説明

ジフルオロ酢酸塩の製造方法

【課題】入手容易な原料から、工業的に有利かつ効率的な方法で、医農薬の中間体および機能性材料の中間体として有用なジフルオロ酢酸金属塩の製造方法を提供する。
【解決手段】式


で表される1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン(ただし、R1 は炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖のアルキル基を示す。)を炭素数1〜20のアルコールおよび、金属水酸化物もしくは金属アルコキシドと反応させることを特徴とする、ジフルオロ酢酸金属塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬の中間体および機能性材料の中間体等として有用なジフルオロ酢酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸塩の製造方法として、酢酸と金属水酸化物を反応させる方法が従来から広く知られている。一方、フッ素原子を持つ酢酸塩、例えば、本発明の対象となるジフルオロ酢酸塩の製造法に関しては、従来から知られているフッ素原子のない酢酸塩の製造方法と同様、ジフルオロ酢酸と金属水酸化物を反応させて製造しているのが一般的であり、この方法以外に製造する例は知られていなかった。
【0003】
ここで、ジフルオロ酢酸の製造方法として、例えば特許文献1では、ジクロロ酢酸クロリドを2級アミンと反応させてN,N−ジ置換ジクロロ酢酸アミドとし、該N,N−ジ置換ジクロロ酢酸アミドをアルキル金属フッ素化物等のフッ素化剤と反応させてN,N−ジ置換ジフルオロ酢酸アミドとした後に、該N,N−ジ置換ジフルオロ酢酸アミドを加水分解してジフルオロ酢酸を製造する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、1,1−ジフルオロ−2−ニトロエタンを加水分解してジフルオロ酢酸を得る方法が、非特許文献1ではジクロロ酢酸メチルエステルをKFなどのフッ化物でフッ素化してジフルオロ酢酸メチルエステルとした後、フルオロ酢酸メチルエステルを加水分解してジフルオロ酢酸を得る製造方法が開示されている。
【0005】
一方、本発明の原料である式[1]で表される1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを用いた、本発明と関連する従来技術として、特許文献3や非特許文献2において、1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを、アルミナ(Al23)等の金属酸化物触媒の存在下に気相反応させてジフルオロ酢酸フルオリド(HCF2COF)とし、さらにアルコール類とを反応させてジフルオロ酢酸エステル(HCF2COOR。Rは炭素数1〜4のアルキル基)とする方法が開示されている。
【特許文献1】特開平6−228043号
【特許文献2】特開昭60−041634号公報
【特許文献3】特開平8−92162号
【非特許文献1】Rec.Trav.chim.,65巻、427、1947年
【非特許文献2】Reports Res.Lab.Asahi Glass Co.,ltd.,Vol.47、69−79頁、1997年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ジフルオロ酢酸塩を製造する方法として、前述したように対応するジフルオロ酢酸と金属水酸化物を反応させる方法がもっとも一般的であると考えられるが、その際、原料であるジフルオロ酢酸を得る方法が、必ずしも容易なものではなかった。例えば、特許文献1の方法では、取扱いが困難なフッ素化剤を使用しなくてはならず、その上、反応後の無機塩等の廃棄物が多く副生する。更にジフルオロ酢酸を得るために複数の工程を経ることから、大規模での製造には有利とは言えなかった。特許文献2の方法では、加水分解に硫酸を使用する為、大量の硫酸廃液を生じる問題がある。特許文献3や非特許文献2の方法では、本発明の原料である式[1]で表される1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを、金属酸化物触媒を用いて気相反応させ、いったん別の化合物に誘導しなくてはならず、さらに特許文献3や非特許文献1、そして非特許文献2ではジフルオロ酢酸塩を得るために、ジフルオロ酢酸エステルを更に加水分解してジフルオロ酢酸を得た後に、金属水酸化物を反応させなくてはならないなど、多段階の工程が必要であった。
【0007】
このように、ジフルオロ酢酸塩を得るための上記製造方法は、原料であるジフルオロ酢酸の生産が困難であり、より有利かつ効率的な方法で、ジフルオロ酢酸塩を製造する方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、式[1]で表される1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン
【0009】
【化2】

【0010】
(ただし、R1 は炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖のアルキル基を示す。)
を、炭素数1〜20のアルコールおよび、金属水酸化物もしくは金属アルコキシドと反応させることによりジフルオロ酢酸塩が製造できることを見出し、本発明に達した。
【0011】
これまでに、フッ素原子を持たないアルコキシアルカン化合物に対して、本発明と同様に対応する酢酸塩を製造する技術は知られていなかった。例えば、1−アルコキシエタンに対して、炭素数1〜20のアルコールおよび、金属水酸化物もしくは金属アルコキシドを反応させても、反応は進行せず、対応する酢酸塩は全く得られない(比較例1を参照)。
【0012】
一方、本発明の原料である1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンは、炭素原子にフッ素原子が存在する。このフッ素原子の強い電子求引性のため、α位の炭素原子に結合している水素原子の反応性は、フッ素原子を持たないそれと比べて、さらにエネルギー的に不安定となり、従来、アルコキシアルカン化合物の基質とは異なり、副反応を誘発する傾向も大きく、対応するジフルオロ酢酸塩を製造するのは極めて困難であると予想された。
【0013】
ところが発明者らは、このようなフッ素原子を持つ反応基質にアルコール及び金属水酸化物等を反応させたところ、副生成物がまったく得られず、目的とするジフルオロ酢酸塩を容易に製造できるという知見を得た。
【0014】
前述の従来公知の方法と比べ、本発明では、ジフルオロ酢酸の製造を必要とせず、さらに1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンから一段階で、かつ廃棄物も少なく高選択率にて該目的物であるジフルオロ酢酸塩を製造できる。工業規模で実施する上で、特に有用な方法である。
【0015】
即ち本発明は、式[1]で表される1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを炭素数1〜20のアルコールおよび、金属水酸化物もしくは金属アルコキシドと反応させることを特徴とする、ジフルオロ酢酸金属塩の製造方法である。
【0016】
また、本発明は、金属水酸化物が水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、金属アルコキシドがナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムn−プロポキシド、カリウムn−プロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシドである上記の製造方法である。
【0017】
また、本発明は、アルコールがメタノールであり、金属水酸化物が水酸カリウムであり、ジフルオロ酢酸金属塩がジフルオロ酢酸カリウムである上記に記載の方法である。
【発明の効果】
【0018】
入手容易な医農薬の中間体および機能性材料の中間体等として有用なジフルオロ酢酸塩を、上述の従来技術と異なり、安価な材料を用い、一段階で効率よくかつ工業的に製造することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の原料である式[1]で表される1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンは、公知の化合物であり、対応するアルコール化合物(R1 OH)とテトラフルオロエチレンとを塩基の存在下に反応させる方法で合成できる(J.Am.Chem.Soc.,73,1329(1951))。
【0020】
本反応で用いられる式[1]で表される1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンにおけるR1としては、炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖のアルキル基を示すが、この中で、炭素数1〜10の直鎖または分岐鎖のアルキル基が、生成物の有用性や、共存させることの効果が特に顕著であることから好ましく、さらに好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。具体的には、1−メトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−エトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−(n−プロポキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−イソプロポキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−(n−ブトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン等が挙げられるが、これらのなかで比較的製造が容易な1−メトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFE−254pc)が好ましい。
【0021】
本発明で用いられる炭素数1〜20のアルコールとしては、ROHで表されるアルコールが挙げられ、Rとしては、炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖、あるいは環状のアルキル基(ここで水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)で置換されていても良い)、またはアリール基(ここで水素原子の一部または全てはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)で置換されて良い)が挙げられる。
【0022】
この中で、炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖、あるいは環状のアルコールが、生成物の有用性や、共存させることの効果が特に顕著であることから好ましく、さらに好ましくは炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖、あるいは環状のアルコールである。
【0023】
具体的には、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、n−ヘキサノール、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロプロパノール、フェノール、アニソール、メチルフェノール、ニトロフェノール、桂皮アルコール等を使用できるが、好ましくは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、フェノールが、さらに好ましくはメタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノールである。
【0024】
金属水酸化物としては、反応を効率的に進ませる金属水酸化物であれば特に限定されない。水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、水酸化カリウムが特に好ましい。
【0025】
金属アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムn−プロポキシド、カリウムn−プロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシドよりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、カリウムメトキシドが特に好ましい。
本発明の反応は、1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンと炭素数1〜20のアルコールおよび金属水酸化物と反応させることによるジフオロ酢酸金属塩の製造方法であるが、好ましい組合せを示せば、以下の反応式であらわされる。
【0026】
【化3】

【0027】
本反応は1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン1モルにつきアルコールは1モル反応するが、アルコール量を過剰に仕込み、コスト的に高い1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンの消費量が多くなるように調整するのが工業的に有利である。
【0028】
1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン及びアルコールのモル比は、1:0.5〜1:200が用いられ、好ましくは1:1〜1:100、さらに好ましくは1:1〜1:20で、反応の進行とともに消費される金属水酸化物および1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを追加することができる。
【0029】
本発明は、反応試剤としてアルコールを使用しており、これが溶媒としても機能できることから、通常は他の溶媒を使用する必要はないが、本発明においては、溶媒、中でも、非プロトン性極性溶媒を反応系内に加えることで反応速度を上昇させることができる。本反応で用いる非プロトン性極性溶媒としては、特に限定されないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ニトロメタン、アセトニトリル、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)、グライム、ジグライム、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン等の溶媒が挙げられるが、中でもジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)等を好適に用いることができる。
【0030】
溶媒の使用量としては、1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン1モルに対して通常0.05〜1倍モル、好ましくは0.1〜0.3倍モルの範囲から適宜選択される。
【0031】
金属水酸化物あるいは金属アルコキシドは、例えばKOHでは化学量論的には1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン1モルにつき3モル反応するが、過剰に添加した場合反応系において生成、析出するジフルオロ酢酸金属塩が金属水酸化物あるいは金属アルコキシドとともに析出する可能性が高まり、精製が困難になることから化学量論以上の添加は特に必要ない。
【0032】
反応圧力は特に限定されないが、反応圧力としては、0.1MPa〜1.0MPa(絶対圧。以下、本明細書にて同じ。)であり、好ましくは、0.1MPa〜0.6MPaである。本発明においては、0.1MPa〜0.6MPaという温和な圧力条件でも目的とするジフルオロ酢酸金属塩を製造することができる。
【0033】
反応温度は特に制限されないが、比較的穏和な温度条件で行うことができ、0℃〜100℃の範囲であり、好ましくは20℃〜80℃、更に好ましくは30℃〜70℃がよい。反応温度が低すぎると反応が進行せず、高すぎると副反応の確率が高まるため、経済的に好ましくない。
【0034】
本反応は1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンに金属水酸化物を飽和させた液体状のアルコールを連続的に導入する半連続方式、金属水酸化物を飽和させた液体状のアルコールに1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを連続的に導入する半連続方式、または全ての原料を一括して反応器に仕込むバッチ式で行う等、特に限定されない。また、金属水酸化物を飽和したアルコール及び1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンをともに反応器に導入し、生成物を連続的に抜き出す連続式で製造することができる。
【0035】
反応器は、耐熱性とフッ素やフッ化水素、塩化水素等に対する耐食性を有する材質で作られれば良く、ステンレス鋼、インコネル、ハステロイなどが好ましい。また、これらの金属でライニングされた材料で作ることもできる。
【0036】
また、本反応における式[1]で表される1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンは、常温、常圧条件下、沸点が低いため(50℃以下)、反応温度が高いと気化することがある。その場合は、耐圧反応容器を用い、容器を密閉して前述の圧力の条件下、前述したバッチ式にて反応を行うことができる。
【0037】
ジフルオロ酢酸金属塩の精製処理の方法としては、特に限定されない。生成するジフルオロ酢酸塩は、式[1]で表される1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンへの溶解度が低く、反応の進行とともに比較的溶解性が高いメタノール濃度が低下すると、反応液中にKFとともに不溶性の固形混合物として析出する。固形混合物は通常のろ過操作を組み合わせることにより容易に分離できる。固形混合物からジフルオロ酢酸金属塩を単離するには、KFとの溶解度の相違を利用して、一旦メタノール、エタノール等の良溶媒に溶解し、エーテル、ヘキサン等の貧溶媒を添加して析出、分離することができる。
【0038】
また、このジフルオロ酢酸塩は、塩酸、硫酸等の酸との反応によりジフルオロ酢酸とすることもでき、ジフルオロ酢酸塩を一旦ジフルオロ酢酸として混合物溶液からエーテル等の溶媒により抽出、その後通常の蒸留操作にて分離することができる。
【0039】
本発明の出発原料である1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンは公知の方法で製造できるが、例えば、耐圧反応器に所定量のメタノール及び金属水酸化物を仕込み、テトラフルオロエチレン(TFE)を一定量導入して1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを一旦生成させた後に、本発明における方法にて反応を進行させることによりジフルオロ酢酸金属塩を製造することもできる。
【0040】
本発明により得られるジフルオロ酢酸金属塩は、医農薬の中間体および機能性材料の中間体等に用いられるきわめて有用な化合物である。
【0041】
なお、得られたジフルオロ酢酸金属塩は、塩酸、硫酸等の酸加水分解反応により容易にジフルオロ酢酸にすることもできる。
【0042】
以下に本発明を、例を挙げて具体的に説明するが、これらによって本発明は限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
ステンレス鋼製100ml耐圧反応器にメタノール14.60g(0.456mol)、1−メトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFE−254pc)3.01g(0.0228mol)、水酸化カリウム1.11g(0.0198mol)を仕込んだ。反応器を50℃に保ち8時間反応を行った(変換率100%)。反応器を氷水中で冷却後、析出した塩を減圧ろ過し、エーテルで洗浄した。真空乾燥後ジフルオロ酢酸カリウムとフッ化カリウムの混合物0.42g(0.0031mol)を回収した。この回収したジフルオロ酢酸カリウムとフッ化カリウムの混合物のモル比をイオンクロマトグラフィーにより測定したところ、ジフルオロ酢酸カリウム:フッ化カリウム=1:2であった(なお、実施例1では単離精製は行っていない)。
【実施例2】
【0044】
ステンレス鋼製200ml耐圧反応器にメタノール115.2g(3.6mol)、1−メトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFE−254pc)15.1g(0.114mol)、水酸化カリウム11.1g(0.198mol)を仕込んだ。反応器を50℃に保ち16時間反応した(変換率100%)。反応器を氷水中で冷却後、析出した塩を減圧ろ過し、エーテルで洗浄した。真空乾燥後ジフルオロ酢酸カリウムとフッ化カリウムの混合物11.9gを回収した。
【0045】
分液ロートに回収したジフルオロ酢酸カリウムとフッ化カリウムの混合物を全量入れ、希塩酸を加えて酸性水溶液にした。調製した酸性水溶液からジフルオロ酢酸をジエチルエーテルで抽出、乾燥後、ジエチルエーテルを留去した。得られたジフルオロ酢酸を水酸化カリウム/メタノール溶液にて中和後ろ過し、エーテルで洗浄した。乾燥後ジフルオロ酢酸カリウム7.9gが得られた。1−メトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを基準としたジフルオロ酢酸カリウムの収率は51.7%であった。
[比較例1]
1−メトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンの代わりに1−メトキシエタンを用いた他は、実施例1と温度、条件等、同様に行ったが、反応が全く進行せず、ジフルオロ酢酸は得られなかった(変換率0%)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[1]で表される1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン
【化1】

(ただし、R1 は炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖のアルキル基を示す。)を炭素数1〜20のアルコールおよび、金属水酸化物もしくは金属アルコキシドと反応させることを特徴とする、ジフルオロ酢酸金属塩の製造方法。
【請求項2】
金属水酸化物が水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
金属アルコキシドがナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムn−プロポキシド、カリウムn−プロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシドよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
アルコールがメタノールであり、金属水酸化物が水酸カリウムであり、ジフルオロ酢酸金属塩がジフルオロ酢酸カリウムである請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の製造方法。


【公開番号】特開2007−70345(P2007−70345A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212706(P2006−212706)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】