説明

スチレンの製造方法

【課題】α−フェニルエチルアルコール分離工程で、蒸留のために使用されていた多大なエネルギーを削減できるようなプロピレンオキサイド/スチレン併産プラントにおけるスチレンの製造方法を提供すること。
【解決手段】プロピレンオキサイド/スチレン併産プラントにおけるプロピレンオキサイド精留工程後の工程液をエチルベンゼン分離工程へ供給し、その後、α−フェニルエチルアルコール分離工程、脱水反応工程、スチレン分離工程、及び水添反応工程を順次経由させるスチレンの製造方法であって、水添反応工程の下流に小規模蒸留塔を設置して水添反応工程後の反応液からエチルベンゼンを蒸留除去することでα−フェニルエチルアルコールを高濃度に含有する液を得、留去したエチルベンゼンを前記エチルベンゼン分離工程へ送り、α−フェニルエチルアルコール高濃度含有液を前記脱水反応工程へ送ることを特徴とするスチレンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンオキサイド/スチレン併産プラントにおけるスチレンの製造方法に関する。更に詳しくは、水添反応工程の下流に小規模蒸留塔を設置して水添反応工程後の反応液からエチルベンゼンを蒸留除去して得たα−フェニルエチルアルコールを高濃度に含有する液を脱水反応工程へ直接送ることで使用エネルギー量を削減するスチレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンオキサイド/スチレン併産プラントにおいては、エチルベンゼン、α−フェニルエチルアルコール、アセトフェノンなどを含むプロピレンオキサイド精留工程後の工程液(以下、原料液ということがある。)から、まずエチルベンゼンを分離し、次にα−フェニルエチルアルコールを分離して、得られたα−フェニルエチルアルコールを脱水することでスチレンを製造し、該脱水反応工程液を精留してスチレンを分離し、スチレン分離後のアセトフェノンを含む工程液を水添してα−フェニルエチルアルコールとエチルベンゼンを含む水添反応工程液を得る。該水添反応工程液はエチルベンゼン分離工程にリサイクルされる。
このスチレン製造プロセスにおいて、水添反応工程液中の主要成分であるα−フェニルエチルアルコールは、エチルベンゼン分離工程にリサイクルされ、続くα−フェニルエチルアルコール分離工程において分離されて脱水反応工程に供給されることになる。
したがって、α−フェニルエチルアルコール分離工程では、プロピレンオキサイド精留工程後の反応液(原料液)由来のα−フェニルエチルアルコール及び水添反応工程液(リサイクル液)由来のα−フェニルエチルアルコール、双方のα−フェニルエチルアルコールが分離されることになり、そのための使用エネルギー量は少なくなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、従来、α−フェニルエチルアルコール分離工程で、蒸留のために使用されていた多大なエネルギーを削減できるようなプロピレンオキサイド/スチレン併産プラントにおけるスチレンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記目的を達成するために、鋭意検討した結果、水添反応工程の下流に小規模蒸留塔を設置して、水添反応工程後の反応液からエチルベンゼンを蒸留除去することでα−フェニルエチルアルコールを高濃度に含有する液を得て、これを直接、脱水反応工程へ送ることにより、α−フェニルエチルアルコール分離工程で使用されていたエネルギーを削減できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0005】
すなわち、本発明は、
プロピレンオキサイド/スチレン併産プラントにおけるプロピレンオキサイド精留工程後の工程液をエチルベンゼン分離工程へ供給し、その後、α−フェニルエチルアルコール分離工程、脱水反応工程、スチレン分離工程、及び水添反応工程を順次経由させるスチレンの製造方法であって、水添反応工程の下流に小規模蒸留塔を設置して水添反応工程後の反応液からエチルベンゼンを蒸留除去することでα−フェニルエチルアルコールを高濃度に含有する液を得、留去したエチルベンゼンを前記エチルベンゼン分離工程へ送り、α−フェニルエチルアルコール高濃度含有液を前記脱水反応工程へ送ることを特徴とするスチレンの製造方法;
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、水添反応工程液由来のα−フェニルエチルアルコールを直接、脱水反応工程へ送ることにより、従来、α−フェニルエチルアルコール分離工程で、蒸留のために使用されていたエネルギーを削減できるスチレンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、プロピレンオキサイド/スチレン併産プラントにおけるプロピレンオキサイド精留工程後の工程液(原料液)をエチルベンゼン分離工程へ供給し、その後、α−フェニルエチルアルコール分離工程、脱水反応工程、スチレン分離工程、及び水添反応工程を順次経由させるスチレンの製造方法において、水添反応工程の下流に小規模蒸留塔を設置して水添反応工程後の反応液からエチルベンゼンを蒸留除去し、得られたα−フェニルエチルアルコール高濃度含有液を脱水反応工程へ直接送るものである。
エチルベンゼン、α−フェニルエチルアルコール、アセトフェノンを含むプロピレンオキサイド精留工程後の工程液は、エチルベンゼン分離工程で最も軽質成分であるエチルベンゼンを分離する。エチルベンゼンの分離は、減圧条件下、塔底温度140〜180℃程度での蒸留によって行われる。
エチルベンゼン分離工程を経たα−フェニルエチルアルコール、アセトフェノンを主成分とする工程液はα−フェニルエチルアルコール分離工程に入って、軽沸留分、重質留分を除去し、α−フェニルエチルアルコールを主成分とし、少量成分としてアセトフェノンを含む工程液を得、これは脱水反応工程へ供給される。α−フェニルエチルアルコール分離工程は、減圧条件下、塔底温度140〜180℃程度での蒸留によって行われる。
【0008】
本発明の脱水反応工程は、液相中、有機スルホン酸の存在下、α−フェニルエチルアルコールの脱水反応によってスチレンを得る工程である。
脱水反応触媒である有機スルホン酸としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸などの脂肪族スルホン酸、及びベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸などの芳香族スルホン酸がある。有機スルホン酸の使用量は、通常反応媒体中に0.02〜5.0重量%存在せしめて用いられる。
脱水反応の反応温度は、180〜220℃であることが好ましく、反応圧力は、常圧条件下又は減圧条件下のどちらの条件下で運転を行ってもよいが、絶対圧87kPa以下13kPa以上で運転することが好ましい。
【0009】
本発明のスチレン分離工程は、脱水反応工程の反応液からスチレンを主として含む成分とアセトフェノンを含む成分に分離する工程である。
スチレンの分離は通常、常圧条件下又は減圧条件下で蒸留によって行われるが、スチレンが極めて重合しやすい物質であるので、減圧下で蒸留することが好ましい。たとえば1.3〜26kPaをあげることができる。
【0010】
本発明の水添反応工程は、スチレンを分離した工程液に含まれるアセトフェノンに水素添加して、α−フェニルエチルアルコールを得る工程である。ここで、過水添反応によりエチルベンゼンと水が副生する。エチルベンゼンの副生量は、α−フェニルエチルアルコールに対し、通常1〜10質量%程度である。
水添反応工程は、銅系触媒などの水添反応触媒の存在下、反応温度50〜200℃、反応圧力100〜35000kPaGの条件で行われる。
【0011】
水添反応工程後のα−フェニルエチルアルコールは副生エチルベンゼンを含むため、従来、水添反応工程後の反応液はエチルベンゼン分離工程に戻していたが、本発明では、水添反応工程の下流に小規模蒸留塔を設置して水添反応工程後の反応液からエチルベンゼンを蒸留除去し、該エチルベンゼンをエチルベンゼン分離工程へ送り、得られたα−フェニルエチルアルコール高濃度含有液を脱水反応工程へ送ることを特徴とする。
分離するエチルベンゼンは水添反応工程後の反応液中の少量含有成分であるので、水添反応工程の下流に設ける蒸留塔は小規模のものでよく、たとえば段数16段程度の棚段塔を用いることができる。また、該蒸留塔は、減圧条件下130〜170℃で運転される。
エチルベンゼンを留去した水添反応工程後の反応液はα−フェニルエチルアルコールを70〜95質量%の高濃度で含み、残りはβ-フェニルエチルアルコールを少量含むのみであるので、直接、脱水反応工程へ送ることができる。
本発明のスチレン製造方法は、このように水添反応工程液(リサイクル液)由来のα−フェニルエチルアルコールを直接、脱水反応工程へ送るので、従来のスチレン製造方法のα−フェニルエチルアルコール分離工程において、水添反応工程液由来のα−フェニルエチルアルコールの蒸留のために使用されていたエネルギーを削減することができる。
【実施例】
【0012】
次に実施例を用いて本発明を説明する。
比較例1
図1で示すスチレンの製造方法であり、エチルベンゼン(EB)、α−フェニルエチルアルコール(α−PEA)、アセトフェノン(ACP)などを含む原料液をエチルベンゼン分離工程へ連続的に供給し、その後、α−フェニルエチルアルコール分離工程、脱水反応工程、スチレン(SM)分離工程、及び水添反応工程を順次経由させ、水添反応工程後の反応液をエチルベンゼン分離工程へリサイクルするスチレン製造方法を実施した。

実施例1
図2で示すスチレンの製造方法であり、水添反応工程の下流に小規模蒸留塔を設置して水添反応工程後の反応液からエチルベンゼンを蒸留除去してエチルベンゼン分離工程へ送り、得られたα−フェニルエチルアルコールを85質量%含有する液を直接脱水反応工程へ送る点が図1のものと異なるスチレン製造方法を実施した。
定常状態におけるα−フェニルエチルアルコール分離工程および小規模蒸留塔における使用スチーム量の合計は、比較例1の94%まで削減された。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来のスチレン製造方法を示したフロー図である。
【図2】本発明のスチレン製造方法を示したフロー図である。
【符号の説明】
【0014】
A:小規模蒸留塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレンオキサイド/スチレン併産プラントにおけるプロピレンオキサイド精留工程後の工程液をエチルベンゼン分離工程へ供給し、その後、α−フェニルエチルアルコール分離工程、脱水反応工程、スチレン分離工程、及び水添反応工程を順次経由させるスチレンの製造方法であって、水添反応工程の下流に小規模蒸留塔を設置して水添反応工程後の反応液からエチルベンゼンを蒸留除去することでα−フェニルエチルアルコールを高濃度に含有する液を得、留去したエチルベンゼンを前記エチルベンゼン分離工程へ送り、α−フェニルエチルアルコール高濃度含有液を前記脱水反応工程へ送ることを特徴とするスチレンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−196963(P2009−196963A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42933(P2008−42933)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(503108115)日本オキシラン株式会社 (10)
【Fターム(参考)】