説明

ステントデリバリーシステム

【課題】湿潤時に潤滑性を有するバルーンカテーテルの性能に大きな影響を与えず、ステントへの影響を与えることが無く、更に血管内に挿入する際にステントの脱落や移動を低減可能なステントデリバリーシステムを提供する。
【解決手段】ステントデリバリーシステムを構成するバルーンカテーテルのシャフト2は、特定の表面コーティング用組成物を塗布、乾燥してなる湿潤時に潤滑性を有する層を有し、バルーン1は、前記表面コーティング用組成物を塗布した後、水または低級アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種で、更に処理し、乾燥することにより形成されていることを特徴とするステントデリバリーシステムを提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概括的に、医療用、例えば血管、食道、気管、尿道、胆管等に形成された狭窄部の拡張治療に使用されるステントの導入及び配置用のステントデリバリーシステムに関するものであり、特に、心臓冠動脈の狭窄部におけるステントの導入及び配置用のステントデリバリーシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体と接触する部位を有する医療用具には、接触時の抵抗による苦痛・生体への損傷を軽減させるために、様々な方法で湿潤時に潤滑性を有する表面コーティングが付与されてきた。しかし、これらの湿潤時に潤滑性の表面コーティングは、一般に医療器具を構成する材料との親和性が低く、生体内で溶出したり、剥がれたりといった欠点を有していた。
【0003】
かかる状況に鑑み、湿潤時に潤滑性の表面コーティング用組成物が各種検討され、医療機器を構成する材料との親和性が高く、生体内で溶出したり、剥がれ難く、湿潤時に潤滑性を有する表面コーティングが付与できるようになってきている。これらの表面コーティングを用いることで、ステントの導入及び配置用のステントデリバリーシステムにおいては、より安全で容易に目的とする部分へデリバリーすることが可能となった。しかし、これらの改善された、湿潤時に潤滑性を有する表面コーティングによって、ステントデリバリーシステム上のステントがシステムから移動や脱落し易くなるという、新たな問題も生じている。
【0004】
ステントは予め決定された寸法へ拡張されるときの機構により以下の2種類に大別される。1つは形状記憶合金等から構成されたステントで、外部から拡張する為の力を付与する必要がなく、何らかのきっかけを与えることで自らの力で拡張する自己拡張型ステント(self−expandable stent)である。もう1つは、拡張の為の力を外部から付与する必要のあるステントであり、一般的には、脈管、特に動脈及び静脈等を拡張するために使用されるバルーンカテーテル等により拡張されるバルーン拡張型ステント(balloon−expandable stent)である。
【0005】
バルーン拡張型ステントは、ステントそのものに拡張機能はなく、ステントを所望の狭窄部へ留置するためには、バルーンカテーテルのバルーン部に装着されたステントを所望の狭窄部まで配置した後、バルーンを拡張し、バルーンの拡張力によりステントを塑性変形させることで狭窄部の内面に密着させる方法が一般的に実施されている。
【0006】
特に、バルーン拡張型ステントを上記の方法で留置する場合、ステントがバルーン部に装着されたバルーンカテーテルを狭窄部まで挿入する必要があり、挿入時にステントがバルーン上で移動しバルーンカテーテルから脱落する危険性がある。また、バルーンカテーテルに一般的に使用されているバルーンは円筒形状に拡張する直管部の前後に円錐台状のテーパー部が形成された形状であり、前記直管部の外面にバルーン拡張型ステントが装着される。挿入時にステントがバルーン上で移動しバルーンカテーテルから脱落しないまでも、直管部の前後にステントが移動するような場合、ステントの一方の端部がバルーンのテーパー部の外面に位置することとなる。この部分のバルーンはテーパー形状にしか拡張しないためステントの拡張不足を生じ、狭窄部の再狭窄(Restenosis)を生じる可能性が極めて高くなる。
【0007】
以上の観点から、湿潤時に潤滑性を有する表面コーティングによって、デリバリーシステム全体のデリバリー性は良くなるものの、バルーン上のステントも移動し易くなることが、大きな問題となる。
【0008】
バルーン拡張型ステントの留置用に用いられるバルーンカテーテルにステントの脱落或いは移動を防止する先行技術が開示されている。
【0009】
特許文献1では、バルーンからステントが動かないようにする為のステント保持手段を有するステント送給システムとして、バルーン外面に適合性材料の層を形成する技術、及び該適合性材料の層を有するバルーン外面にステントを埋め込み配置する技術が開示されている。
【0010】
特許文献2では、バルーンからステントが動かないようにする為のステント保持手段を有するステント送給システムとして、バルーン外面に摩擦係数の大きい層とさらに摩擦係数の大きい層との親和性を抑制する層を形成する技術、及びバルーン内部に存在する内管に径の細い部分(サドル或いはシート)を設け、該シート部上のバルーン外面にステントを配置する技術が開示されている。
【0011】
特許文献3では、バルーンからステントが動かないようにする為のステント保持手段を有するステント送給システムとして、バルーン外面に静摩擦を増大させるために、ポリエーテルモノマー、カルボン酸含有モノマー、親水性モノマーおよび光誘導体化型モノマーを含むコーティングの技術が開示されている。
【0012】
いずれもステント保持手段としては有効であるものの、バルーンカテーテルへの設計要求が増え、デリバリーカテーテルとしての性能低下が予想される。
【0013】
特許文献4では、ステントをカプセル化する手段を有する血管内支持装置が開示されている。本先行技術ではバルーンが折畳まれた状態のステントの周りで広がるようにバルーンの加熱と加圧、及び冷却によりカプセル化が実現される。
【0014】
しかし、こうしたバルーンの加熱と加圧、及び冷却のプロセスによりバルーンに熱的および物理的なダメージが発生し、耐圧強度の低下の発生が懸念されるばかりか、工程の煩雑化が懸念される。また、近年では薬剤をコーティングしたステント(DES)が用いられることが増えており、加熱と加圧、および冷却による薬剤へのダメージが発生し、効用の低下の発生が懸念される。
【0015】
特許文献5では、拡張可能かつ移植可能な医療器具が取り付けられた医療用バルーンであって、医療用バルーンの表面は複数の突出部を有し、該突出部の少なくとも1部は、前記拡張可能かつ移植可能な医療器具を把持するように、前記拡張可能かつ移植可能な医療器具の下方に少なくとも部分的に設けられている医療用バルーンを開示している。
【0016】
特許文献6では、中央部に少なくとも1つの位置マーキングを有する医療用バルーンを開示している。
【0017】
しかしこれらの先行技術では、金型ヒートセット法によって突出部をバルーンに組み込むところ、マーキング部位でのバルーンの不均一な拡張や耐圧強度の低下が懸念されるばかりか、工程の煩雑化が懸念される。
【0018】
特許文献7では、バルーンのある領域に一連のリッジを確定する、ステント配置装置を開示している。しかし本先行技術では、バルーンを型内で加熱して該リッジを形成するところ、リッジ部位でのバルーンの不均一な拡張や耐圧強度の低下が懸念されるばかりか、工程の煩雑化が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特表2001−505116号公報
【特許文献2】特開平9−276414号公報
【特許文献3】特表2005−537097号広報
【特許文献4】特許第3408663号公報
【特許文献5】特表2002−539888号公報
【特許文献6】特表2002−539889号公報
【特許文献7】特表2004−527285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
そこで、以上の問題に鑑み本発明が解決しようとする課題は、湿潤時に潤滑性を有する表面コーティングを有するバルーンカテーテルの性能に影響を与えず、且つステントへの影響を与えることが無く、ステントが装着されたバルーンカテーテルを狭窄部まで挿入する際にステントの脱落や移動が生じないステントデリバリーシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、
(1)バルーンと、該バルーンに対し流体連通可能に接続されるインフレーションルーメンを有するシャフトを含んで構成されるバルーンカテーテルと、圧縮された第1直径から、患部に移植可能な第2直径まで拡張可能であるステントを有して構成されるステントデリバリーシステムであって、
該シャフトは湿潤時に潤滑性を有する層を有し、該湿潤時に潤滑性を有する層は、(a)芳香族ジイソシアナート、脂肪族ジイソシアナート、および脂環族ジイソシアナートの少なくとも1種0.1〜35重量%と、(b)3官能以上のポリオール0.1〜35重量%と、(c)ポリアルキレングリコールおよび/またはモノメトキシアルキレングリコール30〜99.8重量%を含んで構成される表面コーティング用組成物、或いはこれらの一部を反応してなる表面コーティング用樹脂組成物を、表面に塗布して乾燥することにより形成され、
一方、該バルーンは、前記(a)、(b)、(c)を含んで構成される表面コーティング用組成物、或いはこれらの一部を反応してなる表面コーティング用樹脂組成物を表面に塗布した後に、(d)水または低級アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種で、更に表面の少なくとも一部を処理して乾燥することにより形成されていることを特徴とするステントデリバリーシステムを提供した。これによれば、上記課題が解決できることとなる。
【0022】
(2)また、(c)成分におけるポリアルキレングリコールおよび/またはモノメトキシアルキレングリコールの平均分子量が、2000〜5000000であることを特徴とする前記ステントデリバリーシステムを提供した。
【0023】
(3)また、(d)成分における水または低級アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種が、エタノールであることを特徴とする前記ステントデリバリーシステムを提供した。
【0024】
(4)バルーンの遠位端および近位端の少なくとも一方に形成された少なくとも一つのステントの保持部を有することを特徴とする前記ステントデリバリーシステムを提供した。
【0025】
(5)保持部がバルーンにより形成されていることを特徴とする前記ステントデリバリーシステムを提供した。
【0026】
(6)バルーンの表面に高摩擦性を付与するコーティング層が形成されていることを特徴とする前記ステントデリバリーシステムを提供した。
【発明の効果】
【0027】
本発明のステントデリバリーシステムは、シャフト部においては、安全性に優れ湿潤時に潤滑性を有し、バルーン部においては、ステントがバルーンに固定されることが容易であるバルーンカテーテルと、ステントから構成され、ステントデリバリーシステムに用いられるバルーンカテーテルの基本性能に影響を与える事無く、ステントを容易に固定することが出来る。また、安全且つ簡便に作製することが可能である。また、本発明のステントデリバリーシステムは、該ステントが該バルーンに強固に固定されることを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のステントデリバリーシステムの1例の遠位部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明に係るステントデリバリーシステムについて詳細に説明する。
【0030】
本発明は、バルーンと、該バルーンに対し流体連通可能に接続されるインフレーションルーメンを有するシャフトを含んで構成されるバルーンカテーテルと、圧縮された第1直径から、患部に移植可能な第2直径まで拡張可能であるステントを有して構成されるステントデリバリーシステムであって、
該シャフトは湿潤時に潤滑性を有する層を有し、該湿潤時に潤滑性を有する層は、(a)芳香族ジイソシアナート、脂肪族ジイソシアナート、および脂環族ジイソシアナートの少なくとも1種0.1〜35重量%と、(b)3官能以上のポリオール0.1〜35重量%と、(c)ポリアルキレングリコールおよび/またはモノメトキシアルキレングリコール30〜99.8重量%を含んで構成される表面コーティング用組成物、或いはこれらの一部を反応してなる表面コーティング用樹脂組成物を、表面に塗布して乾燥することにより形成され(以下、この様にして形成されたコーティングを、湿潤時潤滑性表面コーティングということがある。)、
一方、該バルーンは、前記(a)、(b)、(c)を含んで構成される表面コーティング用組成物、或いはこれらの一部を反応してなる表面コーティング用樹脂組成物を表面に塗布した後に、(d)水または低級アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種で、更に表面の少なくとも一部を処理して乾燥することにより形成されていることを特徴とするステントデリバリーシステムに関するものである。特に、本ステントデリバリーシステムは、そのバルーンカテーテルのシャフトが、湿潤時潤滑性表面コーティングを有し、バルーンのみが、湿潤時潤滑性表面コーティングを形成する為の組成物を塗布した後に、水または低級アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種で、更に表面を処理されて形成されていることを特徴としている。これにより、バルーンカテーテル、ステントへの性能に影響を与えることなしに、また血管内での摩擦を低減しつつ、ステント保持力を高め、ステントの脱落や移動を低減することが可能となる。尚、ここで湿潤時潤滑性表面コーティングが形成されるシャフトとは、特に血管に挿入される構造上のシャフトの全域にわたっていることが好ましいが、必要に応じその一部分としても良い。同様に、湿潤時潤滑性表面コーティングを形成する為の組成物を塗布した後に、水または低級アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種で、更に表面が処理されるバルーンとは、特に構造上のバルーン全体であることが、その作成が容易な点で好ましいが、例えばステントと直接接触しない部分など、一部のみは湿潤時潤滑性表面コーティングを形成する為の組成物を塗布するのみとし(一時的にマスキングするなどの方法で形成可能である。)、水または低級アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種による処理を行わないでおくことも含まれるものとする(即ち、本発明に於ける特定の表面処理が施されるバルーンとは、構造上のバルーンの一部分であってもよいものとする。)。
【0031】
本発明のステントデリバリーシステムにおけるバルーンカテーテルのシャフトは、ステントをデリバリーするため、更にステントを圧縮された第1直径から、患部に移植可能な第2直径まで拡張するためのバルーンの拡張を可能とするための、バルーンと流体連通可能に接続されるインフレーションルーメンを構成するために必要である。該シャフトは、バルーンと流体連通可能に接続されるインフレーションルーメンを有していれば、特に形状、材質および構造等限定されないが、ガイドワイヤーによる誘導を可能とする為に、更にガイドワイヤールーメンを有していることが好ましい。また、該シャフトの表面の少なくとも一部には、湿潤時潤滑性表面コーティングを有する必要がある。
【0032】
本発明におけるシャフトに対する湿潤時潤滑性表面コーティング層の厚みは、特に規定されるものではないが0.5〜30μm、好ましくは0.5〜10μm、さらに好ましくは0.5〜5μmである。湿潤時潤滑性表面コーティング層の厚みが薄すぎると、摩擦を受けた場合の耐久性が低くかったり、潤滑性が劣ったりするため好ましくなく、厚すぎると血液中など水中での溶出物が多くなり好ましくない。
【0033】
本発明における湿潤時潤滑性表面コーティング層は、(a)芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、および脂環族ジイソシアネートの少なくとも1種0.1〜35重量%と、(b)3官能以上のポリオール0.1〜35重量%と、(c)ポリアルキレングリコールおよび/またはモノメトキシポリアルキレングリコール30〜99.8重量%を含んで構成される表面コーティング用組成物を塗布して乾燥することにより構成される。尚、これらの一部を反応してなるものを、表面コーティング用樹脂組成物として塗布することも可能である。
【0034】
ここで芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、および脂環族ジイソシアネートとは、一分子中に2個のイソシアネート基を有する官能基を有するイソシアネート化合物であり、表面コーティング用組成物にはこれらのうち少なくとも1種のジイソシアネートが含まれている。
【0035】
芳香族ジイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメチルフェニル4,4’−ジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート等が例示される。
【0036】
脂肪族ジイソシアネートとしては、trans−ビニレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リシンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等が例示される。
【0037】
脂環族ジイソシアネートとしては、trans−1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、cis−1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート等が例示される。
【0038】
これら各イソシアネートの1種または2種以上を組み合わせて用いることが可能である。
【0039】
表面コーティング用組成物中におけるジイソシアネート成分の含有量は(予め一部を反応させた場合は、反応前の各成分の量を元に計算するものとする。)、0.1重量%以上、35重量%以下であり、好ましくは0.5重量%以上、30重量%以下、さらに好ましくは1重量%以上、25重量%以下の範囲である。ジイソシアネート成分の含有量がこの範囲より小さいと、基材との接着力が低下したり、コーティング層の摩擦時の耐久力が低下して好ましくなく、ジイソシアネート含量がこの範囲より大きいとコーティング層が脆くなり好ましくない。
【0040】
また、これらのジイソシアネート成分と共に表面コーティング用組成物に用いられる3官能以上のポリオールとは、2官能よりも多いヒドロキシ基を有する実質3官能以上のポリオールである。このポリオールが2官能以下であるとコーティング層の接着力が低下し好ましくない。
【0041】
3官能以上のポリオールとしては、ポリエステル系ポリオール、ポリ(オキシプロピレンエーテル)ポリオール、ポリ(オキシエチレン-プロピレンエーテル)ポリオール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール、アクリルポリオールなど高分子ポリオールの分岐誘導体、ひまし油およびその誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール等が例示される。尚、高分子ポリオール分岐誘導体を用いる場合は、その分子量は、200以上、40000以下が好ましく、より好ましくは200以上、5000以下、更に好ましくは200以上、3000以下の範囲である。分子量がこの範囲よりも大きいと生成するコーティング層の接着力が低下して好ましくなく、分子量がこの範囲よりも小さいと生成するコーティング層の柔軟性が低下して好ましくない。これら3官能以上のポリオールとして、1種又は2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
【0042】
表面コーティング用組成物中における3官能以上のポリオール成分の含有量は、0.1重量%以上、35重量%以下であり、好ましくは0.5重量%以上、30重量%以下、さらに好ましくは1重量%以上、25重量%以下の範囲である。3官能以上のポリオールの含有量がこの範囲より小さいと、基材との接着力が低下したり、コーティング層の摩擦時の耐久力が低下して好ましくなく、3官能以上のポリオール含有量がこの範囲より大きいと、コーティング層がべたつきを生じてタッキングが生じるなど好ましくない。
【0043】
また、本発明の表面コーティング用組成物には、ポリアルキレングリコールおよび/またはモノメトキシポリアルキレングリコールが含まれている。ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。モノメトキシポリアルキレングリコールとしては、モノメトキシポリエチレングリコール、モノメトキシポリプロピレングリコールがあげられる。これらの誘導体としては、グリセリンのトリポリエチレングリコールエーテル、ジグリセリンのテトラポリエチレングリコールエーテル、ペンタエリスリトールのテトラポリエチレングリコールエーテル等が例示される。
【0044】
本発明で使用するポリアルキレングリコールまたはモノメトキシポリアルキレングリコールの重量平均分子量としては、2000〜5000000が好ましく、さらに好ましくは4000〜100000である。重量平均分子量がこれよりも小さいと湿潤時の潤滑性が低く、これよりも大きいとコーティングの表面が乱れたり、白化したりして好ましくない。
【0045】
一方、ポリアルキレングリコールおよび/またはモノメトキシポリアルキレングリコールとして、多官能ポリアルキレングリコール誘導体を使用する場合には、末端ヒドロキシ基の数をnとすると重量平均分子量が下記式を満たす範囲であるものが好ましい。
2500000×n > 重量平均分子量 > 1000×n
重量平均分子量がこの範囲よりも小さいと、湿潤時の潤滑性が低下して好ましくなく、これよりも大きいと、コーティングの表面が乱れたり、白化したりして好ましくない。
【0046】
表面コーティング用組成物中におけるポリアルキレングリコールおよび/またはモノメトキシポリアルキレングリコール成分の含有量は、30重量%以上、99.8重量%以下であり、好ましくは40重量%以上、99重量%以下、より好ましくは50重量%以上、98重量%以下の範囲である。ポリアルキレングリコールおよび/またはモノメトキシポリアルキレングリコール成分の含量がこの範囲より小さいと、潤滑性が低下して好ましくなく、この範囲より大きいとコーティング層の摩擦時の耐久力が低下したり、潤滑性が低下したりして好ましくない。
【0047】
本発明においては、シャフト、或いはバルーン上に形成されるコーティング層は、前記(a)、(b)、(c)を含んで構成される表面コーティング用組成物を反応させて形成するが、その溶媒として、イソシアネート基と反応する活性水素を有さない有機溶媒を用いることが好ましい。また、活性水素を有さない溶媒としては、特に、反応速度制御と反応均一性の観点から、アセトニトリル、THF、アセトン、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素などを使用することが好ましい。
【0048】
本発明のステントデリバリーシステムにおけるバルーンカテーテルのバルーンとしては、一般に生体内の狭窄部治療用のバルーンや、特にステントデリバリーシステム用に設計したものなど、各種バルーンを使用することが可能であるが、特に、折り畳みが可能なバルーンであることが好ましい。尚、該バルーンの形状、材質および構造等は特に限定されないが、本発明においても、一般に使用される円筒形状の直管部と前記直管部の先端側に円錐台形状のテーパー部を、前記直管部の後端側に円錐台形状のテーパー部を有する形状を使用することができる(なお、該テーパー部におけるテーパー角度は制限されず、任意の角度を選択可能である。)。
【0049】
また、バルーンの表面は、前記(a)、(b)、(c)を含んで構成される表面コーティング用組成物、或いはこれらの一部を反応してなる表面コーティング用樹脂組成物を塗布した後に、(d)水または低級アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種で、更に処理されて形成されている。ここで、特に水または低級アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種は、特にエタノールを含んで構成されていることが好ましく、その中でも(b)、(c)両成分の量をコントロールし易い点から、エタノールと水の混合物であることが好ましい。尚、混合物を用いる場合は、上記コントロールをより容易とする観点から、エタノールと水の混合比率は、重量比で98:2から20:80の間とすることが好ましい。
【0050】
また、バルーンの表面には、ステント保持力を高める為に、別途、高摩擦性を付与するためのコーティング層をさらに設けても良いが、バルーン性能への影響を与えないために、コーティング層の厚みは10μm以下が好ましく、5μm以下がさらに好ましい。尚、この高摩擦性を付与するためのコーティング層を形成する材質や製造方法は特に制限されず、任意に選択可能であるが、バルーン、或いはバルーン上の既に形成されているコーティング層との接着性が高い材質を用いることが好ましく、その様なものとして、特に湿潤時潤滑性表面コーティングを形成するために使用した材料の一部、或いはこれを含有する材料を用いることが好ましい(親和性を高めて接着性を高めることが容易で、高摩擦性を付与可能で、なお且つ塗布時などにコーティング液が混入した場合でも、その特性を大きく落とすことを防ぐことが可能となる。)。具体的には、(a)芳香族ジイソシアナート、脂肪族ジイソシアナート、および脂環族ジイソシアナートと、(b)3官能以上のポリオールを含有して構成することが挙げられる。
【0051】
本発明のステントデリバリーシステムにおけるステントは、圧縮された第1直径から、患部に移植可能な第2直径まで拡張可能であることが必要であり、また、バルーン拡張型ステントであって、バルーンの外面に収縮状態で配設出来ることが好ましい。一方、ステントの材質や製造方法は特に制限されず、各種材料や製造方法を選択可能である。
【0052】
以下、本発明のステントデリバリーシステムの1例を示した図1について説明する。図1のステントデリバリーシステムでは、バルーン1が、シャフト2の先端部に接続され、該バルーン上にステント10が装着されている。ステント10は、バルーン拡張型ステントとなっており、バルーン1の外面に収縮状態で配設されてる。また、バルーン1は、流体連通可能にインフレーションルーメン6に接続されている。本例では、インフレーションルーメン6は、アウターチューブ2Aと、ガイドワイヤルーメン5を構成するインナーチューブ2Bによって画定されている。また、バルーン内部のインナーチューブ2Bには、X線不透過マーカー4が取り付けられている。
【0053】
尚、図1の例では、同軸二重管状にアウターチューブ2Aとインナーチューブ2Bが配設されたコアキシャル(co−axial)型の構造を有しているが、ガイドワイヤルーメン5を画定するチューブとインフレーションルーメン6を画定するチューブが併設された構造、或いはこれら2つのルーメンを1つのチューブ内に併設したデュアルルーメンチューブの様なバイアキシャル(bi−axial)型の構造とすることも可能である。また、これらの構造以外にも、本発明の本質を妨げない範囲で各種構造とすることが可能である。
【0054】
また、本発明に係るステントデリバリーシステムは、該カテーテルの先端側のみにガイドワイヤルーメン5を有する高速交換型カテーテル、或いは該カテーテルの全長に亘ってガイドワイヤルーメン5を有するオーバー・ザ・ワイヤ型カテーテルのいずれの構造も取り得ることが可能である。
【0055】
また、図1のステントデリバリーシステムにおけるバルーン1は、円筒形状の直管部1Aと前記直管部の先端側に円錐台形状の先端側テーパー部1Bを、前記直管部の後端側に円錐台形状の後端側テーパー部1Cを有する形状である。前記テーパー部1B及び1Cにおけるテーパー角度は制限されず、任意の角度を選択可能である。尚、図1では上記形状のバルーン1が折畳まれた上に、収縮状態のステント10が装着されている。この様にバルーン1の外面、好ましくは直管部1Aの外面に収縮状態のステント10を配設することで、バルーンカテーテルを用いてステント10を体内へ挿入可能となる。さらに、バルーン1(或いはその直管部1A)の遠位端と近位端に保持部12を有することで、ステント10とカテーテル表面との間に滑らかな移行部(ステントがその厚み分だけそのままバルーンの表面から径方向に出っ張るのではなく、その出っ張りが緩和されたステント/バルーン境界)を与えることにより、ステント送出を助けることがより好ましい。バルーンカテーテルの部品点数の増加や工程の煩雑化を避ける観点から、保持部12はバルーン1によって形成されるのがより好ましい。
【0056】
このような保持部としては、ステントより大きい外径を持ち、柔軟でステント端部と隙間無く接触して、屈曲してもステント端部が露出しない構造のものが好ましい。具体例としては、ステント端部でバルーンが膨らみ、ステント端部を覆う構造のものが挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下に本発明に係る具体的な実施例及び比較例について詳説するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。尚、以下に示されるステント保持力はASTM:F2394−04(Standard Guide for Measuring Securement of Balloon Expandable Stent Mounted on Delivery System)に基づいて測定したものである。
【0058】
(実施例1)
(1)湿潤時潤滑性表面コーティング液(A)の調整
200mL反応器に以下の物質を仕込んだ。
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート 65g
窒素気流下で攪拌しつつ70℃まで加熱し、さらに攪拌を続けながら次の物質を2時間かけて連続的に滴下した。
ひまし油 35g
さらに窒素気流下70℃に保ちつつ2時間攪拌を続けてポリウレタンプレポリマーを得た。
【0059】
前記ポリウレタンプレポリマー8g、ひまし油2gに、THF90gを加え、よく攪拌し溶液とした。次にポリエチレングリコール20000の5%THF溶液1000gを加え、40℃に昇温して、3時間攪拌し、湿潤時潤滑性表面コーティング液(A)を作成した。
【0060】
(2)湿潤時潤滑性表面コーティングと処理
上記で得られたコーティング液(A)にバルーンカテーテルを浸漬し、5mm/secの一定速度でバルーンカテーテルを垂直に引き上げ、その後にバルーン部分のみを、エタノールに3分間80rpmで回転させながら浸漬し、5mm/secの一定速度でバルーンカテーテルを垂直に引き上げ、室温で乾燥した。
【0061】
(3)ステントのクリンピング
コーティングされたバルーンを折り畳み、バルーンの直管部に、ステント(φ1.8mm×18mm)を配置し、ステントを縮径(クリンピング)した。
【0062】
(4)ステント保持力の測定
37℃の温水中でステント保持力を測定した結果、平均1.74Nであった。
【0063】
(実施例2)
(1)湿潤時潤滑性表面コーティング液(A)の調整
実施例1で作成した湿潤時潤滑性表面コーティング液(A)を使用した。
【0064】
(2)湿潤時潤滑性表面コーティングと処理
実施例1と同一の方法でコーティングを行った。
【0065】
(3)ステントのクリンピング
コーティングされたバルーンを折り畳み、内径φ1.25mmのシースを被せて、インフレーションルーメンよりバルーンに27atmの圧力を加えて、バルーンを30秒拡張した後、バルーン内の圧力を開放し、シースを取り除いた。その後、バルーン直管部に、ステント(φ1.8mm×18mm)を配置し、ステントを縮径(クリンピング)したところ、ステント両端にバルーンの膨らみによる保持部が形成された。
【0066】
(4)ステント保持力の測定
実施例1と同一の方法でステント保持力を測定した結果、平均2.35Nであった。
【0067】
(実施例3)
(1)湿潤時潤滑性表面コーティング液(A)の調整
実施例1で作成した湿潤時潤滑性表面コーティング液(A)を使用した。
【0068】
(2)湿潤時潤滑性表面コーティングと処理
実施例1と同一の方法でコーティングを行った。
【0069】
(3)高摩擦性を付与するコーティング
前記ポリウレタンプレポリマー10g、ひまし油5gに、THF85gを加え、よく攪拌し溶液として、コーティング液(B)を作成した。得られたコーティング液(B)に、バルーンカテーテルのバルーン部分を浸漬し、5mm/secの一定速度でバルーンカテーテルを垂直に引き上げ、40度で12時間熱処理した。
【0070】
(4)ステントのクリンピング
実施例1と同一の方法でクリンピングを行った。
【0071】
(5)ステント保持力の測定
実施例1と同一の方法でステント保持力を測定した結果、平均2.58Nであった。
【0072】
(比較例1)
(1)ステント保持力の測定
コーティング液(A)によるコーティングを行わなかった以外は、実施例1と同一の方法で比較例1のサンプルを作成した。実施例1と同一の方法でステント保持力を測定した結果、平均1.49Nであった。
【0073】
(比較例2)
(1)湿潤時潤滑性表面コーティング液の調整
実施例1で作成した湿潤時潤滑性表面コーティング液(A)を使用した。
【0074】
(2)湿潤時潤滑性表面コーティング
コーティング液(A)にバルーンカテーテルを浸漬し、5mm/secの一定速度でバルーンカテーテルを垂直に引き上げ、室温で乾燥した。
【0075】
(3)ステントのクリンピング
実施例1と同一の方法でクリンピングを行った。
【0076】
(4)ステント保持力の測定
実施例1と同一の方法でステント保持力を測定した結果、平均0.34Nであった。
【符号の説明】
【0077】
1.バルーン
1A.直管部
1B.先端側テーパー部
1C.後端側テーパー部
2.シャフト
2A.アウターチューブ
2B.インナーチューブ
4.X線不透過マーカー
5.ガイドワイヤルーメン
6.インフレーションルーメン
10.ステント
12.保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルーンと、該バルーンに対し流体連通可能に接続されるインフレーションルーメンを有するシャフトを含んで構成されるバルーンカテーテルと、圧縮された第1直径から、患部に移植可能な第2直径まで拡張可能であるステントを有して構成されるステントデリバリーシステムであって、
該シャフトは湿潤時に潤滑性を有する層を有し、該湿潤時に潤滑性を有する層は、(a)芳香族ジイソシアナート、脂肪族ジイソシアナート、および脂環族ジイソシアナートの少なくとも1種0.1〜35重量%と、(b)3官能以上のポリオール0.1〜35重量%と、(c)ポリアルキレングリコールおよび/またはモノメトキシアルキレングリコール30〜99.8重量%を含んで構成される表面コーティング用組成物、或いはこれらの一部を反応してなる表面コーティング用樹脂組成物を、表面に塗布して乾燥することにより形成され、
一方、該バルーンは、前記(a)、(b)、(c)を含んで構成される表面コーティング用組成物、或いはこれらの一部を反応してなる表面コーティング用樹脂組成物を表面に塗布した後に、(d)水または低級アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種で、更に表面の少なくとも一部を処理して乾燥することにより形成されていることを特徴とするステントデリバリーシステム。
【請求項2】
(c)成分におけるポリアルキレングリコールおよび/またはモノメトキシアルキレングリコールの平均分子量が、2000〜5000000であることを特徴とする請求項1に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項3】
(d)成分における水または低級アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種が、エタノールであることを特徴とする請求項1または2の何れか1項に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項4】
バルーンの遠位端および近位端の少なくとも一方に形成された少なくとも一つのステントの保持部を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項5】
保持部がバルーンにより形成されていることを特徴とする請求項4に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項6】
バルーンの表面に高摩擦性を付与するコーティング層が形成されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のステントデリバリーシステム。

【図1】
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【公開番号】特開2010−246857(P2010−246857A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102502(P2009−102502)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】