説明

スイッチング電源装置

【課題】高分解能と高速応答性を実現可能なデジタル制御の制御回路を備え、出力リップル電圧を抑えて安定した高精度の出力電圧を得ることができるスイッチング電源装置を提供する。
【解決手段】出力電圧デジタル値に基づいて所定の演算処理を行なうことにより、出力電圧を制御するための制御パルス電圧を発生させる制御パルス発生手段18を有する。制御パルス電圧を平滑化して平滑化電圧を生成するパルス平滑化回路20と、平滑化電圧とのこぎり波電圧とを比較して主スイッチング素子TR1の駆動パルスを出力する比較回路24を備える。制御パルス発生手段18は、出力電圧デジタル値に所定の補正値を加算し、その加算結果と所定の目標値とを比較演算する演算部18aと、演算部18aの出力に基づき、加算結果が、目標値よりも高いときはロウレベル電圧パルスを所定時間発生し、目標値よりも低いときはハイレベル電圧パルスを所定時間発生するパルス電圧生成部18bを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パルス幅変調(PWM)信号に基づいて主スイッチング素子をオン・オフ駆動し、入力された電圧を所望の直流電圧に変換して出力するスイッチング電源装置に関し、特にデジタル制御により出力電圧を制御するスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルプロセッサを用いて出力電圧制御を行なうことで、インテリジェント性の高いスイッチング電源装置を実現する方法が複数提案されている。例えば、従来のデジタル制御により出力電圧を制御するスイッチング電源装置としては、特許文献1に開示されているものが提案されている。
【0003】
特許文献1のスイッチング電源装置では、デジタル制御回路で作成されるデジタルPWM信号を用いてスイッチング素子を駆動することにより、電圧変換を行なう構成となっている。また、本スイッチング電源装置では、スイッチング電源装置の出力電圧を目標値と一致させる制御を行なうために、デジタルプロセッサ内のアナログ/デジタル変換(以下、A/D変換)回路が、スイッチング電源装置の出力電圧を一定周期毎にサンプリングして、A/D変換を行なうことで出力電圧デジタル値を得る。デジタルプロセッサは、出力電圧デジタル値とデジタルプロセッサ内に設定された目標値から演算処理を行なうことで、デジタルPWM信号のパルス幅を算出し、スイッチング電源装置の出力電圧が目標値となるようなデジタル制御によるフィードバック制御を行なっている。
【特許文献1】特開2004−282961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のような構成を持つスイッチング電源装置では、出力電圧設定精度や外乱に対する応答性の問題を解決するために、例えば、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)のように、高速処理が可能な高価なデジタルプロセッサを用いる必要があった。
【0005】
まず、従来のデジタル制御における出力電圧設定精度の問題点について、以下に説明する。
【0006】
デジタルPWMによって出力電圧制御を行う場合、スイッチング素子のオン・デューティの分解能が、出力電圧Voutの分解能となる。例えば、式(1)に従って動作するようなスイッチング電源装置であるシングルエンディッドフォワードコンバータの出力電圧Voutを、出力電圧のa%刻みで設定する場合、オン・デューティdutyを式(2)に示すΔdutyという刻みで変化させなければならず、そこに必要な分解能Rdutyは、式(3)で表される。
【数1】

【数2】

【数3】

【0007】
ここで、Vout:出力電圧、Vin:入力電圧、N1:トランスT1の一次側巻数、N2:トランスT1の2次側巻数、duty:スイッチング素子のオン・デューティ、Rduty:デューティの分解能、である。
【0008】
具体的な数値を例に上げると、入力電圧Vin=48V、出力電圧Vout=3.3V、トランスT1の1次側巻線N1=6ターン、トランスT1の2次側巻線N2=1ターンの場合、出力電圧Voutの刻みをアナログ制御のスイッチング電源装置に遜色の無い値としたいとすると、a=0.1%が必要と考えられ、このとき、式(3)より、デジタルPWMに必要な分解能は、Rduty≒2424となる。
【0009】
通常、デジタルPWM信号は、デジタルプロセッサのクロックを基準にして作られる。また、近年の汎用的なスイッチング電源装置は、磁性部品等の小型化等の観点から、スイッチング周波数500kHz以上に設定される場合が多いため、例えばスイッチング電源装置のスイッチング周波数が500kHzである場合において、上記の分解能をデジタルPWM作ることができるデジタルプロセッサのクロックを計算すると、スイッチング周波数の500kHzにデジタルPWMの分解能2424を乗じた値である1.212GHz以上のクロック周波数を必要とし、高速動作可能で極めて高性能なデジタルプロセッサが必要になる。
【0010】
次に、デジタル制御によるフィードバック制御の高速応答性に関する問題について説明する。
【0011】
スイッチング電源装置は、入力電圧Vinが急激に上昇する外乱が発生した場合においても、出力電圧Voutを目標値の一定電圧に保つ制御を行なうことが要求される。例えば、式(1)に従って動作するようなスイッチング電源装置であるシングルエンディッドフォワードコンバータは、入力電圧Vinが急激に上昇すると、Vinに応じてスイッチング素子のオン・デューティdutyを小さくする制御を行なうことにより、出力電圧Voutを目標値の一定電圧に保つ制御がなされるが、その応答速度が問題になる。具体的には、スイッチング電源装置において、デジタルプロセッサでの各種の処理を考慮すると、出力電圧VoutをA/D変換してデジタル値を生成するために50クロック、デジタル値と目標値から演算を行ないデジタルPWM信号を生成するのに200クロック、合計250クロック程度の処理工数が発生すると考えられる。ここで、アナログ制御のスイッチング電源装置と同等の応答性を得るべく、これらの処理をスイッチング動作の一周期内で完了させるためには、デジタルプロセッサのクロック周波数は、処理工数250クロックにスイッチング周波数500kHzを乗じた値である125MHz以上のクロック周波数が必要となる。また、デジタルプロセッサは、フィードバック制御以外にもいろいろな演算処理等を行うため、実際には125MHzの数倍のクロック周波数を必要とし、この点でも高速で高性能なデジタルプロセッサが必要となる。
【0012】
また、特許文献1のような構成をもつスイッチング電源装置では、出力電圧設定精度や外乱に対する応答性の問題以外に、A/D変換回路のサンプリングに、スイッチング素子のスイッチング動作に起因する出力電圧の変動であるスイッチングリップル等が影響したり、A/D変換回路量子化誤差が影響したりすることで、スイッチング周波数よりも低周波の出力電圧リップルが発生すると言う問題があった。
【0013】
この発明は上記背景技術に鑑みて成されたもので、低速で安価な汎用デジタルプロセッサを用いて、十分な出力電圧設定精度と、外乱に対する高速応答性を実現可能なデジタル制御の制御回路を備え、さらに出力電圧リップルを抑えて安定した高精度の出力電圧を得ることができるスイッチング電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、直流の入力電圧を、所定スイッチング周波数でパルス幅変調された駆動パルスによりスイッチングし、断続電圧を発生させる主スイッチング素子を有するインバータ回路と、前記断続電圧を整流平滑して出力電圧を得る整流平滑回路と、前記スイッチング周波数を設定し、その周波数を有するのこぎり波電圧を発生するのこぎり波発生回路と、前記出力電圧の検出値を出力電圧デジタル値に変換するアナログ/デジタル変換回路と、前記出力電圧デジタル値に基づいて所定の演算処理を行なうことにより、前記出力電圧を制御するための制御パルス電圧を発生させる制御パルス発生手段と、前記制御パルス電圧を平滑化して平滑化電圧を生成するパルス平滑化回路と、前記平滑化電圧と前記のこぎり波電圧とを比較して前記主スイッチング素子の前記駆動パルスを出力する比較回路とを備え、前記制御パルス発生手段は、前記出力電圧デジタル値に所定の補正値を加算し、その加算結果と所定の目標値とを比較演算する演算部と、前記演算部の出力に基づき、前記加算結果が、前記目標値よりも高いときはロウレベル電圧パルスを所定時間発生し、前記目標値よりも低いときはハイレベル電圧パルスを所定時間発生し、電圧パルスを発生しないときはその出力端を高インピーダンスに開放するパルス電圧生成部とを備え、前記演算部に設定された前記所定の補正値は、直前の演算処理の前記加算結果が前記目標値よりも高いときは負の値に記憶され、直前の演算処理の前記加算結果が前記目標値よりも低いときは正の値に記憶され、前記演算部はその記憶された補正値を用いて次回の比較演算を行うスイッチング電源装置である。
【0015】
前記演算部に設定される前記所定の補正値は、前記アナログ/デジタル変換回路に入力される前記出力電圧のリップルによって発生する電圧変動幅の半分以上の値に対応した大きさに設定されているものである。また、前記演算部に設定される前記所定の補正値は、前記アナログ/デジタル変換回路の量子化誤差の幅以上の値に対応した大きさに設定されたものでも良い。
【0016】
また、前記整流平滑回路は、前記主スイッチング素子と同期してオン・オフ動作するスイッチ素子からなる同期整流回路を備えたものであってもよい。
【0017】
また、前記のこぎり波発生回路は、のこぎり波電圧の上昇部分を入力電圧に比例した傾きに生成するものであってもよい。

【発明の効果】
【0018】
この発明によるスイッチング電源装置によれば、インテリジェント性の高いデジタル制御のスイッチング電源装置において、スイッチングリップル等に起因する出力電圧の低周波リップルの発生を簡単な方法で抑制することができ、出力リップル電圧を抑えて安定した高精度の出力電圧を得ることができる。さらに、低速クロックで安価なデジタルプロセッサ等を用いて構成した場合であっても、外乱に対する高速応答性を備え、高精度に出力電圧の設定を行うことが可能なスイッチング電源装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の一実施形態のスイッチング電源装置10について、図1〜図5を基に説明する。スイッチング電源装置10は、図1に示すように、直流の入力電源Einが接続され、スイッチング動作を行うインバータ回路12と、そのスイッチング動作によって発生した断続電圧を整流平滑して出力電圧Voutを得る整流平滑回路14を有し、出力電圧Vout端子が、負荷22に接続されている。
【0020】
出力電圧Vout端子には出力電圧検知回路15が接続され、出力電圧検知回路15の出力はA/D変換回路16が接続され、そのA/D変換回路16の出力には制御パルス発生手段18に接続されている。出力電圧検知回路15は、例えば、抵抗とコンデンサから成るフィルタ回路で、出力電圧Voutに重畳するリップル電圧を低減する動作、もしくは、出力電圧VoutをA/D変換回路16の許容入力電圧以下になるように分圧する動作を行なう。制御パルス発生手段18は、演算部18aとパルス電圧生成部18bとを備え、A/D変換回路16の出力信号である出力電圧デジタル値Vdig(n)に基づいて所定の制御パルス電圧Vaを生成する。制御パルス発生手段18の出力端子18cは、制御パルス電圧Vaを平滑化して平滑化電圧Vsを出力するパルス平滑化回路20に入力される。
【0021】
また、一定の傾きで電圧上昇し、主スイッチング素子TR1のスイッチング周波数を決定するのこぎり波電圧Viを生成するのこぎり波発生回路22が設けられている。そして、平滑化電圧Vsとのこぎり波電圧Viが入力され、それらを比較して、主スイッチング素子駆動パルスVgを発生する比較回路24が設けられ、比較回路24の出力は、インバータ回路12の主スイッチング素子TR1の制御端子に接続されている。
【0022】
次に、各機能ブロック毎に構成の詳細を説明する。インバータ回路12は、入力電源Einと直列にトランスT1の1次側巻線T1aと主スイッチング素子TR1が接続され、主スイッチング素子TR1のオン・オフ動作によってトランスT1の2次側巻線T1bに断続電圧Vbが発生する。なお、トランスT1の各巻線の極性等は、周知のシングルエンディッドフォワード方式に構成されている。
【0023】
トランスT1の2次側巻線T1bには、整流平滑回路14が接続されている。整流平滑回路14は、主スイッチング素子TR1がオンのときに導通してパルス電流を流すフォワード側整流素子TR2と、フォワード側整流素子TR2と相補的にオン・オフするフライホイール側整流素子TR3と、主スイッチング素子TR1のオン・オフ動作に同期をとって各整流素子TR2,TR3を駆動する同期整流駆動回路14aと、チョークコイルLoとコンデンサCoが直列接続された平滑回路により構成されている。整流平滑回路14は、2次側巻線T1bに誘起された電圧を整流平滑して平滑コンデンサCoの両端に出力電圧Voutを生成し、コンデンサCoの両端に接続された負荷22に電力が供給される。なお、各整流素子TR2,TR3は、例えばMOS−FET等が好ましく、できるだけ導通抵抗の小さな素子を使用することによって、整流損失を小さく抑えることができる。
【0024】
A/D変換回路16は、アナログ値である出力電圧Voutが出力電圧検知回路15を介して入力され、出力電圧デジタル値Vdig(n)に変換して出力するもので、所定のサンプリング周波数で、A/D変換回路16の入力端に設けられた図示しない内部スイッチを短時間オンし、図示しない内部コンデンサを充電した後、その電圧を所定のビット数で量子化し、Vout(n)に対応した出力電圧デジタル値Vdig(n)として出力する。このサンプリング周波数は、後述するのこぎり波発生回路22の発振器22aにより設定されるスイッチング周波数と比べて、相対的に大幅に低いものである。
【0025】
制御パルス発生手段18は、例えばデジタルプロセッサを用いて構成されており、図2に示すように、演算部18aとパルス電圧生成部18bとを備えている。演算部18aは、所定のデジタル値である補正量ΔKと後述するデジタル比較手段DCPが出力する比較演算結果D(n)とに基づいて、デジタル値である補正値VK(n)を決定する補正値決定手段32と、決定された補正値VK(n)とA/D変換回路16から得た出力電圧デジタル値Vdig(n)とを加算する加算手段34を備えている。さらに、その加算結果Vsu(n)と所定のデジタル値である目標値Cとを比較演算するデジタル比較手段DCPが設けられ、パルス電圧生成部18bと補正値決定手段32に向けて比較演算結果D(n)を出力する。ここで、補正量ΔKは、例えば、出力電圧検知回路15を介してA/D変換回路16に入力される出力電圧Voutのリップル成分の振幅の半分以上の値に設定される。また、このリップル成分が十分に小さい場合は、A/D変換回路16の量子化誤差に相当する値以上に設定しても良い。
【0026】
補正値決定手段32は、図3のフローチャートに示すように、次の動作を行うものである。例えば、n回目のサンプリングにおいて、加算結果Vsu(n)が目標値Cよりも低い旨の比較演算結果D(n)が得られると、加算手段34での次の出力電圧デジタル値Vdig(n+1)に加算する補正値VK(n+1)を+ΔKに決定する。逆に、加算結果Vsu(n)が目標値Cよりも高い旨の比較演算結果D(n)が得られると、次の加算手段34での出力電圧デジタル値Vdig(n+1)に加算する補正値VK(n+1)を−ΔKに決定する。
【0027】
パルス電圧生成部18bは、直流電源Vcc2に直列に接続されたスイッチ素子S1,S2と、比較演算結果D(n)に基づいてスイッチ素子S1,S2を駆動するスイッチ駆動手段36とを備え、スイッチ素子S1,S2の中点が出力端子18cに接続されている。
【0028】
スイッチ駆動手段36は、加算結果Vsu(n)が目標値Cよりも低いときにスイッチ素子S1を一定時間オンし、その後オフさせる。そのとき、他方のスイッチ素子S2はオフの状態を維持させる。逆に、加算結果Vsu(n)が目標値Cよりも高いときにスイッチ素子S2を一定時間オンし、その後オフさせる。そのとき、スイッチ素子S1をオフの状態に維持させる。すなわち、パルス電圧生成部18bは、加算結果Vsu(n)が目標値Cよりも高いときは、出力端子18cに一定時間のロウレベル電圧(ゼロ電位)を発生させ、目標値Cよりも低いときは、出力端子18cに一定時間のハイレベル電圧(直流電源Vcc2電位)を発生させ、ハイ・ロウのいずれの電圧も発生させない期間は、出力端子18cを高インピーダンスに開放する動作を行う。なお、スイッチ素子S1,S2を共に開放したときの出力端子18cの電位は、次に述べるパルス平滑化回路20のコンデンサC2の充電電位となる。
【0029】
パルス平滑化回路20は、図1に示すように、抵抗R2とコンデンサC2によって、いわゆる積分回路を構成している。この積分回路は、制御パルス電圧Vaを平滑化し、所定の直流電圧である平滑化電圧Vsを出力する。従って、パルス平滑化回路20は、制御パルス電圧Vaが、ハイレベル電圧パルスを出力すると平滑化電圧Vsが上昇し、逆にロウレベル電圧パルスを出力すると、平滑化電圧Vsが低下し、ハイ・ロウのいずれの電圧パルスも発生させない期間は、直前の平滑化電圧Vsを保持するように動作する。
【0030】
のこぎり波発生回路22は、電圧一定の直流電源Vcc1と、一端が直流電源Vcc1に接続された充電抵抗R1と、その充電抵抗R1のもう一端とグランド間に接続されたタイマーコンデンサC1と、タイマーコンデンサC1の両端に接続されたリセット素子S3と、リセット素子S3を制御する発振器22aとを備えており、タイマーコンデンサC1の両端に発生するのこぎり波電圧Viが出力される。
【0031】
発振器22aは、インパルス状のトリガパルスを発生する。このトリガパルスは周期一定の繰り返しパルスであって、主スイッチング素子TR1のスイッチング周波数と、主スイッチング素子TR1のターンオンのタイミングを決定するものである。また、リセット素子S3は、トリガパルスが入力されるとタイマーコンデンサC1の両端を短絡し、瞬時に開放状態となり、次のトリガパルスが入力されるまではその開放状態を継続する機能を有している。
【0032】
このように構成されたのこぎり波発生回路22は、以下のように動作する。発振器22aからトリガパルスが入力され、リセット素子S3がタイマーコンデンサC1の両端を短絡し、電荷が放電されてVi≒0となる。さらに、リセット素子S3は瞬時に開放状態となり、充電抵抗R1を介して供給される充電電流がタイマーコンデンサC1に流れ込み、Viが上昇する。このとき、充電抵抗R1とタイマーコンデンサC1の直列回路が有する時定数はトリガパルスの周期に比べて十分大きな値に設定されているので、Viはほぼ一定の傾きをもって直線的に上昇する。その後、次のトリガパルスが入力されるとリセット素子S3が短絡し、上記の動作を繰り返す。このような動作によって、タイマーコンデンサC1の両端にのこぎり波電圧Viを発生させている。
【0033】
比較回路24は、非反転入力側に平滑化電圧Vsが入力され、反転入力側にのこぎり波電圧Viが入力され、主スイッチング素子TR1の駆動パルスVgを出力する比較器CP1から成る。駆動パルスVgは、平滑化電圧Vsがのこぎり波電圧Viよりも高いときはハイレベルを示して主スイッチング素子TR1をオンさせ、逆の場合にはロウレベルを示して主スイッチング素子TR1をオフさせるものである。
【0034】
次に、スイッチング電源10のパルス幅制御(PWM制御)の動作について、図4に基づいて説明する。ここで、Tsw:スイッチング電源装置10のスイッチング周期、Ton1:入力電圧Vinが低いときのスイッチング素子TR1のオン時間、duty1:入力電圧Vinが低いときのスイッチング素子TR1のオン・デューティ、Ton2:入力電圧Vinが低いときのスイッチング素子TR1のオン時間、duty2:入力電圧Vinが低いときのスイッチング素子TR1のオン・デューティ、である。スイッチング電源10が理想的に動作した場合、スイッチング電源10は、加算結果Vsu(n)が制御パルス発生手段18内の目標値Cと等しくなるよう主スイッチング素子TR1の駆動パルスVgの時比率が調整され、それによって出力電圧Voutが制御される。
【0035】
本スイッチング電源装置は、同期整流のシングルエンディッドフォワードコンバータであるので、出力電圧Voutは上述の式(1)のように決定される。式(1)から分かるように、例えば入力電圧Vinが変化しても、それに応じてオン・デューティdutyを反比例に変化させれば、出力電圧Voutが一定となる。具体的には、図4のタイムチャートに示すように、入力電圧Vinが低い期間1は、平滑化電圧Vsを高めにしてオン・デューティをduty1のように大きくし、逆に、期間2のように入力電源電圧Vinが高い期間2は、平滑化電圧Vsを低めにしてオン・デューティをduty2のように小さくし、常にオン・デューティdutyと入力電圧Vinの積が一定になるように制御がなされる。
【0036】
ここで、スイッチング電源装置10の出力電圧制御の分解能について説明する。スイッチング電源装置10では、平滑化電圧Vsによってスイッチング素子TR1のオン・デューティを制御していることから、抵抗R2とコンデンサC2によって平滑化される平滑化電圧Vsの分解能がオン・デューティdutyの分解能を決定する。
【0037】
例えば、演算部18aが出力電圧Voutを上昇させるべきと判断したとき、出力端18cにはハイレベル電圧パルスであるVcc2の電圧パルスが供給される。出力端18bにVcc2のパルス電圧の供給が開始される直前の平滑化電圧VsをVs、Vcc2のパルス電圧時間幅をts1とすると、ts1経過直後の平滑化電圧Vsは、式(4)で表され、ts1が小さいと仮定すると、Vsは大きく変化することは無いので、近似的に式(5)で計算される。
【数4】

【数5】

【0038】
また、演算部18aが出力電圧Voutを低下させるべきと判断したとき、出力端18cはロウレベル電圧パルスであるゼロ電位パルスに短絡される。出力端18bがゼロ電位パルスが出力される直前の平滑化電圧VsをVs、そのパルス時間幅をts2とすると、ts2経過直後の平均化電圧Vsは、式(6)で表され、ts2が小さいと仮定すると、Vsは大きく変化することは無いので、近似的に式(7)で計算される。
【数6】

【数7】

【0039】
式(5)、式(7)に示されるように、平滑化電圧Vsの変化量は、R2,C2,ts1,ts2の値で決定される。ts1,ts2は、使用するデジタルプロセッサの処理速度によってその最小値が決定されるが、抵抗R2,コンデンサC2の値を適宜設定することで平滑化電圧Vsを微小ステップで変化させることができ、結果、制御パルス発生手段18に用いるデジタルプロセッサのクロック周波数が低速であっても、上記背景技術と比較して、相対的に高い分解能を得ることができる。つまり、平滑化電圧Vsの分解能、すなわちオン・デューティdutyの分解能は、従来のデジタル制御スイッチング電源のようにデジタルプロセッサのクロック周波数の影響を受けることがない。このように、本実施形態のスイッチング電源装置10の電圧制御は、低速クロックで低コストのデジタルプロセッサを使用して高い分解能を得ることを可能にしている。
【0040】
ここで、本実施形態を用いないスイッチング電源装置では、出力電圧Voutに重畳したスイッチング周波数の周期Tswのスイッチングリップルやノイズ等の影響で、周期Tswよりも長い周期Tripを有する低周波リップルが新たに発生する。
【0041】
一般的なスイッチング電源装置は、出力電圧Voutの直流成分Vaveが一定の値になるように制御することが求められている。しかし、上述のA/D変換回路16の動作から分かるように、出力電圧Voutにスイッチングリップル成分が重畳していると、A/D変換回路16は、該リップル成分を含む出力電圧Vout(n)をサンプリングするので、直流成分Vaveの制御に誤差が生じ、この誤差が原因となり、低周波の出力電圧リップルが発生する。
【0042】
最初に、本実施形態のスイッチング電源装置10における、この誤差による影響を最小限に抑える動作について説明し、次に、この実施形態のスイッチング電源装置10の効果を説明するため、その比較対象として、制御パルス発生手段18に代えて、補正値決定手段32と加算手段34を有しない制御パルス発生手段40を用いた場合について説明する。
【0043】
以下では、本実施形態のスイッチング電源装置10における動作を図5のタイムチャートに基づいて説明する。なお、出力電圧デジタル値Vdig(n)、補正量ΔK、補正値VK(n)、加算結果Vsu(n)、目標値Cはデジタル値であるが、説明の便宜上、直流成分Vave等と同様のアナログ値に模して図示してある。また、補正量ΔKは、出力電圧検知回路15を介してA/D変換回路16に入力される出力電圧Voutのスイッチングリップル成分の振幅に相当する値の半分の値よりもやや大きめの値に設定されている。
【0044】
第一のサンプリングのタイミングでは、A/D変換回路16は、破線で示す出力電圧Voutのリップル成分を含む出力電圧デジタル値Vdig(1)をサンプリングする。ここでは、例えば直流成分Vaveが、制御パルス発生手段18の演算部18aでの目標値Cよりも高い値であるが、リップルによる変動により、目標値Cよりも低い値でサンプリングされる。また、図示しない前回の比較演算結果D(0)に基づいて、補正値VK(1)は+ΔKに決定されている。よって、このときの直流成分Vaveは目標値Cよりも高い値であり、出力電圧デジタル値Vdig(1)が目標値Cよりも低い値であるが、補正値VK(1)が+ΔKであり、リップル成分による変動を吸収して、加算結果Vsu(1)は、目標値Cよりも高い値になる。これにより、デジタル比較手段DCPとスイッチ駆動手段36の動作によって、パルス電圧生成部18bのスイッチ素子S2がオンし、平均化電圧VsがΔVsだけ低下し、結果、制御目標の通りに直流成分VaveがΔV1だけ低下する。なお、サンプリングタイミングにより、出力電圧デジタル値Vdig(1)が目標値Cよりも高い値の場合にも、加算結果Vsu(1)は目標値Cよりも高い値になるので、上記制御が行われる。
【0045】
第二のサンプリングのタイミングでは、リップル成分を含む出力電圧デジタル値Vdig(2)は目標値Cよりも高い値でサンプリングされている。一方、前回の比較演算結果D(1)に基づいて、補正値VK(2)は−ΔKに決定されているので、加算結果Vsu(2)は目標値Cよりも低い値になるので、デジタル比較手段DCPとスイッチ駆動手段36の動作によって、パルス電圧生成部18bのスイッチ素子S1がオンし、平均化電圧VsがΔVsだけ上昇し、結果、制御目標の通りに直流成分VaveがΔV1だけ上昇する。この場合も、サンプリングタイミングにより、出力電圧デジタル値Vdig(2)が目標値Cよりも低い値の場合にも、加算結果Vsu(2)は目標値Cよりも低い値になるので、上記制御が行われる。
【0046】
第三のサンプリングのタイミングでは、リップル成分を含む出力電圧デジタル値Vdig(3)は目標値Cよりも低い値でサンプリングされている。一方、前回の比較演算結果D(2)に基づいて、補正値VK(3)は+ΔKに決定されているので、加算結果Vsu(3)は目標値Cよりも高い値になるので、デジタル比較手段DCPとスイッチ駆動手段36の動作によって、パルス電圧生成部18bのスイッチ素子S2がオンし、平均化電圧VsがΔVsだけ低下し、結果、制御目標の通りに直流成分VaveがΔV1だけ低下する。この動作は、第一のサンプリングにおける動作と同様である。
【0047】
スイッチング電源装置10は、出力電圧の平均値Vaveを出力電圧の目標値Cとなるように制御を行なうことから、Vdig(n)に含まれる出力電圧のリップル成分は、出力電圧の目標値Cを中心として振幅していることになる。
【0048】
即ち、この実施形態の制御パルス発生手段18の動作は、Vdig(n)に含まれる出力電圧のリップル成分の振幅の半分より大きい値の補正値VK(n)を直前の比較演算結果Dに基づいて加減することにより、強制的に交互に目標値Cを挟んで出力が増減する制御を行い、スイッチングリップル電圧がA/D変換回路16のサンプリングに及ぼす影響を無くしている。そして、以上の動作を繰り返すことにより、図5に示すように、定常状態では出力電圧の直流成分Vaveは、サンプリング周期Tsaの2倍の周期Tsaを有する小さい電圧リップルに抑えられる。
【0049】
次に、この実施形態のスイッチング電源装置10の効果を説明するため、その比較対象として、制御パルス発生手段18に代えて、補正値決定手段32と加算手段34を有しない制御パルス発生手段40を用いた場合について説明する。まず、制御パルス発生手段40の構成を、図6に基づいて説明する。ここで、制御パルス発生手段18と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0050】
制御パルス発生手段40は、図6に示すように、演算部40aとパルス電圧生成部18bとを備えている。演算部40aは、A/D変換回路16から得た出力電圧デジタル値Vdig(n)とデジタル値で設定された所定の目標値Cとを、デジタル比較手段DCPによって比較演算し、パルス電圧生成部18bに向けて比較演算結果D(n)を出力する。演算部40a以外の構成及び機能は、上記制御パルス発生手段18と同様である。
【0051】
制御パルス発生手段40を用いたスイッチング電源装置10の動作を、図7のタイムチャートに基づいて説明する。
【0052】
第一のサンプリングのタイミングでは、直流成分Vaveは目標値Cよりも高い値であり、リップル成分を含む出力電圧デジタル値Vdig(1)も目標値Cよりも高い値でサンプリングされる。これにより、デジタル比較手段DCPとスイッチ駆動手段36の動作によって、パルス電圧生成部18bのスイッチ素子S2がオンし、平均化電圧VsがΔVsだけ低下し、結果、制御目標の通りに直流成分VaveがΔV1だけ低下する。
【0053】
第二のサンプリングのタイミングでは、直流成分Vaveは目標値Cよりも低いが、リップル成分を含む出力電圧デジタル値Vdig(2)は目標値Cよりも高い値でサンプリングされるので、デジタル比較手段DCPとスイッチ駆動手段36によってパルス電圧生成部18bのスイッチ素子S2がオンし、平均化電圧VsがΔVsだけ低下する。その結果、直流成分Vaveの制御は、目標とすべき方向とは逆に、直流成分VaveをΔV1だけ低下させてしまう。
【0054】
第三のサンプリングのタイミングでは、直流成分Vaveは目標値Cよりも低い値であり、リップル成分を含む出力電圧デジタル値Vdig(1)も目標値Cよりも低い値でサンプリングされる。これにより、デジタル比較手段DCPとスイッチ駆動手段36によって、パルス電圧生成部18bのスイッチ素子S1がオンし、平均化電圧VsがΔVsだけ上昇し、結果、制御目標の通りに直流成分VaveがΔV1だけ上昇する。
【0055】
以上の動作を繰り返した結果、図7に示すように、この例では出力電圧の直流成分Vaveにサンプリング周期Tsaの4倍の周期を有する低周波リップルTripが発生している。なお、図7では、スイッチ素子S1,S2のオンが交互に2回ずつ連続した動作となっているが、スイッチングリップル成分の振幅や位相、スイッチング周期Tsw、サンプリング周期Tsa等の相互の関係が変化すれば、一方のスイッチ素子のオンが連続する回数が、例えば10回を超えることも考えられる。この低周波リップルは、スイッチ素子S1,S2のうちの一方のスイッチ素子のオンが連続する回数が多いほど、低周波リップルの周期Tripが延び、かつ振幅が増大するので、スイッチング周波数による出力電圧のリップル低減のために設定されたチョークコイルLoとコンデンサCoの平滑回路ではほとんど減衰させることができず、大きな問題となる。
【0056】
それに対して、本発明の実施形態に係る制御パルス発生手段18を用いた場合には、上述したように、出力電圧Vaveのサンプリング周期Tsaの2倍の周期を有する低周波リップルが発生する。しかし、上述のように、補正量ΔKが出力電圧検知回路15を介してA/D変換回路16に入力される出力電圧Voutより生成されるVdig(n)が持つ出力リップル成分の振幅の半分以上の適切な値に設定されているので、定常状態においては、スイッチ素子S1,S2は交互にオンする動作が行われ、低周波リップルの周期Tripはこれ以上長くなることはなく、低周波リップルの振幅も比較的小さな値で安定した状態に抑えられる。また、チョークコイルLoとコンデンサCoの値を調整し、また、サンプリング周波数を適切な周波数に設定することによって、低周波リップルの振幅をほとんど無視できるレベルに低減することが可能である。
【0057】
また、上記の制御パルス発生手段18を用いた制御の場合、例えば、出力電圧デジタル値Vdig(n)が、目標値C±ΔKの範囲の外側にあるときは、制御パルス電圧Vaは、ハイレベル電圧またはロウレベル電圧のいずれかが連続し、出力電圧デジタル値Vdig(n)が、目標値C±ΔKの範囲の内側に収束するように動作が行われる。従って、例えば、スイッチング電源装置10が起動するときの出力電圧Voutの制御や、負荷電流の変動などによって生じる出力電圧Voutの変動に対する応答性に関して、悪影響を及ぼすことはない。
【0058】
また、比較例の制御パルス発生手段40を用いたスイッチング電源装置10にあっては、上述したスイッチングリップル成分に起因して低周波リップルが発生する問題とは別に、A/D変換回路でアナログ信号をデジタル信号に変換するサンプリング周期のタイミングごとに生じる量子化誤差に起因して低周波リップルが発生する問題がある。しかし、この問題についても、上記の制御パルス発生手段18を用いた制御を行えば、同様の作用によって低周波リップルが抑制される。
【0059】
次に、この発明の一実施形態のスイッチング電源装置10におけるのこぎり波発生回路22の他の実施形態について説明する。この実施形態ののこぎり波発生回路42は、図8に示すように、充電抵抗R1のタイマーコンデンサC1側と反対の一端が、入力電圧Vinに接続され、さらにタイマーコンデンサC1とのこぎり波電圧出力端42bとの間に電圧発生素子Rbが挿入されている点で、のこぎり波発生回路22と異なる。
【0060】
充電抵抗R1には、ほぼ入力電圧Vinに比例した一定の電流J1が流れるように定数設定されているので、のこぎり波電圧Viは、ほぼ入力電圧Vinに比例した傾きをもって直線的に上昇する。また、電圧発生素子Rbには、電流J1に比例して電圧を発生する素子であって、例えば、抵抗を用いる。電流J1は、入力電圧に比例した値の電流であるため、電圧発生素子Rbには、入力電圧Vinに比例した電圧が発生する。
【0061】
のこぎり波発生回路42では、入力電圧Vinが低いときは、タイマーコンデンサC1の両端に発生するのこぎり波電圧Viの上昇速度がゆっくりとなるように動作する。スイッチング素子TR1のオン・デューティは、のこぎり波電圧Viと平滑化電圧Vsを比較回路24で比較することで作られるため、平滑化電圧Vsが一定値の場合、入力電圧Vinが低いときは、スイッチング素子TR1のオン・デューティが相対的に広くなる。逆に、入力電圧Vinが高いときは、タイマーコンデンサC1の両端に発生するのこぎり波電圧Viの上昇速度が速くなるように動作し、平滑化電圧Vsが一定値の場合、スイッチング素子TR1のオン・デューティが相対的に狭くなる。この動作により、平滑化電圧Vsが一定の場合でも入力電圧Vinに対するオン・デューティが制御されるため、外乱により入力電圧が急激に変動しても出力電圧に影響を及ぼすことが無くなる。
【0062】
また、電圧発生素子Rbは、入力電圧Vinに応じた直流電圧をのこぎり波電圧Viに重畳するための素子であり、比較回路24の遅れ時間分がスイッチング素子TR1のオン・デューティに及ぼす割合が入力電圧によって異なることを補正する動作を行ない、上記フィードフォワード制御の動作精度を向上させることができる。
【0063】
上記のフィードフォワード制御は、負荷電流によらず、常に式(1)に基づいてPWM制御されるスイッチング電源装置において、特に効果が大きい。例えば、整流平滑回路14がダイオード素子で構成された場合は、所定の負荷電流以下になるとチョークコイルLoの電流が連続しない電流不連続モードとなり、式(1)の関係が成り立たなくなり、制御モードが非線形に変化する。このとき、スイッチング電源装置10の出力電圧を目標値に保つために、制御パルス発生手段18は平滑化電圧Vsを低下させる処理を行なう必要がある。一方、MOS−FETを用いた同期整流回路で構成された場合は、負荷電流によらず常にチョークコイルLoの電流が連続する電流連続モードで動作し、常に式(1)の関係が成り立つ。従って、同期整流回路を用いたスイッチング電源装置にフィードフォワード制御を適用することによって、スイッチング電源装置10の出力電圧を目標値に保つために、負荷電流が変化する全範囲において、制御パルス発生手段18は平滑化電圧Vsをほぼ一定値に制御することが可能となり、出力電圧Voutの安定性を一層高めることができる。
【0064】
入力電圧Vinの変化に応答するのこぎり波発生回路42を使用することによって、出力電圧制御の高速応答化を図る技術は、アナログ制御のスイッチング電源装置に適用されたフィードフォワード制御の一種としては存在する。例えば、本願発明者による特願2006−313089号に記載されたアナログ制御のスイッチング電源装置に用いられるものと同様のものである。しかし、デジタル制御のスイッチング電源装置に適用された事例はなく、従来の一般的なデジタル制御は、PWM制御自体がデジタル演算処理によって行われる場合が多い。デジタル演算処理によって、フィードフォワード制御を適用しようとすると、多くの演算処理工数が必要となり、入力電圧の急激な変動に追従するためには、高速のデジタルプロセッサを必要としていた。
【0065】
これに対して、この実施形態のスイッチング電源装置にあっては、低速のデジタルプロセッサで制御されるスイッチング電源装置にフィードフォワード制御を容易に適用することができる。
【0066】
なお本発明は、上記実施形態に限定するものではなく、パルス幅制御が行われるインバータ回路12であれば、プッシュプル方式、ブリッジ方式、フライバック方式、各種チョッパ方式等にも適用可能である。また、主スイッチング素子TR1もMOS−FETに限定するものではなく、バイポーラトランジスタやIGBT等のようにパルス信号によって駆動可能な半導体素子であればよい。
【0067】
また、制御パルス発生手段18とA/D変換回路16は同期して動作することが好ましいが、制御パルス発生手段18が動作可能な状態にA/D変換回路16が出力電圧デジタル値Vdig(n)を出力可能であれば良い。スイッチング電源装置10の低周波リップルが所望の値を満たすのであれば、制御パルス発生手段18の演算部18aに設定される補正量ΔKは、出力電圧検知回路15を介してA/D変換回路16に入力される出力電圧Voutより生成されるVdig(n)が持つ出力リップル成分の振幅の半分よりも小さい値であっても良く、スイッチング電源装置の動作状態(入力電圧Vin、出力電圧Voutの目標値、負荷電流の状態など)に応じて適宜変更されるものであってもよい。さらに、補正値VKがプラスに設定される場合とマイナスに設定される場合とで、補正量ΔKを変化させてもよい。
【0068】
また、パルス平滑化回路20は、1つの抵抗R2と1つのコンデンサC2で構成した1次フィルタの構成に限定するものではなく、2次あるいはそれ以上の多次フィルタの構成であってもよい。また、パッシブフィルターかアクティブフィルターかも問わない。その平滑化の周波数特性は、スイッチング電源装置が使用される環境(入力条件、負荷条件等)に合わせて適宜最適なものに設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】この発明のスイッチング電源装置の一実施形態を示す機能ブロック図である。
【図2】この実施形態の制御パルス発生手段の内部構成を示す回路図である。
【図3】この実施形態の制御パルス発生手段の処理を示すフローチャートである。
【図4】この実施形態の理想的な動作を説明するタイムチャートである。
【図5】この実施形態の実際の動作を説明するタイムチャートである。
【図6】この実施形態の制御パルス発生手段の補正値決定手段等を有しない制御パルス発生手段の内部構成を示す回路図である。
【図7】この実施形態の制御パルス発生手段の補正値決定手段等を有しない制御パルス発生回路を用いた場合の、スイッチング電源装置の動作を説明するタイムチャートである。
【図8】この実施形態ののこぎり波発生回路の他の実施形態の構成を示す回路図である。
【符号の説明】
【0070】
10 スイッチング電源装置
12 インバータ回路
14 整流平滑回路
16 A/D変換回路
18 制御パルス発生手段
18a 演算部
18b パルス電圧生成部
20,44 パルス平滑化回路
44a 平滑化電圧変動幅圧縮回路
22,42 のこぎり波発生回路
32 補正値決定手段
34 加算手段
TR1 主スイッチング素子
TR2 フォワード側整流素子
TR3 フライホイール側整流素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流の入力電圧を、所定スイッチング周波数でパルス幅変調された駆動パルスによりスイッチングし、断続電圧を発生させる主スイッチング素子を有するインバータ回路と、
前記断続電圧を整流平滑して出力電圧を得る整流平滑回路と、
前記スイッチング周波数を設定し、その周波数を有するのこぎり波電圧を発生するのこぎり波発生回路と、
前記出力電圧の検出値を出力電圧デジタル値に変換するアナログ/デジタル変換回路と、
前記出力電圧デジタル値に基づいて所定の演算処理を行なうことにより、前記出力電圧を制御するための制御パルス電圧を発生させる制御パルス発生手段と、
前記制御パルス電圧を平滑化して平滑化電圧を生成するパルス平滑化回路と、
前記平滑化電圧と前記のこぎり波電圧とを比較して前記主スイッチング素子の前記駆動パルスを出力する比較回路とを備え、
前記制御パルス発生手段は、
前記出力電圧デジタル値に所定の補正値を加算し、その加算結果と所定の目標値とを比較演算する演算部と、
前記演算部の出力に基づき、前記加算結果が、前記目標値よりも高いときはロウレベル電圧パルスを所定時間発生し、前記目標値よりも低いときはハイレベル電圧パルスを所定時間発生し、電圧パルスを発生しないときはその出力端を高インピーダンスに開放するパルス電圧生成部とを備え、
前記演算部に設定された前記所定の補正値は、直前の演算処理の前記加算結果が前記目標値よりも高いときは負の値に記憶され、直前の演算処理の前記加算結果が前記目標値よりも低いときは正の値に記憶され、前記演算部はその記憶された補正値を用いて次回の比較演算を行うことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記演算部に設定される前記所定の補正値は、前記アナログ/デジタル変換回路に入力される前記出力電圧のリップルによって発生する電圧変動幅の半分以上の値に対応した大きさに設定されていることを特徴とする請求項1記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記演算部に設定される前記所定の補正値は、前記アナログ/デジタル変換回路の量子化誤差の幅以上の値に対応した大きさに設定されていることを特徴とする請求項1記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
前記整流平滑回路は、前記主スイッチング素子と同期してオン・オフ動作するスイッチ素子からなる同期整流回路を備えたことを特徴とする請求項1,2又は3記載のスイッチング電源装置。
【請求項5】
前記のこぎり波発生回路は、のこぎり波電圧の上昇部分を入力電圧に比例した傾きに生成することを特徴とする請求項1,2又は3記載のスイッチング電源装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−284674(P2009−284674A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134626(P2008−134626)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000103208)コーセル株式会社 (80)
【Fターム(参考)】