説明

スイッチング電源回路

【課題】リアクトルの温度差に起因する電流の歪みを低減できるスイッチング電源回路を提供する。
【解決手段】リアクトルL1は第1入力端と第1出力端との間を結ぶ第1経路上に設けられる。ダイオオードは第1リアクトルに対して第1出力端側で直列に接続されて、そのアノードを第1リアクトル側に向けて設けられる。リアクトルL2は第1入力端と第1出力端との間を結ぶ第2経路上に設けられる。第2ダイオードはリアクトルL2に対して第1出力端側で直列に接続されて、そのアノードをリアクトルL2側に向けて設けられる。第1及び第2スイッチング素子はそれぞれリアクトルL2と第2ダイオードとの間の点と、第2入力端と第2出力端とを結ぶ第3経路との間およびリアクトルL2と第3経路との間に設けられる。伝熱部材20はリアクトルL1,L2のいずれにも接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスイッチング電源回路に関し、例えばインターリーブ型の力率改善回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、入力側の力率を改善する力率改善回路として、リアクトルとダイオードとスイッチング素子とからなる回路(いわゆる昇圧回路)が提案されている。より詳細には、リアクトルとスイッチング素子とが2つの入力端の間で相互に直列に接続され、2つの出力端の間でダイオードとスイッチング素子とが相互に直列に接続される。ダイオードはそのアノードをスイッチング素子側に向けて設けられる。
【0003】
かかる回路において、スイッチング素子が導通しているときにはリアクトルとスイッチング素子とを介して入力端に電流が流れ、スイッチング素子が非導通であるときにはリアクトルとダイオードと出力端とを介して入力端に電流が流れる。これによって、入力電流の導通角度を広げ、以って入力側の力率を改善している。
【0004】
また複数の当該回路を設けて、これらに属するスイッチング素子の導通タイミングを互いに異ならせる、いわゆるインターリーブ形の力率改善回路も提案されている。
【0005】
なお本発明に関連する技術として特許文献1が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−80382号公報
【特許文献2】特開2005−110406号公報
【特許文献3】特許第3022180号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
複数の回路にそれぞれ属する複数のリアクトルに温度差が生じると、かかる温度差に応じて複数のリアクトルのインダクタンスが互いに相違しえる。例えば複数のリアクトル同士のインダクタンスは、同じ温度で同じ値を示し、その温度依存性もが同一であるとしても、それぞれの温度が異なれば、リアクトル同士でのインダクタンスが異なることになる。これにより、インターリーブ型の力率改善回路において、電流の歪みが発生する。この電流の歪みについては発明を実施するための形態において詳述する。
【0008】
そこで、本発明は、リアクトルの温度差に起因する電流の歪みを低減できるスイッチング電源回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかるスイッチング電源回路の第1の態様は、第1及び第2の入力端(P1,P2)と、第1及び第2の出力端(P3,P4)と、前記第1の入力端と前記第1の出力端との間を結ぶ第1の経路(LH1)と、前記第1の経路上に設けられた第1のリアクトル(L1)と、前記第1の経路上で、前記第1のリアクトルに対して前記第1の出力端側で直列に接続されて、そのアノードを前記第1のリアクトル側に向けて設けられる第1のダイオード(D1)と、前記第2の入力端と前記第2の出力端との間を結ぶ第3の経路(LL)と、前記第1のリアクトルと前記第1のダイオードとの間の点と、前記第3の経路との間に設けられた第1のスイッチング素子(S1)と、前記第1の入力端と前記第1の出力端との間を結び前記第1の経路とは異なる第2の経路(LH2)と、前記第2の経路上に設けられた第2のリアクトル(L2)と、前記第2の経路上で、前記第2のリアクトルに対して前記第1の出力端側で直列に接続されて、そのアノードを前記第2のリアクトル側に向けて設けられる第2のダイオード(D2)と、前記第2のリアクトルと前記第2のダイオードとの間の点と、前記第3の経路(LL)との間に設けられた第2のスイッチング素子(S2)と、前記第1及び前記第2のリアクトルのいずれにも接触する伝熱部材(20)とを備える。
【0010】
本発明にかかるスイッチング電源回路の第2の態様は、第1の態様にかかるスイッチング電源回路であって、前記第1及び前記第2のリアクトル(L1,L2)は所定方向の一方から前記伝熱部材(20)と接触し、前記所定方向の他方から前記第1及び前記第2のリアクトルと接触して前記伝熱部材とともに前記第1及び前記第2のリアクトルを挟んで固定する固定部材(21〜23)を更に備える。
【0011】
本発明にかかるスイッチング電源回路の第3の態様は、第1の態様にかかるスイッチング電源回路であって、前記第1及び前記第2の入力端(P1,P2)と前記第1及び前記第2の出力端(P3,P4)と前記第1及び前記第2のダイオード(D1,D2)と前記第1及び前記第2のスイッチング素子(S1,S2)と前記第1及び前記第2のリアクトル(L1,L2)とが設けられた基板(30)を備え、前記伝熱部材(20)は前記基板に形成される。
【0012】
本発明にかかるスイッチング電源回路の第4の態様は、第1乃至第3のいずれか一つの態様にかかるスイッチング電源回路であって、前記第1及び前記第2のダイオード(D1,D2)の一組及び前記第1及び前記第2のスイッチング素子(S1,S2)の一組の少なくともいずれか一方と接触する第2伝熱部材を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかるスイッチング電源回路の第1の態様によれば、第1のリアクトル、第1のダイオード及び第1のスイッチング素子からなる回路と、第2のリアクトル、第2のダイオード及び第2のスイッチング素子からなる回路とを、力率改善回路として機能させることができる。しかも、これらの回路において、スイッチング素子の導通タイミングをずらすことによって、いわゆるインターリーブ型の力率改善回路を実現できる。
【0014】
さらには、第1及び第2のリアクトルのいずれもが伝熱部材と接触されるので、これらは相互に熱的に連結される。よって、第1及び第2のリアクトルの温度の差を低減でき、温度による第1及び第2のリアクトルの間の特性差を低減できる。これにより、インターリーブ形の力率改善回路において、電流の歪みを低減することができる。
【0015】
本発明にかかるスイッチング電源回路の第2の態様によれば、伝熱部材と固定部材とが複数のリアクトルを固定するので、これらを一体で取り扱うことができ、以ってスイッチング電源回路を製造しやすい。
【0016】
本発明にかかるスイッチング電源回路の第3の態様によれば、伝熱部材が基板に形成されるので、製品のサイズを小型化できる。
【0017】
本発明にかかるスイッチング電源回路の第4の態様によれば、温度差による複数のダイオードの特性差、或いは温度差による複数のスイッチング素子の特性差を低減することができ、以って電流の歪みを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】スイッチング電源回路の概念的な構成の一例を示す図である。
【図2】スイッチング素子のオン/オフの状態、リアクトルを流れる電流および入力端を流れる電流の一例を示す模式的な図である。
【図3】リアクトルの概念的な構成の一例を示す図である。
【図4】リアクトルの概念的な構成の一例を示す側面図である。
【図5】リアクトルの概念的な構成の一例を示す上面図である。
【図6】リアクトルの概念的な構成の一例を示す側面図である。
【図7】リアクトルの概念的な構成の一例を示す上面図である。
【図8】リアクトルの直流重畳特性の温度依存性を示す図である。
【図9】スイッチング素子のオン/オフの状態、リアクトルを流れる電流および入力端を流れる電流の一例を示す模式的な図である。
【図10】リアクトルの概念的な構成の一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<スイッチング電源回路>
図1に例示するように、スイッチング電源回路は入力端P1,P2と出力端P3,P4と複数のリアクトルL1,L2と複数のダイオードD1,D2と複数のスイッチング素子S1,S2とを備えている。
【0020】
入力端P1,P2の間には直流電圧が印加される。例えば入力端P1,P2には不図示のダイオード整流回路が接続される。ダイオード整流回路は交流電源からの交流電圧を整流し、整流後の直流電圧を入力端P1,P2の間に印加する。ここでは入力端P2に印加される電位は入力端P1に印加される電位よりも低い。なお、入力端P1,P2にダイオード整流回路が接続されることは必須要件ではない。入力端P1,P2の間に直流電圧を印加する任意の構成が入力端P1,P2に接続されていればよい。
【0021】
リアクトルL1は入力端P1と出力端P3とを結ぶ経路LH1上に設けられている。リアクトルL2は入力端P1と出力端P3とを結ぶ経路LH2上に設けられている。
【0022】
ダイオードD1は経路LH1上において出力端P3側でリアクトルL1と直列に接続されている。ダイオードD1はそのアノードをリアクトルL1に向けて設けられる。ダイオードD2は経路LH2上において出力端P3側でリアクトルL2と直列に接続されている。ダイオードD2はそのアノードをリアクトルL2に向けて設けられる。
【0023】
スイッチング素子S1は、リアクトルL1とダイオードD1との間の点と、入力端P2および出力端P4を結ぶ経路LLとの間に設けられる。スイッチング素子S2は、リアクトルL2とダイオードD2との間の点と、経路LLとの間に設けられる。なお図1の例示では、スイッチング素子S1,S2がMOS(Metal Oxide Semiconductor)電界効果トランジスタとして示されているが、これに限らない。スイッチング素子S1,S2は例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ又はバイポーラトランジスタ等であってよい。
【0024】
出力端P3,P4の間には平滑コンデンサC1が設けられている。平滑コンデンサC1は入力端P1,P2からリアクトルL1,L2、ダイオードD1,D2及びスイッチング素子S1,S2を介して印加される直流電圧を平滑する。
【0025】
このようなスイッチング電源回路において、いずれも経路LH1に接続されるリアクトルL1、ダイオードD1及びスイッチング素子S1は回路1を構成し、いずれも経路LH2に接続されるリアクトルL2、ダイオードD2及びスイッチング素子S2は回路2を構成する。回路1,2は後述するように昇圧回路として機能するとともに入力側の力率を改善する力率改善回路として機能する。
【0026】
スイッチング素子S1,S2の導通/非導通はそれぞれ制御部6によって制御される。なお、以下で説明するスイッチング素子S1,S2の制御について、特別な記載が無い限りその主体は制御部6である。
【0027】
またここでは、制御部6はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、制御部6はこれに限らず、制御部6によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
【0028】
<回路1,2の協働運転>
本スイッチング電源回路においては回路1,2を協働して運転させることができる。かかる運転はインターリーブとも呼ばれる。以下、スイッチング素子S1の制御を説明し、次いでスイッチング素子S2の制御を説明する。
【0029】
図2にはスイッチング素子S1の導通/非導通の状態と、リアクトルL1を流れる電流IL1とが示されている。図1を参照して、回路1においてスイッチング素子S1が導通していれば、入力端P1から入力端P2へとリアクトルL1及びスイッチング素子S1を経由して電流が流れる。かかる電流はリアクトルL1のインダクタンスと入力端P1,P2の間の直流電圧とによって定まる傾斜に応じて増大する(図2において電流IL1を参照)。かかる電流によってリアクトルL1には電磁エネルギーが蓄積される。
【0030】
そしてスイッチング素子S1が導通から非導通へと切り替わると、入力端P1から入力端P2へとリアクトルL1、ダイオードD1及び平滑コンデンサC1を経由して電流が流れる。このとき、リアクトルL1に蓄積された電磁エネルギーによる電圧(誘導起電圧)が入力端P1,P2の間の直流電圧に加算されて、その合計が平滑コンデンサC1に印加される。よって、入力端P1,P2の間の直流電圧を昇圧して平滑コンデンサC1に印加できる。
【0031】
かかる電流はリアクトルL1のインダクタンス及び平滑コンデンサC1の静電容量等に基づく傾斜で低減する(図2において電流IL1を参照)。そして、かかる電流、即ち電流IL1が零になったときに、再びスイッチング素子S1を導通させる。その後は上述した動作を繰り返す。かかる動作により電流IL1は鋸歯状の形状に沿って変化する。このようにリアクトルL1に流れる電流IL1が零に至った以後にスイッチング素子S1を導通させるモードは、いわゆる臨界電流モードと呼ばれる。なお、かかるスイッチング素子S1の制御のために、図1の例示では、検知された電流IL1が制御部6へと入力されている。制御部6は電流IL1が零に至ったことを検知してスイッチング素子S1を導通させる。
【0032】
以上のように回路1は、入力端P1,P2の間の電圧を昇圧して出力端P3,P4の間に印加する昇圧回路として機能することができる。また平滑コンデンサC1へと電流が流れない期間(スイッチング素子S1が導通する期間)であっても、スイッチング素子S1を介して入力端P1,P2には電流が流れる。よって、入力端P1,P2を流れる電流の導通角度を広げることができる。換言すれば回路1は力率改善回路として機能することができる。
【0033】
図2にはスイッチング素子S2の導通/非導通の状態、及びリアクトルL2を流れる電流IL2も示されている。スイッチング素子S2は、スイッチング素子S1が導通した時点から所定期間経過したときに導通する。かかる所定期間は、スイッチング素子S1が導通してから再び導通するまでの期間(以下、周期とも呼ぶ)Tより短い期間である。図2の例示では、所定期間として期間Tの半分を採用しており、以下では所定期間として期間Tの半分を採用した場合について説明する。
【0034】
なお、制御部6は、電流IL2が零に至ることを更なる条件の一つとしてスイッチング素子S2を導通させてもよい。即ち、所定期間Tの半分が経過しても、電流IL2が零に至っていなければ、制御部6はスイッチング素子S2を導通させない。かかる制御のために、図1の例示では、電流IL2が制御部6に入力されている。そして、かかる制御によって、回路2における電流臨界モードをより確実に実現できる。
【0035】
さて、スイッチング素子S2がスイッチング素子S1から例えば半周期遅れて動作することにより、回路2においては回路1に対して例えば半周期遅れて動作が行われる。よって、リアクトルL2を流れる電流IL2はリアクトルL1に流れる電流IL1に対して遅れる(図2の電流IL1,IL2を参照)。したがって、電流IL1の最大値と電流IL2の最大値が互いに例えば半周期ずれる。
【0036】
入力端P1,P2を流れる電流Iは電流IL1,IL2の和と等しい。かかる和によって、電流IL1の値が低い部分(いわゆる谷)は電流IL2の値が高い部分(いわゆる山)によって埋められる。同様に、電流IL2の谷は電流IL1の山によって埋められる。よって、電流Iの変動成分(いわゆる高調波成分)を低くすることができる(図2の電流Iを参照)。なお、電流IL1,IL2の周期のずれは半周期に限らないが、半周期であれば最も高調波成分を低減できる。また電流IL1の谷を電流IL2の山が埋めるので、電流IL1の平均値を高めることもできる。換言すれば、回路1を単独で動作させる場合と同じ平均値を達成するために、電流Iの最大値を低減することができる。
【0037】
なお図2の例示では、リアクトルL1,L2のインダクタンスは相互に等しく、スイッチング素子S1,S2の導通期間は互いに等しい。よって、図2の例示では、電流IL1,IL2は周期のずれを除いて互いに同一形状を有している。しかも図2の例示では、スイッチング素子S1の導通期間と非導通期間とが互いに等しい。よって、電流IL1,IL2は二等辺三角形が繰り返し現れた形状を有している。したがって、電流IL1,IL2の合計(即ち電流I)が一定となっている。このとき入力端P1,P2を流れる電流Iの歪みは最も小さい。
【0038】
<リアクトルL1,L2のインダクタンスの熱依存性>
しかるにリアクトルL1,L2のインダクタンスの間に差が生じると、入力端P1,P2を流れる電流Iの歪みを招く。以下、まず、リアクトルのインダクタンスの熱依存性について説明し、次に電流の歪みについて説明する。
【0039】
リアクトルのインダクタンスは図8に例示するように自身を流れる電流の値によって変化する。より詳細には、電流の値が所定値よりも低い領域では、リアクトルのインダクタンスは電流の値に依存せずにほぼ一定である。一方、電流の値が所定値よりも高い領域では、電流の値が増大するほどリアクトルのインダクタンスは低下する。これはリアクトルに流れる電流が大きいほどリアクトルのコアに流れる磁束が増大し、磁束がある値を超えるとコアが磁気飽和するからである。
【0040】
またリアクトルの温度が高いほど、リアクトルのインダクタンスはより低い電流値から低下をはじめる。これはコアの温度が高いほどコアがより低い磁束で磁気飽和するからである。図8の例示では、リアクトルの温度が温度T1であるときのインダクタンスが実線で示され、温度T1よりも温度が高い温度T2のときのインダクタンスが破線で示されている。このようなリアクトルのインダクタンス特性はいわゆる直流重畳特性と呼ばれる。
【0041】
以下では、リアクトルL1の温度が温度T1であり、リアクトルL2の温度が温度T2である場合を例にとって、電流IL1,IL2,Iについて説明する。スイッチング素子S1,S2は図2を参照して説明した方法と同様に制御される。なおここでは、リアクトルL1,L2は、リアクトルL1のインダクタンスが一定であってリアクトルL2のインダクタンスが電流の増大とともに低下する領域で動作するものと仮定する。
【0042】
電流IL1は図9に例示するように、図2の電流IL1と同じである。リアクトルL1のインダクタンスが一定である領域に含まれているからである。一方、電流IL2は、図9に例示するように、電流IL2が最大値を採る付近でその傾斜が増大し、電流IL2はこの付近で突出した形状を有する。これは以下の理由による。
【0043】
即ち、リアクトルL2のインダクタンスは、電流IL2の値が所定値(<電流IL2の最大値)より大きい範囲で、電流IL2が増大するに伴って減少する(図8参照)。これに伴って、電流IL2が所定値よりも大きい範囲で電流IL2の傾斜が増大するからである。これにより、電流IL2の最大値は電流IL1の最大値を超える。
【0044】
電流IL2の突出によって、電流IL1,IL2の和たる電流Iも、電流IL2が最大値を採る付近で電流が増大する方向に突出した形状を有する。以上のように、リアクトルL1,L2の温度差に起因して電流Iに歪みが生じる。本実施の形態では、かかる電流Iの歪みを低減する。
【0045】
本スイッチング電源回路においては、図3に例示するように、リアクトルL1,L2のいずれもが伝熱部材20と接触している。伝熱部材20はリアクトルL1,L2の両方と接触してこれらを熱的に連結する。伝熱部材20は例えば金属部材(例えばヒートシンク)である。なお伝熱部材20は熱的に結合できる素材で形成されていればよく、例えば銀、銅、アルミニウムなどの金属、又はアルミナ,窒化アルミニウム,炭化珪素,グラファイトなどのセラミック、又は熱伝導性樹脂(例えば前述の金属またはセラミックが添付された樹脂)であってもよい。
【0046】
これにより、リアクトルL1,L2に蓄積される熱は伝熱部材20を介して相互に移動するので、リアクトルL1,L2の温度差を低減できる。したがって、上述したリアクトルL1,L2の温度差に起因する電流Iの歪みを、低減することができる。また伝熱部材20がヒートシンクなどの放熱部材として機能すれば、リアクトルL1,L2の温度上昇も抑制することができる。
【0047】
また図3に例示するように、リアクトルL1,L2はそれぞれコア10とコイル11とボビン12と端子13とを有している。ボビン12は例えば電気的絶縁性を有する樹脂で形成されている。ボビン12はコイル11が巻回される本体部と、当該本体部の両側にあってコイル11の巻き崩れを防止する庇部とを有している。図3の例示では、当該庇部の一方には2つの端子13が設けられている。2つの端子13の一方にはコイル11の巻き始めの線が電気的に接続され、他方にはコイル11の巻き終わりの線が電気的に接続される。またボビン12にはコイル11の内側を貫通する中空が設けられている。コア10は軟磁性体(例えば鉄)で形成される。コア10は例えば外鉄形単相鉄心である。具体的には、コア10は、当該中空を貫通する部分と、コイル11の外周側で当該部分と平行に延在する部分とがその両側で連結された構造を有し、磁気回路を構成している。
【0048】
図3の例示では、伝熱部材20はリアクトルL1,L2がそれぞれ有するコア10と接触している。上述したようにコア10の温度が磁束飽和に影響し、これによってインダクタンスが変化する。従って、伝熱部材20が直接にコア10と接触することで、リアクトルL1,L2の間のインダクタンスの差を効率的に低減することができる。ただし、例えばボビン12が熱を伝えやすい材質で形成されている場合は伝熱部材20がボビン12と接触していても良い。
【0049】
また図3の例示では、リアクトルL1,L2は伝熱部材20と取り付け部材21と連結部材22とによって固定されている。より詳細には、伝熱部材20は、リアクトルL1,L2に対して所定方向D1の一方側からリアクトルL1,L2の両方に接触している。取り付け部材21はリアクトルL1,L2に対して所定方向D1の他方側からリアクトルL1,L2の両方に接触している。連結部材22は伝熱部材20と取り付け部材21とを所定方向D1で連結する部材である。連結部材22は例えば所定方向D1に垂直な方向D2におけるリアクトルL1,L2の一組の両側に設けられる。そしてねじ23によって、伝熱部材20と連結部材22とが固定され、取り付け部材21と連結部材22とが固定される。
【0050】
なお図3の例示では、取り付け部材21が端子13側に取り付けられているので、取り付け部材21には端子13によって貫通される不図示の孔が設けられている。
【0051】
かかる構造であれば、リアクトルL1,L2が伝熱部材20と、取り付け部材21とに挟持され、連結部材22によって当該挟持が固定される。よって、スイッチング電源回路を製造するに際してリアクトルL1,L2を一体として取り扱うことができる。したがって、スイッチング電源回路を製造しやすい。
【0052】
なお、取り付け部材21および連結部材22を、リアクトルL1,L2を挟んで固定する固定部材として把握することができる。図3の例示では、取り付け部材21と連結部材22とは互いに別体であるが、これに限らず一体であってもよい。また伝熱部材20、取り付け部材21および連結部材22が一体であってもよい。この場合、これらが一体化した部材に対して、方向D2に垂直な方向D3からリアクトルL1,L2を挿入すればよい。ただし、図3の例示では端子13が取り付け部材21側に設けられているので、取り付け部材21には方向D3に対して端子13を通過させる切込みが設けられている必要がある。
【0053】
また図3の例示では、リアクトルL1,L2が基板30に実装されている。より詳細には、端子13が基板30と電気的に接続されて、リアクトルL1,L2が基板30に実装される。基板30には他の電子部品、即ちダイオードD1,D2及びスイッチング素子S1,S2が実装されている。
【0054】
かかる構造において、伝熱部材20はリアクトルL1,L2に対して基板30とは反対側に位置している。そして、図3の例示では伝熱部材20はヒートシンクであって、リアクトルL1,L2の両方と接触する部材201と、部材201から基板30に垂直な方向に沿って基板30とは反対側へと延在する複数のフィン202とを有している。
【0055】
かかる構造によれば、基板30に平行な方向(ここでは複数のフィン202は所定の方向において間隔を空けて配置されるので図3中の紙面に垂直な方向D)に沿って空気が複数のフィン202の間を通ることができ、以って伝熱部材20の放熱効率を向上することができる。よって、リアクトルL1,L2の温度の上昇も抑制しやすい。なお、フィン202の間を流れる空気の流動は、例えばフィン201が地面に対して水平方向で並んで配置されるように、基板30を配置することでも生じる。これは、リアクトルL1,L2の発熱により、上昇気流が生じるからである。また、所定の装置内に基板30とファンとが配置され、かかるファンによってフィン201の間を流れる空気の流動が生じることも考えられる。
【0056】
また基板30に垂直な空気の流動が生じる装置に対して伝熱部材20の放熱効率を向上すべく、図4,5の例示を参照して、フィン202が部材201から基板30に平行な方向に延在するように、基板30に平行な方向から伝熱部材20をリアクトルL1,L2に接触させてもよい。
【0057】
なお図3を参照した説明と同様に、リアクトルL1,L2を固定する固定部材(図4,5の例示では取り付け部材21および連結部材22)を設けてもよい。即ち、基板30に平行な方向において、伝熱部材20と固定部材とによってリアクトルL1,L2を挟んで固定してもよい。
【0058】
また図6,7に例示するように伝熱部材20が基板30に形成されていてもよい。なお、図6の例示では、基板30の法線方向における伝熱部材20の厚みを誇張して示しているが、実際には基板30上に設けられる配線の厚みと同程度である。伝熱部材20は基板30上に実装されたリアクトルL1,L2の両方と接触して、リアクトルL1,L2を熱的に連結する。これによって、リアクトルL1,L2の温度差を低減することができ、以って温度差に起因する電流Iの歪みを低減することができる。なお図6,7の例示では伝熱部材20はリアクトルL1,L2が有するコア10と接触している。上述したようにコア10の温度が磁束飽和に影響し、これによってインダクタンスが変化する。よって、より直接にリアクトルL1,L2の間でコア10を熱的に連結することで、インダクタンスの差を効率的に低減することができる。ただし、例えばボビン12が熱を伝えやすい材質で形成されている場合は伝熱部材20がボビン12と接触していても良い。
【0059】
また伝熱部材20を基板30に形成しているので、図3〜5に例示する構造に比して、製品サイズを低減することができる。またリアクトルL1,L2に発生した熱が伝熱部材20を介して基板30側へと流れて放熱するのでリアクトルL1,L2の温度上昇も抑制できる。
【0060】
伝熱部材20は基板30上の配線(例えば経路LH1,LH2,LLを形成する配線)と同じ材質で形成されてもよい。これにより、配線を形成する工程に併せて伝熱部材20を形成することができる。よって、基板30に伝熱部材20と配線とを別個にパターン形成する場合に比べて、製造コストを低減できる。
【0061】
なお図6及び図7を参照して説明した伝熱部材20と、図3乃至図5を参照して説明した伝熱部材20の両方が、リアクトルL1,L2に設けられていても良い。
【0062】
また上述したいずれの態様でも、スイッチング素子S1,S2の一組およびダイオードD1,D2の一組の少なくともいずれか一方が、それぞれの端子が接触することなく伝熱部材と接触していても良い。例えば図10の例示では、基板30の一方の面に、スイッチング素子S1,S2およびダイオードD1,D2が設けられている。そして、スイッチング素子S1,S2およびダイオードD1,D2に対して、基板30とは反対側から伝熱部材25が設けられている。伝熱部材25は例えば金属部材であって、スイッチング素子S1,S2およびダイオードD1,D2と接触している。これにより、スイッチング素子S1,S2の温度差に起因するスイッチング素子S1,S2の特性(例えばスイッチング損失特性、導通損失特性)の差を低減できる。同様に、ダイオードD1,D2の温度差に起因するダイオードD1,D2の特性(例えば順方向電圧、逆回復特性)の差を低減できる。
【0063】
そしてスイッチング素子S1,S2或いはダイオードD1,D2の特性差に起因して、電流IL1,IL2の形状が互いに相違し、これによって電流Iの歪みを起因するところ、スイッチング素子S1,S2の温度差或いはダイオードD1,D2の温度差が低減されるので、これに起因する電流Iの歪みを低減できる。
【0064】
伝熱部材25はスイッチング素子S1,S2の一組およびダイオードD1,D2の一組の少なくともいずれか一方と基板30との間に設けられていてもよい。また基板30のうち、スイッチング素子S1,S2の一組およびダイオードD1,D2の一組の少なくともいずれか一方の存する領域の、基板30の他方の面に伝熱部材25が設けられていてもよい。この場合、スイッチング素子S1,S2同士或いはダイオードD1,D2同士は基板30および伝熱部材25を経由して熱的に連結される。換言すれば、伝熱部材25および基板30が伝熱部材として把握される。
【0065】
なお本実施の形態では、スイッチング電源回路として、回路1,2を備える構造について説明したが、これに限らない。回路1,2と同様の構成を有する複数の回路がスイッチング電源回路に設けられ、これら複数の回路にそれぞれ属する複数のリアクトルが伝熱部材20によって接触してればよい。
【符号の説明】
【0066】
20 伝熱部材
21 取り付け部材
22 連結部材
23 ねじ
30 基板
D1,D2 ダイオード
L1,L2 リアクトル
LH1,LH2,LL 経路
S1,S2 スイッチング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の入力端(P1,P2)と、
第1及び第2の出力端(P3,P4)と、
前記第1の入力端と前記第1の出力端との間を結ぶ第1の経路(LH1)と、
前記第1の経路上に設けられた第1のリアクトル(L1)と、
前記第1の経路上で、前記第1のリアクトルに対して前記第1の出力端側で直列に接続されて、そのアノードを前記第1のリアクトル側に向けて設けられる第1のダイオード(D1)と、
前記第2の入力端と前記第2の出力端との間を結ぶ第3の経路(LL)と、
前記第1のリアクトルと前記第1のダイオードとの間の点と、前記第3の経路との間に設けられた第1のスイッチング素子(S1)と、
前記第1の入力端と前記第1の出力端との間を結び前記第1の経路とは異なる第2の経路(LH2)と、
前記第2の経路上に設けられた第2のリアクトル(L2)と、
前記第2の経路上で、前記第2のリアクトルに対して前記第1の出力端側で直列に接続されて、そのアノードを前記第2のリアクトル側に向けて設けられる第2のダイオード(D2)と、
前記第2のリアクトルと前記第2のダイオードとの間の点と、前記第3の経路(LL)との間に設けられた第2のスイッチング素子(S2)と、
前記第1及び前記第2のリアクトルのいずれにも接触する伝熱部材(20)と
を備える、スイッチング電源回路。
【請求項2】
前記第1及び前記第2のリアクトル(L1,L2)は所定方向の一方から前記伝熱部材(20)と接触し、
前記所定方向の他方から前記第1及び前記第2のリアクトルと接触して前記伝熱部材とともに前記第1及び前記第2のリアクトルを挟んで固定する固定部材(21〜23)を更に備える、請求項1に記載のスイッチング電源回路。
【請求項3】
前記第1及び前記第2の入力端(P1,P2)と前記第1及び前記第2の出力端(P3,P4)と前記第1及び前記第2のダイオード(D1,D2)と前記第1及び前記第2のスイッチング素子(S1,S2)と前記第1及び前記第2のリアクトル(L1,L2)とが設けられた基板(30)を備え、
前記伝熱部材(20)は前記基板に形成される、請求項1に記載のスイッチング電源回路。
【請求項4】
前記第1及び前記第2のダイオード(D1,D2)の一組及び前記第1及び前記第2のスイッチング素子(S1,S2)の一組の少なくともいずれか一方と接触する第2伝熱部材を備える、請求項1乃至3のいずれか一つに記載のスイッチング電源回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−172431(P2011−172431A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35750(P2010−35750)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】