説明

スクリュー圧縮機

【課題】スライドバルブとスクリューロータの隙間を通って圧縮室から漏れ出す冷媒の量を削減し、スクリュー圧縮機の運転効率を向上させる。
【解決手段】スクリュー圧縮機(1)には、圧縮比を変更するためのスライドバルブ(60)が設けられる。スライドバルブ(60)の弁体部(65)には、その後端面(74)に沿ってシール用凸部(66)が形成される。ケーシング(10)のスライドバルブ収納部(31)では、スライドバルブ(60)のシール用凸部(66)がケーシング(10)の摺接用曲面(32)と摺接することによって、低圧空間(S1)と高圧空間(S2)が仕切られる。弁体部(65)では、非摺接面(77)の全体に低圧空間(S1)内の冷媒圧力が常に作用する。このため、スライドバルブ(60)の位置に拘わらず、弁体部(65)をスクリューロータ(40)側へ押す力が一定となり、弁体部(65)の前面(71)とスクリューロータ(40)のクリアランスの変化が減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドバルブを用いて圧縮比を変更可能に構成されたスクリュー圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、スクリュー圧縮機は、冷媒や空気を圧縮する用途に広く用いられている。また、例えば特許文献1に開示されているように、スライドバルブを用いて圧縮比を変更可能に構成されたスクリュー圧縮機も知られている。
【0003】
具体的に、特許文献1には、一つのスクリューロータを備えたシングルスクリュー圧縮機が開示されている。このシングルスクリュー圧縮機は、スクリューロータの軸方向に移動可能なスライドバルブを備えている。このスライドバルブには、吐出口が形成されている。このシングルスクリュー圧縮機において、スクリューロータが回転すると、スクリューロータの螺旋溝により形成された圧縮室へ流体が吸入されて圧縮される。また、圧縮室がスライドバルブの吐出口に連通すると、圧縮された流体が圧縮室から吐出口を通って吐出される。
【0004】
特許文献1のシングルスクリュー圧縮機において、スライドバルブが移動すると、そこに形成された吐出口も移動する。吐出口の位置が変化すると、吐出口に連通し始める時点における圧縮室の容積が変化する。従って、スライドバルブを移動させると、それに伴って圧縮比が変化する。
【0005】
従来のシングルスクリュー圧縮機の構造について、図23〜25を参照しながら説明する。
【0006】
図23に示すように、シングルスクリュー圧縮機では、ケーシング(510)内のシリンダ部(511)にスクリューロータ(520)が挿入されている。スクリューロータ(520)は、駆動軸(525)を介して図外の電動機に連結されている。スクリューロータ(520)の螺旋溝(521)は、圧縮室を形成する。この螺旋溝(521)には、ゲートロータのゲートが噛み合わされる。スクリューロータ(520)が回転すると、低圧空間(515)から圧縮室へ流体が吸入されて圧縮される。
【0007】
スクリューロータ(520)の側方には、スライドバルブ(530)が配置されている。図25に示すように、スライドバルブ(530)は、弁体部(531)とガイド部(534)と連結部(535)とを備えている。弁体部(531)は、柱状に形成されている。弁体部(531)の前面(532)は、スクリューロータ(520)の外周と対向する曲面となっている。弁体部(531)の背面(533)は、前面(532)よりも曲率半径の小さい円筒面となっている。ガイド部(534)の前面は、ケーシング(510)に固定された軸受ホルダ(512)の外周面と摺接する。連結部(535)は、棒状に形成されて弁体部(531)とガイド部(534)を連結している。スライドバルブ(530)では、弁体部(531)とガイド部(534)の間が吐出口(536)となっている。圧縮室内で圧縮された流体は、吐出口(536)を通って高圧空間(516)へ吐出される。
【0008】
ケーシング(510)のうち弁体部(531)の背面(533)と対向する部分には、シール用凸部(513)が形成されている。シール用凸部(513)の突端面(514)は、曲率半径が弁体部の背面(533)と実質的に等しい曲面となっており、弁体部(531)の背面(533)と摺接する。そして、シール用凸部(513)の突端面(514)が弁体部(531)の背面(533)と摺接することによって、低圧空間(515)と高圧空間(516)が仕切られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−137934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、スライドバルブ(530)の弁体部(531)の背面(533)には、ケーシング(510)内の流体圧力が作用する。具体的に、図23に示す状態(即ち、圧縮比が最も高い状態)において、弁体部(531)の背面(533)では、シール用凸部(513)の突端面(514)よりも高圧空間(516)側の領域(同図にAで示した領域)に高圧空間(516)内の流体の圧力が作用し、シール用凸部(513)の突端面(514)よりも低圧空間(515)側の領域(同図にAで示した領域)に低圧空間(515)内の流体の圧力が作用する。一方、図24に示す状態(即ち、圧縮比が最も低い状態)において、弁体部(531)の背面(533)では、シール用凸部(513)の突端面(514)よりも高圧空間(516)側の領域が無くなり、シール用凸部(513)の突端面(514)よりも低圧空間(515)側の領域(同図にAで示した領域)に低圧空間(515)内の流体の圧力が作用する。
【0011】
このように、従来のスクリュー圧縮機では、スライドバルブ(530)の位置によって、弁体部(531)の背面(533)のうち低圧空間(515)内の流体の圧力が作用する領域の大きさと、弁体部(531)の背面(533)のうち高圧空間(516)内の流体の圧力が作用する領域の大きさとが変化する。このため、従来のスクリュー圧縮機では、スライドバルブ(530)をスクリューロータ(520)側へ押す力の大きさがスライドバルブ(530)の位置によって変化し、弁体部(531)の前面(532)とスクリューロータ(520)のクリアランスがスライドバルブ(530)の位置によって変化してしまう。一方、スライドバルブ(530)がスクリューロータ(520)に最も接近した状態でも、両者が互いに接触するのを防ぐ必要がある。このため、スライドバルブ(530)の位置によってはスライドバルブ(530)とスクリューロータ(520)のクリアランスが過大となり、圧縮室から漏れ出す流体の量が増加してスクリュー圧縮機の運転効率の低下を招くおそれがあった。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、スライドバルブとスクリューロータの隙間を通って圧縮室から漏れ出す冷媒の量を削減し、スクリュー圧縮機の運転効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の発明は、低圧空間(S1)及び高圧空間(S2)を形成するケーシング(10)と、圧縮室(23)を形成する複数の螺旋溝(41)が形成され、上記ケーシング(10)のシリンダ部(30)に挿入されるスクリューロータ(40)と、上記スクリューロータ(40)の軸方向へ移動可能に上記シリンダ部(30)に設けられ、該スクリューロータ(40)の外周と対向して上記圧縮室(23)を上記高圧空間(S2)に連通させるための吐出口(25)を形成するスライドバルブ(60)とを備え、上記スクリューロータ(40)が回転すると、上記低圧空間(S1)内の流体が上記圧縮室(23)へ吸入されて圧縮された後に上記高圧空間(S2)へ吐出されるスクリュー圧縮機を対象とする。そして、上記スライドバルブ(60)には、上記スクリューロータ(40)とは反対の背面側に突出し、上記ケーシング(10)と摺接することによって上記低圧空間(S1)と上記高圧空間(S2)を仕切るシール用凸部(66)が形成されるものである。
【0014】
第1の発明のスクリュー圧縮機(1)では、スクリューロータ(40)がケーシング(10)のシリンダ部(30)に挿入され、スクリューロータ(40)の螺旋溝(41)によって圧縮室(23)が形成される。スクリューロータ(40)が回転すると、低圧空間(S1)内の流体が圧縮室(23)へ吸入される。圧縮室(23)が低圧空間(S1)から遮断されると、その後は圧縮室(23)の容積が次第に縮小し、圧縮室(23)内の流体が圧縮される。圧縮室(23)が吐出口(25)に連通すると、圧縮室(23)において圧縮された流体が、吐出口(25)を通って高圧空間(S2)へ吐出される。
【0015】
第1の発明では、ケーシング(10)のシリンダ部(30)にスライドバルブ(60)が設けられる。スライドバルブ(60)は、スクリューロータ(40)の軸方向へ移動可能となっている。スライドバルブ(60)が移動すると、スライドバルブ(60)によって形成される吐出口(25)も移動する。吐出口(25)が移動すると、吐出口(25)に連通する直前の圧縮室(23)の容積が変化する。このため、スライドバルブ(60)を移動させると、圧縮比が変化する。なお、圧縮比Rは、吸入行程の終了直後における圧縮室(23)の容積Vを吐出行程の開始直前における圧縮室(23)の容積Vで除した値(即ち、R=V/V)である。即ち、圧縮比Rは、内部容積比と同義である。
【0016】
第1の発明のスライドバルブ(60)には、シール用凸部(66)が形成される。このシール用凸部(66)は、スライドバルブ(60)の背面側に突出し、ケーシング(10)と摺接する。ケーシング(10)内では、スライドバルブ(60)のシール用凸部(66)がケーシング(10)と摺接することによって、高圧空間(S2)から低圧空間(S1)への流体の漏洩が抑えられる。つまり、シール用凸部(66)がケーシング(10)と摺接することによって、低圧空間(S1)と高圧空間(S2)が仕切られる。
【0017】
第1の発明のスライドバルブ(60)の背面では、シール用凸部(66)よりも低圧空間(S1)側の領域に低圧空間(S1)内の流体の圧力が作用し、シール用凸部(66)よりも高圧空間(S2)側の領域に高圧空間(S2)内の流体の圧力が作用する。一方、シール用凸部(66)はスライドバルブ(60)に形成されているため、スライドバルブ(60)が移動すると、それに伴ってシール用凸部(66)の位置も変化する。このため、スライドバルブ(60)の背面における“低圧空間(S1)内の流体の圧力が作用する領域の面積”と“高圧空間(S2)内の流体の圧力が作用する領域の面積”は、スライドバルブ(60)が移動しても一定に保たれる。従って、低圧空間(S1)内の流体の圧力と高圧空間(S2)内の流体の圧力が一定であれば、スライドバルブ(60)の位置に拘わらず、低圧空間(S1)内の流体および高圧空間(S2)内の流体からスライドバルブ(60)が受ける力の大きさも一定となる。
【0018】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記スライドバルブ(60)は、上記吐出口(25)よりも上記低圧空間(S1)側の部分がバルブ本体部(65)となり、上記バルブ本体部(65)は、上記低圧空間(S1)側が先端となって上記吐出口(25)側が後端となり、上記シール用凸部(66)は、上記バルブ本体部(65)の後端に沿って形成されるものである。
【0019】
第2の発明のスライドバルブ(60)では、バルブ本体部(65)にシール用凸部(66)が形成されている。このシール用凸部(66)は、バルブ本体部(65)の背面側に突出すると共に、バルブ本体部(65)の後端(即ち、吐出口(25)側の一端)に沿って形成されている。従って、この発明のバルブ本体部(65)において、その背面のうちシール用凸部(66)よりも吐出口(25)寄りの領域は存在しない。
【0020】
第2の発明のケーシング(10)内では、バルブ本体部(65)のシール用凸部(66)がケーシング(10)と摺接することによって、低圧空間(S1)と高圧空間(S2)が仕切られる。このため、バルブ本体部(65)の背面のうちシール用凸部(66)よりも低圧空間(S1)側に位置する領域に作用する流体の圧力は、高圧空間(S2)内の流体の圧力よりも低くなる。一方、上述したように、この発明のバルブ本体部(65)では、その背面のうちシール用凸部(66)よりも吐出口(25)寄りの領域(即ち、高圧空間(S2)寄りの領域)が存在しない。従って、この発明のバルブ本体部(65)の背面では、高圧空間(S2)内の流体の圧力が作用する領域が実質的には存在しない。
【0021】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記バルブ本体部(65)の厚さが、該バルブ本体部(65)の先端から上記シール用凸部(66)へ向かって次第に厚くなるものである。
【0022】
第3の発明において、バルブ本体部(65)の厚さは、バルブ本体部(65)の後端寄りの部分ほど厚くなる。このため、バルブ本体部(65)の剛性は、バルブ本体部(65)の後端寄りの部分ほど高くなる。
【0023】
第4の発明は、上記第2又は第3の発明において、上記バルブ本体部(65)のうち上記シール用凸部(66)よりも先端側の部分には、該バルブ本体部(65)の背面側に突出して上記ケーシング(10)と摺接する支持用凸部(67)が形成されるものである。
【0024】
第4の発明のバルブ本体部(65)には、シール用凸部(66)と共に支持用凸部(67)が形成される。支持用凸部(67)は、バルブ本体部(65)の背面側に突出してケーシング(10)と摺接する。ところで、バルブ本体部(65)は、スクリューロータ(40)と対向しているため、バルブ本体部(65)の前面には、圧縮室(23)内で圧縮されつつある流体の圧力が作用する。このため、バルブ本体部(65)には、バルブ本体部(65)をスクリューロータ(40)から遠ざける方向(即ち、バルブ本体部(65)の背面側へ押す方向)の力が作用する。この方向の力を受けたバルブ本体部(65)は、シール用凸部(66)と支持用凸部(67)がケーシング(10)と実質的に接触することによって支持される。
【0025】
第5の発明は、上記第4の発明において、上記支持用凸部(67)は、上記バルブ本体部(65)の先端に沿って形成されるものである。
【0026】
第5の発明のバルブ本体部(65)では、シール用凸部(66)が形成された後端とは反対側の先端に沿って支持用凸部(67)が形成される。そして、圧縮室(23)内の流体の圧力を受けるバルブ本体部(65)は、バルブ本体部(65)の後端に沿って形成されたシール用凸部(66)と、バルブ本体部(65)の先端に沿って形成された支持用凸部(67)とがケーシング(10)と接することによって支持される。
【0027】
第6の発明は、上記第5の発明において、上記バルブ本体部(65)には、上記シール用凸部(66)と上記支持用凸部(67)に挟まれた空間を上記低圧空間(S1)と連通させる連通路(68,69)が形成されるものである。
【0028】
第6の発明では、バルブ本体部(65)に連通路(68,69)が形成され、シール用凸部(66)と上記支持用凸部(67)に挟まれた空間が、連通路(68,69)を介して低圧空間(S1)に連通する。このため、シール用凸部(66)と支持用凸部(67)に挟まれた空間の内圧は、低圧空間(S1)内の流体の圧力と実質的に等しくなる。
【0029】
第7の発明は、上記第4発明において、上記支持用凸部(67)は、上記シール用凸部(66)から上記バルブ本体部(65)の先端に亘って形成されるものである。
【0030】
第7の発明の支持用凸部(67)は、バルブ本体部(65)のうちシール用凸部(66)よりも先端側の部分の全長に亘って形成される。そして、圧縮室(23)内の流体の圧力を受けるバルブ本体部(65)は、バルブ本体部(65)の後端に沿って形成されたシール用凸部(66)と、バルブ本体部(65)のうちシール用凸部(66)よりも先端側の部分の全長に亘って形成された支持用凸部(67)とがケーシング(10)と接することによって支持される。
【0031】
第8の発明は、上記第7発明において、上記支持用凸部(67)は、その幅が上記バルブ本体部(65)の先端から上記シール用凸部(66)へ向かって次第に広くなるものである。
【0032】
第8の発明では、バルブ本体部(65)の先端からシール用凸部(66)に亘って形成された支持用凸部(67)の幅が、バルブ本体部(65)の先端からシール用凸部(66)へ向かって次第に拡大する。支持用凸部(67)は、バルブ本体部(65)の背面側に突出した部分である。このため、支持用凸部(67)の幅が広いほど、バルブ本体部(65)の剛性が高くなる。従って、この発明のバルブ本体部(65)の剛性は、バルブ本体部(65)の後端寄りの部分ほど高くなる。
【0033】
第9の発明は、上記第8発明において、上記支持用凸部(67)の突端面は、その幅方向の一部だけが上記ケーシング(10)と摺接する支持用摺接面(78)となるものである。
【0034】
第9の発明において、支持用凸部(67)の突端面は、その全体ではなく、その幅方向の一部だけが支持用摺接面(78)となる。支持用凸部(67)の突端面は、支持用摺接面(78)を構成する一部分だけがケーシング(10)と摺接し、支持用摺接面(78)以外の部分はケーシング(10)と摺接しない。
【発明の効果】
【0035】
本発明では、スライドバルブ(60)に形成されたシール用凸部(66)がケーシング(10)の摺接することによって、ケーシング(10)内の低圧空間(S1)と高圧空間(S2)が仕切られている。このため、スライドバルブ(60)の背面における“低圧空間(S1)内の流体の圧力が作用する領域の面積”と“高圧空間(S2)内の流体の圧力が作用する領域の面積”は、スライドバルブ(60)が移動しても一定に保たれる。その結果、本発明では、スライドバルブ(60)の位置に拘わらず、低圧空間(S1)内の流体および高圧空間(S2)内の流体からスライドバルブ(60)が受ける力の大きさが一定となる。
【0036】
ここで、低圧空間(S1)内の流体および高圧空間(S2)内の流体からスライドバルブ(60)が受ける力は、スライドバルブ(60)をスクリューロータ(40)に押し付ける方向に作用する。そして、この力の大きさが変化すると、スライドバルブ(60)のスクリューロータ(40)側への移動量が変化し、スライドバルブ(60)とスクリューロータ(40)とのクリアランスが変化するおそれがある。
【0037】
一方、本発明では、低圧空間(S1)内の流体および高圧空間(S2)内の流体からスライドバルブ(60)が受ける力が、スライドバルブ(60)の位置に拘わらず一定となる。このため、圧縮比を変更するためにスライドバルブ(60)を移動させても、スライドバルブ(60)がスクリューロータ(40)に近付く方向へ移動することはない。
【0038】
従って、本発明によれば、スライドバルブ(60)がスクリューロータ(40)と接触するのを回避しつつ、スライドバルブ(60)とスクリューロータ(40)とのクリアランスを、従来よりも縮小することができる。その結果、圧縮室(23)から漏れ出す流体の量を削減することができ、スクリュー圧縮機(1)の効率を向上させることができる。
【0039】
上記第2の発明では、バルブ本体部(65)の後端(即ち、吐出口(25)側の一端)に沿ってシール用凸部(66)が形成されており、このシール用凸部(66)がケーシング(10)と摺接することによって低圧空間(S1)と高圧空間(S2)が仕切られている。このため、バルブ本体部(65)の背面では、シール用凸部(66)よりも低圧空間(S1)側に位置する領域に作用する流体の圧力が、高圧空間(S2)内の流体の圧力よりも低くなる。また、このバルブ本体部(65)の背面において、高圧空間(S2)内の流体の圧力が作用する領域は実質的には存在しない。
【0040】
従って、第2の発明によれば、スライドバルブ(60)をスクリューロータ(40)側に押す力を小さくすることができる。その結果、スライドバルブ(60)とスクリューロータ(40)の接触を確実に回避しつつ、スライドバルブ(60)とスクリューロータ(40)のクリアランスを狭めて圧縮室(23)からの冷媒の漏れ量を削減することができる。
【0041】
ここで、スライドバルブ(60)は、スクリューロータ(40)の外周と対向している。従って、バルブ本体部(65)には、スクリューロータ(40)の螺旋溝(41)によって形成された圧縮室(23)内の流体の圧力が作用する。一方、圧縮室(23)内の流体の圧力は、圧縮室(23)が吐出口(25)に近付くに従って次第に上昇する。このため、バルブ本体部(65)では、吐出口(25)に近い後端寄りの部分ほど、そこに作用する圧縮室(23)内の流体の圧力が高くなる。
【0042】
一方、上記第3の発明では、バルブ本体部(65)の剛性が、バルブ本体部(65)の後端寄りの部分ほど高くなる。つまり、この発明のバルブ本体部(65)では、作用する圧縮室(23)内の流体の圧力が高くなる後端寄りの部分ほど剛性が高くなっており、後端寄りの部分の変形量が抑えられる。このため、圧縮室(23)内の流体の圧力に起因するバルブ本体部(65)の変形量が、バルブ本体部(65)の全体に亘って均一化される。従って、この発明によれば、バルブ本体部(65)の前面とスクリューロータ(40)のクリアランスを、バルブ本体部(65)の全体に亘って均一化することができる。その結果、圧縮室(23)からの流体の漏れ量を一層削減でき、スクリュー圧縮機(1)の効率を更に向上させることができる。
【0043】
上記第4の発明では、スライドバルブ(60)のバルブ本体部(65)にシール用凸部(66)と支持用凸部(67)の両方が形成される。ここで、バルブ本体部(65)の前面には圧縮室(23)内で圧縮されつつある流体の圧力が作用するため、バルブ本体部(65)は背面側に押される。それに対し、これらの各発明において、圧縮室(23)内の流体によって背面側に押されたバルブ本体部(65)は、シール用凸部(66)と支持用凸部(67)の両方がケーシング(10)と摺接することによって支持される。
【0044】
従って、第4の発明によれば、圧縮室(23)内の流体の圧力に起因するバルブ本体部(65)の変形を抑えることができる。その結果、バルブ本体部(65)の変形に起因するバルブ本体部(65)とスクリューロータ(40)のクリアランスの拡大を抑制でき、スクリュー圧縮機(1)の運転効率を高く保つことができる。
【0045】
上記第5,第6の各発明のバルブ本体部(65)では、シール用凸部(66)から最も離れたバルブ本体部(65)の先端に沿って支持用凸部(67)が形成されている。そして、圧縮室(23)内の流体の圧力を受けるバルブ本体部(65)は、シール用凸部(66)と支持用凸部(67)の両方がケーシング(10)と接することによって支持される。従って、これらの各発明によれば、バルブ本体部(65)の変形量を削減することができ、バルブ本体部(65)の前面とスクリューロータ(40)のクリアランスを、バルブ本体部(65)の全体に亘って均一化することができる。
【0046】
特に、上記第6の発明では、シール用凸部(66)と支持用凸部(67)に挟まれた空間が、連通路(68,69)を介して低圧空間(S1)に連通する。このため、シール用凸部(66)と支持用凸部(67)に挟まれた空間の内圧は、低圧空間(S1)内の流体の圧力と実質的に等しくなる。つまり、バルブ本体部(65)の背面のうちシール用凸部(66)と支持用凸部(67)の間の領域に作用する流体の圧力は、低圧空間(S1)内の流体の圧力と実質的に等しくなる。従って、この発明によれば、バルブ本体部(65)をスクリューロータ(40)側へ押す力の大きさを低減することができる。その結果、スライドバルブ(60)とスクリューロータ(40)の接触を確実に回避しつつ、スライドバルブ(60)とスクリューロータ(40)のクリアランスを狭めて圧縮室(23)からの冷媒の漏れ量を一層削減することができる。
【0047】
上記第7の発明のバルブ本体部(65)では、シール用凸部(66)よりも先端側の部分の全長に亘って支持用凸部(67)が形成されている。そして、圧縮室(23)内の流体の圧力を受けるバルブ本体部(65)は、シール用凸部(66)と支持用凸部(67)の両方がケーシング(10)と接することによって支持される。従って、この発明によれば、バルブ本体部(65)の変形量を削減することができ、バルブ本体部(65)の前面とスクリューロータ(40)のクリアランスを、バルブ本体部(65)の全体に亘って均一化することができる。
【0048】
上記第8の発明のバルブ本体部(65)では、バルブ本体部(65)の背面側に突出した支持用凸部(67)の幅が、バルブ本体部(65)の先端から後端へ向かって次第に広くなっている。このため、バルブ本体部(65)の剛性は、バルブ本体部(65)の後端寄りの部分ほど高くなる。一方、上述したように、バルブ本体部(65)では、吐出口(25)に近い後端寄りの部分ほど、そこに作用する圧縮室(23)内の流体の圧力が高くなる。従って、この発明では、作用する圧縮室(23)内の流体の圧力が高くなるバルブ本体部(65)の後端寄りの部分の剛性が高くなり、圧縮室(23)内の流体の圧力に起因するバルブ本体部(65)の変形量が、バルブ本体部(65)の全体に亘って均一化される。
【0049】
このため、第8の発明によれば、バルブ本体部(65)の前面とスクリューロータ(40)のクリアランスを、バルブ本体部(65)の全体に亘って均一化することができる。その結果、圧縮室(23)からの冷媒の漏れ量を一層削減でき、スクリュー圧縮機(1)の効率を更に向上させることができる。
【0050】
上記第9の発明において、支持用凸部(67)の突端面のうち支持用摺接面(78)以外の部分は、ケーシング(10)と摺接しない。支持用凸部(67)の突端面のうちケーシング(10)と摺接しない部分に作用する流体の圧力は、低圧空間(S1)内の流体の圧力と実質的に等しい。このため、バルブ本体部(65)の変形量を抑えるために支持用凸部(67)の幅を拡大した場合であっても、スライドバルブ(60)の背面のうち低圧空間(S1)内の流体の圧力が作用する領域の面積を確保できる。従って、この発明によれば、支持用凸部(67)の幅を拡大することによってバルブ本体部(65)の変形量を抑えつつ、スライドバルブ(60)をスクリューロータ(40)に押し付ける方向の力を小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、実施形態1のシングルスクリュー圧縮機の概略構成図である。
【図2】図2は、実施形態1のシングルスクリュー圧縮機の要部を示す断面図であって、圧縮比が最も高く設定された状態を示すものである。
【図3】図3は、実施形態1のシングルスクリュー圧縮機の要部を示す断面図であって、圧縮比が最も低く設定された状態を示すものである。
【図4】図4は、図2におけるA−A断面を示す断面図である。
【図5】図5は、シングルスクリュー圧縮機の要部を抜き出して示す斜視図である。
【図6】図6は、実施形態1のスライドバルブの斜視図である。
【図7】図7は、実施形態1のシングルスクリュー圧縮機のケーシングの縦断面を示す斜視図である。
【図8】図8は、シングルスクリュー圧縮機の圧縮機構の動作を示す平面図であって、(A)は吸入行程を示し、(B)は圧縮行程を示し、(C)は吐出行程を示す。
【図9】図9は、実施形態2のスライドバルブの斜視図である。
【図10】図10は、実施形態2のシングルスクリュー圧縮機の要部を示す断面図である。
【図11】図11は、実施形態2の変形例のスライドバルブの斜視図である。
【図12】図12は、実施形態3のスライドバルブの斜視図である。
【図13】図13は、実施形態3のシングルスクリュー圧縮機の要部を示す断面図である。
【図14】図14は、実施形態3の変形例1のスライドバルブの斜視図である。
【図15】図15は、実施形態3の変形例1のスライドバルブの要部を示す平面図である。
【図16】図16は、実施形態3の変形例2のスライドバルブの斜視図である。
【図17】図17は、実施形態3の変形例2のスライドバルブの要部を示す平面図である。
【図18】図18は、図17におけるB−B断面を示す弁体部の断面図である。
【図19】図19は、その他の実施形態の第1変形例を適用した実施形態1のスライドバルブを示す斜視図である。
【図20】図20は、その他の実施形態の第1変形例を適用した実施形態2のスライドバルブを示す斜視図である。
【図21】図21は、その他の実施形態の第1変形例を適用した実施形態3のスライドバルブを示す斜視図である。
【図22】図22は、その他の実施形態の第1変形例を適用した実施形態3のスライドバルブを示す側面図である。
【図23】図23は、従来のシングルスクリュー圧縮機の要部を示す断面図であって、圧縮比が最も高く設定された状態を示すものである。
【図24】図24は、従来のシングルスクリュー圧縮機の要部を示す断面図であって、圧縮比が最も低く設定された状態を示すものである。
【図25】図25は、従来のスライドバルブの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施形態および変形例は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0053】
《発明の実施形態1》
本実施形態のシングルスクリュー圧縮機(1)(以下、単にスクリュー圧縮機と言う。)は、冷凍サイクルを行う冷媒回路に設けられて冷媒を圧縮するためのものである。
【0054】
〈スクリュー圧縮機の概略構成〉
図1に示すように、スクリュー圧縮機(1)では、圧縮機構(20)とそれを駆動する電動機(15)とが1つのケーシング(10)に収容されている。このスクリュー圧縮機(1)は、半密閉型に構成されている。
【0055】
ケーシング(10)は、横長の円筒状に形成されている。ケーシング(10)内には、ケーシング(10)の一端側に位置する低圧空間(S1)と、ケーシング(10)の他端側に位置する高圧空間(S2)とが形成されている。ケーシング(10)には、低圧空間(S1)に連通する吸入管接続部(11)と、高圧空間(S2)に連通する吐出管接続部(12)とが設けられている。冷媒回路の蒸発器から流れてきた低圧ガス冷媒(即ち、低圧流体)は、吸入管接続部(11)を通って低圧空間(S1)へ流入する。また、圧縮機構(20)から高圧空間(S2)へ吐出された圧縮後の高圧ガス冷媒は、吐出管接続部(12)を通って冷媒回路の凝縮器へ供給される。
【0056】
ケーシング(10)内では、低圧空間(S1)に電動機(15)が配置され、低圧空間(S1)と高圧空間(S2)の間に圧縮機構(20)が配置されている。圧縮機構(20)の駆動軸(21)は、電動機(15)に連結されている。また、ケーシング(10)内では、高圧空間(S2)に油分離器(16)が配置されている。油分離器(16)は、圧縮機構(20)から吐出された冷媒から冷凍機油を分離する。高圧空間(S2)における油分離器(16)の下方には、潤滑油である冷凍機油を貯留するための油貯留室(17)が形成されている。油分離器(16)において冷媒から分離された冷凍機油は、下方へ流れ落ちて油貯留室(17)に蓄えられる。
【0057】
本実施形態のスクリュー圧縮機(1)には、インバータ(100)が設けられている。インバータ(100)は、その入力側が商用電源(101)に接続され、その出力側が電動機(15)に接続されている。インバータ(100)は、商用電源(101)から入力された交流の周波数を調節し、所定の周波数に変換された交流を電動機(15)へ供給する。
【0058】
インバータ(100)の出力周波数を変更すると、電動機(15)の回転速度が変化し、電動機(15)によって駆動されるスクリューロータ(40)の回転速度も変化する。そして、スクリューロータ(40)の回転速度が変化すると、スクリュー圧縮機(1)へ吸入されて圧縮後に吐出される冷媒の質量流量が変化する。即ち、スクリューロータ(40)の回転速度が変化すると、スクリュー圧縮機(1)の運転容量が変化する。
【0059】
〈スクリュー圧縮機の詳細構成〉
図2,図4に示すように、圧縮機構(20)は、ケーシング(10)に形成された円筒状のシリンダ部(30)と、シリンダ部(30)の中に配置された1つのスクリューロータ(40)と、スクリューロータ(40)に噛み合う2つのゲートロータ(50)とを備えている。また、スクリュー圧縮機(1)には、圧縮比を変更するためのスライドバルブ(60)が設けられている。
【0060】
スクリューロータ(40)には、駆動軸(21)が挿通されている。スクリューロータ(40)と駆動軸(21)は、キー(22)によって連結されている。駆動軸(21)は、スクリューロータ(40)と同軸上に配置されている。
【0061】
シリンダ部(30)の高圧空間(S2)側の端部には、軸受ホルダ(35)が挿入されている。軸受ホルダ(35)は、やや厚肉の概ね円筒状に形成されている。軸受ホルダ(35)の外径は、シリンダ部(30)の内周面(即ち、スクリューロータ(40)の外周面と摺接する面)の直径と実質的に等しくなっている。軸受ホルダ(35)の内側には、玉軸受(36)が設けられている。玉軸受(36)には駆動軸(21)の先端部が挿通されており、この玉軸受(36)が駆動軸(21)を回転自在に支持する。
【0062】
図5に示すように、スクリューロータ(40)は、概ね円柱状に形成された金属製の部材である。スクリューロータ(40)は、シリンダ部(30)に回転可能に嵌合しており、その外周面がシリンダ部(30)の内周面と摺接する。スクリューロータ(40)の外周部には、スクリューロータ(40)の一端から他端へ向かって螺旋状に延びる螺旋溝(41)が複数(本実施形態では、6本)形成されている。
【0063】
スクリューロータ(40)の各螺旋溝(41)は、図5における手前側の端部が始端となり、同図における奥側の端部が終端となっている。また、スクリューロータ(40)は、同図における手前側の端部(吸入側の端部)がテーパー状に形成されている。図5に示すスクリューロータ(40)では、テーパー面状に形成された手前側の端面に螺旋溝(41)の始端が開口する一方、奥側の端面に螺旋溝(41)の終端は開口していない。
【0064】
各ゲートロータ(50)は、樹脂製の部材である。各ゲートロータ(50)には、長方形板状に形成された複数(本実施形態では、11枚)のゲート(51)が放射状に設けられている。各ゲートロータ(50)は、シリンダ部(30)の外側に、スクリューロータ(40)の回転軸に対して軸対称となるように配置されている。各ゲートロータ(50)の軸心は、スクリューロータ(40)の軸心と直交している。各ゲートロータ(50)は、ゲート(51)がシリンダ部(30)の一部を貫通してスクリューロータ(40)の螺旋溝(41)に噛み合うように配置されている。
【0065】
ゲートロータ(50)は、金属製のロータ支持部材(55)に取り付けられている(図5を参照)。ロータ支持部材(55)は、基部(56)とアーム部(57)と軸部(58)とを備えている。基部(56)は、やや肉厚の円板状に形成されている。アーム部(57)は、ゲートロータ(50)のゲート(51)と同数だけ設けられており、基部(56)の外周面から外側へ向かって放射状に延びている。軸部(58)は、棒状に形成されて基部(56)に立設されている。軸部(58)の中心軸は、基部(56)の中心軸と一致している。ゲートロータ(50)は、基部(56)及びアーム部(57)における軸部(58)とは反対側の面に取り付けられている。各アーム部(57)は、ゲート(51)の背面に当接している。
【0066】
ゲートロータ(50)が取り付けられたロータ支持部材(55)は、シリンダ部(30)に隣接してケーシング(10)内に区画形成されたゲートロータ室(90)に収容されている(図4を参照)。各ロータ支持部材(55)の軸部(58)は、ゲートロータ室(90)内の軸受ハウジング(91)に玉軸受(92,93)を介して回転自在に支持されている。なお、各ゲートロータ室(90)は、低圧空間(S1)に連通している。
【0067】
圧縮機構(20)では、シリンダ部(30)の内周面と、スクリューロータ(40)の螺旋溝(41)と、ゲートロータ(50)のゲート(51)とによって囲まれた空間が圧縮室(23)になる。スクリューロータ(40)の螺旋溝(41)は、吸入側端部において低圧空間(S1)に開放している。
【0068】
図7にも示すように、ケーシング(10)のシリンダ部(30)には、スライドバルブ(60)を設置するためのスライドバルブ収納部(31)が形成されている。スライドバルブ収納部(31)は、シリンダ部(30)の周方向の2カ所に配置されている。スライドバルブ収納部(31)は、シリンダ部(30)の内周面に開口し、シリンダ部(30)の軸方向へ延びる凹溝状に形成されている。スライドバルブ収納部(31)の内面は、円筒面状に形成されており、スライドバルブ(60)と摺接する摺接用曲面(32)となっている。また、スライドバルブ収納部(31)は、低圧空間(S1)側の一端が低圧空間(S1)に連通し、高圧空間(S2)側の他端が高圧空間(S2)に連通している。
【0069】
図6に示すように、スライドバルブ(60)は、バルブ本体部である弁体部(65)と、ガイド部(61)と、連結部(64)とによって構成されている。このスライドバルブ(60)は、弁体部(65)の先端が低圧空間(S1)側を向く姿勢でスライドバルブ収納部(31)に挿入されており、シリンダ部(30)の軸心方向にスライド可能となっている(図2と図3を参照)。
【0070】
弁体部(65)は、概ね厚板状に形成されている。この弁体部(65)において、スクリューロータ(40)と対面する前面(71)は、シリンダ部(30)の内周面と曲率半径が実質的に等しい円筒面となっている(図4を参照)。一方、スクリューロータ(40)の反対側に位置する弁体部(65)の背面(72)は、その一部が円筒面となり、残りの部分が平坦面となっている。この点については後述する。また、この弁体部(65)において、その先端面(73)は、弁体部(65)の軸方向と実質的に直交する平坦面となり、その後端面(74)は、弁体部(65)の軸方向に対して傾斜した平坦面となっている。弁体部(65)の後端面(74)は、スクリューロータ(40)の螺旋溝(41)に沿うように傾斜している。更に、弁体部(65)の両側の側面(75)は、スライドバルブ収納部(31)の内周面と曲率半径が実質的に等しい円筒面となっている(図4を参照)。
【0071】
弁体部(65)には、シール用凸部(66)が形成されている。シール用凸部(66)は、弁体部(65)の背面側へ円弧状に膨出した部分であって、弁体部(65)の後端に沿って形成されている。つまり、シール用凸部(66)は、弁体部(65)の背面側に突出している。シール用凸部(66)の凸面は、スライドバルブ収納部(31)の摺接用曲面(32)と曲率半径が実質的に等しい円筒面であって、摺接用曲面(32)と摺接するシール用摺接面(76)を構成している。弁体部(65)の背面のうちシール用凸部(66)よりも先端側の領域は、平坦面であって摺接用曲面(32)とは摺接しない非摺接面(77)となっている。つまり、弁体部(65)の背面は、シール用凸部(66)の凸面であるシール用摺接面(76)が円筒面となり、非摺接面(77)を構成する残りの領域が平坦面となっている。
【0072】
また、弁体部(65)は、シール用凸部(66)よりも先端側の部分の厚さが、弁体部(65)の軸方向において一定となっている。上述したように、弁体部(65)は、その前面(71)が円筒面であり、その非摺接面(77)が平坦面である。従って、弁体部(65)において、シール用凸部(66)よりも先端側の部分の厚さは、弁体部(65)の幅方向には変化するが、弁体部(65)の軸方向には変化しない。
【0073】
ガイド部(61)は、概ね厚板状に形成されている。このガイド部(61)において、軸受ホルダ(35)と対面する前面(62)は、軸受ホルダ(35)の外周面と曲率半径が実質的に等しい円筒面となっており、軸受ホルダ(35)の外周面と摺接する(図2を参照)。ガイド部(61)は、その前面(62)が弁体部(65)の前面(71)と同じ方向を向き、その先端面(63)が弁体部(65)の後端面(74)と向かい合う姿勢で配置される。また、ガイド部(61)の背面には、その先端から後端に亘って畝状に盛り上がった部分が形成されている。
【0074】
連結部(64)は、比較的短い棒状に形成され、弁体部(65)とガイド部(61)を連結している。この連結部(64)は、その一端が弁体部(65)の後端面(74)に連続し、その他端がガイド部(61)の先端面(63)に連続している。スライドバルブ(60)では、弁体部(65)の後端面(74)とガイド部(61)の先端面(73)との間が吐出口(25)となっている。
【0075】
上述したように、スライドバルブ(60)は、スライドバルブ収納部(31)に挿入されている(図2を参照)。また、スライドバルブ収納部(31)は、低圧空間(S1)側の一端が低圧空間(S1)に連通し、高圧空間(S2)側の他端が高圧空間(S2)に連通している。スライドバルブ(60)がスライドバルブ収納部(31)に挿入された状態では、弁体部(65)に形成されたシール用凸部(66)の凸面であるシール用摺接面(76)が、スライドバルブ収納部(31)の内周面により構成された摺接用曲面(32)と摺接する。低圧空間(S1)と高圧空間(S2)は、スライドバルブ(60)のシール用凸部(66)がスライドバルブ収納部(31)の摺接用曲面(32)と摺接することによって仕切られる。
【0076】
なお、スライドバルブ(60)のシール用摺接面(76)がケーシング(10)の摺接用曲面(32)と物理的に接触する必要はない。本実施形態の圧縮機構(20)では、通常、シール用摺接面(76)と摺接用曲面(32)の間に油膜が形成され、この油膜によってシール用摺接面(76)と摺接用曲面(32)の隙間がシールされる。
【0077】
また、スライドバルブ(60)がスライドバルブ収納部(31)に挿入された状態では、弁体部(65)とガイド部(61)の間に形成された吐出口(25)がスクリューロータ(40)の外周に臨むこととなる。そして、スクリューロータ(40)の螺旋溝(41)によって形成された圧縮室(23)は、吐出口(25)を介して高圧空間(S2)に連通する。
【0078】
図2に示すように、スクリュー圧縮機(1)には、スライドバルブ(60)を移動させるためのスライドバルブ駆動機構(80)が設けられている。このスライドバルブ駆動機構(80)は、軸受ホルダ(35)に固定されたシリンダ(81)と、シリンダ(81)内に装填されたピストン(82)と、ピストン(82)のピストンロッド(83)に連結されたアーム(84)と、アーム(84)とスライドバルブ(60)とを連結する連結ロッド(85)とを備えている。
【0079】
図2に示すスライドバルブ駆動機構(80)では、ピストン(82)の左側空間の内圧が、ピストン(82)の右側空間の内圧よりも高くなっている。そして、スライドバルブ駆動機構(80)は、ピストン(82)の右側空間の内圧(即ち、右側空間内のガス圧)を調節することによって、スライドバルブ(60)の位置を調整するように構成されている。
【0080】
スクリュー圧縮機(1)の運転中において、スライドバルブ(60)では、弁体部(65)の先端面(73)に低圧空間(S1)内の冷媒圧力が作用し、弁体部(65)の後端面(74)に高圧空間(S2)内の冷媒圧力が作用する。このため、スクリュー圧縮機(1)の運転中において、スライドバルブ(60)には、常にスライドバルブ(60)を低圧空間(S1)側へ押す方向の力が作用する。従って、スライドバルブ駆動機構(80)におけるピストン(82)の左側空間及び右側空間の内圧を変更すると、スライドバルブ(60)を高圧空間(S2)側へ引き戻す方向の力の大きさが変化し、その結果、スライドバルブ(60)の位置が変化する。
【0081】
−スクリュー圧縮機が冷媒を圧縮する動作−
スクリュー圧縮機(1)が冷媒を圧縮する動作について、図8を参照しながら説明する。
【0082】
スクリュー圧縮機(1)において電動機(15)を起動すると、駆動軸(21)に連結されたスクリューロータ(40)が回転する。スクリューロータ(40)が回転するとゲートロータ(50)も回転し、圧縮機構(20)が吸入行程、圧縮行程および吐出行程を繰り返す。ここでは、図8においてドットを付した圧縮室(23)に着目して説明する。
【0083】
図8(A)において、ドットを付した圧縮室(23)は、低圧空間(S1)に連通している。また、この圧縮室(23)を形成する螺旋溝(41)は、同図の上側に位置するゲートロータ(50b)のゲート(51b)と噛み合わされている。スクリューロータ(40)が回転すると、このゲート(51b)が螺旋溝(41)の終端へ向かって相対的に移動し、それに伴って圧縮室(23)の容積が拡大する。その結果、低圧空間(S1)の低圧ガス冷媒が圧縮室(23)へ吸い込まれる。
【0084】
スクリューロータ(40)が更に回転すると、図8(B)の状態となる。同図において、ドットを付した圧縮室(23)は、閉じきり状態となっている。つまり、この圧縮室(23)を形成する螺旋溝(41)は、同図の下側に位置するゲートロータ(50a)のゲート(51a)と噛み合わされ、このゲート(51a)によって低圧空間(S1)から仕切られている。そして、スクリューロータ(40)の回転に伴ってゲート(51a)が螺旋溝(41)の終端へ向かって移動すると、圧縮室(23)の容積が次第に縮小する。その結果、圧縮室(23)内のガス冷媒が圧縮される。
【0085】
スクリューロータ(40)が更に回転すると、図8(C)の状態となる。同図において、ドットを付した圧縮室(23)は、吐出口(25)を介して高圧空間(S2)と連通した状態となっている。そして、スクリューロータ(40)の回転に伴ってゲート(51a)が螺旋溝(41)の終端へ向かって移動すると、圧縮された冷媒ガスが圧縮室(23)から高圧空間(S2)へ吐出されてゆく。
【0086】
−圧縮比を変更する動作−
スライドバルブ(60)によって圧縮機構(20)の圧縮比を変更する動作について説明する。なお、圧縮機構(20)の圧縮比Rは、吸入行程の終了直後における圧縮室(23)の容積Vを吐出行程の開始直前における圧縮室(23)の容積Vで除した値(即ち、R=V/V)である。即ち、圧縮機構(20)の圧縮比Rは、圧縮機構(20)の内部容積比と同義である。
【0087】
図2及び図3に示すように、スライドバルブ(60)が移動すると、それに伴って吐出口(25)の位置が変化する。一方、図8(A)〜(C)に示すように、スクリューロータ(40)が回転すると、ゲートロータ(50a)のゲート(51a)が螺旋溝(41)の始端から終端へ向かって相対的に移動し、螺旋溝(41)によって形成された圧縮室(23)の容積が次第に減少してゆく。その結果、圧縮室(23)内の冷媒が圧縮され、圧縮室(23)内の冷媒の圧力が次第に上昇してゆく。
【0088】
そして、図2に示すようにスライドバルブ(60)が最も高圧空間(S2)側(即ち、同図における右側)に位置する状態では、吐出口(25)に連通し始める直前(即ち、吐出行程の開始直前)における圧縮室(23)の容積が最小となり、圧縮機構(20)の圧縮比が最大となる。一方、図3に示すようにスライドバルブ(60)が最も低圧空間(S1)側(即ち、同図における左側)に位置する状態では、吐出口(25)に連通し始める直前(即ち、吐出行程の開始直前)における圧縮室(23)の容積が最大となり、圧縮機構(20)の圧縮比が最小となる。
【0089】
−スライドバルブに作用する冷媒の圧力−
スライドバルブ(60)に作用する冷媒の圧力について、図2と図3を参照しながら説明する。
【0090】
上述したように、スライドバルブ収納部(31)は、その一端が低圧空間(S1)に連通し、その他端が高圧空間(S2)に連通している。また、スライドバルブ収納部(31)内では、スライドバルブ(60)に設けられたシール用凸部(66)がスライドバルブ収納部(31)の内周面と接することによって、低圧空間(S1)と高圧空間(S2)が仕切られる。
【0091】
スライドバルブ(60)の位置が変化すると、それに伴ってシール用凸部(66)の位置も変化する。従って、スライドバルブ収納部(31)では、スライドバルブ(60)の位置に拘わらず、常に、シール用凸部(66)よりも低圧空間(S1)側(図2及び図3における左側)の圧力が低圧空間(S1)内の冷媒圧力と等しくなり、シール用凸部(66)よりも高圧空間(S2)側(図2及び図3における右側)の冷媒が高圧空間(S2)内の冷媒圧力と等しくなる。
【0092】
このため、ガイド部(61)及び連結部(64)の表面と弁体部(65)の後端面(74)とには、高圧空間(S2)内の冷媒圧力が作用する。また、弁体部(65)の非摺接面(77)及び先端面(73)には、低圧空間(S1)内の冷媒圧力が作用する。更に、シール用凸部(66)の凸面であるシール用摺接面(76)に作用する冷媒圧力は、後端面(74)寄りの一端では高圧空間(S2)内の冷媒圧力とほぼ等しく、非摺接面(77)寄りの他端では低圧空間(S1)内の冷媒圧力とほぼ等しくなり、シール用摺接面(76)の一端から他端に向かって次第に低くなる。一方、弁体部(65)の前面(71)は、スクリューロータ(40)の外周と対面している。従って、弁体部(65)の前面(71)には、圧縮室(23)内の冷媒圧力が作用する。
【0093】
このように、スライドバルブ(60)の弁体部(65)では、スライドバルブ(60)がどこに位置していても、その背面(72)の大部分を占める非摺接面(77)に、低圧空間(S1)内の冷媒圧力が常に作用する。一方、弁体部(65)の前面(71)には、圧縮室(23)内の冷媒圧力が作用する。圧縮行程中の圧縮室(23)内の冷媒圧力は、低圧空間(S1)内の冷媒圧力(即ち、圧縮される前の低圧冷媒の圧力)よりも高い。このため、弁体部(65)には、スライドバルブ(60)の位置に拘わらず、弁体部(65)をスクリューロータ(40)から引き離そうとする方向の力が常に作用することとなる。従って、スクリュー圧縮機(1)の運転中に弁体部(65)がスクリューロータ(40)側へ押されてスクリューロータ(40)と接触するという現象は生じない。
【0094】
−実施形態1の効果−
本実施形態のスクリュー圧縮機(1)では、スライドバルブ(60)の弁体部(65)にシール用凸部(66)が形成され、このシール用凸部(66)がケーシング(10)の摺接用曲面(32)と摺接することによって低圧空間(S1)と高圧空間(S2)が仕切られる。また、本実施形態の弁体部(65)では、その後端面(74)に沿ってシール用凸部(66)が形成されている。
【0095】
従って、本実施形態では、スライドバルブ(60)がどこに位置していても、弁体部(65)の背面(72)の大部分を占める非摺接面(77)には、低圧空間(S1)内の冷媒圧力が作用することとなる。その結果、弁体部(65)の背面(72)に作用する冷媒圧力に起因する力(即ち、弁体部(65)をスクリューロータ(40)側へ押す力)の大きさは、低圧空間(S1)内の冷媒圧力が変化しない限り、スライドバルブ(60)の位置に拘わらず常に一定となる。このため、圧縮比を変更するためにスライドバルブ(60)を移動させても、スライドバルブ(60)がスクリューロータ(40)に近付く方向へ移動することはない。
【0096】
従って、本実施形態によれば、スライドバルブ(60)がスクリューロータ(40)と接触するのを回避しつつ、スライドバルブ(60)とスクリューロータ(40)とのクリアランスを、従来よりも縮小することができる。その結果、スライドバルブ(60)とスクリューロータ(40)の隙間を通って圧縮室(23)から漏れ出す冷媒の量を削減することができ、スクリュー圧縮機(1)の運転効率を向上させることができる。
【0097】
また、弁体部(65)の背面(72)の大部分を占める非摺接面(77)には低圧空間(S1)内の冷媒圧力が作用する一方、弁体部(65)の前面(71)には圧縮室(23)内で圧縮されつつある冷媒(即ち、圧縮行程途中の冷媒)の圧力が作用する。このため、スクリュー圧縮機(1)の運転中において、スライドバルブ(60)の弁体部(65)は、常にその背面側(即ち、スクリューロータ(40)から引き離される方向)へ押されることとなる。従って、本実施形態によれば、弁体部(65)がスクリューロータ(40)と接触するのを確実に回避しつつ、弁体部(65)の前面(71)とスクリューロータ(40)とのクリアランスをできるだけ狭めることができる。その結果、スライドバルブ(60)とスクリューロータ(40)の隙間を通って圧縮室(23)から漏れ出す冷媒の量を最小限に抑えることができ、スクリュー圧縮機(1)の運転効率を一層向上させることができる。
【0098】
ところで、上述したように、図23に示す従来のスクリュー圧縮機において、弁体部(531)の背面(533)では、シール用凸部(513)の突端面(514)よりも高圧空間(516)側の領域(同図にAで示した領域)に高圧空間(516)内の流体の圧力が作用し、シール用凸部(513)の突端面(514)よりも低圧空間(515)側の領域(同図にAで示した領域)に低圧空間(515)内の流体の圧力が作用する。このため、弁体部(531)には、弁体部(531)を弁体部(531)に移動方向(同図における左右方向)に対して傾けようとするモーメントが作用する。弁体部(531)がその移動方向に対して傾くと、弁体部(531)が移動する際に生じる摩擦力が増加する。このため、弁体部(531)を意図した位置で停止させるのが困難となり、圧縮比を適切な値に設定できなくなるおそれがある。
【0099】
更に、図23と図24に示すように、従来のスクリュー圧縮機では、スライドバルブ(530)の位置によって、弁体部(531)の背面(533)のうち低圧空間(515)内の流体の圧力が作用する領域(図23及び図24にAで示す領域)の大きさと、弁体部(531)の背面(533)のうち高圧空間(516)内の流体の圧力が作用する領域(図23にAで示す領域)の大きさとが変化する。従って、従来のスクリュー圧縮機では、弁体部(531)の背面(533)に作用する流体圧力に起因するモーメントの大きさがスライドバルブ(530)の位置によって変動するため、弁体部(531)が傾くことについての対策が一層困難となっていた。
【0100】
これに対し、本実施形態のスクリュー圧縮機(1)では、図2と図3に示すように、スライドバルブ(60)の位置に拘わらず、弁体部(65)の背面(72)の大部分を占める非摺接面(77)には低圧空間(S1)内の冷媒圧力が常に作用しており、しかも弁体部(65)の背面(72)に高圧空間(S2)内の冷媒圧力は作用しない。このため、本実施形態のスクリュー圧縮機(1)において、弁体部(65)の背面(72)に作用する冷媒圧力に起因するモーメントの大きさは、スライドバルブ(60)の位置に拘わらず、非常に小さくなる。
【0101】
従って、本実施形態によれば、スライドバルブ(60)の位置に拘わらず、スライドバルブ(60)が移動する際に生じる摩擦力を、非常に小さく且つ実質的に一定の値に保つことができる。その結果、スライドバルブ(60)を確実に意図した位置で停止させることが可能となり、圧縮機構(20)の圧縮比を意図した値に確実に設定することが可能となる。
【0102】
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2について説明する。本実施形態のスクリュー圧縮機(1)は、上記実施形態1のスクリュー圧縮機(1)において、スライドバルブ(60)の構成を変更したものである。ここでは、本実施形態のスクリュー圧縮機(1)について、上記実施形態1と異なる点を説明する。
【0103】
図9に示すように、本実施形態のスライドバルブ(60)では、弁体部(65)に支持用凸部(67)が追加されている。支持用凸部(67)は、弁体部(65)の背面側へ円弧状に膨出した部分であって、弁体部(65)の先端に沿って形成されている。つまり、支持用凸部(67)は、弁体部(65)の背面側に突出するように形成されている。支持用凸部(67)の凸面は、スライドバルブ収納部(31)の摺接用曲面(32)と曲率半径が実質的に等しい円筒面であって、摺接用曲面(32)と摺接する支持用摺接面(78)を構成している。本実施形態の弁体部(65)の背面(72)では、シール用凸部(66)と支持用凸部(67)の間の領域が平坦な非摺接面(77)となっている。
【0104】
支持用凸部(67)には、圧力導入孔(68)が形成されている。圧力導入孔(68)は、支持用凸部(67)をスライドバルブ(60)の移動方向へ貫通する貫通孔であって、その一端が弁体部(65)の先端面(73)に開口し、その他端が支持用凸部(67)の非摺接面(77)側の端面に開口している。この圧力導入孔(68)は、支持用凸部(67)とシール用凸部(66)に挟まれた空間を低圧空間(S1)に連通させるための連通路を構成している。
【0105】
図10に示すように、弁体部(65)に形成された支持用凸部(67)の支持用摺接面(78)は、スライドバルブ収納部(31)の内周面により構成された摺接用曲面(32)と摺接する。ただし、スライドバルブ(60)の支持用摺接面(78)がケーシング(10)の摺接用曲面(32)と物理的に接触する必要はない。本実施形態の圧縮機構(20)では、通常、支持用摺接面(78)と摺接用曲面(32)の間に油膜が形成される。
【0106】
スライドバルブ収納部(31)では、シール用凸部(66)と支持用凸部(67)と非摺接面(77)と摺接用曲面(32)によって囲まれた空間が形成される。この空間は、シール用凸部(66)と支持用凸部(67)に挟まれた空間であり、圧力導入孔(68)を介して低圧空間(S1)と連通している。このため、非摺接面(77)や支持用摺接面(78)に作用する圧力は、低圧空間(S1)内の冷媒圧力と実質的に等しくなる。
【0107】
−実施形態2の効果−
上記実施形態1の説明において述べた通り、スライドバルブ(60)の弁体部(65)の前面(71)には圧縮室(23)内の冷媒圧力が作用する。このため、弁体部(65)には、弁体部(65)を摺接用曲面(32)に押し付ける向きの力が作用する。
【0108】
一方、本実施形態では、弁体部(65)の先端面(73)に沿って形成された支持用凸部(67)と、弁体部(65)の後端面(74)に沿って形成されたシール用凸部(66)の両方が、スライドバルブ収納部(31)の内周面である摺接用曲面(32)と摺接する。従って、圧縮室(23)内の冷媒によって背面側に押された弁体部(65)は、シール用凸部(66)と支持用凸部(67)の両方がケーシング(10)と摺接することによって支持される。このため、本実施形態によれば、圧縮室(23)内の冷媒圧力に起因する弁体部(65)の変形を抑えることができる。その結果、弁体部(65)の変形に起因する弁体部(65)とスクリューロータ(40)のクリアランスの拡大を抑制でき、スクリュー圧縮機(1)の運転効率を高く保つことができる。
【0109】
−実施形態2の変形例−
本実施形態では、圧力導入孔(68)に代えて圧力導入溝(69)を支持用凸部(67)に形成してもよい。つまり、本変形例の弁体部(65)には、圧力導入溝(69)が連通路として設けられる。
【0110】
図11に示すように、圧力導入溝(69)は、支持用摺接面(78)に開口する凹溝であって、弁体部(65)の先端面(73)から支持用凸部(67)の非摺接面(77)側の端面に亘って形成されている。本変形例においても、スライドバルブ収納部(31)では、シール用凸部(66)と支持用凸部(67)と非摺接面(77)と摺接用曲面(32)によって囲まれた空間が形成される。そして、この空間は、圧力導入溝(69)を介して低圧空間(S1)と連通する。このため、本変形例においても、非摺接面(77)や支持用摺接面(78)に作用する圧力は、低圧空間(S1)内の冷媒圧力と実質的に等しくなる。
【0111】
《発明の実施形態3》
本発明の実施形態3について説明する。本実施形態のスクリュー圧縮機(1)は、上記実施形態2のスクリュー圧縮機(1)において、スライドバルブ(60)の構成を変更したものである。ここでは、本実施形態のスクリュー圧縮機(1)について、上記実施形態2と異なる点を説明する。
【0112】
図12に示すように、本実施形態のスライドバルブ(60)では、支持用凸部(67)の形状が上記実施形態2と異なっている。本実施形態の支持用凸部(67)は、弁体部(65)の軸方向(即ち、スライドバルブ(60)の移動方向)に沿って延びる細長い突起であって、シール用凸部(66)から弁体部(65)の先端面(73)に亘って形成されている。また、本実施形態の支持用凸部(67)は、弁体部(65)の幅方向(即ち、弁体部(65)の軸方向と直交する方向)の中央部に配置されている。また、支持用凸部(67)の幅は、その全長に亘って実質的に一定となっている。支持用凸部(67)の突端面は、スライドバルブ収納部(31)の摺接用曲面(32)と曲率半径が実質的に等しい円筒面であって、その全体が摺接用曲面(32)と摺接する支持用摺接面(78)を構成している。本実施形態の弁体部(65)の背面(72)では、支持用凸部(67)の側方の領域が平坦な非摺接面(77)となっている。
【0113】
図13に示すように、スライドバルブ(60)がスライドバルブ収納部(31)に挿入された状態では、シール用凸部(66)のシール用摺接面(76)と支持用凸部(67)の支持用摺接面(78)の両方が、スライドバルブ収納部(31)の内周面により構成された摺接用曲面(32)と摺接する。従って、圧縮室(23)内の冷媒によって背面(72)側に押された弁体部(65)は、その先端面(73)から後端面(74)に至る全長に亘って、ケーシング(10)に支持される。このため、本実施形態によれば、圧縮室(23)内の冷媒圧力に起因する弁体部(65)の変形を抑えることができる。その結果、弁体部(65)の変形に起因する弁体部(65)とスクリューロータ(40)のクリアランスの拡大を抑制でき、スクリュー圧縮機(1)の運転効率を高く保つことができる。
【0114】
ところで、スライドバルブ(60)の弁体部(65)は、スクリューロータ(40)の外周と対向している。従って、弁体部(65)の前面(71)には、スクリューロータ(40)の螺旋溝(41)によって形成された圧縮室(23)内の冷媒の圧力が作用する。一方、圧縮室(23)内の冷媒の圧力は、圧縮室(23)が吐出口(25)に近付くに従って次第に上昇する。このため、弁体部(65)の前面(71)では、吐出口(25)に近い後端寄りの部分ほど、そこに作用する圧縮室(23)内の冷媒の圧力が高くなる。
【0115】
これに対し、本実施形態のスライドバルブ(60)の弁体部(65)では、弁体部(65)の背面側に突出する支持用凸部(67)が、弁体部(65)の先端からシール用凸部(66)に亘って形成されている。従って、本実施形態の弁体部(65)では、上記実施形態1及び2の弁体部(65)に比べて、その後端面(74)寄りの部分の剛性が高くなる。つまり、本実施形態の弁体部(65)では、前面(71)に作用する冷媒の圧力が高くなる後端面(74)寄りの部分の剛性が高くなっており、この後端面(74)寄りの部分の変形量が抑えられる。
【0116】
このため、本実施形態では、上記実施形態1及び2に比べて、弁体部(65)の先端面(73)寄りの部分の変形量と後端面(74)寄りの部分の変形量との差が縮小し、圧縮室(23)内の冷媒の圧力に起因する弁体部(65)の変形量が弁体部(65)の全体に亘って均一化される。従って、本実施形態によれば、弁体部(65)の前面(71)とスクリューロータ(40)のクリアランスを、弁体部(65)の全体に亘って均一化することができる。その結果、圧縮室(23)からの冷媒の漏れ量を一層削減でき、スクリュー圧縮機(1)の効率を更に向上させることができる。
【0117】
−実施形態3の変形例1−
図14及び図15に示すように、本実施形態のスライドバルブ(60)の弁体部(65)では、支持用凸部(67)の幅Wが弁体部(65)の先端面(73)からシール用凸部(66)へ向かって次第に広くなっていてもよい。つまり、本変形例1の支持用凸部(67)の幅Wは、弁体部(65)の先端面(73)寄りの部分ほど狭く、シール用凸部(66)寄りの部分ほど広い。また、本変形例1の支持用凸部(67)は、その突端面の全体が摺接用曲面(32)と摺接する支持用摺接面(78)となっている。
【0118】
支持用凸部(67)は、弁体部(65)の背面側に突出した部分である。このため、支持用凸部(67)の幅が広くなると、弁体部(65)のうち肉厚の部分が拡大し、その部分の剛性が高くなる。従って、本変形例の弁体部(65)は、支持用凸部(67)の幅が広い後端面(74)寄りの部分ほど剛性が高くなる。
【0119】
つまり、本変形例の弁体部(65)では、前面(71)に作用する冷媒の圧力が高くなる後端面(74)寄りの部分の剛性が、支持用凸部(67)の幅が一定のもの(図12を参照)よりも更に高くなる。従って、本変形例によれば、弁体部(65)の前面(71)とスクリューロータ(40)のクリアランスを、弁体部(65)の全体に亘って更に均一化することができる。その結果、圧縮室(23)からの冷媒の漏れ量を一層削減でき、スクリュー圧縮機(1)の効率を更に向上させることができる。
【0120】
−実施形態3の変形例2−
図14及び図15に示す変形例1の弁体部(65)では、支持用凸部(67)の突端面の一部だけが、摺接用曲面(32)と摺接する支持用摺接面(78)となっていてもよい。
【0121】
図16〜図18に示すように、本変形例の支持用凸部(67)では、その突端面の幅方向の中央部だけが支持用摺接面(78)となっている。支持用摺接面(78)の幅Wは、支持用凸部(67)の全長に亘って実質的に一定である。上記変形例1と同様に、支持用凸部(67)の幅Wは、弁体部(65)の先端面(73)からシール用凸部(66)へ向かって次第に広くなっている。支持用凸部(67)において、支持用摺接面(78)の両側に位置する部分は、その高さが支持用摺接面(78)を形成する部分よりも低くなっている。支持用凸部(67)のうち支持用摺接面(78)の両側に位置する部分の突端面は、摺接用曲面(32)と摺接しない非摺接突出面(79)となっている。つまり、本変形例の弁体部(65)では、支持用凸部(67)の突端面における支持用摺接面(78)の両側に非摺接突出面(79)が形成される。
【0122】
本変形例の弁体部(65)において、支持用凸部(67)の非摺接突出面(79)に作用する冷媒の圧力は、低圧空間(S1)内の冷媒の圧力と実質的に等しい。つまり、本変形例の弁体部(65)では、非摺接面(77)と非摺接突出面(79)の両方に、低圧空間(S1)内の冷媒の圧力が作用する。このため、弁体部(65)の変形量を抑えるために支持用凸部(67)の幅Wを拡大した場合であっても、弁体部(65)の表面のうち低圧空間(S1)内の冷媒の圧力が作用する部分の面積を、支持用凸部(67)の幅が一定のもの(図12を参照)と同程度に抑えることができる。従って、本変形例によれば、支持用凸部(67)の幅Wを拡大することによって弁体部(65)の変形量を抑えつつ、スライドバルブ(60)をスクリューロータ(40)に押し付ける方向の力を小さく抑えることができる。
【0123】
《その他の実施形態》
上記の各実施形態の変形例について説明する。
【0124】
−第1変形例−
上記各実施形態のスライドバルブ(60)では、弁体部(65)の厚さが、弁体部(65)の先端面(73)からシール用凸部(66)へ向かって次第に厚くなっていてもよい。ここでは、本変形例の弁体部(65)について、図19〜図22を参照しながら説明する。
【0125】
図19は、図6に示す実施形態1のスライドバルブ(60)に本変形例を適用したものである。図19に示すスライドバルブ(60)の弁体部(65)では、シール用凸部(66)よりも先端側の部分の厚さtが、弁体部(65)の先端面(73)からシール用凸部(66)へ向かって次第に厚くなっている。
【0126】
図20は、図9に示す実施形態2のスライドバルブ(60)に本変形例を適用したものである。図20に示すスライドバルブ(60)の弁体部(65)では、支持用凸部(67)とシール用凸部(66)の間の部分の厚さtが、弁体部(65)の先端面(73)からシール用凸部(66)へ向かって次第に厚くなっている。
【0127】
図21は、図12に示す実施形態3のスライドバルブ(60)に本変形例を適用したものである。図21に示すスライドバルブ(60)の弁体部(65)では、支持用凸部(67)の両側に位置する部分の厚さtが、弁体部(65)の先端面(73)からシール用凸部(66)へ向かって次第に厚くなっている。なお。本変形例は、実施形態3の変形例1と変形例2に適用することも可能である。
【0128】
このように、第1変形例の弁体部(65)では、非摺接面(77)を構成する部分の厚さtが、弁体部(65)の先端面(73)から後端面(74)へ向かって次第に厚くなっている。つまり、弁体部(65)のうち非摺接面(77)を構成する部分の厚さtは、弁体部(65)の先端面(73)寄りほど薄く、弁体部(65)の後端面(74)寄りほど厚い。
【0129】
実施形態3の説明において述べたように、弁体部(65)の前面(71)では、吐出口(25)に近い後端寄りの部分ほど、そこに作用する圧縮室(23)内の冷媒の圧力が高くなる。一方、この第1変形例の弁体部(65)では、非摺接面(77)を構成する部分の厚さtが、弁体部(65)の後端面(74)に近付くにつれて次第に厚くなっている。弁体部(65)の剛性は、その厚さが厚い部分ほど高くなる。従って、この第1変形例の弁体部(65)では、前面(71)に作用する冷媒の圧力が高くなる後端面(74)寄りの部分の剛性が高くなっており、この後端面(74)寄りの部分の変形量が抑えられる。
【0130】
従って、この第1変形例によれば、弁体部(65)の前面(71)とスクリューロータ(40)のクリアランスを、弁体部(65)の全体に亘って均一化することができる。その結果、圧縮室(23)からの冷媒の漏れ量を一層削減でき、スクリュー圧縮機(1)の効率を更に向上させることができる。
【0131】
−第2変形例−
上記の各実施形態は、シングルスクリュー圧縮機に本発明を適用したものであるが、ツインスクリュー圧縮機に本発明を適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0132】
以上説明したように、本発明は、スクリュー圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0133】
1 シングルスクリュー圧縮機
10 ケーシング
23 圧縮室
25 吐出口
30 シリンダ部
40 スクリューロータ
41 螺旋溝
60 スライドバルブ
65 弁体部(バルブ本体部)
66 シール用凸部
67 支持用凸部
68 圧力導入孔(連通路)
69 圧力導入溝(連通路)
S1 低圧空間
S2 高圧空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低圧空間(S1)及び高圧空間(S2)を形成するケーシング(10)と、
圧縮室(23)を形成する複数の螺旋溝(41)が形成され、上記ケーシング(10)のシリンダ部(30)に挿入されるスクリューロータ(40)と、
上記スクリューロータ(40)の軸方向へ移動可能に上記シリンダ部(30)に設けられ、該スクリューロータ(40)の外周と対向して上記圧縮室(23)を上記高圧空間(S2)に連通させるための吐出口(25)を形成するスライドバルブ(60)とを備え、
上記スクリューロータ(40)が回転すると、上記低圧空間(S1)内の流体が上記圧縮室(23)へ吸入されて圧縮された後に上記高圧空間(S2)へ吐出されるスクリュー圧縮機であって、
上記スライドバルブ(60)には、上記スクリューロータ(40)とは反対の背面側に突出し、上記ケーシング(10)と摺接することによって上記低圧空間(S1)と上記高圧空間(S2)を仕切るシール用凸部(66)が形成されている
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記スライドバルブ(60)は、上記吐出口(25)よりも上記低圧空間(S1)側の部分がバルブ本体部(65)となり、
上記バルブ本体部(65)は、上記低圧空間(S1)側が先端となって上記吐出口(25)側が後端となり、
上記シール用凸部(66)は、上記バルブ本体部(65)の後端に沿って形成されている
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
上記バルブ本体部(65)の厚さが、該バルブ本体部(65)の先端から上記シール用凸部(66)へ向かって次第に厚くなる
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項4】
請求項2又は3において、
上記バルブ本体部(65)のうち上記シール用凸部(66)よりも先端側の部分には、該バルブ本体部(65)の背面側に突出して上記ケーシング(10)と摺接する支持用凸部(67)が形成されている
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項5】
請求項4において、
上記支持用凸部(67)は、上記バルブ本体部(65)の先端に沿って形成されている
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項6】
請求項5において、
上記バルブ本体部(65)には、上記シール用凸部(66)と上記支持用凸部(67)に挟まれた空間を上記低圧空間(S1)と連通させる連通路(68,69)が形成されている
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項7】
請求項4において、
上記支持用凸部(67)は、上記シール用凸部(66)から上記バルブ本体部(65)の先端に亘って形成されている
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項8】
請求項7において、
上記支持用凸部(67)は、その幅が上記バルブ本体部(65)の先端から上記シール用凸部(66)へ向かって次第に広くなる
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項9】
請求項8において、
上記支持用凸部(67)の突端面は、その幅方向の一部だけが上記ケーシング(10)と摺接する支持用摺接面(78)となる
ことを特徴とするスクリュー圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−92827(P2012−92827A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214251(P2011−214251)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【特許番号】特許第4911260号(P4911260)
【特許公報発行日】平成24年4月4日(2012.4.4)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】