説明

ステアリング装置の車体シール構造

【課題】 ステアリングシャフトが車室内外を仕切るダッシュボードを貫通する貫通孔を遮蔽するステアリング装置の車体シール構造を提供する。
【解決手段】 ダッシュボード11の貫通孔12にはシール部材14が取付けられ、その中央部分にはギアボックス20の延長部材22aが貫通する蛇腹状のシール部14bが形成されている。ギアボックス20にはステアリングシャフト21を外側から覆うカバーとその延長部材22aが設けられ、延長部材22aが前記シール部材14の蛇腹状のシール部14bに圧接されてシールされる。延長部材22aは軸方向に所定の長さを備えており、組立誤差や車両の揺動等によって延長部材22aとシール部14bとの接触位置に軸方向のずれによってもシールが確保され、また、シール部14bは延長部材22aの軸方向と交差する方向への移動に対しても変形し、シールが確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用のステアリング装置の車体シール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のステアリング装置は、車室内に配置されたステアリングシャフトが車室外に配置されたステアリング機構に連結されている。このため、車室内部と外部を仕切るダッシュボードには貫通孔が形成され、ステアリングシャフトはこの貫通孔を突き抜けてステアリング機構に連結され、貫通孔部分にはシール構造が配置され、車室外部から泥水や埃などが車室内に侵入しないように構成されている。
【0003】
図3は、このような従来のシール構造100とその周辺の構成の一例を説明する図で、ステアリングシャフト101は、ダッシュボード105、ステアリングシャフトカバー106の内部を貫通し、ステアリングシャフト101の先端に設けられたピニオン102がステアリング機構103のラック104に噛合している。
【0004】
ステアリングシャフトカバー106はステアリング機構103に組み付けられており、ステアリングシャフトカバー106の一方の面にはシール材107が接着剤で接着固定されており、ステアリングシャフトカバー106はシール材107を介してダッシュボード105に押圧して密着させ、ステアリングシャフトがダッシュボード105を貫通する貫通孔部分を車室外部空間からシールしている(特許文献1参照)。
【0005】
このほか、ダッシュボード側にネジやクランプなどの取付部材によりステアリングシャフトを所定の位置に固定した後、ステアリング機構のギアボックスにステアリングシャフトを連結し、ダッシュボードの貫通孔部分をシール部材で車室外部空間からシールするものもある。
【特許文献1】特開2003−237589号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に車両用ステアリング機構、或いはステアリング機構が組み付けられているフレームは、車台にゴム等の弾性部材を介在させて取り付けられており、ステアリング機構は走行中に路面から受ける衝撃により前後左右に揺動する。
【0007】
先に説明した前者のシール構造では、シール部材とダッシュボードが固定されていないから、シール部材とダッシュボードの組立公差と、実際の車両におけるシール部材とダッシュボードとが車両の揺動によりどの程度動くかを考慮して設計しなければならないため、ダッシュボードにシール部材を設ける平面として、ある程度の大きさの平面が必要となるという制約がある。車両のレイアウトによっては、スタビライザー、エキゾーストパイプ等と干渉する場合があり、シール部材を設ける平面を大きく取れない場合がある。
【0008】
また、先に説明した後者のシール構造では、ダッシュボード側にステアリングシャフトを固定した後、車台側のギアボックスにステアリングシャフトを連結するから、シール部材の取付やシール部材によるシール作業の作業性などが悪く、また、ギアボックスのレイアウトによってはこのような構造を採用できない場合がある。この発明は上記課題を解決することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は上記課題を解決するもので、請求項1の発明は、車室内外を仕切る部材を貫通するステアリングシャフトの貫通孔を遮蔽するステアリング装置の車体シール構造であって、前記シール構造は、車体側に設けられたシール部材をステアリング機構のギアボックス側に設けた延長部材が貫通し、その延長部材の外周面に前記シール部材が圧接して車室内外をシールする車体シール構造であることを特徴とするステアリング装置の車体シール構造である。
【0010】
そして、前記延長部材は、前記シール部材によりシールされる延長部材の軸方向位置のずれを許容できる所定の軸方向長さを備えている略円筒形状の延長部材である。
【0011】
また、前記シール部材は、車室内外を仕切る部材に組み付けられた弾性部材からなり、前記延長部材の外周面に弾性的に圧接して延長部材の軸方向位置のずれ及び軸方向と交差する方向の位置のずれを許容するシール部材である。
【0012】
さらに、前記シール部材は、車室内外を仕切る部材に設けた係止部材に車室内側から係止できるシール部材とする。
【0013】
また、前記シール部材は、前記延長部材の外周面に弾性的に圧接するだけでシールが達成されるシール部材とする。
【0014】
また、前記延長部材は、前記シール部材への貫通を容易にするためにシール部材に向かう先端がテーパ状に形成するとよい。
【0015】
また、前記延長部材は、シール部材に圧接する部分は略円筒形状に形成され、ギアボックス側の部分は断面略多角形状に形成され、ギアボックス側の締め付け部材と兼用するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
この発明の車体シール構造は、車体側に設けられたシール部材をステアリング機構のギアボックス側に設けた延長部材が貫通し、その延長部材の外周面に前記シール部材が圧接して車室内外をシールする車体シール構造である。
【0017】
そして、ギアボックス側の延長部材は、略円筒形状の延長部材で所定の軸方向長さを備えているから、組立誤差などにより延長部材の軸方向位置のずれによってもシール部材によるシール機能を損なわない。
【0018】
また、車体側のシール部材は、前記ギアボックス側の前記延長部材の外周面に弾性的に圧接するものであるから、組立誤差、或いは車両の揺動により延長部材が軸方向にずれたり、これと交差する方向にずれても、シール部材のシール機能を損なうことがない。
【0019】
さらに、シール部材は、車室内外を仕切る部材に設けた係止部材に車室内側から係止できる弾性部材とすることで、組み付け作業を容易に行うことができる。また、前記シール部材は、前記延長部材の外周面に弾性的に圧接するだけでシールが達成されるシール部材とすることで、特別に締め付け部材などを必要としない。
【0020】
そして、前記ギアボックス側の延長部材は、先端をテーパ状に形成することでシール部材への貫通を容易にでき、組み付け作業を容易に行うことができる。
【0021】
また、前記ギアボックス側の延長部材を、シール部材に圧接する部分は略円筒形状に形成し、ギアボックス側の部分は断面略多角形状に形成するときはギアボックス側の締め付け部材と兼用することができ、部品点数を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の実施の形態について説明する。図1はこの発明の第1の実施の形態の車体シール構造10を説明する断面図である。図1において、11はダッシュボード、12はダッシュボードに設けられた貫通孔で、図示しないステアリングホイールに連結されるステアリングシャフト21が貫通している。ステアリングシャフト21の下端はステアリング機構のギアボックス20のピニオン軸に結合される。
【0023】
ダッシュボード11に設けられた貫通孔12には、保持部材13に保持されたシール部材14が取付けられている。シール部材14は、その周辺に係止部14aが形成された略円環状の部材で、車室内側(図1では上面側)からシール部材14の係止部14aをダッシュボード11に設けた係止爪11aに係止することで、シール部材14をダッシュボード11に取り付けることができる。シール部材14とダッシュボード11との間もシール部材14によりシールされる。
【0024】
略円環状のシール部材14の中央部分には、後述するギアボックス20の延長部材22aが貫通する開孔14cを備えた蛇腹状のシール部14bが形成されている。
【0025】
ギアボックス20は、内部に例えばラックピニオン機構を備えたもので、一端にピニオンを備えたステアリングシャフト21が図1で上側に延びている。ギアボックス20にはステアリングシャフト21を外側から覆う円錐形のカバー22が設けられており、ギアボックス20とカバー22との結合部分にはOリングなどのシール材が配置され、シールされている。
【0026】
円錐形のカバー22の略上半分は、断面が略円筒状の延長部材22aに形成され、シール部材14の開孔14cに向かう先端はテーパ状部22cに形成され、開孔14cに挿入しやすく形成されている。延長部材22aはシール部材14の開孔14cを貫通し、蛇腹状のシール部14bに圧接されて車室の内側と車室外側とがシールされる。延長部材22aは軸方向に所定の長さを備えており、組立誤差や車両の揺動等によって延長部材22aと蛇腹状のシール部14bとの圧接位置に軸方向のずれが生じても、両者が離脱することなくシールが確保されるように構成されている。
【0027】
さらに、シール部材14の蛇腹状のシール部14bは、延長部材22aの軸方向と交差する方向への移動に対しても変形し、延長部材22aと蛇腹状のシール部14bとのシールが確保されるように構成されている。
【0028】
次に、車両の組立における前記車体シール構造10によるシールについて説明する。まず、図示されていない車台にギアボックス20を組み付けておく。ギアボックス20にはステアリングシャフト21を外側から覆うカバー22とその延長部材22aが設けられているものとする。また、図示されていない車体のダッシュボード11には、車室内側からシール部材14を取付ておくものとする。
【0029】
車台に車体を装架し、車台側のギアボックス20の延長部材22aを車体側のシール部材14の開口14cに差し込み貫通させる。これにより、延長部材22aとシール部材13とが圧接して、両者の間は蛇腹状のシール部14bでシールされ、車室内外を仕切る部材であるダッシュボードを貫通するステアリングシャフトの貫通孔12は遮蔽される。
【0030】
このとき、組立誤差や車両の揺動等によって車台側のギアボックス20の延長部材22aとシール部材14と間に軸方向のずれが生じても、延長部材22aが軸方向に所定の長さを備えているので、両者が離脱することなくシールが確保される。
【0031】
また、組立誤差や車両の揺動等によって車台側のギアボックス20の延長部材22aとシール部材14との間に軸方向と交差する方向へのずれが生じても、シール部材14の蛇腹状のシール部14bが変形してシールが確保される。
【0032】
図2は、この発明の第2の実施の形態の車体シール構造30を説明する図であって、図2の(a)は車体シール構造の断面図、図2の(b)は図2の(a)のA−A線に添った断面図であり、後述するギアボックスに取付られたカバー42の延長部材42aの断面を示している。
【0033】
第2の実施の形態と先に説明した第1の実施の形態との相違点は、ギアボックスに取付られたカバーの延長部材の構造と、ギアボックスに対する延長部材の取付構造にあり、シール部材や延長部材とシール部材と間のシール構造は第1の実施の形態と変わらないので、同一部材には同一符号を付して詳細な説明は省略し、相違点について説明する。
【0034】
図2において、11はダッシュボード、12はダッシュボードに設けられた貫通孔で、図示しないステアリングホイールに連結されるステアリングシャフト21が貫通している。ステアリングシャフト21の下端はステアリング機構のギアボックス40のピニオン軸に結合される。
【0035】
ダッシュボード11に設けられた貫通孔12には、保持部材13に保持されたシール部材14が取付けられている。シール部材14は、その周辺に係止部14aが形成された略円環状の部材で、車室内側(図1では上面側)からシール部材14の係止部14aをダッシュボード11に設けた係止爪11aに係止することで、シール部材14をダッシュボード11に取り付けることができる。シール部材14とダッシュボード11との間もシール部材14によりシールされる。
【0036】
略円環状のシール部材14の中央部分には、後述するギアボックス40の延長部材42aが貫通する開孔14cを備えた蛇腹状のシール部14bが形成されている。
【0037】
ギアボックス40は、内部に例えばラックピニオン機構を備えたもので、一端にピニオンを備えたステアリングシャフト21が図2で上側に延びている。ギアボックス40にはステアリングシャフト21を外側から覆うカバー42が設けられており、ギアボックス40とカバー42との結合部分にはOリングなどのシール材でシールされている。
【0038】
円錐形のカバー42の略上半分は、断面が略円筒状の延長部材42aに形成され、この延長部材22aが前記したシール部材14の開孔14cを貫通し、蛇腹状のシール部14bに圧接されて車室の内側と車室外側とがシールされる。
【0039】
カバー42の延長部材42aは軸方向に所定の長さを備えており、組立誤差や車両の揺動等によって延長部材42aと蛇腹状のシール部14bとの接触位置に軸方向のずれが生じても、両者が離脱することなくシールが確保されるように構成されている。
【0040】
さらに、シール部材14の蛇腹状のシール部14bは、延長部材42aの軸方向と交差する方向への移動に対しても追従して変形し、延長部材42aと蛇腹状のシール部14bとのシールが確保されるように構成されている。
【0041】
円錐形のカバー42のギアボックス側の部分は、断面略多角形状(ここでは6角形)に形成され、その先端はギアボックス40に配置されたベアリング45を締め付けるネジ部42bとなっている。ギアボックス40とカバー42のネジ部42bとの間には液体又はドライタイプのシール材を配置し、ギアボックス40を外界から遮蔽する。
【0042】
この構成により、カバー42の延長部材42aとベアリング45を締め付けるネジとを兼用することができ、部品点数を削減することができる。
【0043】
車両の組立における前記車体シール構造30によるシールについて説明する。まず、図示されていない車台にギアボックス40を組み付けておく。ギアボックス40にはステアリングシャフト21を外側から覆うカバー42とその延長部材42aが設けられているものとする。また、図示されていない車体のダッシュボード11には、車室内側からシール部材14を取付ておくものとする。
【0044】
車台に車体を装架し、車台側のギアボックス40の延長部材42aを車体側のシール部材14の開口14cに差し込み貫通させる。これにより、延長部材42aとシール部材14とが圧接して、両者の間は蛇腹状のシール部14bでシールされ、車室内外を仕切る部材であるダッシュボードを貫通するステアリングシャフトの貫通孔は遮蔽される。
【0045】
このとき、組立誤差や車両の揺動等によって車台側のギアボックス40の延長部材42aとシール部材14との間に軸方向のずれが生じても、延長部材42aが軸方向に所定の長さを備えているので両者が離脱することなくシールが確保される。
【0046】
また、組立誤差や車両の揺動等によって車台側のギアボックス40の延長部材42aとシール部材14との間に軸方向と交差する方向へのずれが生じても、シール部材14の蛇腹状のシール部14bが変形し、シールが確保される。
【産業上の利用可能性】
【0047】
車室内に配置されるステアリングシャフトと車室外に配置されるステアリング機構とを連結する軸が車室内外を仕切るダッシュボードを貫通する部分に形成された貫通孔を遮蔽するステアリング装置の車体シール構造であって、組立誤差や車両の揺動等によってもシールが確保され、組立が容易な車体シール構造である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】この発明の第1の実施の形態の車体シール構造を説明する断面図。
【図2】この発明の第2の実施の形態の車体シール構造を説明する断面図。
【図3】従来のシール構造とその周辺の構成の一例を説明する図。
【符号の説明】
【0049】
10 第1の実施の形態の車体シール構造
11 ダッシュボード
11a 係止爪
12 貫通孔
13 保持部材
14 シール部材
14a 係止部
14b シール部
14c 開孔
20 ギアボックス
21 ステアリングシャフト
22 カバー
22a 延長部材
22c テーパ状部
30 第2の実施の形態の車体シール構造
40 ギアボックス
42 カバー
42a 延長部材
42b ネジ部
45 ベアリング



【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内外を仕切る部材を貫通するステアリングシャフトの貫通孔を遮蔽するステアリング装置の車体シール構造であって、
前記シール構造は、車体側に設けられたシール部材をステアリング機構のギアボックス側に設けた延長部材が貫通し、その延長部材の外周面に前記シール部材が圧接して車室内外をシールする車体シール構造であること
を特徴とするステアリング装置の車体シール構造。
【請求項2】
前記延長部材は、前記シール部材によりシールされる延長部材の軸方向位置のずれを許容できる所定の軸方向長さを備えている略円筒形状の延長部材であること
を特徴とする請求項1記載のステアリング装置の車体シール構造。
【請求項3】
前記シール部材は、車室内外を仕切る部材に組み付けられた弾性部材からなり、前記延長部材の外周面に弾性的に圧接して延長部材の軸方向位置のずれ及び軸方向と交差する方向の位置のずれを許容するシール部材であること
を特徴とする請求項1記載のステアリング装置の車体シール構造。
【請求項4】
前記シール部材は、車室内外を仕切る部材に設けた係止部材に車室内側から係止できるシール部材であること
を特徴とする請求項1記載のステアリング装置の車体シール構造。
【請求項5】
前記シール部材は、前記延長部材の外周面に弾性的に圧接するだけでシールが達成されるシール部材であること
を特徴とする請求項1記載のステアリング装置の車体シール構造。
【請求項6】
前記延長部材は、前記シール部材への貫通を容易にするためにシール部材に向かう先端がテーパ状に形成されていること
を特徴とする請求項1記載のステアリング装置の車体シール構造。
【請求項7】
前記延長部材は、シール部材に圧接する部分は略円筒形状に形成され、ギアボックス側の部分は断面略多角形状に形成され、ギアボックス側の締め付け部材と兼用されること
を特徴とする請求項1記載のステアリング装置の車体シール構造。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−69411(P2006−69411A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−256660(P2004−256660)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】