説明

スタティックミキサの製造方法

【課題】 金型で成形できないような複雑な形状を備えていながら、内容物が詰まりにくいスタティックミキサを低コストで成形できるスタティックミキサの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のスタティックミキサ1の製造方法は、配管に連結可能な外筒体2と、外筒体2に挿入される撹拌子3とを備えたスタティックミキサ1を、レーザ焼結3次元積層造形法を用いて外筒体2と撹拌子3とが一体となるように成形することを特徴とするものである。このレーザ焼結3次元積層造形法は、合成樹脂の微粒子を一定の堆積厚さに堆積し、次に堆積した微粒子の層に対してレーザ16を照射することで微粒子が焼結された焼結層15を形成し、焼結層15を堆積方向に連続して形成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタティックミキサの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スタティックミキサは、駆動力を必要としない静止型の混合撹拌機であり、圧力損失が小さいにも関わらず高い混合効率を実現できるという特徴がある。また、スタティックミキサは、流体を変質させるおそれが少なく、適用できる流体の粘度範囲も非常に広いため、化学、薬品及び食品などの多岐な分野で用いられている。
スタティックミキサは、配管に接続される外筒体と、この外筒体の内側に挿入される撹拌子とを備えており、配管から外筒体の内部に流入した流体を撹拌子により撹拌・混合する構成となっている。
【0003】
例えば特許文献1には、上述のようなスタティックミキサとして、複数のエレメントを外筒体の軸方向に沿って組み合わして成る撹拌子を備えたものが開示されている。撹拌子を構成するこれらのエレメントは、長方形の金属板を螺旋状に捻ったフィンを備えたものであり、フィンで流体を複数の流れに分断しながら螺旋状の表面に沿って旋回させることで高い撹拌効果を発揮できるようになっている。また、エレメントには金属板の捻り方向が右捻りのものと左捻りのものとがあり、撹拌子はこれらのエレメントを隣り合うもの同士で捻り方向が異なるように並べて構成されており、エレメント間で流体の旋回方向を変化させることで流体に強い剪断力を付与して良好な撹拌を実現できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−34750号公報(図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のスタティックミキサを合成樹脂で成形する際には、撹拌子が螺旋状に捻られたような複雑な形状となっており、エレメント間でフィンの捻り方向も異なっているため、金型を用いて一度に射出成形することは困難である。
このようなスタティックミキサを成形するには、例えば各エレメントをそれぞれの形状に合わせた金型で個別に成形し、次にこれらのエレメントを軸方向に並べて接合してまず撹拌子を作製し、別に成形していた外筒体の内部に作製された撹拌子を挿入して両者を接合するといった複雑な工程が必要とされる。それゆえ、特許文献1のスタティックミキサには、製造工程が複雑で製造コストも高くなりやすいという問題があった。
【0006】
また、射出成形法には、金型の使用を前提とした形状の制限がある。つまり、成形後に金型が抜けなくなる中空形状などは成形自体が不可能である。それゆえ、良好な撹拌作用が期待できても、金型を用いて成形ができる形状でなければ、撹拌子としては採用できないという問題があった。
さらに、エレメント同士を接合して撹拌子を形成したり、このようにして形成された撹拌子を外筒体の内周面に接合してスタティックミキサを形成したりすると、これらの接合箇所で流体が滞留しやすくなり、内容物が接合箇所に詰まる虞がある。例えば固形物を含むことの多い食品原料などを特許文献1のスタティックミキサに通すと、溶接箇所で固形物が詰まりやすくなる。このような固形物は、通常はCIP(cleaning in place)洗浄を行って取り除けるが、溶接箇所に詰まった固形物はCIP洗浄でも簡単に取り除くことができない場合がある。
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、金型で成形できないような複雑な形状を備えていながら、内容物が詰まりにくいスタティックミキサを低コストで成形できるスタティックミキサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は次の技術的手段を講じている。
即ち、本発明のスタティックミキサの製造方法は、配管に連結可能な外筒体と、該外筒体に挿入される撹拌子とを備えたスタティックミキサに対して、レーザ焼結3次元積層造形法を用いて前記外筒体と撹拌子とを一体に成形することを特徴とするものである。
具体的には、前記レーザ焼結3次元積層造形法(Selective Laser Sintering)は、合成樹脂の微粒子を一定の堆積厚さに堆積し、次に前記堆積した微粒子の層に対してレーザを照射することで前記微粒子が焼結された焼結層を形成し、前記焼結層を堆積方向に連続して形成するものである。
【0009】
発明者は、上述の問題は全て金型を用いている点に起因しているため、このような問題を根本的に解消するためには金型を用いずにスタティックミキサを製造する他ないと考えた。そして、レーザを用いて複雑な形状に成形することのできるレーザ焼結3次元積層造形法を用いることにより、これらの問題を一挙に解決できることを知見して本発明を完成させたのである。
すなわち、レーザ焼結3次元積層造形法を用いれば金型を用いなくてもスタティックミキサを一体物として成形でき、予め金型を抜き取る場合を想定しなくても良いため金型を用いて成形できないような複雑な形状にも一度で成形することもできる。また、成形後に外筒体と撹拌子とを接合する必要がないので、溶接箇所に流体の内容物が詰まる虞もなく、製造コストの低減も可能となる。
【0010】
なお、このような複雑な形状を備えた前記撹拌子としては、前記外筒体の軸方向に沿ってねじられたフィンを備えたエレメントや、前記軸方向に対して流れる流体を複数に分割する仕切りを備えたエレメントを、前記軸方向に複数有したものが挙げられる。
このようなねじれたフィンや仕切りを備えた複雑な形状のエレメントを有する撹拌子であっても、レーザ焼結3次元積層造形法を用いれば撹拌子の成形に合わせてフィンや仕切りを一度に且つ容易に成形することができる。
また、前記合成樹脂の微粒子には、平均粒径が10〜100μm、好ましくは平均粒径が40〜70μmに粒度調整されたポリプロピレンの球状粒子を用いることができる。
【0011】
通常レーザ焼結三次元積層造形法に用いられることの多いナイロンに代えてポリプロピレンを用いることで、耐薬品性や耐熱性に優れたスタティックミキサを得ることができるからである。
さらに、前記合成樹脂の微粒子には、フィラーが含まれた及び/又はコーティングが施されたものを用いることもできる。
例えば、金属粒子、カーボン粉末、カーボンナノチューブ、フェライトなどのフィラーを合成樹脂の微粒子に含めることで、スタティックミキサに強度、導電性(耐静電気性)、吸着性(脱臭性)、磁性などの機能を付与することが可能になる。また、合成樹脂の微粒子にテフロン(登録商標)などがコーティングされたものを用いることで、スタティックミキサに耐薬品性、耐磨耗性などの化学的特性や物理的特性を付与することも可能である。例えば金属粉末を合成樹脂でコーティングした粉末を用いて造形した後に、高温に加熱して樹脂を除けば、金属製のスタティックミキサを造ることも可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスタティックミキサの製造方法によれば、金型で成形できないような複雑な形状を備えていながら、内容物が詰まりにくいスタティックミキサを低コストで成形できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の製造方法で製造されるスタティックミキサの斜視図である。
【図2】本発明の製造方法の工程を示す説明図である。
【図3】本発明の製造方法で製造可能なその他の形状のスタティックミキサの斜視図である。
【図4】本発明の製造方法で製造可能なその他の形状のスタティックミキサの斜視図である。
【図5】本発明の製造方法で製造可能なその他の形状のスタティックミキサの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るスタティックミキサ1の製造方法を図面に基づき説明する。
まず、本発明の製造方法で製造されるスタティックミキサ1について説明する。
図1に示されるように、スタティックミキサ1は、軸方向に円筒状に形成された外筒体2とこの外筒体2に挿入される撹拌子3とを一体に備えている。
なお、以下の説明において、図1の紙面のほぼ左右に向かう方向(外筒体2の軸心Rに沿った方向)をスタティックミキサ1を説明する際の軸方向とする。また、図1において外筒体2の軸心Rから離れる方向をスタティックミキサ1を説明する際の径外側又は外周側と、また外筒体2の軸心Rに近づく方向を径内側又は内周側という。
【0015】
外筒体2は、合成樹脂で円筒状に形成されている。外筒体2の両端にはそれぞれ図示しない配管が接続されており、外筒体2内へ流体を流入させたり外筒体2から流出させたりできるようになっている。外筒体2の内部には撹拌子3が外筒体2の内周面に外縁を連結するように一体に形成されており、外筒体2の内部に流れ込んだ流体をその外形に沿って撹拌しながら上流側(図1の左側)から下流側(図1の右側)に向かって流動できるようになっている。
撹拌子3は、軸方向に沿って直線状に接続された複数のエレメント4が互いに一体に繋がって形成されている。
【0016】
エレメント4は、軸方向に沿って延びる4枚のフィン5を備えている。これら4枚のフィン5は、軸心Rから軸垂直方向に向かって起立しており、それぞれが互いに直交するように軸心R回りに十字状に配置されている。また、それぞれのフィン5は、軸方向に移動するにつれて起立方向が360°に亘って軸心Rの回りを一周するように螺旋状に捻られている。
エレメント4のフィン5の捻り方向には上流側から下流側に向かって右ねじ方向に捻られた方向と左ねじ方向に捻られたものとがあり、エレメント4にはフィン5の捻り方向によって右ねじ方向に捻られた右ねじエレメント4Rと左ねじエレメント4Lとの2種類がある。これらの右ねじエレメント4Rと左ねじエレメント4Lとはそれぞれフィン5の上流側の端面と下流側の端面とが外筒体2の軸回りに45°の位相差となる位置関係で軸方向に配備されている。また、右ねじエレメント4Rと左ねじエレメント4Lとは軸方向に沿って例えば右ねじり→左ねじり→右ねじり→左ねじりというように交互に並んで配置されており、これらの右ねじエレメント4Rと左ねじエレメント4Lとが軸方向に一体に繋がったものが撹拌子3とされている。
【0017】
それゆえ、例えば図1に示されるように、配管から外筒体2の内部に流体を流し込むと、最初に流体は右ねじエレメント4Rの周囲を流れる。このとき、右ねじエレメント4Rの4枚のフィン5で流体が4つの流れに分割される。そして、それぞれに分割された流れが右ねじ方向に旋回しながら流動し、流体の撹拌が行われる。
右ねじエレメント4Rで撹拌を終えた流体は、次に左ねじエレメント4Lに流れ込む。このとき、左ねじエレメント4Lのフィン5は、右ねじエレメント4Rのフィン5に対して外筒体2の軸回りに45°の位相差でずれており、右ねじエレメント4Rから流れ出た流体を二分する位置にフィン5が配備されている。それゆえ、右ねじエレメント4Rで4つの流れに分割された流体は左ねじエレメント4Lに入る際にさらに8つの流れに分割される。そして、フィン5に沿って左ねじ方向に旋回しながら流動し、流体の混合・撹拌がさらに進行する。
【0018】
このようにして第1実施形態の撹拌子3では、撹拌子3を構成するそれぞれのエレメント4を流体が通過する度に流体の流れの分割と分割された流体の旋回とを繰り返し、流体を強く混合・撹拌できるようになっている。
ところで、上述のような構成を備えたスタティックミキサ1を製造する場合、従来の製造方法では金型を用いた射出成形で製造する必要があった。このスタティックミキサ1の製造方法は、例えば、各エレメント4をそれぞれの形状に合わせた金型で個別に成形し、次にこれらのエレメント4を軸方向に並べて溶接等で接合し、別の金型で射出成形された外筒体2の内部に挿入して両者を接合するというものであり、複数の工程を組み合わせた複雑なものである。
【0019】
それゆえ、上述のように螺旋状のフィン5を備えたエレメント4が軸方向に繋がったスタティックミキサ1では、金型を用いた射出成形方法では低コストでの成形が困難な場合が多く、また成形後に金型が抜けなくなる虞があるため、成形可能なスタティックミキサ1の形状(構造)も限定されるという問題があった。
そこで、本発明のスタティックミキサ1の製造方法では、レーザ焼結3次元積層造形法を用いてスタティックミキサ1を金型を用いずに外筒体2と撹拌子3とが一体となるように成形している。このレーザ焼結3次元積層造形法は、合成樹脂の微粒子を一定の堆積厚さに堆積し、次に堆積した微粒子の層に対してレーザ16を照射することで微粒子が焼結された焼結層15を形成し、焼結層15を堆積方向に連続して形成するものである。
【0020】
次に、レーザ焼結3次元積層造形法を用いた本発明のスタティックミキサ1の製造方法について説明する。
レーザ焼結3次元積層造形法によりスタティックミキサ1を製造する製造装置6としては、例えばローラやワイパを用いて合成樹脂の微粒子を一定の堆積厚さに堆積するものが知られている。なお、本実施形態では、ローラ7を用いたものを例示して、本発明の装置を説明する。
図2に示されるように、製造装置6は、互いに距離をあけて配備された左右一対のステージ8、9と、左右のステージ8、9の間に昇降自在に配備されたパーツヘッド10とを有している。左右のステージ8、9は、互いの上面が同じ高さになるように配備されており、それぞれの上面にはステージ8、9を上下方向に貫通する貫通孔11が形成されている。これらの貫通孔11には、合成樹脂の微粉末が充填されており、また合成樹脂の微粉末の下側にはピストン形状のフィーダ12が上下方向に昇降自在に配備されている。
【0021】
ステージの上側には、ステージ8、9の上面に外周面が接触可能なローラ7が配備されている。このローラ7は、ステージ8、9の上面を転動しながら水平に移動可能になっており、左右のステージ8、9間を往来できるようになっている。
パーツヘッド10の上方には、炭酸ガスレーザ16のレーザガン13と、パーツヘッド10の上面に堆積した微粉末に対してレーザガン13で発生したレーザ16を照射する照射ミラー14とが配備されている。照射ミラー14は図示しない制御装置からの制御信号に基づいて、パーツヘッド10の上面に堆積した微粉末のうち任意部分の微粉末のみを焼結して焼結層15を形成することができるようになっており、例えばCADの断面形状データに従って制御装置から制御信号を照射ミラー14に送って断面形状データの通りの形状に焼結層15を形成できるようになっている。
【0022】
上述の製造装置6を用いてスタティックミキサ1を製造する際は、以下の製造工程に従って製造する。
すなわち、左ステージ8の貫通孔11のフィーダ12を上方に向かって移動させると、フィーダ12の上側に載せられた合成樹脂の微粉末がせり上がり、左ステージ8の上面に微粉末が山盛り状に供給される。
次に、図2(a)に示されるように、ローラ7を転動させながら左ステージ8から右ステージ9に向かって水平に移動させる。そうすると、左ステージ8の上面に山盛り状に供給された微粉末がローラ7に均されてパーツヘッド10の上面に広がり、パーツヘッド10の上面に微粉末が均一な厚さ(0.1μmから0.2μmの厚み)で堆積する。
【0023】
図2(b)に示されるように、レーザガン13で発生したレーザ16を照射ミラー14に導き、スタティックミキサ1の断面形状データに従って制御装置から制御信号を照射ミラー14に送って照射ミラー14を動かしながら微粉末を焼結する。そうすると、パーツヘッド10の上面に堆積された微粉末のうちスタティックミキサ1の断面形状に沿った部分だけにレーザ16が照射され、レーザ16の照射部分に焼結層15が形成される。
図2(c)に示されるように、レーザ16の照射が終了した後は、パーツヘッド10を堆積層17の厚みの分だけ下降させる。そして、右ステージ9の貫通孔11のフィーダ12を上方に向かって移動させると、フィーダ12の上側に載せられた合成樹脂の微粉末がせり上がり、右ステージ9の上面に微粉末が山盛り状に供給される。
【0024】
図2(d)に示されるように、ローラ7を転動させながら右ステージ9から左ステージ8に向かって水平に移動させる。そうすると、右ステージ9の上面に山盛り状に供給された微粉末がローラ7に均されてパーツヘッド10の上面に広がり、焼成が終了した堆積層17の上面にパーツヘッド10の下降距離の厚み分だけ微粉末が堆積する。
図2(e)に示されるように、焼成が終了した堆積層17の上面にさらに堆積した堆積層17に対して図2(b)の場合と同様にレーザ16を照射し微粉末の焼成を行う。
図2(f)に示されるように、上述の図2(a)〜図2(e)までの手順を断面形状データの数(断面スライス数)だけ繰り返す。焼成が終了すると、未焼成の微粉末をエアーなどで飛ばして、適宜洗浄等を行うことでスタティックミキサ1が得られる。
【0025】
上述の製造方法では、外筒体2の内部に撹拌子3が挿入された状態でのスタティックミキサ1の断面形状データに基づいてレーザ16を照射すれば、複雑な形状を備えた撹拌子3の成形だけでなく撹拌子3の外側に外筒体2をも一体に成形することができ、撹拌子3と外筒体2とを接合する工程を省いてスタティックミキサ1を一度に成形することができる。また、堆積方向にレーザ16の照射部分を軸回りに旋回状にずらしていけば、焼結層15が軸回りに螺旋状に繋がって捻れたフィン5を備えたエレメント4も容易に成形することができる。さらに、照射部分の旋回方向を変化させれば右ねじエレメント4Rと左ねじエレメント4Lとを軸方向に交互に繋げて成形することも可能となる。
【0026】
上述の製造工程で用いられる微粒子は、熱可塑性樹脂であればどのような樹脂でも用いても良いが、汎用樹脂の中でも特に強度に優れるポリプロピレンの微粒子やナイロンの微粒子が用いるのが好ましく、これらの中でも特に耐薬品性に優れるポリプロピレンの微粒子を用いるのが良い。このようにポリプロピレンやナイロンの微粒子を用いれば、耐薬品性や強度に優れるスタティックミキサ1を得ることができるからである。
このような合成樹脂の微粒子としては、平均粒径が10〜100μmに粒度調整されたものまでを所定量混合して、粒子平均粒径が10〜100μm、好ましくは平均粒径が40〜70μmになるように粒度調整されたものを用いるのが好ましい。このように粒度が揃った微粒子を用いれば、微粒子の流動性が向上してローラ7やワイパで均しやすくなり、レーザ焼結3次元積層造形法において厚みが揃った堆積層17を形成するのが容易になるからである。なお、合成樹脂の微粒子には、目的とするスタティックミキサ1の特性に応じて平均粒子径が10μmに満たない粒子や平均粒子径が100μmを超える粒子を用いることもできる。
【0027】
微粒子は、粒子形状が球状とされているのが好ましく、粉砕法や懸濁重合法を用いて形成されたものでは粒子形状が球状になりにくいので、混練機を用いた混練分散法(溶融混練法)で製造されるのが好ましい。混練分散法は、ポリプロピレンやナイロンと相溶性のない熱可塑性樹脂(例えばポリエチレンオキサイドのような水溶性の熱可塑性樹脂)を混練機内に供給し、この熱可塑性樹脂の分散媒中に溶融した粒子状にしたい樹脂を押し出す。そして、混練機により分散媒中にポリプロピレンやナイロンを粒子状に分散させ、冷却後に分散媒だけを水に溶かすなどして取り除くことで微粒子を製造するものである。
【0028】
このような混練分散法で製造されたポリプロピレンやナイロンの微粒子は、円形度が0.7以上の粒子形状になりやすく、レーザ焼結3次元積層造形法において厚みが揃った堆積層17を形成するのに適している。
微粒子には、金属粒子、カーボン粉末、カーボンナノチューブ、フェライトなどのフィラーを含有させることもできる。このようなフィラーを加えれば、母剤である合成樹脂で発揮できる機能に加えてさまざまな機能をスタティックミキサ1に付与することができる。
【0029】
例えばフィラーとしてカーボン粉末を加えれば、スタティックミキサ1に導電性を付与することができる。このようにすれば、静電気の帯電を防止できるスタティックミキサ1や電極を備えたスタティックミキサ1として用いることも可能となる。また、フィラーとしてカーボンナノチューブを加えれば、スタティックミキサ1に半導体特性や吸着特性を付与することもできる。さらに、フィラーとしてフェライトを加えることで、スタティックミキサ1に磁性を付与することもできる。
さらに、合成樹脂の微粒子としては、上述した樹脂のみから形成された粒子だけでなく、合成樹脂の表面にコーティングが行われているものや金属粉末の粒子核の周囲に合成樹脂がコーティングされたものを用いることもできる。例えば、テフロン(登録商標)などが被覆された合成樹脂の微粒子を用いてスタティックミキサ1に耐摩耗性を付与したり、金属粉末の表面に合成樹脂がコーティングされたものを用いて造形し、造形物から合成樹脂だけを燃焼させて取り除くなどして金属製のスタティックミキサ1を造ったりすることも可能である。
【0030】
なお、レーザ焼結3次元積層造形法を用いた本発明のスタティックミキサ1の製造方法は、例えば以下のような形状を備えたスタティックミキサ1を製造する場合に特に有利である。
例えば、図3に示されるスタティックミキサ1の場合、軸方向に沿った軸回りにさまざまなピッチで捻られた複数種のフィン5a、5b、5cを径方向や軸方向に組み合わせた撹拌子3を有しているため、金型を用いた射出成形ではフィン5a〜5cを種類ごとに成形を行う必要があり、より複数の工程が必要となるので、低コストでスタティックミキサ1を成形することは極めて困難である。しかしながら、本発明の製造方法であれば、複数種のフィン5a〜5cをすでに接合された状態で一度に成形できるため、このような複雑な構造を備えたスタティックミキサ1であっても低コストで成形することができる。
【0031】
また、図4に示されるスタティックミキサ1の場合も、金型を用いた射出成形では低コストでスタティックミキサ1を成形することは極めて困難である。このスタティックミキサ1は、軸方向に沿って形成された開口部18を外周面に複数備えた内筒体19の内側に、有底円筒状(椀状)に形成された仕切り20を複数備えたものである。このように内筒体19や仕切り20で囲まれた内部が中空とされたような形状の場合も、成形後の金型の引き抜きは困難であり、低コストでスタティックミキサ1を成形することは極めて困難である。しかしながら、本発明の製造方法であれば、内筒体19の内側に複数の仕切り20をすでに接合された状態で一度に成形できるので、低コストでスタティックミキサ1を成形することができる。
【0032】
また、図5に示されるスタティックミキサ1の場合には、複数の挿通孔21が形成された仕切り20、プロペラ状の撹拌部材22、及び格子状の仕切部材23が組み合わされてエレメント4を構成し、このエレメント4が軸方向に複数並んで内筒体19の内部に配備されているため、金型を用いた成形は全く不可能である。しかし、本発明の製造方法であれば、複雑な形状を備えた仕切り20、撹拌部材22、及び仕切部材23を個別に成形する必要はなく、これらをすでに接合された状態で一度に成形できるので、このような複雑な形状のスタティックミキサ1であっても、低コストで成形することができる。
【0033】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態では合成樹脂の微粒子として平均粒子径が10μm〜100μmのポリプロピレンやナイロンの球状粒子を例示した。しかし、合成樹脂としては、ナイロン以外のポリアミド系樹脂やPETやPENなどのポリエステル系樹脂に代表される熱可塑性樹脂であれば何を用いても良い。また、合成樹脂の微粒子には、目的とするスタティックミキサ1の特性に応じて平均粒子径が10μmに満たない粒子や平均粒子径が100μmを超える粒子を用いることもできる。
【0034】
上記実施形態では、撹拌子3を外筒体2に一体に備えたスタティックミキサ1を成形する場合を例に挙げて本発明の製造方法を説明した。しかし、例えば撹拌子3を外筒体2の内部に着脱自在に備えたスタティックミキサ1であっても上述の方法で同様に成形することができる。
上記実施形態では、ローラ7で均された堆積層17に対して炭酸ガスレーザ16を照射する製造装置6を例示した。しかし、レーザの種類は炭酸ガスレーザ16に限定されない。例えば半導体レーザや赤外線レーザなどを用いることもできる。また、ローラ7に代えてワイパのような部材を用いて堆積層17を形成することもできる。
【符号の説明】
【0035】
1 スタティックミキサ
2 外筒体
3 撹拌子
4 エレメント
4L 左ねじエレメント
4R 右ねじエレメント
5 フィン
6 製造装置
7 ローラ
8 左ステージ
9 右ステージ
10 パーツヘッド
11 貫通孔
12 フィーダ
13 レーザガン
14 照射ミラー
15 焼結層
16 レーザ(炭酸ガスレーザ)
17 堆積層
18 開口部
19 内筒体
20 仕切り
21 挿通孔
22 撹拌部材
23 仕切部材
R 軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管に連結可能な外筒体と、該外筒体に挿入される撹拌子とを備えたスタティックミキサを、レーザ焼結3次元積層造形法を用いて前記外筒体と撹拌子とが一体となるように成形することを特徴とするスタティックミキサの製造方法。
【請求項2】
前記レーザ焼結3次元積層造形法は、合成樹脂の微粒子を一定の堆積厚さに堆積し、
次に前記堆積した微粒子の層に対してレーザを照射することで前記微粒子が焼結された焼結層を形成し、
前記焼結層を堆積方向に連続して形成するものであることを特徴とする請求項1に記載のスタティックミキサの製造方法。
【請求項3】
前記撹拌子は、前記外筒体の軸方向に沿ってねじられたフィンを備えたエレメントを、前記軸方向に複数有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のスタティックミキサの製造方法。
【請求項4】
前記撹拌子は、前記エレメントに、前記軸方向に対して流れる流体を複数に分割する仕切りを備えたエレメントを、前記軸方向に複数有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスタティックミキサの製造方法。
【請求項5】
前記合成樹脂の微粒子に、平均粒径が10〜100μmに粒度調整されたポリプロピレンの球状粒子を用いることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のスタティックミキサの製造方法。
【請求項6】
前記合成樹脂の微粒子に、平均粒径が40〜70μmに粒度調整されたポリプロピレンの球状粒子を用いることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のスタティックミキサの製造方法。
【請求項7】
前記合成樹脂の微粒子に、フィラーが含まれた及び/又はコーティングが施されたものを用いることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載のスタティックミキサの製造方法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−247348(P2010−247348A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96230(P2009−96230)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(503174969)株式会社アテクト (14)
【Fターム(参考)】