説明

スチールコード被覆用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】スチールコードに対して良好な接着性を有するとともに、硬度および発熱性にも優れたスチールコード被覆用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対し、有機酸コバルト塩を0.1〜10質量部、NSAが100m/g以下であるカーボンブラックを40〜80質量部、下記の樹脂溶液を、ノボラック型フェノール系樹脂の質量として0.1〜20質量部、および硬化剤を0.1〜20質量部配合してなるスチールコード被覆用ゴム組成物。前記樹脂溶液:軟化点が84℃以上であるノボラック型フェノール系樹脂をアルコキシシリル基含有化合物からなる有機溶媒に溶解してなる樹脂溶液であって、前記ノボラック型フェノール系樹脂と前記有機溶媒との比率が、1:0.25〜1:4である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールコード被覆用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、スチールコードに対して良好な接着性を有するとともに、硬度および発熱性にも優れたスチールコード被覆用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用タイヤには強い衝撃や大きな荷重がかかるため、補強材としてスチールコードが用いられている。このようなスチールコードを被覆するゴムは、スチールコードとの良好な接着性、高い破断物性および低発熱性が求められている。
一方、高硬度化を達成するために、ゴム組成物にフェノール系樹脂とその硬化剤を配合する技術が種々提案されている(例えば特許文献1参照)。
しかしながら、スチールコード被覆用ゴム組成物に求められている上記各特性は、依然として十分なレベルに到達していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5226987号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、スチールコードに対して良好な接着性を有するとともに、硬度および発熱性にも優れたスチールコード被覆用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、天然ゴムを含むジエン系ゴムに対し、有機酸コバルト塩の特定量、特定の特性を有するカーボンブラックの特定量、特定の樹脂溶液の特定量および硬化剤を特定量を配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下のとおりである。
1.天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対し、
有機酸コバルト塩を0.1〜10質量部、
窒素吸着比表面積(NSA)が100m/g以下であるカーボンブラックを40〜80質量部、
下記の樹脂溶液を、ノボラック型フェノール系樹脂の質量として0.1〜20質量部、および
硬化剤を0.1〜20質量部
配合してなることを特徴とするスチールコード被覆用ゴム組成物。
前記樹脂溶液:軟化点が84℃以上であるノボラック型フェノール系樹脂をアルコキシシリル基含有化合物からなる有機溶媒に溶解してなる樹脂溶液であって、前記ノボラック型フェノール系樹脂が、ノボラック型フェノール樹脂、ノボラック型クレゾール樹脂、ノボラック型レゾルシン樹脂、オイル変性フェノール樹脂のいずれかあるいはそれらの混合物であり、前記ノボラック型フェノール系樹脂と前記有機溶媒との比率が、前者:後者(質量比)として、1:0.25〜1:4である。
2.前記有機溶媒のSP値が40以下であることを特徴とする前記1に記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
3.前記有機溶媒のSP値が25以下であることを特徴とする前記1または2に記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
4.前記有機溶媒のSP値が25以下15以上であることを特徴とする前記3に記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
5.前記硬化剤が、ヘキサメチレンテトラミン、HMMM(ヘキサメトキシメチロールメラミンの部分縮合物)、PMMM(ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物)、ヘキサエトキシメチルメラミン、パラ−ホルムアルデヒドのポリマーおよびメラミンのN−メチロール誘導体からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
6.前記1〜5のいずれかに記載のスチールコード被覆用ゴム組成物に、スチールコードを埋設させてなる複合材を用いた空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、天然ゴムを含むジエン系ゴムに対し、有機酸コバルト塩の特定量、特定の特性を有するカーボンブラックの特定量、特定の樹脂溶液の特定量および硬化剤を特定量を配合することにより、スチールコードに対して良好な接着性を有するとともに、硬度および発熱性にも優れたスチールコード被覆用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】比較例1で得られたゴム組成物の原子間力顕微鏡により得られた位相像である。
【図2】実施例1で得られたゴム組成物の原子間力顕微鏡により得られた位相像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0009】
(ジエン系ゴム)
本発明で使用されるジエン系ゴムは、天然ゴム(NR)を必須成分とする。NRの配合量は、本発明の効果の観点から、ジエン系ゴム全体を100質量部としたときに、40〜100質量部が好ましく、60〜100質量部がさらに好ましい。なお、NR以外にも他のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
【0010】
(有機酸コバルト塩)
本発明で使用する有機酸コバルト塩としては、例えばナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト、ホウ酸ネオデカン酸コバルト、アセチルアセトナートコバルト等を例示することができる。また、ホウ素を含む有機酸コバルト塩、例えばオルトホウ酸コバルト等も使用できる。
【0011】
(カーボンブラック)
本発明で使用されるカーボンブラックは、窒素吸着比表面積(NSA)が100m/g以下である必要がある。100m/gを超えると、発熱性が低下する。なお、窒素吸着比表面積(NSA)はJIS K6217−2に準拠して求めた値である。さらに好ましい窒素吸着比表面積(NSA)は、30〜90m/gである。
【0012】
(樹脂溶液)
本発明で使用する樹脂溶液は、軟化点が84℃以上であるノボラック型フェノール系樹脂をアルコキシシリル基含有化合物からなる有機溶媒に溶解してなり、前記ノボラック型フェノール系樹脂が、ノボラック型フェノール樹脂、ノボラック型クレゾール樹脂、ノボラック型レゾルシン樹脂、オイル変性フェノール樹脂のいずれかあるいはそれらの混合物であり、前記ノボラック型フェノール系樹脂と前記有機溶媒との比率が、前者:後者(質量比)として、1:0.25〜1:4であることを特徴とする。
【0013】
上記ノボラック型フェノール系樹脂は、本発明の効果の観点から選択したものである。なお、オイル変性フェノール樹脂としては、カシュー変性フェノール樹脂が好ましい。
また本発明において、本発明の効果およびゴム中への分散性という観点から、ノボラック型フェノール系樹脂の軟化点は、87〜160℃であるのがさらに好ましい。
本発明で使用するノボラック型フェノール系樹脂は、本発明の効果およびゴム中への分散性という観点から、ノボラック型フェノール系樹脂が、ノボラック型フェノール樹脂、ノボラック型クレゾール樹脂、ノボラック型レゾルシン樹脂のいずれかあるいはそれらの混合物であることが好ましい。
また本発明で使用するノボラック型フェノール系樹脂は、市販されているものを利用することができ、例えば田岡化学工業(株)製スミカノール610、インドスペック社製ペナコライトレジンB−18−S、住友ベークライト(株)製PR−YR−170等が挙げられる。
【0014】
本発明で使用される有機溶媒は、SP値(溶解度パラメーター)が40以下、好ましくは25以下、さらに好ましくは25以下15以上であるものがノボラック型フェノール系樹脂の分散性の観点から好ましい。
【0015】
このような有機溶媒としては、好適なものとして、例えばビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(SP値=19.2)、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(SP値=18.0)等が挙げられる。
【0016】
本発明で使用する樹脂溶液において、軟化点が84℃以上であるノボラック型フェノール系樹脂と有機溶媒との割合は、前者:後者(質量比)として、1:0.25〜4の範囲であり、1:0.5〜3の範囲がさらに好ましい。樹脂の質量比が大きすぎると溶液の粘度が高すぎて、ゴム中での分散が良化しない。樹脂の質量比が小さすぎると溶剤を多量に配合することになり、例えば硬度が下がりすぎたり、発熱が悪化してしまったりするので好ましくない。
上記割合を採用することにより、ゴム成分に対するノボラック型フェノール系樹脂の分散性が一層向上し、本発明の効果を良好に奏することができる。
【0017】
(硬化剤)
本発明のゴム組成物は、硬化剤を配合する。硬化剤としてはノボラック型フェノール系樹脂を硬化可能なものであればよく、とくに制限されないが、例えば本発明の効果の観点から、ヘキサメチレンテトラミン、HMMM(ヘキサメトキシメチロールメラミンの部分縮合物)、PMMM(ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物)、ヘキサエトキシメチルメラミン、パラ−ホルムアルデヒドのポリマーおよびメラミンのN−メチロール誘導体からなる群から選択された1種以上が好ましい。
【0018】
(充填剤)
本発明のゴム組成物は、各種充填剤を配合することができる。充填剤としてはとくに制限されず、適宜選択すればよいが、例えばシリカ、無機充填剤等が挙げられる。無機充填剤としては、例えばクレー、タルク、炭酸カルシウム等を挙げることができる。
【0019】
(スチールコード被覆用ゴム組成物の配合割合)
本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物は、上記ジエン系ゴム100質量部に対し、有機酸コバルト塩を0.1〜10質量部、上記特性を有するカーボンブラックを40〜80質量部、上記樹脂溶液をノボラック型フェノール系樹脂の質量として0.1〜20質量部および硬化剤を0.1〜20質量部配合することを特徴とする。
有機酸コバルト塩の配合量が0.1質量部未満であると、添加量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。
有機酸コバルト塩が10質量部を超えると、発熱性が悪化する。
前記カーボンブラックの配合量が40質量部未満であると、硬度が不足する。
前記カーボンブラックの配合量が80質量部を超えると、発熱性が悪化する。
前記樹脂溶液の配合量が0.1質量部未満であると、添加量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。
前記樹脂溶液の配合量が20質量部を超えると、硬度および破断伸びが悪化する。
前記硬化剤の配合量が0.1質量部未満であると、配合量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。
前記硬化剤の配合量が20質量部を超えると、発熱性が悪化する。
【0020】
本発明において、有機酸コバルト塩のさらに好ましい配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、0.5〜6.0質量部である。
上記特性を有するカーボンブラックのさらに好ましい配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、50〜70質量部である。
本発明において、樹脂溶液のさらに好ましい配合量は、ノボラック型フェノール系樹脂の質量としてジエン系ゴム100質量部に対し、0.5〜18質量部である。
本発明において、硬化剤のさらに好ましい配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、0.5〜18質量部である。
【0021】
本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種充填剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのスチールコード被覆用ゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0022】
本発明に使用されるスチールコードとしては、アンダートレッドに埋設されるベルト、カーカス等が挙げられる。本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物にスチールコードを埋設させ、複合材を得る手段としては、例えば、前記の各種成分をバンバリーミキサーやロールミキサーなどの汎用の混合機を用いて混合しゴム組成物を調製し、これに金属製補強コードを埋設させ、常法にしたがって加硫すればよい。
また本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに使用することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0024】
実施例1〜4および比較例1〜7
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫系(加硫促進剤、硫黄)と硬化剤を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、ミキサー外に放出させて室温冷却した。続いて、該組成物を同バンバリーミキサーに再度入れ、加硫系を加えて混練し、スチールコード被覆用ゴム組成物を得た。得られたスチールコード被覆用ゴム組成物を170℃、15分の条件でプレス加硫し、以下に示す試験法で物性を測定した。
【0025】
硬度(20℃):JIS K6253に基づき、20℃にて測定した。結果は、比較例1の値を100として指数で示した。指数が大きいほど硬度が高く、走行時の変形が少ないため耐久性に優れることを示す。
発熱性:(株)東洋精機製作所製の粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪=10%、振幅=±2%、周波数=20Hzの条件下でtanδ(60℃)を測定し、この値をもって発熱性を評価した。結果は、比較例1の値を100として指数で示した。指数が低いほど、低発熱性であることを示す。
ゴム付着力:ASTM D1871に準拠し、ブラスメッキワイヤーを用いて測定した。結果は、比較例1の値を100として指数で示した。指数が大きいほど、ゴム付着力が大きく、ゴムとワイヤの接着性が良いことを示す。
結果を表1に併せて示す。
【0026】
【表1】

【0027】
*1:NR(タイ製STR−20)
*2:カーボンブラック−1(キャボットジャパン(株)製ショウブラックN326、NSA=81m/g)
*3:カーボンブラック−2(東海カーボン(株)製シースト6、NSA=119m/g)
*4:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製、酸化亜鉛3種)
*5:ステアリン酸コバルト(DIC社製)
*6:老化防止剤(FLEXSYS社製6PPD)
*7:ノボラック型クレゾール樹脂(田岡化学工業(株)製スミカノール610、軟化点=96℃)
*8:ノボラック型レゾルシン樹脂(インドスペック社製ペナコライトレジンB−18−S、軟化点=107℃)
*9:樹脂溶液−1(上記ノボラック型クレゾール樹脂をビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(エボニックデグッサ(株)製Si75)に溶解したもの。ジエン系ゴム100質量部に対し、樹脂2質量部および有機溶媒2質量部を使用した。なお表中の数値は樹脂溶液全体の質量部を表す)
*10:樹脂溶液−2(上記ノボラック型クレゾール樹脂をビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(エボニックデグッサ(株)製Si75)に溶解したもの。ジエン系ゴム100質量部に対し、樹脂4質量部および有機溶媒4質量部を使用した。なお表中の数値は樹脂溶液全体の質量部を表す)
*11:樹脂溶液−3(上記ノボラック型クレゾール樹脂をビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(エボニックデグッサ(株)製Si69)に溶解したもの。ジエン系ゴム100質量部に対し、樹脂2質量部および有機溶媒2質量部を使用した。なお表中の数値は樹脂溶液全体の質量部を表す)
*12:Si75(エボニックデグッサ(株)製Si75を単品で使用したもの)
*13:樹脂溶液−4(上記ノボラック型クレゾール樹脂をSP値26.6のジエチレングリコール(DEG)に溶解したもの。ジエン系ゴム100質量部に対し、樹脂2質量部および有機溶媒2質量部を使用した。なお表中の数値は樹脂溶液全体の質量部を表す)
*14:樹脂溶液−5(上記ノボラック型レゾルシン樹脂をビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(エボニックデグッサ(株)製Si75)に溶解したもの。ジエン系ゴム100質量部に対し、樹脂2質量部および有機溶媒2質量部を使用した。なお表中の数値は樹脂溶液全体の質量部を表す)
*15:樹脂溶液−6(上記ノボラック型クレゾール樹脂をビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(エボニックデグッサ(株)製Si75)に溶解したもの。ジエン系ゴム100質量部に対し、樹脂2質量部および有機溶媒0.4質量部を使用した。なお表中の数値は樹脂溶液全体の質量部を表す)
*16:樹脂溶液−7(上記ノボラック型クレゾール樹脂をビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(エボニックデグッサ(株)製Si75)に溶解したもの。ジエン系ゴム100質量部に対し、樹脂2質量部および有機溶媒12質量部を使用した。なお表中の数値は樹脂溶液全体の質量部を表す)
*17:PMMM(田岡化学工業(株)製スミカノール507A)
*18:硫黄(四国化成工業(株)製ミュークロンOT−20)
*19:加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製ノクセラーDZ−G)
なおジエチレングリコールとしては丸善石油化学(株)製のものを用いた。
【0028】
上記の表1から明らかなように、実施例1〜4で調製されたスチールコード被覆用ゴム組成物は、天然ゴムを含むジエン系ゴムに対し、有機酸コバルト塩の特定量、特定の特性を有するカーボンブラックの特定量、特定の樹脂溶液の特定量および硬化剤を特定量を配合しているので、従来の代表的な比較例1または5に対し、スチールコードに対して良好な接着性を有するとともに、硬度および発熱性にも優れることが明らかになった。図1は、比較例1で得られたゴム組成物の原子間力顕微鏡により得られた位相像である。また図2は、実施例1で得られたゴム組成物の原子間力顕微鏡により得られた位相像である。これらの図により、ノボラック型フェノール系樹脂およびカーボンブラックのゴム中での分散状態を比較できる。色の暗い部分がノボラック型フェノール系樹脂やカーボンブラックである。これらの図を比較すると樹脂溶液を用いることでノボラック型フェノール系樹脂とカーボンブラックの分散が向上していることが明らかである。
これに対し、比較例2は、カーボンブラックのNSAが本発明で規定する上限を超えているので、発熱性および接着性が共に悪化した。
比較例3は、ノボラック型クレゾール樹脂を有機溶媒に溶解させることなく、両者をそれぞれ1:1(質量比)として別々に添加した例であり、硬度、発熱性および接着性のいずれも改善が見られなかった。
比較例4は、樹脂溶液における有機溶媒にジエチレングリコールを使用した例であり、接着性が悪化した。
比較例6は、樹脂溶液における有機溶媒の使用量が本発明で規定する下限未満であるので、硬度、発熱性および接着性のいずれも改善が見られなかった。
比較例7は、樹脂溶液における有機溶媒の使用量が本発明で規定する上限を超えているので、硬度、発熱性および接着性のいずれもが悪化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対し、
有機酸コバルト塩を0.1〜10質量部、
窒素吸着比表面積(NSA)が100m/g以下であるカーボンブラックを40〜80質量部、
下記の樹脂溶液を、ノボラック型フェノール系樹脂の質量として0.1〜20質量部、および
硬化剤を0.1〜20質量部
配合してなることを特徴とするスチールコード被覆用ゴム組成物。
前記樹脂溶液:軟化点が84℃以上であるノボラック型フェノール系樹脂をアルコキシシリル基含有化合物からなる有機溶媒に溶解してなる樹脂溶液であって、前記ノボラック型フェノール系樹脂が、ノボラック型フェノール樹脂、ノボラック型クレゾール樹脂、ノボラック型レゾルシン樹脂、オイル変性フェノール樹脂のいずれかあるいはそれらの混合物であり、前記ノボラック型フェノール系樹脂と前記有機溶媒との比率が、前者:後者(質量比)として、1:0.25〜1:4である。
【請求項2】
前記有機溶媒のSP値が40以下であることを特徴とする請求項1に記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
【請求項3】
前記有機溶媒のSP値が25以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
【請求項4】
前記有機溶媒のSP値が25以下15以上であることを特徴とする請求項3に記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
【請求項5】
前記硬化剤が、ヘキサメチレンテトラミン、HMMM(ヘキサメトキシメチロールメラミンの部分縮合物)、PMMM(ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物)、ヘキサエトキシメチルメラミン、パラ−ホルムアルデヒドのポリマーおよびメラミンのN−メチロール誘導体からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のスチールコード被覆用ゴム組成物に、スチールコードを埋設させてなる複合材を用いた空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−246412(P2012−246412A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120247(P2011−120247)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】