説明

ジャム様食品

【課題】ホイップ用クリームまたはホイップドクリームに、果物や野菜の良好な風味を付与するに足る量で配合しても、ホイップドクリームの造花性を低下させないジャム様食品を提供する。
【解決手段】ペクチンを含有し、クリームに配合してホイップし得る、pH2.5〜5.5のジャム様食品は、金属封鎖剤、及び特定の増粘多糖類を所定量範囲で含有する。金属封鎖剤がフィチン酸、エチレンジアミン四酢酸もしくはその塩、及びリン酸塩から選択される一種である場合、ジャム様食品中には、0.005〜4質量%のフィチン酸、0.005〜4質量%のエチレンジアミン四酢酸もしくはその塩、又は0.01〜4質量%のリン酸塩が含有されており、金属封鎖剤がフィチン酸、エチレンジアミン四酢酸もしくはその塩、及びリン酸塩から選択される二種以上である場合、これら二種以上の金属封鎖剤が合計で0.005〜4質量%含有されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイップ用クリームに混合してホイップし得るジャム様食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイップドクリームにフルーツや野菜の風味と色調とを付与する手法の一つとして、ペクチンのゲル化能ないし増粘効果を利用してフルーツや野菜から調製されたジャム様食品を、ホイップ用クリームに添加しホイップしたり、既に泡立てたホイップドクリームに混合したりすることが行われている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−6621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ジャム様食品は、その食味に爽やかさを付与し且つその保存性を高めるために、通常、pH3.0〜3.8に調整されている。
【0005】
しかし、このようなpH域は、乳タンパク質を凝集させてしまうpH域であるため、ホイップ用クリームやホイップドクリームに十分なフルーツや野菜の風味と色調とを付与できる量でジャム様食品をそれらに混合させた場合、ホイップ用クリームまたはホイップドクリーム中の乳タンパク質を凝集させ、ホイップドクリームの造花性が低下するという問題があった。
【0006】
造花性の低下を防止すべく、ホイップ用クリームまたはホイップドクリームへのジャム様食品の混合量を、意図したフルーツの風味と色調が得られる量(通常、ホイップ用クリーム1質量部に対し0.3〜2.0質量部)よりも著しく少なくした量(ホイップ用クリーム1質量部に対し0.15質量部以下)で配合し、それを補うべく、人工的なフレーバーや合成色素を併用することも考えられるが、それではフルーツや野菜の果実本来の風味と色調とを備えたホイップドクリームが得られない。
【0007】
本発明の目的は、以上の従来の問題点を解決しようとするものであり、ホイップドクリームまたはホイップ用クリームに、ジャム様食品をフルーツや野菜の風味や色調を付与するに足る量で配合した場合に、ホイップドクリームの造花性を低下させないジャム様食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ペクチンを含有するジャム様食品に、フィチン酸、エチレンジアミン四酢酸(以下、EDTAと略する場合がある)もしくはその塩、及びリン酸塩から選択される一種又は二種以上の金属封鎖剤と、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、カラギーナン及び微小繊維状セルロースから選択される少なくとも一種の増粘多糖類とを、それぞれ特定量範囲で配合することにより上述の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、ペクチンを含有し、クリームに配合してホイップし得る、pH2.5〜5.5のジャム様食品であって、金属封鎖剤及び増粘多糖類を含有するジャム様食品において、
金属封鎖剤がフィチン酸、EDTAもしくはその塩、及びリン酸塩から選択される一種である場合、ジャム様食品には、0.005〜4質量%のフィチン酸、0.005〜4質量%のEDTAもしくはその塩、又は0.01〜4質量%のリン酸塩が含有されており、
金属封鎖剤がフィチン酸、EDTAもしくはその塩、及びリン酸塩から選択される二種以上である場合、ジャム様食品には、これら二種以上の金属封鎖剤が合計で0.005〜4質量%含有されており、及び
増粘多糖類として、ジャム様食品には、0.01〜0.2質量%のキサンタンガム、0.01〜1質量%のローカストビーンガム、0.01〜1質量%のタマリンドガム、0.005〜0.08質量%のカラギーナン及び0.15〜1.2質量%の微小繊維状セルロースから選択される少なくとも一種が含有されているジャム様食品を提供する。
【0010】
また、本発明は、上述のジャム様食品を5〜80質量%含有するホイップドクリームを提供する。さらに、本発明は、このホイップドクリームの製造方法であって、ホイップ前のクリームと上述のジャム様食品とを混合した後、その混合物をホイップするか、クリームをホイップし、得られたホイップドクリームに上述のジャム様食品を混合する製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
ペクチンを含有する本発明のジャム様食品は、pHが2.5〜5.5であり、特定の金属封鎖剤及び増粘多糖類を、それぞれ特定含有量範囲で含有する。このため、本発明のジャム様食品とホイップ用クリームとを混合してホイップする場合、あるいはジャム様食品を既に泡立てたホイップドクリームに混合する場合、ホイップ用クリームに対しフルーツや野菜本来の良好な風味と色調とを付与するに足る量(例えば、ホイップ用クリームの0.3〜2.0質量倍)を配合しても、ホイップドクリームの造花性を低下させないようにできる。
【0012】
なお、本発明のジャム様食品をホイップ用クリームに混合してホイップした場合、図4に示すように、ホイップ時の空気含有量の推移を示すオーバーランカーブ(図4の曲線A)が、ホイップの終点付近で時間軸に対して略平行となっており、従ってホイップ操作の終点が穏やかなものとなる。よって、図4の曲線Bのようなオーバーランカーブを示す従来のホイップ用クリームだけでホイップした場合に比べ、ホイップドクリームの製造管理条件が緩和される。
【0013】
また、本発明のジャム様食品を含有するホイップドクリームは、凍結後に解凍しても、離水しにくく、造花性の低下も生じにくいものであり、良好な冷凍耐性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ホイップドクリームの造花性の評価ランク5の状態を示す写真である。
【図2】ホイップドクリームの造花性の評価ランク3の状態を示す写真である。
【図3】ホイップドクリームの造花性の評価ランク1の状態を示す写真である。
【図4】ホイップドクリームのオーバーランカーブ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のジャム様食品について詳細に説明する。
【0016】
ペクチンを含有する本発明のジャム様食品は、特定の金属封鎖剤及び増粘多糖類をそれぞれ特定含有量範囲で含有し、pH2.5〜5.5を示すものである。ここで、ジャム様食品とは、果物や野菜の果実、果皮、花弁、地下茎等のジャム原料を、必要に応じて添加される糖類と共に加熱処理し、得られた処理物をペクチンによりゲル化ないしは高粘度化させた食品であって、いわゆるフルーツジャム、野菜ジャム、フルーツソースあるいは野菜ソース等と称される食品である(JAS規格等参照)。ここで、ジャム原料の形態としては、そのままの形態、ダイス状あるいはチップ状に細断された形態、ペースト状あるいはピューレ状の形態、一部を除去した液汁状の形態で使用することができる。
【0017】
本発明のジャム様食品が含有するペクチンは、ジャム様食品自体をゲル化ないし増粘させる成分であり、ホイップドクリームの泡の安定性を高める成分でもある。このようなペクチンとしては、メチルエステル化度が50%未満のLMペクチンや50%以上のHMペクチンのいずれも使用することができるが、好ましくはメチルエステル化度が25%以上のペクチンを挙げることができ、市販品を使用することができる。
【0018】
本発明において、ペクチンのジャム様食品中の含有量は、少なすぎるとジャム様食品とホイップドクリームとに適度な粘度を確保し難くなる傾向があり、多すぎるとペクチンとクリーム中のカルシウムとが過度に反応して凝集物を生成させ、ホイップドクリームの造花性を低下させる傾向があるので、0.1〜6質量%、好ましくは0.2〜4質量%である。なお、このペクチンの含有量には、ジャム様食品を調製する際に使用するフルーツや野菜そもそもに含有されている量も包含されている。従って、例えば、ジャム様食品を調製する際の原料フルーツに必要量のペクチンが含有されている場合には、ペクチンを外的に添加しなくてもよい。
【0019】
本発明のジャム様食品は、pH2.5〜5.5、好ましくは2.8〜4.2の範囲に調整されている。これは、pHが2.5を下回ると、ホイップドクリームのタンパク質の凝集が激しくなり、造花性が低下するからである。また、pHが5.5を超えると常温での保存と美味しさの両立が難しい場合があるからである。
【0020】
本発明のジャム様食品は、金属封鎖剤として、フィチン酸、EDTAもしくはその塩(例えば、EDTAモノ又はジアルカリ金属塩、好ましくはEDTAジナトリウム塩)、及びリン酸塩(例えば、メタリン酸やポリリン酸のアルカリ金属塩、好ましくはメタリン酸ナトリウム塩やポリリン酸ナトリウム塩)から選択される一種を使用する。あるいは、これらから選択された2種以上を併用する。好ましい金属封鎖剤はフィチン酸、又はEDTAもしくはその塩(特にEDTAジナトリウム塩)である。これらは、カルシウムイオン等の金属イオンを捕捉する機能を有する。従って、これらの金属封鎖剤を使用することにより、ペクチンとクリーム中のカルシウムイオンとの反応を緩やかにして均一で滑らかな泡立てを可能とし、結果としてホイップドクリームの造花性を向上させることができる。なお、リン酸塩におけるカチオン部分としてはナトリウムイオンを好ましく挙げることができる。
【0021】
このような金属封鎖剤のジャム様食品中の含有量は、金属封鎖剤の種類によっても変動するが、少なすぎると金属封鎖の効果が得られず、多すぎると過度の金属封鎖の効果により造花性が低下する傾向がある。
【0022】
具体的には、金属封鎖剤としてフィチン酸を使用した場合、フィチン酸のジャム様食品中の含有量は、0.005〜4質量%、好ましくは0.005〜3質量%、より好ましくは0.005〜2質量%である。金属封鎖剤としてEDTAもしくはその塩を使用した場合、EDTAもしくはその塩のジャム様食品中の含有量は、0.005〜4質量%、好ましくは0.005〜3質量%、より好ましくは0.005〜2質量%である。金属封鎖剤としてリン酸塩を使用した場合、リン酸塩のジャム様食品中の含有量は、0.01〜4質量%、好ましくは0.025〜3質量%、より好ましくは0.05〜2質量%である。
【0023】
他方、金属封鎖剤として、フィチン酸、EDTAもしくはその塩、及びリン酸塩から選択される二種以上を併用する場合、これら二種以上の金属封鎖剤のジャム様食品中の含有量は、合計で0.005〜4質量%、好ましくは0.005〜3質量%、より好ましくは0.005〜2質量%である。なお、二種以上の金属封鎖剤を併用する場合、それらの合計のジャム様食品中の含有量が0.005〜4質量%となればよく、その範囲内で二種以上の金属封鎖剤のそれぞれの含有量には特段の制限はない。従って、二種の金属封鎖剤を併用した場合、例えば、一方が痕跡量(例えば、0.0001質量%)で他方が残量(例えば、0.0049〜3.9999質量%)であってもよく、双方とも同量であってもよい。
【0024】
本発明のジャム様食品は、ペクチンの他に、増粘多糖類として、水に溶解して粘度を上昇させる性質を有するキサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、水に溶解してチキソトロピー性を有するゲルを与えることができるカラギーナン、又は水には溶解しないが、保水性に優れ、水性分散物の分散安定剤として機能する微小繊維状セルロースから選択される少なくとも一種を使用する。好ましくは、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム又はカラギーナンであり、特に好ましい増粘多糖類はキサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドガムである。このような増粘多糖類を含有するジャム様食品は、このジャム様食品を含有するホイップドクリームに良好な造花性を付与することができる。
【0025】
なお、カラギーナンとしては、ジャム様食品の所期の性状に応じて、カッパカラーギーナン、イオタカラギーナン、ラムダカラギーナンの中から選択して使用することができる。また、微小繊維状セルロースとしては、高度に精製した純植物繊維を原料とし、超高圧ホモジナイザー処理による強力な機械的剪断力を加え、好ましくは0.01〜0.1μmの繊維径にまでミクロフィブリル化したものを使用することができる。
【0026】
キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、カラギーナン又は微小繊維状セルロースから選択される少なくとも一種の増粘多糖類(本明細書において、増粘多糖類にはペクチンは含まれないものとする)のジャム様食品中の配合量は、増粘多糖類の種類によっても変動するが、少なすぎるとホイップドクリームの泡の安定性が低下して造花性を向上させることができない傾向があり、多すぎるとホイップドクリームに均一に混合することが困難になり、結果的にホイップドクリームの造花性が低下する傾向がある。
【0027】
具体的には、増粘多糖類としてキサンタンガムを使用した場合、キサンタンガムのジャム様食品中の含有量は0.01〜0.2質量%、好ましくは0.02〜0.15質量%、より好ましくは0.08〜0.12質量%である。増粘多糖類としてローカストビーンガムを使用した場合、ローカストビーンガムのジャム様食品中の含有量は0.01〜1質量%、好ましくは0.05〜0.7質量%、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。増粘多糖類としてタマリンドガムを使用した場合のタマリンドガムのジャム様食品中の含有量は、0.01〜1質量%、好ましくは0.05〜0.7質量%、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。増粘多糖類としてカラギーナンを使用した場合、カラギーナンのジャム様食品中の含有量は、0.005〜0.08質量%、好ましくは0.01〜0.08質量%、より好ましくは0.015〜0.05質量%である。増粘多糖類として微小繊維状セルロースを使用した場合、微小繊維状セルロースのジャム様食品中の含有量は、0.15〜1.2質量%、好ましくは0.2〜1.0質量%、より好ましくは0.25〜1.0質量%である。
【0028】
本発明のジャム様食品は、一般にジャムやフルーツソース等の原料として利用されている果物や野菜の果実、果皮、花弁、茎、地下茎、あるいは根等を含有するが、そのような果実や野菜としては特に制限はなく、バナナ、イチゴ、リンゴ、モモ、ブドウ、キウイ、ブルーベリー、ラズベリー、オレンジ、パイナップル、マンゴー、メロン、パッションフルーツ、ニンジン、アロエ、カボチャ、トマト等を利用することができる。
【0029】
これらの果物や野菜のジャム様食品中の含有量は、果物や野菜の種類、ジャム様食品の目的とする糖度、加熱濃縮レベル等に応じて適宜決定することができる。通常、ジャム様食品100質量部中の果実(又は野菜)の含有量は、生果実(又は生野菜)換算で10〜400質量部である。
【0030】
本発明のジャム様食品は、ホイップドクリームに好ましい甘味を付与するために、砂糖、水あめ、液状ブドウ糖などの糖類を含有する。甘味の付与のための砂糖等は、泡立ての際に、ホイップ用クリームの側に加えることもできるため、ジャム様食品中の糖類の含有量は、5〜80質量%と幅広い範囲で調整することができる。ダイエット用途に使用する場合には、砂糖に代えて、あるいは砂糖の一部をノンカロリー又は低カロリー甘味料を配合することができる。このようなノンカロリー又は低カロリー甘味料としては、アスパルテーム(商標)、エリスリトール、トレハロース、還元水飴、スクラロース等を挙げることができる。
【0031】
本発明のジャム様食品は、必要に応じて、香料、着色剤、pH調整剤等公知の食品添加物を含有することができる。なお、pH調整剤として、酢酸も使用することができる。
【0032】
本発明のジャム様食品は、上述した構成成分を常法に従って均一に混合することにより製造することができる。この場合、必要に応じて加熱してもよい。
【0033】
本発明のジャム様食品は、ホイップドクリームに好ましい果物や野菜の風味と色調を付与する際に、好ましく適用することができる。このような風味と色調を有するホイップドクリームは、本発明のジャム様食品を、ホイップ用クリーム1質量部に対し、好ましくは0.3〜2.0質量部、より好ましくは0.4〜1.5質量部を含有するものである。
【0034】
本発明において使用できるホイップ用クリームとは、脂質を10〜60質量部、タンパク質を0.1〜15質量部含有するクリームであって、ホイップ処理を施すこと(起泡させること)で油滴ネットワークを形成するクリームである。そして、その油脂の構成により、フレッシュクリーム、コンパウンドクリーム、ノンデイリークリームに分けることができる。フレッシュクリームは油脂の全てが乳脂肪であるクリームであり、コンパウンドクリームは乳脂肪と植物性脂肪の両方を含むクリームであり、ノンデイリークリームは油脂の全てが植物性脂肪であるクリームである。これらの中では、コンパウンドクリーム又はノンデイリークリームを好ましく使用することができ、コンパウンドクリームを特に好ましく使用することができる。
【0035】
このようなホイップドクリームは、ホイップ用クリームと本発明のジャム様食品とを混合した後、常法に従ってホイップすることにより製造することができる。また、ホイップ用クリームをホイップした後、本発明のジャム様食品を常法により混合することでも製造することができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明のジャム様食品について、実施例に具体的に説明する。
【0037】
実施例1〜47、比較例1〜12
イチゴの果実をミキサーでピューレ状に調製し、このイチゴピューレ45質量部と砂糖59質量部との混合物に、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、カラギーナン及び微小繊維状セルロースから選択される増粘多糖類を表1の配合量(質量%)で添加し、40℃に加熱しつつ混合した。混合物を脱気し、糖度が65度となるまで加熱濃縮した。次に、得られた濃縮物に、メチルエステル化度が58のペクチン0.6質量%と、フィチン酸、エチレンジアミン四酢酸ジナトリウム塩(EDTA−2Na)、メタリン酸ナトリウム塩及びトリポリリン酸ナトリウム塩から選ばれる金属封鎖剤を表1の配合量(質量%)で添加し、更に、意図した酸度にするために必要な量のクエン酸(酸味料)と、意図したpHにするために必要な量のクエン酸ナトリウム(pH調整剤)とを配合し、撹拌機で均一に混合し、常温まで冷却することにより実施例及び比較例のジャム様食品(イチゴソース)を得た。また、得られたジャム様食品(イチゴソース)の酸度(中和滴定法)とpHとを測定し、得られた結果を表1に示す。なお、ペクチンとフィチン酸、EDTA-2Naは秤量した後、熱水または冷水に溶解させて使用した。
【0038】
得られたジャム様食品(イチゴソース)1質量部と、ホイップ用クリーム(コンパウンドクリーム、不二製油(株)製、トッピング100)1質量部とを混合し、混合物の容積を測定した(V1)。この混合物を10℃で泡立て機(キッチンエイドミキサーKSM5、(株)エフ・エム・アイ)でホイップ(撹拌速度4、撹拌時間10分)し、ピンクに色づいたイチゴ風味のホイップドクリームを得、容積を測定した(V2)。得られたホイップドクリームについて以下に説明するように、造花性について試験評価した。得られた結果を表1に示す。
【0039】
参照例1及び2
参照例1では、イチゴ果実45質量部、砂糖47質量部、メチルエステル化度が31のペクチンを1質量部、クエン酸0.2部の混合物を、糖度が50度になるまで加熱濃縮して得たJAS特級品位の一般的な市販のイチゴジャム(金属封鎖剤不使用)同等品について、また、参照例2ではイチゴ果実45質量部、砂糖59質量部、メチルエステル化度が44のペクチン0.6質量部の混合物を、糖度が62度になるまで加熱濃縮して得た市販のイチゴソース(金属封鎖剤不使用)同等品について、それぞれ造花性を試験評価した。得られた結果を表1に示す。なお、ランクの数値は大きいほど良好な評価であることを意味する。
【0040】
<造花性試験評価>
得られたホイップドクリームを、ポリエチレン製の絞り袋に入れ、切れ込みが8カ所あるステンレス製の花形絞り口(デコレーション口金:菊、貝印(株))から、スライドガラスに約2g絞り出した直後の外観を目視観察し、以下の基準で5段階に評価した。
【0041】
ランク 基準
5: 絞り出したホイップドクリームの形状が図1の写真の状態と同等以上
4: 絞り出したホイップドクリームの形状がランク5と3との間の状態
3: 絞り出したホイップドクリームの形状が図2の写真の状態と同等
2: 絞り出したホイップドクリームの形状がランク3と1との間の状態
1: 絞り出したホイップドクリームの形状が図3の写真の状態と同等以下












【0042】
【表1】

【0043】
実施例1〜47のイチゴソースの場合、参照例1、2の市販のイチゴジャム、イチゴソース同等品の造花性の評価結果が「2」又は「3」であるのに対し、評価結果が「4」又は「5」であり、良好な結果を示した。
【0044】
他方、比較例1のイチゴソースの場合、金属封鎖剤としてフィチン酸を含有するものの、キサンタンガムの含有量が0.005質量%と少なすぎるため、参照例2の市販のイチゴソース同等品と同等の造花性評価にとどまるものであった。
【0045】
比較例2、3、11、12のイチゴソースの場合、金属封鎖剤としてフィチン酸を含有するものの、カラギーナンの含有量が0.1質量%(比較例2)又は0.15質量%(比較例3)、ローカストビーンガムの含有量が1.5質量%(比較例11)、タマリンドガムの含有量が1.5質量%(比較例12)と多すぎるため、参照例2の市販のイチゴソース同等品と同等の造花性評価にとどまるものであった。
【0046】
比較例4のイチゴソースの場合、金属封鎖剤としてフィチン酸を含有するものの、微小繊維状セルロースの含有量が0.1質量%と低すぎるため、参照例2の市販のイチゴソース同等品と同等の造花性評価にとどまるものであった。
【0047】
比較例5のイチゴソースの場合、金属封鎖剤としてフィチン酸を含有するものの、所定の増粘多糖類を含有しないため、参照例2の市販のイチゴソース同等品と同等の造花性評価にとどまるものであった。
【0048】
比較例6のイチゴソースの場合、キサンタンガムを含有するものの、金属封鎖剤を含有しないため、参照例2の市販のイチゴソース同等品と同等の造花性評価にとどまるものであった。また、比較例9、10のイチゴソースの場合、キサンタンガムを含有するものの、金属封鎖剤としてフィチン酸が5質量%、EDTA-2Naが5質量%と多すぎるため、参照例2の市販のイチゴソース同等品と同等の造花性評価にとどまるものであった。
【0049】
比較例7、8のイチゴソースの場合、金属封鎖剤としてフィチン酸を含有するものの、増粘多糖類として、所定の増粘多糖類以外のものを使用したため、参照例2の市販のイチゴソース同等品と同等の造花性評価にとどまるものであった。
【0050】
実施例29〜39の場合、二種以上の金属封鎖剤を0.005質量%〜4質量%の範囲で含有するため、得られたホイップドクリームの造花性評価ランクは「4」又は「5」であった。
【0051】
実施例48
コンパウンドクリームに代えてフレッシュクリームを使用すること以外、実施例3と同様にイチゴソースを調製し、更にイチゴの風味と色調とを備えたホイップドクリームを調製した。得られたホイップドクリームの造花性評価ランクは「4」であった。
【0052】
実施例49
イチゴに代えてカボチャを使用すること以外、実施例3と同様にカボチャソースを調製し、更にカボチャの風味と色調とを備えたホイップドクリームを調製した。得られたホイップドクリームの造花性評価ランクは「5」であった。
【0053】
実施例3のキサンタンガムを含有するもの、実施例41のローカストビーンガムを含有するもの、実施例45のタマリンドガムを含有するもの、実施例21のカラギーナンを含有するもの、実施例23の微小繊維状セルロースを含有するものを比較した場合、造花性評価ランクはいずれも「5」であるが、それらの中ではキサンタンガム又はカラギーナンを含有するものが優れ、キサンタンガムを含有するものが特に優れた造花性を示した。
【0054】
実施例2のフィチン酸を含有するもの、実施例26のEDTA-2Naを含有するもの、実施例14のメタリン酸ナトリウムを含有するもの、実施例17のポリリン酸ナトリウムを含有するものを比較した場合、EDTA-2Naを含有するものが特に優れた造花性を示した。
【0055】
なお、金属封鎖剤として、EDTA-2Naに代えて、EDTAモノナトリウム塩、あるいは四つのカルボン酸基がいずれも遊離カルボン酸となっているEDTAを使用しても、EDTA-2Naを使用した場合と同等の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
ペクチンを含有する本発明のジャム様食品は、pHが2.5〜5.5であり、フィチン酸、EDTAもしくはその塩、及びリン酸塩から選択される一種又は二種以上の金属封鎖剤と、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、カラギーナン、及び微小繊維状セルロースから選択される少なくとも一種の増粘多糖類とを、それぞれ特定範囲量で含有する。このため、ジャム様食品とクリームとを混合してホイップした場合、あるいはジャム様食品をホイップしたクリームと混合する場合、クリーム(ホイップドクリーム)に対し良好な果物や野菜の風味を付与するに足る量を配合しても、ホイップドクリームの造花性を低下させることはない。よって、本発明のジャム様食品は、果物や野菜の風味、色調を有するホイップドクリームを製造する際に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペクチンを含有し、クリームに配合してホイップし得る、pH2.5〜5.5のジャム様食品であって、金属封鎖剤及び増粘多糖類を含有するジャム様食品において、
金属封鎖剤がフィチン酸、エチレンジアミン四酢酸もしくはその塩、及びリン酸塩から選択される一種である場合、ジャム様食品には、0.005〜4質量%のフィチン酸、0.005〜4質量%のエチレンジアミン四酢酸もしくはその塩、又は0.01〜4質量%のリン酸塩が含有されており、
金属封鎖剤がフィチン酸、エチレンジアミン四酢酸もしくはその塩、及びリン酸塩から選択される二種以上である場合、ジャム様食品には、これら二種以上の金属封鎖剤が合計で0.005〜4質量%含有されており、及び
増粘多糖類として、ジャム様食品には、0.01〜0.2質量%のキサンタンガム、0.01〜1質量%のローカストビーンガム、0.01〜1質量%のタマリンドガム、0.005〜0.08質量%のカラギーナン及び0.15〜1.2質量%の微小繊維状セルロースから選択される少なくとも一種が含有されているジャム様食品。
【請求項2】
金属封鎖剤がフィチン酸であり、その含有量が0.005〜3質量%である請求項1記載のジャム様食品。
【請求項3】
増粘多糖類がキサンタンガムであり、その含有量が0.02〜0.15質量%である請求項1又は2記載のジャム様食品。
【請求項4】
増粘多糖類がカラギーナンであり、その含有量が0.01〜0.08質量%である請求項1又は2記載のジャム様食品。
【請求項5】
金属封鎖剤がエチレンジアミン四酢酸もしくはその塩であり、その含有量が0.005〜3質量%である請求項1記載のジャム様食品。
【請求項6】
増粘多糖類がローカストビーンガムであり、その含有量が0.05〜0.7質量%である請求項1又は2記載のジャム様食品。
【請求項7】
増粘多糖類がタマリンドガムであり、その含有量が0.05〜0.7質量%である請求項1又は2記載のジャム様食品。
【請求項8】
ペクチンを0.1〜6質量%含有する請求項1〜7のいずれかに記載のジャム様食品。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のジャム様食品を5〜80質量%含有するホイップドクリーム。
【請求項10】
ホイップドクリームが、コンパウンドクリームから構成されている請求項9記載のホイップドクリーム。
【請求項11】
請求項9記載のホイップドクリームの製造方法であって、ホイップ前のクリームと請求項1〜8のいずれかに記載のジャム様食品とを混合した後、その混合物をホイップするか、クリームをホイップし、得られたホイップドクリームに請求項1〜8のいずれかに記載のジャム様食品を混合する製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−120527(P2012−120527A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246083(P2011−246083)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(591116036)アヲハタ株式会社 (35)
【Fターム(参考)】