説明

スチレン系樹脂とポリ乳酸からなる樹脂組成物

【課題】
スチレン系樹脂に植物由来の樹脂を配合することにより石油の使用量を減らし、環境維持を図るとともに、スチレン系樹脂本来の成形性や剛性を損なわない樹脂組成物を開発し、発泡体、シート、筐体等の材料として実用化すること。
【解決手段】
スチレン系樹脂(A)90〜10重量%、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)5〜40重量%及びポリ乳酸(C)5〜50重量%からなる樹脂組成物であって、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)がa−b型ブロック共重合体であり、aセグメントがスチレン系単量体から形成され、bセグメントが酢酸ビニル系単量体から形成されており、かつaセグメントとbセグメントとの割合が重量比で40/60〜95/5であることを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を含有するスチレン系樹脂組成物に関する。植物由来の材料であるポリ乳酸を配合することにより、石油由来のスチレン系樹脂の使用量を減らすことができ、かつスチレン系樹脂の本来の性質を損なうことがなく、さらに流動性が向上した樹脂組成物を与え、この樹脂組成物は筐体等の成形体に好ましく用いることができる。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は成形が容易であること、軽量であること等を生かして発泡体、シート、筐体等数多くの産業分野に使用されている。
一方、近年、石油資源枯渇の問題や炭酸ガス排出増加に伴う地球温暖化といった環境問題の観点より、石油を原料としない非石油系樹脂が注目されている。
こうした中で、植物由来原料をモノマーとした樹脂が開発されてきており、既にとうもろこしや芋類等から得た澱粉を糖化して、さらに乳酸菌により乳酸とし、ついで乳酸を環化させてラクチドとし、これを開環重合することによりポリ乳酸樹脂が生産されるようになった。
【0003】
このようにして得られた植物由来原料の樹脂中の炭素は、大気中の炭酸ガスを光合成して固定化されたものであるために、たとえ焼却廃棄しても炭酸ガス総量を増加させることのない、いわゆる「カーボンニュートラル」な材料と言える。すなわち、循環型で環境維持可能な材料である。
このような植物由来の環境維持可能な材料を石油系樹脂に配合して使用することにより、石油系樹脂の使用量を削減することが可能であり、種々の検討が行われている(特許文献1参照)。石油系樹脂の代表格であるスチレン系樹脂にも上記材料を配合して使用することができれば、スチレン系樹脂の使用量も多いだけに、削減量も多大であると期待される。スチレン樹脂の使用量を削減することは、石油使用量および炭酸ガス総量を減らすことであり、環境負荷の低減につながる。
【特許文献1】特開2005−048067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題を達成するものであり、植物由来の樹脂をスチレン系樹脂に配合することにより環境負荷を低減することができ、また、スチレン系樹脂の本来の成形性を失わずに、実用的な剛性と衝撃強度及び優れた流動性を兼ね備えている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はこの課題達成のため、鋭意検討した結果、スチレン系樹脂、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体およびポリ乳酸からなる樹脂組成物が様々な成形方法に対応できる流動性、優れた機械的物性を兼ね備えていることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
(1)スチレン系樹脂(A)90〜10重量%、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)5〜40重量%及びポリ乳酸(C)5〜50重量%からなる樹脂組成物であって、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)がa−b型ブロック共重合体であり、aセグメントがスチレン系単量体から形成され、bセグメントが酢酸ビニル系単量体から形成されており、かつaセグメントとbセグメントとの割合が重量比で40/60〜95/5であることを特徴とする樹脂組成物。
(2)(1)に記載の樹脂組成物からなる成形体。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、植物由来の樹脂をスチレン系樹脂に配合することにより環境負荷を低減することができ、また、スチレン系樹脂の本来の成形性を失わずに、実用的な剛性と衝撃強度及び優れた流動性を兼ね備えた樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いられるスチレン系樹脂(A)とは、スチレンを主成分とした重合体である。
スチレン系樹脂(A)としては、ポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン、スチレンと他のビニル系単量体を共重合したスチレン系樹脂、等が挙げられる。
ポリスチレンとはスチレンの単独重合体であり、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。一般的に入手できるポリスチレンは、スチレンの重合度、分子量分布、可塑剤や滑剤の量が調整され、流動性の異なるものが提供されている。本発明で使用されるポリスチレンの流動性はISO1133に従って測定したメルトフローレイトが1〜10g/10minの範囲にあることが好ましい。ポリスチレンの流動性が上記範囲を下回ると、本発明の樹脂組成物の成形性、特に射出成形での金型充填性が低下して好ましくない。一方、ポリスチレンの流動性が上記範囲を上回ると、本発明の樹脂組成物の成形性、特に押出成形、真空成形、ブロー成形での厚み均一性が低下して好ましくない。
【0008】
ゴム変性ポリスチレンとはスチレン単独の重合体からなる連続相にゴム状重合体がグラフト重合して粒子分散してなる成形材料であり、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。ゴム変性ポリスチレンに用いるゴムとしては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−イソプレン共重合体、天然ゴム、エチレン−プロピレン共重合体などを挙げることができる。特に、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。
ゴム変性ポリスチレンの流動性は、ISO1133に従って測定したメルトフローレイトが1〜10g/10minの範囲にあることが好ましい。ゴム変性ポリスチレンの流動性が上記範囲を下回ると、本発明の樹脂組成物の成形性、特に射出成形での金型充填性が低下して好ましくない。一方、ゴム変性ポリスチレンの流動性が上記範囲を上回ると、本発明の樹脂組成物の成形性、特に押出成形、真空成形、ブロー成形での厚み均一性が低下して好ましくない。
【0009】
スチレンと他のビニル系単量体を共重合したスチレン系樹脂としては、スチレンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体、スチレンと(メタ)アクリル酸の共重合体、スチレンと無水マレイン酸の共重合体、等が挙げられる。
本発明で用いられるスチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)とは、a−b型ブロック共重合体であり、aセグメントがスチレン系単量体から形成され、bセグメントが酢酸ビニル系単量体から形成される。当該a−b型ブロック共重合体は、例えばポリメリックペルオキシドを用いて公知の製造プロセスである塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等で製造できるが、工業的には懸濁重合法が好ましい。
【0010】
スチレン系単量体からなるaセグメントと酢酸ビニル系単量体からなるbセグメントとの割合が重量比で40/60〜95/5であり、好ましくは45/55〜93/7である。酢酸ビニル系単量体からなるbセグメントの重量比が上記範囲外では、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)を配合することによる引張破壊歪みやシャルピー衝撃強さの向上等が認められない、あるいはむしろ低下する場合もあるので好ましくない。
上記好適なスチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)は市販されているものを使用してもよい。例としては日本油脂(株)製「モディパーSV10B」「モディパーSV30B」等が挙げられる。
【0011】
本発明に用いるポリ乳酸(C)は、とうもろこしやイモ類等から得た澱粉を糖化して、更に乳酸菌により乳酸を得、次に、乳酸を環化反応させてラクチドとし、これを開環重合すると言う方法で得られたポリ乳酸(C)を用いることが出来る。また、石油からラクチドを合成しこれを開環重合して得たポリ乳酸でも、あるいは石油から乳酸を得、これを直接脱水縮合して得たポリ乳酸を用いてもよい。
また、ポリ乳酸(C)を構成するL−乳酸およびD−乳酸の比率に関しては、特に限定
されることなく用いることが出来る。しかし、ポリ乳酸を結晶化させる事により耐熱性を高める必要がある場合には、L−乳酸とD−乳酸の比率が100:0〜90:10、好ましくはL−乳酸とD−乳酸の比率が100:0〜95:5であるポリ乳酸を用いる。
【0012】
更に、ポリ乳酸(C)には、主たる構成モノマーであるD−乳酸およびL−乳酸以外に他の成分が共重合されていても良い。他の共重合成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸等を挙げることができる。このような共重合成分は、全単量体成分中、通常0〜30モル%の含有量とするのが好ましく、さらに0〜10モル%であることがより好ましい。
ポリ乳酸(C)の分子量や分子量分布は、実質的に成形加工が可能であれば特に限定されないが、重量平均分子量としては好ましくは1万以上40万以下、より好ましくは4万以上30万以下である。
【0013】
スチレン系樹脂(A)、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)およびポリ乳酸(C)の合計を100重量%として、スチレン系樹脂(A)90〜10重量%、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)5〜40重量%およびポリ乳酸(C)5〜50重量%である。好ましくは、スチレン系樹脂(A)80〜30重量%、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)10〜30重量%およびポリ乳酸(C)10〜40重量%である。スチレン系樹脂(A)とスチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)の合計が50重量%未満、すなわち、ポリ乳酸(C)が50重量%を超えると樹脂組成物のビカット軟化温度や熱変形温度がポリスチレンやゴム変性ポリスチレンに比べて大幅に低下して好ましくない。一方、スチレン系樹脂(A)とスチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)の合計が95重量%を超える、すなわち、ポリ乳酸(C)が5重量%未満では樹脂組成物の物性はポリ乳酸(C)を添加しない場合と実質的に変わらず、ポリ乳酸(C)の添加効果が発現されず好ましくない。
また、スチレン単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)が5重量%未満では添加しない場合に比べて引張破壊歪みやシャルピー衝撃強さ等の向上はほとんど認められない。一方、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)の添加量が40重量%を越えた場合は、シャルピー衝撃強さ等の向上は頭打ちあるいは若干低下する場合もあり、好ましくない。
【0014】
スチレン系樹脂(A)、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)およびポリ乳酸(C)を配合、溶融、混練、造粒する方法は特に限定されず、樹脂組成物の製造で常用されている方法を用いることができる。例えば、ドラムタンブラー、ヘンシェルミキサー等で配合した上記成分をバンバリーミキサー、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー等を用いて溶融、混練し、ロータリーカッター、ファンカッター等で造粒することによって樹脂組成物を得ることができる。溶融、混練における樹脂温度は180〜240℃が好ましい。目標とする樹脂温度にするためには、押出機等のシリンダ温度は樹脂温度よりも10〜20℃低い温度に設定すべきである。樹脂温度が180℃未満ではスチレン系樹脂(A)及びスチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)の流動性が不十分でポリ乳酸(C)との混合が不十分となり好ましくない。一方、樹脂温度が240℃を越えるとポリ乳酸(C)の熱分解が起こり好ましくない。
さらに、本発明の樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A)、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)及びポリ乳酸(C)を配合、溶融、混練、造粒するときに、酸化防止剤、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤といった添加剤を添加することができる。
本発明の樹脂組成物は射出成形、シート押出成形、真空成形、異型押出成形、ブロー成形といった方法で成形されて樹脂製品となる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
<スチレン系樹脂(A)−1>
(A)−1;PSジャパン株式会社製 ゴム変性ポリスチレン「H8117」
基礎物性を(表−1)に示した。
<スチレン系樹脂(A)−2>
(A)−2;PSジャパン株式会社製 ポリスチレン「685」
基礎物性を(表−1)に示した。
【0016】
【表1】

【0017】
<スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)>
(B)−1;日本油脂株式会社製 「モディパー SV10B」
スチレンと酢酸ビニルとのブロック共重合体で組成比:スチレン/酢酸ビニル=90/10である。また、当該ブロック共重合体をスチレンモノマーに30重量%で溶解した溶液の粘度は1.8Pa・sであった。
(B)−2;日本油脂株式会社製「モディパー SV30B」
スチレンと酢酸ビニルとのブロック共重合体で組成比:スチレン/酢酸ビニル=70/30である。また、当該ブロック共重合体をスチレンモノマーに30重量%で溶解した溶液の粘度は2.3Pa・sであった。
(B)−3;日本油脂株式会社製「モディパー S501」
スチレンと酢酸ビニルとのブロック共重合体で組成比:スチレン/酢酸ビニル=50/50である。また、当該ブロック共重合体をスチレンモノマーに30重量%で溶解した溶液の粘度は4.5Pa・sであった。
【0018】
<ポリ乳酸(C)>
(C)−1;Nature Works LLC製「4032D」
ISO1133(200℃、5kgf)に従って測定したメルトフローレイトは14.2g/10minであった。
【0019】
<樹脂組成物の製造>
スチレン系樹脂(A)、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)およびポリ乳酸(C)を(表−2)〜(表−3)の上段に示す通り計量した。
計量した原料をドラムタンブラーで配合し、同方向二軸押出機(WERNER& PF
LEIDERER社製ZSK25)でシリンダー設定温度200℃、スクリュー回転数
200rpmにて溶融混練し溶融ストランドとして抜き出した。溶融ストランドを水冷し
ロータリーカッターでストランドをカッティングしてペレット状の樹脂組成物を得た。
【0020】
<物性の測定> メルトフローレイトおよび機械物性の測定
上記で製造した樹脂組成物のメルトフローレイトをISO1133にしたがって測定した。又、上記で製造した樹脂組成物をISOタイプA試験片に射出成形し、ISO527−1に従って引張強さ、引張破壊歪みを、ISO178に従って曲げ弾性率を、ISO179に従ってシャルピー衝撃強さを、ISO306に従ってビカット軟化温度を測定した。
以上の測定結果を(表−2)〜(表−3)の下段に示した。
【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
<表−2>
実施例1〜3では、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)をそれぞれ10重量部配合した。これに対して、比較例1ではポリスチレンであるスチレン系樹脂(A)−2を10重量部配合し、HIPSゴム量およびポリ乳酸の含有量を実施例1〜3と同一とした。実施例1〜3の方が、引張破壊歪みおよびシャルピー衝撃強さが高くなっている。
同様に実施例4〜6に対して比較例2を、そして実施例7〜9に対して比較例3を比較すると、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)を配合することにより、引張破壊歪みおよびシャルピー衝撃強さが高くなっている。
<表−3>
スチレン系樹脂(A)がゴム変性ポリスチレン(スチレン系樹脂(A)−1)およびポリスチレン(スチレン系樹脂(A)−2)の混合系についても、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)の配合により引張破壊歪みおよびシャルピー衝撃強さの向上が認められる。(実施例10〜12対比較例4、実施例13〜15対比較例5)
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の樹脂組成物はポリスチレンの用途である発泡体、シート、筐体等数多くの産業分野に好ましく用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂(A)90〜10重量%、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)5〜40重量%及びポリ乳酸(C)5〜50重量%からなる樹脂組成物であって、スチレン系単量体と酢酸ビニル系単量体からなるブロック共重合体(B)がa−b型ブロック共重合体であり、aセグメントがスチレン系単量体から形成され、bセグメントが酢酸ビニル系単量体から形成されており、かつaセグメントとbセグメントとの割合が重量比で40/60〜95/5であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物からなる成形体。

【公開番号】特開2008−101126(P2008−101126A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285071(P2006−285071)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(500199479)PSジャパン株式会社 (45)
【Fターム(参考)】