説明

スケール密着性に優れた熱延鋼板

【課題】スケール密着性に優れた熱延鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.3%以下、Si:0.1%以下、Mn:2.0%以下、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Al:0.10%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材に、仕上圧延機内で露点:50℃以上である雰囲気中に1.0〜10s間保持する酸化処理を含み、仕上圧延終了温度:700〜900℃とする仕上圧延を施し、仕上圧延終了後、冷却し、巻取温度:450〜650℃で巻き取る。これにより、面積率で、50%以上のFeOと、残部Feおよび不可避的に形成されるFeOからなり、面積率で0.10〜3.0%の空孔を含み、厚さ:10μm以下であるスケール層が形成され、スケール密着性が顕著に向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電、建材などの部材用として好適な熱延鋼板に係り、とくにスケール密着性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
熱延鋼板は、通常、表面にスケール(黒皮)を有する。黒皮付き熱延鋼板は、自動車、家電、建材などの部材用として、多岐にわたり使用されている。しかし、このスケール(黒皮)は、調質圧延や、曲げあるいはプレスなどの加工時に、容易に剥離する。加工中にスケール剥離が生じると、剥離したスケール粉が作業場に堆積して、作業環境が劣化するという問題がある。また、剥離したスケールが加工時に鋼板に押し込まれ、酸洗した後の製品表面に凹凸模様が残り、商品価値が大きく低下するという問題もある。
【0003】
近年、作業環境の向上や、製品の表面品質向上に対する要望は、ますます強くなり、さらに加工後もスケール密着性が劣化しない、スケール密着性に優れた熱延鋼板が要望されるようになっている。
このような要望に対し、例えば、特許文献1には、熱間圧延し冷却した熱延鋼板を巻き取ったコイルに、550〜450℃で10分以上2時間以下保持し、450℃から1℃/分以上の冷却速度で冷却する処理を施し、表面に、FeO−FeO−FeOの3層構造を示し、地鉄と接するFeO層の平均厚さが全スケールの平均厚さの1/5以下である熱延鋼板が記載されている。特許文献1に記載された技術では、地鉄と接するFeO層を薄く形成したスケール構造とすることにより、スケール密着性が向上するとしている。
【0004】
また、特許文献2には、C:0.02〜0.20%、Si:0.3%以下、Mn:0.1〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.03%以下を含み、さらにNi:0.03〜0.3%、Cu:0.04〜0.5%、Cr:0.03〜0.3%のうちの1種または2種以上を含有し、表面スケールと地鉄との界面を、0.5μm以上の凹凸高さの1インチ当たりの回数で300以上となるように粗くすることにより、スケール剥離を抑制する、タイトスケール性に優れる熱延鋼板が記載されている。特許文献2に記載された技術によれば、Ni、Cu、Crの含有により、地鉄とスケールとの界面が凹凸に乱れて、スケールが地鉄に食い込んでアンカー効果によりタイトスケール性(スケール密着性)が向上するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−136561号公報
【特許文献2】特開2004−27312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された熱延鋼板では、スケール層と地鉄との界面の密着性は向上するが、スケール表層には、依然として硬質のFeO層が存在するため、最表層ではスケールの剥離が生じ、スケール剥離を完全には防止できていないという問題があった。
また、特許文献2に記載された熱延鋼板では、地鉄とスケールとの界面での剥離を抑制することができても、スケール表層あるいはスケール内部で生じる剥離までを防止することは困難であるという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、地鉄とスケールとの界面にかぎらず、スケール内部、さらにはスケール表層を含めスケール層全域において、加工時等に生じるスケール剥離を防止できる、スケール密着性に優れた熱延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、熱延鋼板のスケール密着性に影響する各種要因について、鋭意研究した。その結果、スケール層中に適正量の空孔を存在させることにより、スケール密着性を飛躍的に向上させることができることを知見した。また、スケール層中に適正量の空孔を生成する処理としては、仕上圧延機内で露点:50℃以上である雰囲気中に1.0〜10s間保持する処理とすることが好ましいことを知見した。
【0009】
まず、本発明者らが行った、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
質量%で、0.002〜0.30%C−0.01〜0.05%Si−0.1〜1.5%Mn−0.01〜0.05%P−0.01〜0.02%S−0.01〜0.09%Al−残部Feからなる組成の鋼素材を、窒素雰囲気中で加熱し、仕上圧延途中で、露点が40〜85℃に調整された雰囲気中に0.5〜15s保持する処理を施し、仕上圧延終了温度:700〜950℃とする熱間圧延を施したのち、噴霧中で巻取温度相当温度まで冷却し、巻取処理を模擬した処理(巻取模擬処理)を施し、表面にスケール層を有する板厚2mmの熱延鋼板を得た。なお、巻取模擬処理は、窒素雰囲気で巻取温度相当温度:650〜450℃の温度に保持された炉中に装入し室温まで炉冷する処理とした。
【0010】
得られた熱延鋼板について、スケール層組織観察を行い、さらにスケール剥離性を評価した。
得られた熱延鋼板から組織観察用試片を採取し、板厚断面について、走査型電子顕微鏡(倍率:1000倍)により、100μm長さにわたりスケール組織を観察し、反射電子像を撮像し、画像処理を用いて、スケール厚さ(平均)、空孔の面積率を測定した。
【0011】
また、得られた熱延鋼板からJIS Z 2248の規定に準拠してU曲げ試験片(幅:70mm)を採取し、半径:4mmのポンチを用いてU曲げ加工を実施したのち、U曲げ試験片表面(曲げ側表面)中央にセロハンテープ(幅:50mm×長さ20mm)を貼り付け、剥離して、テープに付着したスケールの面積率(剥離スケール面積率)を測定した。
得られた結果を、剥離スケール面積率と空孔率との関係で、図1に、剥離スケール面積率とスケール厚さとの関係で、図2に示す。
【0012】
図1、図2から、スケール層中の空孔面積率を0.10〜3.0%とし、スケール厚さを10μm以下とすることにより、剥離スケール面積率が10%以下となり、スケール密着性が顕著に向上することがわかる。
スケール層中に空孔を適正範囲に存在させることにより、スケール密着性が向上する機構については、現在のところ明確になってはいないが、本発明者らは次のように考えている。
【0013】
黒皮付き熱延鋼板を加工して所望形状の製品に加工するに際し、加工時に付与された歪により、硬く脆いスケール層に多数の亀裂が生じ、それらが連結しついに剥離が生じる。しかし、スケール層中に空孔が存在することにより、空孔が変形に対する緩衝材となり、亀裂の連結を抑制することができ、それにより、スケール剥離が抑制されるものと考えられる。
【0014】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)鋼板表面にスケール層を有する熱延鋼板であって、前記鋼板が、質量%で、C:0.3%以下、Si:0.1%以下、Mn:2.0%以下、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Al:0.10%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、前記スケール層が、面積率で0.10〜3.0%の空孔を含み、厚さ:10μm以下であることを特徴とするスケール密着性に優れた熱延鋼板。
(2)(1)において、前記スケール層が、面積率で、50%以上のFeOを主相とし、0〜10%のFeOを含み、残部Feからなるスケール組成を有することを特徴とする熱延鋼板。
(3)鋼素材を、加熱し仕上圧延を含む熱間圧延を施し熱延板とする熱延鋼板の製造方法において、前記鋼素材を、質量%で、C:0.3%以下、Si:0.1%以下、Mn:2.0%以下、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Al:0.10%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、前記仕上圧延を、仕上圧延機内で露点:50℃以上である雰囲気中に1.0〜10s間保持する酸化処理を含み、仕上圧延終了温度:700〜900℃とする圧延とし、該仕上圧延終了後、冷却し、巻取温度:450〜650℃で巻き取ることを特徴とするスケール密着性に優れた熱延鋼板の製造方法。
(4)(3)において、前記冷却が、平均冷却速度:30℃/s以下の冷却であることを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スケール密着性に優れた熱延鋼板を容易に、かつ安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、スケール剥離を防止でき、作業環境の向上や、製品の表面品質向上に大きく寄与するという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】剥離スケール面積率とスケール層中の空孔率との関係を示すグラフである。
【図2】剥離スケール面積率とスケール層厚さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明になる熱延鋼板は、質量%で、C:0.3%以下、Si:0.1%以下、Mn:2.0%以下、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Al:0.10%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、鋼板表面にスケール層を有する。
まず、鋼板組成の限定理由について説明する。以下、とくに断わらないかぎり質量%は、単に%で記す。
【0018】
C:0.3%以下
Cは、固溶して鋼板強度を増加させる元素であり、所望の強度に応じて、0.001%以上含有させることが望ましいが、0.3%を超える含有は、本発明で仕上圧延時に行う酸化処理に際し、スケールと地鉄との界面でCOガスを生成し、界面の密着性を低下させる。このため、Cは0.3%以下に限定した。なお、界面の密着性の観点から、好ましくは0.1%以下である。
【0019】
Si:0.1%以下
Siは、脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましいが、0.1%を超えるSi含有は、仕上圧延時に行う酸化処理に際し、Siが地鉄表層で選択的に酸化され、Si酸化層を形成しやすくなる。このSi酸化層と、その上に形成されるスケール層とは、その界面でスケール剥離を起こしやすい。このため、Siは0.1%以下に限定した。なお、好ましくは0.05%以下である。
【0020】
P:0.05%以下
Pは、固溶して鋼板強度を増加させる元素であるが、地鉄とスケールとの界面で非常に脆い酸化層を形成し、スケール密着性を低下させる。このような悪影響を防止するため、Pは0.05%以下に限定した。なお、好ましくは0.02%以下、さらに好ましくは0.01%以下である。
【0021】
S:0.02%以下
Sは、鋼中では硫化物として存在し、延性等を低下させるため、できるだけ低減することが望ましい。また、Sは、地鉄とスケールとの界面で濃化し、スケール密着性を低下させるため、スケール密着性の観点からもできるだけ低減することが望ましいが、0.02%以下であれば許容できる。このため、Sは0.02%以下に限定した。なお、好ましくは0.01%以下である。
【0022】
上記した成分がスケール生成との関係で制御すべき基本成分であるが、上記した基本成分に加えてさらに、通常、鋼板中に含まれる、例えばMn、Alを含有してもよい。
Mn:2.0%以下
Mnは、Sと結合しMnSを形成し、Sによる熱間脆性等の悪影響を防止する作用を有する。Mnは0%でもよいが、このような効果を得るためには、0.1%以上含有することが望ましい。また、Mnは、鋼板強度を増加させる作用を有し、所望の強度に応じて、含有させることが好ましい。一方、2.0%を超える含有は、加工性が低下する。このため、含有する場合には、Mnは2.0%以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは1.0%以下である。なお、Mnが2.0%以下の範囲であれば、スケール生成への影響は少ない。
【0023】
Al:0.10%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素である。Alは0%であってもよいが、このような効果を得るためには0.01%以上含有することが望ましい。一方、0.10%を超えて含有すると、酸化物系介在物が増加し、清浄度が低下する。このため、含有する場合には、Alは0.10%以下に限定することが好ましい。より好ましくは、0.06%以下である。なお、Alが0.10%以下の範囲であれば、スケールの生成に影響は少ない。
【0024】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
本発明熱延鋼板の表層に形成されるスケール層は、面積率で0.10〜3.0%の空孔を含み、厚さ:10μm以下である。
スケール層の厚さが、10μmを超えて厚くなると、加工時にスケール層に歪が蓄積しやすく、密着性が低下する。このため、熱延鋼板表面に形成するスケール厚を10μm以下に限定した。なお、好ましくは5μm以下である。一方、スケール層厚さが薄すぎると、巻き取り時、スケール/地鉄界面近傍でのスケール共析変態が生じにくくなり、スケール密着性改善効果が期待できなくなる。なお、好ましくは2μm以上である。
【0025】
スケール層は、面積率で0.10〜3.0%の空孔を含む。スケール層中に含まれる空孔は、加工時にスケール層に付加される加工歪を緩衝する作用を有する。この空孔の緩衝作用により、スケール層中の亀裂の発生が抑制され、さらに発生した亀裂の連結が抑制され、スケール剥離が防止される。このような効果を得るためには、面積率で0.10%以上の空孔含有を必要とする。一方、3.0%を超える空孔含有は、空孔を介して亀裂が連結し、スケール剥離を促進することになる。このようなことから、スケール層中の空孔含有量は0.10〜3.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.5〜1.5%である。
【0026】
また、スケール層は、面積率で50%以上のFeOを主相とし、残部はFeおよび不可避的に生成するFeOからなるスケール組成(以下、スケール組織ともいう)を有する。
スケール密着性は、高温で生成したFeOが、FeOとFeに変態(共析変態)することにより向上する。このため、密着性に優れたスケール層は、FeO が存在しないことが重要であり、50%以上のFeOと、残部は変態で生成したFeと、あるいはさらに、不可避的に生成するFeOとからなる組成とする。なお、不可避的に生成するFeOは、面積率で0〜10%である。
【0027】
つぎに、本発明熱延鋼板の製造方法について説明する。
上記した組成の鋼素材を、加熱し、仕上圧延を含む熱間圧延を施し熱延板とする。鋼素材の製造方法は、とくに限定する必要はなく、常用の方法がいずれも適用できる。例えば、上記した組成を有する溶鋼を、転炉等で溶製し、連続鋳造法等の鋳造方法によりスラブ等の鋼素材とすることが好ましい。なお、造塊−分塊方法を用いてもなんら問題はない。
【0028】
鋼素材を、まず、好ましくは1000〜1250℃に加熱する。
加熱温度が1000℃未満では、変形抵抗が高くなり、圧延機への負荷が増大し、熱間圧延が困難となる場合がある。一方、1250℃を超えて高温となると、発生するスケール量が増大し、歩留り低下が著しくなる。
加熱された鋼素材は、粗圧延を施され、シートバーとされる。粗圧延では所定寸法のシートバーとすることができればよく、粗圧延の条件はとくに限定する必要はない。
【0029】
粗圧延終了後、シートバーに、さらに仕上圧延を施す。なお、仕上圧延の入り側での鋼板温度(鋼板の表面温度)は、800〜1000℃とすることが好ましい。また、仕上圧延は、仕上圧延前に仕上圧延機の入り側で高圧水等によるデスケーリングにより、シートバー表面に生成したスケールを完全に除去したのち、行うことが好ましい。
本発明では、仕上圧延中に、すなわち、仕上圧延機内で、圧延中の熱延板を水蒸気を含む酸化性雰囲気に晒し、熱延板表面に、所望量の空孔を含むスケールを生成させる酸化処理を施す。ここでいう水蒸気を含む酸化性雰囲気とは、露点:50℃以上、好ましくは70℃以上の雰囲気をいう。このような雰囲気に、熱延板を1.0〜10s間保持する。保持時間が1.0s未満では、空孔を含むスケールの生成が不十分であり、一方、10sを超えて保持すると、生成する空孔量が多すぎてスケール密着性が低下する。このため、酸化処理は、露点:50℃以上の雰囲気、保持時間:1.0〜10s間に限定する処理とした。なお、露点:50℃以上の雰囲気は、仕上圧延途中で仕上圧延機内で、水を噴霧するか、熱延板表面に接した水を水蒸気化することで、形成することができる。
【0030】
また、仕上圧延の圧延終了温度は、700〜900℃とする。仕上圧延終了温度が、700℃未満と低い場合には、FeOを生成することなく、FeOやFeOが生成するか、あるいはFeOを生成する場合でも、生成するスケール厚が薄くなる。このため、巻取り後のスケール変態は、変態しやすい表層から変態し、地鉄界面からの変態が抑制され、所望の定着性に優れたスケール層組織を確保できなくなる。一方、仕上圧延終了温度が900℃を超える高温となると、スケールの生成量が増加し、スケール厚が増加してスケール密着性が低下する。
【0031】
仕上圧延終了後、熱延板は、冷却され、巻取温度:450〜650℃でコイル状に巻き取られる。
仕上圧延終了後の冷却は、30℃/s以下の冷却速度とすることが好ましい。冷却速度が30℃/sを超えて速くなると、熱収縮によりスケールに亀裂が発生しやすく、スケール密着性が低下する。なお、ここでいう「冷却速度」は、表面温度で、仕上圧延終了温度〜650℃までの平均冷却速度とする。なお、好ましくは10〜20℃/sである。
【0032】
巻取り後、スケール−地鉄界面近傍のスケールを、地鉄側から共析変態させることにより、スケール密着性が改善される。巻取温度が650℃を超えて高温となると、スケールの変態が変態しやすい表面側からのみ進行し、地鉄側からの変態が開始する前に、完了してしまう。一方、巻取温度が450℃未満と低い場合には、スケールの変態自体が抑制される。このため、巻取温度は450〜650℃の範囲に限定した。なお、好ましくは600℃以下である。
【0033】
なお、巻取り後のコイルは、コイルボックス中に装入するか、コイルに覆いを施し、大気から遮断して、最外周や、エッジ部の酸化を抑制することが好ましい。
【実施例】
【0034】
表1に示す組成の溶鋼を溶製し、鋳造して鋼素材とした。これら鋼素材を、窒素雰囲気中で1050〜1250℃に加熱し、表2に示す仕上圧延(熱間圧延)条件で、7パス圧延を施して、板厚:2mmの熱延板とした。なお、仕上圧延は、圧延の途中で、熱延板を、表2に示す条件で露点を制御したチャンバー内に保持しながら行った。仕上圧延終了後、熱延板を、気水ノズルを用いた噴霧中で巻取相当温度まで冷却した。なお、冷却速度は、仕上圧延終了温度〜650℃までの平均の冷却速度として、表2に示す。
【0035】
冷却終了後、熱延板は、巻取相当温度に保持した炉に装入され、炉冷する巻取模擬処理を施された。
得られた熱延板(熱延鋼板)から、試験片を採取して、板厚方向断面を研磨し、走査型電子顕微鏡(倍率:1000倍)を用いて、スケール組織を観察し、長さ:100μmにわたり、スケール層の反射電子像を撮影した。得られた組織写真を用い、画像処理により、スケールの平均厚さ、空孔面積率を求めた。また、反射電子像のコントラストの相違により、スケール組成を推定し、各スケール相の面積率を、画像処理により求めた。なお、スケール組成については、X線回折法でも測定し確認している。
【0036】
また、得られた熱延板(熱延鋼板)から、曲げ試験片(大きさ:70×200mm)を採取し、JIS Z 2248の規定に準拠して、半径:4mmのポンチを用いてU曲げ加工を行ったのち、テープ剥離試験を実施し、スケールの密着性を評価した。テープ剥離試験は、U曲げ加工部にセロハンテープを貼り付けたのち、剥離し、テープに付着したスケール(剥離スケール)の面積率で評価した。
【0037】
得られた結果を表3に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
本発明例はいずれも、スケール層が、0.10〜3.0%の空孔を含み、厚さ:10μm以下で、かつ面積率で50%以上のFeOと、0〜2%の不可避的に生成したFeOと残部Feからなる組成を有し、剥離スケールが面積率で10%以下と、スケール密着性が向上している。本発明の範囲を外れる比較例は、スケール密着性が低下している。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にスケール層を有する熱延鋼板であって、前記鋼板が、質量%で、
C:0.3%以下、 Si:0.1%以下、
Mn:2.0%以下、 P:0.05%以下、
S:0.02%以下、 Al:0.10%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
前記スケール層が、面積率で0.10〜3.0%の空孔を含み、厚さ:10μm以下であることを特徴とするスケール密着性に優れた熱延鋼板。
【請求項2】
前記スケール層が、面積率で50%以上のFeOを主相とし、0〜10%のFeOを含み、残部Feであるスケール組成を有することを特徴とする請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項3】
鋼素材を、加熱し仕上圧延を含む熱間圧延を施し熱延板とする熱延鋼板の製造方法において、
前記鋼素材を、質量%で、
C:0.3%以下、 Si:0.1%以下、
Mn:2.0%以下、 P:0.05%以下、
S:0.02%以下、 Al:0.10%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、
前記仕上圧延を、仕上圧延機内で露点:50℃以上である雰囲気中に1.0〜10s間保持する酸化処理を含み、仕上圧延終了温度:700〜900℃とする圧延とし、
該仕上圧延終了後、冷却し、巻取温度:450〜650℃で巻き取ることを特徴とするスケール密着性に優れた熱延鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記冷却が、平均冷却速度:30℃/s以下の冷却であることを特徴とする請求項3に記載の熱延鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−162778(P2012−162778A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25168(P2011−25168)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】