説明

ジルコニア質セッター及びその製造方法

【課題】焼成用セッターとして機能し得る高い機械的特性を示し、さらに、小型化が著しい部品の焼成時に、これらの部品用のセッターに求められる還元ガスの最適な循環を阻害することなく、バインダーの除去が効率よく行われ、焼成時の電子デバイス部品等との反応が極めて少ない、有用なジルコニア質セラミックスセッターの提供。
【解決手段】微視的にみた場合に、酸化ジルコニウムに対して2〜3モル%の酸化イットリウム含有量を示す部分安定化ジルコニア領域と、酸化ジルコニウムに対して6〜10モル%の酸化イットリウム含有量を示す安定化ジルコニア領域とで少なくとも形成されており、かつ、複数の貫通している微細孔を有し、その気孔率が50〜99%であることを特徴とするジルコニア質セッター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温でガスフローが効率よく可能であり、セッターの上に乗せた部品等との反応性が少なく、機械的特性に優れ、特に、小型部品の焼成用として好適なジルコニア質セッター及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な特性を持つセラミックスの薄膜が開発され、多種多様の電子デバイスへの展開がなされている。セラミックス系電子デバイスとしては、例えば、誘電セラミックスを用いたセラミックスコンデンサー、積層セラミックスコンデンサー(チップコンデンサー)、圧電セラミックスを用いた圧電トランスデューサ、圧電センサー等や、モータ、振動子等のセラミックスアクチュエータ(固体変位素子)等が知られており、多種多様な利用が期待されている。上記のような電子デバイスは、例えば、ミクロン単位の非常に薄い膜(テープ或いはシート)等のセラミックス製部材からなり、これらの膜を単独で、或いは積層等することで、様々な特性を有するものが作成されている。代表的なセラミックスコンデンサー(キャパシタ)を例にとって説明すると、該コンデンサーは、チタン酸バリウム(BaTiO3)を主成分とし、目的とする特性を付与するために様々な副成分が添加された材料からなる部材と、電極とで形成される。
【0003】
電極材料としては、目的に応じて、パラジウム、銀、ニッケル、銅等が用いられる。特に、電極は、パラジウムや銀といった貴金属の高騰により、安価な卑金属であるニッケルや銅が用いられることも多いが、例えば、ニッケルを電極に用いる場合、下記のような手順で電極を形成する。まず、空気中で安定な酸化ニッケルを出発原料とし、チタン酸バリウムと積層後、焼成時に、酸化ニッケルを水素ガス等により還元することで金属化し、電極を形成させる必要がある。その製造にあたっては、加工性を高めるために、所望の材料組成に多量の有機系結合材(バインダー)を添加し、成形することが一般に行われており、最終的には、この有機系結合材を熱処理によって除去する必要がある。また、電子デバイス部品の主な構成材料であるチタン酸バリウムやチタン酸ジルコン酸鉛等は、非常に反応性が高いことから、焼成時に用いるセッターの材質は、これらの材料との反応性が低いことも必要となる。
【0004】
従来より、このようなセラミックス系電子デバイス部品(以下「電子デバイス部品」という)の焼成等を行う際には、高温で、被焼成物である電子部品と反応性の低いジルコニア質セッターが用いられている。ジルコニアは、加熱冷却時に体積変化を伴う相変態が知られている。このため、電子デバイス部品の焼成用としては、これまで、酸化カルシウムや酸化イットリウム等により安定化させたジルコニア材料を用いた、使用時に安定なセッターが幅広く使用されてきた。しかし、これまでのジルコニアセッターは、強度が低く、焼成時の加熱−冷却により容易に破壊し、耐久性(寿命)の観点で課題を有していた。そのため、ジルコニア質セッターの強度向上に関する様々な提案(例えば、特許文献1及び2参照)がなされている。
【0005】
また、電極に用いる酸化物の還元反応に用いる還元性ガスの電子デバイス部品との接触を促し、多量に添加されたバインダーの焼成時に発生する分解ガスの排出を容易とするべく、貫通孔を有する焼成用セッターについての様々な提案がある(特許文献3、4及び5参照)。しかし、これらの方法では、貫通孔を形成させるために、金型による打ち抜きや金型を用いた押し出し成形、さらに非水溶性炭化水素系有機溶剤を用いる等のことを行っており、安価に生産することが困難である。また、これらの方法は、数百ミクロンである超微細な部品に適用可能な、百〜数百ミクロンの直径を有する超微細な貫通孔を形成する方法としては、十分なものとは言えない。
【0006】
このような課題を解決する方法として、セラミックス原料粉末を水に分散させスラリーを調製し、一方向から凍結させることでセラミックス中に一方向の氷を形成させ、この氷を凍結乾燥することで昇華させ、多孔質化を図る方法が提案されている(特許文献6参照)。
【0007】
この方法は、様々な材質への応用が可能であり、形状付与性に優れ、加えて、気孔形成手段として水を用いていることから、製造時に発生する有害ガスも殆どなく、コストや環境面で極めて優れた製造方法であり、工業化が期待される。また、セッターへの応用の可能性も示唆している。しかし、この方法を焼成用セッターの製造手段に適用し、セッターを作製して実用化することを考えた場合、この方法で得られるものは気孔率72%〜99%のセラミック多孔質体であるため、十分な強度を示し、機械的性質を満足できるセッターを得ることができないといった別の課題があった。すなわち、本発明者らの検討によれば、上記した製造手段では、実用に耐えられる十分な機械的性質を有するセッターを得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−270910号公報
【特許文献2】特開2006−188374号公報
【特許文献3】特開平11−79853号公報
【特許文献4】特開2002−145672号公報
【特許文献5】特開2002−293651号公報
【特許文献6】特開2008−201636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した従来技術では、いずれも焼成用セッターへの適用を具体的に開示しているが、これらの技術によって得られる焼成用セッターは、使用目的によってはいずれも十分なものとは言えず、下記に述べるように、それぞれに改良の余地があった。まず、前記した特許文献1では、単独で安定化されたジルコニア粉末に、1種類以上の他の安定化されたジルコニアに原料粉末を添加して混合したものを材料とすることで、高寿命なセッターの製造が可能であることを開示している。しかしながら、本発明者らの検討によれば、この方法で得られたセッターは、焼成時に求められる還元ガス等の最適な循環ができないといった課題があった。
【0010】
また、特許文献2では、ジルコニアを安定化させるために添加する酸化イットリウム(以下「イットリア」ともいう)の量が異なるジルコニア原料を用いることで、焼成対象である電子部品等が汚染されることの少ない、緻密な道具の製造が可能であることを開示している。しかしながら、かかる技術によって得られたセッターも、上記した技術と同様に、還元ガスやバインダーから発生するガスの流れを阻害するといった課題を有している。また、部分安定化ジルコニアを主成分としていることから、セッターとして加熱冷却を繰り返すことでジルコニア固有の体積変化を伴う相転移により、寿命を著しく阻害する可能性がある。
【0011】
一方、特許文献3、4では、成形後の加工や成形時の形状付与によって貫通孔を有するセッターを得る製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献3では貫通孔の面積が0.07〜36mm2であり、特許文献4では貫通孔の内径が0.3〜1mmであり、いずれの技術も、昨今の超微細化した電子デバイス部品等にみられるような、被焼成物の急激な小型化に対応しきれたものとは言い難く、セッターに形成された貫通孔から、これらの微小部品が脱落したり、貫通孔に部品が引っかかるといったことが懸念される。
【0012】
また、特許文献5に記載の技術では、非水溶性炭化水素系有機溶剤を使用することによる高コスト化の問題とともに、この溶剤によって三次元網目構造を有する気孔をセッターに導入していることから、使用時に付加される応力に対して極めて抵抗力が小さいものになるという課題がある。
【0013】
さらに、特許文献6に記載されている製造方法は、上記した特許文献5と同様、焼成用セッターを得る場合に適用が期待できる方法であると言える。しかしながら、この方法においても、得られるセッターは、ジルコニアの出発原料を厳選したとしても、機械的特性が低く、焼成用セッターとして更なる特性の向上が求められていた。
【0014】
従って、本発明の目的は、焼成用セッターとして十分に機能し得る高い機械的特性を示し、さらに、超微細化した昨今の電子デバイス部品等、小型化が著しい微小部品の焼成時に、これらの部品用のセッターに求められる還元ガスの最適な循環を阻害することなく、バインダーの除去が効率よく行われ、焼成時の電子デバイス部品等との反応が極めて少ない、これらすべての機能を満足した有用なジルコニア質セラミックスセッターを提供することにある。本発明の別の目的は、ジルコニアを材料として用いた、従来にない優れた特性を実現した、特に微小部品の焼成用セッターとして有用なジルコニア質セッターを、簡易に、かつ、経済的に、しかも環境に配慮した条件で製造することができる製造技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、微視的にみた場合に、酸化ジルコニウムに対して2〜3モル%の酸化イットリウム含有量を示す部分安定化ジルコニア領域と、酸化ジルコニウムに対して6〜10モル%の酸化イットリウム含有量を示す安定化ジルコニア領域とで少なくとも形成されており、かつ、複数の貫通している微細孔を有し、その気孔率が50〜99%であることを特徴とするジルコニア質セッターを提供する。
【0016】
上記本発明の好ましい材質としては、酸化ジルコニウムに対して2〜3モル%の酸化イットリウム含有量を示す部分安定化ジルコニアの領域の総量のセッター全体に対する比率が5〜80重量%であり、かつ、前記微細孔の断面積が7×10-4〜0.05mm2の範囲内にある上記に記載のジルコニア質セッターである。
【0017】
上記本発明の好ましい手法としては、ゲル化凍結法を用い、複数の貫通した微細孔が形成された機械的特性に優れたジルコニア質セッターを得る製造方法であって、酸化ジルコニウムに対して2〜3モル%の酸化イットリウムを含有する0.05〜2μmの粉末と、酸化ジルコニウムに対して6〜10モル%の酸化イットリウムを含有する0.05〜2μmの粉末とを有する混合物からなる原料粉体と、ゲル化剤であるゲル化性水溶性高分子溶液とを少なくとも含む材料からゲル体を作製し、得られたゲル体を凍結し、該凍結時に形成する氷結晶を細孔源とし、凍結体から氷を昇華して除去して得られる乾燥体を焼成することを特徴とするジルコニア質セッターの製造方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、強度が高く機械的特性が優れていることから耐久性に優れ高寿命であり、好適なサイズの貫通した微細孔(マクロ気孔)を有するため、昨今の著しく小型化した電子デバイス部品等の超微細部品にも適用でき、かつ、ガス等を容易に循環することができる、微小部品等の焼成用セッターとして極めて有用なジルコニア質セッターが提供される。本発明によれば、ジルコニアを材料として用いた、上記の従来にない優れた特性を実現した、微小部品、特に超微細部品の焼成用セッターとして有用なジルコニア質セッターを、安易に、かつ、安価にしかも環境に配慮した条件で製造することができる製造技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明を実施するための好ましい形態を挙げて、本発明をより詳細に説明する。以下の説明は、発明の趣旨をよりよく理解可能とするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明者らは、先に述べた従来技術の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ジルコニア質セッターの化学組成を微視的に制御し、かつ、好適なサイズの貫通した細孔(マクロ気孔)を形成することで、従来、好適な細孔を有するものの、セッターとしては到底使用できないほどに強度が低いと言われていた高い通気性を示すジルコニア質多孔体の強度が改良され、高寿命化を示すことを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成したものである。より具体的には、ジルコニアを安定化するために添加するイットリアの含有量が異なる2種類、若しくはそれ以上の種類のイットリアを含有するジルコニアを混合した材料を用い、水の凍結及び昇華現象を利用した特定の方法によって製造することで、特に、昨今の著しく小型化した電子デバイス部品等の、超微細部品をも含む微小部品の焼成用セッターとして有用なものが得られることを見出した。すなわち、このように構成することで、微視的に、イットリアの含有量が異なるこれら複数の材料からなる領域を形成させることができ、その結果、高い強度が実現でき、かつ、高い気孔率を達成し得る貫通した微細孔を有する多孔体となる。このため、当該多孔体は、セッターとしての十分な強度を示し、しかもガス等を容易に循環することができる機能を発揮し得る焼成用セッターとできる。なお、本発明においては、イットリア以外の安定化剤で安定化されたジルコニアを含んでもよいが、少なくとも、ジルコニアを安定化するために添加するイットリアの含有量が異なる2種類の原料粉末を用いることを要する。
【0020】
以下、本発明のジルコニア質セッターの製造方法について、その一例を挙げて説明する。
まず、酸化ジルコニウムに対して2〜3モル%の酸化イットリウムを含有する粉末と、酸化ジルコニウムに対して6〜10モル%の酸化イットリウムを含有する粉末とを少なくとも含んでなる原料粉末を調製する。次に、該原料粉体と、水と、ゲル化剤であるゲル化性水溶性高分子溶液(以下、単にゲル化剤とも称す)とを含む、例えば、当該原料粉体の含有量が1〜50体積%である混合物を作製する。その際に、例えば、このような体積%となるように配合した、原料粉体、水、ゲル化剤を含んだスラリー(混合物)を調製し、次に、調製したスラリーを成形型に流し込んで、これらの材料からなるゲル体を作製する。
【0021】
本発明のジルコニア質セッターは、酸化ジルコニウム中の安定化剤の種類に依存せずに、安定化度の異なったジルコニアの領域が微視的に共存して分布している状態である、特有の形態を有し、かつ、気孔率が50〜99%という高気孔率を示す多孔質体であることを特徴とする。そのため、原料粉体の形状やサイズに特に制限されるものではないが、使用される環境やコストを考慮して原料粉体を選定することができる。例えば、原料粉体の粒径は、原料粒子の直径として定義する場合、工業的な取扱いを考慮すると0.01μm〜10μm程度のものが望ましい。特に望ましくは、0.05μm〜2μmの範囲のものである。これは、スラリーを作製する際に、原料粉体を壊砕し、スラリー内部で均一に分散させることを目的としているためである。これよりも大きな粒子であると沈降してしまい、均質なゲル体が得られない可能性があるため、望ましくない。
【0022】
本発明の製造方法によって得られる多孔質体の気孔率を、50〜99体積%となるようにするためには、例えば、原料粉体の含有量を50体積%以下、水の含有量を48.9体積%以上、ゲル化剤の含有量を1〜5体積%とすることが好ましい。ゲル化剤の含有量を1〜5体積%としたのは、これよりも少ないとゲル化が進行せず、ゲル化剤としての機能を発揮することができないことがある。一方、これよりもゲル化剤の量が多いと、焼成等の工程において亀裂発生等製造上の問題が発生し、好ましくない。ゲル化剤としては、特に限定されないが、例えば、水溶性高分子である水可溶性タンパク質(例えば、ゼラチン)、海草成分から抽出された寒天やカラギーナン等を用いることができる。
【0023】
本発明におけるゲル体の作製は、例えば、上記の混合比からなるスラリーを作製し、該スラリーを成形型に流し込み、水をゲル中に保持させた状態で固化してゲル化させる。このゲル化によって、セラミックス原料粉体がゲル中に固定されることになる。
【0024】
次に、成形型に鋳込んだゲル体を凍結させる。例えば、成形型の一部、又は全表面から冷却することで、ゲル体内に氷が配向した凍結体が得られる。凍結方法としては、通常の冷凍庫、凍結槽等、公知の冷却方法を用いればよい。
凍結体を作製するための凍結温度は、ゲル化剤に保水される水分が凍結する温度であれば特に限定されるものではない。ただし、凍結開始温度であるゼロ℃から−22℃の範囲では、氷の結晶成長が板状に進むため、細孔(マクロ気孔)が粗大になるため、数百ミクロンの微細部品に適用するセッターとする場合等においては望ましくない。したがって、好ましくは、−22℃よりも低い温度、例えば、−40℃程度の温度で凍結処理をするとよい。
【0025】
次に、上記のようにして得た凍結体から氷を除去し、乾燥、焼成をする。この処理の際に、凍結体の構成成分である原料粉体や氷結晶の構造を崩さないように氷のみを除去することが重要になる。すなわち、寸法変化が少なく、試料の破壊の恐れが少ない氷の除去方法を採用することが望ましい。寸法変化や試料破壊の恐れが少ない乾燥方法としては、例えば、フリーズドライ法が挙げられる。かかる方法は、本発明の製造方法に適用する解凍法として好適である。ここで、フリーズドライ法とは、減圧下で、凍結体中の氷を直接昇華させ、氷のみを除去する方法である。この方法は、凍結した成形体表面から氷が蒸発するため、寸法変化が少なく、本発明の方法において行う、凍結体から氷を除去し、乾燥する方法として好適である。
【0026】
乾燥後に行う焼成には、用いた安定化剤の種類等に応じて、得られる多孔質体の強度を確保する目的から、焼成温度を定めることができる。例えば、本発明のように、酸化イットリウムを安定化剤に用いた場合は1,200〜1,600℃で、焼成することが望ましい。
【実施例】
【0027】
次に、実施例および比較例を挙げ、これらに基づいて本発明をさらに具体的に説明する。
<実施例1>
セラミックス原料粉体として、比表面積7m2/gであって、安定化剤であるイットリアの含有量が異なる2種のジルコニア粉体(TZ−8Y及びTZ−3Y:商品名、トーソー製)の混合物を用いた。これらはそれぞれ、8モル%(TZ−8Y、粒径:0.5μm以下)、3モル%(TZ−3Y、粒径:0.5μm以下)のイットリアを含有したジルコニア粉体である。まず、これら2種のジルコニア粉体を重量(質量)比率で50:50となるように配合して混合原料粉体とした。そして、配合したジルコニア粉体を10体積%、蒸留水を86体積%、スラリー中のジルコニア粉末の分散性を高くするために市販のアンモニア水(和光純薬製1級試薬)を添加してスラリーを作製した。さらに、これに、ゲル化剤(ゼラチン、和光純薬株式会社製)を3体積%添加して、スラリーの調製を行った。
【0028】
次に、得られたスラリーを成形型にキャストし、冷蔵庫内にてゲル化を行ってゲル体を得た。ゲル化後、成形型ごと凍結槽で−40℃にて1時間冷却した。得られた凍結体を成形型から外し、フリーズドライ装置で12時間乾燥した。その後、焼成炉で、1,500℃で2時間焼成して多孔質体を得、平面研削盤を用いて3mm厚に加工し、ジルコニア質セッターとした。このセッターは、微視的に見るとその構造中に、粒径が0.3〜1μm程度の粒子と2〜3μm程度の粒子が混在しており、エネルギー分散型局所分析装置によればイットリア含有量の異なる領域が観察された。また、複数の貫通している微細孔を有しており、電子顕微鏡で観察したところ、その断面積は、7.8×10-3〜3.1×10-2mm2程度であった。
【0029】
上記のようにして得られた本実施例のジルコニア質セッターについて、気孔率、空気透過率、及び強度を測定して評価した。評価方法及び基準については後述する。また、得られた評価結果は表1にまとめて示した。
【0030】
<実施例2>
実施例1で用いたイットリアの含有量が異なる2種のジルコニア粉体を用い、これらの混合比率を変えて配合された混合原料粉体を用いた以外は実施例1と同様の方法で、ジルコニア質セッターを作製した。混合原料粉体には、8モル%粉体(TZ−8Y、粒径:0.5μm以下)が20、3モル%粉体(TZ−3Y、粒径:0.5μm以下)が80の、これらの重量比率が20:80で配合されたものを用いた。そして、実施例1で行ったと同様の方法でジルコニア質セッターを作製し、得られたセッターを実施例1で行ったと同様の方法で評価した。すなわち、その気孔率、空気透過率、及び強度を測定して評価した。なお、このセッターも、微視的に見るとその構造中に、粒径が0.3〜1μm程度の粒子と2〜3μm程度の粒子が混在しており、エネルギー分散型局所分析装置によればイットリア含有量の異なる領域が観察された。また、複数の貫通している微細孔を有しており、電子顕微鏡で観察したところ、その断面積は、7.8×10-3〜3.1×10-2mm2程度であった。
【0031】
<比較例1>
実施例1で使用したイットリアの含有量が8モル%のジルコニア粉体(TZ−8Y)のみを使用した以外は実施例1と同様の方法で、比較例のジルコニア質セッターを作製した。得られたセッターを実施例1で行ったと同様の方法で評価した。すなわち、その気孔率、空気透過率、及び強度を測定して評価した。結果は表1に示した。なお、本比較例の方法は、特開2008−201636号公報に記載されている従来のゲル化凍結法に該当する。また、複数の貫通している細孔が見られたものの、電子顕微鏡で観察したところ、3.1×10-2〜7.1×10-2mm2程度であった。
【0032】
<評価>
(1)気孔率
セッターの気孔率は、セッターの寸法と重量から密度を算出し、混合原料粉体の密度で除することで算出した。その結果、本発明の実施品である実施例1及び2のセッターは、それぞれ気孔率が80%、79%と高く、多孔質体であることが確認できた。これに対し、比較例1のセッターの気孔率は78%であり、実施例のセッターよりも若干低いものの、ほぼ同程度に高気孔率化されていた。
【0033】
(2)空気透過率
セッターの空気透過率の測定は、JIS K7126−1に準拠して行った。本発明の実施品である実施例1のセッターは、空気透過率が3×10-112であり、実施例2のセッターも同程度であった。また、従来のゲル化凍結法で作製した比較例1のセッターは、その空気透過率は5×10-112であり、空気の透過率では本発明の実施品は、従来品とほぼ同じ値を示すことを確認した。また、気孔径は実施例と比較例では顕著な差異は認められなかった。
【0034】
(3)強度
セッターの強度は、圧縮試験機(MTS、Sintech10/GL)にてクロスヘッド速度0.5mm/minで圧縮強度を測定し、その測定結果で評価した。この結果、本発明の実施品である実施例1及び2のセッターではいずれも15MPa以上であったのに対して、比較例1では8MPaであり、本発明の実施品はいずれも比較品に比べて約2倍の強度を示すことを確認した。
【0035】
本発明の実施品のセッターが、前記した高い気孔率と強度とを同時に達成できた理由について、本発明者らは下記のように考えている。すなわち、本発明の実施品のセッターには、空気透過率を低下させることのないマクロ気孔が存在しており、このことに起因して上記効果が得られたものと考えている。そして、このマクロ気孔が連続孔であり、実施品のセッターが比較品と比べて高強度であったことは、原料として用いた酸化イットリウムの量の異なる2種類のジルコニア粉体が、形成したセッターの構造中に微視的に異なる領域を形成し、ジルコニアの結晶成長を抑制したためであると考えられる。
【0036】

【産業上の利用可能性】
【0037】
以上説明したように、本発明の技術は、従来、その強度が比較的低いことから、例えば、ロボット等による自動搬送が困難であったジルコニア質セッターの特性が大きく改善されるため、その広範な活用が期待できる。すなわち、本発明によれば、高い気孔率によって高いガス循環効果が期待できるとともに、その強度によって高寿命で耐久性に優れることから、高強度で経済的なジルコニア質セッターの提供が可能となることから、今後、本発明の技術の活用は広い範囲におよぶと考えられ、産業上極めて高い利用可能性が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微視的にみた場合に、酸化ジルコニウムに対して2〜3モル%の酸化イットリウム含有量を示す部分安定化ジルコニア領域と、酸化ジルコニウムに対して6〜10モル%の酸化イットリウム含有量を示す安定化ジルコニア領域とで少なくとも形成されており、かつ、複数の貫通している微細孔を有し、その気孔率が50〜99%であることを特徴とするジルコニア質セッター。
【請求項2】
前記酸化ジルコニウムに対して2〜3モル%の酸化イットリウム含有量を示す部分安定化ジルコニアの領域の総量のセッター全体に対する比率が5〜80重量%であり、かつ、前記微細孔の断面積が7×10-4〜0.05mm2の範囲内にある請求項1に記載のジルコニア質セッター。
【請求項3】
ゲル化凍結法を用い、複数の貫通した微細孔が形成された機械的特性に優れたジルコニア質セッターを得る製造方法であって、酸化ジルコニウムに対して2〜3モル%の酸化イットリウムを含有する0.05〜2μmの粉末と、酸化ジルコニウムに対して6〜10モル%の酸化イットリウムを含有する0.05〜2μmの粉末とを有する混合物からなる原料粉体と、ゲル化剤であるゲル化性水溶性高分子溶液とを少なくとも含む材料からゲル体を作製し、得られたゲル体を凍結し、該凍結時に形成する氷結晶を細孔源とし、凍結体から氷を昇華して除去して得られる乾燥体を焼成することを特徴とするジルコニア質セッターの製造方法。

【公開番号】特開2011−246309(P2011−246309A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121347(P2010−121347)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(391009419)美濃窯業株式会社 (33)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】