説明

ジスアゾ染料とそれを用いる染色法

【課題】ジアニシジンを使用せず、染着性不良、堅牢性不良、耐熱性の不足、鮮明性の不足等を改善し、セルロース系繊維等を堅牢、高濃度で、より中庸な青色から紫色に染色し、安全衛生、省資源および環境汚染の面で人および地球に優しい染料の提供。
【解決手段】式1で表されるジスアゾ化合物またはその塩、更にその銅化化合物またはその塩。


[Ar1、Ar2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基を示し、XはCOH、SOHまたはPOHを示し、YはOHまたはCOHを示し、R1は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示し、QおよびZは置換基を示し、mは0〜3、n+oは0〜5を示す]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジスアゾ染料としてのジスアゾ化合物、銅化ジスアゾ化合物またはその塩、これを含有する組成物およびそれを用いる染色法、該染色法で染色された着色体、または、これを含有するインク組成物およびそれにより着色された着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース系繊維等を堅牢な青色から紫色に染める染料としてはC.I.Direct Blue 15、C.I.Direct Blue 200、C.I.Direct Blue 202、C.I.Direct Blue 203等がよく知られており、綿、レーヨンの染料として衣料品の染色や、紙パルプの染色用として製紙業界において多用されている。しかし、これ等の染料に共通する問題点として、主原料として使用されているジアニシジンが特定化学物質第一類に該当するので、染料の製造工程におけるジアニシジンの使用について法規制を強く受け、極めて厳重な防護設備の下で作業する必要がある等の安全衛生管理面および生産効率向上にとって制約要因となっている点が挙げられる。
【0003】
一方、その他の既存の青色から紫色に染める染料としては、例えば、C.I.Direct Blue 67、C.I.Direct Blue 78、C.I.Direct Blue 106、C.I.Direct Blue 108、C.I.Direct Violet 9、C.I.Direct Violet 35、C.I.Direct Violet 51等があるが、いずれも前記の青色から紫色に染める染料に比べて、明らかに鮮明性、染着性、堅牢性、耐熱性等の染色性能が劣っている。特に製紙業界で高白色度が要求される分野では、鮮明性の高い青色から紫色に染める染料が必要不可欠である。従って、これらの既存の染料を使用しないで、鮮明で堅牢度のよい青色から紫色に染める染料を得ることは、染料製造業界、製紙業界および染色業界にとって永年強く望まれていたが、優れた染料はいまだに得られていない。
【0004】
特公昭64−5623号公報、特開平7−18192号公報にはジアニシジンを使用しない青色染料として下記の染料が例示されている。

【0005】
この染料は製紙材料を均染性良く、鮮明な青色に染めるが、色相が緑味であるため中庸な青色が得られず用途が限定される。また、染着性もカラーバリューも不良であるという問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭64−5623号公報
【特許文献2】特開平7−18192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した課題である特定化学物質第一類に該当するジアニシジンを使用することや染着性不良、堅牢性不良、耐熱性の不足、鮮明性の不足等を改善し、セルロース系繊維等、中でも製紙材料を堅牢、高濃度で、より中庸な青色から紫色に染色し、安全衛生、省資源および環境汚染の面で人および地球に優しい染料が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は前記した課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、本発明に至ったものである。即ち、本発明は以下の1)〜19)に関する。
1)式(1)で表されるジスアゾ化合物またはその塩。
【化1】

[式中、Ar1、Ar2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基を示し、XはCOH、SOHまたはPOHを示し、YはOHまたはCOHを示し、R1は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示し、QおよびZは置換基を示し、mは0〜3、n+oは0〜5を示す]
【0009】
2)XがCOHである前記1)に記載のジスアゾ化合物またはその塩。
3)YがOHである前記2)に記載のジスアゾ化合物またはその塩。
4)Ar1、Ar2がそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいナフチル基である前記1)乃至3)のいずれか一項に記載のジスアゾ化合物またはその塩。
5)Ar1、Ar2がそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニル基である前記1)乃至3)のいずれか一項に記載のジスアゾ化合物またはその塩。
【0010】
6)式(2)で表される銅化ジスアゾ化合物またはその塩。
【化2】

[式中、Ar1、Ar2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基を示し、XはCO、SOまたはPOを示し、YはOまたはCOを示し、QおよびZは置換基を示し、mは0〜3、n+oは0〜5を示す]
【0011】
7)XがCOである前記6)に記載の銅化ジスアゾ化合物またはその塩。
8)YがOである前記7)に記載の銅化ジスアゾ化合物またはその塩。
9)Ar1、Ar2がそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいナフチル基である前記6)乃至8)のいずれか一項に記載の銅化ジスアゾ化合物またはその塩。
10)Ar1、Ar2がそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニル基である前記6)乃至8)のいずれか一項に記載の銅化アゾ化合物またはその塩。
11)Ar2がフェニル基である前記10)に記載の銅化アゾ化合物またはその塩。
【0012】
12)mおよびoが0である前記6)乃至11)のいずれか一項に記載の銅化アゾ化合物またはその塩。
13)nが1である前記12)に記載の銅化アゾ化合物またはその塩。
【0013】
14)前記1)乃至13)のいずれか一項に記載のジスアゾ化合物、銅化ジスアゾ化合物またはその塩を用いることを特徴とするセルロース系繊維の染色法。
15)前記14)に記載の染色法で染色された着色体。
16)前記15)に記載の着色体を加工して得られる物品。
【0014】
17)前記1)乃至13)のいずれか一項に記載のジスアゾ化合物、銅化ジスアゾ化合物またはそれらの塩を色素として含有するインク組成物。
18)さらに、水溶性有機溶剤を含有する前記17)に記載のインク組成物。
19)前記17)または18)に記載のインク組成物で着色された着色体。
【発明の効果】
【0015】
特定化学物質第一類に該当するジアニシジンを使用しない製造法で得られる本願発明のジスアゾ化合物、銅化ジスアゾ化合物またはその塩は、セルロース系繊維等を鮮明、高濃度、堅牢で中庸な青色から紫色に染色する水溶性アゾ染料として有用である。更に、本願発明のジスアゾ化合物、銅化ジスアゾ化合物またはその塩は、高染着性であるので白水着色が少なく、用水硬度の影響を受け難く、変色が少ない上に、高溶解性であるので作業性が良いという利点も有している。特に染着性、カラーバリューは特許文献1および2に記載の染料よりも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願発明は前記式(1)で表されるジスアゾ化合物またはその塩[式中、Ar1、Ar2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基を示し、XはCOH、SOHまたはPOHを示し、YはOHまたはCOHを示し、R1は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示し、QおよびZは置換基を示し、mは0〜3、n+oは0〜5を示す]である。
本願発明の化合物について以下の製造方法により説明するが、本願発明の化合物の製造方法は以下の方法に限定されるものではない。
【0017】
下記式(3)
[化3]
Ar1−NH (3)
[式中、Ar1は前記と同じ意味を示す]
で表される置換基を有していてもよい芳香族アミン化合物を常法によりジアゾ化し、下記式(4)
【0018】
【化4】

[式中、Q、X、mは前記と同じ意味を示す]
で表される芳香族アミン化合物またはそのスルホメチル化物と、例えば5〜40℃、好ましくは10〜25℃でジアゾカップリング反応させ、必要に応じて加水分解して式(5)
【0019】
【化5】

[式中、Ar1、Q、X、mは前記と同じ意味を示す]
で表されるモノアゾ化合物を得る。
【0020】
次いでこのアゾ化合物を常法によりジアゾ化し、式(6)
【化6】

[式中、Ar2、Y、Z、n+oは前記と同じ意味を示す]
で表されるナフチルアミン化合物に、例えば5〜40℃、好ましくは10〜25℃でジアゾカップリング反応させ、遊離酸の形で式(1)で表されるジスアゾ化合物を得る。
【0021】
本発明において置換基を有していてもよいアリール基におけるアリール基としては、芳香族炭化水素基であれば特に限定されないが、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
Ar1における該置換基としては、スルホン基、カルボキシ基、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、アセチルアミノ基等が挙げられ、中でもスルホン基が好ましい。
Ar2における該置換基としては、スルホン基、カルボキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、アミノ基等が挙げられる。
R1における該置換基としては、スルホン基、カルボキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、アミノ基等が挙げられる。
置換基の置換位置は置換可能であれば特に限定されず、置換数は置換可能であれば特に限定されない。
【0022】
本発明において置換基を有していてもよいアルキル基におけるアルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。
R1における該置換基としてはスルホン基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基等が挙げられる。
【0023】
中でも、Ar2としては無置換のフェニル基が特に好ましく、R1としては水素原子が特に好ましい。
【0024】
本発明におけるQは置換基であれば特に限定されないが、例えば、スルホン基、カルボキシ基、メチル基、メトキシ基等が挙げられる。
mは0が好ましい。
【0025】
本発明におけるZは置換基であれば特に限定されないが、例えば、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、メチル基、メトキシ基等が挙げられる。
oは0が好ましく、nは1乃至3が好ましく、中でも1が特に好ましい。
【0026】
本発明には、前記式(1)で表されR1が水素原子であるジスアゾ化合物またはその塩を通常用いられる銅化反応条件を応用して反応させて得られる前記式(2)[式中、Ar1、Ar2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基を示し、XはCO、SOまたはPOを示し、YはOまたはCOまたはを示し、QおよびZは置換基を示し、mは0〜3、n+oは0〜5を示す]で表される銅化ジアゾ化合物またはその塩も含まれる。
即ち、該化合物はR1が水素原子である式(1)の化合物に、例えば、硫酸銅とアンモニア水および/またはアルカノールアミンおよび/またはヘキサメチレンテトラミン等からなる銅錯塩化合物を加え、例えば50〜100℃、好ましくは85〜98℃で銅化反応を行うことにより得られる。
【0027】
本発明の式(1)または式(2)で表される化合物は、反応液から通常の塩折法、酸折法により得られる。また、反応液をそのまま噴霧乾燥してもよく、更には、反応液をそのままあるいは反応液を脱塩し濃縮後、尿素、アルカノールアミン、アルキルアミン、ε−カプロラクタム等の可溶化剤や安定剤を加えて溶液として使用することも出来る。
式(1)または式(2)で表される化合物は、遊離酸の形またはその塩の形で存在し、塩の形が好ましく、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アルキルアミン塩、アルカノールアミン塩等が挙げられ、特にナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等が好ましい。
【0028】
前記式(3)で表される置換基を有していてもよい芳香族アミン化合物としては、アニリンのモノスルホン酸化合物(例えば、アニリン−2−スルホン酸、アニリン−3−スルホン酸、アニリン−4−スルホン酸)、アニリンのジスルホン酸化合物(例えば、アニリン−2,4−ジスルホン酸、アニリン−2,6−ジスルホン酸)、1−ナフチルアミンまたは2−ナフチルアミンのモノスルホン酸化合物(例えば、1−ナフチルアミン−4−スルホン酸、1−ナフチルアミン−5−スルホン酸、1−ナフチルアミン−6−スルホン酸、1−ナフチルアミン−7−スルホン酸、2−ナフチルアミン−1−スルホン酸、2−ナフチルアミン−5−スルホン酸、2−ナフチルアミン−6−スルホン酸、2−ナフチルアミン−8−スルホン酸)、1−ナフチルアミンまたは2−ナフチルアミンのジスルホン酸化合物(例えば、1−ナフチルアミン−3,6−ジスルホン酸、1−ナフチルアミン−3,8−ジスルホン酸、1−ナフチルアミン−4,6−ジスルホン酸、2−ナフチルアミン−1,5−ジスルホン酸、2−ナフチルアミン−3,6−ジスルホン酸、2−ナフチルアミン−4,8−ジスルホン酸、2−ナフチルアミン−5,7−ジスルホン酸、2−ナフチルアミン−6,8−ジスルホン酸)、1−ナフチルアミンまたは2−ナフチルアミンのトリスルホン酸化合物(例えば、1−ナフチルアミン−3,6,8−トリスルホン酸、2−ナフチルアミン−3,6,8−トリスルホン酸、2−ナフチルアミン−4,6,8−トリスルホン酸)等が好ましく、中でもアニリン−4−スルホン酸が特に好ましい。
また、前記式(4)で表される芳香族アミン化合物としては、2−アミノベンゼンカルボン酸が好ましい。
【0029】
本発明のジスアゾ化合物、銅化ジスアゾ化合物またはその塩は、セルロース系繊維であるパルプを染色する通常の染色条件による染色法、例えば、サイズプレス法、コーティング法を包含する表面塗工染色法または内添染色法等によって、鮮明性が高く、耐光性および耐水性に優れた、より中庸な青色から紫色に染色することが出来る染料であり、該染色法も本発明に含まれる。
また、本発明のジスアゾ化合物、銅化ジスアゾ化合物またはその塩は、天然あるいは人造のセルロース系繊維やセルロース含有繊維、例えば、木綿、レーヨン等を通常の染色条件による染色法、例えば、浸染、連続染色または捺染法等によって日光および洗濯に堅牢な青色に染色することが出来る。
加えて本発明には、これらの染色法によって染色された着色物も含まれ、該着色物を加工した物品も含まれる。
【0030】
更に、本発明のジスアゾ化合物、銅化ジスアゾ化合物またはその塩は、紙用または繊維用のインク組成物中の色素として使用することも出来、該組成物には水溶性有機溶剤、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヒドロキシエチルメチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等を含んでもよい。該インク組成物も本発明に含まれる。
加えて、本発明には前記インク組成物で着色された着色体も含まれる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中「部」および「%」はそれぞれ重量部、重量%を意味し、各式中のスルホン酸基は遊離の形で表わす。
【0032】
実施例1
5〜10℃の冷水90部に重亜硫酸ソーダ29.9部を溶かし、37%ホルマリン23.1部を加えた後、55℃まで加熱した液に、2−アミノ安息香酸38.2部を水192部に加え55〜65℃に昇温後、48%苛性ソーダ20部を加えPH6〜7に調製した溶液を加え、55〜60℃で2時間攪拌後、加熱を止め終夜攪拌した。その溶液に35%塩酸20部、食塩を液量に対して25%加えて塩析し、析出物(式(7)で表される化合物)をろ過した。
【化7】

得られたスルホメチル化物7.28部を水50部に分散し、重曹2.6部を加えて溶解させた溶液を5℃以下に冷却し、アニリン−4−スルホン酸5.97部を水70部に分散させ、48%苛性ソーダ3.4部を加えて溶解させた溶液を加え、次いで、35%塩酸8.8部を加え、5〜10℃で亜硝酸ソーダ2.5部を加えて1時間ジアゾ化反応に付した反応液に、ジアゾ安定化剤として2−ナフタレンスルホン酸2.1部を加え、炭酸ナトリウムを加えてPH4.6〜4.7、3〜8℃を3時間保ちジアゾカップリング反応に付した。48%苛性ソーダ14部を加え、90〜95℃で3時間攪拌した後、40〜50℃まで放冷し、35%塩酸約20部を加えpHを4.6〜4.7に調製した後、食塩を液量に対して20%加えて塩析し析出物(式(8)で表される化合物)をろ過した。
【化8】

【0033】
得られたモノアゾ化合物9.26部を水150部に分散し、48%苛性ソーダでpH6.0〜7.0とし、亜硝酸ソーダ3.64部を加え、10℃まで冷却した溶液を、水50部、35%塩酸10部とから成る溶液中に20分間かけて滴下後、10〜15℃で2時間ジアゾ化反応に付した。次いで、この反応溶液を、6−フェニルアミノ−1−ナフトール−3−スルホン酸(2次カップリング成分)8.61部、水50部、48%苛性ソーダ3.4部、炭酸ナトリウム2.8部とから成る溶液中に加え、更に炭酸ナトリウムを加えてpH9.2〜9.3を保ち、5〜8℃で3時間攪拌し、20℃で終夜攪拌して2次ジアゾカップリング反応を行った後、沈殿物をろ過して式(9)で表されるジスアゾ化合物を得た。
【化9】

【0034】
得られたジスアゾ化合物10部を硫酸銅4.33部、水20部の水溶液にジエタノールアミン7.44部を加えて調製した銅錯塩溶液に加え、80〜85℃で原料が認められなくなるまで銅化反応を行い(通常、3時間程度)、食塩を液量に対し10%加えて塩析し析出物をろ過して乾燥すると、遊離酸の形で次式で示される染料(式(10)で表される化合物)が得られた。この銅化ジスアゾ化合物はセルロース系繊維等を鮮明で中庸な紫色に染めた。この染料水溶液のλmax(以下、λmaxは水溶液中での測定値)は553nmであった。
【化10】

【0035】
実施例2
実施例1におけるアニリン−4−スルホン酸5.67部の替わりに、2−ナフチルアミン−4,8−ジスルホン酸9.59部を用い、実施例1と同様に操作することにより染料(式(11)で表される化合物)を得た。得られた銅化ジスアゾ化合物を用いてセルロース系繊維等を鮮明で中庸な紫色に染めることが出来た。この染料水溶液のλmaxは544nmであった。
【化11】

【0036】
試験例1
染料1部を水1000部に溶解し、染浴を調製する。この染浴に叩解クラフトパルプ300部(絶乾パルプ30部、叩解度35SR)を加えて、室温で15分間攪拌した後、ロジンサイズ(30%水溶液)1部を加え、更に10分間攪拌後、結晶硫酸アルミニウム3部を加えて20分間攪拌する。染色したパルプを抄紙し、以下の試験を行った。
色相:目視判定
鮮明性:目視判定
熱変色性:測色機器による判定
耐光堅牢度:測色機器およびブルースケール比較による目視判定
公知の染料A、B、Cまたは本発明実施例1の染料を用いた試験結果を表1に示す。
【0037】
表1
染料 色相 鮮明性 熱変色性 耐光堅牢度
A 中庸の紫色 暗味 変色大 1級
B 青味の紫色 暗味 変色大 1級
C 青味の紫色 暗味 変色小 1級
実施例1 中庸の紫色 鮮明 変色小 3−4級
【0038】
染料A・・C.I.Direct Violet 51(現在多用されている紫色染料)
染料B・・C.I.Direct Violet 35(現在多用されている紫色染料)
染料C・・C.I.Direct Violet 9 (現在多用されている紫色染料)
【0039】
この結果、現在多用されている公知の染料Aは、色相は中庸の紫色であるが、熱変色が大きく、耐光堅牢度1級と不良である。染料Bは色相がかなり青味で熱変色が大きく、耐光堅牢度が1級と不良である。染料Cは色相がやや青味であり、熱変色に優れるが、耐光堅牢度が1級と不良である。また、公知の染料A、BおよびCは暗味が強く鮮明性に欠ける。
一方、本願発明の染料は、色相が中庸な紫色で熱変色が小さく、耐光堅牢度も3〜4級と良好である。更に、鮮明性が高い。
更に、試験結果は示していないが、本願発明の染料は染色用水中の金属イオンの影響を受け難い等の特徴も有し、公知の染料よりも優れている。
【0040】
実施例3
実施例2で得られた染料10部を水1000部に溶解し、アニオン系表面サイズ剤2部を加えた後、溶液pHを8.0に調整しサイズプレス塗工液とした。この液を用いてパルプを染色し紙とした。即ち、該塗工液をサイズプレス機に送り、ステキヒトサイズ度7秒の弱サイズ紙を着色すると、均染性の良い鮮明なやや青味の紫色紙(着色体)が得られた。
【0041】
試験例2
以下に、前記の公知染料A、B、Cを用いて実施例3の方法に従って得られた着色体の色相、鮮明性および熱変色性について、実施例2の染料を用いた実施例3の着色体と比較した結果を表2に示す。なお、試験方法は前記と同じである。
【0042】
表2
染料 色相 鮮明性 熱変色性
A 中庸の紫色 暗味 変色大
B 青味の紫色 暗味 変色大
C 青味の紫色 暗味 変色小
実施例2 中庸の紫色 鮮明 変色小
【0043】
この結果、現在多用されている公知の紫色染料Aは、色相は中庸の紫色であるが、熱変色が大きく、鮮明性が低い。染料Bは色相がかなり青味で熱変色が大きく、鮮明性が低い。染料Cは色相がやや青味で熱変色は小さいが、鮮明度が低い。
一方、本願発明の染料は、色相が中庸な紫色で熱変色が小さい。更に、公知の染料A、BおよびCに比べ鮮明性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるジスアゾ化合物またはその塩。
【化1】

[式中、Ar1、Ar2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基を示し、XはCOH、SOHまたはPOHを示し、YはOHまたはCOHを示し、R1は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示し、QおよびZは置換基を示し、mは0〜3、n+oは0〜5を示す]
【請求項2】
XがCOHである請求項1に記載のジスアゾ化合物またはその塩。
【請求項3】
YがOHである請求項2に記載のジスアゾ化合物またはその塩。
【請求項4】
Ar1、Ar2がそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいナフチル基である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のジスアゾ化合物またはその塩。
【請求項5】
Ar1、Ar2がそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニル基である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のジスアゾ化合物またはその塩。
【請求項6】
式(2)で表される銅化ジスアゾ化合物またはその塩。
【化2】

[式中、Ar1、Ar2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基を示し、XはCO、SOまたはPOを示し、YはOまたはCOを示し、QおよびZは置換基を示し、mは0〜3、n+oは0〜5を示す]
【請求項7】
XがCOである請求項6に記載の銅化ジスアゾ化合物またはその塩。
【請求項8】
YがOである請求項7に記載の銅化ジスアゾ化合物またはその塩。
【請求項9】
Ar1、Ar2がそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいナフチル基である請求項6乃至8のいずれか一項に記載の銅化ジスアゾ化合物またはその塩。
【請求項10】
Ar1、Ar2がそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニル基である請求項6乃至8のいずれか一項に記載の銅化アゾ化合物またはその塩。
【請求項11】
Ar2がフェニル基である請求項10に記載の銅化アゾ化合物またはその塩。
【請求項12】
mおよびoが0である請求項6乃至11のいずれか一項に記載の銅化アゾ化合物またはその塩。
【請求項13】
nが1である請求項12に記載の銅化アゾ化合物またはその塩。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一項に記載のジスアゾ化合物、銅化ジスアゾ化合物またはその塩を用いることを特徴とするセルロース系繊維の染色法。
【請求項15】
請求項14に記載の染色法で染色された着色体。
【請求項16】
請求項15に記載の着色体を加工して得られる物品。
【請求項17】
請求項1乃至13のいずれか一項に記載のジスアゾ化合物、銅化ジスアゾ化合物またはそれらの塩を色素として含有するインク組成物。
【請求項18】
さらに、水溶性有機溶剤を含有する請求項17に記載のインク組成物。
【請求項19】
請求項17または18に記載のインク組成物で着色された着色体。

【公開番号】特開2012−77264(P2012−77264A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226485(P2010−226485)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】