェットポンプの健全性を評価する。評価結果は、表示部204に表示されるようになっている。なお、プラントの運転状況に係るプラントデータ201もプラントデータ検出部202に送られる。
【0021】
本実施形態では、A系統の原子炉再循環系、B系統の原子炉再循環系には、各系統ごとに再循環ポンプ流量計101a、101b(以下、必要に応じてA系統は添え字aを付し、B系統は添え字bを付して区別する。)が設けられている。また、各系統の原子炉再循環系に10台づつ設置されている合計20台のジェットポンプ20には、それぞれ流量計110a乃至119a、110b乃至119bが設けられており、これらの流量計の出力はプラントデータ検出部202に自動的に送られ、プラントデータ検出部202は、各ジェットポンプ20の流量を差圧から求める。
【0022】
次に、図3は、健全性評価部203の演算処理を手順を示すフローチャートである。
A系統の原子炉再循環系における各々ジェットポンプ20の合計流量をWA、B系統の原子炉再再循環系における各々ジェットポンプ20の合計流量をWBとする。まず、最初のステップS10で、データ検出部202から送られる流量データを合計して各系統の合計流量WA、WBを演算する。
WA=(流量計110a)+(流量計111a)+… +(流量計119a)
WB=(流量計110b)+(流量計111b)+… +(流量計119b)
なお、上式において、「(流量計110a)」とは、流量計110aにより検出されるジェットポンプの流量を示す。
【0023】
ここで、WA<WBであったとする(WA>WBの場合には、図3のフローチャートでWAとWBが入れ替わるだけで、基本的な処理の流れは同じである。以下、WA<WBとして説明する)。
【0024】
次のステップS11では、WAとWBの比を計算する。A系統、B系統とも各ジェットポンプ20が健全である通常運転時では、WB/WAは約1.0である。このステップS11では、WB/WA が、異常判定パラメータC1をしきい値として、C1より大きいかどうかを判定する。第1判定パラメータである異常判定パラメータC1としては、A系統とB系統とで通常運転時のアンバランスを超える有意な異常判定値を使用する(たとえば1.2程度) 。
【0025】
WB/WA<C1の場合は、A系統、B系統ともジェットポンプ20の健全性が維持されているものと判定する(ステップS12)。
【0026】
WB/WA>C1の場合は、ステップS13に進み、流量の少ないA系統についてジェットポンプ流量計110a乃至119bの流量データについて平均流量Waveと各ジェットポンプ流量Wi(すなわち、ジェットポンプ流量計110a乃至119bで測定したの個々の値 )との比較を行なう。そして、Wiの中の最小の流量と平均流量Waveの比を計算して異常判定パラメータC2と比較する(ステップS14)。
【0027】
ジェットポンプが健全である通常運転時では、Wi/Waveは約1.0である。第2判定パラメータである異常判定パラメータC2としては、各ジェットポンプ20で通常運転時のアンバランスを超える有意な異常判定値を使用する(たとえば0.9程度) 。ジェットポンプ健全性評価部203は、ステップS11条件1とステップS14の条件2が満たされている場合、A系統のジェットポンプが破損していると判定する(ステップS15)。
【0028】
以上のようにして、A系統ジェットポンプが破損していると判定された場合、破損したジェットポンプを特定することは必須である。そこで、ジェットポンプ健全性評価部203は図4のフローチャートに示す処理により破損したジェットポンプを特定する。
【0029】
まず、A系統のジェットポンプが破損していると判定されると(ステップS20)、流量の少ないA系統の再循環系のジェットポンプ流量計110a乃至119aのデータに基づいて、A系統のすべてのジェットポンプについて破損という事象発生前の個別流量W0,i(i=0,1,…9)と、事象発生後の個別流量W1,i(i=0,1,…9)を演算する(ステップS21)。
【0030】
次に、ステップS22では、A系統のすべてのジェットポンプについて、
(事象発生後流量W1,i− 事象発生前流量W0,i)/事象発生前流量W0,i
を計算して、この値の最小となるものを求め(ステップS22)、一番小さいi番目のジェットポンプが破損しているものと判定する(ステップS23)。ジェットポンプ健全性評価部203でジェットポンプ破損が検出された場合、データ表示部204において破損したジェットポンプを表示すると共に警報を出力する(ステップS24)。
【0031】
以上の第1実施形態において、ジェットポンプの破損を自動的に検出することが可能であるとともに、必要に応じて、ジェットポンプ破損後の迅速な安全措置(例えば、アンバランス回避のための健全側ポンプの手動降速、安定性確保のための選択制御棒の手動挿入あるいは手動スクラムにより原子炉停止等)をとることも可能となる。
【0032】
さらに上述の安全措置は、ジェットポンプ破損が自動検知されたことを受けて安全装置を自動動作させるようにしてもよい。
【0033】
第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態について、図5を参照しながらを説明する。なお第1実施形態の図1と同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0034】
この第2実施形態は、沸騰水型原子炉からなる原子力発電プラントの原子炉再循環系に対してあらかじめに流動解析を行なって、異常判定パラメータのデータベースを作成するデータベース部205を第1実施形態に付加した実施形態である。このデータベース部205では、異常判定パラメータとして、例えば再循環ポンプ回転数、ジェットポンプM比(ジェットポンプ吸い込み流量/ 駆動流量) などであり、あらかじめ流動解析を実施して求められる。そして、これらの異常判定パラメータは、沸騰水型原子力プラントの運転状態ごとにジェットポンプに破損ありと、なしの場合を判定するしきい値である。ジェットポンプ健全性評価部203ではプラントデータ検出部202からのプラントデータを流動解析によりデータベース部205で蓄積された異常判定パラメータと比較することによりジェットポンプ破損を検出するものである。たとえば、運転状態での再循環ポンプ回転数のしきい値をΩ1、再循環ポンプの回転数をΩとしたとき、Ω>Ω1である場合、ジェットポンプに破損が生じたものと判定する。
【0035】
本実施の形態によれば、たとえ沸騰水型プラントの運転状態が変更されても、その運転状態変更に応じた異常判定パラメータをデータベース部205から読み込み、ジェットポンプ破損を自動的に検出することが可能である。また、必要に応じて、安全装置を自動的に作動させ、ジェットポンプ破損後の迅速な安全措置をとることも可能となる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述したような各実施形態に限定されるものではなく、各実施形態の構成を組み合わせて、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0037】
10…原子炉圧力容器、11…炉心、12…炉心シュラウド、13…ダウンカマ、20…ジェットポンプ、21…再循環吸込配管、22…再循環ポンプ、23…再循環吐出配管、24…ヘッダー、25…外部ライザー管、26…内部ライザー管、200…ジェットポンプ健全性監視装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸騰水型原子炉の炉心流量を維持する原子炉再循環系を構成するジェットポンプが健全に機能しているかを監視するジェットポンプ健全性監視装置であって、
前記原子炉再循環系に設置された各ジェットポンプの流量を検出するプラントデータ検出部と、
前記プラントデータ検出部により測定された流量データに基づいて、あらかじめ決められた所定の流量指標値を演算し、この流量指標値と、所定の判定パラメータとを比較することにより、前記原子炉再循環系のジェットポンプの健全性を評価する健全性評価部と、
前記健全性評価部の評価結果を表示するジェットポンプデータ表示部と、
を備えることを特徴とするジェットポンプ健全性監視装置。
【請求項2】
前記原子炉再循環系は、それぞれ複数台のジェットポンプを有する第1の再循環系統と第2の再循環系統の2系統を有し、前記健全性評価部は第1の再循環系統、第2の再循環系統の各々ジェットポンプ流量の合計の比、各系の各々のジェットポンプ流量と各系のジェットポンプ平均流量の比を流量指標値として計算することを特徴とする請求項1に記載のジェットポンプ健全性監視装置。
【請求項3】
前記健全性評価部は、第1再循環系統のジェットポンプ流量合計と、第2再循環系統のジェットポンプ流量合計の比が所定の第1判定パラメータ以上の値になり、かつ、流量の少なかった方の系統のジェットポンプ流量合計と、その系統のジェットポンプ平均流量の比が所定の第2判定パラメータ以下の以下の値になったと判断された場合、流量が少なくなった系統のジェットポンプで破損が生じたと判定することを特徴とする請求項2に記載のジェットポンプ健全性監視装置。
【請求項4】
前記健全性評価部は、ジェットポンプで破損が生じたと判定された場合、流量が少なくなった系統の複数台のジェットポンプにおいて、事象発生前の流量と事象発生後の流量を基に(事象発生後流量−事象発生前流量)/ (事象発生前流量)を計算し、この値が一番小さなジェットポンプで破損が生じたと破損ジェットポンプを特定することを特徴とする請求項1に記載のジェットポンプ健全性監視装置。
【請求項5】
前記第1および第2判定パラメータとして、あらかじめ流動解析により再循環ポンプ回転数、ジェットポンプ比など運転状態毎に評価した破損ありとなしのしきい値を蓄積したデータベース部から前記健全性評価部に与えることを特徴とする請求項3に記載のジェットポンプ健全性監視装置。
【請求項6】
前記ジェットポンプデータ表示部は、破損が生じたジェットポンプを表示すると共に警報を表示することを特徴とする請求項1に記載のジェットポンプ健全性監視装置。
【請求項7】
前記健全性評価部は、前記ジェットポンプデータ表示部が破損が生じたジェットポンプを表示すると共に警報を表示したときには、必要に応じて、ジェットポンプ破損後の迅速な安全措置を自動的に動作させることを特徴とする請求項1に記載のジェットポンプ健全性監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−243257(P2010−243257A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90337(P2009−90337)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】