説明

ジスチリル誘導体の製造方法、電子写真感光体の製造方法、及び電子写真感光体

【課題】 主原料としてのジホルミル化合物からジスチリル誘導体を製造した場合であっても、モノスチリル誘導体の生成を効果的に抑え、高純度のジスチリル誘導体を高収率で製造するためのジスチリル誘導体の製造方法、それを用いた電子写真感光体の製造方法、及び電気特性に優れた高感度の電子写真感光体を提供する。
【解決手段】 主原料としてのジホルミル化合物からジスチリル誘導体を製造するジスチリル誘導体の製造方法、それを用いた電子写真感光体の製造方法、及びそのような製造方法によって得られる電子写真感光体であって、液体クロマトグラフィーを用いて測定される原料物質の全ピーク面積に対する、上述のジホルミル化合物の対象ピーク面積比を70%以上の値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジスチリル誘導体の製造方法、電子写真感光体の製造方法、及び電子写真感光体に関する。特に、ジスチリル誘導体を高純度かつ高収率で製造するためのジスチリル誘導体の製造方法、それを用いた電子写真感光体の製造方法及びその製造方法によって得られる電子写真感光体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ジスチリル誘導体としてのアリールアミン構造を有するジスチリル誘導体は、画像形成装置等に用いられる有機感光体材料のうち、所定の電荷移動度を有する電荷輸送剤として使用されているが、このようなアリールアミン構造を有するジスチリル誘導体の製造方法としては、まずフィルスマイヤー反応(以下、Vilismeier反応、またはフィルスマイヤー−ハック(Vilismeier−Haak)反応と称する場合もある。)によってアリールアミン化合物のジホルミル化合物を合成し、次にアリールアミン化合物のジホルミル化合物と所定の亜リン酸エステルとを反応させることによってアリールアミン化合物のジホルミル化合物をジスチリル化させるという工程を含んだ製造方法が提案されている(例えば、特許文献1や特許文献2参照)。
【0003】
すなわち、まずアリールアミン化合物に対して、塩化ホスホリル等のハロゲン化剤と、N、N−ジメチルホルムアミド等のホルミル化剤と、から調製されるフィルスマイヤー試薬を反応させて得られるイミニウム中間体を加水分解することによって、アリールアミン化合物のジホルミル化合物を合成する。次いで、合成したアリールアミン化合物のジホルミル化合物と、所定の亜リン酸エステル(リンイリド)と、を反応させることによってアリールアミン化合物のジホルミル化合物をジスチリル化させるという工程を含んだ製造方法が提案されている。
しかしながら、ジホルミル化合物からジスチリル誘導体を高純度かつ高収率で製造することは、その製造の際にモノスチリル化合物が同時に、かつ多量に生成されてしまうために困難であった。
【0004】
一方、有機感光体材料である電荷輸送剤としてのジスチリル誘導体に対して、モノスチリル誘導体が混在すると、電子写真感光体の電気特性に悪影響を与えるという問題が見られた。
そこで、合成されたアリールアミン構造を有するジスチリル誘導体から、アリールアミン構造を有するモノスチリル誘導体を精製することが試みられている。
【特許文献1】特開2003−300941号(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平7−173112号(特許請求の範囲及び実施例等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、分離カラム等を用いたとしても、モノスチリル誘導体を精製することは容易でなく、高純度のアリールアミン構造を有するジスチリル誘導体を製造することは実質的に困難であった。そのため、電荷輸送剤としてのアリールアミン構造を有するジスチリル誘導体が本来持っている特性を十分に発揮させることができず、感光体の電気特性が十分に発揮されないという問題が見られた。
【0006】
そこで、本発明者らは、アリールアミン化合物のジホルミル化合物をジスチリル化させる際に、液体クロマトグラフィーを用いて測定されるピーク面積が所定条件を満足する原料物質を用いることによって、感光体の電気特性に悪影響を与えるアリールアミン構造を有するモノスチリル誘導体の生成を効果的に抑えられることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の目的は、モノスチリル誘導体の生成を効果的に抑え、主原料としてのジホルミル化合物からジスチリル誘導体を高純度かつ高収率で製造するためのジスチリル誘導体の製造方法、それを用いた電子写真感光体の製造方法及びその製造方法によって得られる電子写真感光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、主原料としてのジホルミル化合物からジスチリル誘導体を製造するジスチリル誘導体の製造方法であって、液体クロマトグラフィーを用いて測定される原料物質の全ピーク面積に対する、ジホルミル化合物の対象ピーク面積比を70%以上の値とすることを特徴とするジスチリル誘導体の製造方法が提供され、上述した問題点を解決することができる。
すなわち、このような原料物質(高純度ジホルミル化合物)を使用することにより、ジスチリル誘導体を製造した場合に、モノスチリル誘導体の生成を効果的に抑え、高純度のジスチリル誘導体を高収率で製造することができる。
【0008】
また、本発明のジスチリル誘導体の製造方法を実施するにあたり、液体クロマトグラフィーを用いて測定される原料物質の全ピーク面積に対する、モノホルミル化合物の対象ピーク面積比を30%以下の値とすることが好ましい。
このような原料物質(低純度モノホルミル化合物)を使用することにより、ジスチリル誘導体を製造した場合に、モノスチリル誘導体の生成を効果的に抑え、さらに高純度のジスチリル誘導体を高収率で製造することができる。
【0009】
また、本発明のジスチリル誘導体の製造方法を実施するにあたり、液体クロマトグラフィーを用いて測定される原料物質の全ピーク面積に対する、非ホルミル化合物の対象ピーク面積比を2%以下の値とすることが好ましい。
このような原料物質を使用することにより、ジスチリル誘導体を製造した場合に、モノスチリル誘導体の生成を効果的に抑え、さらに高純度のジスチリル誘導体を高収率で製造することができる。
【0010】
また、本発明のジスチリル誘導体の製造方法を実施するにあたり、下記反応式(1)に準じて、一般式(1)で表されるジホルミル化合物と、一般式(2)及び一般式(3)で表されるリンイリド誘導体とを、触媒の存在下に反応させて、一般式(4)で表されるジスチリル誘導体を得ることが好ましい。
このような生成反応を利用することにより、原料物質からジスチリル誘導体を製造した場合に、モノスチリル誘導体の生成を効果的に抑え、さらに高純度のジスチリル誘導体を高収率で製造することができる。
【0011】
【化1】

【0012】
(反応式(1)中、Ar1は、炭素数6〜20の置換または非置換のアリーレン基あるいは2価の縮合多環構造基、Ar2〜Ar5は、それぞれ独立した炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基である。)
【0013】
また、本発明のジスチリル誘導体の製造方法を実施するにあたり、前工程として、フィルスマイヤー(Vilismeier−Haak)反応により、ジアリールアミン化合物をジホルミル化してジホルミル化合物を合成する工程を含むことが好ましい。
このように実施することにより、ジホルミル化が効果的に行なわれ、高純度のジホルミル化合物を高収率で合成することができる。
【0014】
また、本発明のジスチリル誘導体の製造方法を実施するにあたり、前工程として、下記反応式(2)に準じて、一般式(5)で表されるジアリールアミン化合物と、塩化ホスホリルとを反応させて、一般式(1)で表されるジホルミル化合物を合成する工程を含むことが好ましい。
このような前工程とすることにより、高極性不純物の生成を抑えることができ、高純度ジホルミル化合物を安定的に得ることができる。
【0015】
【化2】

【0016】
(反応式(2)中、Ar1は、炭素数6〜20の置換または非置換のアリーレン基あるいは2価の縮合多環構造基、Ar2〜Ar3は、それぞれ独立した炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基である。)
【0017】
また、本発明のジスチリル誘導体の製造方法を実施するにあたり、反応式(2)中におけるフィルスマイヤー反応を実施する際の塩化ホスホリルの反応量を、一般式(5)で表されるジアリールアミン化合物1モルに対して、8モル以上の値とすることが好ましい。
このような反応量とすることにより、高極性不純物の生成を抑えることができ、高純度ジホルミル化合物を得ることができる。したがって、ジホルミル化合物の精製が容易となるばかりか、高純度のジホルミル化合物を高収率で得ることができる。
【0018】
また、本発明のジスチリル誘導体の製造方法を実施するにあたり、反応式(2)中におけるフィルスマイヤー反応の反応温度を70〜120℃の範囲内の値とすることが好ましい。
このように比較的低い温度でフィルスマイヤー反応を行なうため、反応温度が高いときに生成されやすい高極性不純物の生成を抑えることができ、ジホルミル化合物の精製が容易となり、その結果、高純度のジホルミル化合物を高収率で得ることができる。
【0019】
また、本発明のジスチリル誘導体の製造方法を実施するにあたり、反応式(2)中におけるフィルスマイヤー反応を実施する際の溶媒をトルエンとすることが好ましい。
このように実施することにより、フィルスマイヤー反応を安定的に実施することができるばかりか、比較的幅広い反応温度を採用することができる。
【0020】
また、本発明の別の態様は、導電性基体上に、少なくとも電荷発生剤と、正孔輸送剤と、結着樹脂と、を含有する感光層を備えた電子写真感光体の製造方法であって、ジホルミル化合物からジスチリル誘導体を反応させて、前記正孔輸送剤を製造する工程を含むとともに、その前工程として、液体クロマトグラフィーを用いて測定される原料物質の全ピーク面積に対する、ジホルミル化合物の対象ピーク面積比を70%以上の値とする調整工程を含むことを特徴とする電子写真感光体の製造方法である。
このような電子写真感光体の製造方法であれば、高純度のジスチリル誘導体を正孔輸送剤として含んだ電子写真感光体を効率的に提供することができる。
【0021】
また、本発明のさらに別の態様は、導電性基体上に、少なくとも電荷発生剤と、正孔輸送剤と、結着樹脂と、を含有する感光層を備えた電子写真感光体であって、正孔輸送剤として、ジスチリル誘導体及びモノスチリル誘導体とを含むともに、液体クロマトグラフィーを用いて測定されるジスチリル誘導体及びモノスチリル誘導体の全ピーク面積に対する、モノスチリル誘導体の対象ピーク面積比を1%以下の値とすることを特徴とする電子写真感光体である。
このような電子写真感光体であれば、高純度のジスチリル誘導体を正孔輸送剤として含むことになり、電気特性に優れた電子写真感光体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、主原料としてのジホルミル化合物からジスチリル誘導体を製造するジスチリル誘導体の製造方法であって、液体クロマトグラフィーを用いて測定される原料物質の全ピーク面積に対する、ジホルミル化合物の対象ピーク面積比を70%以上の値とすることを特徴とするジスチリル誘導体の製造方法である。
【0023】
1.反応式
主原料としてのジホルミル化合物をジスチリル化させる際の反応例として、ウィッティヒ(Wittig)法を用いた反応式(1)を示す。すなわち、第1の実施形態のジスチリル誘導体の製造方法を実施するにあたり、下記反応式(1)に準じて、一般式(1)で表されるジホルミル化合物と、一般式(2)及び一般式(3)で表されるリンイリド誘導体とを、触媒の存在下に反応させて、一般式(4)で表されるジスチリル誘導体を得ることが好ましい。
【0024】
【化3】

【0025】
(反応式(1)中、Ar1は、炭素数6〜20の置換または非置換のアリーレン基あるいは2価の縮合多環構造基、Ar2〜Ar5は、それぞれ独立した炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基である。)
【0026】
2.ジホルミル化合物
ジホルミル化合物としては、ジスチリル化の対象となり得る物質であれば特に限定されるものではないが、例えば、反応式(1)中における一般式(1)で表されるジホルミル化トリフェニルアミン誘導体等を用いることが好ましい。
より具体的には、実施例1における式(11)で表されるジホルミル化トリフェニルアミン誘導体や、下式(6)で表されるジホルミル化トリフェニルアミン誘導体等を用いることが好ましい。
【0027】
【化4】

【0028】
3.リンイリド誘導体
また、ジホルミル化合物をジスチリル化させるためのリンイリド誘導体(亜リン酸エステル)としては、下記一般式(2)及び一般式(3)で表される化合物が好ましい。ただし、一般式(2)及び一般式(3)で表されるリンイリド誘導体のエトキシ基を他のアルコキシ基、例えばメトキシ基により置換してもよい。
【0029】
【化5】

【0030】
(一般式(2)及び一般式(3)中のAr4及びAr5は、それぞれ独立した炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基である。)
【0031】
また、かかるリンイリド誘導体の反応割合としては、ジホルミル化合物1モルに対して、リンイリド誘導体2〜6モルの範囲で加えることが好ましく、2.5〜5.5モルの範囲がより好ましく、3〜5モルの範囲がさらに好ましい。
この理由は、かかるジホルミル化合物と、リンイリド誘導体との添加割合が、1:2.5未満の値になると、中間体が生成しやすくなり、ホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、リンイリド誘導体とが、適切に反応することが困難になる場合があるためである。また、かかる添加割合が、1:5.5を超えると、未反応のリンイリド誘導体が多く残留し、精製を困難にする場合があるためである。
したがって、ジホルミル化合物と、リンイリド誘導体(合計量)との添加割合を、モル比で1:2〜1:5の範囲内の値とすることがより好ましく、1:2.5〜1:4.5の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0032】
4.ジスチリル誘導体
また、ジスチリル誘導体としては、反応式(1)中における一般式(4)で表されるジスチリル化トリフェニルアミン誘導体等が典型的である。
より具体的には、実施例1における式(14)で表されるジスチリル化トリフェニルアミン誘導体や、下式(7)で表されるジスチリル化トリフェニルアミン誘導体等を用いることが好ましい。
【0033】
【化6】

【0034】
5.反応条件
また、反応式(1)を実施する上で、塩基の存在下に反応させることが好ましい。例えば、ナトリウムメトキシドやナトリウムエトキシド等のナトリウムアルコキシド、水素化ナトリウムや水素化カリウム等の金属水素化物、n−ブチルリチウム等の金属塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化塩の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
この理由は、このような塩基を用いることにより、反応を促進することができるとともに、ジスチリル誘導体を高収率で得ることができるためである。
ここで、かかる触媒の添加量を、ジホルミル化合物1モルに対して、2〜5モルの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる触媒の添加量が2モル未満の値となると、反応性が著しく低下する場合があるためである。
一方、かかる触媒の添加量が5モルを超えると、反応を制御することが著しく困難になる場合があるためである。
【0035】
また、反応式(1)を実施する際の反応温度としては、通常−20〜30℃の範囲で行うことが好ましく、その反応時間を5〜30時間の範囲内の値とすることが好ましい。
さらに、反応に使用する溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0036】
6.液体クロマトグラフィーのピーク面積
また、液体クロマトグラフィーを用いて測定される原料物質の全ピーク面積に対する、主原料としてのジホルミル化合物の対象ピーク面積比を70%以上の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるジホルミル化合物の対象ピーク面積比が70%未満となると、ジスチリル化の際に、ジスチリル誘導体と共にモノスチリル誘導体が多量に生成されるためである。したがって、ジホルミル化合物の対象ピーク面積比を75%以上の値とすることがより好ましく、80%以上の値とすることがさらに好ましい。
【0037】
ここで、液体クロマトグラフィーの測定に使用される展開溶媒としては、トルエン、酢酸エチル、ヘキサン、アセトニトリル等の一種または二種以上の混合物を使用することが好ましい。
また、液体クロマトグラフィーにおいて使用される固定相としては、シリカゲルやポーラスポリマー等を使用することが好ましい。
また、液体クロマトグラフィーを実施する際の展開溶媒の流量を、例えば、0.2〜1.0ミリリットル/分の範囲、カラム温度を20〜40℃の範囲、また紫外線吸収検出器の検出波長を200〜800nmの範囲とすることが好ましい。
さらに、液体クロマトグラフィーを実施する際の注入サンプル量を、例えば、0.02〜0.1g/20ミリリットルの範囲、圧力を1.5〜6MPaの範囲とすることが好ましい。
【0038】
一方、液体クロマトグラフィーを用いて測定される原料物質の全ピーク面積に対する、モノホルミル化合物の対象ピーク面積比を30%以下の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるモノホルミル化合物の対象ピーク面積比が30%を越えると、ジスチリル化の際に、ジスチリル誘導体と共にモノスチリル誘導体が多量に生成される場合があるためである。
したがって、モノホルミル化合物の対象ピーク面積比を25%以下の値とすることがより好ましく、20%以下の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかるモノホルミル化合物としては、上述のジホルミル化合物の有する2つのアルデヒド基のうちの一方のみを有している化合物と定義される。
したがって、実施例1における式(11´)で表されるアリールアミン誘導体や、下式(8)で表されるアリールアミン誘導体等が該当する。
【0039】
【化7】

【0040】
また、液体クロマトグラフィーを用いて測定される原料物質の全ピーク面積に対する、非ホルミル化合物の対象ピーク面積比を2%以下の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる非ホルミル化合物の対象ピーク面積比が2%以下の原料物質を使用することにより、ジスチリル誘導体を製造した場合に、モノスチリル誘導体の生成を効果的に抑え、さらに高純度のジスチリル誘導体を高収率で製造することができるためである。
但し、かかる非ホルミル化合物の対象ピーク面積比を小さくしようとすると、反応条件や精製条件の管理が過度に厳格になったり、使用可能な原材料の種類が過度に制限されたりする場合がある。
したがって、非ホルミル化合物の対象ピーク面積比を0.001〜1.5%の範囲内の値とすることがより好ましく、0.01〜1%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0041】
ここで、図1を参照して、電子写真感光体の電気特性(残留電位)に対する、ジスチリル誘導体の含有率(%)の影響、逆に言うと、モノホルミル化合物の対象ピーク面積比(%)や非ホルミル化合物の対象ピーク面積比(%)の影響を具体的に説明する。
すなわち、ジホルミル化合物(モノホルミル化合物や非ホルミル化合物を含む)からジスチリル誘導体を製造した場合の、正孔輸送剤の全体量に対するジスチリル誘導体の含有率(%)を横軸に採って示してあり、縦軸に、電子写真感光体の電気特性(残留電位)が採って示してある。
かかる図1から容易に理解できるように、正孔輸送剤の全体量に対するジスチリル誘導体の含有率(%)が95%以上になると、電子写真感光体の電気特性(残留電位)の値が200V以下となり、かかるジスチリル誘導体の含有率(%)が98%以上になると、電子写真感光体の電気特性(残留電位)の値が180V以下となっている。さらにかかるジスチリル誘導体の含有率(%)が99%以上になると、電子写真感光体の電気特性(残留電位)の値が150V以下と低くなっている。
したがって、正孔輸送剤の全体量に対するジスチリル誘導体の含有率(%)を比較的多くすべく、液体クロマトグラフィーを用いて測定されるジホルミル化合物の対象ピーク面積比を比較的多くすることが有効であると言える。逆に、このように液体クロマトグラフィーを用いて測定されるジホルミル化合物の対象ピーク面積比を多くするためには、モノホルミル化合物の対象ピーク面積比及び非ホルミル化合物の対象ピーク面積比をそれぞれ所定値以下とすることが有効であると言える。
【0042】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態のジスチリル誘導体の製造方法の前工程として、フィルスマイヤー(Vilismeier)反応により、ジアリールアミン化合物をジホルミル化してジホルミル化合物を合成する工程を含むことを特徴とするジスチリル誘導体の製造方法である。すなわち、ジホルミル化の対象物質としての非ホルミル化合物をフィルスマイヤー反応によってジホルミル化させ、それによって合成されたジホルミル化合物を主原料としてジスチリル化させることを特徴とするジスチリル誘導体の製造方法である。
以下、前工程としての、フィルスマイヤー反応の内容や条件等について中心的に説明する。
【0043】
1.フィルスマイヤー反応
フィルスマイヤー反応は、ジホルミル化の対象物質としての非ホルミル化合物を、塩化ホスホリル等のハロゲン化剤と、N、N−ジメチルホルムアミド等のホルミル化剤と、を含むフィルスマイヤー試薬と反応させることによってジホルミル化させ、本発明における主原料としてのジホルミル化合物を合成する反応である。
より具体的には、下記反応式(2)に準じて、一般式(5)で表されるジアリールアミン化合物と、塩化ホスホリルとを反応させて、一般式(1)で表されるジホルミル化合物を合成する反応である。
【0044】
【化8】

【0045】
(1)原料物質
フィルスマイヤー反応を実施する際に使用する原料物質としての非ホルミル化合物としては、上述した反応式(2)中における一般式(5)で表されるジアリールアミン化合物が代表的であるが、本発明の作用効果が得られるものであれば、それに制限されるものでない。
したがって、具体的に、実施例1における式(10)で表されるトリフェニルアミン誘導体や、下式(9)で表されるジアリールアミン化合物等が挙げられる。
【0046】
【化9】

【0047】
(2)ハロゲン化剤
また、フィルスマイヤー試薬を構成するハロゲン化剤としては、塩化ホスホリル、ホスゲン、塩化オキサリル、塩化チオニル、トリフェニルホスフィン−臭素錯体、ヘキサクロロトリホスファザトリエンが好ましく、塩化ホスホリル、ホスゲン、塩化チオニルがより好ましく、塩化ホスホリルが特に好ましい。
【0048】
また、フィルスマイヤー試薬を構成するホルミル化剤としては、N、N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアニリド、N−ホルミルモルホリン、N、N−ジイソプロピルホルムアミド等が好ましく、N、N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアニリドがより好ましく、N、N−ジメチルホルムアミドが特に好ましい。
【0049】
(3)反応条件
また、ハロゲン化剤の添加割合としては、非ホルミル化合物1モルに対して、ハロゲン化剤を8〜20モルの範囲で加えることが好ましい。
この理由は、かかるハロゲン化剤の割合を非ホルミル化合物1モルに対して8モル未満とすると、ジホルミル化合物の収率が向上しないためである。したがって、非ホルミル化合物1モルに対して加えるハロゲン化剤を8〜17モルの範囲内の値とすることがより好ましく、8〜10モルの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
また、フィルスマイヤー試薬の調製において、ハロゲン化剤とホルミル化剤との使用割合は、通常モル比で、1:1〜1:20の範囲内の値とすることが好ましく、1:1〜1:5の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0050】
また、反応の際に、触媒として酸を用いることが好ましい。すなわち、塩化亜鉛、臭化亜鉛、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、四塩化チタン又は塩化スズ等のルイス酸、又は、塩化水素及び臭化水素等のプロトン酸から選ばれる酸を用いることが好ましい。
この理由は、かかる酸を触媒として用いることによって、ジホルミル化における中間体としてのジイミニウム塩の生成を促進させることができるためである。
また、このような触媒としての酸の使用量を、非ホルミル化合物1モルに対して0.5〜3モルの範囲とすることが好ましく、1〜2.5モルの範囲とすることがより好ましく、1.5〜2モルの範囲とすることがさらに好ましい。
【0051】
また、反応温度としては、通常130℃以下の温度で行い、反応時間を5〜120分の範囲内の値とすることが好ましい。
さらに、反応に使用する溶媒としてはトルエン、キシレン、塩化メチレン、1、2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1、4−ジオキサン等、又はそれらの混合物を使用することが好ましい。
また、上述のジイミニウム塩を加水分解してジホルミル化合物を得る際に用いるアルカリ性水溶液としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム等の水溶液を用いることが好ましい。
【0052】
2.ジスチリル化反応
第1の実施形態において説明したのと同様の内容とすることができる。したがって、ここでの詳細な説明は省略する。
【0053】
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、導電性基体上に、少なくとも電荷発生剤と、正孔輸送剤と、結着樹脂と、を含有する感光層を備えた電子写真感光体の製造方法あるいはそれから得られた電子写真感光体であって、ジホルミル化合物からジスチリル誘導体を反応させて、正孔輸送剤を製造する工程を含むとともに、その前工程として、液体クロマトグラフィーを用いて測定される原料物質の全ピーク面積に対する、ジホルミル化合物の対象ピーク面積比を70%以上の値とする調整工程を含んでいる。
すなわち、このような電子写真感光体の製造方法及びそれから得られた電子写真感光体であれば、高純度のジスチリル誘導体を正孔輸送剤として含んでおり、電気特性に優れた電子写真感光体を提供することができる。
なお、第1の実施形態及び第2の実施形態において既に説明したように、第3の実施形態において、正孔輸送剤の全体量に対するジスチリル誘導体の含有率を比較的多くすべく、液体クロマトグラフィーを用いて測定されるジホルミル化合物の対象ピーク面積比を比較的多くすることが有効である。
さらに、電子写真感光体を構成する、導電性基体、電荷発生剤と、正孔輸送剤、結着樹脂、あるいは電子輸送剤や電子写真感光体の形態等については特に制限されるものでなく、公知の材料を用いて、公知の形態とすることができる。
【実施例】
【0054】
[実施例1]
1.フィルスマイヤー反応によるジホルミル化
下記反応式(3)に示すようにジホルミル化合物の合成手順を具体的に示すが、基本的に、上述した反応式(2)に沿って実施した。
すなわち、容量1000ml内に、式(10)で表されるトリフェニルアミン誘導体23g(0.0402モル)と、ジメチルホルムアミド(500)mlに溶解させた塩化ホスホリル61.6g(0.402モル:トリフェニルアミン誘導体に対して10モル倍)と、を加え、80℃、6時間の条件で、攪拌しながら反応させた。その後、反応液をイオン交換水400mlおよびトルエン200mlからなる混合物中に滴下し、トルエン層を得た。次いで、得られたトルエン層をイオン交換水にて洗浄を行った後、得られたトルエン層に無水硫酸ナトリウムおよび活性白土を加え、乾燥および吸着処理を行った。その後、トルエンを減圧留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム溶媒)を用いて精製し、式(11)で表されるジホルミル化合物を主成分とした22gの混合化合物を得た(収率88%)。
なお、ここで得られた混合化合物を原料物質(ジホルミル化合物)として、ジスチリル化反応を行った。
【0055】
【化10】

【0056】
2.液体クロマトグラフィー測定
また、液体クロマトグラフィーを用いて、上記合成例で得られた原料物質のピーク面積を測定した。
すなわち、液体クロマトグラフィーの実施において、展開溶媒を(アセトニトリル)、固定相をシリカゲル(ZORBAX SB-Ag)、流量を0.8ミリリットル/分、カラム温度を35℃、また紫外線吸収検出器の検出波長を(254)nmとして実施した。
また、注入サンプル量を0.08g/20ミリリットル、圧力を3MPaとして実施した。
その結果、測定された原料物質の全ピーク面積に対する、主原料としてのジホルミル化合物の対象ピーク(検出時間t1=7.3)面積比は100%であり、下記式(11´)で示されるモノホルミル化合物の対象ピーク(検出時間t2=5.8)面積比は0%であり、非ホルミル化合物の対象ピーク面積比は0%であった。
【0057】
【化11】

【0058】
3.薄層クロマトグラフィー測定
原料物質に対する薄層クロマトグラフィー測定は以下の条件で実施した。すなわち、原料物質に対する薄層クロマトグラフィーを、展開溶媒を(トルエン/n-ヘキサン=1/1)、固定相を(シリカゲル)として、実施した。
そして、薄層クロマトグラフィー展開後の原点の着色状態より、不純物の量を判断した。すなわち、原点の着色状態が濃い場合は、不純物の量が多いと判断し、「多」と評価した。また、原点の着色状態が薄い場合は不純物の量が少ないと判断し、「少」と評価した。さらに、原点が全く着色されない場合を、不純物が存在しないといと判断し、「0」と評価した。
【0059】
4.リンイリド誘導体の合成
次いで、下記式(13)で表されるリンイリド誘導体の合成を、下記反応式(4)に沿って実施した。
すなわち、容量1000mlのフラスコ内に、式(12)で表されるクロロメチルベンゼン150g(1.19モル)と、亜リン酸トリエチル237g(1.43モル)とを加えて、180℃で、8時間攪拌した。その後、室温まで冷却し、過剰な亜リン酸トリエチルを減圧留去し、式(13)で表されるリンイリド誘導体を、209g得た(収率91.8%)。
【0060】
【化12】

【0061】
5.ジスチリル化反応
下記反応式(5)に沿って、得られた原料物質をウィッティヒ(Wittig)法によりジスチリル化させ、式(14)で表されるジスチリル誘導体を合成した。
すなわち、容量500mlの二口フラスコ内の温度を0℃に保持した状態で、式(13)で表されるリンイリド誘導体15.1g(0.066モル)を加え、アルゴン置換を行った。次いで、乾燥済みのTHF100mlと、28%NaOMe12.7g(0.066モル)とを添加した後、30分間攪拌した。次いで、乾燥済みのTHF100mlに溶解した式(11)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体17.3g(0.0275モル)を添加した後、室温で、12時間攪拌しながら反応させた。その後、反応液をイオン交換水に注ぎ、トルエンを用いて抽出した後、得られた有機層に対して、イオン交換水を用いて5回洗浄を行った。さらに、得られた有機層を無水硫酸ナトリウムにて乾燥した後、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム溶媒)にて精製し、式(14)で表されるジスチリル誘導体15.3gを得た(71.6%)。
【0062】
【化13】

【0063】
6.液体クロマトグラフィーによるピーク面積測定
また、液体クロマトグラフィーを用いて、得られたジスチリル誘導体のピーク面積を測定した。
すなわち、液体クロマトグラフィーの実施において、展開溶媒をアセトニトリル、固定相をシリカゲル(ZORBAX SB-Ag)、流量を0.8ミリリットル/分、カラム温度を35℃、また紫外線吸収検出器の検出波長を(254)nmとして実施した。
また、注入サンプル量を0.08g/20ミリリットル、圧力を3MPaとして実施した。測定された上記式(14)で表せられるジスチリル誘導体のピーク(検出時間T1=17.2)と上記式(11´)を原料物質としたモノスチリル誘導体のピーク(検出時間T2=12.4)の面積比を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
[実施例2]
実施例2においては、実施例1のフィルスマイヤー反応によるジホルミル化の反応温度を80℃から120℃に変えたほかは、実施例1と同様にフィルスマイヤー反応及び精製を行った。その後、ジホルミル化合物及びモノホルミル化合物の混合物を得た後、液体クロマトグラフィーによるピーク面積測定及び薄層クロマトグラフィーの評価を実施した。
次いで、実施例1と同様に、得られた混合物を原料物質としたウィッティヒ(Wittig)法を実施して、ジスチリル誘導体を合成して、評価した。
【0065】
[実施例3]
実施例3においては、実施例1のフィルスマイヤー反応によるジホルミル化の塩化ホスホリルの量を49.1g(0.32モル:トリフェニルアミン誘導体に対して8モル倍)としたほかは、実施例1と同様にフィルスマイヤー反応及び精製を行い、ジホルミル化合物とモノホルミル化合物の混合物を得た後、液体クロマトグラフィーによるピーク面積測定及び薄層クロマトグラフィーの評価を実施した。
次いで、実施例1と同様に、得られた混合物を原料物質としたウィッティヒ(Wittig)法を実施して、ジスチリル誘導体を合成して、評価した。
【0066】
[実施例4]
実施例4においては、実施例1のフィルスマイヤー反応によるジホルミル化の塩化ホスホリルの量を73.6g(0.48モル:トリフェニルアミン誘導体に対して12モル倍)としたほかは、実施例1と同様にフィルスマイヤー反応及び精製を行い、ジホルミル化合物とモノホルミル化合物の混合物を得た後、液体クロマトグラフィーによるピーク面積測定及び薄層クロマトグラフィーの評価を実施した。
次いで、実施例1と同様に、得られた混合物を原料物質としたウィッティヒ(Wittig)法を実施して、ジスチリル誘導体を合成して、評価した。
【0067】
[実施例5]
実施例5においては、実施例1のフィルスマイヤー反応によるジホルミル化の塩化ホスホリルの量を36.8g(0.24モル:トリフェニルアミン誘導体に対して6モル倍)としたほかは、実施例1と同様にフィルスマイヤー反応及び精製を行い、ジホルミル化合物とモノホルミル化合物の混合物を得た後、液体クロマトグラフィーによるピーク面積測定及び薄層クロマトグラフィーの評価を実施した。
次いで、実施例1と同様に、得られた混合物を原料物質としたウィッティヒ(Wittig)法を実施して、ジスチリル誘導体を合成して、評価した。
【0068】
[実施例6]
実施例6においては、実施例1のフィルスマイヤー反応によるジホルミル化の塩化ホスホリルの量を55.2g(0.36モル:トリフェニルアミン誘導体に対して9モル倍)としたほかは、実施例1と同様にフィルスマイヤー反応及び精製を行い、ジホルミル化合物とモノホルミル化合物の混合物を得た後、液体クロマトグラフィーによるピーク面積測定及び薄層クロマトグラフィーの評価を実施した。
次いで、実施例1と同様に、得られた混合物を原料物質としたウィッティヒ(Wittig)法を実施して、ジスチリル誘導体を合成して、評価した。
【0069】
[実施例7]
実施例7においては、実施例1のフィルスマイヤー反応によるジホルミル化の塩化ホスホリルの量を42.9g(0.28モル:トリフェニルアミン誘導体に対して7モル倍)とし、反応温度を75℃としたほかは、実施例1と同様にフィルスマイヤー反応及び精製を行い、ジホルミル化合物とモノホルミル化合物の混合物を得た後、液体クロマトグラフィーによるピーク面積測定及び薄層クロマトグラフィーの評価を実施した。
次いで、実施例1と同様に、得られた混合物を原料物質としたウィッティヒ(Wittig)法を実施して、ジスチリル誘導体を合成して、評価した。
【0070】
[実施例8]
実施例8においては、実施例7において反応温度を80℃としたほかは、実施例1と同様にフィルスマイヤー反応及び精製を行い、ジホルミル化合物とモノホルミル化合物の混合物を得た後、液体クロマトグラフィーによるピーク面積測定及び薄層クロマトグラフィーの評価を実施した。
次いで、実施例1と同様に、得られた混合物を原料物質としたウィッティヒ(Wittig)法を実施して、ジスチリル誘導体を合成して、評価した。
【0071】
[比較例1〜4]
比較例1〜4においては、実施例1における塩化ホスホリルの反応量、塩化ホスホリルを加える手順、及び反応温度を表1に示すようにそれぞれ変えたほかは、実施例1と同様にフィルスマイヤー反応及び精製を行い、ジホルミル化合物とモノホルミル化合物の混合物をそれぞれ得た。
なお、比較例3における塩化ホスホリルを加える手順としては、反応の初期の塩化ホスホリルの添加に加えて、反応途中においても塩化ホスホリルを追加添加した。
次いで、実施例1と同様に、得られた混合物を、それぞれ原料物質としたウィッティヒ(Wittig)法を実施して、ジスチリル誘導体を合成して、評価した。
【0072】
【表1】

【0073】
[実施例9〜16]
実施例9〜16においては、実施例1〜8で得られたジスチリル誘導体を正孔輸送剤として、単層型の電子写真感光体を作成して、初期感度および残留電位をそれぞれ測定した。
すなわち、正孔輸送剤として、実施例1〜8においてそれぞれ得られた式(14)で表されるアミンスチルベン誘導体(HTM−A)を80重量部と、電子輸送剤として、式(15)で表されるキノン化合物(ETM−A)を20重量部と、電荷発生剤として、式(16)で表されるX型無金属フタロシアニン(CGM−A)を5重量部と、結着樹脂として、式(17)で表される共重合ポリカーボネート樹脂(Resin−A)100重量部と、を溶媒としてのテトラヒドロフラン800重量部に対して添加した。
次いで、ボールミルを用いて50時間混合分散して、単層型感光体層用の塗布液を作成した。得られた塗布液を、導電性基材(アルミニウム素管)上に、ディップコート法にて塗布し、100℃、30分間の条件で熱風乾燥して、膜厚25μmの単層型の電子写真感光体を得た。
【0074】
得られた電子写真感光体における帯電性および感度特性を測定した。すなわち、ドラム感度試験機(GENTEC社製)を用いて、700Vになるように帯電させた状態で電位を測定し、初期帯電電位(Vo)とした。次いで、ハロゲンランプの光からハンドパルスフィルターを用いて取り出した波長780nmの単色光(半値幅:20nm、光量:1.5μJ/cm2)を感光体表面に照射した。照射後、330msec経過した後の電位を測定し、残留電位(Vr)とした。それぞれ得られた結果を表2に示す。
表2に示す結果より、液体クロマトグラフィーにおけるジスチリル誘導体のピーク面積比が大きいほど、電子写真感光体が高感度になることが分かった。逆に、モノスチリル誘導体のピーク面積が2%以下、より好ましくは1%以下であれば、良好な感度が得られることが分かった。
【0075】
【化14】

【0076】
【化15】

【0077】
【化16】


【0078】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0079】
以上詳述したように、本発明によれば、主原料としてのジホルミル化合物をジスチリル化させる際に、液体クロマトグラフィーを用いて測定されるピーク面積が所定条件を満足する原料物質を用いることによって、モノスチリル誘導体の生成を効果的に抑え、主原料としてのジホルミル化合物からジスチリル誘導体を高純度かつ高収率で製造することができるようになった。
したがって、正孔輸送剤としてのアリールアミン構造を有するジスチリル誘導体の製造において、かかるジスチリル誘導体の製造方法を利用することによって、優れた電気特性を有する電子写真感光体を製造することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】電子写真感光体の電気特性(残留電位)に対する、液体クロマトグラフィーを用いて測定されるジスチリル誘導体の含有率の影響を説明するために供する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主原料としてのジホルミル化合物からジスチリル誘導体を製造するジスチリル誘導体の製造方法であって、
液体クロマトグラフィーを用いて測定される原料物質の全ピーク面積に対する、前記ジホルミル化合物の対象ピーク面積比を70%以上の値とすることを特徴とするジスチリル誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記液体クロマトグラフィーを用いて測定される原料物質の全ピーク面積に対する、モノホルミル化合物の対象ピーク面積比を30%以下の値とすることを特徴とする請求項1に記載のジスチリル誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記液体クロマトグラフィーを用いて測定される原料物質の全ピーク面積に対する、非ホルミル化合物の対象ピーク面積比を2%以下の値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のジスチリル誘導体の製造方法。
【請求項4】
下記反応式(1)に準じて、一般式(1)で表されるジホルミル化合物と、一般式(2)及び一般式(3)で表されるリンイリド誘導体とを、触媒の存在下に反応させて、一般式(4)で表されるジスチリル誘導体を得ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のジスチリル誘導体の製造方法。
【化1】


(反応式(1)中、Ar1は、炭素数6〜20の置換または非置換のアリーレン基あるいは2価の縮合多環構造基、Ar2〜Ar5は、それぞれ独立した炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基である。)
【請求項5】
前記反応式(1)で表される工程の前工程として、フィルスマイヤー(Vilismeier)反応により、ジアリールアミン化合物をジホルミル化してジホルミル化合物を合成する工程を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のジスチリル誘導体の製造方法。
【請求項6】
前工程として、下記反応式(2)に準じて、一般式(5)で表されるジアリールアミン化合物と、塩化ホスホリルとを反応させて、一般式(1)で表されるジホルミル化合物を合成する工程を含むことを特徴とする請求項5に記載のジスチリル誘導体の製造方法。
【化2】


(反応式(2)中、Ar1は、炭素数6〜20の置換または非置換のアリーレン基あるいは2価の縮合多環構造基、Ar2〜Ar3は、それぞれ独立した炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基である。)
【請求項7】
前記反応式(2)中におけるフィルスマイヤー反応を実施する際の塩化ホスホリルの反応量を、一般式(5)で表されるジアリールアミン化合物1モルに対して、8モル以上の値とすることを特徴とする請求項5又は6に記載のジスチリル誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記反応式(2)中におけるフィルスマイヤー反応の反応温度を70〜120℃の範囲内の値とすることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載のジスチリル誘導体の製造方法。
【請求項9】
前記反応式(2)中におけるフィルスマイヤー反応を実施する際の溶媒をトルエンとすることを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載のジスチリル誘導体の製造方法。
【請求項10】
導電性基体上に、少なくとも電荷発生剤と、正孔輸送剤と、結着樹脂と、を含有する感光層を備えた電子写真感光体の製造方法であって、
ジホルミル化合物からジスチリル誘導体を反応させて、前記正孔輸送剤を製造する工程を含むとともに、その前工程として、液体クロマトグラフィーを用いて測定される原料物質の全ピーク面積に対する、前記ジホルミル化合物の対象ピーク面積比を70%以上の値とする調整工程を含むことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項11】
導電性基体上に、少なくとも電荷発生剤と、正孔輸送剤と、結着樹脂と、を含有する感光層を備えた電子写真感光体であって、
前記正孔輸送剤として、ジスチリル誘導体及びモノスチリル誘導体とを含むともに、液体クロマトグラフィーを用いて測定されるジスチリル誘導体及びモノスチリル誘導体の全ピーク面積に対する、前記モノスチリル誘導体の対象ピーク面積比を1%以下の値とすることを特徴とする電子写真感光体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−335661(P2006−335661A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159775(P2005−159775)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】