説明

スタッドレスタイヤトレッド用ゴム組成物

【課題】NR及びBRを主体とした、氷雪路上の制動性能に優れたスタッドレスタイヤのトレッド用として有用なゴム組成物の提供。
【解決手段】固形状の天然ゴム又は固形状天然ゴムの比率が50重量%以上の固形状天然ゴムとその他のジエン系ゴムとを含む、ゴム分50重量部未満に、最終的なゴム組成物中に配合される合計フィラー量の60重量%以上のフィラーをマスターバッチ作製の段階で配合したマスターバッチと、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム及びポリイソプレンゴムから選ばれる少なくとも一種のゴムであって、ポリブタジエンゴムを前記マスターバッチ中のポリブタジエンゴム(存在する場合)との合計量で50重量部より多い量で含むゴムを混練することによって得られるスタッドレスタイヤトレッド用ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスタッドレスタイヤトレッド用ゴム組成物に関し、更に詳しくは本発明は特に氷雪路上性能を向上させたスタッドレスタイヤのキャップトレッドに用いられるタイヤトレッド用ゴム組成物及びそれを用いた空気入りスタッドレスタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの氷雪路上走行用としてスパイクタイヤの使用やタイヤへのチェーン装着が行われてきたが、これらは粉塵発生という環境問題をひき起すため、これらに代る氷雪路上走行用タイヤとしてスタッドレスタイヤが開発されてきた。スタッドレスタイヤは、一般に凍結路面では一般路面での摩擦係数の1/10程度まで低下して滑りやすくなっているため、タイヤの摩擦力を高くするよう材料面及び設計面から工夫がなされている。材料面からいえば低温でも硬くなりにくい低温特性の良好なゴムが開発されたり、ゴム中に気泡を持たせることで摩擦力改善が行われてきたが(特許文献1及び2参照)、スタッドレスタイヤの氷雪路上性能は未だ十分とはいえないのが現状である。
【0003】
【特許文献1】特開2001−040139号公報
【特許文献2】特開2004−107482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は氷雪路上性能を向上させたスタッドレスタイヤのキャップトレッドに用いるのに適したスタッドレスタイヤトレッド用ゴム組成物並びにそれを用いたスタッドレスタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に従えば、固形状の天然ゴム又は固形状天然ゴムの比率が50重量%以上の固形状天然ゴムとその他のジエン系ゴムとを含む、ゴム分50重量部未満に、最終的なゴム組成物中に配合される合計フィラー量の60重量%以上のフィラーをマスターバッチ作製の段階で配合したマスターバッチと、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム及びポリイソプレンゴムから選ばれる少なくとも一種のゴムであって、ポリブタジエンゴムを前記マスターバッチ中のポリブタジエンゴム(存在する場合)との合計量で50重量部より多い量で含むゴムを混練することによって得られるスタッドレスタイヤトレッド用ゴム組成物並びにそれを用いたスタッドレスタイヤが提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、予め固形状の天然ゴム(NR)(即ち、ラテックス状のNRは含まない)又はそのNRを主体としたゴムにカーボンブラック等のフィラーを配合したマスターバッチと、ポリブタジエンゴム(BR)又はBRを主体としたゴムとを混合することにより得られるゴム組成物をタイヤトレッドに用いることにより高い硬度を維持しつつタイヤの氷雪路上の制動性能が著しく向上する。なおタイヤの硬度が高いと非氷雪路での操縦安定性に優れるので好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決すべく研究を進めた結果、予め固形状NR又は固形状NRを主体とする他のゴムとのブレンドとカーボンブラック等のフィラーを混練したマスターバッチと、BRを主体とした新たな別のゴムとを混合することにより、高硬度でありながらも氷上摩擦力が向上したゴム組成物を得ることに成功した。
【0008】
即ち、本発明によれば、予めNR又はそれを主体とするブレンドゴムとカーボンブラック等のフィラーを混合して得たマスターバッチと、BRを主体とする新たな別のゴムを混合することにより、氷雪路上制動性能が向上したゴム組成物が、得られる。
【0009】
本発明に係るゴム組成物は、配合としては少なくとも固形状天然ゴム及びポリブタジエンゴムからなる。本発明によれば先ず固形状天然ゴムの比率が50重量%以上、好ましくは70重量%以上となるゴム成分に対して、最終的なゴム組成物中に配合されるカーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム等の総フィラー量のうちの60重量%以上、好ましくは80重量%以上のフィラーを配合してマスターバッチを作製し(その他のオイルや加工助剤等を配合して混練してもよい)、このマスターバッチと、ポリブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリイソプレンゴム(IR)から選ばれる少なくとも一種のゴム(好ましくはポリブタジエンゴム)で、組成物中のゴムの合計量が100重量部となる量のジエン系ゴムであって、BRの合計量が最終的なゴム組成物中の合計BR量が50重量部より多い量、好ましくは60重量部以上となる量で混練することによって、そして最終的に加硫系を配合することによって得ることができる。第一工程で配合する天然ゴムの配合量が少ないとゴムの強度を確保するために第二工程で天然ゴムを配合することになり、その場合非補強のBR相が得難いので好ましくなく、またポリブタジエンゴムの合計配合量が少ないと、低温でのしなやかさに欠けるので好ましくない。フィラーのマスターバッチへの配合量が少ないとゴムの強度を確保するために第2工程でフィラーを多く配合することになり、その場合、非補強のBR相が得難いので好ましくない。なお、第2工程でもその他、オイルや加工助剤、フィラーなどを混練してもよい。
【0010】
本発明において第2工程でマスターバッチと混合するゴムは全ゴム成分量の50重量%超、好ましくは60重量%以上のBRであるのが、低温でのしなやかさを得るために好ましい。
【0011】
本発明によれば全ゴム成分100重量部に対し、熱膨張性マイクロカプセルを、ウェットオンアイスでの排水性を得るという観点から、好ましくは1〜15重量部、更に好ましくは3〜10重量部更に配合するのが好ましい。熱膨張性マイクロカプセルとしては例えばスウェーデンのEXPANCEL社より商品名「エクスパンセル091DU−80」または「エクスパンセル092DU−120」等として、あるいは松本油脂製薬社より商品名「マツモトマイクロスフェアーF−85」または「マツモトマイクロスフェアーF−100」等として一般に市販されているものを用いることができる。
【0012】
本発明によれば、全ゴム成分100重量部に対し、膨張黒鉛を、必要に応じ前記熱膨張性マイクロカプセルと共に、ウェットオンアイスでの排水性を得るという観点から、好ましくは1〜10重量部、更に好ましくは3〜8重量部配合することができる。膨張黒鉛としてはUCAR Graphtech社製の「グラフガード160−50」「グラフガード160−80」「グラフガード160−50N」などを用いることができる。
【0013】
本発明に係るゴム組成物には、前記した成分に加えて、その他の補強剤(フィラー)、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他のゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。また本発明のゴム組成物は従来のスタッドレスタイヤ製造工程にそのままタイヤトレッド用ゴム組成物として使用することができる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0015】
実施例1〜6及び比較例1〜3
サンプルの調製
表Iに示す配合において、先ず第1工程の配合成分を1.7リットルの密閉型ミキサーで5分間混練し、マスターバッチを得た。このマスターバッチに表Iの第2工程の配合成分を第1工程と同じ手法で3分間混練し、更に表Iの第3工程の加硫促進剤と硫黄をオープンロールで混練し、ゴム組成物を得た。
【0016】
次に得られたゴム組成物を15×15×0.2cmの金型中で175℃で10分間加硫して加硫ゴムシートを調製し、以下に示す試験法で加硫ゴムの物性を測定した。結果は表Iに示す。
【0017】
ゴム物性評価試験法
硬度
JIS K6253に準拠して、0℃及び20℃の硬度をそれぞれ測定し、表Iに示した。
【0018】
氷上摩擦係数(Ice μ)(インサイドドラム試験)
各組成物を加硫して得たシートを偏平円柱状の台ゴムに貼り付け、インサイドドラム型氷上摩擦試験機にて、測定温度−3.0℃及び−1.5℃で、荷重5.5kg/cm2(約0.54MPa)及びドラム回転速度25km/hで氷上摩擦係数を測定した。結果は、比較例1の値を100として指数表示した。この数値は大きいほど、スキッド抵抗性が優れていることを示す。
【0019】
【表1】

【0020】
表I脚注
*1:NR:固形状天然ゴム(RSS#3)
*2:BR:日本ゼオン製「Nipol BR1220」
*3:可塑剤:富士興産製アロマオイル
*4:CB:東海カーボン製「N234」
*5:可塑剤:富士興産製アロマオイル
*6:酸化亜鉛:正同化学工業製酸化亜鉛3種
*7:ステアリン酸:日本油脂製ビーズステアリン酸
*8:老化防止剤:フレキシス製「6PPD」
*9:硫黄:鶴見化学工業製「金華印油入微粉硫黄」
*10:加硫促進剤:大内新興化学工業製「ノクセラーCZ−G」
*11:熱膨張性マイクロカプセル:松本油脂製薬製「マツモトマイクロスフェアーF100」
*12:膨張黒鉛:UCAR Graphtech製「グラフガード160−50N」
【0021】
表Iの結果から明らかなように、従来の標準的な配合である比較例1に対し、比較例2は第2工程で投入するカーボンブラックの量が多く、非補強のBR相を形成できないので、良好な結果が得られず、比較例3は第2工程で投入するBRの比率が小さく、非補強のBR相を多く形成できないので良好な結果が得られない。これに対し、本発明に従った実施例1〜6は、それぞれ、対応する比較例1〜3に比べて優れた氷雪路上性能を示し、かつ高い硬度を示している。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上の通り、予め固形状NR(又はそれを主体とするジエン系ゴムとのブレンド)にカーボンブラック等のフィラーが混ぜ合わされたマスターバッチと、新たな別のゴムを混合することにより得られるゴム組成物で、氷雪路上制動性能が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形状の天然ゴム又は固形状天然ゴムの比率が50重量%以上の固形状天然ゴムとその他のジエン系ゴムとを含む、ゴム分50重量部未満に、最終的なゴム組成物中に配合される合計フィラー量の60重量%以上のフィラーをマスターバッチ作製の段階で配合したマスターバッチと、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム及びポリイソプレンゴムから選ばれる少なくとも一種のゴムであって、ポリブタジエンゴムを前記マスターバッチ中のポリブタジエンゴム(存在する場合)との合計量で50重量部より多い量で含むゴムを混練することによって得られるスタッドレスタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のマスターバッチと混合するゴムが全ゴム成分量の50重量部より多い量のポリブタジエンゴムである請求項1に記載のスタッドレスタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
全ゴム成分100重量部に対し熱膨張性マイクロカプセル1〜15重量部を更に含む請求項1又は2に記載のスタッドレスタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
全ゴム成分100重量部に対し膨張黒鉛1〜10重量部を更に含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のスタッドレスタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴム組成物をタイヤトレッド部に用いた空気入りスタッドレスタイヤ。

【公開番号】特開2008−106197(P2008−106197A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292613(P2006−292613)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】