説明

ジハロメチルエーテル誘導体化合物及びその製造方法

【課題】フォトリソグラフィ分野における化学増感型ポジ型レジストに利用できる新たな酸解離性反応基を導入する為の化合物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
下記一般式(I)で表されるジハロメチルエーテル誘導体化合物。溶媒の存在下、下記一般式(IV)で示されるフェニレン基又はシクロヘキシレン基を有するアルコールに、ホルムアルデヒド及びハロゲン化水素ガスを反応させて、対応する一般式(I)で示されるジハロメチルエーテル誘導体化合物を製造する方法。
【化1】


(式(I)中、Xはフェニレン基又はシクロヘキシレン基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
【化2】


(式(IV)中、Xは前記と同じである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なジハロメチルエーテル誘導体化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の微細化に伴って、例えば極端紫外光(13.5nm)や電子線を用いたリソグラフィプロセスの開発が精力的に進められている。それらに対応する化学増感型ポジ型レジストのベースとなる基材としては、高分子系としては、ノボラック型フェノール系樹脂、ポリヒドロキシスチレン系樹脂(メタ)アクリル酸系樹脂に、低分子系としては、ポリフェノール系化合物、カリックスアレーン系化合物に、酸の作用により分解する酸解離性反応基を導入したものが用いられている。
【0003】
酸解離性反応基としては、アルコキシメチル基、アルコキシエチル基および三級アルコキシ基が主に用いられている。またレジストのパターンのラフネスの低減やパターン倒れ抑制等のレジスト性能向上を目的として、二官能の酸解離性反応基を用いた検討も盛んである(特許文献1〜6)。それらの酸解離性反応基を導入する為の原料となる化合物は、ジクロロメチルエーテル化合物、ジビニルエーテル化合物およびジアルコキシハライド化合物等があげられる。しかしながら、極端紫外光(13.5nm)や電子線を用いたリソグラフィプロセスにて要求される厳しい性能を満足する二官能の酸解離性反応基は見つかっておらず、新たな酸解離性反応基を導入する為の化合物が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−344808号公報
【特許文献2】特開2006−2073号公報
【特許文献3】特開2006−3846号公報
【特許文献4】特開2000−098613号公報
【特許文献5】特開2005−308977号公報
【特許文献6】特開2007−206371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、フォトリソグラフィ分野における化学増感型ポジ型レジストに利用できる新たな酸解離性反応基を導入する為の化合物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、新規なジハロメチルエーテル誘導体化合物が上記の目的に適合した化合物であり、また特定のプロセスにより効率よく製造することが可能であることから、上記課題を解決しうることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)下記一般式(I)で表されるジハロメチルエーテル誘導体化合物。
【0008】
【化1】

(式(I)中、Xはフェニレン基又はシクロヘキシレン基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
【0009】
(2)下記一般式(II)で表わされるジハロメチルエーテル誘導体化合物。
【化2】

(式(II)中、Xは前記と同じである。)
【0010】
(3)下記一般式(III)で表わされるジハロメチルエーテル誘導体化合物。
【化3】

(式(III)中、Xは前記と同じである。)
【0011】
(4)溶媒の存在下、下記一般式(IV)で示されるフェニレン基又はシクロヘキシレン基を有するアルコールに、ホルムアルデヒド及びハロゲン化水素ガスを反応させて、対応する一般式(I)で示されるジハロメチルエーテル誘導体化合物を製造する方法。
【0012】
【化4】

(式(IV)中、Xは前記と同じである。)
【化5】

(式(I)中、X、Xは前記と同じである。)
【0013】
(5)前記溶媒が、炭素数5〜20の脂肪族炭化水素、炭素数5〜20の脂環族炭化水素、または炭素数6〜20の芳香族炭化水素である請求項4に記載のジハロメチルエーテル誘導体化合物を製造する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、フォトリソグラフィ分野における化学増感型ポジ型レジストとして有用な新たな酸解離性反応基を導入する為の化合物及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[ジハロメチルエーテル誘導体化合物(I)]
本発明のジハロメチルエーテル誘導体化合物は、下記一般式(I)で示される化合物である。
【0016】
【化6】

【0017】
式(I)中、Xはフェニレン基又はシクロヘキシレン基を示し、Xはハロゲン原子を示す。
Xはフェニレン基及びシクロヘキシレン基であるが、エッチング耐性が高いことから特にフェニレン基が好適である。
のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子を挙げることができ、通常は塩素原子、臭素原子であり、特に塩素原子が好適である。
【0018】
Xがシクロヘキシレン基の場合、本発明のジハロメチルエーテル誘導体化合物は、シス体、トランス体のいずれの構造を取りうるが、いずれかの構造若しくは混合物でもよい。レジスト成分として用いる場合は、シス体及びトランス体のいずれかの構造のみを有する方が、純物質化合物となり、レジスト膜中成分の均一性が高いので好ましい。シス体及びトランス体のいずれかの構造のみを有するジハロメチルエーテル誘導体化合物を得る方法は、カラムクロマトや分取液体クロマトグラフィによる分離や製造時における反応溶媒及び反応温度等の最適化等、公知の方法で行うことができる。
【0019】
本発明のジハロメチルエーテル誘導体化合物は、下記一般式(II)で示される化合物であることが好ましい。
【0020】
【化7】

【0021】
式(II)中、Xは前記と同じである。
【0022】
一般式(II)で示される化合物は、芳香環を有していることにより、高いエッチング耐性を付与することができる。
【0023】
本発明のジハロメチルエーテル誘導体化合物は、下記一般式(III)で示される化合物であることがより好ましい。
【0024】
【化8】

【0025】
式(III)中、Xは前記と同じである。
【0026】
一般式(III)で示される化合物は、ベンゼン環の1,3位にハロメトキシメチル基を有していることにより、本化合物を用いて得られる化学増感型ポジ型レジストのベースとなる基材である樹脂および化合物の結晶性を低下させ、製膜性を向上することができる。
【0027】
[ジハロメチルエーテル誘導体化合物(I)の製造方法]
本発明の一般式(I)で示されるジハロメチルエーテル誘導体化合物は、溶媒の存在下で、前記一般式(IV)で示されるアルコールを原料とし、ホルムアルデヒド及びハロゲン化水素ガスを反応させて、製造することができる。
【0028】
【化9】

【0029】
式(IV)中、Xは前記と同じである。
【0030】
本発明の製造方法においては、溶媒及び必要に応じて用いられる乾燥剤の存在下に、上記原料の一般式(IV)で表されるアルコールとホルムアルデヒド及び乾燥したハロゲン化水素(ガス)を反応させる。
【0031】
上記のホルムアルデヒドとして、ガス状のホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサンなどが使用される。ホルムアルデヒドの量は、原料アルコール1モルに対して、通常1〜5モルである。
【0032】
ハロゲン化水素ガスは乾燥したものが好ましい。市販のボンベから供給する方法やハロゲン化ナトリウムと濃硫酸を反応させ発生したハロゲン化水素ガスを供給する方法が採用できる。ハロゲン化水素の量は、原料アルコール1モルに対して、通常1〜20モルである。
【0033】
また、上記の乾燥剤は使用しなくてもよいが、使用する場合には一般的な乾燥剤が使用可能である。具体的には、無水硫酸マグネシウム、無水塩化鉄、無水塩化アルミニウム等無水無機塩;塩化カルシウム、モレキュラーシーブス、五酸化二リン、過塩素酸ナトリウム、活性アルミナ、シリカゲル、水素化カルシウム、水素化アルミニウムリチウムなどが挙げられる。乾燥剤の量は、原料アルコール1モルに対して、通常0.5〜5モルである。
【0034】
本発明の製造方法で用いられる溶媒としては、具体的には、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の炭素数5〜20の脂肪族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の炭素数5〜20の脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭素数6〜20の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン系炭化水素溶媒が挙げられるが、副生成物の原因となりうる水の混入が小さいことから、炭素数5〜20の脂肪族炭化水素系溶媒、炭素数5〜20の脂環族炭化水素および炭素数6〜20の芳香族炭化水素が好ましく、反応中のホルムアルデヒドの昇華を抑制しやすいことから、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレンが更に好ましく、トルエン、キシレンが特に好ましい。また溶媒に対する水の溶解度が5質量%以下であることが反応中の副生成物の生成が抑えられることから好ましい。
【0035】
また、反応温度については、反応圧力における溶媒の沸点がT℃である場合、(T−70)℃からT℃の範囲とした方が望ましい。その範囲に調整することにより、前記の副生成物の生成量を抑えることができる。
【0036】
反応圧力については、通常絶対圧力で0.01〜10MPaであり、好ましくは常圧〜1MPaである。反応時間については、通常1分〜24時間であり、好ましくは30分〜5時間である。
【0037】
目的とする反応生成物の精製については、蒸留、晶析、カラム分離などを採用することが可能であり、生成物の性状と副生成物の種類により精製方法を選択すればよい。
【0038】
一般式(II)および一般式(III)で示されるジハロメチルエーテル誘導体化合物は、それぞれ下記一般式(V)および一般式(VI)で示されるアルコールを用いて、一般式(I)で示されるジハロメチルエーテル誘導体化合物と同様に製造することができる。
【0039】
【化10】

【0040】
【化11】

【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0042】
実施例1A mXYGLCMEの合成 トルエン溶媒
十分乾燥し、窒素置換した滴下漏斗、ジム・ロート冷却管、温度計、攪拌翼を設置した四つ口フラスコ(500ml)に、窒素気流下で、m−キシリレンジメタノール(アルドリッチ製試薬;27.6g)、198mlのトルエンからなる溶液に、トリオキサン36.0gを添加した。その後、氷冷下、塩化水素ガスを2.5時間吹き込みながら撹拌した。反応終了後、塩化水素ガスの吹き込みを停止し、室温に戻し、分液ロートにて不溶層を分離し、トルエン層に無水硫酸ナトリウムを添加し、室温にて撹拌後、ろ過処理を行った。得られたろ液から溶媒を除去し、その後、減圧下単蒸留にて、下記化学式で示される目的物のmXYGLCME31.6gを得た。
得られた生成物の重クロロホルム溶媒中でのH−NMRのケミカルシフト値(δppm,TMS基準)は4.8(s,2H)、5.5(s,2H)、7.2−7.4(m,4H)であった。またGC−MSにより、目的物の分子量である234を確認した。
【0043】
【化12】

(mXYGLCME)
【0044】
実施例1B mXYGLCMEの合成 塩化メチレン溶媒
トルエンを塩化メチレンに代えた以外は実施例1Aと同様に合成を行った。その結果、ホルムアルデヒド由来と想定される昇華物の装置内への付着は見られたが、収量は20.0gで目的生成物であるmXYGLCMEが得られた。
【0045】
実施例2 pXYGLCMEの合成 トルエン溶媒
m−キシリレンジメタノールをp−キシリレンジメタノールに代えた以外は実施例1Aと同様に合成を行なった。その結果、収量は31.2gで、下記化学式で示される目的物のpXYGLCMEが得られた。
得られた生成物の重クロロホルム溶媒中でのH−NMRのケミカルシフト値(δppm,TMS基準)は4.8(s,2H)、5.5(s,2H)、7.2−7.4(m,4H)であった。またGC−MSにより、目的物の分子量である234を確認した。
【0046】
【化13】

(pXYGLCME)
【0047】
実施例3 CHGLCMEの合成 トルエン溶媒
m−キシリレンジメタノールを1,3−シクロヘキサンジメタノールに代えた以外は実施例1Aと同様に合成を行なった。その結果、収量は31.2gで、下記化学式で示される目的物のCHGLCMEが得られた。
得られた生成物の重クロロホルム溶媒中でのH−NMRのケミカルシフト値(δppm,TMS基準)は1.2−1.3(m,8H)、4.8(s,2H)、5.5(s,2H)であった。またGC−MSにより、目的物の分子量である240を確認した。
【0048】
【化14】

(CHGLCME)
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により、フォトリソグラフィ分野における化学増感型ポジ型レジストに利用できる新たな酸解離性反応基を導入する為の化合物及びその製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるジハロメチルエーテル誘導体化合物。
【化1】

(式(I)中、Xはフェニレン基又はシクロヘキシレン基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
【請求項2】
下記一般式(II)で表わされるジハロメチルエーテル誘導体化合物。
【化2】

(式(II)中、Xは前記と同じである。)
【請求項3】
下記一般式(III)で表わされるジハロメチルエーテル誘導体化合物。
【化3】

(式(III)中、Xは前記と同じである。)
【請求項4】
溶媒の存在下、下記一般式(IV)で示されるフェニレン基又はシクロヘキシレン基を有するアルコールに、ホルムアルデヒド及びハロゲン化水素ガスを反応させて、対応する一般式(I)で示されるジハロメチルエーテル誘導体化合物を製造する方法。
【化4】

(式(IV)中、Xは前記と同じである。)
【化5】

(式(I)中、X、Xは前記と同じである。)
【請求項5】
前記溶媒が、炭素数5〜20の脂肪族炭化水素、炭素数5〜20の脂環族炭化水素、または炭素数6〜20の芳香族炭化水素である請求項4に記載のジハロメチルエーテル誘導体化合物を製造する方法。

【公開番号】特開2011−144132(P2011−144132A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6201(P2010−6201)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】