説明

ジフェニルアミンの製造方法

【課題】実質的に着色が殆どない高品質なDPAを製造できる方法を提供する。
【解決手段】アニリンの二量化によりジフェニルアミンを合成する工程と、未反応のアニリンおよびジフェニルアミンから低沸点の不純物を除去する工程と、精留によりジフェニルアミンから高沸点の不純物であるアクリジンを150ppm以下となるように除去する工程とを含む、ジフェニルアミンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミンの二量化によりジフェニルアミンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジフェニルアミン(以下、DPAという)は、染料の原料、検出試薬などに使用されており、特にゴム製品の酸化防止剤、抗オゾン剤の製造、染料の中間体などとして使用される4−アミノジフェニルアミンの製造原料として有用な化合物である。
【0003】
DPAの合成方法としては、触媒の存在下、以下のようにアニリンを二量化する方法が広く採用されている。
【0004】
【化1】

【0005】
アニリンの二量化に用いる触媒としては、生成する不純物が少ないことから、βゼオライト触媒が一般的に用いられている。しかしながら、βゼオライト触媒の存在下で、アニリンの二量化によって合成されたDPAは淡黄色に着色しているため、実質的に着色が殆どない高品質なDPAの製造方法の開発が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、実質的に着色が殆どない高品質なDPAを製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のDPAの製造方法は、アニリンの二量化によりジフェニルアミンを合成する工程と、未反応のアニリンおよび低沸点の不純物を除去する工程と、精留によりジフェニルアミンから高沸点の不純物であるアクリジンを150ppm以下となるように除去する工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明のDPAの製造方法においては、アニリンの二量化をβゼオライト触媒の存在下で行なうことが、好ましい。
【0009】
また本発明のDPAの製造方法において、アニリンの二量化の反応温度が300〜360℃であり、アニリンの転化率が10〜30%であることが好ましい。
【0010】
本発明のDPAの製造方法において、高沸点の不純物の除去が、以下の(1)または(2)の精留条件で行なわれることが好ましい。
【0011】
(1)理論段数12段以上、かつ、還流比0.3以上、
(2)理論段数8段以上、かつ、還流比0.6以上。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、実質的に着色が殆どない高品質なDPAを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明のDPAの製造方法の好ましい一例を示すフローチャートである。本発明のDPAの製造方法は、アニリンの二量化によりジフェニルアミンを合成する工程(合成工程)と、未反応のアニリンおよび低沸点の不純物を除去する工程(低沸工程)と、精留によりジフェニルアミンから高沸点の不純物であるアクリジンを150ppm以下となるように除去する工程(高沸工程)とを基本的に含む。以下、図1を参照して、本発明のDPAの製造方法について説明する。
【0014】
〔1〕合成工程
合成工程では、まず、触媒の存在下、以下のようにしてアニリンを二量化することによって、DPAを合成する。
【0015】
【化2】

【0016】
合成工程においては、アニリンの二量化によるDPAの合成に従来から広く用いられている触媒を特に制限されることなく用いることができる。このような触媒としては、たとえばβゼオライト触媒を含む各種ゼオライト触媒、シリカアルミナなどの固体酸触媒が挙げられるが、中でも、生成される不純物が少なく、連続して使用する場合の触媒活性の持続性の面から、βゼオライト触媒が好ましい。
【0017】
アニリンの二量化の際の反応温度は、特に制限されるものではないが、300〜360℃の範囲内であることが好ましく、310〜340℃の範囲内であることが好ましい。反応温度が300℃未満である場合には、ジフェニルアミンはほとんど生成することがなく、また反応温度が360℃を超える場合には、不純物の生成量が増加する傾向にあるためである。
【0018】
またアニリンの二量化は、上述した300〜360℃の範囲内の反応温度で行なわれ、かつ、アニリンの転化率が10〜30%の範囲内であることが好ましい。アニリンの転化率が10%未満である場合には、未反応のアニリンの回収量が多く、回収のために必要なエネルギーが多くなる傾向にあるためであり、またアニリンの転化率が30%を超える場合には、不純物の生成量が増加するとともに、触媒活性の低下速度が大きくなる傾向にあるためである。
【0019】
また、アニリンの二量化を行なう際の反応圧力についても特に制限されるものではないが、2.0〜6.0MPaの範囲内であることが好ましく、3.0〜5.0MPaの範囲内であることがより好ましい。
【0020】
アニリンの二量化は、予め触媒を充填した固定床反応器を用い、これにアニリンを連続供給することで、連続的に反応させてもよく、また高圧反応装置に触媒およびアニリンを仕込み、回分反応させてもよい。
【0021】
〔2〕アンモニア除去工程
上述したように、アニリンの二量化によるDPAの合成に際しては、副生物としてアンモニア(NH3)が発生する。このため、本発明のDPAの製造方法では、図1に示す例のように、上述した合成工程と後述する低沸工程との間に、このアンモニアを除去する工程(アンモニア除去工程)を含むことが好ましい。
【0022】
当該工程においてアンモニアを除去する方法としては特に制限されるものではないが、設備を簡素にできるため、上記合成工程で得られた反応液を脱圧することで反応液からアンモニアを除去するようにすることが好ましい。なお、この場合の圧力は、0.05〜0.5MPaの範囲内とすることが好ましい。
【0023】
〔3〕低沸工程
次に、反応液に含まれる未反応のアニリンおよび低沸点の不純物を除去する。ここで、「低沸点」とは、100〜290℃の範囲内の温度を指す。反応液に含まれるこのような低沸点の不純物としては、たとえばo−トルイジン、o−エチルアニリン、キノリン、インドール、2−メチルインドールなどが挙げられる。低沸工程は、当分野において通常用いられる精留塔に反応液を供給して精留することで行なわれる。なお、図1に示すフローチャートでは、上述のようにアンモニアを除去した後、まず未反応のアニリンを回収し、その後に低沸点の不純物を除去(低沸除去)する手順が示されているが、通常、これらは同一の工程内で行なわれることになる。また、これらの手順は同一の精留塔内で行なってもよく、別々の精留塔内で行なってもよい。
【0024】
低沸工程に用いる精留塔の理論段数は、特に制限されるものではないが、4〜30段の範囲内であることが好ましく、6〜16段の範囲内であることが好ましい。理論段数が4段未満の精留塔を用いて低沸工程を行なった場合には、不純物の除去が十分ではなくなる傾向にあるためであり、また、理論段数が30段を超える精留塔を用いて低沸工程を行なった場合には、必要以上の過剰な設備となる傾向にあるためである。
【0025】
また低沸工程における精留の際の還流比についても特に制限されるものではないが、0.1〜100の範囲内であることが好ましい。
【0026】
また、低沸工程における精留の際の操作圧力についても特に制限されるものではないが、10〜300mmHgの範囲内であることが好ましく、30〜100mmHgの範囲内であることがより好ましい。10mmHg未満の操作圧力で低沸工程を行なった場合には、精留塔内のガス速度が大きくなり、塔径を大きくする必要がある傾向にあるためであり、また、300mmHgを超える操作圧力で低沸工程を行なった場合には、リボイラーでの沸騰温度が250℃以上となる高価な熱源が必要となる傾向にあるためである。
【0027】
〔4〕高沸工程
次に、上述した未反応のアニリンおよび低沸点の不純物が除去された後の反応液から、高沸点の不純物を除去する。ここで、「高沸点」とは、305℃以上の温度を指す。反応液に含まれるこのような高沸点の不純物としては、たとえばアクリジン、カルバゾールなどが挙げられる。本発明のDPAの製造方法においては、この高沸点の不純物の中でも、アクリジンを150ppm以下(好適には100ppm以下)にまで除去することを特徴とする。アクリジンは、下記構造式
【0028】
【化3】

【0029】
で表わされる化合物であり、このアクリジンが、アニリンの二量化により製造されたDPAが着色する原因となっているものと考えられる。なお、高沸工程後の反応液中のアクリジンの濃度は、たとえばガスクロマトグラフィまたは液体クロマトグラフィにより測定することができる。
【0030】
高沸工程も、上述した低沸工程と同様、当分野において通常用いられる精留塔に反応液を供給して精留することで行なわれる。本発明における高沸工程における精留塔の理論段数および還流比は、特に制限されるものではないが、実質的に着色がほとんどないDPAを確実に製造することができる観点から、(1)理論段数12段以上、かつ、還流比0.3以上、または、(2)理論段数8段以上、かつ、還流比0.6以上であることが、好ましい。
【0031】
なお、本発明における高沸工程における操作圧力については特に制限されるものではないが、上述した(1)、(2)の条件のいずれの場合でも、5〜100mmHgの範囲内であることが好ましく、20〜100mmHgの範囲内であることがより好ましい。5mmHg未満の操作圧力で高沸工程を行なった場合には、精留塔内のガス速度が大きくなり、塔径を大きくする必要がある傾向にあるためであり、また、100mmHgを超える操作圧力で高沸工程を行なった場合には、リボイラーでの液温度が250℃以上となり、高価な熱源を必要とする傾向にあるためである。
【0032】
本発明のDPAの製造方法では、上述した一連の工程を経て、精製されたDPAが得られる。このようにして得られたDPAは、実質的に着色がほとんどない(好ましくは無色透明)の高品質なDPAである。なお、得られたDPAの着色の有無は、たとえばJIS K 0071−2に準拠して、ガードナースケールを評価することにより確認することができる。実験例にて後述するように、本発明のDPAの製造方法によって、ガードナースケールが1または2(特に好適にはガードナースケールが1)の高品質のDPAを得ることができる。
【0033】
以下、実験例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
<実験例1>
βゼオライトを120g充填した固定床反応器にアニリンを100g/hで連続供給し、圧力4.0MPa、温度340℃で連続的に反応させ、アニリンの二量化によりDPAを合成した(合成工程)。ガスクロマトグラフィ(GC−9A、島津製作所製:FID検出)を用いて得られた反応液のDPA濃度を測定したところ13%であった。次に、反応液を圧力0.1MPaに脱圧して、反応液中のアンモニア(NH3)を除去した(アンモニア除去工程)後、理論段数10段相当の精留塔を用いて還流比0.2で精留し、反応液中の未反応のアニリンおよび低沸点の不純物を除去した(低沸工程)。このようにして、未反応のアニリンおよび低沸点の不純物が0.1重量%にまで除去された(ガスクロマトグラフィ(GC−9A、島津製作所製:FID検出)を用いて確認)粗DPAを得た。得られた粗DPAを、40mmHgの操作圧力下で、種々の精留塔の理論段数および還流比で高沸点の不純物の除去(高沸工程)を行なった。表1には、精留塔の理論段数および還流比と、得られた反応液中のアクリジン濃度(ガスクロマトグラフィ(GC−9A、島津製作所製:FID検出)を用いて測定)とを示している。
【0035】
【表1】

【0036】
また種々の精留塔の理論段数および還流比での高沸工程で得られたDPAについて、JIS K 0071−2に準拠してガードナースケールを測定した。結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
今回開示された実施の形態および実験例は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のDPAの製造方法の好ましい一例を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニリンの二量化によりジフェニルアミンを合成する工程と、
未反応のアニリンおよびジフェニルアミンから低沸点の不純物を除去する工程と、
精留によりジフェニルアミンから高沸点の不純物であるアクリジンを150ppm以下となるように除去する工程とを含む、ジフェニルアミンの製造方法。
【請求項2】
アニリンの二量化をβゼオライト触媒の存在下で行なうことを特徴とする請求項1に記載のジフェニルアミンの製造方法。
【請求項3】
アニリンの二量化の反応温度が300〜360℃であり、アニリンの転化率が10〜30%であることを特徴とする請求項1または2に記載のジフェニルアミンの製造方法。
【請求項4】
高沸点の不純物の除去が、理論段数12段以上、かつ、還流比0.3以上の精留条件で行なわれることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のジフェニルアミンの製造方法。
【請求項5】
高沸点の不純物の除去が、理論段数8段以上、かつ、還流比0.6以上の精留条件で行なわれることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のジフェニルアミンの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−230999(P2008−230999A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70808(P2007−70808)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】