説明

ステントグラフト送達装置

【課題】ステントグラフト置換手術にあたって、血管内壁の損傷を最小限に留めることができ、構造が簡単で、操作が容易、安価なステントグラフト送達装置を提供する。
【解決手段】可撓性金属からなるスパチュラ10と、透明シリコーン樹脂製のカバーからなり、前記スパチュラ10は、細長い板状のヘラであって、その前半部には、貫通孔部4が複数組間隔を保って列状に形成されているとともに、これら複数組の各貫通孔部4の間にガイドリング5が複数個間隔を保って列状に設けられ、その後半部には、複数の貫通孔6が形成されたガイドプレート7が複数列状に設けられ、前記カバーには、切開部が設けられているとともに、一方の端部が斜めに切断されてテーパー状になっており、前記スパチュラを包み込むようになっているステントグラフト送達装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば大動脈弓部動脈瘤治療のためのステントグラフト置換手術にあたって、ステントグラフトを所望する位置に適切に送達せしめるために使用するステントグラフト送達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなステントグラフト送達装置として、従来、大動脈弓部動脈瘤治療のためのステントグラフトの置換手術における管状移植片送達装置が、特表平8−512227号公報に開示されている。この管状移植片送達装置にあっては、留置すべき管状移植片を延伸して、径を縮小した状態にして装置に固定手段で固定して、これを所望する位置に移送し、送達したら固定手段を開放して管状移植片を所望する位置に留置するものである。
【0003】
しかしながら、このような送達装置では、管状移植片の固定での係止部が直線状のため、この装置を使用して大動脈弓部に管状移植片を、所定の位置に送達せしめようとしても、遠位端部を確認認知することが困難で、所定位置にアクセスすることが難しく、同時にシースを使用したとしても送達中に血管内壁を傷つける恐れがあった。さらに、この装置は構造が複雑となり、費用が嵩み高価となるという不都合があった。
また、別の送達装置として、ロッドの先端に管状移植片を引っ掛けて、動脈瘤の位置に留置する、より簡便化した送達装置が提案されているが、この装置を使用した方法にあっても、上記した送達装置と同様に血管内壁を損傷せしめる不都合があった。
【特許文献1】特表平8−512227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、例えば大動脈弓部−遠位端弓部動脈瘤の全弓部のステントグラフト置換手術するにあたって、血管内壁の損傷を最小限に留めることができ、構造が簡単で、操作が容易、且つ安価なステントグラフト送達装置を提供することを本発明の課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するため、
請求項1にかかる発明は、可撓性金属からなるスパチュラと、透明シリコーン樹脂製のカバーからなるステントグラフト送達装置であって、
前記スパチュラは、細長い板状のヘラであって、その長手方向の中央部から一方の端部に向かう前半部には、2個1組の貫通孔部が複数組間隔を保って列状に形成されているとともに、これら複数組の各貫通孔部の間にガイドリングが複数個間隔を保ってスパチュラの一方の表面に列状に設けられ、その長手方向の中央部から他方の端部に向かう後半部には、複数の貫通孔が形成されたガイドプレートが複数列状に設けられ、
前記カバーは、管状体であって、その長手方向に沿って管状体の周壁に切開部が設けられているとともに、一方の端部が斜めに切断されてテーパー状になっており、前記スパチュラを包み込むようになっていることを特徴とするステントグラフト送達装置である。
【0006】
請求項2にかかる発明は、前記スパチュラの前記貫通孔部に代えて、スパチュラの両側部をそれぞれ切り欠いて形成された2個1組の切欠部が複数組間隔を保って列状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のステントグラフト送達装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のステントグラフト送達装置にあっては、ステントグラフトの送達にあたって、ステントグラフトの固定搬送器具であるスパチュラを、可撓性を有する金属製の板状のヘラで構成したので、大動脈弓部の曲率に合わせてステントグラフトを曲げることができ、遠位側への挿入が容易となり、血管内壁損傷の惹起機会が低くなり、さらに前記スパチュラを長手方向に沿って包み込むための可撓性ある透明シリコーン樹脂製のチューブ状のカバーを用いるので、送達にあたって血管内壁損傷を最小限に留めることができ、安全に置換手術を行うことができる。
【0008】
その上、スパチュラへのステントグラフトの係止機構として、スパチュラに複数の貫通孔とガイドリングを交互に配設し、さらに複数の貫通孔を設けたガイドプレートを複数設けて、固定糸によって、ステントグラフトをその複数個所で縮径してスパチュラに固定し、それらの固定糸端を前記貫通孔部、ガイドリング、ガイドプレートにそれぞれ挿通するようにしたので、構造が簡略化され、固定作業が容易であるばかりか、ステントグラフトを所定位置に送達して留置せしめるにあたっては、それぞれの固定糸端を引っ張って、抜き取ることによって、ステントグラフトをスパチュラから開放することができ、送達、留置操作が簡単で容易であると共に、安価なステントグラフト送達装置を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のステントグラフト送達装置の一例を図面を参照して説明する。
図1は本発明のステントグラフト送達装置を構成するスパチュラを示す斜視図で、図2は、カバーを示す斜視図、図3はステントグラフトを示す縦断面図、図4はスパチュラにステントグラフトを保持固定した態様を示す説明図、図5はスパチュラの変形例を説明する要部斜視図である。
【0010】
この例のステントグラフト送達装置は、スパチュラ10と、このスパチュラ10を長手方向に沿って着脱可能に包み込むカバー20とからなるものである。
スパチュラ10は、図1に示すように、長さ約300mm、幅薄15mmで厚さ1〜3mmの薄板状の例えばステンレス鋼などの可撓性を有する金属製の細長いヘラ状のものである。
【0011】
そして、その表面1aには、長手方向の中央部より先端の遠位端1cに向かう前方の前半部に、幅方向に約3.5mmの間隔を隔てて穿孔された直径約2mmの2個の孔3、3を1組とした貫通孔部4が、長手方向に沿って例えば15mmの間隔を隔てて複数列状に配して形成されている。図1には、8個の貫通孔部4が形成されている例を示している。
【0012】
そして、前記複数組の貫通孔部4、4・・・の各間隔間に内径約4mmのリング状のガイドリング5が1個ずつ複数個立設して列状に配設されている。図1では、8個のガイドリングが設けられている。この数は、ステントグラフトの大きさによって決められる。
【0013】
一方、上記表面1aの長手方向の中央部より後端の近位端1dに向かう後半部には、直径約2mmの複数の貫通孔6、6を穿孔したガイドプレート7、7・・が、約10mmの間隔を保って複数個立設して列状に設けられている。なお、ガイドプレート4の数は、適宜定められ、図1には3個のガイドプレート7が設けられた例が示されている、
【0014】
次に、カバー20の一例について、図2を参照して説明する。この例のカバー20は、長さ約200mmで、内径約11mmの中空の可撓性である透明なシリコーン樹脂製の管状体21であり、その周壁21aには長手方向に沿って拡開可能な切開部22が形成されている。そして、その一方の先端21bは、前記切開部22が下に位置するようにして、上方から下方に向けてほぼ60度の角度で斜めに切り落とされて、テーパー状となっている。
【0015】
ステントグラフト30は、図3に示すように、人工血管31の内壁面部にステンレス鋼などからなるステント32を取り付けたものである。このステント32は、細径のステンレス鋼線やチタン鋼線などを編んで形成された円筒のネット状のもので、その径方向に伸縮自在のバネ弾性を有するものである。
このため、このステントグラフト30は、その外周を周りから押圧することで一時的に縮径し、細径となり、押圧を解除すると元の径に復帰する性質を持つものとなる。
【0016】
次に、この例のステントグラフト送達装置の使用方法について、図4を参照して説明する。
まず、スパチュラ10の裏面1bの遠位端1c側に、ステントグラフト30を配置する。次いで、縫合糸などの固定糸41を用い、ステントグラフト30をこの固定糸41でくくり、固定糸41の両端部をそれぞれ貫通孔部4の各貫通孔3、3にくぐらせ、さらにガイドリング5内に通し、ガイドプレート7の貫通孔6に通して、スパチュラ10の近位端1d付近まで導き、ここで固定糸41の両端部を引っ張り寄せて、鉗子などの適宜の固定手段により固定する。
【0017】
これにより、ステントグラフト30は、その固定糸41でくくられた部位が固定糸41によって押し潰された状態となって縮径し、細径の状態となる。
この固定糸41によるステントグラフト30の固定、縮径の操作を順次その部位を移しつつ繰り返し、ステントグラフト30をその全長にわたって細径状態とする。
【0018】
さらに、この状態のスパチュラ10に対して、カバー20を被せて、スパチュラ10の表面1aのガイドリング4、4・・およびガイドプレート7、7・・を覆い隠す。これには、カバー20の切開部22を拡げて、スパチュラ10の表面1a側から被せることで行われる。この際、カバー20のテーパー状の先端部21bがスパチュラ10の遠位端1c側に位置するようにする。
【0019】
この状態のステントグラフト送達装置を、カバー20で被された状態で、そのスパチュラ10の遠位端1cを先頭にして、例えば、大動脈に挿入し、大動脈瘤存在個所に移送する。この移送にあたっては、カバー20の付設により、スパチュラ10のガイドリング5およびガイドプレート7が血管内壁に直接触れることが無く、血管内壁の損傷を防止することが出来る。
【0020】
このようにして、ステントグラフト30が留置する所定個所に送達したら、ステントグラフト30を固定している各固定糸41、4の両端部を、固定から解除し、固定糸41、41・・の一端部を引っ張ってスパチュラ10から抜き取る。 この結果、ステントグラフト30は、固定糸41による固定から開放されると同時に元の径に復元し、大動脈の所定位置に留置される。ついで、スパチュラ10及びシリコンカバーを20を大動脈より引き出す。前記固定糸41、41・・の抜き取り操作にあたって、各固定糸41はカバー20内に収納されているので、組織に触れることなく抜き取られ、血管内壁を損傷せしめること無く、固定糸の抜取操作を安全に行うことができる。
【0021】
本発明のステントグラフト送達装置においては、スパチュラ10の貫通孔部42の変形例として、図5に図示するようにスパチュラ10の両側部1e、1fにそれぞれ切欠部31、31を設け、この2個の切欠部31、31を1組として前記貫通孔部2に代えてもよい。この切欠部31に固定糸41を架け渡すことで先の例と同様の作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明におけるスパチュラの例を示す斜視図である。
【図2】本発明におけるカバーの例を示す斜視図である。
【図3】本発明で用いられるステントグラフトの例を示す概略断面図である。
【図4】本発明のステントグラフト送達装置の使用形態を示す説明図である。
【図5】本発明におけるスパチュラの変形例を示す要部斜視図である。
【符号の説明】
【0023】
10…スパチュラ、20…カバー、30…ステントグラフト、4…貫通孔部、5…ガイドリング、7…ガイドプレート、22…切開部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性金属からなるスパチュラと、透明シリコーン樹脂製のカバーからなるステントグラフト送達装置であって、
前記スパチュラは、細長い板状のヘラであって、その長手方向の中央部から一方の端部に向かう前半部には、2個1組の貫通孔部が複数組間隔を保って列状に形成されているとともに、これら複数組の各貫通孔部の間にガイドリングが複数個間隔を保ってスパチュラの一方の表面に列状に設けられ、その長手方向の中央部から他方の端部に向かう後半部には、複数の貫通孔が形成されたガイドプレートが複数列状に設けられ、
前記カバーは、管状体であって、その長手方向に沿って管状体の周壁に切開部が設けられているとともに、一方の端部が斜めに切断されてテーパー状になっており、前記スパチュラを包み込むようになっていることを特徴とするステントグラフト送達装置。
【請求項2】
前記スパチュラの前記貫通孔部に代えて、スパチュラの両側部をそれぞれ切り欠いて形成された2個1組の切欠部が複数組間隔を保って列状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のステントグラフト送達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−102208(P2006−102208A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293579(P2004−293579)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(000200677)泉工医科工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】