説明

ジョイント部の潤滑に関するグリセロリン脂質の使用

本発明は、2つの同一または異なるC12−C16炭化水素鎖を有するグリセロリン脂質(GPL)と、C12−C18の炭化水素鎖を有するスフィンゴ脂質(SPL)と、からなる群の少なくとも1つのリン脂質(PL)を含んだ1又はそれ以上の膜を具えるリポソームの使用に関し、前記1又はそれ以上の膜は、秩序固体(SO)から無秩序液体(LD)への相転移が生じる相転移温度を有し、当該相転移温度は、約20乃至39℃の温度内にあり、前記使用は、前記相転移温度より高いジョイント部の温度を有するジョイント部の潤滑に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソームおよびその治療上の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の分野の状況を示していると考えられる以下に先行文献のリストを挙げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,133,249号、「リン脂質およびプロピレングリコールベースの潤滑剤」Hills B.A.1998年
【特許文献2】米国特許第5,403,592号、「リウマチの潤滑剤組成物」Hills B.A.1990年
【特許文献3】米国特許第6,800,298号、「生物学的潤滑剤組成物およびその投与方法」、Burdick et al.
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hills, B. A.; Monds, M. K., Enzymatic identification of the load- bearing boundary lubricant in the joint. Br. J, Rheumatol. 1998, 37, (2), 137-142.
【非特許文献2】Oloyede, A., Gudimetla, P., Crawford, R., Hills, B. A., Biomechanical responses of normal and delipidized articular cartilage subjected to varying rates of loading. Connective Tissue Research 2004, 45, (2), 86-93.
【非特許文献3】Ethell, M. T.; Hodgson, D. R.; Hills, B. A., The synovial response to exogenous phospholipid (synovial surfactant) injected into the equine radiocarpal joint compared with that to prilocaine, hyaluronan and propylene glycol. New Zealand Veterinary Journal 1999, 47, (4), 128-132.
【非特許文献4】Pickard, J. E.; Fisher, J.; Ingham, E.; Egan, J., Investigation into the effects of proteins and lipids on the frictional properties of articular cartilage. Biomaterials 1998, 19, (19), 1807-1812.
【非特許文献5】Kawano, T.; Miura, H.; Mawatari, T.; Moro-Oka, T.; Nakanishi, Y.; Ffigaki, H.; Iwamoto, Y., Mechanical effects of the intraarticular administration of high molecular weight hyaluronic acid plus phospholipid on synovial joint lubrication and prevention of articular cartilage degeneration in experimental osteoarthritis. Arthritis Rheum. 2003, 48, (7), 1923-1929.
【非特許文献6】Forsey, R. W.; Fisher, J.; Thompson, J.; Stone, M. H.; Bell, C; Ingham, E., The effect of hyaluronic acid and phospholipid based lubricants on friction within a human cartilage damage model. Biomaterials 2006, 27, (26), 4581-4590.
【非特許文献7】Klein, J., Molecular mechanisms of synovial joint lubrication. J. Proc. Inst. Mech Eng., Part J: J. Eng. Tribology 2006, 220, (8), 691-710.
【0005】
以下の文章中で随時参照している完全な先行技術リストは、添付の特許請求の範囲の前の詳細な説明の最後に記す。出版物との照合は、完全な参考文献リストの数字を示すことによって行う。
【0006】
ジョイント部の機能不全は、大多数の人に影響を及ぼす。十分な生物学的潤滑剤は、適正なジョイント可動性に不可欠であり、分解性のジョイント変形の予防および改善に重要である(1)。
【0007】
一般的なジョイント部の機能不全は、骨関節炎(OA)であり、有病者は、米国だけで2千万人を超える(2)。OAの原因は、炎症、代謝および機械的原因を含む多くの要素からなる(3−5)。リスク因子のリストの中には、年齢、性別、肥満、仕事、トラウマ、アテローム血管疾患および運動不足(immobilization)が含まれる(1,3−7)。OAは、関節軟骨の損傷の結果として生じる。あるいは逆に、肋軟下骨硬化症(subchondral bone sclerosis)は、実際に、軟骨分解および損失を進行させる(8,9)。関節軟骨が一度損傷すると、ダメージは進行する(10)。
【0008】
現在の治療は、通常、薬剤の全身または関節内投与によって、ジョイント部の過負荷の低減、痛みおよび炎症の緩和に焦点を当てている(11)。
【0009】
関節軟骨は、滑らかで強靱であり、弾力性および可撓性のある表面を形成し、骨の動きを促進する。骨液空間は、ヒアルロン酸(HA)および糖タンパク質ルーブリシン(lubricin)を含有する粘性のある骨液(SF)で満たされている(12−14)。HA(ヒアルロン酸)は、極めて不安定でOA(骨関節炎)の炎症条件下で分解する、D−グルクロン酸およびD−N−アセチルグルコサミンのポリマである(15,16)。ルーブリシンは、約44%のタンパク質、約45%の炭水化物および約11%のリン脂質(PL)(12−14)からなり、リン脂質の約41%は、ホスファチジルコリン(PCs)、約27%のホスファチジルエタノールアミン(PE)および約32%スフィンゴミエリン(17−19)である。これらのPLは、「界面活性リン脂質(SAPL)」と呼ばれている。SAPLのPEおよびPCは、2つの炭化水素鎖を含み、その一方は不飽和モノオレイン酸(18:1)である。
【0010】
潤滑分子の相が対向する面を離間している境界潤滑は、関節のジョイント部の負荷において生じる(17,18,20)。いくつかの異なる物質が、関節軟骨における天然の境界潤滑として提案されてきた。過去には、ヒアルロン酸は、主な潤滑剤と考えられていたが(21)、しかしながら、近年の摩擦学研究は、ヒアルロン酸自体は、「関節軟骨中に見られるほぼ摩擦のない境界生物学的潤滑の要因ではない」が、耐荷力および摩耗保護に役立つことを報告している(22)。多くのレポートは、ルーブリシンが、骨液の潤滑特性における主な役割を果たすことを示していることを示している(12,14,19,20,23,24)。Pickard等(25)およびSchwartzおよびHills(19)は、ルービリシンの界面活性リン脂質(SAPL)として規定されるリン脂質は、関節軟骨のジョイント部の潤滑を促進することを実証した。Hillおよびその共同研究者は、OA関節がSAPL欠陥を有し、界面活性リン脂質1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン(DPPC)を骨関節炎患者のジョイント部に注射したところ、副作用なく、可動性の改善が14週間続いたことを実証した。他の研究においては、Watanabe等は、独自の極低温軟骨予防技術を用いて、潤滑において主な役割を果たすと仮定される健康な軟骨表面の脂質性球状ベシクルを観察した(28)。Kawano等(29)およびForsey等(30)は、動物モデルを用いて、高分子量HA(約2000kDa)をDPPCと組み合わせて使用することで後者の潤滑能力が改善されたことを示した。
【0011】
米国特許第6,800,298号は、特に、哺乳類ジョイント部の潤滑に関するリン脂質など、脂質を含有するデキストランベースのヒドロゲル組成物を開示している。
【0012】
近年、Kelinと共同研究者は、分子レベルでジョイント部の潤滑の各種問題をまとめた。彼らは、軟骨潤滑に対する主な要因として、軟骨表面での高度に水和されたブラシ状にチャージされたマクロ分子の潜在的な役割を指摘している(31−33)。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、ジョイント部の潤滑に関してリポソームシステムの発見と、関節のジョイント部をまねている軟骨−軟骨器具(cartilage−on−cartilage appartus)を用いた、ジョイント摩擦に関する様々なPL組成物、寸法および層(lamellarity)に関する研究と、に基づいている。
【0014】
従って、本発明によれば、ジョイント可動性を改善または維持するために骨液ジョイントに注入するための、リン脂質(PL)を具えるリポソームシステムに基づいた新規な潤滑剤が提案される。
【0015】
従って、第1の側面によれば、2つの同一または異なるC12−C16の炭化水素鎖を有するスフィンゴ脂質(SPL)と、C12−C18の炭化水素鎖を有するグリセロリン脂質(GPL)と、からなる群の少なくとも1つのリン脂質(PL)を含んだ1またはそれ以上の膜を具えたリポソームの使用を提供し、1又はそれ以上の膜は、秩序固体(SO)から無秩序液体(LD)へと転移する相転移温度を有し、この相転移温度は約20℃乃至39℃の温度内にあり、上記使用は、相転移温度より高いジョイント部の温度を有するジョイント部の潤滑に適している。
【0016】
本発明の別の側面によれば、2つの同一または異なるC12−C16の炭化水素鎖を有するスフィンゴ脂質(SPL)と、C12−C18の炭化水素鎖を有するグリセロリン脂質(GPL)と、からなる群の少なくとも1つのリン脂質(PL)を含んだ1またはそれ以上の膜を具えるリポソームの使用を提供し、1又はそれ以上の膜は、秩序固体(SO)から無秩序液体(LD)へと転移する相転移温度を有し、この相転移温度は約20℃乃至39℃の温度内にあり、医薬組成物の調整に関して、前記相転移温度より高いジョイント部の温度を有するジョイントへの投与に適している。
【0017】
他の側面によれば、哺乳類のジョイント部を潤滑する方法が提供され、この方法は、ジョイント部温度を有するジョイント部のキャビティ内にリポソームの治療有効量を投与するステップを具え、このリポソームは、2つの同一または異なるC12−C16の炭化水素鎖と、C12−C18の炭化水素鎖を有するスフィンゴ脂質(SPL)と、からなる群の少なくとも1つのリン脂質(PL)を含んだ1又はそれ以上の膜を具え、1又はそれ以上の膜は、秩序固体(SO)から無秩序液体(LD)へと相変化が生じる相転移温度を有し、相転移温度は約20℃乃至39℃の温度であり、相転移温度はジョイント部の温度よりも低い。
【0018】
本発明のさらに別の側面においては、ジョイント部温度を有するジョイント部を潤滑する医薬組成物を提供し、この医薬組成物は、生理学的に許容される賦形剤およびリポソームを具え、このリポソームは、2つの同一または異なるC12−C16炭化水素鎖を有するグリセロリン脂質(GPL)と、C12−C18の炭化水素鎖を有するスフィンゴリン脂質(SPL)と、からなる群の少なくとも1つのリン脂質(PL)を有する1又はそれ以上の膜を具え、1又はそれ以上の膜は、秩序固体(SO)から無秩序液体(LD)へと相転移が生じる相転移温度を有し、この相転移温度は、約20℃乃至39℃の温度内にあり、前記ジョイント部の温度よりも低い。
【0019】
一実施例において、前記C1216またはC1218炭化水素鎖は飽和している。
【0020】
GPL、SPLまたはこれらを混合物は、好ましくは、約0.3μmより大きく、通常では、約0.5μmより大きく、場合によっては、約0.8μmより大きい平均直径のリポソームを形成する。リポソームの平均直径は、通常、約10μmよりも小さく、典型的には、約8、7、6または5μmよりも小さく、場合によっては、3.5μmよりも小さい。リポソームは、単一の膜リポソームでもよく、一実施例によれば、多層状ベシクル(multilameller vesicle、MLV)でもよい。他の実施例によれば、リポソームは、大きな多層状ベシクル(LMVV)または脱水再水和ベシクル(DRV)リポソームでもよい。
【0021】
本発明のリポソーム組成物は、関節内注射、関節鏡を用いた投与、外科的投与、および、ジョイント骨液内またはジョイント軟骨に製剤などを染みこませるために使用可能な一般的な投与形態を介して、痛みのあるジョイント部に投与されてもよい。本発明によれば治療可能な痛みのあるジョイント部は、関節炎、リウマチ様関節炎、骨関節炎(リウマチ様関節炎患者の骨関節炎)、外傷性ジョイント障害、スポーツ障害、固定されたジョイント部(側頭下顎接合部(TMJ))、ならびに、関節穿刺、関節鏡手術、関節形成、膝および股関節置換術などの外科処置後の状態、など各種症状と対応している。本発明によって、治療すべき、または、予防すべき好適な症状は、第一次または第二次骨関節症である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本発明を理解し、実際にどのように実行されているかを理解するためには、実施例は、添付の図面を参照しながら、非限定的な例によって説明される。
【図1】図1は、炎症性骨液(ISF);ヒスチジン緩衝液(HB、5mM)、多層状ベシクルを具える分散剤(MLV、5mM HB中に保持され、この液体は、35〜140mMの濃度範囲である)を含む各種潤滑媒体を得るための(静および動)摩擦係数を示す棒グラフであり、リン脂質はDMPCであり、MLVは、DMPCまたはDMPCコレステロールまたはDMPCの混合物を具え、2000PEG−DSPE DMPC、または、DMPCおよびDPPCの混合物、あるいは、小さな単層ベシクル(SUV)は、DMPCを具える。全ての測定は、2.4MPa(30N load)の一定圧力および1mm/sの滑り速度の下、37℃で行った。食塩水をコントロールとして用いた。
【図2】図2は、各種潤滑剤の存在下で、同様の摩擦試験を行った後、健康な個人の軟骨試験片において、リン脂質総濃度に関する各種潤滑剤および媒体の効果を示す。コントロールは摩擦試験を行わなかった。
【図3】図3は、軟骨内の垂直方向の深度の関数としてPC濃度を示すグラフであり、ここで、5mM HB中のDMPC−MLV(直径0.8〜3.5μm)141mM(■);5mM HB中のDMPC−SUV(直径約100nm)141mM(▲);または5mM HBのみ(x);の存在下で軟骨の試験片を同様の摩擦検査を行い、ディスク状にスライスし、軟骨深度の関数としてのDMPC濃度を試験した。
【図4】図4A−Fは、潤滑媒体および摩擦試験の有無による軟骨試験片の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。コントロール用の試験片のSEM電子顕微鏡写真は、摩擦試験なしである。図4Aは、表面において自然に生じた液体ベシクル構造を示している健康な軟骨の電子顕微鏡写真であり(×3000);図4Bは、関節軟骨の電子顕微鏡写真であり(×3000);健康な軟骨を以下に挙げる潤滑剤の存在下で摩擦試験した:食塩水(×6000、図4C);ISF(×800、図4D);DMPC−SUV(×800、図4E);およびDMPC−MLV(×6000、図4F)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、(i)ヒト軟骨−軟骨器具(Merkher,Y.et al.(40))を用いた摩擦係数測定、(ii)電子顕微鏡(SEM)に基づいた軟骨の形態学的研究、(iii)軟骨の定量的リン脂質およびホスファチジルコリン(PC)の決定、および(iv)様々なPCベースリポソームの物理化学的特性、の組み合わせの結果に基づいており、SO(秩序固体)からLD(無秩序液体)への相転移温度よりわずかに高い(例えば、約1℃、2℃、3℃、5℃、8℃、11℃、および、場合によっては約15℃まで)温度まで、効果的な軟骨潤滑剤および摩擦低減剤として、低イオン強度のHBで拡散させた、DMPC−MLVおよびDMPC/DPPC−MLV(モル比0.6/1.0)など、大きな多層状ベシクル(直径が0.3μmより大きい)のポテンシャルを示している。
【0024】
最初に、完全に飽和させるか、または、不飽和度を変化させた、14〜22個の炭素からなる2つの炭化水素鎖を有する各種PCから構成された多層状リポソームの潤滑効率を、好適な長さに示されているC12−C16炭化水素鎖と比較した。
【0025】
次いで、最も効率的な単一の組成潤滑剤を用いて、DMPC、リポソーム寸法の効果、層構造、mPEG−DSPEまたは付加的なPLをDMPCリポソームの脂質二重層に組み込むことの効果を調査した。SOからLDへの相転移温度よりわずかに高い温度で潤滑剤として使用されるとき、DMPC−MLVまたはDMPC/DPPC−MLV(直径が0.8−3.5μm)などMLVは、最も効率がよかったことを上記調査は示した。このことは、24℃(SO相)での性能と比べて、SOからLDへの相転移温度の範囲、すなわち、T=約34℃よりわずかに高い、37℃でのDMPC/DPPC−MLVの性能によって裏付けられた。
【0026】
以下に提示する結果によって、さらに、次のことが示される:
【0027】
リポソーム性生物活性剤組成物の1つの好適な成分として特定されているDMPC(単独で、あるいは、DPPCと組み合わせた場合)は、Tが生理学的温度(DMPC−MLVのT=23.2℃、DMPC/DPPC(モル比が0.6/1.0)のT=約34℃を使用)よりもわずかに低い、長さが中程度の飽和アシル鎖を有し、従って、両方のPL組成物は、37℃で無秩序液体(LD)相中のリポソームを提供し、ここで、その極性頭部器は高度に水和されている(SO相中でTより低い場合、1頭部基あたり<4.3水分子と比較して、約9.7水分子/DMPCまたはDPPC頭部基)(53);
【0028】
以下に提示する断熱圧縮データは、秩序固体(SO)相(K値が低い)のPCとLD相(K値がより高い)のPCとの差異、および、LD相の優位性を示している。温度転移型の挙動とよく相関する(54)、部分的に断熱性のある液体二重層の圧縮性(K)は、水和、物理状態、液体二重層のキャビティ体積(自由体積)のレベルに影響を与えることがわかった(45)。PC頭部基と相互作用する結合水分子によって、二重層のキャビティ総体積に影響がでて、従って、分子間相互作用および断熱圧縮性に影響を与えることが考えられる。特に、DOPCおよびDMPCの両方は、24℃および37℃のLD相(下記の表1のTより高い)にある。しかしながら、表2は、DMPCリポソームの潤滑能力が、DOPCのものより実質的に優れていることを示している。理論に拘束されなければ、DMPCとDOPCの挙動の違いは、生理学的条件、すなわち36℃乃至43℃の温度で、DMPCはTよりもわずかに高いという事実のみにあると考えられる。さらに、手の骨液ジョイントに関する温度は、約28℃程度でもよい。このような条件下でも、DMPCはTよりわずかに高い。さらに、DMPCは、安定なリポソームを形成できる極めて短いアシル鎖を有するPCであり、従って、本明細書で実験した全ての単一成分PC二重相の中から機械的に「最も柔軟(soft)」な二重層を具えることができる(44)。
【0029】
DMPC/DPPC(0.6:1.0モル/モル)混合物からなるMLVの潤滑能力は、混和性(miscibility)およびほぼ理想的な混合特性を有し、混合SO相LD相転移温度は約34℃である。DMPC/DPPC−MLVは、37℃の高い潤滑効率を示した(静摩擦係数および動摩擦係数がそれぞれ0.017および0.0083)が、24℃(それぞれ0.042および0.021)では示さず、比較としてDPPC−MLV単独(Tは41.4℃)では、37℃では劣っていた(静摩擦係数および動摩擦係数はそれぞれ0.029および0.022であった);
【0030】
DMPC−MLVの「柔軟性」および水和レベルは、軟骨潤滑における上記特徴の変化の影響を受ける。製剤中の第1の変更は、約33モル%のコレステロールをリポソーム膜内に注入することを含む。下記に示されるように、これによって、LD相から秩序液体(LO)相への物理的転移となる(34)。このような変化は、液体二重層を「ドライ」することとして知られており(56)、断熱圧縮性の低下に影響を与え、従って、二重層の柔軟性にも影響を与える。従って、DMPC/コレステロール−MLVを用いた軟骨の潤滑は、実質的に、DMPC−MLVを用いた軟骨の潤滑よりも実質的劣っていた(表3または図1)。他の変更においては、5モル%のリポポリマmPEG−DSPEをDMPC−MLVの脂質二重層に導入した。リポソーム表面から4−10nm伸長しているPEG部分(ポリマ鎖の状態に応じて、マッシュルームまたはブラシ構成で存在する(39))は、とてもフレキシブルであり、高度に水和している(エチレンの酸素基あたり3〜4の水分子)(45)。しかしながら、mPEG−DSPEをDMPCリポソームに添加することで潤滑は改善せず(図1)、このことは、潤滑における水和の役割とは矛盾しないと考えられる。このことは、極性が高くてもPEG部分は非イオン性であるので、その水和は、イオン性のPC頭部基水和とは異なるという事実によって説明できる。これらのグラフトPEG部分は、HAの軟骨保護作用と同様に、リポソームが間質液(interstitial fluid)のマクロ分子と相互作用するのを防ぐことができるので、インビボにおいて有益であることに留意されたい(22)。
【0031】
種々の媒体(食塩水、ISFおよび低イオン強度のHB)によって得られる摩擦係数は、HBが食塩水およびISFよりも優れていたことを示した(表2および図1)。さらに、HBを用いて潤滑した軟骨試験片の総PL濃度は、ISFを用いて潤滑した軟骨のものよりもほぼ2倍であり、食塩水を用いて潤滑下軟骨のものよりも実質的に高かった(図2)。HBは天然の軟骨SAPLをより良く保持することができ、従って、潤滑を改善することができることが示唆されている。食塩水よりもHBの方が優れていることは(図1)、脂質二重層においてより小型のPLパッケージングを誘導する、より低い低イオン性強度によって説明でき、従って、摩擦イベント後に迅速に二重層を回復することができる(34,57)。このことは、さらに、有効な潤滑に主な役割を果たすものとして二重層の柔軟性の重要度を支持する。これらのことから、HBは、潤滑剤としてリポソーム用の有効で支持的な(supportive)媒体であることが明らかとなった。
【0032】
大きな多層DMPC−MLVは、小さな単層リポソームよりも優れていることがわかった(<100nm)。理論に拘束されなければ、このことは本発明の創作に必要ではないので、この優位性は、前者が軟骨表面付近に保持されることに由来すると考えられ、大きなMLV寸法(直径が0.8−3.5μm)により、軟骨深度に沿ったPC分配(図3)によって証明される。Maroudas et al.は、軟骨中のコラーゲンファイバ間の100nmギャップの存在を報告している(50)。StockwellおよびBarnett(51)、ならびに、BarnettおよびPalfrey(52)は、これらのファイバは、大きな粒子が軟骨を侵入するのに対してバリアとして作用することを記載しており、小さな銀のタンパク質化合物粒子が、大きな粒子よりも深く軟骨に侵入することを報告している。ここに提示されたこれらの結果は、より小さなDMPC−SUVは、軟骨により深く侵入し、これに対して、DMPC−MLVは表面付近で保持される(図3)。このことは、HB中のDMPC−SUVを用いて潤滑した軟骨から得られる摩擦レベルと同様であることと一致し(図1)、DMPC−SUVは、軟骨に深く侵入し、潤滑の効果は、主に、媒体(すなわち、HB)によるものです。
【0033】
天然の球状構造は、摩擦試験を実行する前に、DMPC−MLVの寸法範囲において、健康的な非潤滑軟骨の表面に存在し(図4A)、食塩水またはISFを用いて潤滑した健康な軟骨の摩擦試験後には存在しない(それぞれ図4Cおよび4D)と考えられることがSEMによる形態研究からわかった。摩擦試験の実行後、DMPC−MLVを用いて潤滑した軟骨試験片は、その表面に球状脂質構造を保持すると考えられる(図4F)。
【0034】
これらの結果を考慮すると、グリセロリン脂質(GPL)およびスフィンゴリン脂質(SPL)から選択されるリン脂質(PL)は、摩擦を低減することができ軟骨の摩耗を防ぐ天然の脂質球状構造の潜在的な代替物であることがわかった。
【0035】
さらに、GPL、SPLまたはこれらの混合物を具えるリポソームが、軟骨表面付近にある場合、リポソーム形成リン脂質は、軟骨表面をコーティングする保護脂質二重層を貯める貯蔵(reservoir)として機能し、従って、他の潤滑剤および媒体を用いて潤滑した軟骨と比べて、DMPC−MLVを用いて潤滑した軟骨で、より高いPL総濃度によって示唆されるように、天然のPLの貯蔵を支援することがわかった(図2)。
【0036】
本発明のいくつかの実施例によれば、GPLは、ホスホコリン頭部基(ホスファチジルコリン、PCベースの脂質)またはホスホグリセロール頭部基(ホスファチジルグリセロール、PGベースの脂質)を保持し、SPLは、Nアシルスフィンゴシル−ホスホコリンとも呼ばれる、ホスホコリン頭部基を保持するセラミド(N−アシルスフィンゴシン)である(SMベースの脂質)。
【0037】
脂質ベースの技術に熟達した者ならば理解されるように、PCおよびSMは、双極性リン脂質であり、陽イオン性のコリンおよび陰イオン性のリン酸ジエステルの部分(ホスホコリン頭部基を構成する)は、実質的な電荷がなく(ゼータ電位=0mV)、幅広いpH範囲を超えて、完全にイオン化される(34)。PGは、負のゼータ電位から明らかなように、広いpH範囲に亘って、負に荷電される。PCおよびPGの疎水性部分は、2つの炭化水素鎖(アシルおよびアルキル)を含む。SMは、さらに、2つの疎水性の炭化水素鎖を有し、これらの一方は、スフィンゴベース自体の鎖であり、他方は、Nアシル鎖である。炭化水素鎖が12炭素原子以上であるPC、SMおよびPGは、すべて、形状がシリンダー状であり、そのパッケージングパラメータは、0.74−1.0の範囲である。これらは、SOからLDへの相転移より上で、高度に水和する脂質二重層を形成し、ベシクル化して脂質ベシクル(リポソーム)を形成する(34,35)。PCおよびPGリポソーム二重層は、秩序固体(SO)相(ゲルまたは固体相として既に呼んでいる)、または、無秩序液体(LD)相(液晶または流体相として既に呼んでいる)でもよい(34)。SO相からLD相へのトランスフォーメーションは、主な相転移として呼ばれる、吸熱的一次相転移を含む。Tは、SOからLD相転移が生じる間、熱容量の最大変化が変化する温度である。PCのSOからLD相転移のTおよびその温度範囲は、特に、PCの炭化水素鎖の組成物に関連している。LD相において(SO相ではなく)、荷電したホスファチジルコリンおよびホスホグリセロール頭部基は高度に水和する。
【0038】
PGおよびSMは、対応するPCのTと同様のTを有する(置換炭化水素鎖の長さが同じ)ことも留意されたい。例えば、DMPGのTは、DMPCのものと同一であり、すなわち23℃であり、DPPGまたはN−パルミトイルSMはDPPCのものと同一であり、すなわち、41℃である。従って、以下の実験例では、PCベースの脂質を使用する一方で、本発明によるPLは、PGまたはSMベースの脂質でもよい。
【0039】
本発明によれば、インサイチュウの場合(健康なジョイントまたは機能不全なジョイントの関節領域において)、2又はそれ以上のPLの混合物(例えば、2つの異なるPC、PCとPG、2つの異なるPG、2つのSM、PCとSMまたはPGとSMなど)を利用することができるが、ただし、形成される混合物がLD状態であり、脂質頭部基が高次に水和している場合に限る。
【0040】
上述したことを考慮すると、本発明者らは、化学的に安定で、酸化耐性があり、HAのないジョイント部の潤滑用のリポソームシステムを開発した。
【0041】
従って、本発明の側面によれば、ジョイント部の潤滑用の、グリセロリン脂質(GPL)またはスフィンゴ脂質(SPL)をから選択される少なくとも1つのPLを具えるリポソームの使用を提供する。
【0042】
本発明の別の側面によれば、ジョイント部の潤滑用の医薬組成物を調製するための、グリセロリン脂質(GPL)またはスフィンゴ脂質(SPL)から選択される少なくとも1つのPLを具えるリポソームの使用を提供する。
【0043】
2つの側面によるリポソームが特徴付けられるのは、リポソームが、2つの、同一または異なるC12−C16炭化水素鎖を有するグリセロリン脂質(GPL)と、C12−C18の炭化水素鎖を有するスフィンゴ脂質(SPL)と、からなる群の少なくとも1つのリン脂質(PL)を有する1又はそれ以上の膜を具える点である。秩序固体(SO)から無秩序液体(LD)へと相転移が生じる相転移温度は、約20℃乃至39℃の温度範囲内にある。リポソームは、相転移温度よりも幾分高いジョイント部の温度を有するジョイント部を潤滑するために使用される。従って、リポソームは、ジョイント部内のLD相である。ジョイント部の温度は、通常、相転移温度よりもわずかに高い(例えば、詳述したように、約1℃乃至15℃の範囲内)。
【0044】
一実施例において、前記C12−C16またはC12−C18疎水性鎖は飽和している。
【0045】
上記条件は、累積的であり、すなわち、リポソームに含まれるPL(単一のPLまたはPLと付加的なPLとの混合物)の選択であり、リポソームは、約20℃乃至39℃のSO−LD相転移温度を有する。
【0046】
本発明の付加的な実施例によれば、前記GPLまたはSPLを使用するリポソームシステムは、1又はそれ以上の次のものを包含する:
【0047】
GPLまたはSPLは、アルキル、アルケニルまたはアシルC12−C16の炭化水素鎖を有する。GPLの場合、2つの鎖は、同一又は異なっていてもよい。
【0048】
一実施例は、少なくとも1つのC14アシル鎖を有するGPLまたはSPLを保持したリポソームの使用に関する。
【0049】
他の実施例は、C14およびC16アシル鎖を有するGPLの使用に関する。
【0050】
他の実施例は、C16アシル鎖を有するSPLを保持したリポソームの使用に関する。
【0051】
他の実施例は、上記リポソームの混合物の使用に関する。
【0052】
いくつかのGPLまたはSPLはイオン性頭部基を有し、本発明の実施例によれば、この頭部基は、広いpH範囲にて高度にイオン化されている。広い範囲は、pH3乃至14によって規定される。
【0053】
GPLならびにSPLは高次に水和されており、すなわち、1脂質頭部基あたりの水分子の数が少なくとも約6、7、場合によっては、少なくとも8水分子であり、これらの水分子は、GPLまたはSPLのイオン化頭部基と複合体を形成している。
【0054】
GPLまたはSPLは、MLV(ならびに、上述した他のタイプのリポソーム)、好ましくは平均直径が0.3μmより大きいMLVを形成することができる。一実施例によれば、MLVは、0.3乃至5μmの範囲の平均直径によって規定される。他の実施例によれば、MLVは、0.8乃至3.5μmの範囲の平均直径によって規定される。
【0055】
コレステロールは、本明細書で規定されるように、GPL、SPLまたはその混合物から形成されるMLVの潤滑特性を低減することが知られているので、本発明に従って使用できるMLVまたは他の種類のリポソームは、コレステロールなど、その二重層中に膜活性ステロールを含むべきではない。膜活性ステロールは、膜内の短い脂質および長い脂質に影響を与え、体積を最小化し、膜透過性を減少させるものとして規定する。特に、ステロールは、1)フラットな融合環系、2)3位におけるヒドロキシまたはその他の極性の小さな基、3)「コレステロール様」テール部、4)1分子あたりの小さな面積(12mN/mの表面圧力での空気/水インタフェースに集成する場合、<40Å)を保持する。
【0056】
本発明の組成物は、好ましくは、プロピレングリコールを含有しないことに留意されたい。
【0057】
本発明の組成物は、好ましくは、デキストランを含まないことに留意されたい。
【0058】
1又はそれ以上の上記の実施例に包含されるGPLの特定の群は、ホスホコリン頭部基を保持するGPL(PCベースの脂質またはSMベースの脂質)を具える。本発明によれば、1つの好ましいPCは、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)である。
【0059】
本発明に従って使用されるPCベースの脂質の非限定的な例は、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPPC,T 41.4℃);1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(C15,T33.0℃)を具える。本発明によるSPLは、ホスホコリン頭部基を保持するスフィンゴミエリン(SM)を具え、非限定的な例は、N−パルミトイルSM(T41.0℃)および1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−PCを具える。各種PCベースの脂質のT値は、John R. Silvius「モデル膜における純脂質の温度相転移、および、膜タンパク質による修飾」、John Wiley & Sons,John「脂質−タンパク質相互作用(Lipid−Protein Interactions)」New York,1982、および、脂質温度相転移データベース−LIPIDATおよびMarsh(1990)(36)に記載されている。
【0060】
本発明によれば、MLVリポソーム(または本発明による有用なその他のリポソーム)は、SOからLDへの相転移のオフセット温度(上限)を有し、約20乃至39℃の範囲内において、インサイチュウ、すなわちジョイント部の温度から15℃以上高くない。本発明によれば、MLVリポソームは、GPL、SPLまたはその組み合わせから形成され、従って、上述したSOからLDへの相転移温度は、GPL、SPLおよびその組み合わせから形成されるMLVリポソームに関し、PLまたはその混合物がLD相であるリポソームを提供することができる。
【0061】
本発明によれば、特定の実施例において、天然の軟骨PL置換物の調製、すなわち、軟骨潤滑剤および摩擦低減剤として、DMPC−MLVまたはDMPC/DPPC−MLVの使用に関する。これらのMLVには実用的な利点もある。これらは、単純かつ低コストで調製できる。DMPCおよびDPPCの双方は、酸化ダメージに耐性があり、長時間安定である。さらに、これらのPCは、ヒトに使用できることが既に立証されている。一実施例によれば、DMPCおよびDPPCの混合物を用いて、DMPCとDPPCとのモル比は、ジョイント部の温度に関連しており、混合物のTがLD相中にMLVを提供できるように設計される。適宜な比の一例は、35乃至39℃のジョイント部の温度でLD相中にMLVを提供する、約0.6/1.0である。
【0062】
本発明の付加的な側面によれば、ヒトジョイント部を潤滑する方法を提供し、この方法は、骨液を含むジョイント部のキャビティに、潤滑効果を得るのに有効量のリポソームを投与するステップを具える。
【0063】
一実施例において、前記C12−C16またはC12−C18疎水性鎖は未飽和である。
【0064】
骨関節炎などのジョイント部の温度の低減またはジョイント摩耗に苦しむ患者のジョイント部の温度は、病気の進行と共に変化することに留意されたい(Hollander,J.L.;Moore,R.,「ヒドロコルチゾン注射に対する関節内温度応答を用いた骨関節炎の研究」Ann.Rheum.Dis.1956、15、(4)、320−326)。実際、このような温度変化を骨関節炎の炎症を評価するために治療ツールとして使用した(Thomas,D.;Ansell,B.M.;Smith,D.S.;Isaacs,R.J.,サーミスタ示差温度計を用いたひざのジョイント部の温度測定、Rheumatology 1980,19,(1)、8−13)。骨関節炎患者の手のジョイント部の温度は、約28から約33℃で変化することが示されており(Varju,G.;C.F.;Renner,J.B.;Kraus,V.B.,「手の骨関節炎の評価:サーモグラフィック法とラジオグラフィック法の相関」Rheumatology2004、43、915−919)、健康な側頭下顎骨のジョイント部(TMJ)の温度は、約35から37℃で変化する(Akerman,S.;Kopp,S.,ヒト側頭下顎骨ジョイント部の関節内および皮膚表面温度。Scand.J.Dent.Res.1987、95、(6)、493−498)。
【0065】
従って、本発明によれば、GPLまたは付加的PLとの混合物は、これらを用いて潤滑されるジョイント領域であるインサイチュウで、LD相であることは必須であり、実際、必要条件である。
【0066】
本発明の方法は、ジョイント機能不全に関連した関節障害または症状を治療、軽減、抑制、阻止、管理または治癒するために使用することができる。開示を目的とするために、用語「関節障害(articular disorder)」は、あらゆる苦痛(先天的、自己免疫またはその他)、創傷、または、ジョイントの変性、痛み、可動性の減少、炎症または生理学的崩壊および機能不全を生じさせる関節領域の疾患を意味する。この障害は、ジョイント分泌および潤滑の低減、ならびに、膝および股関節の置換術の合併症に関連している。
【0067】
本発明によればジョイント部は、膝、臀部、くるぶし、肩、肘、足根骨、手根骨、指節間および椎間の1つでもよい。
【0068】
特定の関節障害は、限定するものではないが、リウマチ様関節炎、骨関節炎、リウマチ患者の骨関節炎、外的障害性ジョイント障害(スポーツ障害を含む)、固定されたジョイント(側頭下顎骨ジョイントなど(TMJ))、関節穿刺、関節鏡手術、オープンジョイント外科手術、哺乳類、好ましくはヒトの接合(joint)(例えば、膝または股関節置換術)後の状態を含む、関節炎から生じるジョイント分泌および/または潤滑の欠失、を含む。
【0069】
本発明の方法は、将来、損傷したり変性するのを防ぐために、予防の手段として使用することができる。例えば、PLベースのMLVリポソームは、アスリートのそのキャリアにおいて断続的に関節内に投与し、損傷または軟骨の変性に関連したストレスの危険性を最小限にすることができる。
【0070】
本発明の方法は、抗炎症剤、鎮痛剤、筋弛緩剤、抗うつ剤、または、関節炎など、ジョイント硬化に関連した障害の治療に一般的に使用されるジョイント部の潤滑を促進する薬剤を排除して、あるいは、添加剤として使用することができる。複合型の治療手段は、ジョイント部潤滑の低減に関連した骨関節炎など、障害を予防、管理または治療するために一般的に使用される非ステロイド、抗炎症薬(NSAID)など、薬剤に関連した副作用を低減するのに有効である。安全性を向上させるのに加えて、複合型の治療手段は、治療効率の向上に有利である。
【0071】
患者の関節キャビティへのリポソームの投与は、関節内注射、関節鏡を用いた投与または外科的投与からなる群から選択される方法によってなされる。
【0072】
さらに、本発明は、本発明の他の側面によって、薬学的に許容される賦形剤と、本発明で規定したGPLまたはSPLから選択される少なくとも1つのPLを含むリポソームと、を具えるジョイント部の潤滑用の医薬組成物を提供する。
【0073】
一実施例によれば、生理学的に許容される賦形剤は、ヒアルロン酸(HA)またはヒスチジン緩衝液(HB)である。組成物は、Klein、2006(31)などに記載されているポリマを含むことができる。
【0074】
本発明による組成物は、好ましくは、関節内注射、関節鏡を用いた投与または外科的投与から選択されるルートによる投与に適した形態である。
【0075】
組成物中のリポソームの量は、リポソームのPL組成物、疾患、重症度、および、治療する哺乳類の年齢、体重などに関連した治療措置、に相関して変化する。ここでの目的の量は、当分野で周知なように、検討することによって決定される。この量は、治療されたジョイント部の潤滑が改善するのに有効な量でなければならず、すなわち、ジョイント部を形成する軟骨間の摩擦を低減し、この改善は、臨床検査ならびに前記治療を受ける健康な対象における改善によって示される(例えば、痛みのあるジョイント部において痛みが軽減し、可動性が改善する)。有効量は、通常、大まかに設計した臨床試験(投与量範囲の研究)および当分野の当業者であれば、有効量を決定するために、どのような試験を適正に行えばよいか理解されるであろう。
【0076】
本明細書の記載および請求項に亘り、単数を示す、1つ、これ(「a」、「an」および「the」)は、特段の指定がない限り、複数も含む。従って、例えば、1つのPL(「a PL」)は、1又はそれ以上のPLを意味し、「リポソーム」は、1又はそれ以上のリポソームを意味する。本明細書の記載および請求項に亘り、複数を示す単語は、特段の指定のない限り、単数を意味することも含む。
【0077】
さらに、本明細書の記載および請求項に亘り、「具える」および「含む」およびこれらの単語の変形、例えば「具えている」、「具えた」は、「限定するものではないが具える」、および、その他の部分、添加物、成分、完全体(integer)またはステップを除外することを意図しない(除外しない)こと、を意味する。
【0078】
本発明は、非限定的な例によって説明される。
【0079】
非限定的な例の説明
材料および方法
脂質:この研究で使用される脂質およびその供給源を図1に記載する;全てが純度>98%である。さらに、表1は、秩序固体(SO)から無秩序液体への相転移温度T、および、37℃での二重層を示す(34−36)。
【0080】
水:WaterPro PS HPLC/限外ろ過ハイブリッドシステム(Labconco、カンザスシティ、ミズーリ州)を用いて水を精製し、炭素および無機イオンの総量が低レベルで、発熱物質(pyrogen)のない水を得た(18.2MΩ)。
【0081】
試薬:使用する全ての試薬は、 分析用のグレードまたはそれ以上のものである。
【0082】
リポソーム:多層リポソーム(MLV)を第3級ブタノール中の所望の液体に溶解することで調製し、次いで、凍結乾燥することでドライ「ケーキ」を形成する。これを、Tより少なくとも5℃高い温度で、pH6.7の低イオン性強度(5mM)のヒスチジン緩衝液(HB)中で水和した(34)。必要であれば、MLVは、ポリカーボネート膜を介して段階的に押し出すことによって小型の単一層ベシクルを形成するようにダウンサイズすることができ(<100nm、SUV)、Tより少なくとも5℃高く加熱した10mLの押し出しシステム(Northern Lipids、バンクーバ、カナダ)を用いて、400nmから始めて、50nmポア寸法の膜とすることができる(37)。
【0083】
軟骨潤滑の最初のスクリーニングは、様々なPC組成物−DMPC、DPPC、HSPC、DBPC、DOPCおよびPOPC(簡略化のため表1参照)のMLVを用いて実行した。このスクリーニングにおいて、DMPCリポソームが最も優れた摩擦低減剤として作用したことがわかった(表2)。従って、DMPCベースのリポソームを、さらに、様々な寸法および層のDMPCのみ、DMPC/DPPC(モル比が0.6:1.0)、DMPCとコレステロール(モル比が2:1)、または、DMPCとリポポリマmPEG−DSPE(モル比が95:5)からなるリポソームと比較して調査した。使用されるmPEG−DSPEは、第1級アミノ基のジステアロイルホスファチジルエタノールアミンに結合した2000ダルトンのポリエチレングリコールからなる。
【0084】
リポソームの特徴:リポソームは、
(i)修正版バートレットアッセイを用いた(37,38)のリン脂質(PL)濃度、
(ii)サイズ分布であって、ALV−NIBSの高性能粒子寸法測定器(Langen、ドイツ)を用いた173°の散乱角度の動的光散乱による1μm未満のリポソームと、40nm〜2000μmの動的検出範囲となる偏光強度差散乱(polarization intensity differential scattering(PIDS))を備え付けたBdeckman Coulter LS Particle Size Analyzer 13−320(フラートン、カリフォルニア州)を用いた光回析による、400nmより大きなリポソームと、のサイズ分布と、
(iii)部分特異的断熱圧縮性であって、Barbuzenko et al(39)に記載されているように(39)、リポソーム散乱の密度(オーストリアのグラーツにあるAnton Paar社のDMA5000密度メータを用いる)と、リポソームを通過する5MHzの超音波の速度(イスラエルのエルサレムにあるNDT Instruments社のUCC−12超音波速度計を用いる)と、から計算した、部分特異的な断熱圧縮性と、
(iv)走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた、構造と、
を特徴とする。
【0085】
軟骨:健康なヒトまたは骨関節炎のヒト(65歳から86歳)の関節軟骨を、大腿骨頭骨折手術または総合股関節置換術から得た。軟骨のフルプラグ(直径が4および8mm、約1.5cm厚さ)を、大腿骨頭の負荷のかかる領域から取り外して、1320Leica凍結マイクロトームを用いて、骨側面で実質的に除去し、厚さ2mmのフラットな軟骨ディスクとなり、−20℃で保管した。
【0086】
摩擦および摩耗試験:HBに分散させた、幅広く寸法および濃度を包含するリポソームを、24℃および37℃のヒト軟骨の2つのディスク間の摩擦および摩耗を低減する潜在的な潤滑剤としてスクリーニングした。摩擦測定は、軟骨−軟骨(cartilage−on−cartilage)器具を用いて行い(Merkher,Y.;Sivan,S.;Etsion,I.;Maroudas,A.;Halperin,G.;Yosef,A.,ヒト軟骨−軟骨器具を用いた合理的なヒトジョイント部摩擦試験。Tribol.lett.2006,22,29−36、参照することでその全体を本明細書に組み込む。)、HB中に分散したリポソームに浸した軟骨の2つのディスクと、コントロールとして、HBのみ、生理食塩水(0.9%重量/体積、pH5.0;Teva Medical、イスラエル)、または、骨関節炎患者から得られる炎症性の骨液(ISF)、を用いた。これらのディスクを、ジョイント部の生理学的圧力(0.08乃至2.4MPa)に等しい負荷(1乃至30N)の広い範囲に亘って、相対的すべり(sliding)にかけた。各種すべり速度(0.5乃至2mm/s)および静止時間(5乃至300s)を使用し、各種負荷とともに、生理学的可動範囲をシミュレーションした。
【0087】
摩耗を評価するために、軟骨中のPL総濃度および軟骨表面の構造の摩擦試験の結果を決定した。
【0088】
PL抽出および定量化:総PLを、BlighおよびDyerの抽出方法(41,42)を用いて、潤滑試験の前後に、軟骨試験片から抽出した。このために、軟骨試験片をクロロホルム−メタノール溶液(1:1 v/v)中で37℃1時間培養した。水を加えて、最終的にクロロホルム−水−メタノール比が1:1:1として、この溶液を1分間ボルテックスして、次いで卓上遠心機を用いて遠心して、2相が形成された。PLを含有するこのクロロホルムリッチな低い方の相を回収し、真空下(コセントレータ5301、Eppendorf)で回収し、残り(液体を含む)を少量のクロロホルム−メタノール溶液(2:1 v/v)に再溶解し、次いで、低リン酸シリカゲルTLCガラスプレートに充填した(ユニプレート、シリカゲルG、デラウェア州ニューアークにあるAnaltech社)。クロロホルム−メタノール−水(65:25:4 v/v/v)溶媒システムをTLCに使用した(41)。スフィンゴミエリン、PCおよびPCの商業的入手可能なマーカーも、スポット識別用にプレートに充填した。UV検出可能なプリムリン(primulin)(Sigma)溶液(1mLの水中溶解0.1%w/vプリムリンを100mLのアセトン−水、4:1 v/vに加えた)を用いて乾燥したTLCプレートに噴霧した後、液体スポットを検出した。各PLスポットをTLCプレートからかきとり、そのPL含有率を修正版バートレット法によって定量化した(37,38)。
【0089】
軟骨深度の関数としてPL濃度を定量化した。このために、軟骨表面内側から、軟骨面に平行に、軟骨試験片をミクロトームで切断して、厚さ20または50μmのスライスにした。上述したように、修正版バートレット法によってPLを抽出した後、各スライスのPL濃度を定量化した。
【0090】
軟骨構造:軟骨構造を電子顕微鏡(SEM)で試験した。試験片を液体窒素中で急速冷凍することによって保存し、48時間真空下(約15mbar)で保持し、過剰な水分を除去した。次いで、試験片をスタブ(stub)にとりつけ、Polaron E5100Sputter Coater(Warford、イギリス)中で金でスパッターコーティングした。30kVの加速電圧を使用し、FEI Quanta200スキャン電子顕微鏡システム(Polaron)を用いて試験片を試験した。
【0091】
結果
試験した表面活性リン脂質(SAPL)は、軟骨および骨液に天然に存在するホスファチジルコリンだった。
【0092】
軟骨潤滑および摩耗低減用のリポソームのスクリーニングは、(表1の材料および方法に記載されるように)各種単一成分のPCからなるMLVを用いて得られる静摩擦係数および動摩擦係数の比較を含んだ。例示したPCは、特にTおよび物理状態など、リポソームの基本的特性を決定するアシル鎖が異なる。
【0093】
種々のPC組成物のリポソームのスクリーニング:種々のPC(DMPC、DPPC、HSPC、DBPC、DOPCおよびPOPC)からなるMLV(直径が0.8乃至3.5μm)をスクリーニングすることで、24℃および37℃の両方で、DMPCが最も性能の良い軟骨潤滑剤だったことがわかった(表2)。リポソーム分散媒体に関して、HBの潤滑効率は、食塩水またはISF(表2および図1)のものより優れていることがわかった。さらに、HBに分散されたリポソームは、食塩水に分散されたリポソームよりも優れた潤滑剤だった(データは示さず)。
【0094】
いつかのDMPCベースのリポソームを用いて潤滑した軟骨の摩擦および摩耗:リポソーム寸法および層の効果を研究するために、多層DMPCリポソーム(DMPC−MLV)の潤滑効率を、<100nmの単層DMPCリポソーム(DMPC−SUV)のものと比較した。さらに、コレステロールやmPEG−DSPEなど、一般的なリポソーム成分であるが、リポソームを形成しない脂質の豊富なDMPC−MLVの軟骨潤滑剤としての効率を実験した。約1.2のパッケージングパラメータ(39)を有するコレステロールを、約33モル%で加え、DMPC/コレステロール−MLVを形成し、従って、秩序固体相(SO、PLがT以下のとき)または無秩序液体相(LD、PLがT以上のとき)から、秩序液体(LO)と呼ばれる新しい物理的な相へと脂質二重層のトランスフォーメーションを生じさせた(43,44)。これにより、潤滑に関して、3つの異なる二重層、LD、SOおよびLOで、リポソームの効果を比較することができた。DMPC−MLVに加えられた他の成分は、約0.5の比較的低いパッケージパラメータを有するリポポリマmPEG−DSPEであり、リポソームを囲む高度に水和して膨張した立体的バリアとなった(39,45)。mPEG−DSPEを5モル%で加えて、DMPC/mPEG−DSPE−MLVを形成した。
【0095】
HB中のDMPC−MLVの静および動摩擦係数(それぞれ、0.020および0.011)は、図1に示されるように、HB中のDMPC/コレステロール−MLV(それぞれ、0.040および0.036)またはHB中のDMPC/mPEG−DSPE−MLV(それぞれ、0.022および0.023)を用いて得られるものよりも低く、健康な骨液ジョイントに存在する摩擦係数の低さと同様だった(46)。さらに、DMPC−MLVを用いて潤滑した軟骨の静および動摩擦係数は、HB単独のものよりもわずかに低い(それぞれ0.053および0.037)、DMPC−SUVを用いて潤滑した軟骨のもの(それぞれ、0.045および0.036)よりも低かった(図1)。
【0096】
Studentのt検定による静的評価は、このアッセイおよび媒体で試験した他のリポソーム製剤よりも、DMPC−MLVが優れていることを示した(p<0.008)。
【0097】
脂質二重層の圧縮性:部分特異的な断熱圧縮性、Kは、摩擦および摩耗低減剤としてリポソームの効率に重要な役割を果たすと仮定できる(45)、脂質二重層の物理相(SO、LDまたはLO)と、その水和状態と、の両方の尺度(measure)である。37℃で決定されたDMPC、DPPCおよび水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)のK値は、それぞれ、50.7、31.2および33.3×10−6mL/(g−atm)であった。K値が幾分低い46.4、28.0および30.3×10−6mL/(g−atm)を有する同様のプロファイルは、それぞれ、24℃でのDMPC、DPPCおよびHSPCに見られた。これらのK値は、DMPCの相転移温度、T(23.2℃)よりもDPPCおよびHSPCの相転移温度、T(41.4、52.5℃)がより高いことを反映している。5モル%のmPEG−DSPEをHSPCリポソーム(T、53℃)に導入することで、24℃および37℃でのそれぞれの圧縮性が32.8および35.5×10−6mL/(g−atm)に上昇した。一方、HSPC/コレステロールリポソーム(モル比2:1)においては、Kは、24℃および37℃で30.0および33.6×10−6mL/(g−atm)に低下する。
【0098】
理論に拘束されなければ、上述の結果は、MLV二重層の物理相が、軟骨の生物学的潤滑に重要であり、潤滑に最適な条件は、SOからLD相への相転移温度(T)よりも高すぎないLD相であることを示唆する。この仮説を更に検証するために、発明者らは、0.6/1.0(モル/モル)のDMPC/DPPCからなるMLVを試験した。この組成物は、Tが約34℃を有するリポソームを形成できるように選択した(47)(2つのPCをほぼ理想的に混合することで可能となる)。これらのMLVを24℃および37℃で実験した。これらの結果は、上記仮説を明確に指示しており、図1に示されるように、DMPC/DPPC−MLVは、37℃で最も有効な潤滑剤であるが(静および動摩擦係数はそれぞれ0.017および0.0083)、24℃では違った(静および動摩擦係数は、それぞれ0.042および0.021)。さらに、DMPC/DPPC−MLVは、37℃で劣っていた(静および動摩擦係数がそれぞれ0.029および0.022)DPPC−MLVのみ(T=41.3)よりも優れていた。
【0099】
潤滑した軟骨試験片のPL濃度:健康な軟骨試験片(厚さが約1200μm)のPL総濃度(リポソームの天然のSAPLおよびPLを含む)を、種々の潤滑剤および媒体の存在下で摩擦試験を行う前と後で、測定した。DMPC−MLVで潤滑した軟骨中のPL総濃度は、検査した全ての試験片中で最も高かった。健康な対象から得て、HBを用いて潤滑した軟骨のPL濃度は、食塩水又はISFを用いて潤滑した同様の軟骨の濃度よりも高く、後者(ISF)は、骨関節症の患者から得た軟骨の濃度と同様のPL濃度であった。
【0100】
軟骨へ浸透するリポソーム寸法および層の効果:両方ともHBに分散させたDMPC−MLVおよびDMPC−SUVで潤滑した試験片、および、HBのみ(コントロール)を用いて潤滑した試験片を摩擦試験した後に、軟骨深度の関数としてのPC濃度(0乃至800μm、インクリメントは20乃至50μm)を測定した。これらの試験片の中で、DMPC−MLVを用いて潤滑した軟骨は、軟骨表面付近で最も高いPC濃度を有していた(図3)。PC濃度は、深度約100μmで最大に達し、それ以下では減少した。一方、DMPC−SUVを用いて潤滑した軟骨において、最も高いPC濃度は、軟骨内のより深い深度(約600μm)で生じ、表面でのPC濃度は、コントロール(HBで潤滑した軟骨)のものと同様だった。
【0101】
軟骨形態:SEMを使用して、軟骨表面の形態および摩耗を研究した(28)。図4において、私達は、種々の処置を施した軟骨試験片のSEM画像を示している。2つのコントロール用試験片(図4Aおよび4B)は摩擦検査をせずに、一方、軟骨の他の全ての試験片(図4C−図4F)を健康な人から得て、種々の潤滑剤の存在下で同一の摩擦検査を行った。図4Aは、健康な軟骨を示しており、Ohnoおよびその共同研究者によってラット軟骨の表面において既に示されるように(24,48)、天然の球状脂質構造が多孔性表面に分散している。他方、骨関節症の軟骨の表面にはこれらの構造は欠損しており(図4B)、食塩水(図4C)またはISF(図4D)を用いて潤滑して摩擦試験した健康な軟骨を示しており、これらの潤滑による摩耗に対する保護が弱かったことを示している。DMPC−SUVで潤滑した軟骨の表面には(図4E)、極めてわずかな脂質構造が摩擦試験後に観察される。DMPC−MLV(図4F)の場合、健康な軟骨のものと類似した大きな脂質構造が摩擦試験後に存在している。
【0102】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソームの使用において、前記リポソームは、2つの同一または異なるC12−C16炭化水素鎖を有するグリセロリン脂質(GPL)と、C12−C18の炭化水素鎖を有するスフィンゴ脂質(SPL)と、からなる群の少なくとも1つのリン脂質(PL)を含んだ1又はそれ以上の膜を具え、前記1又はそれ以上の膜は、秩序固体(SO)から無秩序液体(LD)への相転移が生じる相転移温度を有し、当該相転移温度は、約20℃乃至39℃の温度内にあり、前記使用は、前記相転移温度より高いジョイント部の温度を有するジョイント部の潤滑に適していることを特徴とする使用。
【請求項2】
リポソームの使用において、前記リポソームが、2つの同一または異なるC12−C16炭化水素鎖を有するグリセロリン脂質(GPL)と、C12−C18の炭化水素鎖を有するスフィンゴ脂質(SPL)と、からなる群の少なくとも1つのリン脂質(PL)を含んだ1又はそれ以上の膜を具え、前記1又はそれ以上の膜は、秩序固体(SO)から無秩序液体(LD)への相転移が生じる相転移温度を有し、当該相転移温度は、約20℃乃至39℃の温度内にあり、医薬組成物の調製に関して、前記相転移温度より高いジョイント部の温度を有するジョイント部への投与に適していることを特徴とする使用。
【請求項3】
前記GPLが2つのC14又はC16アシル鎖を具えることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
少なくとも1つの前記炭化水素鎖が、飽和炭化水素鎖であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記2つの炭化水素鎖が飽和していることを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記PLがホスファチジルコリン(PC)であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記PCがジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)であることを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記PCが、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPPC)を具えることを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項9】
前記PCがDMPCおよびDPPCを具えることを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項10】
前記リポソームが多層ベシクル(MLV)であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記リポソームが約0.3μmから約5μmの間の平均直径を有することを特徴とする請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記SPLがスフィンゴミエリンであることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記PLの頭部基が、1頭部基当たり少なくとも6つの水分子と複合体を形成することを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記ジョイント部の温度が前記相転移温度より1乃至15℃高いことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記リポソームが、関節内注射、関節鏡を用いた投与または外科的投与用に製剤化されることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
関節障害またはそこから生じる症状の治療に適していて、前記関節障害が、関節炎、骨関節炎、リウマチ様関節炎患者の骨関節炎、外傷性ジョイント障害、固定されたジョイント部、スポーツ障害、ならびに、関節穿刺、関節鏡手術、オープンジョイント外科手術およびジョイント置換術後の状態、から選択されることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
哺乳類のジョイント部を潤滑する方法において、
ジョイント部温度を有するジョイント部のキャビティに、治療有効量のリポソームを投与するステップを具え、前記リポソームは、2つの同一または異なるC12−C16炭化水素鎖を有するグリセロリン脂質(GPL)と、C12−C18の炭化水素鎖を有するスフィンゴ脂質(SPL)と、からなる群の少なくとも1つのリン脂質(PL)を含んだ1又はそれ以上の膜を具え、当該1又はそれ以上の膜は、秩序固体(SO)から無秩序液体(LD)への相転移が生じる相転移温度を有し、当該相転移温度は、約20乃至39℃の温度内にあり、前記相転移温度が、前記ジョイント部の温度よりも低いことを特徴とする方法。
【請求項18】
前記GPLが、2つのC14またはC16のアシル鎖を具えることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1つの前記炭化水素鎖が飽和していることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記2つの炭化水素鎖が飽和していることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項21】
前記PLがホスファチジルコリン(PC)であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記PCがジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)であることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記リポソームが多層ベシクル(MLV)であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記MLVが、約0.3μmから約5μmの間の平均直径を有することを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項25】
前記SPLがスフィンゴミエリンであることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記PCが1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPPC)を具えることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記PLの頭部基が、1頭部基あたり少なくとも6つの水分子と複合体を形成することを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項28】
前記リポソームが、膜活性ステロールを具えないことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項29】
関節障害またはそこから生じる症状を治療または予防することを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項30】
前記関節障害が、関節炎、骨関節炎、リウマチ様関節炎患者の骨関節炎、外傷性ジョイント障害、固定されたジョイント部、スポーツ障害、ならびに、関節穿刺、関節鏡手術、オープンジョイント外科手術およびジョイント置換術後の状態、から選択されることを特徴とする請求項30に記載の方法。
【請求項31】
ジョイント部の潤滑を促進し、ジョイント部の摩耗を予防することを特徴とする請求項30に記載の方法。
【請求項32】
固定されたジョイント部、スポーツ障害、骨関節炎に対する外傷性障害、リウマチ様関節炎に続く障害、および、乾癬性関節炎の治療、処理または悪化の予防を特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項33】
ジョイント部温度を有するジョイント部をジョイント潤滑するための医薬組成物であって、生理学的に許容される賦形剤と、リポソームと、を具え:当該リポソームが、2つの同一または異なるC12−C16炭化水素鎖を有するグリセロリン脂質(GPL)と、C12−C18の炭化水素鎖を有するスフィンゴ脂質(SPL)と、からなる群の少なくとも1つのリン脂質(PL)を含んだ1又はそれ以上の膜を具え、当該1又はそれ以上の膜は、秩序固体(SO)から無秩序液体(LD)へと相転移が生じる相転移温度を有し、当該相転移温度は、約20℃乃至39℃内にあり、かつ前記ジョイント部温度よりも低いことを特徴とする医薬組成物。
【請求項34】
前記生理学的に許容される賦形剤がヒスチジン緩衝液であることを特徴とする請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項35】
関節内注射、関節鏡を用いた投与または外科的投与による投与に適した形状であることを特徴とする請求項33または34に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−540406(P2010−540406A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529856(P2009−529856)
【出願日】平成19年10月7日(2007.10.7)
【国際出願番号】PCT/IL2007/001215
【国際公開番号】WO2008/038292
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(508133411)ハダシット メディカルリサーチサービセス アンド ディベロップメント リミテッド (3)
【出願人】(591141821)テクニオン リサーチ アンド ディベロップメント ファウンデーション リミティド (5)
【出願人】(508132609)イッサム リサーチ ディベロップメント カンパニー オブ ザ ヘブライ ユニバーシティー オブ エルサレム (3)
【Fターム(参考)】