説明

スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法

【課題】スチレン−(メタ)アクリル樹脂を液相条件及び固相条件のいずれの条件下でも、スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解に基づく二酸化炭素の発生を実質的に抑制し、効率よく安価に分解しうるスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法並びにスチレン−(メタ)アクリル樹脂を含む廃棄物を、液相条件及び固相条件のいずれの条件下でも、効率よく安価に処理することができ、該廃棄物中のスチレン−(メタ)アクリル樹脂を優先的に処理しうる廃棄物の処理方法及び廃棄物処理剤を提供すること。
【解決手段】アスペルギルス テレウス及び/又はアスペルギルス ゾミイと、スチレン−(メタ)アクリル樹脂とを接触させるスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法、該アスペルギルス テレウス及び/又はアスペルギルス ゾミイと、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を含む廃棄物とを接触させる廃棄物の処理方法並びにアスペルギルス テレウス及び/又はアスペルギルス ゾミイを含有する廃棄物処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法に関する。さらに詳しくは、スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法、該スチレン−(メタ)アクリル樹脂を含む廃棄物の処理方法および廃棄物処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性樹脂、合成樹脂などは、一般的に、成形加工などを施すことが容易であり、比較的安価であり、かつ優れた耐久性を示すため、機器の部品、容器、衣類などの材料として種々の用途に用いられている。なかでも、ポリ乳酸などの生分解性樹脂は、自然界での分解が容易であるため、環境への負荷の低減の観点から、種々の用途に用いられている。
【0003】
一方、前記部品などに、ポリウレタン、スチレン−アクリル樹脂などの合成樹脂が含まれている場合、該合成樹脂は、多くの場合、焼却、埋め立てなどにより処理され、廃棄されている。しかしながら、前記焼却により前記合成樹脂を処理する場合、高温での焼却に耐える設備が必要なため、多大な設備投資を要するとともに、焼却に際し、多大な運転費用を要することがある。さらに、前記焼却による処理には、前記合成樹脂を焼却したときに、多量の二酸化炭素を発生するため、環境への負荷が大きくなるという欠点がある。また、前記埋め立てによる処理には、広大な埋め立て用地を要するという欠点がある。
【0004】
前記合成樹脂のうち、例えば、スチレン−アクリル樹脂については、シュードモナス属に属する微生物を含有する混合微生物培養物またはシュードモナス ボレオポリス(Pseudomonas boreopolis)を含有する微生物培養物を用いて分解する方法による処理が試みられている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0005】
しかしながら、前記方法は、スチレン−アクリル樹脂の分解に際し、固相条件下での実施が困難であるという欠点がある。また、混合微生物培養物の保存方法および調製方法によって、混合微生物培養物中の特定微生物の構成比率が低下する場合がある。したがって、前記混合微生物培養物を用いてスチレン−アクリル樹脂を分解する方法では、スチレン−アクリル樹脂の分解力を安定して維持することが困難であるという欠点がある。
【特許文献1】特開2005−224223号公報
【特許文献2】特開2006−340668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、液相条件および固相条件のいずれの条件下であっても、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を効率よく分解すること、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を簡便な操作で分解すること、スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解に際して、二酸化炭素を実質的に発生しないことなどのうちの少なくとも1つを達成しうるスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、液相条件および固相条件のいずれの条件下であっても、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を含む廃棄物を効率よく処理すること、該廃棄物を安価に処理すること、該廃棄物中のスチレン−(メタ)アクリル樹脂を選択的に分解することなどのうちの少なくとも1つを達成しうる廃棄物の処理方法を提供することを目的とする。
【0008】
さらに、本発明は、液相条件および固相条件のいずれの条件下であっても、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を含む廃棄物を効率よく処理すること、該廃棄物を安価に処理すること、該廃棄物中のスチレン−(メタ)アクリル樹脂を選択的に分解すること、該廃棄物中のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解に際して、二酸化炭素を実質的に発生しないことなどのうちの少なくとも1つを達成しうる廃棄物処理剤を提供することを目的とする。本発明の他の課題は、本明細書の記載より明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、
〔1〕 アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイと、スチレン−(メタ)アクリル樹脂とを接触させることを特徴とするスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法、
〔2〕 アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイと、スチレン−(メタ)アクリル樹脂とを固相条件下に接触させる前記〔1〕記載のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法、
〔3〕 アスペルギルス テレウスがアスペルギルス テレウス(Aspergillus terreus)ATCC 10020であり、アスペルギルス ゾミイがアスペルギルス ゾミイ(Aspergillus thomii)ATCC 16859である前記〔1〕または〔2〕記載のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法、
〔4〕 アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイと、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を含む廃棄物とを接触させることを特徴とする廃棄物の処理方法、ならびに
〔5〕 アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイを含有する廃棄物処理剤
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法によれば、液相条件および固相条件のいずれの条件下であっても、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を効率よく分解すること、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を簡便な操作で分解すること、スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解に際して、二酸化炭素を実質的に発生しないことなどのうちの少なくとも1つを達成することができるという優れた効果が奏される。
【0011】
また、本発明の廃棄物の処理方法によれば、液相条件および固相条件のいずれの条件下であっても、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を含む廃棄物を効率よく処理すること、該廃棄物を安価に処理すること、該廃棄物中のスチレン−(メタ)アクリル樹脂を選択的に分解することなどのうちの少なくとも1つを達成することができるという優れた効果が奏される。
【0012】
さらに、本発明の廃棄物処理剤によれば、液相条件および固相条件のいずれの条件下であっても、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を含む廃棄物を効率よく処理すること、該廃棄物を安価に処理すること、該廃棄物中のスチレン−(メタ)アクリル樹脂を選択的に分解すること、該廃棄物中のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解に際して、二酸化炭素を実質的に発生しないことなどのうちの少なくとも1つを達成することができるという優れた効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、1つの側面では、アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイと、スチレン−(メタ)アクリル樹脂とを接触させることを特徴とするスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法に関する。
【0014】
本発明のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法は、該スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解に際して、アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイが用いられている点に1つの大きな特徴がある。したがって、本発明のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法によれば、液相条件および固相条件のいずれの条件下であっても、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を効率よく分解することができるという優れた効果が奏される。また、本発明のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法によれば、該スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解に際して、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイが用いられているため、より簡便な操作で、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を効率よく分解することができるという優れた効果が奏される。さらに、本発明のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法によれば、スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解に際して、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイが用いられているため、該スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解に際して、二酸化炭素を実質的に発生しないという優れた効果が奏される。したがって、本発明のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法によれば、例えば、該スチレン−(メタ)アクリル樹脂の焼却処理を行なう場合と比べて、環境への負荷をより一層低減させることができるという優れた効果が奏される。
【0015】
本明細書において、「スチレン−(メタ)アクリル樹脂」は、スチレン−アクリル樹脂およびスチレン−メタクリル樹脂を包含することを意味する。前記スチレン−(メタ)アクリル樹脂としては、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイによるスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解を効率よく行なうことができるものであればよく、特に限定されないが、例えば、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。
【0016】
本明細書において、前記「スチレン−アクリル酸エステル共重合体」とは、スチレンまたはスチレン誘導体と、アクリル酸エステルとを共重合させることによって得られる共重合体をいう。かかる共重合体は、ランダム共重合体およびブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0017】
前記スチレン誘導体としては、特に限定されないが、例えば、メチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、tert−ブチルスチレン、イソブチルスチレン、ペンチルスチレンなどのアルキルスチレンなどが挙げられる。
【0018】
前記アクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、アルキル基の炭素数が1〜10のアクリル酸アルキルエステル、アクリル酸フェニルエステルなどが挙げられる。前記アクリル酸アルキルエステルとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
【0019】
前記スチレン−アクリル酸エステル共重合体としては、具体的には、特に限定されないが、例えば、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−アクリル酸オクチル共重合体、スチレン−アクリル酸フェニル共重合体、スチレン−アクリル酸エチルヘキシル共重合体、スチレン−アクリル酸n−ブチル−アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体などが挙げられる。
【0020】
本明細書において、前記「スチレン−メタクリル酸エステル共重合体」とは、スチレンまたは前記スチレン誘導体と、メタクリル酸エステルとを共重合させることによって得られる共重合体をいう。かかる共重合体は、ランダム共重合体およびブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0021】
前記メタクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、アルキル基の炭素数が1〜10のメタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸フェニルなどが挙げられる。前記メタクリル酸アルキルエステルとしては、特に限定されないが、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
【0022】
前記スチレン−メタクリル酸エステル共重合体としては、具体的には、特に限定されないが、例えば、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン−メタクリル酸フェニル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチルヘキシル共重合体などが挙げられる。
【0023】
なお、前記スチレン−(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量、重合度などは、いずれも、本発明の分解方法に用いられる微生物により分解できる範囲であればよい。
【0024】
本発明の分解方法に用いられるアスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイは、それぞれ、スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解能を発現する微生物である。本明細書において、前記微生物におけるスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解能は、例えば、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を添加した培地〔スチレン−(メタ)アクリル樹脂含有液体培地〕での該微生物の培養前後の濁度の変化、該微生物の培養前後のスチレン−(メタ)アクリル樹脂からなる薄膜〔スチレン−(メタ)アクリル樹脂薄膜〕またはスチレン−(メタ)アクリル樹脂からなるプレート〔スチレン−(メタ)アクリル樹脂プレート〕の外観上の変化、該微生物の培養後のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解生成物の有無などにより評価されるものである。
【0025】
前記スチレン−(メタ)アクリル樹脂含有液体培地の濁度の変化に基づくスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解能の評価は、特に限定されないが、例えば、
(1) スチレン−(メタ)アクリル樹脂含有液体培地を調製し、該培地の濁度を測定するステップ、
(2) 前記ステップ(1)で得られた培地で、評価対象微生物を培養するステップ、
(3) 前記ステップ(2)を行なった後に得られた培地の濁度を測定するステップ、および
(4) 前記ステップ(1)で測定された濁度と、前記ステップ(2)で測定された濁度とを比較するステップ
を含む評価方法により行なわれうる。かかる評価方法では、ステップ(1)で得られた培地(培養前の培地)の濁度と比べて、培養後の濁度が低下していること(例えば、スチレン−(メタ)アクリル樹脂含有液体培地の透明化など)が、評価対象微生物がスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解能を有する可能性がある微生物であることの指標として用いられる。かかる評価方法に用いられる培地が、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を唯一の炭素源とする培地である場合、スチレン−(メタ)アクリル樹脂含有液体培地中における評価対象微生物の生育の有無を調べることにより、より容易に、評価対象微生物がスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解能を有する可能性がある微生物であるか否かの評価を行なうことができる。なお、前記スチレン−(メタ)アクリル樹脂乳化液は、スチレン−(メタ)アクリル樹脂粉末と、溶媒、例えば、ジクロロメタンなどとの混合物と、蒸留水と界面活性剤との混合物とを混合し、得られた混合物を攪拌して、乳化させ、得られた生成物を濾別した濾液から前記溶媒を除去することなどにより得られうる。
【0026】
また、スチレン−(メタ)アクリル樹脂薄膜またはスチレン−(メタ)アクリル樹脂プレートの外観の変化に基づくスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解能の評価は、特に限定されないが、例えば、
(1’) スチレン−(メタ)アクリル樹脂薄膜またはスチレン−(メタ)アクリル樹脂プレートの外観を観察するステップ、
(2’) 前記ステップ(1’)で用いられたスチレン−(メタ)アクリル樹脂薄膜またはスチレン−(メタ)アクリル樹脂プレートとともに、評価対象微生物を培養するステップ、
(3’) 前記ステップ(2’)を行なった後にスチレン−(メタ)アクリル樹脂薄膜またはスチレン−(メタ)アクリル樹脂プレートが存在している場合、得られたスチレン−(メタ)アクリル樹脂薄膜またはスチレン−(メタ)アクリル樹脂プレートの外観を観察するステップ、および
(4’) 前記ステップ(1’)で観察されたスチレン−(メタ)アクリル樹脂薄膜またはスチレン−(メタ)アクリル樹脂プレートの外観と、前記ステップ(2’)で観察されたスチレン−(メタ)アクリル樹脂薄膜またはスチレン−(メタ)アクリル樹脂プレートの外観との間を比較するステップ
を含む評価方法により行なわれうる。かかる評価方法では、ステップ(2’)の後(培養後)にスチレン−(メタ)アクリル樹脂薄膜またはスチレン−(メタ)アクリル樹脂プレートが消失していること、ステップ(1’)で観察されたスチレン−(メタ)アクリル樹脂薄膜またはスチレン−(メタ)アクリル樹脂プレート(培養前の薄膜またはプレート)と比べ、ステップ(3’)で観察されたスチレン−(メタ)アクリル樹脂薄膜またはスチレン−(メタ)アクリル樹脂プレート(培養後の薄膜またはプレート)の表面が粗くなっていることなどが、評価対象微生物がスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解能を有する微生物であることの指標として用いられる。前記スチレン−(メタ)アクリル樹脂薄膜は、例えば、スチレン−(メタ)アクリル樹脂粉末を適切な溶媒(例えば、ジクロロメタンなど)に溶解させ、スチレン−(メタ)アクリル樹脂溶液を得、得られたスチレン−(メタ)アクリル樹脂溶液を、適切な固体培地(例えば、ポテトデキストロース固体培地など)に重層し、その後、乾燥させて該溶媒(例えば、ジメチルメタン)を除去することなどにより製造されうる。
【0027】
さらに、スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解生成物の有無に基づくスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解能の評価は、特に限定されないが、例えば、
(A) 前記評価対象微生物を、スチレン−(メタ)アクリル樹脂含有液体培地で培養するステップ、
(B) 前記ステップ(A)を行なった後に得られた培地中のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解生成物などを、適切な溶媒(例えば、ジクロロヘキサンなど)で抽出するステップ、
(C) 前記ステップ(B)で得られた抽出物を、適切な溶媒〔例えば、組成:n−ヘキサン/トルエン(体積比)=2/8の溶媒など〕に溶解させて、分析用試料を得るステップ、および
(D) 前記ステップ(C)で得られた分析用試料を、クロマトグラフィー、例えば、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなどに供し、展開溶媒(例えば、n−ヘキサンなど)で展開させ、スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解生成物それぞれに対応するスポット、ピークなどを検出するステップ
を含む評価方法により行なわれうる。かかる評価方法では、スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解生成物それぞれに対応するスポット、ピークなどが存在することが、評価対象微生物がスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解能を有する微生物であることの指標として用いられる。
【0028】
前記アスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイは、それぞれ、固相条件下において、スチレン−(メタ)アクリル樹脂に対して高い分解能を発揮するという優れた性質を発現する。また、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイは、例えば、シュードモナス属の微生物などの細菌または混合微生物培養物に比べて、簡便な方法で、スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解能を安定的に維持しながら保存することができる点で有利である。前記アスペルギルス トレウスとしては、特に限定されないが、例えば、タイプカルチャーであるアスペルギルス トレウス ATCC 10020(IAM 2054)などが挙げられる。また、前記アスペルギルス ゾミイとしては、特に限定されないが、例えば、タイプカルチャーであるアスペルギルス ゾミイ ATCC 16859(IAM 2759)などが挙げられる。前記アスペルギルス トレウス ATCC 10020(IAM 2054)およびアスペルギルス ゾミイ ATCC 16859(IAM 2759)は、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を効率よく分解させる点で好ましい。
【0029】
本発明のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法では、前記アスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイを混合して用いてもよく、該アスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイをそれぞれ単独で用いてもよい。
【0030】
また、前記アスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイは、それぞれ、本発明の目的を妨げないものであれば、いかなる形態であってもよい。本発明の分解方法では、前記スチレン−(メタ)アクリル樹脂を固相条件下でより効率よく分解する観点から、前記アスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイは、それぞれ、菌糸体であることが望ましい。
【0031】
前記菌糸体は、例えば、前記アスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイそれぞれを、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を含有した適切な液体培地で培養し、得られた培養物を濾過することなどにより調製されうる。
【0032】
前記菌糸体の調製に用いられる液体培地としては、アスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイそれぞれが生育できる培地であればよく、特に限定されないが、例えば、グルコースを0.1〜10質量%(例えば、3.6質量%)、硝酸ナトリウムを0.05〜2質量%(例えば、0.2質量%)、塩化カリウムを0.01〜0.5質量%(例えば、0.05質量%)、リン酸二水素カリウムを0.01〜1質量%(例えば、0.1質量%)、硫酸マグネシウム七水和物を、0.01〜0.5質量%(例えば、0.05質量%)、硫酸鉄七水和物を0.0001〜0.01質量%(例えば0.001質量%)を含有し、pH5.0〜8.0(例えば、pH6.5)の培地、市販の培地などが挙げられ、具体的には、例えば、Czapek−dox液体培地、ポテトデキストロース培地(例えば、ディフコ社製)などが挙げられる。前記液体培地は、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を0.01〜2質量%(例えば、0.1質量%)を含有していてもよい。また、本発明では、前記液体培地として、スチレン−(メタ)アクリル樹脂含有ミネラル液体培地〔組成:スチレン−(メタ)アクリル樹脂を0.01〜2質量%、塩化アンモニウムを0.1〜10質量%(例えば、1質量%)、リン酸二水素カリウムを0.01〜1質量%(例えば、0.1質量%)、リン酸水素二カリウムを0.005〜0.5質量%(例えば、0.05質量%)、硫酸マグネシウム七水和物を0.005〜0.5質量%(例えば、0.05質量%)、塩化ナトリウムを0.02〜2.0質量%(例えば、0.2質量%)、塩化亜鉛を0.0001〜0.01質量%(例えば、0.001質量%)、硫酸鉄七水和物を0.0001〜0.01質量%(例えば、0.001質量%)、塩化カルシウムを0.0001〜0.01質量%(例えば、0.001質量%)、pH5.0〜8.0(例えば、pH7.0)〕を用いてもよい。前記菌糸体の調製に用いられる培地が、スチレン−(メタ)アクリル樹脂が添加された培地である場合、菌糸体の調製とともに、得られる菌糸体がスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解能を発現していることを容易に確認することができるという利点がある。
【0033】
前記菌糸体の調製に際して、前記アスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイそれぞれの培養温度は、該アスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイそれぞれの生育可能な温度範囲であればよく、特に限定されないが、該微生物の生育状態を良好に維持する観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは23℃以上であり、同様に、該微生物の生育状態を良好に維持する観点から、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは28℃以下であること(例えば、24℃など)が望ましい。
【0034】
また、前記菌糸体の調製に際して、前記アスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイそれぞれの培養時間は、該アスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイそれぞれが菌糸体の状態となるのに適した時間であればよい。
【0035】
前記液相条件としては、特に限定されないが、例えば、前記アスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイそれぞれの生育に適した液体培地存在下に該アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイとスチレン−(メタ)アクリル樹脂とを接触させ、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイの生育に適した条件下でインキュベーションする条件などが挙げられる。
【0036】
前記液相条件下に、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイとスチレン−(メタ)アクリル樹脂とを接触させる場合、該微生物とスチレン−(メタ)アクリル樹脂との接触を効率よく行なう観点から、該アスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイそれぞれの生育を妨げない適切な溶媒〔例えば、0.025質量%プライサーフ A−210G(第一工業製薬株式会社製)など〕に分解対象となるスチレン−(メタ)アクリル樹脂を懸濁させることによって得られるスチレン−(メタ)アクリル樹脂乳化液を該アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイの生育に適した微生物生育用液体培地に添加することによって得られるスチレン−(メタ)アクリル樹脂含有液体培地を用いることが好ましい。
【0037】
また、液相条件下に、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイとスチレン−(メタ)アクリル樹脂とを接触させる場合、前記スチレン−(メタ)アクリル樹脂含有液体培地中のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の濃度は、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイによる該スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解効率をより高める観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%であり、該微生物の生育に最適なスチレン−(メタ)アクリル樹脂濃度を維持する観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%であること(例えば、0.1質量%など)が望ましい。
【0038】
前記液相条件下に、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイとスチレン−(メタ)アクリル樹脂とを接触させる場合、液相のpHは、微生物の生育を良好に行なう観点から、3.0以上、より好ましくは4.0以上、さらに好ましくは5.0以上であり、スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解を良好に行なう観点から、好ましくは9.0以下、より好ましくは8.0以下、さらに好ましくは7.0以下であることが望ましい。
【0039】
前記微生物生育用液体培地としては、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイの生育に適したものであればよく、特に限定されないが、例えば、ポテトデンプンとグルコースとを含有する液体培地、スクロースまたはグルコースと硝酸ナトリウムと無機塩とを含有する液体培地などが挙げられる。前記微生物生育用液体培地は、酵母エキス、ポリペプトン、麦芽エキスなどをさらに含有してもよい。前記微生物生育用液体培地としては、具体的には、例えば、好ましくは最終濃度2〜5質量%(例えば、3質量%など)のスクロースまたはグルコースと、好ましくは最終濃度0.1〜0.5質量%(例えば、0.3質量%など)の硝酸ナトリウムと、好ましくは最終濃度0.02〜0.07質量%(例えば、0.05質量%など)の硫酸マグネシウムと、好ましくは最終濃度0.02〜0.07質量%(例えば、0.05質量%など)の塩化カリウムと、好ましくは0.0005〜0.002質量%(例えば、0.001質量%など)の硫酸鉄(III)と、好ましくは最終濃度0.05〜0.2質量%(例えば、0.1質量%など)のリン酸水素二カリウムとを含有する培地〔好ましくは、pH5.5〜7.5、より好ましくは、pH6.6〜7.0(例えば、pH6.8など)〕(Czapek−Dox液体培地);好ましくは最終濃度0.1〜0.4質量%(例えば、0.3質量%など)の硫酸ナトリウムと、好ましくは最終濃度0.1〜0.3質量%(例えば、0.2質量%など)の塩化カリウムと、好ましくは最終濃度0.05〜0.2質量%(例えば、0.1質量%)のリン酸二水素カリウムと、好ましくは最終濃度0.02〜0.1質量%(例えば、0.05質量%など)の硫酸マグネシウム七水和物とを含有する液体培地〔好ましくは、pH5.5〜7.5(例えば、pH6.5など)〕などが挙げられる。
【0040】
前記固相条件としては、分解対象となるスチレン−(メタ)アクリル樹脂を固体状態で、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイと接触させて、前記微生物の生育に適した条件下にインキュベーションする条件;スチレン−(メタ)アクリル樹脂を固体状態で、オガクズ、小麦ふすま、軽石、活性炭、籾殻などの糸状菌の生育の足場となる基材の存在下に前記微生物と接触させて、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイの生育に適した条件下にインキュベートする条件などが挙げられる。本発明の分解方法において、前記固相条件下にアスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイとスチレン−(メタ)アクリル樹脂とを接触させる場合、本発明の分解方法によれば、スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解を、低コストで、単純な設備で、簡便な操作で、より効率よく行なうことができる。なお、前記固相条件下に、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイとスチレン−(メタ)アクリル樹脂とを接触させる場合、固相には、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイの生育に適した物質が存在していてもよい。
【0041】
前記液相条件および固相条件それぞれにおいて、アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイとスチレン−(メタ)アクリル樹脂との接触の際のインキュベーションの温度は、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイを良好な生育状態に維持し、かつ該アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイにスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解能を十分に発現させる観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは23℃以上であり、スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解を良好に行なう観点から、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは28℃以下であること(例えば、24℃など)が望ましい。
【0042】
また、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイと、スチレン−(メタ)アクリル樹脂とのインキュベーションの時間は、分解対象となるスチレン−(メタ)アクリル樹脂の種類、該スチレン−(メタ)アクリル樹脂の量、該アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイの維持に要する費用などに応じて適宜設定されうる。
【0043】
本発明のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法によれば、液相条件および固相条件のいずれの条件下であっても、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイの生育状態が良好に維持され、かつスチレン−(メタ)アクリル樹脂が効率よく分解されるため、本発明の分解方法は、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を含む廃棄物の処理にも適用できる。
【0044】
本発明は、他の側面では、アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイと、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を含む廃棄物とを接触させることを特徴とする廃棄物の処理方法に関する。
【0045】
本発明の廃棄物の処理方法は、廃棄物の処理に際して、アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイが用いられている点に1つの大きな特徴がある。
【0046】
したがって、本発明の廃棄物の処理方法によれば、液相条件および固相条件のいずれの条件下であっても、該廃棄物を効率よく処理することができるという優れた効果が奏される。また、本発明の廃棄物の処理方法によれば、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイが用いられているため、該廃棄物を安価に処理することができるという優れた効果が奏される。さらに、本発明の廃棄物の処理方法によれば、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイが用いられているため、該廃棄物中に含まれるスチレン−(メタ)アクリル樹脂を優先的に分解することができるという優れた効果が奏される。
【0047】
本発明の廃棄物の処理方法では、前記アスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイを混合して用いてもよく、該アスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイをそれぞれ単独で用いてもよい。
【0048】
前記廃棄物としては、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を含むもの、すなわち、スチレン−(メタ)アクリル樹脂が部材などの原材料として用いられている製品の使用後に生じる廃棄物であればよく、特に限定されないが、具体的には、例えば、コピー機、プリンターなどに用いられるトナーの廃棄物、缶ラミネートの廃棄物、電子機器類の絶縁体の廃棄物、家庭用電気製品の廃棄物、自動車の廃棄物、産業廃棄物などが挙げられる。
【0049】
本発明の廃棄物の処理方法において、前記スチレン−(メタ)アクリル樹脂と、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイとの接触は、前記スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法を行なう場合と同様の液相条件および固相条件のいずれの条件下で行なってもよい。
【0050】
本発明の廃棄物の処理方法によれば、該廃棄物中に含まれているスチレン−(メタ)アクリル樹脂を優先的に分解することができるため、得られた処理物からの有用物質の回収、該処理物のさらなる処理などを低コストで、単純な設備で、簡便な操作で、より効率よく行なうことができるという優れた効果が奏される。
【0051】
本発明の廃棄物の処理方法においては、廃棄物の処理を、低コストで、単純な設備で、簡便な操作で、より効率よく行なう観点から、前記固相条件下にアスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイと、該廃棄物とを接触させることが好ましい。なお、本発明の廃棄物の処理方法において、前記固相条件下にアスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイと、廃棄物とを接触させる場合、該アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイと、該廃棄物中のスチレン−(メタ)アクリル樹脂との接触面積を増大させ、該スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解効率を高める観点から、該アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイと、廃棄物との接触前に、予め該廃棄物を細かく破砕しておくことが好ましい。
【0052】
さらに、本発明の廃棄物の処理方法によれば、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイが用いられているため、スチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解に際して、二酸化炭素を実質的に発生しないという優れた効果が奏される。そのため、本発明の廃棄物の処理方法によれば、例えば、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を含む廃棄物を焼却処理する場合と比べて、該廃棄物の処理に際して発生する二酸化炭素の量を大幅に低減させることができ、環境への負荷をより一層低減させることができるという優れた効果が奏される。
【0053】
本発明は、さらに別の側面では、アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイを含有する廃棄物処理剤に関する。
【0054】
本発明の廃棄物処理剤によれば、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイを含有しているため、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を含む廃棄物を、液相条件および固相条件のいずれの条件下であっても、効率よく処理することができるという優れた効果が奏される。また、本発明の廃棄物処理剤によれば、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイを含有しているため、前記スチレン−(メタ)アクリル樹脂を含む廃棄物を安価に処理することができるという優れた効果が奏される。
【0055】
さらに、本発明の廃棄物処理剤によれば、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイを含有しているため、前記廃棄物中のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解に際して、二酸化炭素を実質的に発生しないという優れた効果が奏される。したがって、本発明の廃棄物処理剤によれば、大気中における二酸化炭素の収支バランスに対して実質的に影響を与えずに、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を含む廃棄物を処理することができる。
【0056】
また、本発明の廃棄物処理剤によれば、例えば、廃棄物中のスチレン−(メタ)アクリル樹脂を優先的に分解することができるという優れた効果が奏される。そのため、本発明の廃棄物処理剤を用いて廃棄物を処理する場合、該廃棄物中の有用物質、例えば、金属、顔料などの回収の容易化を図ることができる。このように、本発明の廃棄物処理剤は、廃棄物中の有用物質のリサイクルをより容易にすることができるため、資源の有効利用、環境保護などの点で有利である。
【0057】
本発明の廃棄物処理剤は、前記アスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイの両方を含有していてもよく、該アスペルギルス テレウスおよびアスペルギルス ゾミイのいずれかを含有していてもよい。
【0058】
本発明の廃棄物処理剤中に含まれるアスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイは、該アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイの生育状態を良好に維持し、かつスチレン−(メタ)アクリル樹脂を安定的に効率よく分解させる観点から、生育および/または保存に適した固定用担体に固定化されていてもよい。
【0059】
また、本発明の廃棄物処理剤に含まれるアスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイは、前記スチレン−(メタ)アクリル樹脂をより効率よく分解する観点から、該アスペルギルス テレウスの菌糸体および/またはアスペルギルス ゾミイの菌糸体であることが好ましい。
【0060】
本発明の廃棄物処理剤は、液体状態であってもよく、固体状態であってもよい。
【0061】
本発明の廃棄物処理剤が液体状態である場合、本発明の廃棄物処理剤は、本発明の目的を妨げないのであれば、前記微生物生育用液体培地、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイの保存に適した成分(例えば、グリセリンなど)などを適宜含有してもよい。
【0062】
本発明の廃棄物処理剤が固体状態である場合、前記アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイは、生菌状態であってもよく、凍結乾燥状態であってもよい。
【0063】
本発明の廃棄物処理剤は、例えば、本発明のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法または本発明の廃棄物の処理方法におけるアスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイとスチレン−(メタ)アクリル樹脂との接触の際に使用される。本発明の廃棄物処理剤の使用方法としては、具体的には、例えば、該スチレン−(メタ)アクリル樹脂または廃棄物に混合し放置する方法、該スチレン−(メタ)アクリル樹脂または廃棄物に散布し放置する方法などが挙げられる。
【0064】
以下、本発明を、実施例に基づき詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。なお、実施例などで用いられた培地は、適宜、オートクレーブ中、120℃で15分間の処理、慣用の滅菌用フィルターなどによって滅菌された培地である。
【実施例】
【0065】
(実験例1)
近畿大学農学部敷地およびその周辺、八尾市一般廃棄物処理場、ならびに大阪市北港処分地南地区で土壌を採集した。得られた土壌を、生理的食塩水に懸濁し、試料を得た。
【0066】
スチレン−アクリル樹脂粉末〔商品名:エスレックP SE−0040、積水化学工業株式会社製、スチレンとアクリル酸n−ブチルエステルとアクリル酸2−エチルヘキシルエステルとの共重合体、フロー軟化温度:132.9℃、ガラス転移温度(示差走査熱量測定による変曲点):62.7℃、重合度:900、ゲル浸透クロマトグラフィーによる重量平均分子量:約270000〕2gと、ジクロロメタン40mlとを混合し、A液を得た。
【0067】
また、蒸留水300mlと5体積%界面活性剤〔商品名:Plysurf A−210G(第一工業製薬株式会社製)〕1.5mlとを混合し、B液を得た。
【0068】
つぎに、前記A液40mlとB液300mlとを混合し、得られた混合物を、ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製)で、10000rpmで3秒間攪拌して、乳化させた。得られた乳化物を濾過し、得られた濾液を80℃に維持してジクロロメタンを除去して、0.6質量%スチレン−アクリル樹脂乳化液を得た。
【0069】
前記スチレン−アクリル樹脂乳化液を、スチレン−アクリル樹脂の最終濃度が0.5質量%または0.1質量%となるように、Czapek−dox平板培地用組成物〔組成:グルコース3.6質量%、硝酸ナトリウム0.2質量%、塩化カリウム0.05質量%、リン酸二水素カリウム0.1質量%、硫酸マグネシウム7水和物0.05質量%、硫酸鉄七水和物0.001質量%、寒天1.5質量%、pH6.5〕、ポテトデキストロース平板培地用組成物〔ディフコ社製、商品名:Potato Dextrose Broth、寒天1.5質量%、pH5.1〕およびミネラル平板培地用組成物〔組成:塩化アンモニウム1質量%、リン酸二水素カリウム0.1質量%、リン酸水素二カリウム0.05質量%、硫酸マグネシウム七水和物0.05質量%、塩化ナトリウム0.2質量%、塩化亜鉛0.001質量%、硫酸鉄七水和物0.001質量%、塩化カルシウム0.001質量%、寒天1.5質量%、pH7.0〕に添加することにより、スチレン−アクリル樹脂含有Czapek−dox平板培地、スチレン−アクリル樹脂含有ポテトデキストロース平板培地、およびスチレン−アクリル樹脂含有ミネラル平板培地を調製した。
【0070】
前記試料を、前記スチレン−アクリル樹脂含有Czapek−dox平板培地、スチレン−アクリル樹脂含有ポテトデキストロース平板培地およびスチレン−アクリル樹脂含有ミネラル平板培地それぞれに、前記試料を塗布した。塗布後の各平板培地を、28℃でインキュベーションし、生育してきた微生物を候補株として選抜することにより、一次スクリーニングを行なった。
【0071】
その結果、前記スチレン−アクリル樹脂含有Czapek−dox平板培地上で生育した微生物1株と、前記スチレン−アクリル樹脂含有ポテトデキストロース平板培地上で生育した微生物3株とが得られた。
【0072】
前記一次スクリーニングにより選抜された4株の微生物について、以下のように、スチレン−アクリル樹脂含有液体培地を透明化する微生物を選択することにより、二次スクリーニングを行なった。
【0073】
前記スチレン−アクリル樹脂乳化液を、スチレン−アクリル樹脂の最終濃度が0.5質量%または0.1質量%となるように、Czapek−dox液体培地〔組成:グルコース3.6質量%、硝酸ナトリウム0.2質量%、塩化カリウム0.05質量%、リン酸二水素カリウム0.1質量%、硫酸マグネシウム7水和物0.05質量%、硫酸鉄七水和物0.001質量%、pH6.5〕5ml、ポテトデキストロース液体培地〔ディフコ社製、商品名:Potato Dextrose Broth、pH5.1〕5mlおよびミネラル液体培地〔組成:塩化アンモニウム1質量%、リン酸二水素カリウム0.1質量%、リン酸水素二カリウム0.05質量%、硫酸マグネシウム七水和物0.05質量%、塩化ナトリウム0.2質量%、塩化亜鉛0.001質量%、硫酸鉄七水和物0.001質量%、塩化カルシウム0.001質量%、pH7.0〕それぞれに添加し、スチレン−アクリル樹脂含有ポテトデキストロース液体培地、スチレン−アクリル樹脂含有ポテトデキストロース液体培地およびスチレン−アクリル樹脂含有ミネラル液体培地それぞれを得た。その後、前記スチレン−アクリル樹脂含有ポテトデキストロース液体培地5ml、スチレン−アクリル樹脂含有ポテトデキストロース液体培地5mlおよびスチレン−アクリル樹脂含有ミネラル液体培地5mlそれぞれに、YA−5株を接種し、28℃で振盪培養を行なうことにより、二次スクリーニングを行なった。培養後、肉眼による目視により、各液体培地を透明化させる微生物を選抜した。
【0074】
その結果、前記一次スクリーニングにより選抜された微生物4株のうち、3株の微生物が各液体培地を透明にした。選抜された微生物3株のうち、一例として、2日間でスチレン−アクリル樹脂含有Czapek−dox液体培地を透明化した微生物であるYA−5株を、該スチレン−アクリル樹脂含有Czapek−dox液体培地で培養した結果を示す図面代用写真を図1に示す。図中、パネル(A)は、0.05質量%スチレン−アクリル樹脂含有Czapek−dox液体培地を用いた場合の結果、パネル(B)は、0.1質量%スチレン−アクリル樹脂含有Czapek−dox液体培地を用いた場合の結果を示す。また、図中、レーン1は、YA−5株を培養した場合の結果を示し、レーン2は、対照を示す。
【0075】
図1のパネル(A)および(B)に示されるように、レーン2の対照と比べて、レーン1のYA−5株を培養した培地のほうがより透明であるため、YA−5株は、0.05質量%スチレン−アクリル樹脂含有Czapek−dox液体培地および0.1質量%スチレン−アクリル樹脂含有Czapek−dox液体培地のいずれをも透明にすることがわかる。
【0076】
(実施例1)
前記実験例1で選抜されたYA−5株について、商品名:DNeasy Plant Mini Kit〔キアゲン(QIAGEN)社製〕、商品名:puReTaq Ready―To―Go PCR beads〔アマシャム バイオサイエンシーズ(Amersham Biosciences)社製〕、商品名:Bigdye Terminator v3.1 Kit〔アプライド バイオシステムズ(Applied Biosystems)社製〕、および商品名:ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer System〔アプライド バイオシステムズ(Applied Biosystems)社製〕を用いて、28S rDNA D1/D2塩基配列を解析した。その後、得られた塩基配列について、BLASTアルゴリズム〔アルチュール(Altschul,SF)ら、ベーシックローカルアラインメントサーチツール、J.Mol.Biol.、第215巻、第403頁〜第410頁、(1990)〕を用い、デフォルト値で、データベースを検索し、前記YA−5株の属種を同定した。
【0077】
その結果、アスペルギルス アキュレータス(Aspergillus aculeatus)U28829、アスペルギルス ジャポニカス(Aspergillus japonicus)U28823、U28824、U28825、U28826およびU28828それぞれと、相同率100%の高い相同性を示した。したがって、前記YA−5株は、アスペルギルス アキュレータスまたはアスペルギルス ジャポニカスに近縁なアスペルギルス スピーシーズ(Aspergillus sp.)であることが示唆される。
【0078】
また、前記YA−5株を、光学顕微鏡〔商品名:オリンパスBX51、オリンパス株式会社製〕で観察した。YA−株の形態学的特徴を示す図面代用写真を図2に示す。図中、パネル(A)は、YA−5株の菌糸を示し、パネル(B)は、胞子、頂嚢および梗子を示す。図中、スケールバーは、100μmを示す。
【0079】
図2に示されるように、前記YA−5株には、菌糸、胞子、頂嚢および梗子が観察された。かかる結果から、前記YA−5株は、アスペルギルス属に属する微生物に類似する形態学的特徴を有することがわかる。
【0080】
(実施例2)
スチレン−アクリル樹脂粉末〔商品名:エスレックP SE−0040、積水化学工業株式会社製、スチレンとアクリル酸n−ブチルエステルとアクリル酸2−エチルヘキシルエステルとの共重合体、フロー軟化温度:132.9℃、ガラス転移温度(示差走査熱量測定による変曲点):62.7℃、重合度:900、ゲル浸透クロマトグラフィーによる重量平均分子量:約270000〕を原材料として用いて製造されたスチレン−アクリル樹脂プレート〔大きさ:10mm×20mm×1mm〕を、Czapek−dox液体培地に入れた。スチレン−アクリル樹脂プレートを入れたCzapek−dox液体培地に、YA−5株を接種し、該YA−5株を、28℃で25日間静置培養した。つぎに、静置培養後のスチレン−アクリル樹脂プレートを、リン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄した。洗浄後のスチレン−アクリル樹脂プレートを、2体積%グルタルアルデヒド(和光純薬工業株式会社製)−リン酸緩衝生理食塩水に1時間浸漬させ、菌体を固定した。その後、前記スチレン−アクリル樹脂プレートを、蒸留水で1回洗浄後、該スチレン−アクリル樹脂プレートを、順に、70体積%エタノール水溶液、80体積%エタノール水溶液、90体積%エタノール水溶液および99体積%エタノール水溶液に浸漬させ、乾燥させた。乾燥後のスチレン−アクリル樹脂プレートの表面に、イオンスパッター装置(商品名:Hitachi E−1030、株式会社日立製作所製)を用いて白金を3nmの層となるように蒸着させ、走査型電子顕微鏡用の試料を得た。得られた試料の表面を、走査型電子顕微鏡(S−900、株式会社日立製作所製)を用いて観察した。なお、対照として、糸状菌を接種しなかったスチレン−アクリル樹脂プレートを用いた。YA−5株培養下でのスチレン−アクリル樹脂プレートの状態を示す図面代用写真を図3に示す。図中、パネル(A)は、対照、パネル(B)〜(D)は、YA−5株培養下でのスチレン−アクリル樹脂プレートを示す。
【0081】
図3のパネル(B)〜パネル(D)に示されるように、前記YA−5株は、プレート表面に生育することがわかる。また、図3のパネル(B)に示されるように、前記YA−5株の菌糸の一部は、スチレン−アクリル樹脂プレートの内部に侵入していることがわかる。さらに、図3のパネル(A)に示される対照と比べると、パネル(C)に示されるように、YA−5株が生育したスチレン−アクリル樹脂プレートの表面が粗い状態となり、パネル(D)に示されるように、スチレン−アクリル樹脂プレートの表面に穴が開いていることがわかる。これらの結果から、前記YA−5株は、スチレン−アクリル樹脂を分解していることがわかる。
【0082】
(実施例3)
前記YA−5株を、0.1質量%スチレン−アクリル樹脂含有Czapek−dox液体培地〔組成:スチレン−アクリル樹脂0.1質量%、グルコース0.6質量%、硝酸ナトリウム0.3質量%、塩化カリウム0.2質量%、リン酸二水素カリウム0.1質量%、硫酸マグネシウム7水和物0.05質量%、pH6.5〕5ml中、28℃で2日間培養した。その後、得られた培養物を、前記0.1質量%スチレン−アクリル樹脂含有Czapek−dox液体培地100mlに添加し、28℃で2日間培養した。得られた培養物を、商品名:Ultrafiltration Membranes〔NMWL:10,000、ミリポア(Millipore)社製〕により濾過して、菌糸体を得た。
【0083】
得られた菌糸体0.3g(湿質量)を、0.05質量%スチレン−アクリル樹脂乳化液5mlに添加し、得られた混合物に、アジ化ナトリウム(和光純薬工業株式会社)を終濃度0.05質量%となるようにさらに添加し、その後、得られた混合物を28℃でインキュベーションした。なお、対照として、菌糸体無添加の反応液を、0.05質量%スチレン−アクリル樹脂乳化液5mlに添加し、得られた混合物に、アジ化ナトリウム(和光純薬工業株式会社)を終濃度0.05質量%となるようにさらに添加し、その後、得られた混合物を28℃でインキュベーションした。YA−5株の菌糸体を、スチレン−(メタ)アクリル樹脂含有液体培地に添加した場合のスチレン−(メタ)アクリル樹脂含有液体培地の状態を示す図面代用写真を図4に示す。図中、レーン1は、菌糸体を0.05質量%スチレン−アクリル樹脂乳化液に添加した場合の結果、レーン2は対照を示す。
【0084】
図4に示されるように、レーン2の対照と比べて、レーン1のスチレン−アクリル樹脂乳化液がより透明であるため、前記菌糸体により、スチレン−アクリル樹脂を分解することができることが示唆される。
【0085】
(実験例2)
前記YA−5株と同じアスペルギルス属に属する微生物であるアスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス ソジェ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス サイトイ(Aspergillus saitoi)、アスペルギルス タマリイ(Aspergillus tamarii)、アスペルギルス ウサミ(Aspergillus usamii)、アスペルギルス ユニラテラリス(Aspergillus unilateralis)、アスペルギルス ウスタス(Aspergillus ustus)、アスペルギルス バーシカラー(Aspergillus versicolor)、アスペルギルス シドウイ(Aspergillus sydowii)、アスペルギルス テレウス(Aspergillus terreus)、アスペルギルス ゾミイ(Aspergillus thomii)、アスペルギルス トキシカルリウス(Aspergillus toxicarius)、およびアスペルギルス フミガタスNo.232(Aspergillus fumigatus No.232)について、スチレン−アクリル樹脂の分解能の有無を調べた。
【0086】
前記微生物それぞれを、スチレン−アクリル樹脂含有ポテトデキストロース液体培地〔ディフコ社製、商品名:Potato Dextrose Broth、スチレン−アクリル樹脂乳化液0.1質量%、pH5.1〕5mlに接種し、28℃で14日間、125rpmで振盪培養し、スチレン−アクリル樹脂含有ポテトデキストロース液体培地を透明にする微生物を選抜することにより、一次スクリーニングを行なった。その結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
表1に示されるように、前記微生物すべてが、スチレン−アクリル樹脂含有ポテトデキストロース液体培地を透明にすることがわかる。したがって、かかる結果から、前記微生物がスチレン−アクリル樹脂を分解することまたは該スチレン−アクリル樹脂が該供試株の菌体表面に付着することが示唆される。
【0089】
次に、前記微生物の胞子を、0.1質量%スチレン−アクリル樹脂含有Czapek−Dox液体培地5mlまたは0.1質量%スチレン−アクリル樹脂含有無機塩液体培地〔組成:スチレン−アクリル樹脂乳化液0.1質量%、硝酸ナトリウム0.3質量%、塩化カリウム0.2質量%、リン酸二水素カリウム0.1質量%、硫酸マグネシウム七水和物0.05質量%、pH6.5〕5mlに接種し、スチレン−アクリル樹脂を唯一の炭素源として、28℃で14日間、125rpmで振盪しながら培養した。その結果を表2に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
表2に示されるように、前記微生物は、1〜2日間で、スチレン−アクリル樹脂含有液体培地を透明化するため、該微生物がスチレン−アクリル樹脂を炭素源として利用することまたは該スチレン−アクリル樹脂が該供試株の菌体表面に付着することが示唆される。
【0092】
(実験例3)
スチレン−アクリル樹脂粉末〔商品名:エスレックP SE−0040、積水化学工業株式会社製、スチレンとアクリル酸n−ブチルエステルとアクリル酸2−エチルヘキシルエステルとの共重合体、フロー軟化温度:132.9℃、ガラス転移温度(示差走査熱量測定による変曲点):62.7℃、重合度:900、ゲル浸透クロマトグラフィーによる重量平均分子量:約270000〕を、スチレン−アクリル樹脂の最終濃度が100g/lとなるように、ジクロロメタンに溶解させ、スチレン−アクリル樹脂溶液を得た。得られたスチレン−アクリル樹脂溶液2mlを、ポテトデキストロース固体培地に重層した後、乾燥させてジメチルメタンを除去し、スチレン−アクリル樹脂薄膜(スチレン−アクリル樹脂0.1g相当量)を得た。
【0093】
ポテトデキストロース液体培地20mlが入った滅菌シャーレに、前記微生物と、前記スチレン−アクリル樹脂薄膜とを入れ、該微生物を28℃で20日間静置培養した。一例として、スチレン−アクリル樹脂薄膜を添加した培地中におけるアスペルギルス ゾミイおよびアスペルギルス テレウスそれぞれの生育状態を示す図面代用写真を図5に示す。図中、パネル(A)は、アスペルギルス ゾミイの場合の結果、パネル(B)は、アスペルギルス テレウスの場合の結果、パネル(C)は、対照を示す。
【0094】
図5に示されるように、パネル(C)のスチレン−アクリル樹脂薄膜には、変化が見られないのに対して、パネル(A)およびパネル(B)では、それぞれアスペルギルス ゾミイおよびアスペルギルス テレウスが生育しているため、アスペルギルス ゾミイおよびアスペルギルス テレウスは、スチレン−アクリル樹脂を唯一の炭素源とした場合に、生育することができることがわかる。
【0095】
静置培養後のスチレン−アクリル樹脂薄膜をリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄した。つぎに、洗浄後のスチレン−アクリル樹脂薄膜を、2体積%グルタルアルデヒド(和光純薬工業株式会社製)−リン酸緩衝生理食塩水溶液中に1時間浸漬させ、それにより、前記供試株の菌体を固定させた。浸漬後のスチレン−アクリル樹脂薄膜を、蒸留水で1回洗浄し、ついで、該スチレン−アクリル樹脂薄膜を、順に、70体積%エタノール、80体積%エタノール、90体積%エタノールおよび99.5体積%エタノールに浸漬させた後、該スチレン−アクリル樹脂薄膜を脱水し、その後、風乾させた。乾燥後のスチレン−アクリル樹脂薄膜に、イオンスパッター装置(商品名:Hitachi E−1030、株式会社日立製作所製)で白金を、3nmの厚さとなるように蒸着させた。得られた試料の表面を、走査型電子顕微鏡(商品名:S−900、株式会社日立製作所製)により観察した。アスペルギルス テレウス培養下でのスチレン−アクリル樹脂薄膜の状態を示す図面代用写真を図6に示す。図中、パネル(A)およびパネル(B)は、アスペルギルス テレウス培養下での結果、パネル(C)は、対照を示す。
【0096】
その結果、図6に示されるように、パネル(C)の試料の表面状態に変化が見られないのに対して、パネル(A)および(B)では、アスペルギルス テレウスがスチレン−アクリル樹脂の表面に菌糸が付着し、かつ該スチレン−アクリル樹脂の表面がもろくなり、剥がれていることがわかる。したがって、アスペルギルス テレウスは効率よく、スチレン−アクリル樹脂を分解することができることが示唆される。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1(A)および(B)は、実験例1において、YA−5株を、スチレン−アクリル樹脂含有Czapek−dox液体培地で培養した結果を示す図面代用写真である。
【0098】
【図2】図2(A)および(B)は、実施例1におけるYA−株の形態学的特徴を示す図面代用写真である。
【0099】
【図3】図3(A)は、実施例2における対照を示す図面代用写真であり、図(B)〜(D)は、実施例2におけるYA−5株培養下でのスチレン−アクリル樹脂プレートの状態を示す図面代用写真である。
【0100】
【図4】図4は、実施例3におけるYA−5株の菌糸体を、スチレン−(メタ)アクリル樹脂含有液体培地に添加した場合のスチレン−(メタ)アクリル樹脂含有液体培地の状態を示す図面代用写真である。
【0101】
.
【図5】図5(A)および(B)は、実験例3におけるスチレン−アクリル樹脂薄膜を添加した培地中におけるアスペルギルス ゾミイおよびアスペルギルス テレウスそれぞれの生育状態を示す図面代用写真である。図5(C)は、対照を示す図面代用写真である。
【0102】
【図6】図6(A)および(B)は、実験例3におけるアスペルギルス テレウス培養下でのスチレン−アクリル樹脂薄膜の状態を示す図面代用写真である。図6(C)は、対照を示す図面代用写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイと、スチレン−(メタ)アクリル樹脂とを接触させることを特徴とするスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法。
【請求項2】
アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイと、スチレン−(メタ)アクリル樹脂とを固相条件下に接触させる請求項1記載のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法。
【請求項3】
アスペルギルス テレウスがアスペルギルス テレウス(Aspergillus terreus)ATCC 10020であり、アスペルギルス ゾミイがアスペルギルス ゾミイ(Aspergillus thomii)ATCC 16859である請求項1または2記載のスチレン−(メタ)アクリル樹脂の分解方法。
【請求項4】
アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイと、スチレン−(メタ)アクリル樹脂を含む廃棄物とを接触させることを特徴とする廃棄物の処理方法。
【請求項5】
アスペルギルス テレウスおよび/またはアスペルギルス ゾミイを含有してなる廃棄物処理剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−260901(P2008−260901A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106439(P2007−106439)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年10月14日に開催の日本防菌防黴学会主催の2006年度若手の会にて発表
【出願人】(504005035)三笠産業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】