説明

スチーム用芳香液

【課題】 本発明の課題は、スチームアイロン、スチーム式加湿器、スチームヘアーカール器等のスチーム機器の蒸発用水として使用することにより、添加成分がスチーム機器内に残留することなく蒸発して、水蒸気と共に、心地良い香気を放つことができるスチーム用芳香液を提供することである。
【解決手段】 本発明は、ラベンダーの水蒸気蒸留水を含有する、スチーム用芳香液を提供する。本発明のスチーム用芳香液は、スチームアイロン、スチーム式加湿器、スチームヘアーカール器等のスチーム機器の蒸発用水として使用しても、スチーム機器内に残留物を生じることなく、水蒸気と共に心地よい芳香を放つことができ、従来の精油成分や水溶性香料では実現できなかった芳香効果を奏することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチーム用芳香液に関する。より詳細にはスチームアイロン、スチーム式加湿器、スチームヘアーカール器等の蒸発用水として使用することにより、水蒸気と共に、心地良い香気を放つことができるスチーム用芳香液に関する。
【背景技術】
【0002】
スチームアイロン、スチーム式加湿器、スチームヘアーカール器等(以下、これらをスチーム機器と表記する)のスチーム用の水に各種の香料を添加することにより、発生する水蒸気に香気を付与し、これにより水蒸気が揮散した空間や水蒸気と接触した対象物に芳香効果を備えさせ得ることが知られている。
【0003】
一般に、スチーム用の水に油性の香料成分を配合するには、界面活性剤等の溶解補助剤が必要とされる。しかしながら、このような溶解補助剤には、水蒸気と共に蒸発せずにスチーム機器内に残留物として残存するものがあり、該残留物がスチーム機器の故障の原因になるという不都合があった。特に、スチームアイロンに使用する場合、蒸発液に界面活性剤を添加すると、界面活性剤が蒸気と共に衣類に付着し、これが高温下で衣服にシミや焦げを生じさせるという欠点がある。
【0004】
一方、これまでに、スチーム用の水に水溶性香料を添加する技術についても報告されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、単に、水溶性香料をスチーム用の水に添加するだけでは、水蒸気と共に十分で心地よい芳香を生じさせることができないのが現状である。
【0005】
このような従来技術を背景として、スチーム機器の蒸発用水として使用することにより、上記不都合が無く、水蒸気と共に心地良い香気を放つことができるスチーム用芳香液の開発が望まれていた。
【0006】
ところで、ラベンダーを水蒸気蒸留して得られる水溶性画分(水蒸気蒸留水)については、その特性や有効な利用法が分かっておらず、スチーム用の水に添加することにより、如何なる効果が得られるかについては一切知られていない。
【特許文献1】特表2004−505183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、スチームアイロン、スチーム式加湿器、スチームヘアーカール器等のスチーム機器の蒸発用水として使用することにより、添加成分がスチーム機器内に残留することなく蒸発して、水蒸気と共に、心地良い香気を放つことができるスチーム用芳香液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、ラベンダーを水蒸気蒸留することにより得られる水蒸気蒸留水を、スチーム機器のスチーム用の水として使用すると、スチーム機器内に残留物を生じることなく、蒸気と共に心地よい芳香が放たれることを見出した。また、特に、上記水蒸気蒸留水をスチームアイロン用の水として使用すると、衣服に心地よい芳香を長時間にわたって保持させ得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて、更に検討を重ねて開発されたものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる発明を提供するものである:
項1. ラベンダーの水蒸気蒸留水を含有する、スチーム用芳香液。
項2. ラベンダーの水蒸気蒸留水が、ラベンダーの地上部又は全草から得られるものである、項1に記載のスチーム用芳香液。
項3. ラベンダーが、おかむらさき又はその改良品種である、項1又は2に記載のスチーム用芳香液。
項4. スチームアイロンに使用される、項1乃至3のいずれかに記載のスチーム用芳香液。
【0010】
本発明のスチーム用芳香液は、ラベンダーの水蒸気蒸留水を含有することを特徴とするものである。本発明において、スチーム用芳香液とは、スチームを発生させる機能を有する機器(例えば、スチームアイロン、スチーム式加湿器、スチームヘアーカール器等)(以下、スチーム機器と表記する)において、蒸発用水として使用される芳香液である。
【0011】
ラベンダーは、シソ科(Labiatae)、ラバンジュラ属(Lavandula)に属する植物種であり、真正ラベンダー(学名;Lavandula angustifolia、異学名;L.officinalis、L.vera)、スパイクラベンダー(学名;L.spica、異学名;L.latifolia)、ストエカス(学名;L.stoechas)、ラバンジン(学名;L.hybrida)などが挙げられる。本発明において、使用するラベンダーの種については特に制限されないが、好ましいものとして真正ラベンダーを挙げることができる。特に好ましいものとして、おかむらさき、はなもいわ、濃紫早咲、ようていの各品種を挙げることができ、もっとも好ましくはおかむらさき又はその改良品種、特に日本の北海道産のものである。なお、ラベンダーは野生種であってもよく、栽培種であってもよい。
【0012】
ラベンダーの水蒸気蒸留水の原料としては、ラベンダーの花、花穂、果実、果皮、茎、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、根茎、根皮、種子をいずれか単独で、又は組み合わせて使用してもよく、またラベンダーの全草を使用してもよい。好ましくは地上部(根を除く全草)又は全草である。
【0013】
ラベンダーの水蒸気蒸留水は、ラベンダー1重量部に対して、水0.6〜2重量部、好ましくは0.8〜1重量部を用いて、水蒸気蒸留を行い、捕集した蒸留液の水相を回収することにより調製される。水蒸気蒸留の方法については特に制限されないが、好ましくは加圧水蒸気蒸留法が挙げられる。
【0014】
ラベンダーの水蒸気蒸留水には、ラベンダーに含まれる水溶性成分と共に、許容限界量の油性成分が、界面活性剤等の溶解補助剤を含むことなく水性溶媒中に含有されている。このように、ラベンダーの水蒸気蒸留水には、従来の植物由来の精油成分や水溶性香料とは異なり、水性成分及び油性成分の双方が含まれており、この両成分が組合わされていることによって、本発明に特有の効果が奏されていると考えられる。
【0015】
本発明のスチーム用芳香液は、ラベンダーの水蒸気蒸留水を蒸発用の水に添加することにより調製される。本発明のスチーム用芳香液において、ラベンダーの水蒸気蒸留水の配合割合としては、使用するスチーム機器の種類、使用目的等に応じて適宜設定されるが、一例として、スチーム用芳香液の総重量に対して、ラベンダーの水蒸気蒸留水が0.1〜100重量%、好ましくは20〜100重量%、更に好ましくは40〜100重量%となる割合が例示される。本発明のスチーム用芳香液は、使用時に上記配合割合となるようにラベンダーの水蒸気蒸留水を含有すればよく、流通段階では上記配合割合よりも高い濃度で該水蒸気蒸留水を含有し、使用時に水で希釈して使用されるものであってもよい。この場合、流通段階における該液の収容容器に使用時の希釈倍率を明示しておくことが望ましい。
【0016】
また、本発明のスチーム用芳香液は、本発明の効果を妨げないことを限度として、上記成分の他に、溶解剤、界面活性剤、防腐剤、キレート剤、消臭剤等の他の成分を適当量含有してもよい。なお、界面活性剤や高沸点アルコール(例えば、沸点180℃以上)がスチーム式加湿器の蒸発用の水に含まれていると、スチーム機器内に残留物が生じる場合があるので、本発明のスチーム用芳香液はこれらの成分を含んでいないものが望ましい。
【0017】
本発明のスチーム用芳香液は、スチームアイロン、スチーム式加湿器、スチームヘアーカール器等のスチーム機器の蒸発用水として使用され、これにより蒸気の発生に伴い、優れた芳香効果を奏することができる。
【0018】
特に、本発明のスチーム用芳香液をスチームアイロンの蒸発用水として好適に使用され、これによって、蒸気と共に心地よい芳香を放つことができるだけでなく、衣服に心地よい芳香を長時間にわたって保持させることができる。
【0019】
また、本発明のスチーム用芳香液は、スチーム式加湿器の蒸発用水として使用されることにより、加湿効果と芳香効果の双方を奏することができる。
【0020】
更に、本発明のスチーム用芳香液をスチームヘアーカール器の蒸発用水として使用すると、蒸気と共に心地よい芳香を放ち、毛髪に芳香を付与することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のスチーム用芳香液は、スチームアイロン、スチーム式加湿器、スチームヘアーカール器等のスチーム機器の蒸発用水として使用しても、スチーム機器内に残留物を生じることなく、水蒸気と共に心地よい芳香を放つことができ、従来の精油成分や水溶性香料では実現できなかった芳香効果を奏することが可能になる。
【0022】
特に、ラベンダーの地上部又は全草から得られる水蒸気蒸留水を含むスチーム用芳香液を、スチームアイロンの蒸発用水として使用すると、芳香効果に加えて、衣服に付与される芳香の持続性の点で顕著に優れた効果を奏するので、体臭防止(ワキガ、汗臭等の防止)の効果が得られる。この点で、該水蒸気蒸留水を含むスチーム用芳香液は、スチームアイロンの蒸発用水として極めて有用性が高い。
【0023】
更に、本発明のスチーム用芳香液を蒸発させることにより放たれる芳香には、優れた安眠作用や鎮静作用があり、本発明のスチーム用芳香液の使用により睡眠促進・安眠・鎮静効果も得ることができる。特に、かかる睡眠促進、安眠、鎮静効果は、ラベンダーの花、茎及び葉を含む地上部、又は全草から得られる水蒸気蒸留水を含むスチーム用芳香液を使用する場合に顕著である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
1.ラベンダーの水蒸気蒸留水の調製
ラベンダー(おかむらさき)の地上部(根を除く全草)60kgに対して、水約50kgを用いて加圧水蒸気蒸留を行い、水相36kg及び油相0.36kgを含む蒸留液を製した。蒸留液から水相を回収して、ラベンダーの水蒸気蒸留水を得た。
2.アイロンに対する影響の確認
上記で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水と水道水とを等量混合し、これをスチームアイロン用の蒸発用水として、市販のスチームアイロン(TOSHIBA製 La・Coo TA-FVX2)に添加し、白色無地のYシャツに300回のアイロン掛けを行った(実施例1)。また、比較として、非イオン界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル(EO付加モル数8〜13))2重量%及びラベンダー精油0.2重量%を含むイオン交換水をスチームアイロン用の蒸発用水として、上記と同様の方法でアイロン掛けを行った(比較例1)。
【0025】
その結果、実施例1では、蒸気と共に優れた芳香が放たれ、Yシャツに心地よい香りを付与することができ、しかも、使用後にスチームアイロン内に残留物は認められなかった。これに対して、比較例1では、使用開始時は、同等の芳香が放たれたが、使用を続けると次第に焦げ臭気を感じ、使用後には、スチームアイロン内に残留物が認められた。
【0026】
実施例2
上記実施例1で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水と水道水とを等量混合し、これをスチームアイロン用の蒸発用水として、市販のスチームアイロン(TOSHIBA製 La・Coo TA-FVX2)に添加し、白色無地のYシャツにアイロン掛けを行った(実施例2)。また、比較として、水溶性香料0.01重量%、エタノール5重量%及びジプロピレングリコール0.09重量%を含むイオン交換水を、スチームアイロン用の蒸発用水として、上記と同様の方法でアイロン掛けを行った(比較例2)。
【0027】
アイロン掛けしたYシャツを25℃、湿度40%の無風室内に静置して、3名のパネラーにより、Yシャツの香りの強さについて下記基準に従って判定し、Yシャツの香りの持続性について評価を行った。
<判定基準>
1:弱い香りを感じる
2:中程度の香りを感じる
3:十分な香りを感じる
得られた結果を表1に示す。この結果、実施例2では、Yシャツに心地よい芳香を長時間にわたり付与できることが分かった。これに対して、比較例2では、アイロン掛け直後でもYシャツに十分な香りが付与されておらず、更に時間の経過に伴い香りが消失していくことが確認された。以上の結果から、本発明のスチーム用芳香液をスチームアイロンの蒸発用液として使用することにより、衣服に心地よい芳香を長時間にわたって保持させ得ることが明らかになった。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例3
寝付きが悪い成人又は不眠症の成人からランダムに3名を被験者として選択した。上記実施例1で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水と水道水とを等量混合し、これをスチームアイロン用の蒸発用水として、市販のスチームアイロン(TOSHIBA製 La・Coo TA-FVX2)に添加し、パジャマにアイロン掛けを行った(実施例3)。上記被験者に、上記アイロン掛した直後のパジャマを着て、直ちに就寝させ、(1)寝付き、(2)眠りの深さ、(3)睡眠中の目覚め、及び(4)目ざめの状態について、下記評価基準に従って評価した。また、比較として、別の日に、上記同じ被験者により、ラベンダー精油0.01重量%、エタノール5重量%及びジプロピレングルコール0.09重量%を含むイオン交換水を、スチームアイロン用の蒸発用水として、上記と同様の方法でパジャマにアイロン掛けを行い(比較例3)、このパジャマを着用して、上記と同様の評価を行った。
<評価基準>
A:いつもに比べて良好である
B:いつもに比べて変わりがない
C:いつもに比べて悪い
得られた結果を表2に示す。この結果、実施例3では、いずれの評価項目においても良好な結果が得られたのに対して、比較例3では安眠効果が十分に得られていないことが明らかとなった。上記実施例2の結果を考慮すると、実施例3では、快適で、安眠や鎮静効果がある芳香がパジャマに長時間保持され、これによって上記優れた睡眠効果が奏されていることが予測される。
【0030】
【表2】

【0031】
参考例 組成分析
実施例1で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水、及びラベンダー精油について、ガスクロマトグラフィーにより成分分析を行った。分析対象のラベンダー精油には、実施例1において、水蒸気蒸留により製された蒸留液から回収した油相を用いた。分析には、実施例1で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水47.5gにヘキサン2.5gを混合したもの、及び上記ラベンダー精油をメタノールで1重量%に希釈したものを試料として使用した。分析条件は、以下の通りである。
<分析条件>
ガスクロマトグラフ装置
Hewlett Packard 社製
HP6890シリーズ
カラム
DB−5MS
長さ 30m
内径 0.25mm
膜厚 0.25μm
オーブン
初期温度50℃7分
毎分5℃で100℃まで昇温
毎分20℃で250℃まで昇温
250℃定温10.5分
分析合計時間 45分
注入口
温度 250℃
スプリット比 10:1
総流量 9.8ml/分
キャリアガス 超高純度ヘリウム
試料注入量
2μl
検出器
FID(水素炎イオン化)検出器。
【0032】
ラベンダーの水蒸気蒸留水について得られたクロマトグラフを図1に、またラベンダー精油について得られたクロマトグラフを図2に示す。図1と図2ではピークパターンが相違しており、ラベンダーの水蒸気蒸留水とラベンダー精油とでは、その組成を異にするものであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水をガスクロマトグラフィーにより分析した結果(クロマトグラフ)を示す図である。
【図2】ラベンダー精油をガスクロマトグラフィーにより分析した結果(クロマトグラフ)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラベンダーの水蒸気蒸留水を含有する、スチーム用芳香液。
【請求項2】
ラベンダーの水蒸気蒸留水が、ラベンダーの地上部又は全草から得られるものである、請求項1に記載のスチーム用芳香液。
【請求項3】
スチームアイロンに使用される、請求項1又は2に記載のスチーム用芳香液。
【請求項4】
ラベンダーが、おかむらさき又はその改良品種である、請求項1乃至3のいずれかに記載のスチーム用芳香液。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−104234(P2006−104234A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−289177(P2004−289177)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】