説明

ステントグラフトデリバリー装置

【課題】ステントグラフトの端部の線材が大きく湾曲することを防止する。
【解決手段】ステントグラフトデリバリー装置10は、ステントグラフト100を折り曲げた状態で内部に収納するシース14と、シース14の内部において該シース14の軸方向に延在するシャフト20と、を備える。シャフト20は、端部の線材102を折り曲げることでグラフト106の軸方向内側に向かって湾曲する頂部102a、102aを、所定の曲率で湾曲するように案内するガイド部26を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステントグラフトを折り曲げて搬送するステントグラフトデリバリー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、血管等の生体管腔内に生じた狭窄部や閉塞部の改善のため、ステントグラフト(ステント付き人工血管)を用いた低侵襲治療が行われている(例えば、特許文献1参照)。ステントグラフトを用いた治療方法(ステントグラフト内挿術)では、例えば、カテーテル等のステントグラフトデリバリー装置(以下、単にデリバリー装置ともいう)によって、ステントグラフトを生体管腔内に送達し、所望の留置位置に該ステントグラフトを挿入・留置することで血管形成を行う。この場合、デリバリー装置は、管状のシースの内周面にステントグラフトを折り曲げて収納することで、該ステントグラフトの送達を行っている。
【0003】
特に、大動脈瘤や大動脈解離の治療に用いられるステントグラフトとしては、血管への追従性に優れる等の理由から、図4Aに示すように、金属製の線材102、102’を複数並べた環状骨格(以下、リングステント104ともいう)にグラフト(管体)106を取り付けたものが多く採用されている。なお、この明細書における符号102は、リングステント104の端部に位置する線材を指し、符号102’は、端部の線材102に挟まれた他の線材を指すものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6740111号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ステントグラフト100をシースに収納する場合は、リングステント104(環状の線材102、102’)を折り曲げることで、図4Bに示すように、線材102、102’が波形状に変形される。この場合、折り曲げられた端部の線材102には、ステントグラフト100の軸方向内側に向かって湾曲する一対の頂部(以下、谷部ともいう)102a、102aと、軸方向外側に向かって湾曲する一対の頂部(以下、山部ともいう)102b、102bが形成される。
【0006】
端部の線材102に形成される4つの頂部102a、102a、102b、102bは、線材102の他の部分(頂部間をつなぐ連結部102c…)に比べて大きく湾曲する箇所となり、圧縮ひずみ(compaction strain)が集中しやくなる。この場合、一部の頂部が極端に湾曲して、大きな圧縮ひずみがかかると、端部の線材102が形状変形等を起こすおそれがある。
【0007】
特に、ステントグラフト100の端部の線材102は、軸方向外側に向かって湾曲する山部102b、102bの内角Rbにグラフト106が存在する一方で、軸方向内側に向かって湾曲する谷部102a、102aの内角Raにはグラフト106が存在しないため、該谷部102a、102aが極端に湾曲することになり、大きな圧縮ひずみがかかり易い。そして、端部の線材102が形状変形を起こすと、ステントグラフト100の拡張力や耐久性が低下してしまい、最悪の場合は、ステントグラフト100に破損を生じさせる可能性もある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、簡単な構成によって、ステントグラフトの端部の線材が大きく湾曲することを防止し、これにより、ステントグラフトの拡張力や耐久性の安定化を図り、良好なステントグラフトの送達を行うことができるステントグラフトデリバリー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、ステントグラフトを折り曲げた状態で内部に収納するシースと、前記シースの内部において該シースの軸方向に延在するシャフトと、を備えるステントグラフトデリバリー装置であって、前記ステントグラフトは、環状の線材と、前記線材が少なくとも一端部に取り付けられる管体と、を含んで構成されており、前記シャフトは、前記一端部の線材を折り曲げることで前記管体の軸方向内側に向かって湾曲する頂部を、所定の曲率で湾曲するように案内するガイド部を備えることを特徴とする。
【0010】
上記によれば、一端部の線材を折り曲げることで管体の軸方向内側に向かって湾曲する頂部を、所定の曲率となるように案内するガイド部を備えているので、このガイド部によって、線材の頂部が極端に湾曲することを防ぐことができる。すなわち、軸方向内側に向かって湾曲する頂部は、軸方向外側に向かって湾曲する頂部と比べて大きく湾曲しやすいが、ガイド部により極端な湾曲が防止されることになり、大きな圧縮ひずみがかかることが抑制される。これにより、シースによって送達されるステントグラフトの拡張力や耐久性の安定化を図ることができ、良好なステントグラフトの送達を行うことができる。
【0011】
この場合、前記シャフトの先端側には、該シャフトの外径よりも拡径した端部チップが設けられており、前記ガイド部は、前記端部チップに一体形成され、前記シャフトの延在方向に突出する構成とすることができる。
【0012】
このように、シャフトの先端側の端部チップにガイド部を一体形成することで、部品点数を増やすことなく、線材の頂部の曲率をガイド部によって案内することができる。また、従来から設けられている端部チップに対し、シャフトの延在方向にガイド部を突出させる形状としているため、シャフト自体の設計を大きく変更せずに、ガイド部を有するシャフトの製造を容易に行うことができる。
【0013】
また、前記ガイド部は、前記シャフトの延在方向に向かって幅狭となるテーパ面を有し、折り曲げた前記一端部の線材を、前記テーパ面に当接させることが好ましい。
【0014】
このように、折り曲げた一端部の線材をテーパ面に当接させることで、テーパ面の傾斜に沿ってこの線材を全体的に案内することができ、ガイド部の案内による余計な荷重を線材にかけることなく、該線材の湾曲度合を所定の曲率に設定することができる。
【0015】
さらに、ガイド部を、可撓性を有する合成樹脂材によって形成すれば、端部チップの周辺部が可撓性をもって可動できるようになるため、端部チップを生体管腔の内壁の形状に沿って容易に曲がるようにすることができる。
【0016】
またさらに、前記所定の曲率は、前記一端部の線材を折り曲げることで前記管体の軸方向外側に向かって湾曲する頂部の曲率と略一致する曲率とすることが好ましい。
【0017】
このように、管体の軸方向内側に向かって湾曲する頂部と、管体の軸方向外側に向かって湾曲する頂部の曲率を略一致させることで、ステントグラフトの折り曲げによって線材に形成される4つの頂部の湾曲形状が等しくなり、該折り曲げ状態で4つの頂部にかかる荷重(圧縮ひずみ)を均等に分散させることができる。このため、ステントグラフトをシース内に一層良好に収納することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡単な構成によって、ステントグラフトの端部の線材が大きく湾曲することを防止し、これにより、ステントグラフトの拡張力や耐久性の安定化を図り、良好なステントグラフトの送達を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係るステントグラフトデリバリー装置を備えたステントグラフトデリバリーシステムを示す全体構成図である。
【図2】図1のデリバリー装置の先端部を概略的に示す一部斜視図であり、図2Aは、ステントグラフトの収納前を示す図であり、図2Bはステントグラフトの収納状態を示す図である。
【図3】図1のデリバリー装置の先端部にステントグラフトを収納した状態を示す概略説明図であり、図3Aは一部側面断面図であり、図3Bは一部平面断面図である。
【図4】本発明のステントグラフトデリバリー装置に収納するステントグラフトの概略説明図であり、図4Aはステントグラフトの拡張状態を示す一部側面図であり、図4Bはステントグラフトの収納状態を示す一部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るステントグラフトデリバリー装置(デリバリー装置)について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係るステントグラフトデリバリー装置10を備えたステントグラフトデリバリーシステム(以下、単にシステムともいう)12を示す全体構成図である。本実施形態に係るシステム12は、例えば、大動脈瘤や大動脈解離の治療において人工血管置換手術等に供する医療機器であり、ステントグラフト100を所望の生体管腔50内(血管内)に挿入・留置するために用いられる。すなわち、このシステム12は、デリバリー装置10によってステントグラフト100を血管内に送達して展開させるものである。
【0022】
図1に示すように、システム12は、ステントグラフト100と、このステントグラフト100を長尺なシース14によって生体管腔50内に送達するデリバリー装置10とを備える。なお、以降の説明では、特に指示のない限り、図1において示すシース14の延在方向を基準として、右方向を「基端(後端)」方向、左方向を「先端」方向と呼び、他の図も同様とする。
【0023】
まず、デリバリー装置10によって送達されるステントグラフト100について、図4を参照して具体的に説明する。ステントグラフト100は、環状の線材102、102’を複数並べて形成した環状骨格(リングステント104)と、このリングステント104によって支持されるチューブ状のグラフト(管体)106と、を備えている。
【0024】
リングステント104は、デリバリー装置10に折り曲げて収納される第1の形態(図4B参照)から、生体管腔50内に留置されて該生体管腔50を支持する第2の形態(図4A参照)に拡張可能な自己拡張性構造体として構成されている。リングステント104の線材102、102’は、例えば、超弾性合金からなる針金を環状に形成する、又は超弾性合金からなるパイプをレーザーカットして環状に形成することで、自己拡張性の機能を有することになる。
【0025】
線材102、102’を構成する超弾性合金としては、例えば、Ti−Ni合金、Ti−Ni−Fe系合金、Cu−Zn系合金、Cu−Zn−Al系合金、Cu−Al−Ni系合金、Cu−Au−Zn系合金、Cu−Sn系合金、Ni−Al系合金、Ag−Cd系合金、Au−Cd系合金、In−Ti系合金、In−Cd系合金等を挙げることができる。
【0026】
一方、グラフト106は、PTFE、ePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエステル等の樹脂の糸で織られた織物(ファブリック)をチューブ状に形成して構成される。この場合、グラフト106は、内皮細胞やタンパク質等の生体素材によって内周面をコーティングした混成素材(ハイブリッド人工血管)を用いてもよい。さらに、組織工学や遺伝子工学によって形成された素材を適用することもできる。
【0027】
ステントグラフト100は、生体管腔50(留置対象の留置位置)や治療方法に応じて、その寸法及び形状が選択されること好ましい。例えば、グラフト106の外径を12mm〜30mm程度、その肉厚を0.1mm〜1mm程度とすれば、大動脈との置換に適した胸部用大口径の管体として好適である。一方、線材102(リングステント104)は、拡張状態(第2の形態)において、グラフト106を支持可能な外径寸法に形成されたものが適用される。
【0028】
次に、上記ステントグラフト100を送達するデリバリー装置10について説明する。図1に示すように、デリバリー装置10は、細径で長尺なシース14と、シース14の基端部を進退可能に収容する操作部16と、操作部16の基端側に設けられるハブ18と、シース14の内腔14a(図3参照)を挿通するシャフト20と、シャフト20の先端部に設けられる端部チップ22と、を備える。
【0029】
シース14は、基端側の操作部16から先端方向に所定長さ延在するチューブであり、その先端部は端部チップ22の当接面22aに当接されている。シース14の内腔14aには、シース14と一体的に軸方向に延在するシャフト20が配設される。また、シース14の先端部の内腔14aには、上述したステントグラフト100が収納される。すなわち、シース14は、先端部の内周面によってステントグラフト100を折り曲げた状態(第1の形態)で収納・保持するように構成されている。
【0030】
シース14は、術者が基端側を把持及び操作しながら、長尺なチューブの先端部を生体管腔50内へと円滑に挿通させることができるように、適度な可撓性と適度な強度(剛性)を有することが好ましい。この場合、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ETFE等のフッ素系ポリマー、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ポリイミドなどが好適に使用できる。なお、先端側のシースの外面には、生体適合性、特に抗血栓性を有する樹脂をコーティングしてもよい。抗血栓性材料としては、例えば、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレートとスチレンの共重合体(例えば、HEMA−St−HEMAブロック共重合体)などが好適に使用できる。また、システム12の使用時には、生体管腔50内のシース14の位置をX線透視下で視認することが行われるため、シース14の先端にX線不透過マーカを付けてもよい。
【0031】
シャフト20は、内部に空間(ガイドワイヤルーメン)20aが形成されたチューブからなり、シース14の内腔14aを軸方向に挿通することで、外側のシース14に対する内管として構成される。シャフト20のガイドワイヤルーメン20aには、図示しないガイドワイヤが挿入される。また、シャフト20の基端側にはハブ18が連結され、シャフト20の先端側には端部チップ22が連設されている。
【0032】
シャフト20の材質としては、ある程度の可撓性を有するものが好ましく、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体など)、ポリ塩化ビニル、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が好適に使用できる。
【0033】
ガイドワイヤは、ハブ18を介して、シャフト20のガイドワイヤルーメン20a内を挿通し、デリバリー装置10の最も先端に延出するものである。術者は、ハブ18の後端(基端)側において、このガイドワイヤを前後操作(押し及び引き)、回転操作(トルク操作)することで、ガイドワイヤの先端を生体管腔50内の所望の位置に進入させていく。
【0034】
一方、デリバリー装置10の操作部16は、シース14の基端側に配設されており、その側面には、図示しない長孔が形成されている。この長孔には、シース14の基端側に連設される操作ピン14bが露出される。デリバリー装置10は、操作部16の操作ピン14bの操作によって、シース14を進退移動させる構成となっている。
【0035】
また、ハブ18は、操作部16の基端側に連なるとともに、その内部においてシャフト20の基端側が連結され、該シャフト20を支持する機能を有している。このハブ18の内部には、シャフト20のガイドワイヤルーメン20aに連なる通路18aが形成されており、この通路18aは、ハブ18の基端面に形成された基端側開口部18bに連通している。また、ハブ18の側面には、術者がデリバリー装置10を把持し易いように取手18cが設けられている。
【0036】
デリバリー装置10は、術者が操作部16(又はハブ18)を把持した状態で操作ピン14bを進退操作することにより、シャフト20に対してシース14を相対的に摺動させる。したがって、生体管腔50内の所望の位置に、シース14の先端部を案内して、該シース14を後退させると、シース14内に収納保持されたステントグラフト100を生体管腔50内で展開することができる。
【0037】
なお、本実施の形態では、単層のシース14(図3参照)によってステントグラフト100を収納し、該シース14の後退によってステントグラフト100を展開する構成としているが、この構成に限定されず、例えば、複数のシースによってステントグラフト100を収納する構成としてもよい。この場合、内側のシースから外側のシースの順に操作(基端方向の移動)していくことで、シース内に収納しているステントグラフト100を段階的に展開することができ、ステントグラフト100を容易に自己拡張させることができる。
【0038】
図2は、図1のデリバリー装置10の先端部を概略的に示す一部斜視図であり、図2Aは、ステントグラフト100の収納前を示す図であり、図2Bはステントグラフト100の収納状態を示す図である。
【0039】
図2Aに示すように、端部チップ22は、デリバリー装置10の先端側を構成する部材であり、シャフト20の先端側に連結されている。この端部チップ22は、シース14の先端部が当接する当接面22aから先端側に突出する先端突出部24と、該当接面22aから後方(基端方向)に突出するガイド部26とを備える。また、端部チップ22の内部には、基端側のガイド部26から先端突出部24まで、シャフト20のガイドワイヤルーメン20aが貫通形成されている(図3参照)。
【0040】
先端突出部24は、生体管腔50の内壁50aとの摩擦を低減するため、当接面22aから先端側に向かって縮径する略円錐形状(コーン状)に形成されており、該略円錐形状の先端部に端面24aを有している。この端面24aには、ガイドワイヤルーメン20aに連通する先端側開口部24bが形成されている(図3参照)。
【0041】
一方、ガイド部26は、端部チップ22の当接面22aに連設されて後方(シャフト20の延在方向)に向かって突出し、その端部(連結面26a)がシャフト20に連結されている。このガイド部26は、平面視(図3B参照)で矩形状に形成されるとともに、側面視(図3A参照)で略楔形状に形成されている。すなわち、ガイド部26は、端部チップ22の当接面22aから連結面26aに向かって幅狭となる一対のテーパ面30、30を有している。
【0042】
図2Bに示すように、一対のテーパ面30、30には、シース14内にステントグラフト100を折り曲げて収納した状態(第1の形態)において、このステントグラフト100の端部(先端部)の線材102が当接する。つまり、ガイド部26は、端部の線材102を所望の折り曲げ状態となるように導く機能を有している。
【0043】
この端部チップ22の材質としては、特に限定されないが、シャフト20と同様に、ある程度の可撓性を有するものが好ましく、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体など)、ポリ塩化ビニル、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が好適に使用できる。
【0044】
特に、ガイド部26は、端部チップ22とシャフト20の連結部分を構成するため、デリバリー装置10を生体管腔50内に進入させた際に、端部チップ22が内壁50aの形状に沿って容易に可動する(曲がる)ように、比較的可撓性が大きい合成樹脂材によって形成されることが好ましい。したがって、端部チップ22にガイド部26を一体成形する場合は、シリコーンゴムやラテックスゴム等の弾性材料を用いるとより好適である。
【0045】
本実施の形態に係るガイド部26を有するデリバリー装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、このデリバリー装置10の作用効果について説明する。図3は、ステントグラフト100を収納した状態におけるデリバリー装置10の先端部を概略的に示す説明図であり、図3Aは一部側面断面図、図3Bは一部平面断面図である。
【0046】
先ず、デリバリー装置10(シース14)に収納されるステントグラフト100の収納状態について具体的に説明する。図3に示すように、ステントグラフト100の端部の線材102は、シース14内に収納された状態(第1の形態)において、大きく湾曲する4つの頂部102a、102a、102b、102bと、これらの頂部102a、102a、102b、102b間をつなぐ比較的直線状の4つの連結部102c…と有する波形状に変形される。すなわち、第1の形態では、ステントグラフト100(グラフト106)の軸方向内側に向かって湾曲する一対の谷部102a、102aと、軸方向外側に向かって湾曲する一対の山部102b、102bが形成される。これら4つの頂部102a、102a、102b、102bは、環状の線材102を折り曲げると、該線材102が部分的に軸方向に移動することで自然に生じるものである。
【0047】
ステントグラフト100は、線材102の山部102b、102bが端部チップ22のガイド部26を挟むようにしてシース14内に収納される。よって、谷部102a、102aがガイド部26の連結面26aと対向する位置に配置される。
【0048】
この状態では、一対のテーパ面30、30が、線材102の山部102b、102bと、山部102b、102bから谷部102a、102aに向かう連結部102c…とを当接支持する。これにより、連結部102cは、一対のテーパ面30、30の傾斜に沿って軸方向に延在することになり、その延在方向に連なる谷部102a、102aの湾曲形状の曲率を大きくすることができる。
【0049】
ここで、リングステント104を有するステントグラフト100は、ガイド部26を備えないデリバリー装置に収納されると、図4Bに示すように、線材102が、軸方向外側に湾曲する山部102b、102bの内角Rbにグラフト106が存在する一方で、軸方向内側に湾曲する谷部102a、102aの内角Raにはグラフト106が存在しないため、谷部102a、102aの内角Raが山部102b、102bの内角Rbに比べて極端に湾曲することになる。すなわち、谷部102a、102aの曲率が山部102b、102bの曲率に比べて小さくなることで、この谷部102a、102aには、第1の形態の変形にともなう圧縮ひずみが大きくかかかることになる。
【0050】
これに対して、本実施の形態に係るデリバリー装置10は、ガイド部26を備えることで、谷部102a、102aの内角Raの曲率が大きくなるように案内することができるため、この谷部102a、102aに圧縮ひずみが大きくかかることを抑制することができる。これにより、ステントグラフト100の拡張力や耐久性の安定化を図ることができる。
【0051】
また、折り曲げた端部の線材102を一対のテーパ面30、30に当接支持させているため、一対のテーパ面30、30の傾斜に沿って線材102を全体的に案内することができ、ガイド部26の案内によって余計な荷重を線材102にかけることなく、該線材102の湾曲度合を所定の曲率に設定することができる。
【0052】
この場合、デリバリー装置10は、線材102の谷部102a、102aの曲率を山部102b、102bの曲率と略一致するように、ガイド部26の形状(一対のテーパ面30、30の長さや傾斜角度)を形成することがより好ましい。線材102は、谷部102a、102aと山部102b、102bの曲率を略一致させると、各頂部102a、102a、102b、102bにかかる荷重が均等に分散されるため、谷部に係る圧縮ひずみを確実に低減することが可能となるからである。谷部102a、102aと山部102b、102bの曲率を略一致させるガイド部26の形状は、線材102の径寸法やシース14の内径に応じて適宜設定すればよい。
【0053】
デリバリー装置10は、術者の操作によってシース14の先端が生体管腔50の所望の位置に送達されると、該術者による操作ピン14bの操作によってシース14の後退移動が行われる。これにより、シース14がシャフト20に対して相対的に摺動(後退)し、シース14の先端部に収納されているステントグラフト100が展開される。このとき、ステントグラフト100の先端部の線材102は、ガイド部26によってその湾曲形状が良好に導かれているため、確実に拡張することになり、この先端部の線材102の拡張に連動するようなかたちで、他の線材102’が拡張していくことになる。これにより、生体管腔50の内壁50aを拡張状態(第2の形態)のステントグラフト100によって支持することができる。すなわち、ステントグラフト100によって生体管腔50を支持する場合は、端部の線材102の拡張状態が重要な要素となるが、本実施の形態に係るデリバリー装置10によれば、ガイド部26が端部の線材102の湾曲を所定の曲率に案内することにより、良好な拡張状態を形成することができる。その結果、デリバリー装置10によるステントグラフト100の留置精度を向上することができる。
【0054】
なお、本実施の形態においては、ステントグラフト100の先端部(端部)の線材102に対して、ガイド部26を係合させる構成を説明したが、ステントグラフト100の基端部(端部)の線材102(図4参照)も同様にガイド部26を係合させるように構成することが好ましい。この場合、ステントグラフト100の基端部の線材102は、先端部の線材102と異なり、谷部102a、102aと山部102b、102bの形成位置が90°ずれるため、これに応じて基端側のガイド部26の形状も先端側のガイド部26に対して、略90°位相がずれるように形成されることになる。
【0055】
さらに、本実施の形態に係るガイド部26は、シャフト20に連結される端部チップ22の当接面22aから突出する構成としているが、この構成に限定されず、例えば、シャフト20の側面からガイド部26を突出させてもよい。
【0056】
以上のように、本実施の形態にかかるデリバリー装置10によれば、簡単な構成によって、ステントグラフト100の端部の線材102が大きく湾曲することを防止することができる。その結果、ステントグラフト100の拡張力や耐久性の安定化を図ることが可能となり、良好なステントグラフト100の送達を行うことができる。
【0057】
また、端部チップ22にガイド部26を一体形成しているため、部品点数を増やすことなく、線材102の谷部102a、102aを所定の曲率に導くことができる。さらに、従来から設けられている端部チップ22に対して、シャフト20の延在方向にガイド部26を突出させる形状としているため、シャフト20自体の設計を大きく変更することがない。
【0058】
なお、本発明は、上記の実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成乃至工程を採り得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0059】
10…ステントグラフトデリバリー装置(デリバリー装置)
12…ステントグラフトデリバリーシステム(システム)
14…シース 20…シャフト
22…端部チップ 24…先端突出部
26…ガイド部 30…テーパ面
100…ステントグラフト 102…線材(端部)
102a…谷部(頂部) 102b…山部(頂部)
104…リングステント 106…グラフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステントグラフトを折り曲げた状態で内部に収納するシースと、前記シースの内部において該シースの軸方向に延在するシャフトと、を備えるステントグラフトデリバリー装置であって、
前記ステントグラフトは、環状の線材と、前記線材が少なくとも一端部に取り付けられる管体と、を含んで構成されており、
前記シャフトは、前記一端部の線材を折り曲げることで前記管体の軸方向内側に向かって湾曲する頂部を、所定の曲率で湾曲するように案内するガイド部を備えることを特徴とするステントグラフトデリバリー装置。
【請求項2】
請求項1記載のステントグラフトデリバリー装置において、
前記シャフトの先端側には、該シャフトの外径よりも拡径した端部チップが設けられており、
前記ガイド部は、前記端部チップに一体形成され、前記シャフトの延在方向に突出していることを特徴とするステントグラフトデリバリー装置。
【請求項3】
請求項2記載のステントグラフトデリバリー装置において、
前記ガイド部は、前記シャフトの延在方向に向かって幅狭となるテーパ面を有し、折り曲げた前記一端部の線材を、前記テーパ面に当接させることを特徴とするステントグラフトデリバリー装置。
【請求項4】
請求項3記載のステントグラフトデリバリー装置において、
前記ガイド部は、可撓性を有する合成樹脂材からなることを特徴とするステントグラフトデリバリー装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のステントグラフトデリバリー装置において、
前記所定の曲率は、前記一端部の線材を折り曲げることで前記管体の軸方向外側に向かって湾曲する頂部の曲率と略一致する曲率であることを特徴とするステントグラフトデリバリー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−192018(P2012−192018A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57644(P2011−57644)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】