説明

スタッド溶接ピン

【課題】内外壁など母材に溶接したスタッドピンを支軸にして、空調設備や機械設備など附帯設備附を取付けるに際し、頑丈で便利なスタッド溶接ピンを提供する。
【解決手段】ピンの軸部に1条乃至複数条の環状溝を形成した導電性の材質からなるピン1と、該ピンの溶接先端部2は外部に露出させて軸部を突起付き筒体のピンカバー4に内在させてカバーしてなる。更に、筒体のピンカバー4が縦軸方向の周側壁において、軸部の環状溝および他に全ネジボルトや拘束部品などと勘合する複数の内向きの突起5’が形成される筒体のピンカバー4である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッド溶接により鉄鋼材の母材面にピンを立設するためのスタッドピンに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、給排水、空調、電気設備工事などにおいて、鉄鋼製の梁、柱、デッキプレートなどの構造材(母材)に、管、ケーブル、空調設備、機械設備など構築物を取付けるために使用されるスタッドピンに関する。
一般に、スタッド溶接には、先打ちと後打ちに大別される。構造材の表面に対し、先ずスタッドピンを立設した後、そこに耐火断熱材、防音材、保温材などの被覆材を懸架する方法が前者である。(特許文献1を参照)。一方、構造材の表面に対し、耐火断熱材、防音材、保温材などの被覆材を巻きつけてその上から固定するためのスタッドピンを立設する、所謂、後打ちスタッド溶接する方法が後者である。(特許文献2を参照)。本発明は、前者の先打ち用のスタッドピンに関する。
【0003】
【特許文献1】特開平8−14233号公報
【特許文献2】特開2000−246444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、鉄鋼製の、梁、柱、デッキプレートなどの構造材に、管、ケーブル、空調設備、機械設備、保護管類などの構築物を取付けるには、それら構築物の外周を拘束するサドルと呼ばれる支持具を用い、構造材にドリルで穿孔したのち、ドリリングタッピンネジを用いて、サドルを構造材に取付けていた。
あるいは、全ネジと呼ばれる雄ネジのネジ棒を所定の長さに切断して、一端をガス溶接やアーク溶接で構造材に固着し、その全ネジに拘束部を備えた支持具を取付けて構築物を固定していた。更には、構造材にドリルで穿孔したのち、雌ネジアンカーを嵌入して、その雌ネジに全ネジを螺入して固定し、その全ネジに拘束部を備えた支持具を取付ける方法があった。
【0005】
特に、デッキプレートなどの肉厚の薄い構造材の場合は、強力な溶接では構造材が耐えられず、しばしば構造材に穴あきと言われる破綻が生じた。この問題の解決方法としては、構造材を貫通させてその裏部に打設されたコンクリート部分に届く孔を開けて、アンカーで固定する方法が採用されてきた。しかし、この方法は防水上好ましくない他、構造材とコンクリートの両者に適合するドリルがないため削孔が難しかった。それよりも、削孔作業でコンクリートに埋設されている目に見えない配管や配線などを破損することが心配であった。
【0006】
いずれにしろ、構造材を削孔したり、全ネジボルトをガス溶接やアーク溶接で固着する方法は、構造材が肉厚で頑丈なものが求められた。また、これらの作業は高所作業が多く、作業者は重い工具類を操作する必要があるため、大きな負担をしいられていた。それ故に、薄い構造材であってもピンを手軽に立設できて重い構築物の固定にも耐えるスタッドピンが要望されていた。
【発明を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる事情と背景に鑑み、鋭意研究の結果なされたものであって、その問題解決とするところは、広範囲において手軽に利用できるスタッド溶接ピンを提供するにある。
即ち、本発明のスタッド溶接ピンとは、ピンと該ピンを囲う筒体のピンカバーで構成される。ピンとは、一端に溶接先端部を形成する軸部からなり、該軸部に1条乃至複数条の環状溝を形成する導電性の材質からなる。そして筒体のピンカバーとは、該ピンの溶接先端部は筒外に露出させて軸部の部分を筒体に内在させて囲ってカバーするものである。
更には、該筒体のピンカバーには、縦軸方向の周側壁に内向きの複数の突起が形成され、該突起が軸部の環状溝および他の全ネジボルトや拘束部品類などと勘合することのできる筒体のピンカバーからなる。
【0008】
本発明のスタッド溶接ピンにあっては、ピンは導電性の材質で成形されるものであって電気抵抗の少ない通電性のよい金属素材から選ばれるものであれば特に限定されない。例えば鉄、銅、ステンレス、アルミおよび真鍮などの材質からなるもの。または、これらの合金材からなるもが挙げられる。
また、成形されるピンの太さや長さは、立設後に該ピンを介して装着したり懸架したり固定する構築物の大きさや重さに応じてそのサイズを決定することで足りる。
【0009】
そして、該ピンの一端に有する溶接先端部は、溶接に適した先端が形成されている。例えば、溶接先端部がナイフ状に尖鋭化されたものや、円心上に垂直に尖った突起を有するものなどが好ましく、特にその形状は限定されない。
更に、該ピンの軸部には1条乃至複数条の環状溝を形成するが、この環状溝は、後述する筒体のピンカバーの突起と勘合するものである。
【0010】
次に、本発明でいう筒体のピンカバーとは、金属材、陶磁材、プラスチック材などの素材から成形されるもので特に限定されないが、前記した通り筒体であれば円筒状や角柱状などその形状は特に限定されない。そして、該筒体のピンカバーは、ピンの溶接先端部を筒外に露出させて、軸部を筒内に内在させるよう囲うカバーである。その筒体のピンカバーには、縦軸方向の周側壁に複数個の内向きの突起が形成されており、その突起の一部が軸部の環状溝の部分と勘合するように形成されている。そして、他の突起の一部が筒体のピンカバー内に挿入され構築物を固定するための全ネジボルトや拘束部品類とも勘合するように形成される。
【0011】
筒体のピンカバーとしては、軽くて成形性が良く強度のあるものが望ましく、例えば、筒体が円筒状の場合は、円筒パイプを目的の長さに切断して、その周側壁に突起を加工成形して得ることもできる。また、筒体が角柱状の場合は、平鉄板を展開図にしたがって切断してから、角柱状に折り曲げ加工成形して得ることもできる。何れにしろ、いわゆるプレス加工やフォミング加工などの加工法で筒体の形状と突起が一連の工法で成形される方法を採用することが望ましい。本発明において筒体のピンカバーの加工法において特に限定されるものでない。
【0012】
ピンは、溶接先端部は筒外に露出させた状態で、上記の筒体のピンカバー内に囲って内在され、ピンの環状溝と筒体のピンカバーの突起とを勘合させた一体にてスタッド溶接ピンを提供する。本発明のスタッド溶接ピンにあっては、スタッド溶接の作業が容易にできて、そして立設した後のピンに強度をもたせる補強機能を付与する機構を備えている。
即ち、ピンの溶接先端部を筒外に露出させた状態で、ピンの軸部に形成する環状溝と筒体のピンカバーの突起とを勘合させて、ピンを筒内に安定して内在させて囲うことができる。故に、溶接先端部において溶接時の給電に対する誤アークの発生がないこと。また、ピンを母材に立設した後は、筒体のピンカバーを母材面に押付けて筒体端面と母材面とを密着させることで、ピンにかかる外的応力に耐える補強をすることができる。
【0013】
以上のように構成される本発明のスタッド溶接ピンの使用に当たっては、ピンカバーから露出する溶接先端部を構造材(母材)に押し当て、ピンカバー内のピンに瞬時の大電流を給電してスタッド溶接ピンの溶接先端部にアークを発生させることで足りる。そしてスタッド溶接ピンの先端が溶融して、その溶融物でもってスタッド溶接ピンを構造材に立設させることができる。給電に際しては、ピンに溶接ガンを直接当てることや、筒体のピンカバー部内に挿入する給電プラグを介して、さらには筒体のピンカバーに挿入する全ネジボルトなどを介して給電することもできる。
【0014】
本発明のスタッド溶接ピンを母材に立設するに当たっては、直流電源の電源回路に過電流保護回路を備え、ピンと構造材にコンデンサの電荷を放電させたとき、そのときの放電回路の短絡により、直流電源の出力電流をサイリスタの保持電流以下にして、サイリスタをターンオフさせて放電回路が開くようにした、コンデンサ放電式のスタッド溶接装置を使用することで、溶接装置が小型かつ軽量で、携帯可能で、高所での作業であっても作業者の負担は軽く、しかも片手で溶接装置のガンを操作することができる。
【効果】
【0015】
本発明のスタッド溶接ピンは、溶接先端部と軸部が比較的に細い棒状のピンとして一体に成形され、これを筒体のピンカバーで囲って構成されているため、従来のスタッドボルトや全ネジボルトを母材に直接溶接するような大型溶接装置を用いた大電流の溶接は不要である。したがって肉厚の薄い構造材で成形された母材へのスタッド溶接にも、穴あきなどの心配もなくピンが立設できる。また溶接装置が小型且つ軽量となるため、溶接装置の携帯や高所での作業でも作業者の負担は軽く、片手で溶接ガンを操作することができる。
【0016】
さらには、立設されたスタッド溶接ピンを介して空調設備や機械設備などを装着したり懸架したり固定するに際に生ずる曲げやひねりなどの外的応力が発生しても、溶接部分への応力は母材と密着する筒体のピンカバーで補強され、構築物の装着や固定に最適な先打ち溶接のスタッド溶接ピンである。
【発明の実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るスタッド溶接ピンの具体的構成や使用について、詳細に説明する。
先ず、図1および図2は、本発明に従うスタッド溶接ピンの一例を示す。かかる図から明らかなように、本発明のスタッド溶接ピンAは、導電性の材質で成形されるピン1からなり、その一端に円心上より垂直に尖った突起状を形成する溶接先端部2を有し、さらにピン1の軸部に成形した環状溝3とを一体で形成されてなる。そして、該ピン1の溶接先端部2は筒外に露出させて、軸部は内在させる状態で角柱形筒体のピンカバー4でカバーされてなる。
そして、このピンカバー4の縦軸の周側壁には複数個の内向きの突起5、5’が形成されてなる。該突起5はピンカバー4内に装填されたピン1が抜け落ちないように支える突起5で、ピン1の軸部に成形された環状溝3と勘合する。
また、突起5’はピンカバー4内に螺入される全ネジボルトのネジ山に勘合するよう成形された突起である。
【0018】
因みに、図3のスタッド溶接ピンAは、円心上に垂直に尖った突起を有する溶接先端部2を有する長さ10mm、軸径3mmのピン1で、該軸部に2条の環状溝3が成形されたものである。そして、筒体のピンカバー4の周側壁には複数個の内向き突起5、5’が成形され、環状溝3と勘合する突起5および他の全ネジボルトや拘束部品類などと勘合する突起5’がフォミング加工で成形されてなる。
筒体の大きさは、長さ25mm、14mm四辺角柱のピンカバー4に、ピン1の溶接先端部2を露出させた状態でピン1を装填して、スタッド溶接ピンAを得た。このときピン1の環状溝3とピンカバー4の突起5とが一体に勘合されてなる。
【0019】
次に、本発明のスタッド溶接ピンAに、長さ50mmの3/8全ネジボルト6を筒体のピンカバー4に挿入して該ピンカバー4の突起5’に勘合させながらピン1に接触するまで締め込んで螺入したものを得た。このスタッド溶接ピンAの使用手順を、図3の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)に沿って示す。(一部共通の符号は略す)
(イ)スタッド溶接ピンAの溶接先端部2を厚さ0.8mmの母材に押し当て、全ネジボルト6を介してスタッドガンより大電流を通電してスタッド溶接を行った。
(ロ)この結果、本発明のスタッド溶接ピンAにあっては、通電不良もなく、母材面を破綻させることもなくスタッド溶接ピンAを立設することができた。
(ハ)次に、挿入された全ネジボルト6を突起5’に沿って少し巻き戻して、ピン1と全ネジボルト6との間に空間を保持した。
(ニ)次に、全ネジボルト6を筒体のピンカバー4と供に母材B側に押付けて、該ピンカバー4の筒体端面4’と母材Bとを密着させた。尚、全ネジボルト6を筒体のピンカバー4と供に押付けたことで、筒体のピンカバー4の突起5は弾性変形して外れて、ピン1の軸部に成形される別条の環状溝3と勘合した。この結果、ピン1を介して構築物を取付ける際の外的応力が筒体のピンカバー4で補強されることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施態様の一例を示す、スタッド溶接ピンの斜視外観図である。
【図2】図1のスタッド溶接ピンの正面中央縦面図である。
【図3】本発明のスタッド溶接ピンを使用して母材に立設する際の手順を示す説明の一例である。(イ)スタッド溶接ピンに全ネジボルトを挿入して母材に押し当てた状態の図。(ロ)スタッド溶接ピンを母材に溶接した後の状態の図。(ハ)スタッド溶接ピンに挿入した全ネジボルトを一度少し引戻した状態の図。(ニ)全ネジボルトと共に筒体のピンカバーを押付けて、ピンカバーの筒体端面を母材に密着させてピンを補強させた状態の図。
【符号の説明】
【0021】
A・・・スタット溶接ドピン
1・・・ピン
2・・・溶接先端部
3・・・環状溝
4・・・筒体のピンカバー
4’・・筒体端面
5・・・突起
5’・・突起
6・・・全ネジボルト
B・・・構造材(母材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に溶接先端部を形成するピンであって、該ピンの軸部に1条乃至複数条の環状溝を形成された導電性の材質からなるピンと、該ピンの溶接先端部は筒外に露出させて、軸部を突起付きの筒体のピンカバーに内在させて囲うようにして構成してなることを特徴とするスタッド溶接ピン。
【請求項2】
筒体のピンカバーが、縦軸方向の周側壁に、ピンの軸部の環状溝および他に全ネジボルトや拘束部品類などと勘合し得る複数の突起を形成する筒体のピンカバーであることを特徴とする請求項1記載のスタッド溶接ピン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−161838(P2012−161838A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40786(P2011−40786)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(594077367)一文機工株式会社 (17)
【Fターム(参考)】