説明

ステアリングシャフトの締結構造およびそれを備えた車両

【課題】ステアリングシャフトをブラケットに固定する際の組立工程が複雑になるのを抑制することが可能なステアリングシャフトの締結構造およびそれを備えた車両を提供する。
【解決手段】この自動二輪車(車両)1は、外周面に凸部7aが形成されたステアリングシャフト7と、ステアリングシャフト7が固定される貫通穴10aを有するアンダーブラケット10とを備えている。また、アンダーブラケット10の貫通穴10aは、ステアリングシャフト7の軸方向に延びる内面を有し、ステアリングシャフト7の凸部7aは、アンダーブラケット10の貫通穴10aの内面の途中の位置に食い込まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステアリングシャフトの締結構造およびそれを備えた車両に関し、特に、ブラケットに対するステアリングシャフトの締結構造およびそれを備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラケットに対するステアリングシャフトの締結構造が知られている(たとえば、特許文献1参照)。上記特許文献1には、貫通穴を有するホーク肩(ブラケット)に対するホークステム(ステアリングシャフト)の取付構造(ステアリングシャフトの締結構造)が開示されている。上記特許文献1では、ホークステムは、ホーク肩の貫通穴に上側から圧入されている。また、ホークステムのホーク肩の貫通穴に圧入される部分には、ホークステムの軸方向に延びる突条(凸部)が形成されている。また、ホークステムのホーク肩の貫通穴の下部に位置する部分は、ホークステムの軸方向と交差する方向に、かしめなどにより拡げられている。
【0003】
上記特許文献1では、ホークステムのホーク肩の貫通穴に圧入される部分は、ホークステムの軸方向に延びる突条が形成されているので、ホークステムがホーク肩の貫通穴に対して貫通穴の周方向に空回りするのを抑制することが可能である。また、ホークステムのホーク肩の貫通穴の下部に位置する部分は、ホークステムの軸方向と交差する方向に拡げられているので、ホークステムがホーク肩の貫通穴から上側に抜け出るのを抑制することが可能である。
【0004】
【特許文献1】実開平1−125790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、ホークステムをホーク肩の貫通穴に上側から圧入した後、ホークステムのホーク肩の貫通穴の下部に位置する部分を、ホークステムの軸方向と交差する方向に、かしめなどにより拡げる必要があるので、ホークステム(ステアリングシャフト)をホーク肩(ブラケット)に固定する際の組立工程が複雑になるという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、ステアリングシャフトをブラケットに固定する際の組立工程が複雑になるのを抑制することが可能なステアリングシャフトの締結構造およびそれを備えた車両を提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面によるステアリングシャフトの締結構造は、外周面に凸部が形成されたステアリングシャフトと、ステアリングシャフトが固定される貫通穴を有するブラケットとを備え、ブラケットの貫通穴は、ステアリングシャフトの軸方向に延びる内面を有し、ステアリングシャフトの凸部は、ブラケットの貫通穴の内面の途中の位置に食い込まれている。
【0008】
この第1の局面によるステアリングシャフトの締結構造では、上記のように、ステアリングシャフトの凸部を、ブラケットの貫通穴の内面の途中の位置に食い込ませることによって、ステアリングシャフトが、ブラケットの貫通穴に対して貫通穴の周方向に空回りするのを抑制することができるとともに、ステアリングシャフトがブラケットの貫通穴から軸方向に抜け出るのを抑制することができる。これにより、ステアリングシャフトをブラケットに固定する際に、ステアリングシャフトにかしめなどを行う必要がないので、ステアリングシャフトをブラケットに固定する際の組立工程が複雑になるのを抑制することができる。
【0009】
上記第1の局面によるステアリングシャフトの締結構造において、好ましくは、ステアリングシャフトの凸部は、ステアリングシャフトのブラケットの貫通穴に挿入される部分のうちの挿入方向と逆方向側の領域に設けられているとともに、ステアリングシャフトの軸方向に延びるように形成されている。このように構成すれば、ステアリングシャフトの軸方向に延びる凸部により、ステアリングシャフトがブラケットの貫通穴に対して貫通穴の周方向に空回りするのを有効に抑制することができる。
【0010】
上記第1の局面によるステアリングシャフトの締結構造において、好ましくは、ステアリングシャフトの凸部は、ステアリングシャフトのブラケットに対する挿入方向の前方側に形成された端面を有する。このように構成すれば、ステアリングシャフトの端面により、ステアリングシャフトがブラケットの貫通穴から挿入方向側に抜け出るのを、有効に抑制することができる。
【0011】
上記ステアリングシャフトの凸部が端面を有するステアリングシャフトの締結構造において、好ましくは、ステアリングシャフトの凸部の端面は、平坦面状に形成されている。このように構成すれば、ステアリングシャフトの凸部の端面の周縁をブラケットの貫通穴の内面に食い込ませることができるので、ステアリングシャフトがブラケットの貫通穴から挿入方向側に抜け出るのを、より有効に抑制することができる。
【0012】
上記ステアリングシャフトの凸部が端面を有するステアリングシャフトの締結構造において、好ましくは、ステアリングシャフトの凸部の端面は、テーパ形状に形成されている。このように構成すれば、ステアリングシャフトをブラケットの貫通穴に挿入する際に、ステアリングシャフトをブラケットの貫通穴に挿入しやすくすることができる。
【0013】
上記第1の局面によるステアリングシャフトの締結構造において、好ましくは、ステアリングシャフトの凸部は、ローレット加工により形成されている。このように構成すれば、容易に、ステアリングシャフトの外周面に凸部を形成することができる。
【0014】
上記第1の局面によるステアリングシャフトの締結構造において、好ましくは、ステアリングシャフトは、ブラケットの貫通穴に圧入されて固定されている。このように構成すれば、ステアリングシャフトの凸部を、容易に、ブラケットの貫通穴の内面に食い込ませることができるので、ステアリングシャフトが、ブラケットの貫通穴に対して貫通穴の周方向に空回りするのを、容易に、抑制することができるとともに、ステアリングシャフトがブラケットの貫通穴から軸方向に抜け出るのを、容易に、抑制することができる。
【0015】
上記第1の局面によるステアリングシャフトの締結構造において、好ましくは、ステアリングシャフトがブラケットの貫通穴に挿入されることにより、ブラケットの貫通穴の内面がステアリングシャフトの凸部に削られている。このように構成すれば、ブラケットの貫通穴の内面を、ステアリングシャフトの凸部の表面形状と実質的に同じ形状に形成することができるので、ステアリングシャフトの凸部を、容易に、ブラケットの貫通穴の内面に食い込ませることができる。
【0016】
上記ブラケットの貫通穴の内面がステアリングシャフトの凸部に削られているステアリングシャフトの締結構造において、好ましくは、ステアリングシャフトの外周面のブラケットの貫通穴に挿入された領域には、凸部の挿入方向側に凹部が形成されている。このように構成すれば、ステアリングシャフトの凸部に削られたブラケットの削りくずを、ステアリングシャフトの外周面のブラケットの貫通穴に挿入された領域の凹部に収納することができる。これにより、ステアリングシャフトの凸部に削られたブラケットの削りくずが、ブラケットの貫通穴の外部に飛散するのを抑制することができる。
【0017】
上記ステアリングシャフトの外周面に凹部が形成されているステアリングシャフトの締結構造において、好ましくは、凹部は、ステアリングシャフトの外周面に溝状に形成されている。このように構成すれば、ステアリングシャフトの凸部に削られたブラケットの削りくずを、ステアリングシャフトの外周面の全周にわたって収納することができる。
【0018】
上記ブラケットの貫通穴の内面がステアリングシャフトの凸部に削られているステアリングシャフトの締結構造において、好ましくは、ステアリングシャフトは、ブラケットよりも大きい硬度を有する。このように構成すれば、ステアリングシャフトをブラケットの貫通穴に挿入する際に、ブラケットの貫通穴の内面を、ステアリングシャフトの凸部により、容易に削ることができる。
【0019】
上記第1の局面によるステアリングシャフトの締結構造において、好ましくは、ステアリングシャフトの外周面のうちの凸部よりも挿入方向側の部分の少なくとも一部は、ブラケットの貫通穴に圧入されている。このように構成すれば、ステアリングシャフトをブラケットの貫通穴に挿入する際に、ステアリングシャフトの外周面のうちの凸部よりも挿入方向側の部分の少なくとも一部により、ステアリングシャフトをブラケットの貫通穴に対して位置決めした状態で、ステアリングシャフトをブラケットの貫通穴に圧入することができる。
【0020】
上記第1の局面によるステアリングシャフトの締結構造において、好ましくは、ステアリングシャフトは、ブラケットに溶接されることなく固定されている。このように構成すれば、ステアリングシャフトをブラケットに固定する際に、ステアリングシャフトをブラケットに溶接する必要がないので、ステアリングシャフトをブラケットに固定する際の組立工程が複雑になるのを抑制することができる。また、ステアリングシャフトを、ブラケットに溶接されることなく固定することによって、通常、溶接しにくい高強度材をステアリングシャフトに用いた場合にも、容易に、ステアリングシャフトをブラケットに固定することができる。
【0021】
この発明の第2の局面による車両は、請求項1〜12のいずれか1項に記載のステアリングシャフトの締結構造を備える。このように構成すれば、ステアリングシャフトをブラケットに固定する際の組立工程が複雑になるのを抑制することが可能な車両を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態による自動二輪車の全体構造を示した側面図である。図2〜図5は、図1に示した一実施形態による自動二輪車のステアリングシャフトおよびアンダーブラケットの締結構造を説明するための図である。なお、本実施形態では、本発明の車両の一例として、アンダーボーンフレーム構造を有するモペットタイプの自動二輪車について説明する。図中、矢印FWD方向は、自動二輪車の走行方向の前方を示している。以下、図1〜図5を参照して、本発明の一実施形態による自動二輪車1の構造について説明する。
【0024】
本発明の一実施形態による自動二輪車1の全体構造としては、図1に示すように、ヘッドパイプ2の後部に、メインフレーム3が接続されている。メインフレーム3は、後方の下方向に延びるように形成されている。これらヘッドパイプ2およびメインフレーム3によって、車体フレーム4が構成されている。
【0025】
また、ヘッドパイプ2の前方には、ヘッドパイプ2の前方を覆うフロントカウル5が設けられている。また、ヘッドパイプ2の上方には、ハンドル6が回動可能に配置されている。このハンドル6の下部には、下方に延びる連結部6aが設けられている。この連結部6aは、高強度材からなるステアリングシャフト7の上部に固定部材8を用いて固定されている。また、図2に示すように、ヘッドパイプ2の挿入穴2aの上部および下部の内部には、それぞれ、ベアリング9aおよび9bが配置されている。また、ヘッドパイプ2の挿入穴2aには、ステアリングシャフト7が回動可能に挿入されている。また、ステアリングシャフト7の下部は、アンダーブラケット10に固定(締結)されている。なお、アンダーブラケット10は、本発明の「ブラケット」の一例である。また、ステアリングシャフト7およびアンダーブラケット10の詳細な締結構造については、後述する。
【0026】
また、図3および図4に示すように、アンダーブラケット10の車幅方向(A方向)の両端部近傍には、一対のフロントフォーク11が固定されている。この一対のフロントフォーク11の下端部には、図1に示すように、前輪12が回転可能に取り付けられている。また、前輪12の上方には、前輪12の上方を覆うフロントフェンダ13が配置されている。
【0027】
また、メインフレーム3の下方には、エンジン14が配置されている。また、メインフレーム3の後部の上方には、シート15が配置されている。また、メインフレーム3の後部(下部)に設けられたピボット軸(図示せず)には、リヤアーム16の前端部が上下に揺動可能に支持されている。このリヤアーム16の後端部には、後輪17が回転可能に取り付けられている。また、後輪17の上方には、後輪17の上方を覆うリヤフェンダ18が配置されている。
【0028】
次に、ステアリングシャフト7およびアンダーブラケット10の締結構造を詳細に説明する。
【0029】
ここで、本実施形態では、ステアリングシャフト7は、アンダーブラケット10よりも大きい硬度を有している。また、図4に示すように、ステアリングシャフト7は、アンダーブラケット10の貫通穴10aに、溶接されることなく、下側から上方向(矢印B方向)に圧入されて固定されている。この貫通穴10aは、ステアリングシャフト7の軸方向(矢印B方向および矢印C方向)に延びる内面を有している。また、ステアリングシャフト7の軸中心L1は、アンダーブラケット10の貫通穴10aの中心線L2上に配置されている。また、ステアリングシャフト7のアンダーブラケット10の貫通穴10a(図4参照)に圧入される部分の外周面には、図4および図5に示すように、複数の凸部7aと、複数の凸部7aの上側に形成された凹部7bと、凹部7bの上側に形成された位置決め圧入部7cとが設けられている。すなわち、ステアリングシャフト7の凸部7aは、アンダーブラケット10の貫通穴10aに圧入される部分のうちの圧入方向(矢印B方向)と逆方向(矢印C方向)側の領域に設けられている。
【0030】
また、本実施形態では、図3および図5に示すように、ステアリングシャフト7の複数の凸部7aは、ローレット加工により、ステアリングシャフト7の軸方向(矢印B方向および矢印C方向(図5参照))に延びる三角形状を有するように形成されている。また、ステアリングシャフト7の凸部7aは、約0.15mm〜約0.25mmの突出高さを有するとともに、約15mmの軸方向(矢印B方向および矢印C方向)の長さを有する。
【0031】
また、本実施形態では、図3および図4に示すように、ステアリングシャフト7の凸部7aは、アンダーブラケット10の貫通穴10aの内面の下側から途中までの位置に食い込まれるように配置されている。また、ステアリングシャフト7の凸部7aは、図4に示すように、ステアリングシャフト7のアンダーブラケット10に対する圧入方向(矢印B方向)の前方側(上側)に形成された上端面7dを有している。この上端面7dは、ステアリングシャフト7がアンダーブラケット10の貫通穴10aに対して上方向(矢印B方向)に抜け出るのを抑制する機能を有する。また、ステアリングシャフト7の凸部7aの上端面7dは、平坦面状に形成されており、上端面7dの周縁は、アンダーブラケット10の貫通穴10aの内面に食い込まれている。また、ステアリングシャフト7の凸部7aの上端面7dは、ステアリングシャフト7の軸方向(矢印B方向および矢印C方向)に垂直な方向から約30度傾斜したテーパ形状に形成されている。なお、上端面7dは、本発明の「端面」の一例である。
【0032】
また、本実施形態では、アンダーブラケット10の貫通穴10aの内面は、ステアリングシャフト7がアンダーブラケット10の貫通穴10aに下側から圧入される際に、ステアリングシャフト7の凸部7aにより削られている。これにより、図3に示すように、アンダーブラケット10の貫通穴10aのステアリングシャフト7の凸部7aが圧入された部分の内面は、ステアリングシャフト7の凸部7aの表面形状と実質的に同じ形状に形成されている。また、ステアリングシャフト7の凹部7bは、図4に示すように、ステアリングシャフト7がアンダーブラケット10の貫通穴10aに圧入される際に、アンダーブラケット10の貫通穴10aの内面がステアリングシャフト7の凸部7aにより削られて発生する削りくずを収納するように形成されている。また、ステアリングシャフト7の凹部7bは、約1mm〜約1.5mmの深さを有するとともに、約3mmの軸方向の長さを有する。また、ステアリングシャフト7の凹部7bは、アンダーブラケット10の貫通穴10aの内面がステアリングシャフト7の凸部7aにより削られて発生する削りくずの体積よりも大きい容積を有する。
【0033】
また、ステアリングシャフト7の位置決め圧入部7cは、アンダーブラケット10の貫通穴10aに圧入されている。
【0034】
また、図2に示すように、アンダーブラケット10の貫通穴10a(図4参照)周辺の上面部10bは、ヘッドパイプ2の挿入穴2aの内部に配置されたベアリング9bの下面に当接されている。これにより、自動二輪車1(図1参照)が地面の凸部を乗り越える際に前輪12(図1参照)が上方向(矢印B方向)に移動した場合、フロントフォーク11を介してアンダーブラケット10に伝達される上方向(矢印B方向)への荷重を、ベアリング9bを介してヘッドパイプ2(車体フレーム4)に逃がすことが可能となる。その結果、アンダーブラケット10がステアリングシャフト7に対して上方向(矢印B方向)に移動するのを抑制することが可能となる。すなわち、ステアリングシャフト7がアンダーブラケット10の貫通穴10a(図4参照)に対して下方向(矢印C方向)に抜け出るのを抑制することが可能となる。
【0035】
図6は、図1に示した一実施形態による自動二輪車のステアリングシャフトが締結される前のアンダーブラケットの構造を示した断面図である。図7は、図1に示した一実施形態による自動二輪車のステアリングシャフトをアンダーブラケットに締結する組立工程を説明するための断面図である。次に、図4〜図7を参照して、ステアリングシャフト7をアンダーブラケット10に締結する組立工程を説明する。
【0036】
図6に示すように、ステアリングシャフト7(図5参照)が締結される前のアンダーブラケット10の貫通穴10aの内面は、凹凸形状を有しない円周状に形成されている。また、アンダーブラケット10の貫通穴10aの内面は、ステアリングシャフト7の凸部7a(図5参照)が形成された領域の直径(外径)よりも約0.3mm〜約0.5mm小さい内径を有するとともに、矢印B方向(矢印C方向)に延びるように形成されている。
【0037】
そして、ステアリングシャフト7を、図7に示すように、アンダーブラケット10の貫通穴10aに下側から上方向(矢印B方向)に圧入する。このとき、ステアリングシャフト7の位置決め圧入部7cが、アンダーブラケット10の貫通穴10aに圧入されることにより、ステアリングシャフト7の軸中心L1がアンダーブラケット10の貫通穴10aの中心線L2上に配置される。なお、ステアリングシャフト7の位置決め圧入部7cがアンダーブラケット10の貫通穴10aに圧入される際には、アンダーブラケット10の貫通穴10aの内面は削られない。
【0038】
その後、ステアリングシャフト7の軸中心L1がアンダーブラケット10の貫通穴10aの中心線L2上に配置された状態で、ステアリングシャフト7の凸部7aが、アンダーブラケット10の貫通穴10aに約20kN〜約50kNの力で圧入される。このとき、アンダーブラケット10の貫通穴10aの内面は、ステアリングシャフト7の凸部7aにより削られる。これにより、アンダーブラケット10の貫通穴10aのステアリングシャフト7の凸部7aが圧入された部分の内面は、ステアリングシャフト7の凸部7aの表面形状と実質的に同じ形状に形成されるとともに、ステアリングシャフト7の凸部7aが、アンダーブラケット10の貫通穴10aの内面に食い込まれる。また、アンダーブラケット10の貫通穴10aがステアリングシャフト7の凸部7aにより削られる際に発生する削りくずは、ステアリングシャフト7の凹部7bに収納される。
【0039】
そして、ステアリングシャフト7の凸部7aがアンダーブラケット10の貫通穴10aの途中の位置に位置するまで、ステアリングシャフト7がアンダーブラケット10の貫通穴10aに圧入されることにより、図4に示したステアリングシャフト7およびアンダーブラケット10の締結構造が得られる。
【0040】
本実施形態では、上記のように、ステアリングシャフト7の凸部7aを、アンダーブラケット10の貫通穴10aの内面の途中の位置に食い込ませることによって、ステアリングシャフト7が、アンダーブラケット10の貫通穴10aに対して貫通穴10aの周方向に空回りするのを抑制することができるとともに、ステアリングシャフト7がアンダーブラケット10の貫通穴10aから上方向(矢印B方向)に抜け出るのを抑制することができる。これにより、ステアリングシャフト7をアンダーブラケット10に固定する際に、ステアリングシャフト7にかしめなどを行う必要がないので、ステアリングシャフト7をアンダーブラケット10に固定する際の組立工程が複雑になるのを抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態では、ステアリングシャフト7の凸部7aを、ステアリングシャフト7の軸方向(矢印B方向および矢印C方向)に延びるように形成することによって、ステアリングシャフト7の軸方向(矢印B方向および矢印C方向)に延びる凸部7aにより、ステアリングシャフト7がアンダーブラケット10の貫通穴10aに対して貫通穴10aの周方向に空回りするのを有効に抑制することができる。
【0042】
また、本実施形態では、ステアリングシャフト7の凸部7aの圧入方向(矢印B方向)の前方側(上側)に上端面7dを設けることによって、自動二輪車1が地面の凸部を乗り越えた後に前輪12が下方向(矢印C方向)に移動することにより、フロントフォーク11を介してアンダーブラケット10に下方向への荷重が伝達された場合にも、ステアリングシャフト7の上端面7dにより、ステアリングシャフト7がアンダーブラケット10の貫通穴10aから上方向(矢印B方向)に抜け出るのを、有効に抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態では、ステアリングシャフト7の凸部7aの上端面7dを、平坦面状に形成することによって、ステアリングシャフト7の凸部7aの上端面7dの周縁をアンダーブラケット10の貫通穴10aの内面に食い込ませることができるので、ステアリングシャフト7がアンダーブラケット10の貫通穴10aから圧入方向(矢印B方向)側に抜け出るのを、より有効に抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態では、ステアリングシャフト7の凸部7aの上端面7dを、テーパ形状に形成することによって、ステアリングシャフト7をアンダーブラケット10の貫通穴10aに圧入する際に、ステアリングシャフト7をアンダーブラケット10の貫通穴10aに圧入しやすくすることができる。
【0045】
また、本実施形態では、ステアリングシャフト7をアンダーブラケット10の貫通穴10aに圧入する際に、アンダーブラケット10の貫通穴10aの内面をステアリングシャフト7の凸部7aにより削ることによって、アンダーブラケット10の貫通穴10aの内面を、ステアリングシャフト7の凸部7aの表面形状と実質的に同じ形状に形成することができるので、ステアリングシャフト7の凸部7aを、容易に、アンダーブラケット10の貫通穴10aの内面に食い込ませることができる。
【0046】
また、本実施形態では、ステアリングシャフト7の外周面のアンダーブラケット10の貫通穴10aに圧入された領域に、凹部7bを形成することによって、ステアリングシャフト7の凸部7aにより削られたアンダーブラケット10の削りくずを、アンダーブラケット10の貫通穴10aに圧入されたステアリングシャフト7の凹部7bに収納することができる。これにより、ステアリングシャフト7の凸部7aにより削られたアンダーブラケット10の削りくずが、アンダーブラケット10の貫通穴10aの外部に飛散するのを抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態では、ステアリングシャフト7を、アンダーブラケット10よりも大きい硬度を有するように構成することによって、ステアリングシャフト7をアンダーブラケット10の貫通穴10aに圧入する際に、アンダーブラケット10の貫通穴10aの内面を、ステアリングシャフト7の凸部7aにより、容易に削ることができる。
【0048】
また、本実施形態では、ステアリングシャフト7の外周面の凸部7aよりも圧入方向(矢印B方向)側に形成された位置決め圧入部7cを、アンダーブラケット10の貫通穴10aに圧入することによって、ステアリングシャフト7の位置決め圧入部7cにより、ステアリングシャフト7の軸中心L1をアンダーブラケット10の貫通穴10aの中心線L2上に配置した状態で、ステアリングシャフト7をアンダーブラケット10の貫通穴10aに圧入することができる。これにより、ステアリングシャフト7の軸中心L1がアンダーブラケット10の貫通穴10aの中心線L2に対して偏心するのを抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態では、ステアリングシャフト7を、アンダーブラケット10に溶接されることなく固定することによって、ステアリングシャフト7をアンダーブラケット10に固定する際に、ステアリングシャフト7をアンダーブラケット10に溶接する必要がないので、ステアリングシャフト7をアンダーブラケット10に固定する際の組立工程が複雑になるのを抑制することができる。また、ステアリングシャフト7を、アンダーブラケット10に溶接されることなく固定することによって、ステアリングシャフト7が、溶接しにくい高強度材からなる場合にも、容易に、ステアリングシャフト7をアンダーブラケット10に固定することができる。
【0050】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0051】
たとえば、上記実施形態では、本発明を自動二輪車に適用する例を示したが、本発明はこれに限らず、ステアリングシャフトを有する自転車、三輪車、ATV(All Terrain Vehicle;不整地走行車両)などの他の車両にも適用可能である。
【0052】
また、上記実施形態では、モペットタイプの自動二輪車に本発明を適用した例について示したが、本発明はこれに限らず、モペットタイプ以外の自動二輪車に本発明を適用してもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、ステアリングシャフトの凸部を、ローレット加工により形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、ステアリングシャフトの凸部を、ローレット加工以外の転造加工または切削加工などにより形成してもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、ステアリングシャフトの凸部を、軸方向に延びる三角形状を有するように形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、ステアリングシャフトの凸部を、軸方向に延びる三角形状以外の、たとえば、インボリュート形状を有するように形成してもよい。また、ステアリングシャフトの凸部をスプラインやセレーションなどにより形成してもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、ステアリングシャフトの外周面の凸部の圧入方向(上方向)側に凹部を設けるとともに、その凹部に、アンダーブラケットの貫通穴の内面がステアリングシャフトの凸部により削られて発生する削りくずを収納する例について示したが、本発明はこれに限らず、ステアリングシャフトの外周面の凸部と凸部との間の領域に凹部を設けてもよい。すなわち、ステアリングシャフトの凸部に周方向に隣接するように凹部を設けてもよい。この場合、アンダーブラケットの貫通穴の内面がステアリングシャフトの凸部により削られる場合には、発生する削りくずは、凸部と凸部との間に設けられた凹部に収納される。その一方、アンダーブラケットの貫通穴の内面がステアリングシャフトの凸部により削られない場合には、アンダーブラケットの貫通穴の内面は、凸部と凸部との間に設けられた凹部に食い込むように、ステアリングシャフトの凸部により塑性変形される。いずれの場合にも、ステアリングシャフトがアンダーブラケットの貫通穴に対して貫通穴の周方向に空周りするのを抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態による自動二輪車の全体構造を示した側面図である。
【図2】図1に示した一実施形態による自動二輪車のステアリングシャフト周辺の構造を説明するための断面図である。
【図3】図1に示した一実施形態による自動二輪車のステアリングシャフトおよびアンダーブラケットの締結構造を説明するための平面図である。
【図4】図1に示した一実施形態による自動二輪車のステアリングシャフトおよびアンダーブラケットの締結構造を説明するための断面図である。
【図5】図1に示した一実施形態による自動二輪車のステアリングシャフトの構造を説明するための斜視図である。
【図6】図1に示した一実施形態による自動二輪車のステアリングシャフトが締結される前のアンダーブラケットの構造を示した断面図である。
【図7】図1に示した一実施形態による自動二輪車のステアリングシャフトをアンダーブラケットに締結する組立工程を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 自動二輪車(車両)
7 ステアリングシャフト
7a 凸部
7b 凹部
7d 上端面(端面)
10 アンダーブラケット(ブラケット)
10a 貫通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に凸部が形成されたステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトが固定される貫通穴を有するブラケットとを備え、
前記ブラケットの貫通穴は、前記ステアリングシャフトの軸方向に延びる内面を有し、
前記ステアリングシャフトの凸部は、前記ブラケットの貫通穴の内面の途中の位置に食い込まれている、ステアリングシャフトの締結構造。
【請求項2】
前記ステアリングシャフトの凸部は、前記ステアリングシャフトの前記ブラケットの貫通穴に挿入される部分のうちの挿入方向と逆方向側の領域に設けられているとともに、前記ステアリングシャフトの軸方向に延びるように形成されている、請求項1に記載のステアリングシャフトの締結構造。
【請求項3】
前記ステアリングシャフトの凸部は、前記ステアリングシャフトの前記ブラケットに対する挿入方向の前方側に形成された端面を有する、請求項1に記載のステアリングシャフトの締結構造。
【請求項4】
前記ステアリングシャフトの凸部の端面は、平坦面状に形成されている、請求項3に記載のステアリングシャフトの締結構造。
【請求項5】
前記ステアリングシャフトの凸部の端面は、テーパ形状に形成されている、請求項3に記載のステアリングシャフトの締結構造。
【請求項6】
前記ステアリングシャフトの凸部は、ローレット加工により形成されている、請求項1に記載のステアリングシャフトの締結構造。
【請求項7】
前記ステアリングシャフトは、前記ブラケットの貫通穴に圧入されて固定されている、請求項1に記載のステアリングシャフトの締結構造。
【請求項8】
前記ステアリングシャフトが前記ブラケットの貫通穴に挿入されることにより、前記ブラケットの貫通穴の内面が前記ステアリングシャフトの凸部に削られている、請求項1に記載のステアリングシャフトの締結構造。
【請求項9】
前記ステアリングシャフトの外周面の前記ブラケットの貫通穴に挿入された領域には、前記凸部の挿入方向側に凹部が形成されている、請求項8に記載のステアリングシャフトの締結構造。
【請求項10】
前記凹部は、前記ステアリングシャフトの外周面に溝状に形成されている、請求項9に記載のステアリングシャフトの締結構造。
【請求項11】
前記ステアリングシャフトは、前記ブラケットよりも大きい硬度を有する、請求項8に記載のステアリングシャフトの締結構造。
【請求項12】
前記ステアリングシャフトの外周面のうちの前記凸部よりも挿入方向側の部分の少なくとも一部は、前記ブラケットの貫通穴に圧入されている、請求項1に記載のステアリングシャフトの締結構造。
【請求項13】
前記ステアリングシャフトは、前記ブラケットに溶接されることなく固定されている、請求項1に記載のステアリングシャフトの締結構造。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のステアリングシャフトの締結構造を備える、車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−290510(P2008−290510A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136037(P2007−136037)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】