説明

ステアリング装置の支持構造

【課題】過大な逆入力が印加された時に、ラックハウジングが受ける荷重を緩和することができるステアリング装置の支持構造を提供すること。
【解決手段】ステアリング装置の支持構造は、ブラケット30に対するラックハウジングHの軸方向への移動を規制しつつ、ラックハウジングHの軸方向に作用する荷重が許容範囲を越えるとラックハウジングHの軸方向への移動を許容する押圧ピン34及び皿バネ35を備える。また、ステアリング装置の支持構造は、ラックハウジングHを軸方向へ移動させるエネルギーを吸収するエネルギー吸収部材を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックハウジングが車両側支持体に支持されてなるステアリング装置の支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のステアリング装置には、ステアリングホイールの操舵に伴うステアリングシャフトの回転を、ラックアンドピニオン機構によってラック軸の往復動に変換することにより、転舵輪の舵角を変更するようにしたものがある。この種のステアリング装置において、ラック軸はラックハウジングに往復動可能に支持され、このラックハウジングは車両側支持体に対して剛的に支持されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
詳細には、図7(a)に示すように、ラックハウジング90(特許文献1ではラックチューブと記載)の外周面には一対のフランジ90aが形成され、両フランジ90aの間にはゴム製のグロメット91が嵌装されている。また、ラックハウジング90は、両フランジ90aの間に配置された締付ブラケット92によって車両側支持体93(特許文献1では取付部と記載)に固定されるとともに、この固定により、グロメット91がラックハウジング90と車両側支持体93との間に保持されている。図7(b)に示すように、グロメット91には、金属等の剛性の高い材料よりなる芯材94が内蔵されている。そして、特許文献1の支持構造においては、芯材94によってグロメット91の剛性を高め、ラックハウジング90の軸方向への支持剛性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭59−186173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、転舵輪が縁石等に乗り上げたときのように、転舵輪からラック軸に過大な逆入力が印加されると、ラック軸と一体のラックエンドが、そのストロークエンドでラックハウジング90に衝突する。すると、ラックハウジング90には軸方向への過大な荷重が作用し、フランジ90aがグロメット91を圧迫する。しかし、特許文献1の支持構造ではグロメット91の剛性が高められ、ラックハウジング90の軸方向への支持剛性を高めていることから、ラックハウジングが過大な荷重を受けることでグロメット91及びフランジ90aが損傷を受ける虞がある。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、過大な逆入力が印加された時に、ラックハウジングが受ける荷重を緩和することができるステアリング装置の支持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、ラック軸を往復動可能に支持するラックハウジングが車両側支持体上に配置されるとともに、前記ラックハウジングの一部を包囲するブラケットを前記車両側支持体に固定することにより、前記ラックハウジングが前記車両側支持体に支持されてなるステアリング装置の支持構造において、前記ブラケットに対する前記ラックハウジングの軸方向への移動を規制しつつ、前記ラックハウジングの軸方向に作用する荷重が許容範囲を越えると前記ラックハウジングの軸方向への移動を許容する移動規制機構を備えるとともに、前記ラックハウジングを軸方向へ移動させるエネルギーを吸収するエネルギー吸収機構を備えることを要旨とする。
【0008】
この発明によれば、過大な逆入力の印加により、ラックハウジングが許容範囲を越える過大な荷重を受けると、移動規制機構によるラックハウジングの移動規制が解除され、ラックハウジングを軸方向へ移動させることができる。このラックハウジングの軸方向への移動により、ラックハウジングが受ける荷重を緩和することができる。よって、軸方向への支持剛性を高めたままで過大な荷重を支承する場合と異なり、ラックハウジングが損傷を受けることを防止することができる。さらに、エネルギー吸収機構により、ラックハウジングを移動させるエネルギーを吸収することができるため、そのエネルギーによりラックハウジングが損傷を受けることを防止することができる。また、ラックハウジングが過大な荷重を受けると、ラックハウジングを軸方向へ移動させるため、荷重を受けた後は、ラックハウジングは通常あるべき位置から移動している。このため、ステアリング操作の際に、運転者に違和感を抱かせることができ、ステアリング装置の異常を運転者に気付かせることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のステアリング装置の支持構造において、前記ラックハウジングの軸方向に沿った前記ブラケットの両側には、前記ラックハウジングの軸方向への移動を規制する規制部が、前記ブラケットから離間した位置に設けられていることを要旨とする。
【0010】
この発明によれば、規制部によりラックハウジングが無限に軸方向へ移動してしまうことを防止することができる。このため、ラックハウジングに過大な荷重が作用し、ラックハウジングが移動しても、移動後のラックハウジングを予め定めた移動範囲内に位置させることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のステアリング装置の支持構造において、前記エネルギー吸収機構は、前記ブラケットと前記規制部との間に配置されたエネルギー吸収部材が前記ラックハウジングの移動により変形して前記エネルギーを吸収することを要旨とする。
【0012】
この発明によれば、ラックハウジングを移動させるエネルギーを簡単な構成で吸収することができる。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載のステアリング装置の支持構造において、前記移動規制機構は、前記ブラケットと前記ラックハウジングとの間に配置され、前記ラックハウジングの外面に当接する押圧部材と、該押圧部材を前記ラックハウジングに向けて付勢する付勢部材とからなることを要旨とする。
【0013】
この発明によれば、付勢部材を適宜選択することでその付勢力を調整することができるため、付勢部材を変更するだけでラックハウジングの移動を規制する力を簡単に調整することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載のステアリング装置の支持構造において、前記ステアリング装置は、ウォームギアとホイールギアとを噛合してなる減速機構によりモータの回転を減速してステリングシャフトに伝達してステアリング操作を補助するように構成された電動パワーステアリング装置であることを要旨とする。
【0015】
過大な逆入力によりラック軸がラックハウジングに衝突すると、その衝突に伴いラック軸、ステアリングシャフトを介して減速機構に過大なトルクが作用する。このとき、ウォームギアはモータの慣性(イナーシャ)により即座に回転することができないため、ホイールギアとの噛合部に過大な応力が作用する虞がある。しかし、この発明によれば、過大な逆入力の印加によりラック軸がラックハウジングに衝突しても、ラックハウジングを軸方向へ移動させることで、衝突の際にラック軸に作用する衝撃を緩和することができる。その結果として、ラック軸からステアリングシャフトを介して減速機構に過大なトルクが作用することが防止される。このため、減速機構のウォームギアが、モータの慣性(イナーシャ)により即座に回転することができない構成であっても、過大な逆入力の印加時にホイールギアとの噛合部に過大な応力が作用しないため、噛合部が損傷を受けることを防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、過大な逆入力が印加された時に、ラックハウジングが受ける荷重を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態のステアリング装置の概略構成図。
【図2】ステアリング装置の支持構造を示す図1のII−II線断面図。
【図3】第1の実施形態のステアリング装置の支持構造を示す部分側面図。
【図4】第2の実施形態のステアリング装置の支持構造を示す部分側面図。
【図5】ステアリング装置の支持構造の別例を示す部分側面図。
【図6】ステアリング装置の支持構造の別例を示す部分側面図。
【図7】(a)は背景技術を示す分解斜視図、(b)は背景技術を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図3にしたがって説明する。
図1に示すように、ステアリング装置11において、車両側支持体としての車両メンバM上にはラックハウジングHが配置されている。このラックハウジングHの中心軸Lの延びる方向をラックハウジングHの軸方向とすると、このラックハウジングHには、ラック軸12がラックハウジングHの軸方向に往復動自在に収容されている。ラック軸12の両端にはラックエンド13を介してタイロッド14が連結されている。ラックハウジングHの両端側には、蛇腹状に形成された樹脂製のブーツ16が固定されるとともに、このブーツ16により、ラック軸12とタイロッド14との接続部が包囲されている。そして、タイロッド14の先端は、転舵輪を支承するナックル(ともに図示略)に連結されている。
【0019】
ステアリング装置11においては、転舵輪の可動範囲が定められており、転舵輪がこの可動範囲の限界位置を越えるようなステアリングの操舵ができない構成とされている。具体的には、図1の拡大図に示すように、ラックハウジングHの両端には当接面Haが設けられ、この当接面Haにラックエンド13が当接してラック軸12の移動を機械的に拘束することで、転舵輪の可動範囲が定められている。
【0020】
また、図1に示すように、ラックハウジングH内には、ステアリングシャフト17の基端側を構成するピニオン軸15がラック軸12と交差する状態で回転自在に支持されている。なお、本実施形態のステアリングシャフト17は、一端にステアリングホイール21が設けられたコラムシャフト18、及びピニオン軸15とコラムシャフト18を接続するインターミディエイトシャフト19を連結して構成されている。そして、ラック軸12は、周知のラックアンドピニオン機構22を介してステアリングシャフト17と連結されており、ステアリングホイール21の操作に伴うステアリングシャフト17の回転は、このラックアンドピニオン機構22によりラック軸12の往復動に変換される。そして、ラック軸12の軸方向への移動により、転舵輪の舵角が変更される。
【0021】
また、本実施形態のステアリング装置11は、モータ23を駆動源として、コラムシャフト18を回転駆動する所謂コラムアシスト型の電動パワーステアリング装置として構成されている。具体的には、ステアリング装置11において、モータ23は、周知のウォームギア25とホイールギア26からなる減速機構24を介してコラムシャフト18と駆動連結されている。そして、この減速機構24により減速されたモータ23の回転をステアリングシャフト17に伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
【0022】
ラックハウジングHの軸方向の両側(二箇所)には、ブラケット取付部Hbが、ラックハウジングHの一部をその他の部位より細くすることで形成されている。図3に示すように、ラックハウジングHの外面において、ブラケット取付部Hbを軸方向に挟む位置それぞれには、ブラケット取付部Hbを形成したことで生じた段差を利用して規制部Hcが形成されている。そして、各ブラケット取付部Hb(ラックハウジングHの一部)には、ブラケット取付部Hbを包囲するようにブラケット30が取り付けられ、各ブラケット30を車両メンバMに固定することにより、ラックハウジングHが車両メンバMに支持されている。よって、本実施形態では、ラックハウジングHは軸方向両側の2点で車両メンバMに支持される構成となっている。
【0023】
図2に示すように、ブラケット30は、ブラケット取付部Hbの外周面に挟着される略コ字状の挟着部31と、この挟着部31の両端から延設された固定片36とから形成されている。また、挟着部31は天板32と、この天板32の対向する一対の側縁から立設された側板33とから形成されている。そして、ブラケット30の各固定片36は、各側板33に対し直交するように側板33の下端縁から延設され、各固定片36にはボルト挿通孔36aが形成されている。
【0024】
挟着部31の天板32には、貫通孔32aが形成されるとともに、貫通孔32aの内面からはフランジ部32bが貫通孔32aの軸心に向けて延設されている。また、天板32の上面には、有蓋筒状の蓋部38が貫通孔32aを覆うように設けられている。
【0025】
そして、貫通孔32aには、押圧部材としての押圧ピン34が挿通されている。この押圧ピン34は、フランジ部32bを貫通する円柱状の軸部34aと、この軸部34aに一体形成されるとともに、フランジ部32b上に支持される円板状の頭部34bとから形成されている。また、頭部34bの上面と、この上面に対向する蓋部38の内下面との間には、付勢部材としての皿バネ35が弾性変形した状態で収納されている。そして、この皿バネ35の原形状への復帰力により、押圧ピン34は挟着部31内に向けて付勢されている。
【0026】
そして、各ブラケット30は、挟着部31の内面をブラケット取付部Hbの外周面に挟着させた状態で、各ボルト挿通孔36aに挿通したボルト37をナット41で車両メンバMに締結することで車両メンバMに固定されている。すなわち、挟着部31の側板33は、ブラケット取付部Hbの外側面を挟むように押し付けられている。また、挟着部31の天板32において、押圧ピン34は、皿バネ35の付勢力によりブラケット取付部Hb(ラックハウジングH)の上面に押し付けられている。この押し付けによりラックハウジングHは、車両メンバMに押し付けられ、軸方向への移動が規制されている。
【0027】
なお、皿バネ35の付勢力、すなわち、押圧ピン34が皿バネ35から受ける押し付け荷重は、予め設定された許容範囲に収まるように設定されている。この許容範囲の上限値は、転舵輪が縁石等に乗り上げる等により、転舵輪から過大な逆入力が印加され、ラックエンド13が当接面Haに衝突することで、ラックハウジングHが損傷を受ける虞がある衝突荷重より若干低い値に設定されている。そして、ラックハウジングHの軸方向に作用する荷重が、押圧ピン34の押し付け荷重を越えたとき、ラックハウジングHの軸方向への移動が可能になる。よって、本実施形態では、ブラケット30(蓋部38)と、ラックハウジングH(ブラケット取付部Hb)との間に配置された押圧ピン34、及び皿バネ35から移動規制機構が構成されている。そして、この移動規制機構は、ブラケット30に対するラックハウジングHの軸方向への移動を規制しつつ、ラックハウジングHの軸方向に作用する荷重が許容範囲を越えるとラックハウジングHの軸方向への移動を許容するものである。
【0028】
図3に示すように、ラックハウジングHの軸方向に沿ったブラケット30の両側には、各規制部Hcが、挟着部31の側端面31aから離間した位置に設けられている。この側端面31aと、規制部Hcとの距離は、ラックハウジングHが軸方向へ移動した際に、ラックハウジングHを所定の移動範囲内に位置させるために、ラックハウジングHの移動量を規定できるように予め設定されている。すなわち、ラックハウジングHの軸方向に沿ったブラケット取付部Hbの長さは、予め設定された値に設定されている。
【0029】
また、ラックハウジングHにおける各規制部Hcに対向する側端面31aには、エネルギー吸収機構としてのエネルギー吸収部材43が一体化(溶接)されている。このエネルギー吸収部材43は、変形性を有する鉄板を略くの字状に折り曲げて形成されている。また、エネルギー吸収部材43は、挟着部31の側端面31aに接合された側と反対側が規制部Hcに溶接され、ブラケット30(挟着部31)と、規制部Hcとの間に配置されている。
【0030】
次に、上記ステアリング装置11の支持構造の作用について説明する。
さて、転舵輪が縁石等に乗り上げる等して、転舵輪からラック軸12に過大な逆入力が印加されると、ラックエンド13が当接面Haに衝突する。この衝突により、ラックハウジングHに過大な荷重が作用し、その荷重が許容範囲の上限値を越えると、その荷重は押圧ピン34の押し付け荷重を越えることになり、ラックハウジングHがブラケット30に対し軸方向へ移動する。また、ラックエンド13がラックハウジングHの当接面Haに衝突した際に発生するエネルギーは、ラックハウジングHの移動に伴い一方のエネルギー吸収部材43が押し潰され、他方のエネルギー吸収部材43が広げられるように変形することでエネルギー吸収部材43に吸収される。また、エネルギー吸収部材43の変形が止まり、そのエネルギー吸収部材43を介して規制部Hcが挟着部31の側端面31aに当接すると、ラックハウジングHのそれ以上の移動が規制される。
【0031】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)ラックハウジングHをブラケット30で車両メンバMに支持したステアリング装置11の支持構造において、移動規制機構(押圧ピン34及び皿バネ35)によりラックハウジングHの軸方向への移動を規制しつつ、ラックハウジングHに作用する荷重が許容範囲を越えるとラックハウジングHの軸方向への移動を許容する構成とした。このため、過大な逆入力の印加によりラック軸12(ラックエンド13)がラックハウジングHに衝突しても、ラックハウジングHを軸方向へ移動させることで、ラックハウジングHが受ける荷重を緩和することができる。
【0032】
その結果として、コラムアシスト型のステアリング装置11においては、ラック軸12からステアリングシャフト17を介して減速機構24に過大なトルクが作用することが防止される。このため、ステアリングシャフト17の軸径を、小径化しても逆入力印加時の衝撃に耐えることができ、ステアリングシャフト17の軽量化、ひいては製造コストの低減を図ることができる。さらには、減速機構24のウォームギア25が、モータ23の慣性(イナーシャ)により即座に回転することができない構成であっても、ウォームギア25とホイールギア26との噛合部に過大なトルクが作用しないため、噛合部が損傷を受けることを防止することができる。
【0033】
(2)ステアリング装置11の支持構造において、ラックハウジングHに過大な荷重が作用してラックハウジングHが移動した際に、エネルギー吸収部材43の変形により、ラックハウジングHを移動させるエネルギー(衝突エネルギー)を吸収する構成とした。このため、ラックハウジングHを移動させるエネルギーによりラックハウジングHが損傷を受けることを防止することができる。
【0034】
(3)過大な逆入力の印加により、ラック軸12(ラックエンド13)がラックハウジングHの当接面Haに衝突すると、移動規制機構によるラックハウジングHの移動規制が解除され、ラックハウジングHが通常あるべき位置から移動する。このため、ラックハウジングHの当接面Haに対するラックエンド13の当接位置が、ステアリングホイール21の右切と左切とで異なり、運転者に違和感を抱かせることができ、ステアリング装置11の異常に伴うステアリング操作の異常を運転者に気付かせることができる。
【0035】
(4)ラックハウジングHにおいて、ブラケット30の両側に規制部Hcを、挟着部31から離間するように設けた。このため、ラックハウジングHが過大な荷重を受けて軸方向へ移動しても、規制部HcによりラックハウジングHが無限に軸方向へ移動してしまうことを防止することができ、移動後のラックハウジングHを予め定めた移動範囲内に位置させることができる。その結果として、ラックハウジングHの移動後は、その移動分が左右のストロークエンドでの角度差で現れ、ステアリング操作の異常を運転者に気付かせることができる。
【0036】
(5)本実施形態では、移動規制機構を、ブラケット30とラックハウジングHとの間に配置した押圧ピン34及び皿バネ35から構成した。このため、ラックハウジングHを車両メンバMに押し付ける力を、皿バネ35のバネ力(付勢力)で決定することができ、皿バネ35(付勢力)を適宜選択することで押圧ピン34を介した押し付け力を簡単に調整することができる。
【0037】
(6)本実施形態では、エネルギー吸収機構を、変形性を有する鉄板を折り曲げてなるエネルギー吸収部材43より形成した。このため、衝突エネルギを簡単な構成で確実に吸収することができる。
【0038】
(第2の実施形態)
次に、本発明を具体化した第2の実施形態を図4にしたがって説明する。なお、以下の説明において、第1の実施形態と同一構成について同一符号を付すなどし、その重複する説明を省略又は簡略する。
【0039】
図4に示すように、ラックハウジングHの規制部Hcと、各規制部Hcに対向する挟着部31の側端面31aとの間に、エネルギー吸収機構としての弾性体50(ゴム、バネ等)を介装した。この弾性体50は略U字状をなし、ブラケット取付部Hbを包囲するように、ブラケット取付部Hbの外面に貼着されている。そして、ラックハウジングHに過大な荷重が作用し、ラックハウジングHが移動した際は、弾性体50が弾性変形することで、ラックハウジングHを移動させるエネルギーを吸収することができる。
【0040】
したがって、第2の実施形態によれば、第1の実施形態の(1)〜(5)と同様の効果に加え、以下のような効果を得ることができる。
(7)エネルギー吸収機構としてゴム、バネ等よりなる弾性体50を採用した。このため、より安価な構成でエネルギーを吸収することができる。
【0041】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 図5に示すように、エネルギー吸収機構を、ブラケット取付部Hbの外面において、ラックハウジングHの両規制部Hc側に立設された複数のリブHdに変更してもよい。このリブHdは、ブラケット取付部Hbの周方向に沿って等間隔おきに形成されている。各リブHdは、ラックハウジングHの軸方向に沿った両端面のうち一端面が規制部Hcに当接し、他端面が挟着部31の側端面31aに当接している。そして、ラックハウジングHに軸方向への過大な荷重が作用した際は、ラックハウジングHの軸方向への移動に伴いリブHdがブラケット30(挟着部31)及び規制部Hcに押し付けられ、この押し付けによりリブHdが磨耗することでエネルギーを吸収することができる。
【0042】
○ 図6に示すように、エネルギー吸収機構を、ブラケット取付部Hbの外側面から立設された円柱状のピンHfと、ラックハウジングHの軸方向に延びるように側板33に形成された長孔33aとから構成してもよい。長孔33aは、ラックハウジングHの軸方向中央に配置され、かつピンHfが嵌挿されるピン嵌挿部33bと、このピン嵌挿部33bの両側に配置されるエネルギー吸収部33cとを備える。ピン嵌挿部33bはピンHfの直径より僅かに大きい円孔状に形成され、エネルギー吸収部33cはピンHfの直径より細く形成されている。そして、ラックハウジングHに軸方向への過大な荷重が作用した際は、ラックハウジングHの軸方向への移動に伴いピンHfも長孔33a内を移動し、この移動の際、ピンHfが長孔33aのエネルギー吸収部33cの内面を押し広げるように変形させながら移動する。このエネルギー吸収部33cの変形により衝突エネルギーを吸収することができる。
【0043】
○ 第1の実施形態において、移動規制機構を押圧ピン34と皿バネ35とから構成したが、以下のように変更してもよい。挟着部31の天板32に合成樹脂製の連結ピンを一体成形(モールド)するとともに、この連結ピンの軸部をブラケット取付部Hbの上面に凹設された連結凹部に係止させる。そして、過大な逆入力の印加によりラックハウジングHの軸方向に過大な荷重が作用した際には、連結ピンのせん断によりラックハウジングHの軸方向への移動を許容する構成としてもよい。この場合、連結ピンのせん断力を調整することで、ラックハウジングHの移動を許す荷重を調整することができる。
【0044】
○ 第1の実施形態において、移動規制機構を押圧ピン34と皿バネ35とから構成したが、以下のように変更してもよい。ブラケット取付部Hbにおいて、押圧ピン34によって押し付けられる位置に、軸部34aが係止可能な係止凹部を形成する。この係止凹部は、底面から開口に向かうに従い徐々に開口幅を広げるテーパ状に形成されている。そして、過大な逆入力の印加によりラックハウジングHの軸方向に過大な荷重が作用した際には、押圧ピン34の軸部34aがテーパ状の係止凹部の内面によって係止凹部から速やかに離脱し、ラックハウジングHの軸方向への移動が許容される。
【0045】
○ 第1の実施形態において、皿バネ35に換えて板バネ、コイルバネ等の他の弾性部材を用いてもよい。
○ 各実施形態では、本発明をコラムアシスト型のEPSとして構成されたステアリング装置に具体化した。しかし、これに限らず、例えば所謂ラックアシスト型等、コラムアシスト以外のEPSや油圧式のパワーステアリング装置、或いはノンアシスト型のステアリング装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0046】
H…ラックハウジング、Hc…規制部、M…車両側支持体としての車両メンバ、11…ステアリング装置、12…ラック軸、23…モータ、24…減速機構、25…ウォームギア、26…ホイールギア、30…ブラケット、34…移動規制機構の押圧部材としての押圧ピン、35…移動規制機構の付勢部材としての皿バネ、43…エネルギー吸収機構としてのエネルギー吸収部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラック軸を往復動可能に支持するラックハウジングが車両側支持体上に配置されるとともに、前記ラックハウジングの一部を包囲するブラケットを前記車両側支持体に固定することにより、前記ラックハウジングが前記車両側支持体に支持されてなるステアリング装置の支持構造において、
前記ブラケットに対する前記ラックハウジングの軸方向への移動を規制しつつ、前記ラックハウジングの軸方向に作用する荷重が許容範囲を越えると前記ラックハウジングの軸方向への移動を許容する移動規制機構を備えるとともに、
前記ラックハウジングを軸方向へ移動させるエネルギーを吸収するエネルギー吸収機構を備えることを特徴とするステアリング装置の支持構造。
【請求項2】
前記ラックハウジングの軸方向に沿った前記ブラケットの両側には、前記ラックハウジングの軸方向への移動を規制する規制部が、前記ブラケットから離間した位置に設けられている請求項1に記載のステアリング装置の支持構造。
【請求項3】
前記エネルギー吸収機構は、前記ブラケットと前記規制部との間に配置されたエネルギー吸収部材が前記ラックハウジングの移動により変形して前記エネルギーを吸収する請求項2に記載のステアリング装置の支持構造。
【請求項4】
前記移動規制機構は、前記ブラケットと前記ラックハウジングとの間に配置され、前記ラックハウジングの外面に当接する押圧部材と、該押圧部材を前記ラックハウジングに向けて付勢する付勢部材とからなる請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載のステアリング装置の支持構造。
【請求項5】
前記ステアリング装置は、ウォームギアとホイールギアとを噛合してなる減速機構によりモータの回転を減速してステリングシャフトに伝達してステアリング操作を補助するように構成された電動パワーステアリング装置である請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載のステアリング装置の支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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