説明

ジヒドロキシベンゼンの精製方法

【課題】高度に精製されたジヒドロキシベンゼンを効率的に得る精製方法を提供する。
【解決手段】第一抽出:粗ジヒドロキシベンゼン1に水2を添加した後、抽出溶剤4に接触させて抽出、ジヒドロキシベンゼン、ヒドロキシアセトフェノン、水を含む第一区分5と、イソプロペニルフェノール、抽出溶剤を含む第二区分6とに分離蒸留:第一区分を蒸留、水を含む第三区分7と、ジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分8とに分離、第四区分を蒸留、精製されたジヒドロキシベンゼンである第五区分9と、ヒドロキシアセトフェノンが濃縮されたジヒドロキシベンゼンである第六区分10とに分離第二抽出:第六区分に水11を添加した後、抽出溶剤13に接触させて抽出、ジヒドロキシベンゼン、水を含む第七区分14と、ヒドロキシアセトフェノン及び抽出溶剤を含む第八区分15とに分離回収:第七区分からジヒドロキシベンゼン18を回収。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジヒドロキシベンゼンの精製方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、高度に精製されたジヒドロキシベンゼンを効率的に得ることができるジヒドロキシベンゼンの精製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レゾルシンに代表されるジヒドロキシベンゼンを工業的に製造する方法としては、ベンゼンとプロピレンを反応させてジイソプロピルベンゼンとし、該ジイソプロピルベンゼンを酸化してジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドとし、該ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドを酸分解してジヒドロキシベンゼンとアセトンとする方法が知られている(たとえば、特許文献1参照。)。
【0003】
ところで、上記方法により得られるジヒドロキシベンゼンは、不純物としてイソプロペニルフェノール、ヒドロキシアセトフェノン等を含む粗ジヒドロキシベンゼンである。したがって、製品としてのジヒドロキシベンゼンを得るには、粗ジヒドロキシベンゼンから前述の不純物等を除去して精製する必要がある。
ジヒドロキシベンゼンは、用途により高水準の製品純度を有することが求められており、高度に精製されたジヒドロキシベンゼンを得るための精製方法の開発がなされてきたことも知られている。(たとえば、特許文献2参照)
【0004】
粗ジヒドロキシベンゼンを精製する方法として、特許文献3および特許文献4には、粗ジヒドロキシベンゼンに水と抽出溶剤を添加し、ジヒドロキシベンゼンを水相へ抽出する方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、従来の方法よりもさらに高度に精製されたジヒドロキシベンゼンを効率的に得る方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭53−23939号公報
【特許文献2】特公昭61−18537号公報
【特許文献3】特開昭64−38号公報
【特許文献4】特開2002−363118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかる状況において、本発明が解決しようとする課題は、高度に精製されたジヒドロキシベンゼンを効率的に得ることができるジヒドロキシベンゼンの精製方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、不純物として少なくともイソプロペニルフェノール及びヒドロキシアセトフェノンを含有する粗ジヒドロキシベンゼンから精製されたジヒドロキシベンゼンを得る、下記の工程を含むジヒドロキシベンゼンの精製方法に係るものである。
第一抽出工程:粗ジヒドロキシベンゼンに水を添加して、ジヒドロキシベンゼン水溶液Aとした後、抽出溶剤(1)に接触させて抽出に付し、ジヒドロキシベンゼン、ヒドロキシアセトフェノン及び水を含む第一区分と、イソプロペニルフェノール及び抽出溶剤(1)を含む第二区分とに分離する工程
蒸留工程:第一抽出工程で得た第一区分を蒸留に付し、水を含む第三区分と、ジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分とに分離し、次いで、第四区分を蒸留に付し、精製されたジヒドロキシベンゼンである第五区分と、ヒドロキシアセトフェノンが濃縮されたジヒドロキシベンゼンである第六区分とに分離する工程
第二抽出工程:蒸留工程で得た第六区分に水を添加して、ジヒドロキシベンゼン水溶液Bとした後、抽出溶剤(2)に接触させて抽出に付し、ジヒドロキシベンゼン及び水を含む第七区分と、ヒドロキシアセトフェノン及び抽出溶剤(2)を含む第八区分とに分離する工程
回収工程:第二抽出工程で得た第七区分からジヒドロキシベンゼンを回収する工程または第二抽出工程で得た第七区分を第一抽出工程の入口に供給する工程
【0009】
また、本発明は、下記の工程を含むジヒドロキシベンゼンの製造方法であって、下記の精製工程が上記のジヒドロキシベンゼンの精製方法を用いる、ジヒドロキシベンゼンの製造方法に係るものである。
酸化工程:ジイソプロピルベンゼンを酸化して、ジイソプロピルベンゼンジヒドロペルオキシドを含む酸化油を得る工程
分解工程:酸化工程で得た酸化油を酸性触媒の存在下に分解し、ジヒドロキシベンゼンを含む分解反応液を得る工程
精製工程:分解工程で得た分解反応液を精製して、精製されたジヒドロキシベンゼンを得る工程
【発明の効果】
【0010】
本発明により、高度に精製されたジヒドロキシベンゼンを効率的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1のフローの概略図である。
【図2】実施例2のフローの概略図である。
【図3】比較例1および3のフローの概略図である。
【図4】比較例2のフローの概略図である。
【図5】水溶液中のレゾルシン濃度とヒドロキシアセトフェノンの分配比を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0013】
本発明のヒドロキシベンゼンの精製方法は、不純物として少なくともイソプロペニルフェノール及びヒドロキシアセトフェノンを含有する粗ジヒドロキシベンゼンから精製されたジヒドロキシベンゼンを得る精製方法であって、下記の工程を含む。
第一抽出工程:粗ジヒドロキシベンゼンに水を添加して、ジヒドロキシベンゼン水溶液Aとした後、抽出溶剤(1)に接触させて抽出に付し、ジヒドロキシベンゼン、ヒドロキシアセトフェノン及び水を含む第一区分と、イソプロペニルフェノール及び抽出溶剤(1)を含む第二区分とに分離する工程
蒸留工程:第一抽出工程で得た第一区分を蒸留に付し、水を含む第三区分と、ジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分とに分離し、次いで、第四区分を蒸留に付し、精製されたジヒドロキシベンゼンである第五区分と、ヒドロキシアセトフェノンが濃縮されたジヒドロキシベンゼンである第六区分とに分離する工程
第二抽出工程:蒸留工程で得た第六区分に水を添加して、ジヒドロキシベンゼン水溶液Bとした後、抽出溶剤(2)に接触させて抽出に付し、ジヒドロキシベンゼン及び水を含む第七区分と、ヒドロキシアセトフェノン及び抽出溶剤(2)を含む第八区分とに分離する工程
回収工程:第二抽出工程で得た第七区分からジヒドロキシベンゼンを回収する工程または第二抽出工程で得た第七区分を第一抽出工程の入口に供給する工程
【0014】
本発明における粗ヒドロキシベンゼンとは、不純物として少なくともイソプロペニルフェノール及びヒドロキシアセトフェノンを含有する。不純物としては、イソプロペニルフェノール及びヒドロキシアセトフェノン以外の不純物が含まれていてもよい。
【0015】
粗ジヒドロキシベンゼン中のイソプロペニルフェノールの濃度として、好ましくは、0.1〜20重量%であり、ヒドロキシアセトフェノンの濃度として、好ましくは、0.1〜10重量%である。
【0016】
本発明における粗ジヒドロキシベンゼンを得る方法としては、例えば、ベンゼンとプロピレンとを反応させてジイソプロピルベンゼンとし、該ジイソプロピルベンゼンを酸化してジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドとし、該ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドを酸分解してジヒドロキシベンゼンとアセトンとする方法(例えば、前記特許文献1参照。)が挙げられる。
【0017】
ジヒドロキシベンゼンとしては、例えば、レゾルシン、ハイドロキノン、カテコール等が挙げられ、産業上重要である観点から、好ましくは、レゾルシンである。レゾルシンは主に接着剤の主要原料として使用される。
【0018】
本発明における第一抽出工程は、粗ジヒドロキシベンゼンに水を添加して、ジヒドロキシベンゼン水溶液Aとした後、抽出溶剤(1)に接触させて抽出に付し、ジヒドロキシベンゼン、ヒドロキシアセトフェノン及び水を含む第一区分と、イソプロペニルフェノール及び抽出溶剤(1)を含む第二区分とに分離する工程である。
【0019】
粗ジヒドロキシベンゼンに水を添加して得られる水溶液A中のジヒドロキシベンゼンの濃度(C)として、好ましくは、40〜70重量%であり、より好ましくは、40〜60重量%である。該濃度が低すぎる場合(すなわち、ジヒドロキシベンゼンに対する水の比率が高い場合)、後工程の蒸留工程で水を含む第三区分と、ジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分とに分離するために使用される加熱エネルギー量を多く必要とし、また同工程における蒸留塔は大規模なものが必要となり経済性が悪く、一方該濃度が高すぎる場合(すなわち、ジヒドロキシベンゼンに対する水の比率が低い場合)、抽出工程におけるイソプロペニルフェノール及びヒドロキシアセトフェノンの除去能力が低下し、精製効率の悪化を引き起こし、また溶液温度が低下した場合、例えば外気温の低下時等において溶液中のジヒドロキシベンゼンの析出を引き起こし、配管の閉塞トラブル等を招くことがある。
【0020】
抽出溶剤(1)としては、公知の抽出溶剤から実施者が適切なものを用いることができる。抽出溶剤(1)としては、例えば、トルエン、キシレン、シメン、トリイソプロピルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン等が挙げられ、抽出効率、分液性の観点から、好ましくは、トルエンである。また、抽出効率を高めるために、上記抽出溶剤(1)に加えてケトン類を追加した混合抽出溶剤を用いても良い。加えるケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられるが、中でもメチルイソブチルケトンが好ましい。
【0021】
抽出の具体的方法については、公知の抽出塔を用いて抽出する方法が挙げられ、例えば、抽出塔の塔頂部付近から粗ジヒドロキシベンゼンと水とからなる溶液を供給し、塔底部付近から抽出溶剤を供給し、両者を抽出塔内で向流接触させて抽出する方法等が挙げられる。抽出塔としては、所定の抽出理論段を有していればよく、例えば、内部に多孔板を設置した多孔板抽出塔、邪魔板を設置したバッフル塔、回転円板を取り付けたRDC塔等が挙げられる。
【0022】
別の抽出する方法としては、例えば、接触混合装置(ミキサー)を用いて、粗ジヒドロキシベンゼンと水とからなる溶液と、抽出溶剤とを接触混合し、次いで油水分離するミキサーセトラー方式を用いて抽出する方法等が挙げられる。接触混合装置(ミキサー)としては、例えば、攪拌機、スタティックミキサー、ラインミキサー等の市販の一般的な混合装置が挙げられる。接触混合後のミキサーセトラー方式には、油水分離装置(セトラー)を用いることができ、油水分離装置(セトラー)としては、充分油水を静置分離させるものであればよく、例えば、一般的なドラム、コアレッサ−等が挙げられる。
【0023】
抽出により、ジヒドロキシベンゼン、ヒドロキシアセトフェノン及び水を含む第一区分と、イソプロペニルフェノール及び抽出溶剤(1)を含む第二区分とが得られる。上記の抽出塔を用いた場合、第一区分は抽出塔の塔底部付近から得られ、第二区分は抽出塔の塔頂部付近から得られる。
一方、ミキサーセトラーを用いた場合、第一区分はセトラーの水相側から得られ、第二区分は油相側から得られる。
【0024】
第一区分に含まれるジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンの濃度として、好ましくは、ジヒドロキシベンゼンの濃度が40〜70重量%であり、ヒドロキシアセトフェノンの濃度が0.05〜0.4重量%である(ただし、第一区分の全重量を100重量%とする。)。第二区分に含まれるイソプロペニルフェノールの濃度として、好ましくは、0.05〜5.0重量%である(ただし、第二区分の全重量を100重量%とする。)。
第二区分は抽出溶剤(1)を含むため、そのまま第二抽出工程で抽出溶剤(2)として用いるか、または、蒸留に付して、精製された抽出溶剤を回収し、第一および/または第二抽出工程の抽出溶剤(1)および/または抽出溶剤(2)としてリサイクル使用してもよい。
【0025】
本発明における蒸留工程は、第一抽出工程で得た第一区分を蒸留に付し、水を含む第三区分と、ジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分とに分離し、次いで、第四区分を蒸留に付し、精製されたジヒドロキシベンゼンである第五区分と、ヒドロキシアセトフェノンが濃縮されたジヒドロキシベンゼンである第六区分とに分離する工程である。
【0026】
蒸留工程を実施するためには、棚段塔、不規則充填塔、規則充填塔といった公知の蒸留塔が使用される。蒸留塔の主要な構成としては、棚段(シーブトレー、リップルトレー、バブルキャップトレー等)、不規則充填物(ラヒシリング、レッシリング、ポールリング等)、規則充填物(メラパック等)のような内部構造物を1種または2種以上組み合わせて設置した蒸留塔本体、塔底付近の液の一部を気化させるためのリボイラー、塔頂付近の留出蒸気を凝縮させるためのコンデンサーからなるものを例示することができる。このような蒸留塔を必要に応じて複数設置し、塔頂部付近、塔底部付近、またはサイドカットと呼ばれる塔頂と塔底の中間段付近から所望の区分を抜き出すことで分離を行う。具体例としては、前段の蒸留塔の塔頂部付近から水を含む第三区分が得られ、塔底部付近からジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分が得られ、次いで第四区分を後段の蒸留塔で蒸留に付し、蒸留塔の塔頂部付近から精製されたジヒドロキシベンゼンである第五区分が得られ、塔底部付近からヒドロキシアセトフェノンが濃縮されたジヒドロキシベンゼンである第六区分が得られる。後段の蒸留塔の塔頂部付近において得られるジヒドロキシベンゼン中に、ジヒドロキシベンゼンよりも沸点の低い不純物が存在する場合、第四区分を該蒸留塔へ供給する段と塔頂部付近の間に位置する段(サイドカット段)から得ることが、精製されたジヒドロキシベンゼンの純度を高める観点から特に好ましい。
【0027】
蒸留工程で得られた第三区分は工程外へ排水してもよいが、そのまま、または不要成分を除去した後、第一抽出工程および/または第二抽出工程で用いられる水の少なくとも一部としてリサイクルしてもよい。第三区分をリサイクルする場合、粗ジヒドロキシベンゼンの精製プロセス全体としての排水量が削減されるため好ましい。
【0028】
このようにして得られた第五区分は、所望の品質を満たしている。また、第六区分中のヒドロキシアセトフェノンの濃度としては、通常、約5〜12重量%であり、ジヒドロキシベンゼンが、通常、約70〜95重量%である。
【0029】
本発明における第二抽出工程は、蒸留工程で得た第六区分に水を添加して、ジヒドロキシベンゼン水溶液Bとした後、抽出溶剤(2)に接触させて抽出に付し、ジヒドロキシベンゼン及び水を含む第七区分と、ヒドロキシアセトフェノン及び抽出溶剤(2)を含む第八区分とに分離する工程である。
第六区分にはジヒドロキシベンゼン、ヒドロキシアセトフェノンの他に、ジヒドロキシベンゼンやイソプロペニルフェノールが重合した重質化合物等が含まれる場合があるため、水を添加する前に重質カット処理や重質物の熱分解処理を行っても良い。
重質カット処理の方法としては、公知の蒸留による方法を挙げることができる。
熱分解処理の方法としては、熱交換器による加熱分解部と、熱分解生成物を回収するための気液分離部を組み合わせた方法等が挙げられる。
【0030】
第二抽出工程において、蒸留工程で得た第六区分に水を添加して得た、ジヒドロキシベンゼン水溶液B中のジヒドロキシベンゼンの濃度(C)としては、第二抽出工程におけるヒドロキシアセトフェノン除去能力に優れ、精製効率を向上させる観点から、第一抽出工程において、粗ジヒドロキシベンゼンに水を添加して得た、ジヒドロキシベンゼン水溶液A中のジヒドロキシベンゼンの濃度(C)よりも低いことが好ましい。すなわち、下記式(1)を満たすことが好ましい。

>C (1)
(式中、Cは、ジヒドロキシベンゼン水溶液A中のジヒドロキシベンゼンの濃度[重量%]を表し、Cは、ジヒドロキシベンゼン水溶液B中のジヒドロキシベンゼンの濃度[重量%]を表す。)
【0031】
ジヒドロキシベンゼン水溶液B中のジヒドロキシベンゼンの濃度(C)として、好ましくは、5〜30重量%であり、より好ましくは、5〜20重量%である。
【0032】
抽出溶剤(2)としては、公知の抽出溶剤から実施者が適切なものを用いることができる。抽出溶剤(2)としては、例えば、トルエン、キシレン、シメン、トリイソプロピルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン等が挙げられ、抽出効率、分液性の観点から、好ましくは、トルエンである。第一抽出工程で用いる抽出溶剤(1)と、第二抽出工程で用いる抽出溶剤(2)とは、同じであっても異なっていてもよい。また、抽出効率を高めるために、上記抽出溶剤(2)に特にケトン類を追加した混合抽出溶剤を用いても良い。加えるケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられるが、中でもメチルイソブチルケトンが好ましい。
また、すでに述べたとおり、第一抽出工程で分離した第二区分をそのまま抽出溶剤(2)として用いてもよい。
【0033】
抽出の具体的方法については、公知の抽出塔を用いて抽出する方法が挙げられ、例えば、抽出塔の塔頂部付近からジヒドロキシベンゼンと水とからなる溶液を供給し、塔底部付近から抽出溶剤を供給し、両者を抽出塔内で向流接触させて抽出する方法等が挙げられる。抽出塔としては、所定の抽出理論段を有していればよく、例えば、内部に多孔板を設置した多孔板抽出塔、邪魔板を設置したバッフル塔、回転円板を取り付けたRDC塔等が挙げられる。
【0034】
別の抽出する方法としては、例えば、接触混合装置(ミキサー)を用いて、粗ジヒドロキシベンゼンと水とからなる溶液と、抽出溶剤とを接触混合し、次いで油水分離するミキサーセトラー方式を用いて抽出する方法等が挙げられる。接触混合装置(ミキサー)としては、例えば、攪拌機、スタティックミキサー、ラインミキサー等の市販の一般的な混合装置が挙げられる。接触混合後の油水分離には、公知の油水分離装置(セトラー)を用いることができる。
油水分離装置(セトラー)としては、充分油水を分離させるものであればよく、例えば、一般的なドラム、コアレッサ−等が挙げられる。
【0035】
抽出により、ジヒドロキシベンゼン及び水を含む第七区分と、ヒドロキシアセトフェノン及び抽出溶剤(2)を含む第八区分とが得られる。上記の抽出塔を用いた場合、第七区分は抽出塔の塔底部付近から得られ、第八区分は抽出塔の塔頂部付近から得られる。
一方、ミキサーセトラーを用いた場合、第七区分はセトラーの水相側から得られ、第八区分は油相側から得られる。
【0036】
第七区分に含まれるジヒドロキシベンゼンの濃度として、好ましくは、5〜30重量%である(ただし、第七区分の全重量を100重量%とする。)。第八区分に含まれるヒドロキシアセトフェノンの濃度として、好ましくは、0.1〜1.0重量%である(ただし、第八区分の全重量を100重量%とする。)。
第八区分は抽出溶剤(2)を含むため、蒸留に付して抽出溶剤(2)を回収し、第一及び/または第二抽出工程の抽出溶剤(1)および/または抽出溶剤(2)としてリサイクル使用してもよい。
【0037】
本発明における回収工程は、第二抽出工程で得た第七区分からジヒドロキシベンゼンを回収する工程または第二抽出工程で得た第七区分を第一抽出工程の入口に供給する工程である。ジヒドロキシベンゼンを回収するとは、ジヒドロキシベンゼンを精製して、回収することを意味している。
【0038】
ジヒドロキシベンゼンを回収する方法としては、例えば、第七区分を蒸留に付して、水を含む区分と、ジヒドロキシベンゼンとに分離して、それぞれ回収する方法等が挙げられ、好ましくは、第二抽出工程で得た第七区分を蒸留に付し、水を含む第九区分と、ジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第十区分とに分離し、次いで、第十区分を蒸留に付し、ジヒドロキシベンゼンを回収する工程である。
蒸留を用いて回収を行う場合、蒸留操作は、棚段塔、不規則充填塔、規則充填塔といった公知の蒸留塔が使用される。蒸留塔の主要な構成としては、棚段(シーブトレー、リップルトレー、バブルキャップトレー等)、不規則充填物(ラヒシリング、レッシリング、ポールリング等)、規則充填物(メラパック等)のような内部構造物を1種または2種以上組み合わせて設置した蒸留塔本体、塔底付近の液の一部を気化させるためのリボイラー、塔頂付近の留出蒸気を凝縮させるためのコンデンサーからなるものを例示することができる。
ジヒドロキシベンゼンの組成が、ジヒドロキシベンゼンに要求される純度を満たしていない場合は、さらに追加の蒸留塔を設置して精留に付せばよい。こうすることにより、第七区分に含まれるジヒドロキシベンゼンを有効に回収できる。
【0039】
回収工程で得られた第九区分は工程外へ排水してもよいが、そのまま、または不要成分を除去した後、第一抽出工程および/または第二抽出工程で用いられる水の少なくとも一部としてリサイクルしてもよい。第九区分をリサイクルする場合、粗ジヒドロキシベンゼンの精製プロセス全体としての排水量が削減されるため好ましい。
【0040】
第二抽出工程で得た第七区分を第一抽出工程の入口に供給するとは、第二抽出工程で得た第七区分を第一抽出工程に添加する水の供給源の少なくとも一部として添加することを意味しており、同時に第七区分に含まれるジヒドロキシベンゼンを第一抽出工程に戻すことになる。
【0041】
回収のための独立した蒸留塔を必要としないため、設備費の抑制の観点から、回収工程として、好ましくは、第二抽出工程で得た第七区分を第一抽出工程の入口に供給する工程である。
【0042】
本発明の最大の特徴は、第一抽出工程及び第二抽出工程を組み合わせて用いる点にある。このように、第一抽出工程及び第二抽出工程を組み合わせて用いることにより、イソプロペニルフェノール及びヒドロキシアセトフェノンを粗ジヒドロキシベンゼンから高度に除去することができる。また、発明者らは、ヒドロキシアセトフェノンとジヒドロキシベンゼンとを含む水溶液を、抽出溶剤に接触させて抽出に付すことによって、ヒドロキシアセトフェノンの抽出溶剤への除去率が、該水溶液中に含まれるジヒドロキシベンゼンの濃度に影響されることを見出した。すなわち、該水溶液中に含まれるジヒドロキシベンゼンの濃度が低い方が、ヒドロキシアセトフェノンの抽出溶剤への除去率が高いことを見出した。
本発明に拠らず、粗ジヒドロキシベンゼンに水を添加した一種の溶液に対してのみ抽出を実施した場合、高度に純度を高めたジヒドロキシベンゼンを効率的に得ることが出来ず、本願発明と同等の高度に純度を高めたジヒドロキシベンゼンを得るためには、蒸留工程で除去すべき水の量が著しく増加し、蒸留塔が大規模なものとなり、かつ脱水のために用いられる加熱エネルギー量が増加するため、非効率となる。
【0043】
本発明において、好ましくは、第一抽出工程におけるジヒドロキシベンゼン水溶液A中のジヒドロキシベンゼンの濃度(C)を高く設定する。このように設定することで、イソプロペニルフェノールの大部分は抽出溶剤(1)側に分離除去されるが、ヒドロキシアセトフェノンは充分除去されないジヒドロキシベンゼン水溶液(第一区分)が得られる。該区分を蒸留工程内の前段の蒸留に付すにあたり、ジヒドロキシベンゼン濃度が高いため、前段の蒸留で留出除去される水(第三区分)の量は少なくて済み、加熱エネルギー量を節減でき、また同工程において比較的小規模の蒸留塔を用いることができる。
【0044】
次に、第二抽出工程を設置したことで、後段の蒸留では、塔底部付近から得られるヒドロキシアセトフェノンの濃縮されたジヒドロキシアセトフェノン(第六区分)の重質物の過剰な濃縮を抑制し、ジヒドロキシベンゼンが多く含まれるように運転することができる。本発明では、該区分のヒドロキシアセトフェノンの濃度は通常5〜12重量%であり、ジヒドロキシベンゼンが通常70〜95重量%含まれる。該区分を第二抽出工程に付さない場合、ジヒドロキシベンゼンの損失となり不経済である。第二抽出工程では、ジヒドロキシベンゼン水溶液中のジヒドロキシベンゼン濃度を第一抽出工程よりも低く設定することが好ましい。
ここで、第六区分のようにヒドロキシアセトフェノンの濃縮されたジヒドロキシベンゼンに水を添加してジヒドロキシベンゼン濃度の低い水溶液とし、次いで抽出溶剤を加えて抽出操作を行った場合、驚くべきことに従来よりもはるかに効率よくヒドロキシアセトフェノンを除去することが出来る。得られる水相(第七区分)は必要に応じて蒸留に付し、ジヒドロキシベンゼンを精製して、製品として回収できる。
【0045】
本発明において、より好ましくは、ジヒドロキシベンゼン水溶液A中のジヒドロキシベンゼンの濃度(C)が40〜70重量であり、ジヒドロキシベンゼン水溶液B中のジヒドロキシベンゼンの濃度(C)が5〜30重量%である。
【0046】
本発明は、ジヒドロキシベンゼンがレゾルシンである場合、産業上の利用の観点から好ましい。レゾルシンは主に接着剤の主要原料として使用される。
本発明は、ジヒドロキシベンゼンがハイドロキノンである場合、産業上の利用の観点から好ましい。ハイドロキノンは主に還元剤や重合防止剤、ゴムの酸化防止剤、薬剤原料等として使用される。
【0047】
本発明は、粗ジヒドロキシベンゼン中のイソプロペニルフェノール濃度が0.1〜20重量%であり、ヒドロキシアセトフェノン濃度が0.1〜10重量%である場合、特に効果的である。このような粗ジヒドロキシベンゼンの精製において、本発明の方法を用いない場合、すでに説明したとおりの問題が生じる。
本発明は、第一抽出工程及び第二抽出工程の抽出溶剤がトルエンである場合、抽出効率や分液性のみならず、抽出溶剤の入手しやすさやの点でも特に好ましい。
【0048】
また、本発明は、下記の工程を含むジヒドロキシベンゼンの製造方法であって、下記の精製工程が上記のジヒドロキシベンゼンの精製方法を用いる、ジヒドロキシベンゼンの製造方法である。
酸化工程:ジイソプロピルベンゼンを酸化して、ジイソプロピルベンゼンジヒドロペルオキシドを含む酸化油を得る工程
分解工程:酸化工程で得た酸化油を酸性触媒の存在下に分解し、ジヒドロキシベンゼンを含む分解反応液を得る工程
精製工程:分解工程で得た分解反応液を精製して、精製されたジヒドロキシベンゼンを得る工程
また、上記の分解工程と精製工程を繋ぐ何れかの場所で、分解反応液に含まれる軽沸成分(例えばアセトン等)および重質成分(ジヒドロキシベンゼン、イソプロペニルフェノール等が重合した化合物)をそれぞれ蒸留等の分離操作によりあらかじめ分離しておくことが、効率的な精製の観点から好ましい。
【実施例】
【0049】
本発明を実施例により具体的に説明する。
【0050】
[実施例1](図1参照)
本願発明を採用した粗ジヒドロキシベンゼンの精製フローおよび概要である。
(I)反応工程
ベンゼンとプロピレンとを反応させてm−ジイソプロピルベンゼンとし、次いで、m−ジイソプロピルベンゼンを酸化してm−ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドとし、m−ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドを酸性触媒の存在下に、酸分解してレゾルシンとアセトンとを含む反応液とし、次いで蒸留に付し、アセトン等の軽沸化合物を除去して、m−イソプロペニルフェノール及びm−ヒドロキシアセトフェノンを含むレゾルシン(m−ジヒドロキシベンゼン)(以下、「粗レゾルシン」と記載する。)を得る。
【0051】
(II)精製工程
第一抽出工程では、(I)反応工程で得られた粗レゾルシン(1)に水(2)を添加して約53重量%のレゾルシン水溶液A(3)とし、抽出塔(101)の塔頂付近に供給し、抽出溶剤(1)であるトルエン(4)を水溶液Aの重量の約0.5〜0.8倍の量で抽出塔(101)の塔底部付近に供給して接触させて抽出に付し、レゾルシン、m−ヒドロキシアセトフェノン及び水を含む第一区分(5)とm−イソプロペニルフェノール及びトルエンを含む第二区分(6)とに分離する。このとき、第一区分(5)は抽出塔の塔底部付近から、第二区分(6)は抽出塔の塔頂部付近から得る。
【0052】
蒸留工程では、まず、第一抽出工程で得た第一区分(5)を前段蒸留に付し、水を含む第三区分(7)とレゾルシン及びm−ヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分(8)とに分離する。
前段蒸留には、充填物形式の蒸留塔(102)を用いる。蒸留塔(102)の塔頂部付近から第三区分(7)を、塔底部付近から第四区分(8)を得る。
次いで、第四区分(8)を後段蒸留に付し、精製されたレゾルシンである第五区分(9)とm−ヒドロキシアセトフェノンを含むレゾルシンの第六区分(10)とに分離する。
後段蒸留には、充填物形式の蒸留塔(103)を用いる。蒸留塔(103)の塔頂部付近から第五区分(9)を、塔底部付近から第六区分(10)を得る。第五区分(9)の重量は、第四区分(8)の重量の0.7〜0.95倍の範囲で取り出す。
【0053】
第二抽出工程では、第六区分(10)に水(11)を添加して約15重量%のレゾルシン水溶液B(12)とし、抽出塔(104)の塔頂付近に供給し、抽出溶剤(2)であるトルエン(13)を水溶液Bの重量の約0.9〜1.2倍の量で抽出塔(104)の塔底部付近に供給して接触させて抽出に付し、レゾルシン及び水を含む第七区分(14)とm−ヒドロキシアセトフェノン及びトルエンを含む第八区分(15)とに分離する。このとき、第七区分(14)は抽出塔の塔底部付近から、第八区分(15)は抽出塔の塔頂部付近から得る。
【0054】
回収工程では、まず、第二抽出工程で得た第七区分(14)を前段蒸留に付し、水を含む第九区分(16)と、ジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第十区分(17)とに分離する。
前段蒸留には、充填物形式の蒸留塔(105)を用いる。蒸留塔(105)の塔頂部付近から第九区分(16)を、塔底部付近から第十区分(17)を得る。次いで、第十区分(17)を後段蒸留に付し、ジヒドロキシベンゼン(18)を精製して回収する。後段蒸留には、充填物形式の蒸留塔(106)を用いる。蒸留塔(106)の塔頂部付近から回収されるジヒドロキシベンゼン(18)を得る。
【0055】
[実施例2](図2参照)
回収工程として、独立した蒸留塔を設置せず、水、抽出溶剤の工程内リサイクルを実施したこと以外、実施例1と同じ粗ジヒドロキシベンゼンの精製フローおよび概要である。
【0056】
第一抽出工程では、実施例1の(I)反応工程で得られた粗レゾルシン(1)に第二抽出工程で得る第七区分(14)、および必要に応じて追加の水(2)を添加して約53重量%のレゾルシン水溶液A(3)とし、抽出塔(101)の塔頂付近に供給し、抽出溶剤(1)であるトルエン(4)を水溶液Aの重量の約0.5〜0.8倍の量で抽出塔(101)の塔底部付近に供給して接触させて抽出に付し、レゾルシン、m−ヒドロキシアセトフェノン及び水を含む第一区分(5)とm−イソプロペニルフェノール及びトルエンを含む第二区分(6)とに分離する。このとき、第一区分(5)は抽出塔の塔底部付近から、第二区分(6)は抽出塔の塔頂部付近から得る。
【0057】
蒸留工程では、まず、第一抽出工程で得た第一区分(5)を前段蒸留に付し、水を含む第三区分(7)とレゾルシン及びm−ヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分(8)とに分離する。
前段蒸留には、充填物形式の蒸留塔(102)を用いる。蒸留塔(102)の塔頂部付近から第三区分(7)を、塔底部付近から第四区分(8)を得る。
次いで、第四区分(8)を後段蒸留に付し、精製されたレゾルシンである第五区分(9)とm−ヒドロキシアセトフェノンを含むレゾルシンの第六区分(10)とに分離する。
後段蒸留には、充填物形式の蒸留塔(103)を用いる。蒸留塔(103)の塔頂部付近から第五区分(9)を、塔底部付近から第六区分(10)を得る。第五区分(9)の重量は、第四区分(8)の重量の0.7〜0.95倍の範囲で取り出す。
【0058】
第二抽出工程では、第六区分(10)に水(11)を添加して約15.0重量%のレゾルシン水溶液B(12)とし、抽出塔(104)の塔頂付近に供給し、抽出溶剤(2)として、第一抽出工程で得る第二区分(6)を抽出塔(104)の塔底部付近に供給にて接触させて抽出に付し、レゾルシン及び水を含む第七区分(14)とm−ヒドロキシアセトフェノン及びトルエンを含む第八区分(15)とに分離する。このとき、第七区分(14)は抽出塔の塔底部付近から、第八区分(15)は抽出塔の塔頂部付近から得る。
【0059】
回収工程では、第二抽出工程で得る第七区分(14)を第一抽出工程で用いる水として利用し、同時に該区分に含まれるジヒドロキシベンゼンを第一抽出工程に回収する。
【0060】
こうすることで、回収のための独立した蒸留塔を必要としないため、設備費が抑制できる。また、水、抽出溶剤の効率的なリサイクルも可能となる。
【0061】
[比較例1](図3参照)
従来の代表的な粗ジヒドロキシベンゼンの精製フローおよび概要である。
本発明に拠らず、第二抽出工程および回収工程を有しない。
【0062】
第一抽出工程では、実施例1の(I)反応工程で得られた粗レゾルシン(1)に水(2)を添加して約53重量%のレゾルシン水溶液A(3)とし、抽出塔(101)の塔頂付近に供給し、抽出溶剤であるトルエン(4)を水溶液Aの重量の約0.5〜0.8倍の量で抽出塔(101)の塔底部付近に供給して接触させて抽出に付し、レゾルシン及び水を含む第一区分(5)とm−イソプロペニルフェノール、m−ヒドロキシアセトフェノン及びトルエンを含む第二区分(6)とに分離する。このとき、第一区分(5)は抽出塔の塔底部付近から、第二区分(6)は抽出塔の塔頂部付近から得る。
【0063】
蒸留工程では、まず、第一抽出工程で得た第一区分(5)を前段蒸留に付し、水を含む第三区分(7)とレゾルシン及びm−ヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分(8)とに分離する。
前段蒸留には、充填物形式の蒸留塔(102)を用いる。蒸留塔(102)の塔頂部付近から第三区分(7)を、塔底部付近から第四区分(8)を得る。
次いで、第四区分(8)を後段蒸留に付し、精製されたレゾルシンである第五区分(9)とm−ヒドロキシアセトフェノンを含むレゾルシンの第六区分(10)とに分離する
後段蒸留には、充填物形式の蒸留塔(103)を用いる。蒸留塔(103)の塔頂部付近から第五区分(9)を、塔底部付近から第六区分(10)を得る。第五区分(9)の重量は、第四区分(8)の重量の0.7〜0.95倍の範囲で取り出す。
【0064】
この方法によれば、m−ヒドロキシアセトフェノンとともに、第六区分(10)に含まれるレゾルシンは損失され、許容できない。
【0065】
[比較例2](図4参照)
第六区分(10)を第二抽出工程に付すことなく、第一抽出工程へリサイクルこと以外、比較例1と同じ従来の粗ジヒドロキシベンゼンの精製方法の概要である。
【0066】
この方法によれば、m−ヒドロキシアセトフェノンを効率的に工程外へ抜き出す手段がなく、第五区分(9)の精製されたレゾルシン中のm−ヒドロキシアセトフェノン濃度が上昇する。
【0067】
[比較例3](図3参照)
第一抽出工程のレゾルシン水溶液濃度Aを約15重量%とする以外は比較例1と同じ、従来の粗ジヒドロキシベンゼンの精製方法の概要である。
【0068】
第一抽出工程では、実施例1の(I)反応工程で得られた粗レゾルシン(1)に水(2)を添加して約15重量%のレゾルシン水溶液A(3)とし、抽出塔(101)の塔頂付近に供給し、抽出溶剤であるトルエン(4)を水溶液Aの重量の約0.5〜0.8倍の量で抽出塔(101)の塔底部付近に供給して接触させて抽出に付し、レゾルシン、水、及びトルエンに抽出されなかったm−ヒドロキシアセトフェノンを含む第一区分(5)とm−イソプロペニルフェノール、m−ヒドロキシアセトフェノン及びトルエンを含む第二区分(6)とに分離する。このとき、第一区分(5)は抽出塔の塔底部付近から、第二区分(6)は抽出塔の塔頂部付近から得る。
【0069】
蒸留工程では、まず、第一抽出工程で得た第一区分(5)を前段蒸留に付し、水を含む第三区分(7)とレゾルシン及びm−ヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分(8)とに分離する。
前段蒸留には、充填物形式の蒸留塔(102)を用いる。蒸留塔(102)の塔頂部付近から第三区分(7)を、塔底部付近から第四区分(8)を得る。
次いで、第四区分(8)を後段蒸留に付し、精製されたレゾルシンである第五区分(9)とm−ヒドロキシアセトフェノンを含むレゾルシンの第六区分(10)とに分離する。
後段蒸留には、充填物形式の蒸留塔(103)を用いる。蒸留塔(103)の塔頂部付近から第五区分(9)を、塔底部付近から第六区分(10)を得る。
【0070】
この方法によれば、粗レゾルシン(1)中に含まれるm−ヒドロキシアセトフェノンのうち、比較例1よりも多くのm−ヒドロキシアセトフェノンを第一抽出工程で除去することができるため、第六区分(10)から系外へ排出する量は少なくて済み、製品となる精製されたレゾルシンのロスを抑制することができるが、第一抽出工程で使用する水が実施例1、2と比較して大幅に増加するため、蒸留工程で水を除去するための加熱エネルギー量が増加し、また同工程の蒸留塔が大規模なものとなる。
【0071】
[実施例3]
(I)反応工程
原料として、ベンゼンとプロピレンを反応させてm−ジイソプロピルベンゼンとし、該m−ジイソプロピルベンゼンを酸化してm−ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドとし、該m−ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドを酸性触媒の存在下に、酸分解してレゾルシンとアセトンとする方法により得られた反応液を前蒸留に付し、アセトン等の軽沸化合物を除去して、粗レゾルシン(m−イソプロペニルフェノール濃度1.7重量%、m−ヒドロキシアセトフェノン濃度0.2重量%)を得た。
【0072】
(II)精製工程
第一抽出工程として、粗レゾルシンに水を添加することによりレゾルシン濃度が53重量%の水溶液Aを得た後、抽出溶剤(1)であるトルエンに接触させて抽出に付し、レゾルシン、m−ヒドロキシアセトフェノン及び水を含む第一区分とm−イソプロペニルフェノール及びトルエンを含む第二区分に分離した。
抽出塔の塔頂部付近から粗レゾルシンと水からなる溶液(時間当たり約100重量部)を供給し、塔底部付近から抽出溶剤であるトルエン(時間あたり約63.6重量部)を供給し、両者を抽出塔内で接触させて抽出を行った。
抽出により、レゾルシン、m−ヒドロキシアセトフェノン及び水を含む第一区分(時間あたり約101.8重量部)とm−イソプロペニルフェノール及びトルエンを含む第二区分(時間あたり約61.8重量部)を得た。第一区分は抽出塔の塔底部付近から得られ、第二区分は抽出塔の塔頂部付近から得られた。
第一区分の組成は、レゾルシン50重量%、m−ヒドロキシアセトフェノン0.2重量%であり、第二区分の組成は、m−イソプロペニルフェノール2.6重量%であった。
【0073】
蒸留工程として、まず、第一抽出工程で得た第一区分を前段蒸留に付し、水を含む第三区分とレゾルシン及びm−ヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分に分離した。
前段蒸留には、充填物形式の蒸留塔を用いた。蒸留塔の塔頂部付近から水を含む第三区分(時間あたり約50.9重量部)が得られ、塔底部付近からレゾルシン及びm−ヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分(時間あたり約50.9重量部)が得られた。
【0074】
次いで、第四区分を後段蒸留に付し、精製されたレゾルシンを含む第五区分とm−ヒドロキシアセトフェノンを含むレゾルシンの第六区分に分離した。
後段蒸留には、充填物形式の蒸留塔を用いた。蒸留塔の塔頂部付近から精製されたレゾルシンを含む第五区分(時間あたり約47.3重量部)が得られ、塔底部付近からm−ヒドロキシアセトフェノンを含むレゾルシンの第六区分(時間あたり約3.6重量部)が得られた。第五区分中のm−ヒドロキシアセトフェノン濃度は49重量ppmであった。また、第六区分中のm−ヒドロキシアセトフェノンの濃度は7.5重量%であった。
【0075】
第二抽出工程として、精留工程で得た第六区分に水を添加することによりレゾルシン濃度が15重量%の溶液を得た後、抽出溶剤(2)であるトルエンに接触させて抽出に付し、レゾルシン及び水を含む第七区分とm−ヒドロキシアセトフェノン及びトルエンを含む第八区分に分離し、該第七区分を第一抽出工程の入口に供給する工程を実施した。
抽出塔の塔頂部付近から第六区分に水を添加して得られた溶液(時間あたり約54.5重量部)を供給し、塔底部付近から抽出溶剤であるトルエン(時間あたり約61.8重量部)を供給し、両者を抽出塔内で接触させて抽出を行った。
抽出により、抽出塔の塔底部付近からレゾルシン及び水を含む第七区分(時間あたり約54.5重量部)が得られ、塔頂部付近からm−ヒドロキシアセトフェノン及びトルエンを含む第八区分(時間あたり約61.8重量部)が得られた。第七区分中のレゾルシン濃度は15重量%であり、第八区分中のm−ヒドロキシアセトフェノン濃度は0.2重量%であった。
【0076】
[比較例4](図3参照)
本発明に拠らず、粗レゾルシンに水を添加した一種の水溶液Aに対してのみ抽出を実施した。すなわち、本発明の第一抽出工程(ただし、粗レゾルシンに水を添加することにより得られたレゾルシン濃度53重量%の溶液を用いた。)、脱水工程及び精留工程を用いた。
【0077】
実施例3、比較例4の結果より、本願発明の特徴である、第一抽出工程及び第二抽出工程を組み合わせて用いる2段抽出の有無の効果の比較行った結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
実施例4
図5に、m−ヒドロキシアセトフェノンとレゾルシンとを含む水溶液(以下、「レゾルシン水溶液」と記載することがある。)を、トルエンに接触させて抽出に付すことによって、水相中のm−ヒドロキシアセトフェノンの濃度(重量%)(x)とトルエン相中のm−ヒドロキシアセトフェノンの濃度(重量%)(y)との比を取り、分配比(y/x)を示した。分配比(y/x)が大きいほど、m−ヒドロキシアセトフェノンは水相からトルエン相へ移動しやすいことを示している。
【0080】
図5より、レゾルシン水溶液中のレゾルシン濃度が30重量%以下のレゾルシン水溶液では、レゾルシン水溶液中のレゾルシン濃度が低いほど、直線的に分配比(y/x)が大きくなり、トルエン相にm−ヒドロキシアセトフェノンがより多く含まれることがわかる。これにより、本発明において、第一抽出工程で、レゾルシン水溶液濃度の高い領域を採用し、第二抽出工程で、レゾルシン水溶液濃度の低い領域を採用すれば、第二抽出工程の方が、よりm−ヒドロキシアセトフェノンをトルエン相へ除去できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、高度に精製されたジヒドロキシベンゼンを効率的に得ることができるという、極めて優れたジヒドロキシベンゼンの精製方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
(1)粗ジヒドロキシベンゼン(粗レゾルシン)
(2)水
(3)レゾルシン水溶液A
(4)抽出溶剤(1)
(5)第一区分
(6)第二区分
(7)第三区分
(8)第四区分
(9)第五区分
(10)第六区分
(11)水
(12)レゾルシン水溶液B
(13)抽出溶剤(2)
(14)第七区分
(15)第八区分
(16)第九区分
(17)第十区分
(18)回収されるジヒドロキシベンゼン
(101)第一抽出工程の抽出塔
(102)蒸留工程の前段蒸留の蒸留塔
(103)蒸留工程の後段蒸留の蒸留塔
(104)第二抽出工程の抽出塔
(105)回収工程の前段蒸留の蒸留塔
(106)回収工程の後段蒸留の蒸留塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物として少なくともイソプロペニルフェノール及びヒドロキシアセトフェノンを含有する粗ジヒドロキシベンゼンから精製されたジヒドロキシベンゼンを得る、下記の工程を含むジヒドロキシベンゼンの精製方法。
第一抽出工程:粗ジヒドロキシベンゼンに水を添加して、ジヒドロキシベンゼン水溶液Aとした後、抽出溶剤(1)に接触させて抽出に付し、ジヒドロキシベンゼン、ヒドロキシアセトフェノン及び水を含む第一区分と、イソプロペニルフェノール及び抽出溶剤(1)を含む第二区分とに分離する工程
蒸留工程:第一抽出工程で得た第一区分を蒸留に付し、水を含む第三区分と、ジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分とに分離し、次いで、第四区分を蒸留に付し、精製されたジヒドロキシベンゼンである第五区分と、ヒドロキシアセトフェノンが濃縮されたジヒドロキシベンゼンである第六区分とに分離する工程
第二抽出工程:蒸留工程で得た第六区分に水を添加して、ジヒドロキシベンゼン水溶液Bとした後、抽出溶剤(2)に接触させて抽出に付し、ジヒドロキシベンゼン及び水を含む第七区分と、ヒドロキシアセトフェノン及び抽出溶剤(2)を含む第八区分とに分離する工程
回収工程:第二抽出工程で得た第七区分からジヒドロキシベンゼンを回収する工程または第二抽出工程で得た第七区分を第一抽出工程の入口に供給する工程
【請求項2】
第一抽出工程および第二抽出工程におけるジヒドロキシベンゼン水溶液中のジヒドロキシベンゼン濃度が、下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の精製方法。
>C (1)
(式中、Cは、ジヒドロキシベンゼン水溶液A中のジヒドロキシベンゼンの濃度[重量%]を表し、Cは、ジヒドロキシベンゼン水溶液B中のジヒドロキシベンゼンの濃度[重量%]を表す。)
【請求項3】
回収工程が下記に記載の工程である請求項1または2に記載の精製方法。
回収工程:第二抽出工程で得た第七区分を蒸留に付し、水を含む第九区分と、ジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第十区分とに分離し、次いで、第十区分を蒸留に付し、ジヒドロキシベンゼンを回収する工程
【請求項4】
ジヒドロキシベンゼンがレゾルシンである請求項1〜3のいずれかに記載の精製方法。
【請求項5】
ジヒドロキシベンゼンがハイドロキノンである請求項1〜3のいずれかに記載の精製方法。
【請求項6】
粗ジヒドロキシベンゼン中のイソプロペニルフェノール濃度が0.1〜20重量%であり、ヒドロキシアセトフェノン濃度が0.1〜10重量%である請求項1〜5のいずれかに記載の精製方法。
【請求項7】
抽出溶剤(1)および抽出溶剤(2)がトルエンである請求項1〜6のいずれかに記載の精製方法。
【請求項8】
下記の工程を含むジヒドロキシベンゼンの製造方法であって、下記の精製工程が請求項1〜7のいずれかに記載のジヒドロキシベンゼンの精製方法を用いる、ジヒドロキシベンゼンの製造方法。
酸化工程:ジイソプロピルベンゼンを酸化して、ジイソプロピルベンゼンジヒドロペルオキシドを含む酸化油を得る工程
分解工程:酸化工程で得た酸化油を酸性触媒の存在下に分解し、ジヒドロキシベンゼンを含む分解反応液を得る工程
精製工程:分解工程で得た分解反応液を精製して、精製されたジヒドロキシベンゼンを得る工程

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−248180(P2010−248180A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67433(P2010−67433)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】