説明

ジャガイモ加工食品用調味液及びこれを用いたジャガイモ加工食品。

【課題】ジャガイモ加工食品をpH5.5以下に調整したにも拘らず、ジャガイモ特有の金属様の異味を抑制することができる調味液、及びこれを用いた加工食品を提供する。
【解決手段】pH3.5〜5、ブリックス50以上であり、かつ、糖アルコール(固形分換算)10%以上及び卵黄(生換算)3〜15%を配合するジャガイモ加工食品用調味液、及びこれを用いたジャガイモを40%以上配合するジャガイモ加工食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャガイモを40%以上配合した加工食品をpH5.5以下に調整したにも拘らず、ジャガイモ特有の金属様の異味を抑制することができる調味液、及びこれを用いた加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
暑さにより食欲が減退する夏場等は、酢やレモン果汁等を加え酸味を付与した加工食品の需要が高まる。しかしながら、ジャガイモを40%以上配合した加工食品の場合、pHが5.5以下になるとジャガイモ特有の金属様の異味を感じるようになり、消費者に敬遠されてしまう場合が少なくない。
【0003】
従来、金属様の異味を抑制する方法として、例えば、WO2000−24273号公報(特許文献1)には、フルクトース、非還元性二糖類、糖アルコール、ビートオリゴ糖、甘草抽出物、ステビア抽出物、ラムノース及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種の甘味成分とスクラロースを含有する甘味組成物が記載されている。しかしながら、スクラロース特有の人工的な甘味が料理の風味を損ねてしまう場合があり、消費者の要望を十分に満足するものではなかった。
【0004】
【特許文献1】WO00/24273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、ジャガイモを40%以上配合した加工食品をpH5.5以下に調整したにも拘らず、ジャガイモ特有の金属様の異味を抑制することができる調味液、及びこれを用いた加工食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、調味液を特定のpH及びブリックスに調整し、かつ、卵黄及び糖アルコールを配合するならば、意外にもジャガイモ特有の金属様の異味が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、(1)ジャガイモを40%以上配合するジャガイモ加工食品用調味液であって、pH3.5〜5、ブリックス50以上であり、かつ、糖アルコール(固形分換算)10%以上及び卵黄(生換算)3〜15%を配合するジャガイモ加工食品用調味液、(2)卵黄がリゾ化処理されてなる(1)の調味液、(3)ジャガイモ加工食品がマッシュポテトである(1)又は(2)の調味液、(4)ジャガイモを40%以上配合するジャガイモ加工食品において、(1)又は(2)の調味液を配合することを特徴とするジャガイモ加工食品、(5)マッシュポテトである(4)のジャガイモ加工食品、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ジャガイモ特有の金属様の異味を抑制する調味液及びこれを用いた加工食品を提供できる。従って、本発明をふかし芋やマリネ等のジャガイモを配合した様々な加工食品に応用することで、加工食品業界の更なる需要拡大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の調味液及びこれを用いた加工食品を詳述する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0010】
本発明の調味液は、pH3.5〜5、ブリックス50以上であり、かつ、糖アルコール(固形分換算)10%以上及び卵黄(生換算)3〜15%を配合することを特徴とする。また、本発明は、調味液をジャガイモ全体に略均一に浸透させることで、金属様の異味抑制効果を得ている。
【0011】
本発明の調味液のpHは、3.5〜5であり、4〜5が好ましく4.2〜4.8がより好ましい。pHが上記範囲より低い場合、卵黄蛋白質が凝集することで調味液がジャガイモに浸透せず、本発明の金属様の異味抑制効果が得られ難い。pHが上記範囲より高い場合、本発明の金属様の異味抑制効果が得られ難い。
【0012】
本発明の調味液に用いる酸材は、特に限定されないが、レモン、リンゴ、グレープフルーツ等の果汁、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、酢酸等の有機酸等を挙げることができる。
【0013】
本発明の調味液のブリックスは、調味液がジャガイモに浸透し易いように高く調整する必要が有り、具体的には50以上であり、好ましくは65以上である。また、ブリックスが85を超えると、調味液の粘性が高くなり過ぎ、ジャガイモに概均一に絡めることが難しい場合がある。ブリックスを調整する方法は、食用に用いられる固形分であれば特に限定せず配合すればよい。
【0014】
本発明においてブリックスは、品温20℃における屈折率を測定し、純蔗糖溶液(サッカロース)の質量/質量パーセントに換算(ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表を使用)した値をいう。ブリックスの測定は、一般に市販されている糖度計を用いて行えばよい。
【0015】
本発明の調味液に用いる糖アルコールは、調味液に耐熱性を持たせる目的で配合している。調味液とジャガイモとを熱い状態で混合することで、調味液がジャガイモに浸透し易くなり、本発明の金属様の異味抑制効果が発揮され好ましい。糖アルコールの配合量は、固形分換算で10%以上であり、12%以上が好ましく、15%以上がより好ましい。糖アルコールの配合量が上記範囲より少ない場合、60℃以上に熱せられたジャガイモと調味料とを混合すると、調味液中の卵黄蛋白質が凝集してしまい本発明の金属様の異味抑制効果が得られ難い。また、糖アルコールの配合量が80%を超えると、調味液の粘性が高くなり過ぎ、ジャガイモに概均一に絡めることが難しい場合がある。
【0016】
本発明の調味液に用いる糖アルコールは、糖のアルデヒド基及びケトン基を還元してアルコール基とした多価アルコールであり、食用に用いられるものであれば何れのものでも良いが、保水効果が高くジャガイモに浸透し易いオリゴ糖アルコールが好ましい。オリゴ糖アルコール以外には、特に限定されないが、例えば、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、エリスリトール、デキストリン糖アルコール等が挙げられる。
【0017】
本発明の調味液に用いる卵黄の配合量は、生卵黄換算で3〜15%であり、5〜15%が好ましく、7〜15%がより好ましい。卵黄の配合量が上記範囲より少ない場合、本発明の金属様の異味抑制効果が得られ難い。卵黄の配合量が上記範囲より多い場合、本発明の金属様の異味抑制効果は得られるものの、卵黄由来の苦味が強くなり風味を損ねてしまい好ましくない。
【0018】
本発明の調味液に用いる卵黄は、ホスフォリパーゼで処理し卵黄中のリン脂質がリゾ化されたリゾ化卵黄を用いることが好ましい。リゾ化卵黄以外には、特に限定されないが、例えば、鶏卵を割卵して得られる生卵黄をはじめ、当該生卵黄にストレーナー等によるろ過処理、加熱等による殺菌処理、冷凍処理、乾燥処理、ホスフォリパーゼ又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、イオン交換樹脂等による脱塩処理、食塩又は糖類等の混合処理等の処理を施したもののうち、1種又は2種以上を混合したものを挙げることができる。
【0019】
本発明の調味液は、本発明の金属様の異味抑制効果を損なわない範囲で、調味液に一般的に使用されている原料を適宜選択し配合すればよい。具体的には、例えば、菜種油、大豆油等の食用油脂、砂糖、食塩、醤油、味噌、みりん、L−グルタミン酸ナトリウム、核酸等の各種調味料、湿熱処理澱粉、化工澱粉、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム等の増粘材、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸の塩、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、色素、各種具材等が挙げられる。
【0020】
本発明の調味液の粘度は、ジャガイモに概均一に絡めることができればよく、糖アルコール、卵黄及びその他原料を配合して0.1〜100Pa・sに調整すればよい。
【0021】
本発明の調味液は、60〜100℃に熱せられたジャガイモと混合した際に、金属様の異味抑制効果が高く発揮されるため、出来立ての温かい状態で料理を提供することができ好ましい。
【0022】
本発明の調味液は、加工食品のジャガイモ配合量を増やしたとしても同様の金属様の異味抑制効果が得られることから、ジャガイモを40%以上配合した加工食品において効果を発揮し、ジャガイモを45%以上配合した加工食品に好ましく、50%以上がより好ましい。
【0023】
ジャガイモは、ナス科ナス属の植物である。本発明の加工食品に用いるジャガイモの品種は、例えば、男爵、メークイン、キタアカリ等が挙げられ、特にキタアカリを用いた場合に風味に優れ好ましい。
【0024】
本発明の加工食品は、ジャガイモの形状を変えたとしても同様の金属様の異味抑制効果が得られることから、小片状から粉末状まで自由な大きさにカットして用いることができ、特にすり潰してマッシュポテトにしたものが好ましい。
【0025】
本発明の加工食品において、ジャガイモに対する本発明の調味液の配合量は、調味液がジャガイモ全体に行き渡る量であればよく、ジャガイモに対し10〜100%が好ましく、25〜80%がより好ましい。
【実施例】
【0026】
以下に本発明の調味液を実施例及び試験例に基づき詳述する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0027】
[実施例1]
撹拌タンクを用いて、グラニュ糖30%、オリゴ糖アルコール(粉末)30%、醸造酢(酢酸酸度4%)7%、リゾ化卵黄10%、醤油3%、清水20%を常法に従い混合して、本発明の調味液を調製した。なお、得られた調味液のpHは4.4、ブリックスは65であった。
【0028】
[比較例1]
オリゴ糖アルコール(粉末)30%を糖アルコール10%及び清水20%に置換えた以外は、実施例1に準じて調味液を調製した。なお、得られた調味液のpHは4.4、ブリックスは45であった。
【0029】
[比較例2]
オリゴ糖アルコール(粉末)をグラニュ糖に置換えた以外は、実施例1に準じて調味液を調製した。なお、得られた調味液のpHは4.4、ブリックスは65であった。
【0030】
[比較例3]
リゾ化卵黄を全粉乳に置換えた以外は、実施例1に準じて調味液を調製した。なお、得られた調味液のpHは4.5、ブリックスは68であった。
【0031】
[試験例1]
本発明の金属様の異味抑制効果を調べるため、茹でたての品温90℃のジャガイモ(キタアカリ)85%と、上記実施例1及び比較例1〜3の各調味液15%とをマッシャーを用いて和え、ジャガイモ加工食品(ふかし芋)を調製した。得られたジャガイモ加工食品について、下記の評価基準に従い金属様の異味抑制効果を評価した。なお、得られたジャガイモ加工食品のpHは全て5.5以下であった。結果を表1に示す。
【0032】
[評価基準]
A:ジャガイモ特有の金属様の異味がまったくしなかった。
B:若干ジャガイモ特有の金属様の異味を感じるが、品位に影響のないレベルだった。
C:ジャガイモ特有の金属様の異味を感じ、品位を損ねた。
【0033】
[表1]

【0034】
表1の結果より、pH3.5〜5、ブリックス50以上であり、かつ、糖アルコール(固形分換算)10%以上及び卵黄(生換算)3〜15%を配合する調味液を用いて、ジャガイモ加工食品(ふかしいも)を調製した場合、ジャガイモ特有の金属様の異味を抑制することができた(実施例1)。一方、pH3.5〜5、ブリックス50以上、糖アルコール(固形分換算)10%以上及び卵黄(生換算)3〜15%のいずれかが上記範囲を外れる場合、ジャガイモ特有の金属様の異味が生じ品位を損ねた(比較例1〜3)。
【0035】
[試験例2]
本発明の金属様の異味抑制効果に対する、調味液のpH及び卵黄配合量の影響を調べた。各種調味液は、実施例1の調味液に準じて、pHは醸造酢の配合量で調整し、卵黄配合量は表2に従い調整した。なお、得られた調味液は、全てブリックス50以上であり、得られたジャガイモ加工食品のpHは全て5.5以下であった。評価は、試験例1と同様にジャガイモ加工食品(ふかし芋)を調製して行った。結果を表2に示す。
【0036】
[表2]

【0037】
表2の結果より、本発明の調味液は、pH3.5〜5においてジャガイモ特有の金属様の異味抑制効果を奏し、4〜5が好ましく4.2〜4.8がより好ましいことが理解できる(No.1〜5)。さらに、卵黄(生換算)の配合量が3〜15%においてジャガイモ特有の金属様の異味抑制効果を奏し、5〜15%が好ましく、7〜15%がより好ましいことが理解できる(No.6〜10)。
【0038】
[試験例3]
本発明の金属様の異味抑制効果に対する、調味液のブリックス及び糖アルコール(固形分換算)の値の影響を調べた。各種調味液は、実施例1の調味液に準じて、ブリックスはグラニュ糖の配合量で調整し、糖アルコール(固形分換算)配合量はグラニュ糖との置換えで調整した。なお、得られた調味液は、全てpH3.5〜5であり、得られたジャガイモ加工食品のpHは全て5.5以下であった。評価は、試験例1と同様にジャガイモ加工食品(ふかし芋)を調製して行った。結果を表3に示す。
【0039】
[表3]

【0040】
表3の結果より、本発明の調味液は、ブリックス50以上においてジャガイモ特有の金属様の異味抑制効果を奏し、65以上が好ましいことが理解できる(No.11〜14)。さらに、糖アルコール(固形分換算)の配合量が10%以上においてジャガイモ特有の金属様の異味抑制効果を奏し、12%以上が好ましく、15%以上がより好ましいことが理解できる(No.15〜18)。
【0041】
[実施例2]
粗熱を取り50℃に冷ましたジャガイモを用いた以外は、実施例1の調味液を用い、試験例1に準じてジャガイモ加工食品(ふかし芋)を調製した。茹でたての品温90℃のジャガイモを用いた場合と比べ、若干劣るもののジャガイモ特有の金属様の異味を抑制することができた。
【0042】
[実施例3]
皮付きのまま5mmの厚さに輪切りにし、蒸かしたジャガイモ100gを深型の皿に並べ入れた後、実施例1の調味液200gを流し入れ、ジャガイモが調味液に浸るようにした。次に、25℃で2時間静置し、本発明のジャガイモ加工食品(マリネ)を調製した。得られたジャガイモ加工食品(マリネ)は、ジャガイモ特有の金属様の異味が生じず好ましかった。
【0043】
[実施例4]
蒸かしたジャガイモ160gをマッシャ―を用いてすり潰した後、実施例1の調味液60g、マヨネーズ20g及びイチョウ切りのニンジン10gと和え、本発明のジャガイモ加工食品(マッシュポテトサラダ)を調製した。得られたジャガイモ加工食品(マッシュポテトサラダ)は、ジャガイモ特有の金属様の異味が生じず非常に好ましかった。
【0044】
[実施例5]
まず、鍋に、グラニュ糖100g、実施例1の調味液100g、酢(酸度4%)800g、醤油80g、酒60gを混合したものを用意する。次に、鍋に、皮を剥き半分にカットしたジャガイモ300g、手羽先300gを投入し、蓋をして30分間煮込み、本発明のジャガイモ加工食品(ジャガイモと手羽先のさっぱり煮)を調製した。得られた加工食品(ジャガイモと手羽先のさっぱり煮)は、ジャガイモ特有の金属様の異味が生じず好ましかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャガイモを40%以上配合するジャガイモ加工食品用調味液であって、pH3.5〜5、ブリックス50以上であり、かつ、糖アルコール(固形分換算)10%以上及び卵黄(生換算)3〜15%を配合することを特徴とするジャガイモ加工食品用調味液。
【請求項2】
卵黄がリゾ化処理されてなる請求項1記載の調味液。
【請求項3】
ジャガイモ加工食品がマッシュポテトである請求項1又は2記載の調味液。
【請求項4】
ジャガイモを40%以上配合するジャガイモ加工食品において、請求項1又は2記載の調味液を配合することを特徴とするジャガイモ加工食品。
【請求項5】
マッシュポテトである請求項4記載のジャガイモ加工食品。