説明

スチレン系(コ)ポリマーの調製方法

スチレン系(コ)ポリマーの調製方法であって:a)スチレンモノマーと、場合により1つ又はそれ以上のコモノマーとを含むモノマー組成物を調製するステップと、b)(i)70〜110℃の範囲内の1時間半減期温度を有する少なくとも1つの多官能性開始剤55〜95重量%と、(ii)70〜110℃の範囲内の1時間半減期温度を有する少なくとも1つの単官能性開始剤5〜45重量%とを含む開始剤混合物の存在下でモノマー組成物を重合させることによって、スチレン系(コ)ポリマーを形成するステップとを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系(コ)ポリマーの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に使用されているこのような方法の一例は、発泡性ポリスチレン(EPS)を製造するためのスチレンの懸濁重合である。この方法は、通常、上昇する温度プロファイル、及び種々の半減期温度を有する重合開始剤を使用して行われる。実際の重合は、プロセスの第1段階で行われ、この段階は一般に、70〜110℃、好ましくは80〜90℃の範囲内の温度において、この範囲内の1時間半減期温度を有する重合開始剤(例えばジベンゾイルペルオキシド)を使用して行われる。第2段階は、残留するスチレンモノマーを除去する役割を果たし、より高い温度において、より高い1時間半減期温度を有する過酸化物を使用して行われる。
【0003】
このような方法は、例えば、米国特許第5,900,872号に開示されている。
【0004】
スチレンの重合中には、一般には難燃剤又は連鎖移動剤が存在する。しかし、これらの化合物は、分子量(MW)低下添加剤として機能する傾向にある。すなわちこれらは、結果として得られるポリスチレンのMWを低下させ、このことは一般に望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,900,872号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このMWの低下は、重合の第1段階において開始剤の特定の組み合わせを使用することによって抑制できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は、スチレン系(コ)ポリマーの調製方法であって:
a)スチレンモノマーと、場合により1つ又はそれ以上のコモノマーとを含むモノマー組成物を調製するステップと、
b)(i)70〜110℃の範囲内の1時間半減期温度を有する少なくとも1つの多官能性開始剤55〜95重量%と、(ii)70〜110℃の範囲内の1時間半減期温度を有する少なくとも1つの単官能性開始剤5〜45重量%とを含む開始剤混合物の存在下でモノマー組成物を重合させることによって、スチレン系(コ)ポリマーを形成するステップとを含む方法に関する。
【0008】
本発明の方法によって、MW低下添加剤、例えば難燃剤が本方法のステップa)及び/又はb)で使用される場合に、(コ)ポリマーのMWを調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明による方法は、少なくとも1つの多官能性開始剤と少なくとも1つの単官能性開始剤とを含有する開始剤混合物を使用する必要がある。用語「単官能性開始剤」は、ラジカルを形成可能な基を1つだけ有する開始剤を指す。用語「多官能性開始剤」は、ラジカルを形成可能な2つ以上の基を有する開始剤を指す。多官能性開始剤としては、ラジカルを形成可能な2つの基を含有する二官能性開始剤が挙げられ、ラジカルを形成可能な3つの基を含有する三官能性開始剤も挙げられる。異なる数のラジカル誘発性基を有する複数の多官能性開始剤を有する開始剤混合物も考慮される。
【0010】
一実施形態では、開始剤混合物は、少なくとも1つの単官能性開始剤と、少なくとも1つの二官能性開始剤とを含む。開始剤混合物の粘度は、多官能性開始剤自体の粘度よりも一般には低い。このより低い粘度は、処理が容易となり、反応混合物により正確に添加することが可能となるため有利である。
【0011】
単官能性及び多官能性の両方の開始剤は、70〜110℃、好ましくは80〜100℃の範囲内の1時間半減期温度を有する。この1時間半減期温度は、1時間で、元の開始剤の含有率が50%低下する温度として定義され、モノクロロベンゼン中の開始剤の希薄溶液の示差走査熱量測定−熱活性モニタリング(DSC−TAM)によって求められる。
【0012】
単官能性及び多官能性の開始剤は、70〜110℃の範囲内の1時間半減期温度を有する有機過酸化物及びアゾ含有開始剤から選択することができる。好ましい開始剤は有機過酸化物である。
【0013】
好適な単官能性開始剤の例は、ジベンゾイルペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、及びt−ブチルペルオキシイソブチレートである。最も好ましい単官能性開始剤はt−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートである。
【0014】
好適な多官能性開始剤の例は、ポリヒドロペルオキシド又はポリ酸クロライドから、好ましくはジヒドロペルオキシド又は二酸クロライドから調製されるペルエステルである。このようなペルエステル類の例は:
2,5−ジメチル−2,5−ジ(ヒドロペルオキシ)ヘキサンのペルエステル、例えば2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルブタノイルペルオキシ)ヘキサン、又は2,5−ジメチル−2,5−ジ(ピバロイルペルオキシ)ヘキサン、
ジ(ヒドロペルオキシイソプロピル)ベンゼンのペルエステル、例えばジ(2−エチル−ヘキサノイルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジ(2−エチルブタノイルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、又はジ(ピバロイルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、並びに
1,4−シクロヘキシル二炭酸のペルエステル、例えばジ(t−ブチルペルオキシ)1,4−シクロヘキシルジカルボキシレート、ジ(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)1,4−シクロヘキシルジカルボキシレート、又はジ(2−エチルブタノイルペルオキシ)1,4−シクロヘキシルジカルボキシレートである。
【0015】
好ましい多官能性開始剤の1つは、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサンである。
【0016】
前記開始剤は重合の第1段階中に存在する。所望であれば、残留するいかなるスチレンモノマーも重合の第2段階中に除去するために、より高い1時間半減期温度を有するさらなる開始剤が存在することも可能である。このようなさらなる開始剤の例は、tert−ブチルペルオキシベンゾエート、tert−ブチルペルオキシ2−エチルヘキシルカーボネート、tert−アミルペルオキシ2−エチルヘキシルカーボネート、及びジクミルペルオキシドである。
【0017】
本発明による方法は、スチレンモノマー又はスチレン含有モノマー混合物の重合を伴う。好ましくは、これらのスチレン含有モノマー混合物は、全モノマーの重量を基準にして少なくとも50重量%(wt%)のスチレンを含む。使用可能なコモノマーは従来の種類のものであり、一般にエチレン系不飽和モノマーであり、好ましくは無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、ビニルアセテート、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、ブタジエン、及び(メタ)アクリレート類、並びに、例えばエチレン系不飽和ポリマー、例えばポリブタジエン及びスチレンブタジエンゴムからなる群より選択される。あまり好ましくはないが、塩化ビニリデンを共重合させることもできる。より好ましくは、重合されるモノマーの少なくとも80重量%がスチレンであり、最も好ましい方法は、実質的にすべてのモノマーがスチレンである方法である。
【0018】
本発明の重合方法は、反応混合物の大部分がモノマーである塊状方法として、反応混合物が典型的には水中のモノマーの懸濁液であるより好ましい懸濁方法として、或いはモノマーが典型的には水中に乳化されるエマルジョン又はマイクロエマルジョン方法として行うことができる。
【0019】
本発明による方法は、懸濁方法における使用に特に適している。これらの方法では、通常の添加剤を使用することができる。例えば、水中の懸濁液の場合、1つ又はそれ以上の通常の添加剤、例えば界面活性剤、連鎖移動剤、保護コロイド、防汚剤、pH緩衝剤、難燃剤、難燃相乗剤などが存在することができる。発泡剤を、重合方法の開始時又は最中に加えることができる。スチレンモノマー及び発泡剤が存在するため、このような方法は少なくとも部分的には加圧反応器中で行われる。添加剤の総重量は、全モノマーの総重量を基準にして好ましくは最大20重量%である。
【0020】
本発明の一実施形態では、本発明の方法は、発泡性ポリスチレン(EPS)を製造するために発泡剤の使用を伴うバッチ懸濁重合方法である。
【0021】
開始剤は、ステップb)の重合反応混合物に、(i)混合物として、(ii)同時であるが別々に、例えば反応器の異なる場所で、又は(iii)異なる時間に別々に加えることができる。別々に加える場合、開始剤は、不規則な順序で一度に、又は複数回にわけて順番に、又はあらゆる他の連続的な順序で加えることができる。国際公開第2004/089999号に記載されるように、開始剤は、重合温度において反応混合物に連続的に加えることができる。好ましい一実施形態では、前述したように処理及び添加に有利となるため、開始剤は開始剤混合物として加えられ、さらにより好ましくは液体開始剤混合物として加えられる。
【0022】
本発明による方法において使用される70〜110℃の範囲内の1時間半減期を有する単官能性及び多官能性の開始剤の総量は、スチレン重合方法の第1段階で従来使用される範囲内の量である。典型的には、重合されるモノマーの重量を基準にして、好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.05重量%、最も好ましくは少なくとも0.1重量%の開始剤が使用され、好ましくは最大5重量%、より好ましくは最大3重量%、最も好ましくは最大1重量%の開始剤が使用される。
【0023】
本発明のさらなる一実施形態では、モノマー組成物が分子量低下添加剤をさらに含む。用語「分子量低下添加剤」は、その添加剤によって、結果として得られる(コ)ポリマーが、その添加剤が存在しないことを除けば同じ方法で得られる(コ)ポリマーよりも低いMWを有するようになる添加剤を意味する。このような分子量低下添加剤の例としては、連鎖移動剤、例えばメルカプタン類、及び難燃剤、特にハライド含有難燃剤が挙げられる。ハライド含有難燃剤は、スチレン含有(コ)ポリマー中に一般的に使用される。好適な例としては、臭素含有有機難燃剤、例えばヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、2,3,4,5,6,−ペンタブロモ−1−ブロモメチルベンゼン(PBBMB)、並びに参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2006/013554号、国際公開第2006/071213号、及び国際公開第2006/071214号に開示されているものが挙げられる。本発明の方法は、2,3,4,5,6,−ペンタブロモ−1−ブロモメチルベンゼンを難燃剤として併用する場合に特に好適であり、その理由は、この難燃剤は、結果として得られるスチレン系(コ)ポリマーのMの低下がヘキサブロモシクロドデカンの場合よりも大きく、上記低下が本発明の方法に抑制されるからである。
【0024】
分子量低下添加剤は、スチレン含有重合方法において従来使用されている量で加えられる。典型的には、重合されるモノマーの重量を基準にして、好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.05重量%、最も好ましくは少なくとも0.1重量%、好ましくは最大20重量%、より好ましくは最大15重量%、最も好ましくは最大10重量%の分子量低下添加剤が使用される。
【0025】
本発明はさらに、本発明の方法を使用して得られたスチレン系(コ)ポリマーに関する。この(コ)ポリマーは、開始剤が(コ)ポリマーの主鎖中に組み込まれるので、従来のスチレン含有(コ)ポリマーとは構造的に異なる。異なるラジカル誘発性基を有する開始剤の混合物、すなわち単官能性及び多官能性の開始剤の混合物を使用することで、結果として得られる(コ)ポリマーは両方の開始剤の一部を含有する。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
バッフル、三枚羽根インペラー、圧力変換器、及び窒素パージを取り付けた1リットルのステンレス鋼製反応器(Buechi8315.3 E2843)中に1.25gのリン酸三カルシウムを投入した。続いて、20mg Nacconol 90F(ナトリウムベンゼンドデシルスルホネート)と50mg Gohsenol C500(部分的に加水分解されたポリビニルアセテート)とを含有する水溶液260gを反応器に加え、約5分間撹拌した。第1段階の開始剤の溶液と、0.46ミリ当量/100g全スチレンのTrigonox(登録商標)117(Akzo Nobel製のtert−ブチルペルオキシ2−エチルヘキシルカーボネート)と、200gスチレン中に溶解させたスチレンの全重量を基準にして0.2重量%Perkadox(登録商標)BC(Akzo Nobel製のジクミルペルオキシド)と、50gスチレン中の難燃剤溶液とを反応器中に投入した。Trigonox(登録商標)117は、一般により高い温度で開始反応が起こる第2段階の開始剤としての役割を果たし、Perkadox(登録商標)BCは難燃相乗剤であることに留意されたい。
【0027】
温度を1.56℃/分の速度で90℃まで上昇させ、90℃で4.25時間維持した。続いて、温度を0.67℃/分の速度で130℃まで上昇させ、その温度で反応器を3時間維持した。第1段階終了の約15分前に、窒素(5bar)で反応器を加圧することによって、20gペンタンをボンベからを加えた。
【0028】
室温まで(終夜)冷却した後、反応混合物にHCl(10%)を加えたpH約1.5まで酸性化し、約1時間撹拌した。生成物を濾過し、得られたEPSビーズの、pH>6となるまでの水での洗浄と、25ppm Armostat 400(帯電防止剤)の水溶液での洗浄とをそれぞれ行った。最後に、EPSを室温で約24時間乾燥させた。
【0029】
上記手順を、表1に記載の難燃剤を含有する以下のスチレン溶液で行った。表1に使用される量は、スチレンの全重量を基準とした重量%、及び100gのスチレン当たりの(モノ)ペルオキシ基等価物のミリ当量又はミリモル数を指すミリ当量/100gスチレンを単位としている。
【0030】
比較例A及びBにおける難燃剤中の臭素量は同じモル量に設定した。比較例C及びD並びに実施例1の場合も同様にしている。
【0031】
表1に記載の過酸化物は第1段階の開始剤としての役割を果たすことをさらに言及しておく。
【表1】

【0032】
得られたポリスチレンビーズの粒度分布、並びに分子量、すなわち重量平均分子量(M)及び数平均分子量(M)を分析した。粒度(分布)は、ASTM D1921−63(方法A)に準拠したふるい分けにより求められる。カーブフィットプログラムを使用して、平均粒度(APS)を計算し分布させる。
【0033】
得られたポリマーのM、M、及び多分散性比D(D=M/M)は、基準として画定された分子量を有するポリスチレン標準物質を使用したテトラヒドロフラン溶媒中のサイズ排除クロマトグラフィーによって求められる。
【0034】
結果を以下の表2に示す。
【表2】

【0035】
HBCDを難燃剤として使用する場合と比較すると、PBBMBの使用によってM及びMの低下が生じた(比較例A及びB参照)。第1段階の開始剤としての単官能性ペルオキシド(Trigonox21)と二官能性ペルオキシド(Trigonox141)との混合物をPBBMBと併用すると(比較例D及び実施例1)、M、M、及びDが改善される。しかし、二官能性開始剤対単官能性開始剤の比が50/50を超える場合にのみ、単官能性ペルオキシド及びHBCDを使用して得られたポリスチレンと同等のM、M、及びDの値を有するポリスチレン生成物が得られる(比較例C対実施例1)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系(コ)ポリマーの調製方法であって:
a)スチレンモノマーと、場合により1つ又はそれ以上のコモノマーとを含むモノマー組成物を調製するステップと、
b)(i)70〜110℃の範囲内の1時間半減期温度を有する少なくとも1つの多官能性開始剤55〜95重量%と、(ii)70〜110℃の範囲内の1時間半減期温度を有する少なくとも1つの単官能性開始剤5〜45重量%とを含む開始剤混合物の存在下で前記モノマー組成物を重合させることによって、スチレン系(コ)ポリマーを形成するステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記重合が懸濁重合反応である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
得られるポリマーが発泡性ポリスチレンである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記重合が塊状重合反応である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記モノマー組成物が、分子量低下添加剤をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記分子量低下添加剤が難燃剤である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記難燃剤が臭素含有難燃剤である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記臭素含有難燃剤が2,3,4,5,6−ペンタブロモ−1−ブロモメチルベンゼンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法によって得ることができるスチレン系(コ)ポリマー。

【公表番号】特表2011−503335(P2011−503335A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534452(P2010−534452)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/065657
【国際公開番号】WO2009/065799
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】