説明

スイッチング電源装置

【課題】平滑コンデンサの寿命を長くしつつ、擬似共振動作するフライバックコンバータのスイッチング損失を小さくして、変換効率を向上させる。
【解決手段】スイッチング電源装置1は、交流電源6が接続される交流電源入力回路2と、直流電源7が接続される直流電源入力回路3と、を含んでいる。交流電源入力回路2は、交流電源6に対して、擬似共振動作するフライバックコンバータの一部を構成している。この交流電源入力回路2は、スイッチング動作するFET Q101と、交流電源6から供給された電圧を平滑化する平滑コンデンサC101と、1次側巻き線11から平滑コンデンサC101への電流の逆流を防止する逆流阻止ダイオードD102と、逆流阻止ダイオードD102が擬似共振するのを防止するバイパスコンデンサC103と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの異なる電力源に対してトランスを兼用したスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭用の商用電源とカーバッテリなどのように、異なる2つの電力源で利用可能な機器の需要が高まっている。例えば、特許文献1には、AC電源及びDC電源の異なる2つの電力源のいずれか一方に接続されて、DC出力可能な電源装置について記載されている。この特許文献1に記載された電源装置は、AC側入力巻き線、DC側入力巻き線及び出力巻き線が巻かれたトランスを有し、AC電源及びDC電源ともにスイッチング回路を含むリンギングチョークコンバータ(フライバックコンバータ)によりDC出力可能となっている。そして、この電源装置は、AC電源及びDC電源のいずれか一方がスイッチング回路に接続されることで、負荷に対して電力供給可能となっている。
【0003】
ここで、特許文献1に記載の電源装置における2つのスイッチング回路の電力源との接続部には、それぞれ平滑コンデンサが設けられている。また、AC側とDC側どちらもフライバックコンバータであるため、AC側入力巻き線とDC側入力巻き線は同じ極性となっている。すると、一方のスイッチング回路がスイッチング動作を行うときに、トランスを介して、出力巻き線だけでなく、他方のスイッチング回路に接続された入力巻き線にも起電力が生じる。そして、停止時であるにもかかわらず他方のスイッチング回路に電流が逆流して、平滑コンデンサが不要な充放電を繰り返してしまい、寿命が短くなってしまう。そこで、この電流の逆流を防止するため、2つのスイッチング回路には逆流阻止ダイオードがそれぞれ設けられている。
【0004】
ところで、変換効率を向上させるために、フライバックコンバータは擬似共振方式を採用することが増えている。この擬似共振方式は、電源制御ICメーカー各社が公開している制御ICのデータシートに詳述されているような公知の技術であり、概要については、非特許文献1に記載されているが、擬似共振を行うことで、フライバックコンバータのスイッチング回路に含まれるFET(スイッチング素子)のドレイン電圧を極力低くして、スイッチング損失を小さくすることで、変換効率を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−161351号公報(図1)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日経エレクトロニクス2008年6月30日号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この擬似共振方式を特許文献1に記載の電源装置に適用すると、擬似共振方式のフライバックコンバータに含まれるFETの寄生容量から電荷を引き抜く電流が、逆流阻止ダイオードにより阻止されてしまい、FETのドレイン電圧が下がらなくなる。これは、1次側励磁インダクタンスとFETの寄生容量の擬似共振ではなく、1次側励磁インダクタンスと逆流阻止ダイオードとの擬似共振になってしまうからである。すると、擬似共振方式特有の効果を奏することがなく、スイッチング損失が大きくなり、変換効率が低下してしまう。
【0008】
そこで、本発明の目的は、平滑コンデンサの寿命を長くしつつ、擬似共振動作するフライバックコンバータのスイッチング損失を小さくして、変換効率を向上させるスイッチング電源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスイッチング電源装置は、2つの異なる電力源に対してトランスを兼用したスイッチング電源装置であって、前記2つの電力源と、前記トランスに巻かれた同じ極性の2つの1次側巻き線とをそれぞれ接続する2つのスイッチング回路を備えている。少なくとも1つの前記スイッチング回路は、前記電力源に対して、擬似共振動作するフライバックコンバータの一部を構成しており、前記電力源と前記1次側巻き線とを接続する2本の電力ラインと、前記2本の電力ラインのうちいずれかの前記電力ラインに配置された第1スイッチング素子と、前記2本の電力ライン間に配置され、前記電力源から供給された電圧を平滑化する平滑コンデンサと、前記2本の電力ラインのうちいずれかの前記電力ラインにおける前記平滑コンデンサと前記1次側巻き線とを接続する部分に配置され、前記1次側巻き線から前記平滑コンデンサへの電流の逆流を防止する逆流防止素子と、前記2本の電力ラインの、一方の前記電力ラインにおける前記逆流防止素子と前記1次側巻き線とを接続する部分と、他方の前記電力ラインにおける前記平滑コンデンサと前記1次巻き線とを接続する部分との間に配置されたバイパスコンデンサと、を有している。
【0010】
本発明のスイッチング電源装置によると、擬似共振動作するフライバックコンバータが、逆流防止素子に加えて、バイパスコンデンサを有している。これにより、平滑コンデンサの不要な充放電を防止して、寿命を長くすることができる。また、1次側励磁インダクタンスと逆流防止素子が擬似共振せずに、1次側励磁インダクタンスとバイパスコンデンサが擬似共振する。したがって、擬似共振動作するフライバックコンバータにおいて、第1スイッチング素子の寄生容量に充電された電荷を引き抜く方向に電流を流すことが可能となり、スイッチング損失を小さくして、変換効率を向上させることができる。
【0011】
また、前記バイパスコンデンサは、固体コンデンサであることが好ましい。これによると、固体電解質を用いた固体コンデンサでバイパスコンデンサを実現することで、液体電解質を用いた電解コンデンサに比べて、長寿命化を実現することができ、電流リプルが存在しても十分な寿命を確保することができる。
【0012】
さらに、前記逆流防止素子は、前記第1スイッチング素子と同じタイミングでオンオフ動作を行う第2スイッチング素子であることが好ましい。これによると、第2スイッチング素子を逆流防止素子として用いることができ、逆流防止素子としてダイオードを用いる場合に生じる順方向電圧による損失を低減することができる。
【0013】
加えて、前記トランスには、前記2つの1次側巻き線に加えて、負荷へ電力を出力する2次側巻き線が巻かれており、前記2次側巻き線と負荷とを接続する2次側回路をさらに備えていることが好ましい。
【0014】
一方、別の観点では、本発明のスイッチング電源装置は、2つの異なる電力源に対してトランスを兼用したスイッチング電源装置であって、前記2つの電力源と前記トランスに巻かれた2つの1次側巻き線をそれぞれ接続する2つのスイッチング回路と、前記トランスに巻かれた2次側巻き線と負荷を接続する2次側回路と、を備えており、一方の前記スイッチング回路は、前記電力源に対して、擬似共振動作するフライバックコンバータの一部を構成しており、前記電力源と前記1次側巻き線とを接続する2本の電力ラインと、前記2本の電力ラインのうちいずれかの前記電力ラインに配置された第1スイッチング素子と、前記2本の電力ライン間に配置され、前記電力源から供給された電圧を平滑化する平滑コンデンサと、前記2本の電力ラインのうちいずれかの前記電力ラインにおける前記平滑コンデンサと前記1次側巻き線とを接続する部分に配置され、前記1次側巻き線から前記平滑コンデンサへの電流の逆流を防止する逆流防止素子と、前記2本の電力ラインの一方の前記電力ラインにおける前記逆流防止素子と前記1次側巻き線とを接続する部分と、他方の前記電力ラインにおける前記平滑コンデンサと前記1次巻き線とを接続する部分との間に配置されたバイパスコンデンサと、を有しており、他方の前記スイッチング回路は、対応する前記電力源に対して、前記擬似共振動作するフライバックコンバータの一部を構成しておらず、前記2次側回路をインダクタンスとした昇降圧コンバータの一部を構成している。
【0015】
本発明のスイッチング電源装置によると、擬似共振動作するフライバックコンバータが、逆流防止素子に加えて、バイパスコンデンサを有している。これにより、平滑コンデンサの不要な充放電を防止して、寿命を長くすることができる。また、1次側励磁インダクタンスと逆流防止素子が擬似共振せずに、1次側励磁インダクタンスとバイパスコンデンサが擬似共振する。したがって、擬似共振動作するフライバックコンバータにおいて、第1スイッチング素子の寄生容量に充電された電荷を引き抜く方向に電流を流すことが可能となり、スイッチング損失を小さくして、変換効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
平滑コンデンサの不要な充放電を防止して、寿命を長くすることができる。また、1次側励磁インダクタンスとバイパスコンデンサが擬似共振するため、擬似共振動作するフライバックコンバータにおいて、第1スイッチング素子の寄生容量に充電された電荷を引き抜く方向に電流を流すことが可能となり、スイッチング損失を小さくして、変換効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態に係るスイッチング電源装置の回路図である。
【図2】擬似共振動作についてのタイミングチャートである。
【図3】各回路の等価モデルである。
【図4】第2実施形態に係るスイッチング電源装置の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
次に、本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態は、交流電源及び直流電源のいずれか一方の電源と接続されて、変圧された出力電圧を負荷に対して供給するスイッチング電源装置に本発明を適用した一例である。例えば、交流電源としては220V商用電源、直流電源としては車載などに利用される12V鉛バッテリが挙げられる。この他にも、各巻き線の巻き線比などを適宜設計することで、所望の電力源を接続可能である。
【0019】
図1に示すように、スイッチング電源装置1は、交流電源6が接続される1次側回路である交流電源入力回路2と、直流電源7が接続される1次側回路である直流電源入力回路3と、交流電源入力回路2のFET Q101及び直流電源入力回路3のFET Q301のオンオフ動作を制御する制御回路5と、負荷R201が接続される2次側回路である出力回路4と、を有している。また、スイッチング電源装置1は、交流電源入力回路2と接続された1次側巻き線11、直流電源入力回路3と接続された1次側巻き線12、制御回路5と接続された補助巻き線13及び出力回路4と接続された2次側巻き線14がコアに巻きつけられた絶縁トランスT1をさらに有している。この絶縁トランスT1に巻かれた2つの1次側巻き線11、12は、同じ極性となっている。なお、本実施形態における交流電源入力回路2及び直流電源入力回路3が、本発明における2つのスイッチング回路に相当する。
【0020】
交流電源入力回路2は、出力回路4とともに、交流電源6に対して、擬似共振動作するフライバックコンバータを構成している。交流電源入力回路2は、ブリッジダイオードD101と、平滑コンデンサC101と、逆流阻止ダイオードD102と、バイパスコンデンサC103と、FET Q101と、2本の電力ライン21、22と、FET Q101への制御信号入力部23と、を有している。
【0021】
交流電源入力回路2は、2本の電力ライン21、22を介して、交流電源6と1次側巻き線11とを接続している。2本の電力ライン21、22間には、交流電源6から1次側巻き線11への電力の出力方向に順に並んで、ブリッジダイオードD101、平滑コンデンサC101、バイパスコンデンサC103が並列に接続されている。また、電力ライン21の平滑コンデンサC101とバイパスコンデンサC103とを接続する部分には、逆流阻止ダイオードD102が接続されている。さらに、電力ライン22のバイパスコンデンサC103と1次側巻き線11とを接続する部分には、FET Q101が接続されている。
【0022】
ブリッジダイオードD101と平滑コンデンサC101は、交流電源6から出力された交流電力を直流電力に変換する。平滑コンデンサC101は、電力100W弱程度の電源の場合、200〜300pFの電解コンデンサとするのが好ましい。なお、図示していないが、交流電源6とブリッジダイオードD101の間には、FET Q101によるスイッチングノイズが漏洩しないようにするためのラインフィルタが配置されている。
【0023】
逆流阻止ダイオードD102は、1次巻き線11から交流電源6に向かって電力の出力方向とは逆に電流が流れるのを阻止する。バイパスコンデンサC103は、FET Q101の動作時に擬似共振電流を流すためのものである。バイパスコンデンサC103は0.1μF程度のセラミックコンデンサであることが望ましい。擬似共振動作について詳しくは後述する。
【0024】
FET Q101は、交流電源6に対して、フライバックコンバータの一部を構成するスイッチング素子である。なお、FET Q101の寄生容量は、C102として示している。FET Q101の寄生容量C102は、300〜380pFであり、その容量のばらつきを抑えるには、1000〜2000pF程度のコンデンサを平滑コンデンサC101に並列に別途配置することもあるが、本実施形態においては、バイパスコンデンサC103が、擬似共振電流を流すコンデンサとしてだけでなく、別途配置するコンデンサとしても機能している。
【0025】
制御信号入力部23は、FET Q101のゲートに接続されており、制御回路5から出力された、FET Q101のオンオフ動作に対応した制御信号をFET Q101のゲートに送信する。なお、フライバックコンバータとしては、1次側巻き線11よりも入力側にスナバ回路、フィルタ回路、フィードバック制御用回路などが必要であるが、従来から公然に知られた技術であるため、その説明を省略している。
【0026】
制御回路5は、補助巻き線13と、2つのダイオードD401、D402と、2つのコンデンサC401、C402と、2つの抵抗R401、R402と、を有している。フライバックコンバータに関する制御回路5は、さらに、図示しない制御ICや制御IC用電源などを有しているが、従来から公然に知られた技術であるため、本実施形態においては、制御ICの周辺回路のうち、擬似共振に関する部分のみを抽出した回路を示している。補助巻き線13と、整流ダイオードD401及び平滑コンデンサC401は、交流電源入力回路2とともにフライバックコンバータを構成しており、図示しない制御ICを駆動する電源電圧Vccを生成可能である。ダイオードD402、2つの抵抗R401、R402及びコンデンサC402は、補助巻き線13の両端電圧と相似なボトム検知電圧BOTTOM DETECTを生成する。ボトム検知電圧BOTTOM DETECTは、ダイオードD402によって0V以下にならないようにクランプされており、コンデンサC402と2つの抵抗R401、R402の分割抵抗で構成されるノズル除去用のローパスフィルタで波形整形されている。制御回路5は、交流電源入力回路2の制御信号入力部23に対してFET Q101をオンオフする制御信号を出力する。
【0027】
直流電源入力回路3は、出力回路4とともに、直流電源7に対して、電流連続モードのフライバックコンバータを構成している。直流電源入力回路3は、平滑コンデンサC301と、逆流阻止ダイオードD301と、FET Q301と、2本の電力ライン24、25と、制御信号入力部26と、を有している。
【0028】
直流電源7と1次側巻き線12は、2本の電力ライン24、25を介して接続されている。そして、2本の電力ライン24、25間には、平滑コンデンサC301が接続されている。また、電力ライン24の平滑コンデンサC301と1次側巻き線11とを接続する部分には、逆流阻止ダイオードD301が接続されている。さらに、電力ライン25の平滑コンデンサC301と1次側巻き線12とを接続する部分には、FET Q301が接続されている。
【0029】
平滑コンデンサC301は、直流電源7から出力された直流電力を平滑化する。逆流阻止ダイオードD301は、1次巻き線12から直流電源7に向かって電力ライン24を介して電流が流れるのを阻止する。FET Q301は、直流電源7に対して、フライバックコンバータの一部を構成するスイッチング素子である。制御信号入力部26は、FET Q301のゲートに対してオンオフ動作に対応した制御信号を出力する。
【0030】
出力回路4は、負荷R201と2次側巻き線14とを接続する2つの電力ラインのうち、一方の電力ラインに配置されたダイオードD201と、ダイオードD201よりも電力出力側において2つの電力ライン間に接続されたコンデンサC201と、を有している。
【0031】
次に、スイッチング電源装置1に交流電源6または直流電源7を接続したときの各回路の動作について説明する。なお、直流電源7を接続したときに駆動する、電流連続モードのフライバックコンバータは従来から公然に知られた技術であるため、その動作についての説明は省略する。
【0032】
まず、仮に、交流電源入力回路2が逆流阻止ダイオードD102及び平滑コンデンサC103を有していないときの、一般的な擬似共振方式のフライバックコンバータの動作について簡単に説明する。擬似共振方式では、フライバックコンバータを臨界モードに近い不連続モードで動作させる。そして、絶縁トランスT1の励磁インダクタンスに蓄えられたエネルギーが出力回路4のダイオードD201を通じて完全に放出されると、2次側巻き線14の両端の電圧が出力電圧以下となってダイオードD201がオフし、交流電源入力回路2のFET Q101の寄生容量C102と励磁インダクタンスが共振を始め、FET Q101のドレイン電圧が下がる。最も下がったところでFET Q101をオンにすることで、寄生容量C102の放電損失を減らすことができ、低損失化することができる。
【0033】
次に、本実施形態における擬似共振方式のフライバックコンバータの動作について図2を参照して詳細に説明する。図2は、擬似共振動作についてのタイミングチャートであり、(a)はFET Q101のゲート電圧、(b)はダイオードD201の電流、(c)はボトム検知電圧、(d)はFET Q101のドレイン電圧である。以下は、図2に示す(1)〜(6)の順に説明する。
【0034】
(1)FET Q101のゲート電圧がオフすると、FET Q101がオフして寄生容量C102に充電が始まり、FET Q101のドレイン電圧が大きくなる。
(2)(ドレイン電圧−平滑入力電圧)が出力電圧×巻き数比と等しくなると、ダイオードD201が導通して電流が流れ、負荷R201に対して電力を供給する。
(3)負荷R201への出力電圧の逆電圧が絶縁トランスT1の2次側励磁インダクタンスにかかっているので、ダイオードD201に流れる電流が徐々に小さくなる。
(4)ダイオードD201に流れる電流が0になると、ダイオードD201がオフして容量性となり、励磁インダクタンスと周辺の容量の共振が始まる。周辺の容量ではバイパスコンデンサC103が最も大きいので、1次側励磁インダクタンスとバイパスコンデンサC103が擬似共振する。
(5)擬似共振動作中。
(6)ボトム検知電圧が0になってから、一定時間後に、ドレイン電圧が最も小さくなる。制御回路5はそのタイミングで制御信号入力部23を介してFET Q101のゲート電圧をハイにすると、FET Q101のスイッチング損失を小さくすることができる。これにより、擬似共振動作によって変換効率を向上させることができる。
【0035】
次に、交流電源入力回路2に逆流阻止ダイオードD102及びバイパスコンデンサC103が設けられていないときの擬似共振動作と、交流電源入力回路2にバイパスコンデンサC103が設けられていないときの擬似共振動作と、交流電源入力回路2に逆流阻止ダイオードD102及びバイパスコンデンサC103が設けられた本実施形態における擬似共振動作の等価回路について図3を参照しつつ説明する。図3は、FET Q101がオフ且つダイオードD201がオフ時の共振部分の等価モデルであり、(a)は逆流阻止ダイオードD102及びバイパスコンデンサC103が設けられていないときの等価モデルであり、(b)はバイパスコンデンサC103が設けられていないときの等価モデルであり、(c)は逆流阻止ダイオードD102及びバイパスコンデンサC103が設けられているときの等価モデルである。
【0036】
図3(a)に示すように、絶縁トランスT1は、漏れインダクタンスと絶縁機能を無視すると、励磁インダクタンスでモデル化することができる。絶縁トランスT1の巻き線比(1次側巻き線11の数/2次側巻き線14の数)をnとする。このとき、入力電圧がAC220V、出力電圧が12Vの場合、nは10前後の値となる。Ct2’は、出力回路4のダイオードD201の寄生容量Ct2を1次側換算したものであり、その大きさはCt2/(n)である。C201’は出力回路4のコンデンサC201を1次側換算したものであり、その大きさはC201/(n)である。擬似共振動作では、平滑コンデンサC101とFET Q101の寄生容量C102、及び、容量C201’と容量Ct2’のそれぞれの組が直列に並び、その組が励磁インダクタンスと並列に接続されることになる。
【0037】
通常の設計を行うと、各コンデンサの容量の大小関係は、
C101>C201’>>C102>>Ct2’
となる。したがって、擬似共振に関わる合成容量はFET Q101の寄生容量C102にほぼ等しくなる。擬似共振動作時には、寄生容量C102の端子間の電圧は、Vin−n×Voutまで下がる。
【0038】
ここで、図3(b)に示すように、逆流阻止ダイオードD102が追加されると、逆流阻止ダイオードD102の寄生容量Ct1’が現れる。この場合の、コンデンサの容量の大小関係は、
C101>C201’>>C102>>Ct1’>>Ct2’
となる。したがって、擬似共振に関わる合成容量は逆流阻止ダイオードD102の寄生容量Ct1’+Ct2’にほぼ等しくなる。すると、容量の小さな寄生容量Ct1’、Ct2’が電圧変動を吸収するため、FET Q101の寄生容量C102では擬似共振の影響はほとんど見えず、寄生容量C102の端子間の電圧は変化しない。したがって、スイッチング損失が低減されない。
【0039】
そこで、図3(c)に示すように、逆流阻止ダイオードD102の寄生容量Ct1の他に、新たに配置されたバイパスコンデンサC103が存在する。この場合の、コンデンサの容量の大小関係は、
C101>C201’>>C103>>C102>>Ct1’>>Ct2’
となるように、バイパスコンデンサC103の容量を選択する。FET Q101の寄生容量C102や他の寄生容量のばらつきを抑えるため、寄生容量C102と比較して十分大きく、また、寿命の短い電解コンデンサではなく、固体コンデンサから選択できる程度に小さいコンデンサを選択することが重要である。例えば、FET Q101の寄生容量C102には、300〜380pFを想定したので、これより十分大きなバイパスコンデンサがあれば、共振電圧がFET Q101のドレイン電圧に現れる。(バイパスコンデンサC103がFET Q101の寄生容量C102と同程度の場合、共振電圧が寄生容量C102とバイパスコンデンサC103で容量分割されるためFET Q101のドレイン電圧を下げる効果が小さくなる。)そこで、本実施例では、電流リプルが存在しても寿命が十分な固体コンデンサである、0.1uF程度のセラミックコンデンサを選択した。このバイパスコンデンサC103により、擬似共振に関わる合成容量は、バイパスコンデンサC103にほぼ等しくなる。すると、FET Q101の寄生容量C102の両端電圧は、擬似共振動作中、一定期間下がり続けることになり、所定時間後、FET Q101をオンすることで、スイッチング損失を低減することができる。
【0040】
ここで、図3(b)に示すように、仮に、交流電源入力回路2にバイパスコンデンサC103が設けられていないと、1次側励磁インダクタンスと逆流阻止ダイオードD102が擬似共振してしまい、FET Q101の寄生容量C102から電荷を引き抜く電流が、逆流阻止ダイオードD102により阻止されてしまい、FET Q101のドレイン電圧が下がらなくなる。したがって、FET Q101のスイッチング損失が大きくなってしまい、変換効率が低下してしまう。
【0041】
そこで、図3(a)に示すように、交流電源入力回路2に逆流阻止ダイオードD102を設けないことも考えられるが、これでは、直流電源入力回路3において、スイッチング動作が行われているときに、交流電源入力回路2の1次側巻き線11に起電力が生じてしまう。そして、交流電源入力回路2に電流が逆流して、平滑コンデンサC101が不要な充放電を繰り返してしまい、寿命が短くなってしまう。
【0042】
本実施形態におけるスイッチング電源装置1によると、交流電源入力回路2は、逆流阻止ダイオードD102に加えて、バイパスコンデンサC103を有している。これにより、平滑コンデンサC101の不要な充放電を阻止することができ、寿命を長くすることができる。また、1次側励磁インダクタンスと逆流阻止ダイオードD102が擬似共振せずに、1次側励磁インダクタンスとバイパスコンデンサC103が擬似共振する。したがって、擬似共振動作するフライバックコンバータにおいて、FET Q101の寄生容量C102に充電された電荷を引き抜く方向に電流を流すことが可能となり、スイッチング損失を小さくして、変換効率を向上させることができる。
【0043】
また、バイパスコンデンサC103は、固体電解質を用いた固体コンデンサであるため、液体電解質を用いた電解コンデンサに比べて、長寿命化を実現することができ、電流リプルが存在しても十分な寿命を確保することができる。
【0044】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について、図4を参照して説明する。なお、第1実施形態と同様の機能を有する構成要素については説明を省略し、同一符号を付加する。図4に示すように、第2実施形態におけるスイッチング電源装置50では、第1実施形態における逆流防止素子である逆流阻止ダイオードD102、D301がFET Q102、Q302となっている。また、第1実施形態における直流電源入力回路3及び出力回路4が、直流電源7として二次電池が接続されて、この二次電池を充放電可能な回路構成となっている。
【0045】
スイッチング電源装置50は、交流電源入力回路52と、直流電源入力回路53と、出力回路54と、充電回路55と、を有している。交流電源入力回路52は、第1実施形態における逆流阻止ダイオードD102の代わりに、FET Q102を有している。FET Q102は、電力ライン21の平滑コンデンサC101とバイパスコンデンサC103とを接続する部分に接続されている。FET Q102のゲートは制御信号入力部23に接続されており、FET Q102には、FET Q101に送信される制御信号と同様の信号が送信される。つまり、FET Q102は、FET Q101と同じタイミングでオンオフ動作を行うこととなる。
【0046】
直流電源入力回路53は、絶縁トランスT1の2次側励磁インダクタンスを利用した昇降圧コンバータの一部を構成している。直流電源56に二次電池が接続されると、直流電源入力回路53が昇降圧コンバータとして駆動し、負荷R201に対して電力を供給する。この直流電源入力回路53は、第1実施形態における逆流阻止ダイオード301の代わりに、FET Q302を有している。
【0047】
交流電源6及び負荷R201を接続すると、交流電源入力回路52は、出力回路54とともに擬似共振方式のフライバックコンバータを構成し、第1実施形態と同様の動作を行い、負荷R201に電力を供給することができる。また、交流電源6及び直流電源56(二次電池)を接続すると、交流電源入力回路52は、充電回路55とともに擬似共振方式のフライバックコンバータを構成し、二次電池の充電を行うことができる。さらに、直流電源56(二次電池)及び負荷R201を接続すると、直流電源56は、出力回路54とともに昇降圧コンバータを構成し、負荷R201に電力を供給することができる。
【0048】
このように、交流電源入力回路52からすると、充電回路55と出力回路54の2つの2次側回路が存在することとなる。そして、充電回路55を介して直流電源56に接続された二次電池を充電可能である。したがって、交流電源入力回路52が停電などなんらかの理由で動作を停止しているときでも、二次電池から負荷R201に電力を安定して供給することができる。
【0049】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、交流電源入力回路52は、逆流防止素子であるFET Q102に加えて、バイパスコンデンサC103を有している。これにより、平滑コンデンサC101の不要な充放電を阻止することができ、寿命を長くすることができる。また、1次側励磁インダクタンスとFET Q102の寄生容量が擬似共振せずに、1次側励磁インダクタンスとバイパスコンデンサC103が擬似共振する。したがって、擬似共振動作するフライバックコンバータにおいて、FET Q101の寄生容量C102に充電された電荷を引き抜く方向に電流を流すことが可能となり、スイッチング損失を小さくして、変換効率を向上させることができる。
【0050】
また、逆流防止素子として、FETを用いることで、ダイオードを用いる場合に生じる順方向電圧による損失を低減することができる。また、この逆流防止素子は、一方のスイッチング回路が動作しているときに、他方のスイッチング回路に電流が逆流するのを阻止する目的である。そのため、他方のスイッチング回路の逆流防止素子となるFETは、この他方のスイッチング回路のメインのスイッチング素子であるFETと同じオンオフ動作にすればよく、オンオフ制御が容易である。
【0051】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0052】
本実施形態においては、1次側回路として、交流電源入力回路2と直流電源入力回路3を設けていたが、2つの入力回路は、どちらも直流電源入力回路であってもよいし、交流電源入力回路であってもよい。
【0053】
また、本実施形態においては、スイッチング電源装置は、2つの1次側回路を含んで構成されていたが、1次側回路は2つ以上であってもよい。
【0054】
さらに、本実施形態においては、スイッチング回路である交流電源入力回路及び直流電源入力回路のスイッチング素子は、FETであったが、その他のトランジスタであってもよい。
【0055】
さらに、本実施形態においては、2つのスイッチング回路のうち、一方のスイッチング回路は、出力回路とともに擬似共振動作するフライバックコンバータを構成し、他方のスイッチング回路は、出力回路とともに電流連続モードのフライバックコンバータを構成していたが、少なくとも一方のスイッチング回路が、出力回路とともに擬似共振動作するフライバックコンバータを構成し、2つのスイッチング回路に接続される1次側巻き線が同じ極性であればよい。例えば、どちらのスイッチング回路も、出力回路とともに擬似共振動作するフライバックコンバータを構成してもよい。また、擬似共振動作するフライバックコンバータを構成しないスイッチング回路は、昇降圧コンバータを構成していてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1、50 スイッチング電源装置
2、52 交流電源入力回路
3、53 直流電源入力回路
6 交流電源
7 直流電源
11、12 1次側巻き線
21、22 電力ライン
C101 平滑コンデンサ
C103 バイパスコンデンサ
D102 逆流阻止ダイオード(逆流防止素子)
Q101 FET(第1スイッチング素子)
T1 トランス


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの異なる電力源に対してトランスを兼用したスイッチング電源装置であって、
前記2つの電力源と、前記トランスに巻かれた同じ極性の2つの1次側巻き線とをそれぞれ接続する2つのスイッチング回路を備えており、
少なくとも1つの前記スイッチング回路は、
前記電力源に対して、擬似共振動作するフライバックコンバータの一部を構成しており、
前記電力源と前記1次側巻き線とを接続する2本の電力ラインと、
前記2本の電力ラインのうちいずれかの前記電力ラインに配置された第1スイッチング素子と、
前記2本の電力ライン間に配置され、前記電力源から供給された電圧を平滑化する平滑コンデンサと、
前記2本の電力ラインのうちいずれかの前記電力ラインにおける前記平滑コンデンサと前記1次側巻き線とを接続する部分に配置され、前記1次側巻き線から前記平滑コンデンサへの電流の逆流を防止する逆流防止素子と、
前記2本の電力ラインの一方の前記電力ラインにおける前記逆流防止素子と前記1次側巻き線とを接続する部分と、他方の前記電力ラインにおける前記平滑コンデンサと前記1次巻き線とを接続する部分との間に配置されたバイパスコンデンサと、を有していることを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記バイパスコンデンサは、固体コンデンサであることを特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記逆流防止素子は、前記第1スイッチング素子と同じタイミングでオンオフ動作を行う第2スイッチング素子であることを特徴とする請求項1または2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
前記トランスには、前記2つの1次側巻き線に加えて、負荷へ電力を出力する2次側巻き線が巻かれており、
前記2次側巻き線と負荷とを接続する2次側回路をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のスイッチング電源装置。
【請求項5】
2つの異なる電力源に対してトランスを兼用したスイッチング電源装置であって、
前記2つの電力源と前記トランスに巻かれた2つの1次側巻き線をそれぞれ接続する2つのスイッチング回路と、前記トランスに巻かれた2次側巻き線と負荷を接続する2次側回路と、を備えており、
一方の前記スイッチング回路は、
前記電力源に対して、擬似共振動作するフライバックコンバータの一部を構成しており、
前記電力源と前記1次側巻き線とを接続する2本の電力ラインと、
前記2本の電力ラインのうちいずれかの前記電力ラインに配置された第1スイッチング素子と、
前記2本の電力ライン間に配置され、前記電力源から供給された電圧を平滑化する平滑コンデンサと、
前記2本の電力ラインのうちいずれかの前記電力ラインにおける前記平滑コンデンサと前記1次側巻き線とを接続する部分に配置され、前記1次側巻き線から前記平滑コンデンサへの電流の逆流を防止する逆流防止素子と、
前記2本の電力ラインの一方の前記電力ラインにおける前記逆流防止素子と前記1次側巻き線とを接続する部分と、他方の前記電力ラインにおける前記平滑コンデンサと前記1次巻き線とを接続する部分との間に配置されたバイパスコンデンサと、を有しており、
他方の前記スイッチング回路は、
対応する前記電力源に対して、前記擬似共振動作するフライバックコンバータの一部を構成しておらず、前記2次側回路をインダクタンスとした昇降圧コンバータの一部を構成していることを特徴とするスイッチング電源装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−120416(P2011−120416A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277426(P2009−277426)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】