説明

スチルベン誘導体、その製造方法、および電子写真感光体

【課題】 分子内の所定位置に特定の置換基を有することにより、平均分子量が比較的大きい場合であっても、所定溶剤に対して、十分な溶解性を示すことができるとともに、所定の光感度特性を有するスチルベン誘導体、その製造方法、およびスチルベン誘導体を含有した電子写真感光体を提供する。
【解決手段】 一般式(1)で表されるスチルベン誘導体、その製造方法、およびスチルベン誘導体を含有した電子写真感光体であって、特定のホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、特定のテトラリン酸エステル誘導体と、を塩基の存在下に反応させる。
【化1】


(一般式(1)中、4つのR1およびR2は、それぞれ独立した炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基等、4つのR3は、それぞれ水素原子等である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチルベン誘導体、その製造方法、および電子写真感光体に関し、特に、分子内の所定位置に特定の置換基を有することにより、所定溶剤に対して、十分な溶解性を示すことができるとともに、光感度が向上したスチルベン誘導体、その製造方法、およびそのスチルベン誘導体を含有した電子写真感光体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像形成装置等の電子写真感光体として、電荷輸送剤、電荷発生剤、および結着樹脂(バインダー樹脂)等の有機感光体材料からなる有機感光体が使用されている。かかる有機感光体は、従来の無機感光体に比べて、製造が容易であるとともに、感光体材料の選択肢が多様であることから、構造設計の自由度が高いという利点がある。
このような有機感光体材料のうち、高い電荷移動度を有する電荷輸送剤として、下記一般式(28)で表されるスチルベン誘導体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【化1】

【0004】
(一般式(28)中、Arはメチレン基または置換されても良い炭素数6〜20のアリーレン基、Ar1は、置換されても良い炭素数6〜20のアリーレン基、R4は5員環の複素環基、置換されても良い低級アルキル基、アラルキル基、または炭素数6〜14のアリーレン基、R5およびR6は、水素原子、低級アルキル基、または置換されても良い炭素数6〜20のアリール基である。)
【0005】
また、同様に、電荷輸送剤として、下記一般式(29)で表されるスチルベン誘導体も知られており、そのうち、下記式(30)で表されるテトラタイプのスチルベン誘導体が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【化2】

【0007】
(一般式(29)中、R7〜R22はそれぞれ水素原子,アルキル基,置換基Rを有してもよいアリール基のうちのいずれかを表し、A1〜A4はそれぞれ置換基Rを有してもよいアリール基,置換基Rを有してもよいジフェニルアミノフェニル基,置換基Rを有してもよいカルバゾリル基のうちのいずれかを表し、n1は0または1を表す。置換基Rは水素原子,アルキル基,アルコキシ基,アミノ基,シアノ基,ニトロ基,水酸基,ハロゲン原子のうちのいずれかを表す。これらの置換基は、複数置換されてもよく、互いに異なってもよい。)
【0008】
【化3】


【特許文献1】特開平8−283708号(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平9−297412号(特許請求の範囲、段落0013)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されたスチルベン誘導体は、初期的には高い電荷移動度を有するにもかかわらず、結着樹脂との相溶性が乏しく、均一に成膜することが困難であるばかりか、長期間使用した場合に、電荷移動が生じにくくなるという問題が見られた。
また、特許文献2に記載されたスチルベン誘導体、特に、式(30)で表されるテトラタイプのスチルベン誘導体は、平均分子量が大きく、有機溶剤、例えば、ほとんどの樹脂を可溶することができるテトラヒドロフラン(THF)に対しても溶解性に乏しくて、均一な厚さに成膜することが困難であるという問題が見られた。
すなわち、いずれのスチルベン誘導体も、電子写真感光体における電荷輸送剤として使用した場合に、製造が困難であって、感光特性が十分に発揮されないという問題が見られた。
そこで、本発明者らは、スチルベン誘導体において、分子内の所定位置に特定の置換基を有することにより、平均分子量が比較的大きい場合であっても、所定溶剤に対して、十分な溶解性を示すことができるとともに、光感度が向上するという事実を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の目的は、上述した技術的な問題を解決し、電子写真感光体等の電荷輸送剤として好適に用いることのできるスチルベン誘導体、その製造方法、および、所定感度を有する電子写真感光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、下記一般式(1)で表されるスチルベン誘導体が提供され、上述した問題点を解決することができる。
【0011】
【化4】

【0012】
(一般式(1)中、4つのR1およびR2は、それぞれ独立した炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、あるいは置換または非置換のアミノ基であり、4つのR3は、それぞれ水素原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、あるいは置換または非置換のアミノ基である。)
【0013】
また、本発明のスチルベン誘導体を構成するにあたり、一般式(1)中のR1およびR2が、炭素数1〜6の置換または非置換のアルキル基であることが好ましい。
【0014】
また、本発明のスチルベン誘導体を構成するにあたり、一般式(1)中のR3が、水素原子であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の別の態様は、反応式(1)で表されるように、一般式(2)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、式(3)で表されるテトラリン酸エステル誘導体とを、塩基の存在下に反応させて、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体を得ることを特徴とするスチルベン誘導体の製造方法である。
【0016】
【化5】

【0017】
(反応式(1)中、複数のR1およびR2は、それぞれ独立した炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、あるいは置換または非置換のアミノ基であり、複数のR3は、それぞれ水素原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、あるいは置換または非置換のアミノ基である。)
【0018】
また、本発明のスチルベン誘導体の製造方法を実施するにあたり、一般式(2)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体として、下記反応式(2)で表されるように、一般式(4)で表されるアニリン誘導体と、無水酢酸と、を硫酸下に反応させて、一般式(8)で表されるアセチル化アニリン誘導体を得た後、一般式(5)で表されるヨードベンゼン誘導体とを反応させて、一般式(9)で表されるアセチル化ジフェニルアミン化合物を得た後、当該一般式(9)で表されるアセチル化ジフェニルアミン化合物からアセチル基を脱離させて一般式(10)で表されるジフェニルアミン誘導体を得て、さらに式(6)で表されるヨードベンゼンを反応させて、一般式(7)で表されるトリフェニルアミン誘導体を得て、次いで、フィルスマイヤー(Vilsmeier)法によりホルミル化して得られるホルミル化トリフェニルアミン誘導体を使用することが好ましい。
【0019】
【化6】

【0020】
(反応式(2)中の複数のR1、R2およびR3は、それぞれ独立であって、置換基R3が水素原子以外であることを除いて、反応式(1)中の内容と同様である。)
【0021】
また、本発明のスチルベン誘導体の製造方法を実施するにあたり、一般式(2´)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体として、下記反応式(2´)で表されるように、一般式(4)で表されるアニリン誘導体と、式(6)で表されるヨードベンゼンとを反応させて、一般式(7´)で表されるトリフェニルアミン誘導体を得て、次いで、フィルスマイヤー(Vilsmeier)法によりホルミル化して得られるホルミル化トリフェニルアミン誘導体を使用することが好ましい。
【0022】
【化7】

【0023】
(反応式(2´)中の複数のR1およびR2は、それぞれ独立であって、反応式(1)中の内容と同様である。)
【0024】
また、本発明のさらに別の態様は、導電性基体上に感光層を設けた電子写真感光体であって、感光層が、下記一般式(1)で表されるスチルベン誘導体を含有することを特徴とする電子写真感光体である。
【0025】
【化8】

【0026】
(一般式(1)中、4つのR1およびR2は、それぞれ独立した炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、あるいは置換または非置換のアミノ基であり、4つのR3は、それぞれ水素原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、あるいは置換または非置換のアミノ基である。)
【0027】
また、本発明の電子写真感光体を構成するにあたり、感光層が、電荷発生剤および電子輸送剤をさらに含有した単層型であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一般式(1)で表されるスチルベン誘導体は、分子内の所定位置に特定の置換基(R1、R2およびR3)を有することにより、平均分子量が比較的大きい場合であっても、所定溶剤に対して、十分な溶解性を示すことができるとともに、光感度を向上させることができる。したがって、電子写真感光体における電荷輸送剤(正孔輸送剤)として使用することにより、製造が容易であって、所定感度を有するとともに、耐久性に優れた電子写真感光体を提供することができる。
【0029】
また、本発明のスチルベン誘導体によれば、置換基R1およびR2が、所定のアルキル基であることより、所定溶剤に対して、十分な溶解性を示すことができるとともに、感度特性が優れた電子写真感光体を提供することができる。
【0030】
また、本発明のスチルベン誘導体によれば、置換基R3が、水素原子であることより、所定構造を有するスチルベン誘導体の製造が容易になり、かかる誘導体を安定して得ることができる。
【0031】
また、本発明のスチルベン誘導体の製造方法によれば、分子内の所定位置に特定の置換基(R1、R2およびR3)を有するスチルベン誘導体を効率的に製造することができる。したがって、電子写真感光体における電荷輸送剤(正孔輸送剤)として使用した場合に、製造が容易であって、所定感度を有するとともに、耐久性に優れた電子写真感光体を効率的に提供することができる。
【0032】
また、本発明のスチルベン誘導体の製造方法によれば、反応式(2)に従って、所定構造のトリフェニルアミン誘導体を得た後、フィルスマイヤー(Vilsmeier)法によりホルミル化することにより、一般式(2)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体が効率的に得ることができる。また、反応式(2´)に従って、所定構造のトリフェニルアミン誘導体を得た後、フィルスマイヤー(Vilsmeier)法によりホルミル化することにより、さらに少ない工程において、一般式(2´)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体が効率的に得られ、結果として、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体をさらに効率的に得ることができる。
【0033】
また、本発明の電子写真感光体によれば、分子内の所定位置に特定の置換基(R1、R2およびR3)を有するスチルベン誘導体を電荷輸送剤(正孔輸送剤)として含むため、製造が容易であって、所定感度を有するとともに、耐久性に優れた電子写真感光体を提供することができる。
【0034】
また、本発明の電子写真感光体によれば、感光層が、いわゆる単層型であることより、構成や製造が容易になるばかりか、所定の光感度を有する単層型の電子写真感光体を効率的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明のスチルベン誘導体、その製造方法、および、電子写真感光体に関する実施の形態を、適宜図面を参照しながら、具体的に説明する。
【0036】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、下記一般式(1)で表されるスチルベン誘導体である。なお、一般式(1)中のR1、R2、およびR3は、既に上述した内容であって、以下、特に断りが無い限り同様である。
【0037】
【化9】

【0038】
ここで、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体の一例として、下記式(11)で表されるスチルベン誘導体の赤外分光(IR)チャートを図1に、プロトン−NMRチャート(全体図および二つの拡大図)を図2〜図4に、それぞれ示す。
【0039】
【化10】

【0040】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、下記反応式(1)に示されるように、一般式(2)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、式(3)で表されるテトラリン酸エステル誘導体とを、塩基の存在下に反応させることを特徴とする一般式(1)で表されるスチルベン誘導体の製造方法である。なお、反応式(1)中のR1、R2、およびR3は、既に上述した内容である。
【0041】
【化11】

【0042】
1.ホルミル化トリフェニルアミン誘導体
一般式(2)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体(ただし、置換基R3が水素原子以外の場合)は、下記反応式(2)に示すように、フィルスマイヤー法を基本的に利用して合成することができる。
【0043】
【化12】

【0044】
すなわち、反応式(2)は、以下に示す工程(1)〜(5)を含み、最終工程(5)において、フィルスマイヤー法を利用してホルミル化することを示している。
工程1:一般式(2)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体が、一般式(4)
で表されるアニリン誘導体と、無水酢酸と、を硫酸下に反応させて、一般式(8)で表されるアセチル化アニリン誘導体を得る工程
工程2:一般式(5)で表されるヨードベンゼン誘導体を反応させて、一般式(9)で表
されるアセチル化ジフェニルアミン化合物を得る工程
工程3:一般式(9)で表されるアセチル化ジフェニルアミン化合物からアセチル基を脱
離させて、一般式(10)で表されるジフェニルアミン誘導体を得る工程
工程4:式(6)で表されるヨードベンゼンを反応させて、一般式(7)で表されるトリ
フェニルアミン誘導体を得る工程
工程5:一般式(7)で表されるトリフェニルアミン誘導体をフィルスマイヤー(Vilsmeier)法によりホルミル化して、一般式(2)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体を得る工程
【0045】
1−(1)工程1
工程1において、一般式(4)で表されるアニリン誘導体をアセチル化して、一般式(8)で表されるアセチル化アニリン誘導体を得るにあたり、一般式(4)で表されるアニリン誘導体と、無水酢酸との反応割合を、モル比で1:1〜1:1.5の範囲内の値とすることが好ましい。
なお、反応温度を100〜150℃とし、反応時間を1〜5時間とし、pH値を7以上とすることが好ましい。
【0046】
1−(2)工程2
次いで、工程2において、一般式(8)で表されるアセチル化アニリン誘導体と、一般式(5)で表されるヨードベンゼン誘導体とを反応させるにあたり、その反応割合を、モル比で1:1〜1:1.5の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるアセチル化アニリン誘導体と、ヨードベンゼン誘導体との添加割合が、1:1未満の値になると、一般式(9)で表されるアセチル化ジフェニルアミン化合物の生成量が著しく低下する場合があるためである。一方、かかるアセチル化アニリン誘導体と、ヨードベンゼン誘導体との添加割合が、1:1.5を超えると、未反応のヨードベンゼン誘導体が多く残留するため、過度の精製工程等が必要になる場合があるためである。
さらに、一般式(8)で表されるアセチル化アニリン誘導体と、一般式(5)で表されるヨードベンゼン誘導体とを反応させるにあたり、反応温度を、通常160〜220℃の範囲内の値とするとともに、反応温度を4〜30時間の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このような反応条件であれば、比較的簡易な製造設備を用いて、所望の反応を効率的に実施できるためである。
【0047】
1−(3)工程3
次いで、工程3において、一般式(9)で表されるアセチル化ジフェニルアミン化合物からアセチル基を脱離させて、一般式(10)で表されるジフェニルアミン誘導体を得るにあたり、その方法については特に制限されるものではないが、例えば、ブタノールと、ターシャリーブチルカリウムとの存在下に、一般式(9)で表されるアセチル化ジフェニルアミン化合物をアルカリ条件下において処理することにより、効率的に実施することができる。
【0048】
1−(4)工程4
次いで、工程4において、一般式(10)で表されるジフェニルアミン誘導体と、式(6)で表されるヨードベンゼンとを反応させるにあたり、その反応割合を、モル比で1:1〜1:1.5の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるジフェニルアミン誘導体と、ヨードベンゼンとの添加割合が、1:1未満の値になると、一般式(7)で表されるトリフェニルアミン化合物の生成量が著しく低下する場合があるためである。一方、かかるジフェニルアミン誘導体と、ヨードベンゼンとの添加割合が、1:1.5を超えると、未反応のヨードベンゼンが多く残留するため、過度の精製工程等が必要になる場合があるためである。
さらに、一般式(10)で表されるジフェニルアミン誘導体と、式(6)で表されるヨードベンゼンとを反応させるにあたり、反応温度を、通常160〜220℃の範囲内の値とするとともに、反応温度を4〜30時間の範囲内の値とすることが好ましい。
【0049】
1−(4)工程5
次いで、工程5において、一般式(7)で表されるトリフェニルアミン誘導体をフィルスマイヤー(Vilsmeier)法によりホルミル化するにあたり、当該フィルスマイヤー法に使用するフィルスマイヤー試薬(Vilsmeier試薬)としては、以下の化合物(i)および(ii)の組合せであることが好ましい。
(i)オキシ塩化リン、ホスゲン、塩化オキサリル、塩化チオニル、トリフェニルホスフィン−臭素、ヘキサクロロトリホスファザトリエン等のハロゲン化剤
(ii)N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルホルムアニリド(MFA)、N−ホルミルモルホリン、N,N−ジイソプロピルホルムアミド
特に、本発明では、フィルスマイヤー試薬として、オキシ塩化リンと、溶媒としても使用できるDMFとの組み合わせが好適に用いられる。
【0050】
また、フィルスマイヤー試薬の調製において、化合物(i)と(ii)との使用割合は、通常モル比で、1:1〜1:20の範囲内の値とすることが好ましく、1:1〜1:5の範囲内の値とすることがより好ましい。
さらに、フィルスマイヤー試薬の使用量に関して、一般式(7)で表されるトリフェニルアミン化合物1モルに対して、0.9〜2倍モル量の範囲内の値とすることが好ましく、1〜1.1倍モル量の範囲内の値とすることがより好ましい。
なお、フィルスマイヤー法における、ジフェニルアミン誘導体のホルミル化の反応条件に関して、通常130℃以下の温度で行い、反応時間を2〜5時間の範囲内の値とすることが好ましい。
【0051】
また、一般式(2)における置換基R3が水素原子である場合には、下記反応式(2´)に示すように、より簡単にフィルスマイヤー法を利用して合成することができる。
【0052】
【化13】

【0053】
すなわち、上述した工程(1)〜(3)を省略し、工程(4)および(5)を実施して、一般式(4)で表されるアニリン誘導体と、式(6)で表されるヨードベンゼンとを反応させて、一般式(7´)で表されるトリフェニルアミン誘導体を得て、次いで、フィルスマイヤー(Vilsmeier)法によりホルミル化して得ることができる。
ただし、一般式(2)における置換基R3が水素原子である場合であっても、上述した工程(1)〜(5)に準じて、二段階でヨードベンゼンを反応させて、一般式(2)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体(ただし、置換基R3が水素原子の場合)を作成することもできる。
【0054】
2.テトラリン酸エステル誘導体
式(3)で表されるテトラリン酸エステル誘導体は、例えば、下記反応式(3)に示す方法により合成することが好ましい。
【0055】
【化14】

【0056】
ここで、かかるテトラリン酸エステル誘導体の合成反応を実施するにあたり、例えば、1,2,4,5−テトラキス(クロロメチル)ベンゼンに対して、亜リン酸トリエチルを無溶媒または適当な溶媒中に添加して、反応させることが好ましい。この理由は、このように反応させることにより、反応式(1)の出発原料の一つであるテトラリン酸エステル誘導体(3)を高い収率で得ることができるためである。
ここで、合成反応を生じさせるに際して、1,2,4,5−テトラキス(クロロメチル)ベンゼン1モルに対して、亜リン酸トリエチルの使用割合を、少なくとも4倍モル当量とすることが好ましく、4.1〜6倍モル量の範囲内の値とすることがより好ましい。
また、かかる反応温度を、通常80〜150℃の範囲内の値とし、反応時間を2〜10時間の範囲内の値とすることが好ましい。
【0057】
また、テトラリン酸エステル誘導体を作成する際に用いる溶媒としては、かかる反応に影響を及ぼさないものであれば良いが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド等が、好適例として挙げられる。
また、テトラリン酸エステル誘導体を作成する際に、所定量の第三級アミンを添加することも好ましい。この理由は、第三級アミンによって、反応系からハロゲン化アルキルが除去されるため、テトラリン酸エステル誘導体の合成反応を促進できるためである。好適な第三級アミンとしては、例えばトリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0058】
3.反応条件
(1) 反応温度と反応時間
また、一般式(2)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、式(3)で表されるテトラリン酸エステル誘導体との反応は、通常−10〜30℃で行うことが好ましく、その反応時間を1〜12時間の範囲内の値とすることが好ましい。
【0059】
(2) 溶媒
一般式(2)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、式(3)で表されるテトラリン酸エステル誘導体との反応に使用する好適な溶媒としては、当該反応に影響を及ぼさないものであればよいが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0060】
(3) 塩基
また、かかる反応に使用する塩基としては、ナトリウムメトキシドやナトリウムエトキシド等のナトリウムアルコキシド、水素化ナトリウムや水素化カリウム等の金属水素化物が好適なものとして挙げられる。
ここで、かかる塩基の添加量を、ホルミル化トリフェニルアミン誘導体1モルに対して、1.1〜2モルの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる塩基の添加量が1.1モル未満の値となると、一般式(2)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、式(3)で表されるテトラリン酸エステル誘導体と、の間の反応性が著しく低下する場合があるためである。
一方、かかる塩基の添加量が2モルを超えると、一般式(2)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、式(3)で表されるテトラリン酸エステル誘導体と、の間の反応を制御することが著しく困難になる場合があるためである。
【0061】
(4) 添加割合
一般式(2)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、式(3)で表されるテトラリン酸エステル誘導体と、の間の反応を実施するにあたり、添加割合を、モル比で4:1〜6:1の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、テトラリン酸エステル誘導体との添加割合が、4:1未満の値になると、ホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、テトラリン酸エステル誘導体とが、適切に対応して反応することが困難になる場合があるためである。また、かかる添加割合が、6:1を超えると、未反応のホルミル化トリフェニルアミン誘導体が多く残留し、精製を困難にする場合があるためである。
したがって、一般式(2)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、式(3)で表されるテトラリン酸エステル誘導体と、の添加割合を、モル比で4.2:1〜5.5:1の範囲内の値とすることが好ましい。
【0062】
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、導電性基体上に感光層を設けた電子写真感光体であって、感光層に、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体を含有することを特徴とする電子写真感光体である。
なお、電子写真感光体には、主として単層型感光体と積層型感光体とがあるが、本発明のスチルベン誘導体は、いずれのタイプにも適用可能である。
ただし、特に正負いずれの帯電型感光体に使用できること、構造が簡単であって、製造が容易であること、感光層を形成する際の被膜欠陥を効果的に抑制できること、層間の界面が少なく、光学的特性を向上させやすい等の理由から、単層型感光体に適用することが好ましい。
【0063】
1.単層型感光体
(1) 基本的構成
図5(a)に示すように、単層型感光体10は、導電性基体12上に単一の感光層14を設けたものである。
この感光層は、例えば、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体(正孔輸送剤)と、電荷発生剤と、結着樹脂と、さらに必要に応じて電子輸送剤を適当な溶媒に溶解または分散させ、得られた塗布液を導電性基体上に塗布し、乾燥させることで形成することができる。かかる単層型感光体は、単独の構成で正負いずれの帯電型にも適用可能であるとともに、層構成が簡単であって、生産性に優れているという特徴がある。
また、得られた単層型感光体は、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体を含んでいることから、残留電位が低下しているとともに、所定感度を有しているという特徴がある。
さらに、単層型感光体の感光層に、電子輸送剤を含有させる場合には、電荷発生剤と正孔輸送剤との電子の授受が効率よく行われるようになり、感度等がより安定する傾向が見られる。
【0064】
(2) 電荷発生剤
本発明に用いられる電荷発生剤としては、例えば、無金属フタロシアニン、オキソチタニルフタロシアニン、ペリレン顔料、ビスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
特に、半導体レーザー等の光源を使用したレーザービームプリンタやファクシミリ等のデジタル光学系の画像形成装置には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えば、無金属フタロシアニンやオキソチタニルフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料が好適に用いられる。
一方、ハロゲンランプ等の白色の光源を使用した静電式複写機等のアナログ光学系の画像形成装置には、可視領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えば、ペリレン顔料やビスアゾ顔料等が好適に用いられる。
【0065】
(3) 正孔輸送剤
本発明の電子写真感光体においては、正孔輸送剤である本発明のスチルベン誘導体とともに、従来公知の他の正孔輸送剤を感光層に含有させることも好ましい。
このような正孔輸送剤としては、高い正孔輸送能を有する種々の化合物、例えば下記の一般式(HT−1〜HT−13)で表される化合物等があげられる。
【0066】
【化15】

【0067】
(式中、Rh1、Rh2、Rh3、Rh4、Rh5およびRh6は互いに独立しており、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示す。aおよびbは、同一または異なっていても良い0〜4の整数を示し、c、d、eおよびfは同一または異なっていても良い0〜5の整数を示す。ただし、a、b、c、d、eまたはfが2以上のとき、各Rh1、Rh2、Rh3、Rh4、Rh5およびRh6は異なっていても良い。)
【0068】
【化16】

【0069】
(式中、Rh7、Rh8、Rh9、Rh10 およびRh11は互いに独立しており、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示す。g、h、iおよびjは、同一または異なっていても良い0〜5の整数を示し、kは0〜4の整数を示す。ただし、g、h、i、jまたはkが2以上のとき、各Rh7、Rh8、Rh9、Rh10およびRh11は異なっていても良い。)
【0070】
【化17】

【0071】
(式中、Rh12、Rh13、Rh14およびRh15は互いに独立しており、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示し、Rh16はハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、または置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示す。m、n、oおよびpは、同一または異なっていても良い0〜5の整数を示し、qは、0〜6の整数を示す。ただし、m、n、o、pまたはqが2以上のとき、各Rh12、Rh13、Rh14、Rh15およびRh16は異なっていても良い。)
【0072】
【化18】

【0073】
(式中、Rh17、Rh18、Rh19およびRh20は互いに独立しており、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示。r、s、tおよびuは、同一または異なっていても良い、0〜5の整数を示す。ただし、r、s、tまたはuが2以上のとき、各Rh17、Rh18、Rh19およびRh20は異なっていても良い。)
【0074】
【化19】

【0075】
(式中、Rh21およびRh22は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基を示す。Rh23、Rh24、Rh25およびRh26は互いに独立しており、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜40のアリール基を示す。)
【0076】
【化20】

【0077】
(式中、Rh27、Rh28およびRh29は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
【0078】
【化21】

【0079】
(式中、Rh30、Rh31、Rh32およびRh33は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
【0080】
【化22】

【0081】
(式中、Rh34、Rh35、Rh36、Rh37およびRh38は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
【0082】
【化23】

【0083】
(式中、Rh39は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示し、Rh40、Rh41およびRh42は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
【0084】
【化24】

【0085】
(式中、Rh43、Rh44およびRh45は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
【0086】
【化25】

【0087】
(式中、Rh46およびRh47は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、あるいは、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示す。)
【0088】
【化26】

【0089】
(式中、Rh50、Rh51、Rh52、Rh53、Rh54およびRh55は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、あるいは、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示す。また、αは1〜10の整数を示し、v、w、x、y、zおよびβは同一または異なっていても良い0〜2の整数を示す。ただし、v、w、x、y、zまたはβが2のとき、各Rh50、Rh51、Rh52、Rh53、Rh54およびRh55は異なっていても良い。)
【0090】
【化27】

【0091】
(式中、Rh56、Rh57、Rh58およびRh59は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基を示し、Φは次式のいずれかで表される基である。)
【0092】
【化28】

【0093】
また、本発明においては、上記例示の正孔輸送剤HT−1〜HT−13等とともに、従来公知の正孔輸送物質、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン等のスチリル系化合物、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール系化合物、有機ポリシラン化合物、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等のピラゾリン系化合物、ヒドラゾン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、トリアゾール系化合物等の含窒素環式化合物、縮合多環式化合物等の1種単独または2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0094】
(4) 電子輸送剤
本発明に用いられる電子輸送剤としては、高い電子輸送能を有する種々の化合物、例えば下記の一般式(ET−1〜ET−17)で表される化合物等があげられる。
【0095】
【化29】

【0096】
(式中、Re1、Re2、Re3、Re4およびRe5は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基またはアラルキル基、置換または非置換のフェノキシ基を示す。)
【0097】
【化30】

【0098】
(式中、Re6は置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基、Re7は置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基またはアラルキル基、ハロゲン原子、またはハロゲン化アルキル基を示す。γは0〜5の整数を示す。ただし、γが2以上のとき、各Re7は互いに異なっていてもよ良い。)
【0099】
【化31】

【0100】
(式中、Re8およびRe9は互いに独立しており、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基を示す。δは1〜4の整数を示し、εは0〜4の整数を示す。ただし、δおよびεが2以上のとき、各Re8およびRe9は異なっていても良い。)
【0101】
【化32】

【0102】
(式中、Re10は置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基またはアラルキル基、ハロゲン化アルキル基、またはハロゲン原子を示す。ζは0〜4、ηは0〜5の整数を示す。ただし、ηが2以上のとき、各Re10は異なっていても良い。)
【0103】
【化33】

【0104】
(式中、Re11は置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基を示し、σは1〜4の整数を示す。ただし、σが2以上のとき、各Re11は異なっていても良い。)
【0105】
【化34】

【0106】
(式中、Re12およびRe13は互いに独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基、アラルキルオキシカルボニル基、水酸基、ニトロ基、またはシアノ基を示す。Xは酸素原子、=N−CN基または=C(CN)2 基を示す。)
【0107】
【化35】

【0108】
(式中、Re14は水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示し、Re15はハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基、アルコキシカルボニル基、N−アルキルカルバモイル基、シアノ基、またはニトロ基を示す。λは0〜3の整数を示す。ただし、λが2以上のとき、各Re15は互いに異なっていても良い。)
【0109】
【化36】

【0110】
(式中、θは1〜2の整数を示す。)
【0111】
【化37】

【0112】
(式中、Re16およびRe17は互いに独立しており、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基を示す。νおよびξは0〜3の整数を示す。ただし、νまたはξが2以上のとき、各Re16およびRe17は互いに異なっていても良い。)
【0113】
【化38】

【0114】
(式中、Re18およびRe19は互いに独立しており、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基、縮合多環式基または複素環式基を示し、これらの基は置換基を有していても良い。)
【0115】
【化39】

【0116】
(式中、Re20はアミノ基、ジアルキルアミノ基、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコシキ基、または置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示し、πは1〜2の整数を示す。ただし、πが2のとき、各Re20は互いに異なっていても良い。)
【0117】
【化40】

【0118】
(式中、Re21は水素原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基またはアラルキル基を示す。)
【0119】
【化41】

【0120】
(式中、Re22は、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基またはアラルキル基、アルコキシカルボニル基、N−アルキルカルバモイル基、シアノ基、またはニトロ基を示す。μは0〜3の整数を示す。ただし、μが2以上のとき、各Re22は互いに異なっていても良い。)
【0121】
【化42】

【0122】
(式中、Re23は、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基または置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示し、Re24は、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基または置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基、または−O−Re24で表される基を示す。上記基中のRe24は、上述した置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基または置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基を示す。)
【0123】
【化43】

【0124】
(式中、Re25、Re26、Re27、Re28、Re29、Re30およびRe31は互いに独立しており、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基またはアラルキル基、ハロゲン原子、またはハロゲン化アルキル基を示す。χおよびφは同一または異なっていても良い0〜4の整数を示す。)
【0125】
【化44】

【0126】
(式中、Re32およびRe33は互いに独立しており、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基、ハロゲン原子、またはハロゲン化アルキル基を示す。τおよびψは同一または異なっていても良い0〜4の整数を示す。)
【0127】
【化45】

【0128】
(式中、Re34、Re35、Re36およびRe37は互いに独立しており、水素原子、置換または非置換の炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜40のアリール基またはアラルキル基、シクロアルキル基またはアミノ基を示す。ただし、Re34 、Re35 、Re36 およびRe37 のうち少なくとも2つは、水素原子でない同一の基である。)
【0129】
また、本発明においては、上記例示のほかに従来公知の電子輸送物質、すなわち例えばベンゾキノン系化合物、マロノニトリル、チオピラン系化合物、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、ニトロアントラキノン、ジニトロアントラキノン、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸等の1種単独または2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0130】
(5) 結着樹脂
各成分を分散させるための結着樹脂は、従来より感光層に使用されている種々の樹脂を使用することができる。例えばスチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂;シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、その他架橋性の熱硬化性樹脂;エポキシアクリレート、ウレタン−アクリレート等の光硬化型樹脂等の樹脂が使用可能である。
特に、ポリカーボネート樹脂は、透明性や耐熱性に優れているばかりか、機械的特性や正孔輸送剤との相溶性にも優れていることから好ましい結着樹脂である。
【0131】
(6) 添加剤
また、感光層には、上記各成分のほかに、電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、従来公知の種々の添加剤、例えば酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、一重項クエンチャー、紫外線吸収剤等の劣化防止剤、軟化剤、可塑剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー等を配合することができる。また、感光層の感度を向上させるために、例えばテルフェニル、ハロナフトキノン類、アセナフチレン等の公知の増感剤を電荷発生剤と併用してもよい。
【0132】
(7) 配合割合および厚さ
本発明の電子写真感光体が単層型の感光体である場合、電荷発生剤は、結着樹脂100重量部に対して0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部の割合で配合すればよい。本発明のスチルベン誘導体(1) (正孔輸送剤)は、結着樹脂100重量部に対して20〜500重量部、好ましくは30〜200重量部の割合で配合すればよい。電子輸送剤を含有させる場合、電子輸送剤の割合を結着樹脂100重量部に対して5〜100重量部、好ましくは10〜80重量部とするのが適当である。
また、本発明の電子写真感光体が積層型の感光体である場合、電荷発生層を構成する電荷発生剤と結着樹脂とは、種々の割合で使用することができるが、結着樹脂100重量部に対して電荷発生剤を5〜1000重量部、好ましくは30〜500重量部の割合で配合するのが適当である。電荷発生層に正孔輸送剤を含有させる場合は、正孔輸送剤の割合を結着樹脂100重量部に対して10〜500重量部、好ましくは50〜200重量部とするのが適当である。
【0133】
電荷輸送層を構成する正孔輸送剤と、結着樹脂とは、電荷の輸送を阻害しない範囲および結晶化しない範囲で種々の割合で使用することができるが、光照射により電荷発生層で生じた電荷が容易に輸送できるように、結着樹脂100重量部に対して、本発明のスチルベン誘導体(1) (正孔輸送剤)を10〜500重量部、好ましくは25〜200樹脂の割合で配合するのが適当である。電荷輸送層に電子輸送剤を含有させる場合は、電子輸送剤の割合を結着樹脂100重量部に対して5〜200重量部、好ましくは10〜100重量部とするのが適当である。
【0134】
(8) 構造
また、単層型感光体における感光層の厚さは5〜100μm、好ましくは10〜50μmである。
そして、このような感光層が形成される導電性基体としては、導電性を有する種々の材料を使用することができ、例えば鉄、アルミニウム、銅、スズ、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、真鍮等の金属や、上記金属が蒸着またはラミネートされたプラスチック材料、ヨウ化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム等で被覆されたガラス等があげられる。
また、導電性基体の形状は、使用する画像形成装置の構造に合わせて、シート状、ドラム状等のいずれであってもよく、基体自体が導電性を有するか、あるいは基体の表面が導電性を有していればよい。また、導電性基体は、使用に際して十分な機械的強度を有するものが好ましい。前記感光層を塗布の方法により形成する場合には、前記例示の電荷発生剤、電荷輸送剤、結着樹脂等を適当な溶剤とともに、公知の方法、例えばロールミル、ボールミル、アトライタ、ペイントシェーカー、超音波分散機等を用いて分散混合して分散液を調整し、これを公知の手段により塗布して乾燥させればよい。
さらに、単層型感光体10の構成に関して、図5(b)に示すように、導電性基体12と感光層14との間に、感光体の特性を阻害しない範囲でバリア層16が形成されていてもよい。また、図5(c)に示すように、感光層14の表面には、保護層18が形成されていてもよい。
【0135】
(9) 製造方法
分散液を作るための溶剤としては、種々の有機溶剤が使用可能であり、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類;ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等があげられる。これらの溶剤は単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
さらに、電荷輸送剤や電荷発生剤の分散性、感光層表面の平滑性を良くするために界面活性剤、レベリング剤等を使用してもよい。
【0136】
2.積層型感光体
図6(a)に示すように、積層型感光体20は、導電性基体12上に、蒸着または塗布等の手段によって、電荷発生剤を含有する電荷発生層24を形成し、次いでこの電荷発生層24上に、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体(正孔輸送剤)の少なくとも1種と結着樹脂とを含む塗布液を塗布し、乾燥させて電荷輸送層22を形成することによって作製される。
また、上記構造とは逆に、図6(b)に示すように、導電性基体12上に電荷輸送層22を形成し、その上に電荷発生層24を形成してもよい。
ただし、電荷発生層24は、電荷輸送層22に比べて膜厚がごく薄いため、その保護のためには、図6(a)に示すように、電荷発生層24の上に電荷輸送層22を形成することがより好ましい。
なお、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、結着剤等については、単層型感光体と同様の内容とすることができる。
【0137】
また、積層型感光体は、上記電荷発生層および電荷輸送層の形成順序と、電荷輸送層に使用する電荷輸送剤の種類によって、正負いずれの帯電型となるかが選択される。例えば、上記のように、導電性基体上に電荷発生層を形成し、その上に電荷輸送層を形成した場合において、電荷輸送層における電荷輸送剤として、本発明のスチルベン誘導体のような正孔輸送剤を使用した場合には、感光体は負帯電型となる。この場合、電荷発生層には電子輸送剤を含有させてもよい。
そして、本発明の積層型電子写真感光体は、感光体の残留電位が低下するとともに、所定感度を有しているという特徴がある。
なお、積層型感光体における感光層の厚さは、電荷発生層が0.01〜5μm程度、好ましくは0.1〜3μm程度であり、電荷輸送層が2〜100μm、好ましくは5〜50μm程度である。
【実施例】
【0138】
[実施例1]
(1)スチルベン誘導体の合成
(1)−1 テトラリン酸エステル誘導体の合成
上述した反応式(3)にしたがって、上述した式(3)で表されるテトラリン酸エステル誘導体を合成した。
すなわち、15g(0.055mol)の1,3,4,6−テトラキス(クロロメチル)ベンゼンに対して、43.5g(0.28mol)の亜リン酸トリエチルエステルを加え、170℃で、8時間以上還流した。次いで、室温まで冷却した後、溶媒を減圧留去し、得られた残渣につき、ヘキサンを用いて、再結晶させた。次いで、得られた再結晶物を減圧乾燥させて、33gのテトラリン酸エステル誘導体を得た(収率88.3%)。
【0139】
(1)−2 トリフェニルアミン化合物の合成
下記反応式(4)にしたがって、式(17´)で表されるトリフェニルアミン化合物を合成した。
すなわち、容量500mlの二口フラスコ内に、無水炭酸カリウム46.6g(0.34mol)および粉末銅2.5g(0.04mol)を加え、温度200℃、2時間の条件で加熱して、均一になるまで十分に攪拌した。
次いで、室温まで冷却した後、式(12)で表されるアニリン誘導体17.6g(0.13mol)と、ヨードベンゼン68.9g(0.34mol)と、を添加した後、220℃に再加熱し、2.5時間反応させた。その後、室温まで冷却した後、100mlのトルエンを添加し、ろ過処理を実施するとともに、ろ液からトルエンおよび未反応物を減圧留去した。得られた残渣をトルエンに溶解させ、さらに活性白土処理を実施した後、トルエンを減圧留去した。
次いで、得られた残渣をトルエンに再び溶解させるととに、メタノールを用いて結晶化させ、かかる操作を2回繰り返して、23.2gの薄紫色の固体物として、式(17´)で表されるトリフェニルアミン化合物を得た(収率62%)。
【0140】
【化46】

【0141】
(1)−3 ホルミル化トリフェニルアミン誘導体の合成
下記反応式(5)にしたがって、下記式(18)で表されるホルミル化トリフェニルアミン化合物を合成した。すなわち、500mlのフラスコ内に、式(17´)で表されるトリフェニルアミン化合物23.0g(0.08mol)と、DMF200mlと、オキシ塩化リン酸(POCl3)15.2g(0.1mol)と、を収容し、それをオイル浴内に浸漬して、95℃、1時間の条件で反応させた。反応後、フラスコ内の反応液に対して、イオン交換水400mlと、トルエン200mlとを滴下し、さらに分離させて得られたトルエン層をイオン交換水にて洗浄した。得られた有機層に、無水硫酸ナトリウムを添加して乾燥させるとともに、活性白土処理による吸着処理を実施した。次いで、トルエンを減圧留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム溶媒)で精製して、式(18)で表されるホルミル化トリフェニルアミン化合物19.6g(収率77.5%)を得た。
【0142】
【化47】

【0143】
(1)−4 スチルベン誘導体の合成
下記反応式(6)にしたがって、式(11)で表されるスチルベン誘導体を合成した。すなわち、500mlの二口フラスコ内に、(1)−1で得られた式(3)で表されるテトラリン酸エステル誘導体4.3g(6.3mmol)を収容した後、十分にアルゴン置換を実施した。次いで、THF30mlと、28%NaOMe5.8g(0.03mol)/THF30mlと、を収容した後、均一になるまで約30分攪拌した。次いで、二口フラスコ内内に、上述した(1)−2〜3で得られた式(18)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体8g(0.025mol)をTHF100mlに溶解させた後、ロート滴下し、室温で約12時間反応させた。次いで、得られた反応液をイオン交換水に注ぎ、トルエンにて抽出を行い、得られた有機層をイオン交換水にて洗浄した後、無水硫酸ナトリウムにより乾燥させた。次いで、トルエンを減圧留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム溶媒)で精製して、式(11)で表されるスチルベン誘導体6.5g(収率77.9%)を得た。
【0144】
得られた式(11)で表されるスチルベン誘導体の赤外吸収スペクトルを図1に示し、プロトン−NMRチャート(全体図および二つの部分拡大図を)をそれぞれ図2〜図4に示す。
【0145】
【化48】


【0146】
(2)評価
(2)−1 初期表面電位、半減露光量および残留電位の測定
得られた式(11)で表されるスチルベン誘導体を正孔輸送剤として、単層型の電子写真感光体を作成して、初期表面電位、半減露光量および残留電位を測定した。すなわち、正孔輸送剤として、得られたスチルベン誘導体を100重量部と、電荷発生剤として、下記式(19)で表されるX型無金属フタロシアニン(CGM−1)を5重量部と、結着樹脂として、下記式(20)で表されるポリカーボネート樹脂100重量部と、を溶媒としてのテトラヒドロフラン800重量部に対して添加した。次いで、ボールミルを用いて50時間混合分散して、単層型感光層用の塗布液を作成した。得られた塗布液を、導電性基材(アルミニウム素管)上に、ディップコート法にて塗布し、100℃、30分間の条件で熱風乾燥して、膜厚25μmの単層型感光層を有する電子写真感光体を得た。
次いで、得られた電子写真感光体における初期電気特性、すなわち、半減露光量(E1/2)および残留電位(V)を、ドラム感度試験機(GENTEC社製)を用いて、表面電位が710Vになるように帯電させて測定した。なお、半減露光量(E1/2)については、ハロゲンランプの光からバンドパスフィルターを用いて取り出した波長780nmの単色光(半値幅:20nm、光強度:1.5μJ/cm2)を露光して、表面電位が1/2になるまでに要した時間を測定した。さらに、残留電位については、露光開始から0.5秒経過した時点での表面電位を測定し、それを残留電位とした。
それぞれ得られた結果を、表1に示す。結果から明らかなように、得られた電子写真感光体は、残留電位の値が低く、半減露光量も0.9秒以内であって、所定感度を有することを確認した。なお、表1中、電荷発生剤としてのX型無金属フタロシアニンをCGM−1と表記し、スチルベン誘導体をHT−Aと表記する(以下、同様である。)。
【0147】
【化49】

【0148】
【化50】

【0149】
[実施例2]
実施例1の塗布液中に、電子輸送剤として、下記式(21)で表されるキノン誘導体ET−A)をさらに30重量部添加したほかは、実施例1と同様に単層型感光層を作成して、評価した。なお、表1中、式(21)で表されるキノン誘導体をET−Aと表記する。
【0150】
【化51】

【0151】
[実施例3]
実施例1における塗布液中に、電子輸送剤として、下記式(22)で表される別のキノン誘導体(ET−B)をさらに30重量部添加したほかは、実施例1と同様に単層型感光層を作成して、評価した。なお、表1中、式(22)で表されるキノン誘導体をET−Bと表記する。
【0152】
【化52】

【0153】
[実施例4]
実施例1における塗布液中に、電子輸送剤として、下記式(23)で表される別のキノン誘導体(ET−C)をさらに30重量部添加したほかは、実施例1と同様に単層型感光層を作成して、評価した。なお、表1中、式(23)で表されるキノン誘導体をET−Cと表記する。
【0154】
【化53】

【0155】
[実施例5〜8]
実施例5〜8においては、実施例1〜4でそれぞれ使用したスチルベン誘導体(HT−A)のかわりに、下記式(24)で表されるスチルベン誘導体(HT−B)を用いたほかは、実施例1〜4と同様に単層型感光層を作成して、評価した。
【0156】
【化54】

【0157】
[実施例9〜12]
実施例9〜12においては、実施例1〜4でそれぞれ使用したスチルベン誘導体(HT−A)のかわりに、下記式(25)で表されるスチルベン誘導体(HT−C)を用いたほかは、実施例1〜4と同様に単層型感光層を作成して、評価した。
【0158】
【化55】

【0159】
[比較例1〜4]
比較例1〜4においては、実施例1〜4でそれぞれ使用したスチルベン誘導体(HT−A)のかわりに、下記式(26)で表されるスチルベン誘導体(HT−D)を用いたほかは、実施例1〜4と同様に単層型感光層を作成して、評価した。なお、表1中、式(26)で表されるスチルベン誘導体をHT−Dと表記する。
【0160】
【化56】

【0161】
[比較例5〜8]
比較例5〜8においては、実施例1〜4でそれぞれ使用したスチルベン誘導体(HT−A)のかわりに、下記式(27)で表されるスチルベン誘導体(HT−E)を用いたほかは、実施例1〜4と同様に単層型感光層を作成して、評価した。なお、表1中、式(27)で表されるスチルベン誘導体をHT−Eと表記する。
【0162】
【化57】

【0163】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0164】
以上詳述したように、本発明のスチルベン誘導体は、分子内の所定位置に特定の置換基を有することにより、平均分子量が比較的大きい場合であっても、所定溶剤に対して、十分な溶解性を示すことができるとともに、光感度が向上していることから、静電式複写機やレーザービームプリンタ等の電子写真感光体に使用することにより、高速化、高性能化等に寄与することが期待される。
また、本発明のスチルベン誘導体は、高い正孔輸送能を有することから、電子写真感光体における正孔輸送剤として好適に使用されるほか、太陽電池、エレクトロルミネッセンス素子等での種々の分野での利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】式(11)で表されるスチルベン誘導体の赤外分光(IR)チャートを説明するために供する図である。
【図2】式(11)で表されるスチルベン誘導体のプロトン−NMRチャートを説明するために供する図である。
【図3】式(11)で表されるスチルベン誘導体のプロトン−NMRチャートを部分的に拡大して説明するために供する図である(その1)。
【図4】式(11)で表されるスチルベン誘導体のプロトン−NMRチャートを部分的に拡大して説明するために供する図である(その2)。
【図5】(a)〜(c)は、単層型感光体の基本構造および変形構造を説明するために供する図である。
【図6】(a)〜(b)は、積層型感光体の基本構造および変形構造を説明するために供する図である。
【符号の説明】
【0166】
10:単層型感光体
12:導電性基体
14:感光層
16:バリア層
18:保護層
20:積層型感光体
22:電荷輸送層
24:電荷発生層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とするスチルベン誘導体。
【化1】


(一般式(1)中、4つのR1およびR2は、それぞれ独立した炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、あるいは置換または非置換のアミノ基であり、4つのR3は、それぞれ水素原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、あるいは置換または非置換のアミノ基である。)
【請求項2】
前記一般式(1)中のR1およびR2が、炭素数1〜6の置換または非置換のアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載のスチルベン誘導体。
【請求項3】
前記一般式(1)中のR3が、水素原子であることを特徴とする請求項1または2に記載のスチルベン誘導体。
【請求項4】
下記反応式(1)で表されるように、一般式(2)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体と、式(3)で表されるテトラリン酸エステル誘導体とを、塩基の存在下に反応させて、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体を得ることを特徴とするスチルベン誘導体の製造方法。
【化2】


(反応式(1)中、複数のR1およびR2は、それぞれ独立した炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、あるいは置換または非置換のアミノ基であり、複数のR3は、それぞれ水素原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、あるいは置換または非置換のアミノ基である。)
【請求項5】
前記一般式(2)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体として、下記反応式(2)で表されるように、一般式(4)で表されるアニリン誘導体と、無水酢酸と、を硫酸下に反応させて、一般式(8)で表されるアセチル化アニリン誘導体を得た後、一般式(5)で表されるヨードベンゼン誘導体とを反応させて、一般式(9)で表されるアセチル化ジフェニルアミン化合物を得た後、当該一般式(9)で表されるアセチル化ジフェニルアミン化合物からアセチル基を脱離させて一般式(10)で表されるジフェニルアミン誘導体を得て、さらに式(6)で表されるヨードベンゼンを反応させて、一般式(7)で表されるトリフェニルアミン誘導体を得て、次いで、フィルスマイヤー(Vilsmeier)法によりホルミル化して得られるホルミル化トリフェニルアミン誘導体を使用することを特徴とする請求項4に記載のスチルベン誘導体の製造方法。
【化3】



(反応式(2)中の複数のR1、R2およびR3は、それぞれ独立であって、置換基R3が水素原子以外であることを除いて、反応式(1)中の内容と同様である。)
【請求項6】
前記一般式(2)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体の置換基R3が水素原子である下記一般式(2´)で表されるホルミル化トリフェニルアミン誘導体として、下記反応式(2´)で表されるように、一般式(4)で表されるアニリン誘導体と、式(6)で表されるヨードベンゼンとを反応させて、一般式(7´)で表されるトリフェニルアミン誘導体を得て、次いで、フィルスマイヤー(Vilsmeier)法によりホルミル化して得られるホルミル化トリフェニルアミン誘導体を使用することを特徴とする請求項4に記載のスチルベン誘導体の製造方法。
【化4】


(反応式(2´)中の複数のR1およびR2は、それぞれ独立であって、反応式(1)中の内容と同様である。)
【請求項7】
導電性基体上に感光層を設けた電子写真感光体であって、前記感光層が、一般式(1)で表されるスチルベン誘導体を含有することを特徴とする電子写真感光体。
【化5】


(一般式(1)中、4つのR1およびR2は、それぞれ独立した炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、あるいは置換または非置換のアミノ基であり、4つのR3は、それぞれ水素原子、炭素数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または非置換のアリール基、あるいは置換または非置換のアミノ基である。)
【請求項8】
前記感光層が、電荷発生剤および電子輸送剤をさらに含有した単層型であることを特徴とする請求項7に記載の電子写真感光体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−342060(P2006−342060A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−340096(P2003−340096)
【出願日】平成15年9月30日(2003.9.30)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】