説明

スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の製造方法

【課題】長期連続生産性に優れ、ゲル不溶分の少ない外観と色調、及び機械的強度に優れるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂を提供する。
【解決手段】スチレンとメタクリル酸とメタクリル酸メチルとをモノマー成分として用いて共重合を行う重合工程と、該重合工程で得た重合生成物中の未反応モノマー成分を除去するための脱揮処理を行ってスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂を回収する脱揮工程とを含み、該スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂中に、炭素数が14〜20でかつ凝固点が−10℃以下のイソ脂肪族第1級アルコールが0.02〜1.0質量%の量で残存するように、脱揮工程終了時よりも前に、炭素数が14〜20でかつ凝固点が−10℃以下のイソ脂肪族第1級アルコールを添加する、スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期連続生産性に優れ、ゲル不溶分の少ない外観と色調、及び機械的強度に優れたスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂を含むスチレン−メタクリル酸系樹脂は、耐熱性に優れており、食品容器等の包装材料、住宅の断熱材用途の発泡ボード、拡散剤を入れた液晶テレビの拡散板等の原料として広く用いられている。スチレン−メタクリル酸系樹脂の製造には、工業的には塊状重合法や溶液重合法が一般的に用いられている。これらの方法は重合工程と脱揮工程とを有し、脱揮工程では高温、高真空下で未反応の単量体及び重合溶媒を脱揮する。しかし脱揮工程ではメタクリル酸の脱水反応でゲル化物が生成し、このゲル化物が製品の外観等を阻害する場合がある。スチレン−メタクリル酸共重合体について、特許文献1にはゲル化物の生成を抑制する方法として、脱揮工程前の重合液に水あるいはアルコールを添加する方法が開示されている。また、特許文献2には実施例で重合原料液に2エチルーヘキシルアルコールを添加する方法が、特許文献3には実施例で重合原料液にオクチルアルコールを添加する方法がそれぞれ開示されている。更にはスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体については特許文献4に開示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1〜3の方法では、用いるアルコールの種類によって、得られる樹脂の色調が低下したり、また長期連続生産をした場合、脱揮系内の滞留部でゲル化反応が促進され、このゲル化物が製品へ混入して外観不良となったり、更には凝固点の高いアルコールを用いた場合は脱揮工程で飛散したアルコールが凝縮器内に固形物として析出して凝縮器あるいは真空ライン等を閉塞し、未反応モノマーや重合溶媒を脱揮できなくなり、長期運転ができない場合がある。長期連続生産性に優れ、かつ製品へのゲル化物の混入の少ない、色調の良好な樹脂を得るための製造方法の改善が望まれている。また、スチレン−メタクリル酸共重合体は、ポリスチレン樹脂と比べて脆いため、機械的強度の改善が望まれている。特許文献4のスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体は、スチレン−メタクリル酸共重合体に比べ、機械的強度は優れ、かつゲル化物の生成は少ない傾向にはあるが、特許文献1〜3と同様に、長期連続生産時のゲル化物低減の改善等が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−161409号公報
【特許文献2】特開平09−87332号公報
【特許文献3】特開2006−282962号公報
【特許文献4】特開平1−279911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、長期連続生産性に優れ、ゲル不溶分の少ない外観と色調、及び機械的強度に優れるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題点に鑑み鋭意研究を進めた結果、特定のアルコールを脱揮工程終了時よりも前の時点で特定割合加えることにより、これまで予想し得なかった、長期連続生産性に優れ、ゲル不溶分の少ない外観と色調、及び機械的強度に優れるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0007】
(1)スチレンとメタクリル酸とメタクリル酸メチルとをモノマー成分として用いて共重合を行う重合工程と、
該重合工程で得た重合生成物中の未反応モノマー成分を除去するための脱揮処理を行ってスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂を回収する脱揮工程と、
を含み、
該スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂中に、炭素数が14〜20でかつ凝固点が−10℃以下のイソ脂肪族第1級アルコールが0.02〜1.0質量%の量で残存するように、脱揮工程終了時よりも前に、炭素数が14〜20でかつ凝固点が−10℃以下のイソ脂肪族第1級アルコールを添加する、スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の製造方法。
【0008】
(2)炭素数が14〜20でかつ凝固点が−10℃以下のイソ脂肪族第1級アルコールを、上記重合工程終了後かつ上記脱揮工程開始前に上記重合生成物に対して添加する、上記(1)に記載のスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の製造方法。
【0009】
(3)上記モノマー成分において、スチレンとメタクリル酸とメタクリル酸メチルとの合計質量100質量%中、スチレン含有量が69〜95質量%、メタクリル酸含有量が3〜16質量%、メタクリル酸メチル含有量が2〜15質量%である、上記(1)又は(2)に記載のスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の製造方法。
【0010】
(4)上記スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の重量平均分子量が10〜35万であり、かつZ平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比(Mz/Mw)が1.6〜3.5である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、長期連続生産性に優れ、ゲル不溶分の少ない外観と色調、及び機械的強度に優れたスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、スチレンとメタクリル酸とメタクリル酸メチルとをモノマー成分として用いて共重合を行う重合工程と、該重合工程で得た重合生成物中の未反応モノマー成分を除去するための脱揮処理を行ってスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂を回収する脱揮工程とを含み、該スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂中に、炭素数が14〜20でかつ凝固点が−10℃以下のイソ脂肪族第1級アルコールが0.02〜1.0質量%の量で残存するように、脱揮工程終了時よりも前に、炭素数が14〜20でかつ凝固点が−10℃以下のイソ脂肪族第1級アルコールを添加する、スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の製造方法を提供する。
【0013】
スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂を含むスチレン−メタクリル酸系樹脂は、工業的規模では、通常ほとんどラジカル重合で生産されているが、前述の特許文献1〜3に記載されているように、脱揮工程のゲル化反応を抑制するために種々のアルコールを重合工程に添加して重合を行なっている。脱揮工程は高温、高真空下の条件となるため、分子量が比較的小さく、沸点の高いアルコールは脱揮工程で短時間に飛散するため、ゲル化反応の抑制効果が小さい。特に脱揮工程から樹脂をストランド状(糸状の樹脂)に払い出し、ストランドカッターでペレタイズ化する場合、安定した樹脂の吐出を得るために脱揮工程内に一定量の樹脂を貯める場合がある。この時、ゲル化反応を抑制しきれずにゲル化物が発生し、このゲル化物が製品へ混入し、製品の外観不良となる場合がある。
【0014】
また脱揮工程において装置内にデッドスペースがある場合、樹脂の長期連続生産で、ゲル化反応を抑制しきれずにゲル化物が発生すると、このゲル化物が製品へ混入し、製品の外観不良となる場合がある。一方、分子量が大きく、沸点の低いアルコールは脱揮工程での飛散が少なく、樹脂中に残存しやすいためゲル化反応の抑制効果は高いが、分子量が大き過ぎると凝固点が高くなり、未反応単量体や重合溶媒を凝縮する凝縮器でアルコールが析出し、凝縮器や真空ラインを閉塞する場合があり好ましくない。凝縮器は通常−5〜10℃程度で運転される。
【0015】
本発明で用いられるイソ脂肪族第1級アルコールは、炭素数が14〜20のものである。炭素数が14未満では、脱揮工程において該アルコールが揮発しやすくゲル化反応の所望の抑制効果が低い。また該アルコールの添加量を増加させることで、脱揮工程の間の重合生成物系中のイソ脂肪族第1級アルコールの含有量を高めることができるが、この場合重合速度の低下や重合系(典型的には重合液)中の樹脂成分の析出を招来する場合があり好ましくない。一方、炭素数が20を超えると、ゲル化反応の抑制効果は得られるが、得られるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂中のイソ脂肪族第1級アルコールの残存量が多くなり、結果的には耐熱性の低下が大きくなり好ましくない。炭素数14のアルコールはイソテトラデカノール、炭素数16のアルコールはイソヘキサデカノール、炭素数18のアルコールはイソオクタデカノール、炭素数20のアルコールはイソエイコサノールであり、例えば、具体的に次のアルコール、7−メチル−2−(3−メチルブチル)−1−オクタノール、5−メチル−2−(1−メチルブチル)−1−オクタノール、5−メチル−2−(3−メチルブチル)−1−オクタノール、2−ヘキシル−1−デカノール、5,7,7−トリメチル−2−(1,3,3−トリメチルブチル)−1−オクタノール、8−メチル−2−(4−メチルヘキシル)−1−デカノール、2−ヘプチル−1−ウンデカノール、2−ヘプチルー4メチル−1−デカノール、2−(1,5−ジメチルヘキシル)−(5,9−ジメチル)−1−デカノール、を例として挙げることができる。この中でも、ゲル化反応の抑制効果と得られるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の耐熱性とを良好に両立する観点から、特に炭素数18のイソオクタデカノールが好ましい。
【0016】
本発明で用いられるイソ脂肪族第1級アルコールは、凝固点が−10℃以下のものである。イソ脂肪族第1級アルコールの凝固点が−10℃より高いと凝縮器の冷媒温度で該アルコールが析出する恐れがあり好ましくない。上記凝固点は、−15℃以下であることが好ましく、−20℃以下であることがより好ましい。なお上記凝固点は、JIS K0065で測定できる。
【0017】
本発明においては、炭素数14〜20でかつ凝固点が−10℃以下のイソ脂肪族第1級アルコールを脱揮工程終了時よりも前の時点で系中に添加する。該イソ脂肪族第1級アルコールは、製造工程を通じて1回のみ添加してもよいし2回以上に分けて添加してもよい。添加は、例えば、重合工程開始前、重合工程中、重合工程終了後かつ脱揮工程開始前、及び脱揮工程中のうち少なくとも1つの時点で実施できる。中でも、該イソ脂肪族第1級アルコールを重合工程終了後かつ脱揮工程開始前に重合生成物に対して添加することがスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の色調の点で特に好ましい。
【0018】
炭素数が14〜20で、かつ凝固点が−10℃以下のイソ脂肪族第1級アルコールの添加量は、脱揮工程で回収されたスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂100質量%中の該イソ脂肪族第1級アルコールの割合(すなわち該樹脂中に残存する該イソ脂肪族第1級アルコールの含有量の割合)が0.02〜1.0質量%、好ましくは0.04〜0.8質量%、より好ましくは0.06〜0.6質量%となるような量とする。上記含有量が0.02質量%未満となるような上記アルコール添加条件では、脱揮工程でのゲル化反応の抑制が不十分である。一方、上記含有量が1.0質量%を超えるような上記アルコール添加条件では、ゲル化反応の抑制効果は高くなるが、本発明によって製造されるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂中の上記イソ脂肪族第1級アルコールの残存量が多くなるため、結果的には耐熱性の低下が大きくなり好ましくなく、また本発明の製造方法によって得られるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂を用いた成形物の成形時にモールドデポジットの発生が見られる場合があり好ましくない。
【0019】
炭素数が14〜20でかつ凝固点が−10℃以下のイソ脂肪族第1級アルコールがスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂中に上記範囲の量で存在するような製造条件は、添加する上記アルコールの種類と量、上記アルコール添加後の脱揮工程の各種条件(温度、時間、圧力等)、及び最終反応器取出物の固形分量等を調整することにより設定できる。
【0020】
本発明において、メタクリル酸メチルは主として樹脂の機械的強度を向上させる役割を果たすが、更には耐候性、表面硬度等の特性の向上にも寄与している。スチレンとメタクリル酸とメタクリル酸メチルとの合計質量を100質量%としたときのメタクリル酸メチルの含有量は、2〜15質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜12質量%、更に好ましくは5〜10質量%である。上記含有量が2質量%未満では機械的強度の向上効果が低い傾向がある。また上記含有量が15質量%を超える場合は、得られるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の流動性が低くなる傾向及び該樹脂の吸水性が増加する傾向がある。
【0021】
本発明において、メタクリル酸は樹脂の耐熱性を向上させる役割を果たし、スチレンとメタクリル酸とメタクリル酸メチルとの合計質量を100質量%としたときのメタクリル酸の含有量は、3〜16質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜14質量%、更に好ましくは7〜12質量%である。上記含有量が3質量%未満では耐熱性向上の効果が低い傾向がある。また上記含有量が16質量%を超える場合は樹脂中のゲル化物が増加する傾向、並びに得られるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の流動性及び機械的物性が低くなる傾向がある。なお、メタクリル酸とメタクリル酸メチルとが隣接して結合した場合、高温、高真空の脱揮装置内で条件によっては脱メタノール反応が生じて前述の特許文献4に記載のある六員環酸無水物が形成される場合がある。本発明によって得られるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂はこの六員環酸無水物を含んでいてもよいが、該樹脂の流動性低下を大きくする観点で、樹脂中の六員環酸無水物の含有量はより少ない方が好ましい。
【0022】
本発明において得られるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂を重合するために用いるモノマー成分は、スチレン、メタクリル酸及びメタクリル酸メチルのみでもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で他のモノマー成分を併用してもよい。他のモノマー成分としては、アクリル酸、アクリル酸メチル等を例示できる。このような他のモノマー成分に由来する構造が含まれる共重合体も本発明のスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂に包含される。しかし、本発明の効果を得るために、上記他のモノマー成分の使用量は、用いる全モノマー成分100質量%中、典型的には10質量%以下であり、8質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。
【0023】
本発明の製造方法で得られるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の重量平均分子量は10〜35万であることが好ましく、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比(Mz/Mw)は1.6〜3.5であることが好ましい。上記重量平均分子量はより好ましくは13〜30万、更により好ましくは16〜25万である。上記重量平均分子量が10万未満の場合は樹脂の衝撃強度が低くなる傾向がある。一方、上記重量平均分子量が30万を超える場合は樹脂の流動性が低くなる傾向がある。該流動性は樹脂温度を上げることで高めることができるが、この場合ゲル化物が発生する場合がある。上記Mz/Mwの比はより好ましくは1.7〜3.0、更により好ましくは1.7〜2.5である。上記Mz/Mwが1.6未満の場合は樹脂の衝撃強度が低くなる傾向にあり、一方、3.5を超える場合は増加した高分子成分の影響で製品中にゲル化物が生じやすい傾向がある。なお上記Z平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスチレン換算にて測定される値である。
【0024】
<重合工程>
重合工程では、スチレンとメタクリル酸とメタクリル酸メチルとをモノマー成分として用い、これらを共重合させることによって、スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂を含む重合生成物を得る。本発明の重合工程におけるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の重合方法については、特に制限はないが、ラジカル重合法として、塊状重合法及び溶液重合法が好ましい。ここで、ラジカル重合法である塊状重合法を例に挙げて、本発明の重合方法について説明する。
【0025】
本発明では重合開始剤として、有機過酸化物、例えば2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタン、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)オクタン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1ービス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4ービス(t−ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシイソブロピル)ベンゼン等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジー2−エチルヘキシルペルオキシジカーボネート、ジーn−プロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t−ブチルペルオキシアセテート、t―ブチルペルオキシイソブチレート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、等のケトンペルオキシド類、t一ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルペルベンゼンヒドロペルオキシド、等のヒドロペルオキシド類等を使用できる。分解速度と重合速度の観点から、中でも、1,1ービス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが好ましい。
【0026】
本発明では連鎖移動剤として、例えばα−メチルスチレンリニアダイマー、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、1−フェニルー2−フルオレン、ジベンテン等を使用できる。
【0027】
必要に応じて用いられる重合溶媒としては、芳香族炭化水素類、例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジアルキルケトン類、例えばメチルエチルケトン等が挙げられ、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。更に、重合生成物の溶解性を低下させない範囲で、他の重合溶媒、例えば脂肪族炭化水素類等を芳香族炭化水素類に混合することができる。これらの重合溶媒は、単量体100質量%に対して、25質量%を超えない範囲で使用するのが好ましい。重合溶媒の量が25質量%を超えると、重合速度の低下が顕著になる傾向があり、かつ、得られるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の衝撃強度の低下が大きくなる傾向がある。また、重合溶媒の回収のために多量のエネルギーを要するため経済性が低くなる傾向がある。重合溶媒は、重合が進み、比較的高粘度になってから添加してもよいし、あるいは重合前から添加しておいてもよいが、重合前に、単量体100質量%に対して5〜20質量%の割合で添加しておく方が、品質が均一化し易く、重合温度制御の点でも好ましい。
【0028】
また、一般的な安定剤として、例えばオクタデシル−3−(3,5−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール等のヒンダートフェノール系酸化防止剤、トリス(2,4−ジ−ターシャリーブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工熱安定剤等を使用できる。これらの安定剤はそれぞれ単独あるいは2種以上を組み合わせて適宜使用できる。添加時期については、特に制限はなく、重合工程及び脱揮工程のいずれでもよい。また、押出機やバンバリミキサー等の機械的装置内で樹脂製品に対して安定剤を混合添加することもできる。
【0029】
本発明においては、重合工程で用いる装置は、特に制限はなく、スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の重合方法に従って適宜選択すれば良い。例えば、塊状重合による場合には、完全混合型反応器を1基又は複数基連結した重合装置を用いることができる。
【0030】
重合工程における重合条件は所望の樹脂に応じて適宜設定できるが、例えば、典型的な温度及び時間の条件としては、重合温度は80〜150℃、重合時間は4〜9時間を例示できる。
【0031】
<脱揮工程>
脱揮工程では、上述の重合工程で得た重合生成物中の未反応モノマー成分を除去するための脱揮処理を行って、本発明に係るスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂を回収する。重合工程において上述の重合溶媒を用いる場合等、未反応モノマー成分以外の揮発成分が重合生成物中に存在する場合には、脱揮工程において未反応モノマー成分とともにこのような揮発成分も除去される。なお本発明は、脱揮工程を経た後に得られるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂中に未反応モノマー成分、重合触媒等の揮発成分が残存することを排除するものではなく、また、本発明によって得られるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂中には、製造工程上の必要性に応じて使用される成分、例えば重合開始剤、連鎖移動剤、加工熱安定剤等が残存していてもよい。
【0032】
脱揮工程を行う方法には特に制限はなく、例えば上述の重合工程を塊状重合で行う場合、未反応モノマー成分の量が仕込みモノマー成分の好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下になるまで重合を進め、かかる未反応モノマー成分を除去するために、公知の方法にて脱揮処理を行う。脱揮処理には、例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができるが、滞留部の少ない脱揮装置が好ましい。なお、脱揮処理の温度は、通常、190〜280℃程度であり、メタクリル酸とメタクリル酸メチルとの隣接結合による六員環酸無水物の形成を抑制する観点から、190〜260℃がより好ましい。また脱揮処理の圧力は通常0.13〜4kPa程度、好ましくは0.13〜3kPaであり、より好ましくは0.13〜2.0kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して揮発分を除去する方法や、揮発分除去の目的で設計された押出機等を通して揮発分を除去する方法が望ましい。
【0033】
脱揮工程の終了時は、例えば脱揮装置から樹脂が大気下に排出された時点であることができる。
【0034】
本発明の製造方法で得られるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂を各種用途に用いる際には、所望に応じて、樹脂の特性向上のために通常用いられている添加剤、例えば滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、可塑剤、染料、顔料、各種充填剤等が添加された樹脂組成物として用いることができる。また本発明の製造方法によるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の製造時に上述のような各種添加剤を添加してもよく、この場合、本発明に係るスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂は、添加剤と組合された樹脂組成物として回収される。
【0035】
また本発明の製造方法で得られるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂は、他の樹脂、例えば一般のポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合エラストマー、部分的にまたは完全に水素添加されたスチレン−ブタジエン共重合エラストマー、ポリフェニレンエーテル等と組合せて用いることができる。
【0036】
本発明の製造方法において得られるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂は、ゲル不溶分の少ない外観と色調に優れ、液晶テレビ用の拡散板、耐熱発泡トレー、容器等に好適に使用でき、更にはハイインパクトPSとのブレンドで衝撃強度を高めた樹脂は射出成形品や押出シート容器等に好適に使用できる。特に本発明の製造方法で得られるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の色調の良さは、輝度等の要求の厳しい液晶テレビ用の拡散板用途に適する。
【0037】
次に本発明を実施例及び比較例により詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における樹脂ペレット及び成形品の分析及び評価の方法は下記の通りである。
【0038】
(1)樹脂ペレット中のイソ脂肪族第1級アルコールの測定
ガスクロマトグラフィー法でイソ脂肪族第1級アルコールを定量した。
試料調製 :樹脂ペレット0.5gをメチルエチルケトン20mlに溶解
測定条件
検出方法 :FID(水素炎イオン化検出器)
測定機器 :島津製製作所製ガスクロマトグラフィー装置 GC2010
カラム :DB−WAX 30m、0.25mmφ、df=0.5μm
カラム温度 :100℃→5℃/分で昇温→130℃→10℃/分で昇温→180℃(12分維持)→20℃/分で昇温→220℃(20分維持)
【0039】
(2)樹脂ペレット中のメタクリル酸及びメタクリル酸メチルの測定
プロトン核磁気共鳴(1H−NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から、樹脂組成を定量した。
試料調製 :樹脂ペレット30mgをd6−DMSO 0.75mlに60℃、4〜6時間加熱溶解
測定機器 :日本電子 JNM ECA−500
測定条件 :測定温度 25℃、観測核 1H、積算回数 64回 繰り返し時間 11秒
【0040】
ジメチルスルホキシド重溶媒中で測定されたスペクトルの帰属は、0.5〜1.5ppmのピークは、スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂中のメタクリル酸単位、メタクリル酸メチル単位及び六員環酸無水物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチル単位のカルボン酸エステル(−COOCH3)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸単位のカルボン酸の水素である。6.5〜7.5ppmのピークはスチレン単位の芳香族環の水素である。なお、本発明で得られるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂中の六員環酸無水物の含有量は、通常本測定の方法での定量限界未満である。
【0041】
(3)樹脂ペレット中のゲル不溶分の測定
50mlガラス容器に樹脂ペレット2gを入れ、メチルエチルケトン20mlに振とう器で溶解させ、2時間静置後、ゲル不溶分の発生度合いを目視で観察した。ゲル不溶分がガラス容器に見られない場合を◎、ゲル不溶分がガラス容器の底のみに見られる場合を○、ゲル不溶分がガラス容器の底を含め、ガラス容器全体に見られる場合を×とした。
【0042】
(4)Y.I(Yellow.Index)の測定
樹脂ペレットを用い、射出成形機で、厚さ2.5mmのプレート状の成形品を作製し、日本電色工業社製の色差・濁度測定機 COH−300Aで、JIS K7105に準拠して測定した。
【0043】
(5)ビカット軟化温度の測定
樹脂ペレットを用い射出成形機で作製した成形品を試験片として、ISO306に準拠して測定した。荷重は49Nとした。
【0044】
(6)重量平均分子量(Mw)及びZ平均分子量(Mz)の測定
以下の方法で測定した。
試料調製 :テトラヒドロフランに樹脂ペレットを約0.05質量%濃度となるよう溶解
測定条件
機器 :TOSOH HLC−8220GPC
(ゲルパーミエイション・クロマトグラフィー)
カラム :super HZM−H
温度 :40℃
キャリア :THF 0.35ml/min
検出器 :RI 、UV:254nm
検量線 :TOSOH製の標準PS使用
【0045】
(7)シャルピー衝撃強さの測定
樹脂ペレットを用い射出成形機で作製した成形品を試験片として、ISO179に準拠して、ノッチ無しで測定した。
【0046】
(8)樹脂押出時のストランド出口汚れの判定
樹脂ペレットを用い、30mmφ短軸押出機での連続3時間押出し後、ステアリルアルコール等の低分子物質によるストランド出口汚れを目視で判定した。汚れが無い場合(具体的には、ストランド出口の周りの低分子物質の付着が厚みで1mm以下である場合)を○、汚れが有る場合(具体的には、ストランド出口の周りに低分子物質が厚みで1mm超付着した場合)を×とした。
【0047】
[実施例1〜7]
表1に示す重合原料組成液を、1.2リットル/時の速度で、容量が4リットルの完全混合型反応器、次いで2リットルの層流型反応器からなる重合装置、次いで未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置に連続的に順次供給し、7日間の連続重合を行った。なお重合原料液に添加した炭素数16のイソ脂肪族第1級アルコールとして日産化学工業社製ファインオキソコール1600(7−メチル−2−(3−メチルブチル)−1−オクタノール)を用い(凝固点−30℃以下)、また炭素数18のイソ脂肪族第1級アルコールとして日産化学工業社製ファインオキソコール180(5,7,7−トリメチル−2−(1,3,3−トリメチルブチル)−1−オクタノール)を用いた(凝固点−30℃以下)。重合工程における重合反応条件は、完全混合反応器は重合温度122〜127℃、層流型反応器は温度125〜140℃とした。脱揮された未反応ガスは−5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収した。7日間の連続重合の後、本発明に係るスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂を樹脂ペレットとして採取して評価した。表1に重合原料組成及び評価結果を示す。
【0048】
[実施例8]
実施例2における層流型反応器(最終反応器)と単軸押出機との間に0.05リットルの攪拌機付き混合器を設置し、イソ脂肪族第1級アルコールの添加位置を、重合原料組成液への添加から攪拌機付き混合器内での添加に変更した以外は、実施例2と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0049】
[比較例1]
実施例2における炭素数18のイソ脂肪族第1級アルコールの添加量を0.32質量部から0.04質量部に変更した以外は、実施例2と同様に実施した。評価結果を表1に示す。樹脂ペレット中のアルコールの含有量が0.01質量%と少なく、ゲル不溶分が多数見られた。
【0050】
[比較例2]
実施例2における、エチルベンゼンを15質量部から20質量部に、炭素数18のイソ脂肪族第1級アルコールの添加量を0.32質量部から4.72質量部にそれぞれ変更した以外は、実施例2と同様に実施した。評価結果を表1に示す。樹脂ペレット中のアルコールの含有量が1.5質量%と多く、ゲル不溶分は見られなかったが、ストランド出口汚れが激しかった。また樹脂ペレット中のアルコールの含有量が多いためにビカット軟化温度の低下も大きい。
【0051】
[比較例3]
実施例2における、炭素数18のイソ脂肪族第1級アルコールを2エチルヘキシルアルコールに変更し、添加量を0.32質量部から6.52質量部に変更した以外は、実施例2と同様に実施した。評価結果を表1に示す。2エチルヘキシルアルコールの添加量を大幅に増量したが、樹脂ペレット中のアルコールの含有量が0.01質量%と少なく、ゲル不溶分が多数見られた。またアルコール添加量の増量により重合速度が低下した。更には、反応器の攪拌機の電力負荷上昇が観察されたことから重合液の粘度が上昇する傾向にあり好ましくないことが分かった。
【0052】
[比較例4]
実施例2における、炭素数18のイソ脂肪族第1級アルコールをn−ステアリルアルコールに変更し、添加量を0.32質量部から0.58質量部に変更した以外は、実施例2と同様に実施した。評価結果を表1に示す。運転開始から2.5日間経過したところで、未反応モノマー及び重合溶媒を凝縮するための凝縮器内に飛散したn−ステアリルアルコールが析出し、凝縮器内管を閉塞させ、真空度低下が見られた。予備器の凝縮器に換えて、連続運転を継続した。閉塞した凝縮器についてはスチーム加熱で析出物を融解し元の詰りのない状態に戻した。この2台の凝縮器を交互に使用して、7日間の連続運転を行った。評価結果を表1に示す。
【0053】
[比較例5]
実施例2における、メタクリル酸メチルをスチレンに置き換え、メタクリル酸メチルを使用せずに、炭素数18のイソ脂肪族第1級アルコールの添加量を0.32質量部から1.51質量部に変更した以外は、実施例2と同様に実施した。評価結果を表1に示す。メタクリル酸メチルを使用しない場合、シャルピー衝撃強度が劣る。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の製造方法によれば、ゲル化物の発生を低減し、外観、色調及び機械的強度に優れた樹脂を長期連続生産することができる。本発明の製造方法で得られる樹脂は耐熱性、色調、成形性及び機械的強度に優れ、該樹脂は押出板、押出シート(発泡又は非発泡)、射出成形等による成形品の材料として好適に用いることができる。更に、本発明によって得られるスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂は、電気製品部品、玩具、雑貨、日用品及び各種工業部品等の用途にも幅広く使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンとメタクリル酸とメタクリル酸メチルとをモノマー成分として用いて共重合を行う重合工程と、
該重合工程で得た重合生成物中の未反応モノマー成分を除去するための脱揮処理を行ってスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂を回収する脱揮工程と、
を含み、
該スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂中に、炭素数が14〜20でかつ凝固点が−10℃以下のイソ脂肪族第1級アルコールが0.02〜1.0質量%の量で残存するように、脱揮工程終了時よりも前に、炭素数が14〜20でかつ凝固点が−10℃以下のイソ脂肪族第1級アルコールを添加する、スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の製造方法。
【請求項2】
炭素数が14〜20でかつ凝固点が−10℃以下のイソ脂肪族第1級アルコールを、前記重合工程終了後かつ前記脱揮工程開始前に前記重合生成物に対して添加する、請求項1に記載のスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記モノマー成分において、スチレンとメタクリル酸とメタクリル酸メチルとの合計質量100質量%中、スチレン含有量が69〜95質量%、メタクリル酸含有量が3〜16質量%、メタクリル酸メチル含有量が2〜15質量%である、請求項1又は2に記載のスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の重量平均分子量が10〜35万であり、かつZ平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比(Mz/Mw)が1.6〜3.5である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2010−270179(P2010−270179A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121000(P2009−121000)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(500199479)PSジャパン株式会社 (45)
【Fターム(参考)】