説明

スクロール圧縮機

【課題】固定スクロールと、固定スクロールに対して所定の公転半径で旋回運動をする可動スクロールと、可動スクロールの自転動作を禁止する一方で公転動作を許容するオルダム継手(39)とを備え、オルダム継手(39)が、円環状のリング部(39a)と、リング部(39a)の軸方向端面に形成されたキー部(39b,39c)とを有するスクロール圧縮機において、スクロール圧縮機を高速運転する場合でも、オルダム継手(39)のキー摺動部が異常摩耗したり焼き付いたりしないように、キー摺動部の信頼性を高める。
【解決手段】キー部(39b,39c)をリング部(39a)よりも密度の大きな材料で形成することにより、オルダム継手(39)の全体を軽量化するとともに、キー部(39b,39c)の焼き付き耐力を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関し、特に、可動スクロールの自転を規制して公転(旋回)のみを許容するために用いられるオルダム継手の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷凍サイクルで冷媒を圧縮する圧縮機としてスクロール圧縮機が用いられている(例えば特許文献1参照)。スクロール圧縮機は、ケーシング内に、互いに噛合する渦巻き状のラップが突設された固定スクロールと可動スクロールとを有する圧縮機構を備えている。固定スクロールは、ケーシングに例えば固定部材(以下、ハウジングという)を介して固定され、可動スクロールは駆動軸の偏心軸部に連結されている。そして、このスクロール圧縮機は、可動スクロールが固定スクロールに対して自転することなく公転する動作により、両ラップ間に形成される圧縮室の容積を減少させて、その内部で冷媒を圧縮するように構成されている。
【0003】
上記スクロール圧縮機では、可動スクロールの上記の動作を可能にするために、オルダム継手(オルダムリング)が使用されている。このオルダム継手には、駆動軸の軸直角方向の平面上で互いに直交するように、2対のキーがリング部の表裏面にそれぞれ突設されている。また、ハウジングの表面及び可動スクロールの背面には、上記キーに対応するように2対のキー溝が設けられている。そして、各キー溝にキーが係合することによって、上記可動スクロールは、駆動軸の回転時に自転が防止される一方、各キー溝方向への移動量が連続的に変化することで駆動軸の回転中心の周りを公転可能になっている。
【0004】
上記オルダム継手は、軽量化のためにアルミニウム材料により形成されたものが用いられることが多い。しかし、アルミニウム材料などの軽金属の焼き付き耐力は、鉄などの比重(密度)の大きな金属に比べて劣るため、容量の大きな圧縮機や高速運転が行われる圧縮機には適していない。
【0005】
一方、オルダム継手には、加工性をよくするためにリング部とキー部を別部材にして、キー部をリング部に固定するようにしたものがある(特許文献2参照)。この特許文献2に記載されたあるダム継手は、リング部に形成した凹部にキー部を嵌合させ、キー部とリング部をピンで固定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−312156号公報
【特許文献2】特開平6−088579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一体型のオルダムリングの焼き付き耐力を高めるために、鉄系材料、鋳鉄系材料あるいは焼結系材料を用いると、オルダム継手の質量が増えてしまう。したがって、可動スクロールの旋回半径が大きい大容量の圧縮機や、高速回転をする圧縮機では、オルダム継手の遠心力荷重が大きくなる。また、オルダム継手の遠心力荷重が大きくなると、キー部の面圧が大きくなる。そして、鉄系材料などを用いることにより向上した焼き付き耐力よりも上記のキー部の摺動面にかかる力が大きくなり、キー部が摺動する部分の信頼性が低下するおそれがある。
【0008】
また、オルダム継手のリング部とキー部を別部材にする場合でも、全体がアルミニウム材料のような軽金属であるとキー部の焼き付き耐力が低くなるし、逆に鉄系材料などの比重の大きな材料を用いると、大容量の圧縮機や高速運転をする圧縮機において遠心力荷重が大きくなってオルダム継手の信頼性が低下してしまうのは、上記と同様である。
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みて創案されたものであり、その目的は、スクロール圧縮機を高速運転する場合でも、オルダム継手のキー摺動部が異常摩耗したり焼き付いたりしないように、キー摺動部の信頼性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、ケーシング(10)と、該ケーシング(10)内で位置が固定される固定スクロール(24)と、該固定スクロール(24)に対して所定の公転半径で旋回運動をする可動スクロール(26)と、該可動スクロール(26)の自転動作を禁止する一方で公転動作を許容するオルダム継手(39)とを備え、上記オルダム継手(39)が、円環状のリング部(39a)と、該リング部(39a)の軸方向端面に形成されたキー部(39b,39c)とを有するスクロール圧縮機を前提としている。
【0011】
そして、このスクロール圧縮機は、上記キー部(39b,39c)が上記リング部(39a)よりも密度の大きな材料で形成されていることを特徴としている。
【0012】
この第1の発明では、キー部(39b,39c)の密度がリング部(39a)の密度よりも大きいため、キー部(39b,39c)には単位体積当たりの質量が大きな材料を用い、リング部(39a)には単位体積当たりの質量が小さな材料を用いることができる。つまり、キー部(39b,39c)には、密度が大きくて焼き付き耐力の高い材料を用い、体積が大きなリング部(39a)には、密度が小さくて軽量の材料を用いることができる。そのため、オルダム継手(39)が全体として軽量化されるので遠心力荷重が大きくなるのを抑えられるし、キー部(39b,39c)の焼き付き耐力も高められる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、上記リング部(39a)が軽金属材料により形成されていることを特徴としている。
【0014】
この第2の発明では、体積の大きな上記リング部(39a)がアルミニウム材料などの軽金属材料により形成される一方、キー部(39b,39c)はそれよりも密度が高くて焼き付き耐力の大きな材料で形成することができる。したがって、第1の発明と同様に、オルダム継手(39)が全体として軽量化されるので遠心力荷重が大きくなるのを抑えられるし、キー部(39b,39c)の焼き付き耐力を高められる。
【0015】
第3の発明は、第2の発明において、上記キー部(39b,39c)が、鉄系材料、鋳鉄系材料または焼結系材料により形成されていることを特徴としている。
【0016】
この第3の発明では、キー部(39b,39c)を鉄系材料、鋳鉄系材料または焼結系材料により形成することにより、キー部(39b,39c)の耐摩耗性や焼き付き耐力が、アルミニウムなどの軽金属材料でキー部(39b,39c)を形成する場合よりも大幅に向上する。したがって、リング部(39a)の密度が小さくてオルダム継手(39)の遠心力荷重が大きくなるのを抑えられることと相まって、キー部(39b,39c)の焼き付き耐力を高められる。
【0017】
第4の発明は、第1から第3のいずれか1つの発明において、上記リング部(39a)が、該リング部(39a)の半径方向の一側から他側に向かって幅が変化するテーパ状の凹部(39d)または凸部(39e)を有し、上記キー部(39b,39c)が、上記リング部(39a)の凹部(39d)に嵌合するテーパ状の凸部(39e)または該リング部(39a)の凸部(39e)に嵌合するテーパ状の凹部(39d)を有することを特徴としている。なお、上記構成において、キー部(39b,39c)は、リング部(39a)に対して圧入ピン、ネジ、カシメ、蟻溝などの固定構造を用いて固定することができる。
【0018】
この第4の発明では、上記凸部(39e)と凹部(39d)をテーパ状にしているため、キー部(39b,39c)をリング部(39a)に取り付けた状態で、上記凸部(39e)と凹部(39d)の間に隙間が形成されないようにすることができる。凸部(39e)と凹部(39d)の間に隙間があると、キー部(39b,39c)が相手側部材のキー溝に対して傾斜し、局所面圧が上昇して異常摩耗や焼き付きの原因となることが考えられるが、この第4の発明では上記のように凸部(39e)と凹部(39d)の間に隙間が形成されないようにしているので、リング部(39a)に対してキー部(39b,39c)ががたつかなくなる。したがって、キー部(39b,39c)の全面が相手側部材のキー溝と摺接し、面圧が低下する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、キー部(39b,39c)をリング部(39a)よりも密度の大きな材料で形成するようにしたことにより、キー部(39b,39c)自体には密度が大きくて焼き付き耐力の高い材料を使える。また、体積が大きなリング部(39a)を軽量化できるので、オルダム継手(39)の全体も軽量化することができ、遠心力荷重を小さく抑えられる。したがって、キー部(39b,39c)が摺動する部分の面圧が焼き付き耐力を越えないようにすることができるから、キー部(39b,39c)が摺動する部分の信頼性低下を抑えられる。特に、可動スクロール(26)の旋回半径が大きい大容量の圧縮機や、高速回転をする圧縮機であっても、オルダム継手(39)の遠心力荷重が大きくなるのを抑えられるから、キー部(39b,39c)が摺動する部分の信頼性低下を効果的に抑えられる。
【0020】
上記第2の発明によれば、上記リング部(39a)をアルミニウム材料などの軽金属材料により形成し、キー部(39b,39c)をそれよりも密度が高くて焼き付き耐力の大きな材料で形成することにより、オルダム継手(39)を全体として軽量化して遠心力荷重が大きくなるのを抑えられることができ、キー部(39b,39c)を高密度材料にすることで焼き付き耐力を高められる。したがって、第1の発明と同様に、キー部(39b,39c)が摺動する部分の信頼性低下を抑えられる。
【0021】
上記第3の発明によれば、上記キー部(39b,39c)を、鉄系材料、鋳鉄系材料または焼結系材料により形成するようにしているのでキー部(39b,39c)の焼き付き耐力を高められるし、リング部(39a)の密度がキー部(39b,39c)の密度よりも小さいのでオルダム継手(39)は全体として軽量化される。したがって、上記各発明と同様に、キー部(39b,39c)が摺動する部分の信頼性低下を抑えられる。
【0022】
上記第4の発明によれば、リング部(39a)に半径方向の一側から他側に向かって幅が変化するテーパ状の凹部(39d)または凸部(39e)を形成し、キー部(39b,39c)には上記リング部(39a)の凹部(39d)に嵌合するテーパ状の凸部(39e)または該リング部(39a)の凸部(39e)に嵌合するテーパ状の凹部(39d)を形成したことにより、キー部(39b,39c)をリング部(39a)に取り付けた状態で、上記凸部(39e)と凹部(39d)の間に隙間を形成しないようにすることができ、ひいてはリング部(39a)に対するキー部(39b,39c)のがたつきを防止できる。そして、キー部(39b,39c)の全面が相手側部材のキー溝と摺接して面圧が低下するので、キー部(39b,39c)が摺動する部分の異常摩耗や焼き付きを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
【図2】図2は、図1のスクロール圧縮機に用いられているオルダム継手の斜視図である。
【図3】図3は、図2のオルダム継手の分解斜視図である。
【図4】図4は、図3の変形例1に係るオルダム継手の分解斜視図である。
【図5】図5は、図3の変形例2に係るオルダム継手の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。このスクロール圧縮機(1)は、冷媒が循環して蒸気圧縮式の冷凍サイクル動作を行う図外の冷媒回路に接続されている。
【0025】
−圧縮機の構成−
このスクロール圧縮機(1)は、縦長円筒状で密閉ドーム型のケーシング(10)を有している。このケーシング(10)の内部には、冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構(15)と、このスクロール圧縮機構(15)の下方に配置される電動機(18)とが収容されている。スクロール圧縮機構(15)と電動機(18)とは、ケーシング(10)内で上下方向の中心軸に沿って配置された駆動軸(17)によって連結されている。
【0026】
上記スクロール圧縮機構(15)は、ハウジング(23)と、固定スクロール(24)と、可動スクロール(26)とを備えている。ハウジング(23)は、圧縮機構(15)をケーシング(10)に固定するための固定部材であり、その外周面において周方向の全体に亘ってケーシング(10)に固定されている。固定スクロール(24)は、該ハウジング(23)に固定されてハウジング(23)の上面に密着し、ケーシング(10)に対して位置が固定されている。可動スクロール(26)は、固定スクロール(24)とハウジング(23)の間に配置され、固定スクロール(24)に対して可動に構成されている。
【0027】
上記ハウジング(23)には、その上面中央を凹陥してなるハウジング凹部(31)と、下面中央から下方に延びるラジアル軸受部(32)とが形成されている。このハウジング(23)には、後述する1対のキー溝(23a,23a)が凹設されている。また、ハウジング(23)には、上記ラジアル軸受部(32)の下端面とハウジング凹部(31)の底面との間を貫通するラジアル軸受孔(33)が設けられていて、このラジアル軸受孔(33)に上記駆動軸(17)が滑り軸受け(図示せず)を介して回転可能に支持されている。また、駆動軸(17)の下端部は、ケーシング(10)の下端に設けられている下部軸受け(16)に回転可能に支持されている。
【0028】
上記ケーシング(10)は、胴部(10b)を有し、その上端部が上部端板(10a)で閉塞されている。ケーシング(10)の胴部(10b)には、冷媒回路の冷媒をスクロール圧縮機構(15)に導入する吸入管(19)が接合されている。また、ケーシング(10)の上部端板(10a)には、ケーシング(10)内の高圧冷媒をケーシング(10)の外へ吐出するための吐出管(20)が接合されている。上記吸入管(19)の内端部は、固定スクロール(24)から、後述する圧縮室(40)に連通している。そして、この吸入管(19)から圧縮室(40)内に冷媒が吸入されるようになっている。
【0029】
上記固定スクロール(24)は、鏡板(24a)と、この鏡板(24a)の下面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ(24b)とから構成されている。一方、上記可動スクロール(26)は、鏡板(26a)と、この鏡板(26a)の上面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ(26b)とから構成されている。そして、固定スクロール(24)のラップ(24b)と可動スクロール(26)のラップ(26b)とは互いに噛合している。また、固定スクロール(24)と可動スクロール(26)との間には、両ラップ(24b,26b)の接触部間に圧縮室(40)が形成されている。
【0030】
図1に示すように、上記可動スクロール(26)は、オルダム継手(39)を介してハウジング(23)に支持されている。オルダム継手(39)は、図2に示すように、円環状のリング部(39a)と、リング部(39a)とは別部材である一対の可動スクロール側キー部(39b,39b)及び一対のハウジング側キー部(39c,39c)とを有している。可動スクロール側キー部(39b,39b)はリング部(39a)の一方の端面に固定され、ハウジング側キー部(39c,39c)はリング部(39a)の他方の端面に固定されている。具体的には、可動スクロール側キー部(39b,39b)はオルダム継手(39)の表面側(図の上面側)に設けられ、ハウジング側キー部(39c,39c)はオルダム継手(39)の裏面側(図の下面側)に、駆動軸(17)の軸心に対して可動スクロール側キー部(39b,39b)とは位相が90°異なる位置に形成されている。別の形態として、ハウジング側キー部(39c,39c)を固定スクロール(24)に設けてもよい。
【0031】
上記オルダム継手(39)のリング部(39a)と各キー部(39b,39c)は異なる材料により形成されている。具体的には、上記キー部(39b,39c)は、上記リング部(39a)よりも密度の大きな材料で形成されている。例えば、上記リング部(39a)はアルミニウムなどの軽金属材料により形成され、上記キー部(39b,39c)は、鉄系材料、鋳鉄系材料または焼結系材料により形成されている。
【0032】
図3は、オルダム継手(39)の分解斜視図である。リング部(39a)は、該リング部(39a)の半径方向の一側から他側(この実施形態では径方向内側から外側)へ向かって幅が変化するテーパ状の凹部(39d)を有している。また、上記キー部(39b,39c)は、上記凹部(39d)に嵌合するテーパ状の凸部(39e)を有している。
【0033】
そして、凸部(39e)を凹部(39d)にはめ込んでテーパ面(側面)同士を密に接触させ、その間に隙間がない状態として、各キー部(39b,39c)をリング部(39a)に対して圧入ピン、ネジ、カシメ、蟻溝などの固定機構(図示せず)を用いて固定する。こうすることにより、キー部(39b,39c)がリング部(39a)に対してがたつくのを防止している。
【0034】
一方、図1に示すように、可動スクロール(26)の背面には、可動スクロール側キー部(39b,39b)に対応するようにキー溝(26c,26c)が凹設されている。また、上記ハウジング(23)の表面には、ハウジング側キー部(39c,39c)に対応するように上記キー溝(23a,23a)が凹設されている。そして、2対のキー溝(26c,23a)とキー部(39a,39b)とがそれぞれ係合することにより、オルダム継手(39)は、固定スクロール(24)に対しては、回転中心である駆動軸(17)の軸心と軸直角の面上でハウジング側キー部(39c,39c)を結ぶ線分の方向へスライド可能で、可動スクロール(26)に対しては、該軸心と軸直角の面上で可動スクロール側キー部(39b,39b)を結ぶ線分の方向へスライド可能になっている。
【0035】
図1に示すように、上記可動スクロール(26)の鏡板(26a)の下面には、その中心部に円筒状のボス部(26d)が突設されている。一方、上記駆動軸(17)の上端には、駆動軸(17)の回転中心から偏心した偏心軸部(17a)が設けられている。この偏心軸部(17a)は、上記可動スクロール(26)のボス部(26d)に滑り軸受け(図示せず)を介して回転可能に嵌合している。上記の構成により、可動スクロール(26)は、固定スクロール(24)に対して、所定の公転半径(駆動軸(17)の回転中心に対する偏心軸部(17a)の偏心量)で旋回運動をする。
【0036】
なお、図示していないが、上記駆動軸(17)には、上記ハウジング(23)のラジアル軸受部(32)の下側部分に、可動スクロール(26)や偏心軸部(17a)等と動的バランスを取るためのカウンタウェイト部が設けられている。駆動軸(17)は、このカウンタウェイト部により、重さのバランスを取りながら回転する。
【0037】
駆動軸(17)が回転することにより、オルダム継手(39)がハウジング(23)側のキー溝(23a,23a)に沿って固定スクロール(24)に対して第1の方向へ往復スライド運動し、可動スクロール(26)がキー溝(26c,26c)に沿ってオルダム継手(39)に対して第2の方向へ往復スライド運動する。その結果、可動スクロール(26)は、自転を禁止された状態で、固定スクロール(24)に対する公転動作のみを行う。このとき、上記圧縮室(40)は、可動スクロール(26)の公転に伴って両ラップ(24b,26b)の間の容積が中心に向かって収縮し、それによって、上記吸入管(19)より吸入された冷媒が圧縮される。
【0038】
一方、上記スクロール圧縮機構(15)には、固定スクロール(24)の中央部に吐出ポート(24c)が形成されている。そして、圧縮室(40)で圧縮された高圧の冷媒は、上記吐出ポート(24c)からケーシング(10)の内部空間に吐出され、さらに吐出管(20)から冷媒回路へ流出するようになっている。
【0039】
−運転動作−
次に、本実施形態に係るスクロール圧縮機(1)の運転状態について説明する。電動機(18)を起動すると駆動軸(17)が回転し、その動力がスクロール圧縮機構(15)の可動スクロール(26)に伝達される。このとき、駆動軸(17)の偏心軸部(17a)が所定の周回軌道上を旋回する一方、オルダム継手(39)が、固定スクロール(24)に対してハウジング側キー部(39c)とキー溝(23a)の作用で第1の方向へスライドし、可動スクロール(26)がオルダム継手(39)に対して可動スクロール側キー部(39b)とキー溝(26c)の作用で第2の方向へスライドするので、可動スクロール(26)は自転をせずに公転のみを行う。
【0040】
このことにより、図示していない冷媒回路の蒸発器で気化した低圧のガス冷媒が吸入管(19)を通って圧縮室(40)の周縁側から圧縮室(40)へ吸引される。この冷媒は、スクロール圧縮機構(15)において、圧縮室(40)の容積変化に伴って圧縮され、高圧となって吐出ポート(24c)を経てケーシング(10)の内部空間へ流出する。冷媒は、吐出管(20)からケーシング(10)外に吐出されると、冷媒回路を循環した後、再度吸入管(19)を通してスクロール圧縮機(1)に吸入される。本実施形態では以上の動作が繰り返されて、冷媒回路において冷凍サイクルが行われる。
【0041】
本実施形態においては、オルダム継手(39)の各キー部(39b,39c)の密度がリング部(39a)の密度よりも大きいため、体積の小さなキー部(39b,39c)には単位体積当たりの質量が大きな材料を用い、体積の大きなリング部(39a)には単位体積当たりの質量が小さな材料を用いることができる。つまり、キー部(39b,39c)には、密度が大きくて焼き付き耐力の高い材料を用い、リング部(39a)には、密度が小さくて軽量の材料を用いることができる。具体的には、この実施形態では、上記リング部(39b,39c)をアルミニウム材料などの軽金属材料により形成する一方、キー部をそれよりも密度が高くて焼き付き耐力の大きな材料(鉄系材料、鋳鉄系材料または焼結系材料など)で形成するようにしているので、オルダム継手(39)が全体として軽量化され、遠心力荷重が大きくなるのを抑えられるし、キー部(39b,39c)の焼き付き耐力を高められる。
【0042】
また、この実施形態では、上記凸部(39e)と凹部(39d)をテーパ状にしているため、キー部(39b,39c)をリング部(39a)に取り付けた状態で、上記凸部(39e)と凹部(39d)の間に隙間が形成されない状態を保持できる。凸部(39e)と凹部(39d)の間に隙間があると、キー部(39b,39c)が相手側部材(ハウジング(23)及び可動スクロール(26))のキー溝(23a,26c)に対して傾斜し、局所面圧が上昇して異常摩耗や焼き付きの原因となることが考えられるが、この実施形態では上記のように凸部(39e)と凹部(39d)を密に接触させて、その間に隙間が形成されないようにしているので、リング部(39a)に対してキー部(39b,39c)ががたつかなくなる。したがって、キー部(39b,39c)の側面全体が相手側部材(23,26)のキー溝(23a,26c)と摺接し、摺接面の面圧が局所的に上昇したりしない。
【0043】
−実施形態1の効果−
本発明によれば、キー部(39b,39c)をリング部(39a)よりも密度の大きな材料で形成するようにしたことにより、キー部(39b,39c)には密度が大きくて焼き付き耐力の高い材料(鉄系材料、鋳鉄系材料または焼結系材料など)を使える。また、体積が大きなリング部(39a)をアルミニウム材料などの軽金属材料により形成して軽量化できるようにしているので、オルダム継手(39)の全体としての軽量化が可能になり、運転時の遠心力荷重を小さく抑えられる。したがって、キー部(39b,39c)が摺動する部分にかかる力が焼き付き耐力を越えないようにすることができるから、キー部(39b,39c)が摺動する部分の信頼性低下を抑えられる。特に、可動スクロール(26)の旋回半径が大きい大容量の圧縮機や、高速回転をする圧縮機であっても、オルダム継手(39)の遠心力荷重が大きくなるのを抑えられ、ひいてはキー部(39b,39c)が摺動する部分の信頼性低下を効果的に抑えられる。
【0044】
また、リング部(39a)に半径方向の一側から他側に向かって幅が変化するテーパ状の凹部(39d)を形成し、キー部(39b,39c)には上記凹部(39d)に嵌合するテーパ状の凸部(39e)を形成している。したがって、キー部(39b,39c)をリング部(39a)に取り付けた状態で、上記凸部(39e)と凹部(39d)の間に隙間を形成しない状態を保持できるから、リング部(39a)に対するキー部(39b,39c)のがたつきを防止できる。そして、キー部(39b,39c)の側面全体が相手側部材(23,26)のキー溝(23a,26c)と摺接して面圧が低下するので、キー部(39b,39c)が摺動する部分の異常摩耗や焼き付きを防止できる。
【0045】
−実施形態の変形例−
(変形例1)
図4に示す実施形態の変形例1は、キー部(39b,39c)をリング部(39a)に取り付けるための凹部(39d)と凸部(39e)の形状を変更した例である。この変形例1では、凹部(39d)はリング部(39a)の外周側の端面に開口する一方、リング部(39a)の内周側は端面の手前が終端となっている。また、凸部(39e)は、同様に、リング部(39a)の内周側の端面がキー部(39b,39c)の端面よりも手前で終結している。
【0046】
この変形例1においても、リング部(39a)に半径方向の一側から他側に向かって幅が変化するテーパ状の凹部(39d)を形成し、キー部(39b,39c)には上記凹部(39d)に嵌合するテーパ状の凸部(39e)を形成している。したがって、キー部(39b,39c)をリング部(39a)に取り付けた状態で、上記凸部(39e)と凹部(39d)の間に隙間を形成しない状態を保持することで、リング部(39a)に対するキー部(39b,39c)のがたつきを防止できる。そして、キー部(39b,39c)の側面全体が相手側部材(23,26)のキー溝(23a,26c)と摺接して面圧が低下するので、キー部(39b,39c)が摺動する部分の異常摩耗や焼き付きを防止できる。
【0047】
(変形例2)
図5に示す実施形態の変形例2は、キー部(39b,39c)をリング部(39a)に取り付けるための凹部(39d)と凸部(39e)の構成を変更した例である。この変形例2では、キー部(39b,39c)にリング部(39a)の半径方向の一側から他側に向かって幅が変化するテーパ状の凹部(39d)を形成し、リング部(39a)には上記凹部(39d)に嵌合するテーパ状の凸部(39e)を形成している。
【0048】
この変形例2においても、キー部(39b,39c)をリング部(39a)に取り付けた状態で、上記凸部(39e)と凹部(39d)の間に隙間を形成しない状態を保持することにより、リング部(39a)に対するキー部(39b,39c)のがたつきを防止できる。そして、キー部(39b,39c)の側面全体が相手側部材(23,26)のキー溝(23a,26c)と摺接して面圧が低下するので、キー部(39b,39c)が摺動する部分の異常摩耗や焼き付きを防止できる。
【0049】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0050】
例えば、上記実施形態において、キー部(39b,39c)のみに耐摩耗性や耐焼き付き性を高めるための表面処理をしてもよい。ここで、一般に、アルミニウム製でリング部とキー部とが一体になったオルダム継手の場合、炉内で表面処理をする工法を採用すると、リング部が環状であって表面積が大きいため、処理工程の一回当たり数量が少なく、表面処理単価が高くなってしまう。これに対して、リング部(39a)とキー部(39b,39c)を別部材にした本発明のオルダム継手(39)であれば、キー部(39b,39c)だけに表面処理をすればよいので、オルダム継手の全体を表面処理するのに比べて数十倍の量を一度に処理することが可能になり、表面処理単価が安くなる。
【0051】
また、上記実施形態では、可動スクロール側キー部(39b)とハウジング側キー部(39c)の両方を鉄系材料などで形成するようにしているが、リング部(39a)と材料を変えるのは、ハウジング側に比べて摩耗や焼き付きが生じやすい可動スクロール側キー部(39b)のみにしてもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、リング部(39a)とキー部(39b,39c)を隙間なく位置決めするためにテーパ状の凹部(39d)と凸部(39e)を用いているが、その形状は変更してもよいし、場合によっては凹部(39d)と凸部(39e)以外の固定構造を採用してもよい。
【0053】
また、リング部(39a)の両端面にキー部(39b,39c)を有する構成について説明したが、リング部(39a)の片面に可動スクロール側キー部(39b)とハウジング(固定スクロール)側キー部(39c)の両方を持つものでもよい。
【0054】
さらに、一般的にオルダム継手の往復慣性力は可動スクロール側のキー部(39b)で指示され、ハウジング(固定スクロール)側キー部(39c)には影響しないことから、可動スクロール側キー部(39b)のみを本発明の構造としてもよい。
【0055】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明は、可動スクロールの自転を規制して公転(旋回)のみを許容するために用いられるオルダム継手を有するスクロール圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 スクロール圧縮機
10 ケーシング
24 固定スクロール
26 可動スクロール
39 オルダム継手
39a リング部
39b 可動スクロール側キー部
39c ハウジング側キー部
39d 凹部
39e 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(10)と、該ケーシング(10)内で位置が固定される固定スクロール(24)と、該固定スクロール(24)に対して所定の公転半径で旋回運動をする可動スクロール(26)と、該可動スクロール(26)の自転動作を禁止する一方で公転動作を許容するオルダム継手(39)とを備え、
上記オルダム継手(39)が、円環状のリング部(39a)と、該リング部(39a)の軸方向端面に形成されたキー部(39b,39c)とを有するスクロール圧縮機であって、
上記キー部(39b,39c)は、上記リング部(39a)よりも密度の大きな材料で形成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記リング部(39a)が軽金属材料により形成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
上記キー部(39b,39c)が、鉄系材料、鋳鉄系材料または焼結系材料により形成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1つにおいて、
上記リング部(39a)は、該リング部(39a)の半径方向の一側から他側に向かって幅が変化するテーパ状の凹部(39d)または凸部(39e)を有し、
上記キー部(39b,39c)は、上記リング部(39a)の凹部(39d)に嵌合するテーパ状の凸部(39e)または該リング部(39a)の凸部(39e)に嵌合するテーパ状の凹部(39d)を有することを特徴とするスクロール圧縮機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate