説明

ステント装置

【課題】生分解性ポリマーよりなり、脈管の内径以上に拡径される大きさに形状記憶されたステントを、縮径した状態でバルーン上に確実に装着保持する。
【解決手段】 生分解性ポリマー材料であって、形状記憶特性を有するポリ乳酸を用いて管状に形成され、脈管内に植え込まれたときにこの脈管を内部から支持する拡径された大きさに形状記憶されたステント2と、このステント2を外周側から覆って、形状記憶された大きさより縮径された状態に保持する生分解性ポリマー材料からなるステント保持部材3とからなり、ステント2にステント検出用部材8を取り付け、ステント検出用部材8にステント保持部材3を固定し、ステント2とステント保持部材3の位置ずれを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管等の脈管内に植え込まれたときに、拡径されて脈管をその内部から支持するステントを縮径状態に保持するステント保持部材を備えたステント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体の脈管、特に冠動脈などの血管の狭窄が発生した部位を、医療用バルーンカテーテルを用いて拡張し、この拡張した部位に筒状のステントを植え込み、このステントによりその内部から支持することにより血流を確保するようにしたステント留置術が行われている。
【0003】
この種のステントとして、本発明者等は、生分解性ポリマー材料を用いて形成したステントをWO92/15342(特許文献1)、WO00/13737(特許文献2)において提案し、更に、WO2009/157164(特許文献3)において提案している。これらステントは、血管を内部から支持する外周径を有する大きさに形状記憶され、縮径された状態で血管内に植え込まれ、血管内に植え込まれた後、体温により加温されて縮径された状態から形状記憶された大きさに復帰し、血管をその内部から支持する。
【0004】
この種の脈管用ステントの血管への植え込みは、血管内に挿入されるカテーテルを用いて行われる。このとき、ステントは、血管に挿入される際、カテーテルより脱落することなく円滑に挿入し得るように、形状記憶された大きさに比し十分に小さい外周径に縮径された状態でカテーテルに装着されて血管内に挿入される。
【0005】
ところで、生分解性ポリマー材料を構成素材とするステントは、このステントを構成する生分解性ポリマー材料の性質から、血管内に植え込まれ生体の体温により加温されて形状記憶された大きさに拡径するとき、急峻に拡径することなく、一定の時間を要し徐々に拡径されていく。これは、生分解性ポリマーが粘弾性体として性質を有し、形状記憶された大きさに拡径していくときに粘性抵抗が作用するためである。このように、血管内に植え込まれるステントは、拡径に時間を要すると、拡径の過程で血流などの影響を受けて位置ずれを生じさせ、所望の植え込み位置への植え込みができなくなるおそれがある。
【0006】
そこで、生分解性ポリマー材料よりなるステントは、血管内の植え込み位置である病変部位まで移送されたとき、拡張媒体の注入により急峻に拡張可能なバルーンの拡張力を利用して拡径し、直ちに血管の内壁を支持するようにしている。
【0007】
このように、バルーンの拡張力を利用して拡径されるステントは、縮径された状態で、カテーテルの先端部に折り畳まれた状態で取り付けられたバルーン上に装着され、このバルーンとともに血管内の植え込み部位まで移送される。そして、血管の所望の植え込み位置まで移送されたステントは、バルーンに拡張媒体を供給して拡張することにより、血管を内部より支持する大きさに拡径されて病変部位に植え込まれる。このように拡径されたステントは、バルーンから拡張媒体が抜き取られ、このバルーンが縮小された後にあっても、自己拡張力により形状記憶された大きさに徐々に拡径していき、病変部位を内部から支持する状態を維持し、血管内に血液の流路を確保する。
【0008】
そして、生分解性ポリマー材料を構成材料とし、血管を拡張した状態に支持する大きさに形状記憶されたステントは、上述したように、生体内に挿入されたときに体温により加温されることにより、縮径された状態から形状記憶された大きさに徐々に拡径して形状回復する自己拡張力が作用する。このような形状回復機能が作用することにより、バルーン上に装着されたステントには、血管内に挿入する途中で血管の内壁への接触等によって生ずる摩擦力を受けてバルーンに対し位置ずれや、脱落を生じさせてしまう。ステントは、バルーン上から脱落してしまうと、バルーンの拡張に追随して拡径されなくなり所望の部位に植え込むことができなくなる。また、ステントは、バルーン上から脱落しないまでも、バルーンに対する位置ずれを生じさせてしまうと、バルーンの拡張力を全長に亘って均一に受けることができなり、一端側から他端側に至る全長に亘って拡径されなくなってしまう。ステントが全長に亘って均一に拡径されなくなってしまうと、血管内の病変部位等の所望の部位を正確に支持し得なくなってしまう。
【0009】
そこで、このような問題点を解消するため、本発明者等は、WO2004/103450(特許文献4)において、バルーン上にステントを装着したバルーンカテーテルを保護用シース内に挿入したステント供給装置を提案している。このステント供給装置は、更に、ステントを保護用のシースから突出させ拡径するとき、バルーンに対する位置ずれが発生しないようにするため、ステントの一端側を保持部材により保持するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO92/15342
【特許文献2】WO00/13737
【特許文献3】WO2009/157164
【特許文献4】WO2004/103450
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したステント供給装置は、バルーン上にステントを装着したバルーンカテーテルを収納するための保護シースを備えるため構造が複雑となり製造が困難となる。
【0012】
更に、保護シースを用いたステント供給装置にあっては、ステントが装着されたバルーンを植え込み位置の近傍にまで挿入した後、バルーンを保護シースの先端から突出させるために保護シースをカテーテルに対し進退操作する必要があり、ステントの植え込み操作が煩雑になってしまう。
【0013】
そこで、本発明の目的は、保護シースなどを用いることなく、生分解性ポリマー材料により形成され、脈管内に植え込まれたときに脈管の内径以上に拡径される大きさに形状記憶され、体温により加温されて拡径された状態に形状回復されたステントを縮径した状態でバルーン上に確実に装着保持することができるステント装置を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、バルーンカテーテルのバルーン上に縮径された状態で装着されるステントを確実にバルーン上に保持して脈管内の所望の留置位置に確実に移送し、留置位置で正確に拡径して植え込みを行うことができるステント装置を提供することにある。
【0015】
本発明の更に他の目的は、ステントを縮径状態に保持する部材をステントとともに生体内で消失させ、生体内からの取り出しを不要としたステント装置を提供することにある。
【0016】
本発明の更に他の目的は、ステントを縮径状態に保持する部材を用いながら、バルーンの拡張による拡径を阻害することなくステントの保持を可能とするステント装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述のような目的を達成するために提案される本発明は、生分解性ポリマー材料であって、形状記憶特性を有するポリ乳酸を用いて管状に形成され、脈管内に植え込まれたときにこの脈管を内部から支持可能とする拡径された大きさに形状記憶されたステントと、このステントを外周側から覆って、形状記憶された大きさより縮径された状態に保持する生分解性ポリマー材料からなるステント保持部材とを有し、ステントにステント検出用部材を取り付け、このステント検出用部材にステント保持部材を固定し、ステントとステント保持部材の位置ずれを防止するようにしたものである。
【0018】
ステント保持部材は、形状記憶特性を有する生分解性ポリマーにより形成され、ステントを縮径状態に保持する内周径を有する大きさに縮径されて形状記憶されていることが望ましい。
【0019】
本発明において、ステントを、形状記憶特性が付与されるポリL−ラクチド(PLLA)により形成し、ステント保持部材を、同じく形状記憶特性が付与されるポリL−ラクチド(PLLA)とポリε−カプララクトン(PCL)の共重合体により形成し、ステントを縮径状態に保持する内周径を有する大きさに縮径して形状記憶し、この形状記憶した状態で弾性を有し、形状記憶した状態から拡径するにしたがって弾性力を減少す特性を有するように形成することが望ましい。
【0020】
本発明において、ステント保持部材は、接着剤により接合されてステント検出用部材に固定される。
【0021】
また、ステント保持部材は、溶融部をステント検出用部材に接合して固定するようにしてもよい。
【0022】
さらに、ステント保持部材は、ステント検出用部材をステント保持部材に形成した嵌合孔に嵌合して固定するようにしてもよい。
【0023】
ステント保持部材によって保持されるステントは、直線部分と折り曲げ部とが順次連続する要素を備え、折り曲げ部の開き角を変化させることによって拡径、縮径するように構成されたものであるときには、ステントの拡径又は縮径時に形状変化しない直線部分にステント保持部材を固定するステント検出用部材を取り付けることが望ましい。
【0024】
また、ステント保持部材によって保持されるステントとして、一連に連続する線条体を直線部分と折り曲げ部とが順次連続するように折り曲げて形成され複数の管状体形成エレメントを組み合わせて構成され、折り曲げ部の開き角を変化させることによって拡径、縮径するように構成されたものであるときには、ステントの拡径又は縮径時に形状変化しない直線部分にステント保持部材を固定するためのステント検出用部材を取り付けることが望ましい。
【0025】
更に望ましくは、ステント保持部材は、管状に形成されたステントの両端部に取り付けたステント検出用部材に固定することが望ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るステント装置は、ステントを縮径状態に保持するステント保持部材が、ステントに取り付けたステント検出用部材に固定されているので、脈管内への挿入途中でステント保持部材に摩擦力等が作用しても位置ずれを生じさせることなく一体化された状態を維持して所望の留置位置まで移送することができる。
【0027】
ステント保持部材が、ステントを縮径状態に保持する内周径を有する大きさに縮径されて形状記憶されることにより、縮径された状態から形状記憶された大きさに徐々に拡径して形状回復する自己拡張力が作用する生分解性ポリマー材料を構成材料として形成されたステントを一層確実に縮径状態に保持することができ、保護シースなどを用いる必要性がなく装置構成の簡素化を図ることができる。
【0028】
そして、ステントを保持するステント用保持部材は、縮径されたステントを保持する大きさに形状記憶された状態で弾性を有し、この形状記憶された状態から拡径されるにしたがって弾性力を減少する特性を有することにより、一旦拡張された後にあっては、形状記憶された状態に復帰することがない。そのため、縮径された状態から形状記憶された大きさに拡径される生分解性ポリマー材料よりなるステントの自己拡張力を阻害することがなく、ステントによる脈管の拡張支持機能を維持することができる。
【0029】
また、ステント保持部材は、接着剤によりステント検出用部材に接合することにより、確実にステントと一体化できる。
【0030】
更に、ステント保持部材は、ステント保持部材の一部を溶融した溶融部によりステント検出用部材に接合することにより、接着剤による影響のない生体に対する安全性の高いステント装置を構成することが可能となる。
【0031】
更にまた、ステント保持部材は、ステント検出用部材をステント保持部材に形成した嵌合孔に嵌合することにより、互いの固定を容易とすることができる。
【0032】
そして、直線部分と折り曲げ部とが順次連続する要素を備え、折り曲げ部の開き角を変化させることによって拡径、縮径するように構成されたステントを用いるとき、ステントの拡径又は縮径時に形状変化しない直線部分にステント保持部材を固定するステント検出用部材を取り付けることにより、拡径又は縮径する際に開き角を変化させる折り曲げ部の変位を規制するような力を発生させることを抑えることができ、ステントの安定した拡径を実現できる。
【0033】
また、ステントが一連に連続する線条体を直線部分と折り曲げ部とが順次連続するように折り曲げて形成された複数の管状体形成エレメントを組み合わせて構成され、折り曲げ部の開き角を変化させることによって拡径、縮径するように構成されたものを用いた場合でも、ステントの拡径又は縮径時に形状変化しない直線部分にステント保持部材を固定するステント検出用部材を取り付けることにより、拡径又は縮径する際に開き角を変化させる折り曲げ部の変位を規制するような力を発生させることを抑えることができ、ステントの安定した拡径を実現できる。
【0034】
そして、ステントとステント保持部材は、複数の固定部で固定することにより一層確実に一体化した状態を維持して所望の留置位置まで移送することができる。
【0035】
更に、ステント保持部材は、管状に形成されたステントの両端部で固定されることにより一層安定した状態でステントと一体化される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るステント装置を示す分解斜視図である。
【図2】血管内に植え込まれる大きさに拡径されたステントを示す斜視図である。
【図3】ステントのステント検出用部材が取り付けられた部分を示す部分斜視図である。
【図4】本発明に係るステント装置を示す斜視図である。
【図5】本発明に係るステント装置を示す断面図である。
【図6】ステント保持部材とステントの弾性及び形状記憶特性を示す特性図である。
【図7A】ステント保持部材をステント検出用部材に固定した状態を示す部分断面図である。
【図7B】ステント保持部材をステント検出用部材に固定した状態を示す部分平面図である。
【図8A】ステント保持部材をステント検出用部材に固定した状態を示す他の例を示す部分断面図である。
【図8B】ステント保持部材をステント検出用部材に固定した状態を示す他の例を示す部分平面図である。
【図9A】ステント保持部材をステント検出用部材に固定した状態を示す更に他の例を示す部分断面図である。
【図9B】ステント保持部材をステント検出用部材に固定した状態を示す更に他の例を示す部分平面図である。
【図10】ステント装置をバルーンカテーテルのバルーン上に装着した状態を示す断面図である。
【図11】バルーンを拡張してステントをステント保持部材とともに拡径した状態を示す断面図である。
【図12】ステントを血管内に植え込んだ状態を示す断面図である。
【図13】ステント保持部材の他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を適用したステント装置の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0038】
本実施の形態のステント装置1は、図1に示すように、生分解性ポリマー材料を構成材料として管状に形成され、生体の脈管、例えば冠動脈等の血管内に植え込まれたとき、血管をその内部から支持可能とする拡径された大きさに形状記憶されたステント2と、このステント2を外周側から覆って、形状記憶された大きさより縮径された状態に保持する生分解性ポリマー材料からなるステント保持部材3とを有する。
【0039】
本実施の形態において用いられるステント2は、図2に示すように、生分解性ポリマーよりなる一連に連続する線条体4を直線部分5と折り曲げ部6とが順次連続するように折り曲げて形成される複数の管状体形成エレメント7を組み合わせ、一端側から他端側に亘って一の流路を構成するように筒状に構成されている。このステント2は、植え込まれる生体の血管等の脈管に応じて、その大きさが適宜選択される。例えば、冠動脈等の血管に植え込まれるステント2として構成されたものにあっては、血管に植え込まれたときの大きさで、その外周径R1を2〜5mmとし、その長さL1を10〜40mmとした管状に形成される。すなわち、ステント2は、このステント2が植え込まれる血管を内部から支持する外周径を有する大きさに形成される。
【0040】
そして、ステント2は、人体等の生体に装着したとき、生体に悪影響を与えることがない生分解性ポリマーにより形成される。この生分解性ポリマーとしては、形状記憶特性が付与される架橋構造を有する脂肪族ポリエステルが用いられ、具体的には、ポリ乳酸(ポリラクチド:PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリグラクチン(ポリグリコール酸とポリ乳酸との共重合体)、ポリジオキサノン、ポリグリコネート(トリメチレンカーボネートとグリコリドの共重合体)、ポリグリコール酸又はポリ乳酸とεーカプロラクトン共重合体のいずれかが用いられる。また、これら材料を2以上複合した生分解性ポリマーを用いることができる。ここで用いる生分解性ポリマーとして、生体への安全性等を考慮して、望ましくはポリL−ラクチド(PLLA)が用いられる。
【0041】
ところで、一連に連続する線条体4を直線部分5と折り曲げ部6とが順次連続するようにジグザグ状に折り曲げて形成され複数の管状体形成エレメント7を組み合わせて形成されたステント2は、線条体4の折り曲げ部6の開き角が大きくなることにより、外周径を大きくした拡径した状態とされ、また、折り曲げ部6が閉じられることにより外周径を小さくした縮径した状態とされる。
【0042】
そして、ジグザグ状に折り曲げられた複数の線条体4を組み合わせて形成されたステント2は、図2に示すように、線条体4の折り曲げ部6が開かれ拡径された大きさに形状記憶される。ステント2の形状記憶される大きさは、血管内に植え込まれ、その血管を内部から支持するに足る大きさである。この形状記憶は、ステント2を拡径された大きさに支持する型枠に装着し、この型枠に熱セットを施すことにより行われる。この熱セットは、ステント2を構成する生分解性ポリマーのガラス転移温度以上の熱を加えながら行われる。
【0043】
上述のように生体の血管に植え込まれ、この血管を支持する大きさである拡径された大きさに形状記憶されて形成されたステント2は、図1に示すように、血管への挿入を可能とする大きさに縮径される。この縮径は、管状に形成されたステント2を外周から圧力を加えて圧縮することによって行われる。例えば、縮径される大きさの内周径とされた管状の型枠に、拡径された大きさにあるステント2を圧縮しながら挿入することによって行われる。
【0044】
ところで、ステント2は、生体の血管内に植え込まれると目視による確認ができない。金属製のステントにあっては、X線照射装置を用いた位置検出が可能である。しかし、PLLA等の生分解性ポリマーからなるステント2にあっては、生分解性ポリマーのX線透過率が高いため、X線の照射により血管への挿入位置や植え込み位置を確認することが困難である。そこで、生分解性ポリマーを構成材料とするステント2には、X線の照射による検出を可能とするステント検出用部材8が取り付けられている。このステント検出用部材8は、X線の透過率の低く、生分解性ポリマーより剛性の高い金属により形成されている。本実施の形態では、生体適合性に優れた金により形成されている。
【0045】
ステント検出用部材8は、図3に示すように、管状に形成された金属部材よりなり、この金属部材を線条体4の一部に嵌合することによって構成されている。
【0046】
そして、ジグザグ状に折り曲げられた複数の線条体4を組み合わせて形成されたステント2にあっては、ステント検出用部材8は、ステント2の拡径又は縮径時に形状変化しない直線部分5に取り付けることが望ましい。
【0047】
また、直線部と折り曲げ部とが順次連続する要素を備え、折り曲げ部の開き角を変化させることによって拡径、縮径されるように構成されたステント2においても同様である。
【0048】
ステント2の直線部分5に、生分解性ポリマーより剛性が高く容易に変形しない金属製のステント検出用部材8を取り付けることにより、ステント2が拡径又は縮径する際に開き角を変化させる折り曲げ部6の変位を規制するような力を発生させることを抑えることができ、ステント2の安定した拡径を実現できる。
【0049】
本実施の形態において、ステント検出用部材8は、図2に示すように、ステント2の両端部側に1つずつ取り付けられている。ステント検出用部材8は、ステント2の両端部に取り付けられることにより、血管内におけるステント2の植え込み領域を容易に認識することを可能とする。
【0050】
なお、ステント検出用部材8は、1つのみ設ける場合には、ステント2の長手方向の中央部に取り付けることが望ましい。血管に植え込まれるステント2の長さが予め認識されていることにより、ステント検出用部材8を長手方向の中央部に取り付けることでステント2の植え込み領域が認識可能となるためである。
【0051】
ところで、一定の大きさに形状記憶された生分解性ポリマー材料よりなるステント2は、折り曲げ部6に圧力が加えられるなどして圧縮され、外周径が小さくされ縮径された状態にされても、形状記憶されたときに加えられた温度若しくはその近傍の温度が印加されることにより、圧縮された折り曲げ部6を開いて形状記憶された大きさに復帰する自己拡張力が作用する。すなわち、このステント2は、生体内に挿入され体温により加温されると、自己拡張力が作用し、縮径された状態から形状記憶された大きさに徐々に拡径して形状回復する。脈管内への移送途中でこのような形状回復機能が作用し、拡径してしまうと、血管の内壁に接触するなどして摩擦力を受けることにより容易にバルーンに対する位置ずれや、脱落を生じさせてしまう。
【0052】
このようにバルーンに対する位置ずれや脱落を防止するため、ステント2が縮径した状態に保持するステント保持部材3が用いられる。このステント保持部材3は、生分解性ポリマー材料を用いて形成され、縮径されたステント2を縮径した状態に保持し得るように、縮径されたステント2の外周径R2以下の内周径R3を有する筒状に形成されている。このステント保持部材3は、生分解性ポリマー材料を射出成型機などの成型機を用いて筒状に成型することによって形成される。
【0053】
ステント保持部材3は、縮径状態にあるステント2をカテーテルのバルーン上に位置ずれを生じさせることなく装着するため、一定の圧着力をもってステント2を保持することが望ましい。そこで、ステント保持部材3は、一定の弾性力を有する生分解性ポリマー材料を用いて形成されている。また、ステント保持部材3は、ステント2と同種の形状記憶特性を有する生分解性ポリマー材料により形成することが望ましい。これは、互いの親和性が優れることにより、ステント2に対するステント保持部材3の密着性を向上し、拡径状態で形状記憶されたステント2を縮径状態に確実に保持することを可能とするためである。そこで、本実施の形態において、ステント保持部材3は、脂肪族ポリエステルの一種であるポリL−ラクチド(PLLA)とポリε−カプララクトン(PCL)の共重合体を材料として形成されている。ここで用いるPLLAとPCLの共重合体は、架橋構造を有し形状記憶特性を有する。更に、本実施の形態のステント保持部材3は、ステント2を縮径した状態に保持する内周径R3を有する収縮された大きさに形状記憶されている。
【0054】
なお、ステント保持部材3の形状記憶は、射出成型機などを用いて成型されたステント保持部材3に、熱セットを施すことによって行われる。この熱セットは、縮径されたステント2の外周径R2以下の内周径R3を有する筒状に形成されたステント保持部材3を、縮径されたステント2の外周径R2以下の外周径を有する型枠に装着し、ステント保持部材3を構成する生分解性ポリマーのガラス転移点以上の熱を加えながら行われる。
【0055】
そして、ステント2は、図4に示すように、バルーン上に装着されて血管内を移送される大きさに縮径されてステント保持部材3内に挿入され、ステント保持部材3により外周側から支持され、縮径した状態に保持される。本実施の形態において、ステント保持部材3は、一定の弾性力を有する生分解性ポリマー材料であるPLLAとPCLの共重合体により形成されているので、図5に示すように、ステント2の外周面に圧着し、このステント2を縮径状態に圧縮するように弾性的に支持する。
【0056】
なお、線条体4を折り曲げて形成された複数の管状体形成エレメント7を組み合わせて形成され、網目状の形態を有するステント2を覆うステント保持部材3には、図1に示すように、複数の透孔9が長さ方向に並列して穿設されている。これら透孔9は、このステント装置1が血管の病変部位に植え込まれたとき、血管の内壁に血液等を接触させるためである。したがって、透孔9は、血液等を透過させ得るものであれば円形、矩形等のいずれの形状であってもよい。なお、透孔9は、ステント保持部材3の全面に均等に形成することが望ましい。
【0057】
上述したように、PLLAとPCLの共重合体により形成され、縮径された大きさに形状記憶されたステント保持部材3は、形状記憶された大きさから径方向に拡張されるに従い、図6に示すように、弾性及び形状記憶特性が減少する特性を有する。一方、生分解性ポリマー材料により形成され、拡径した状態に形状記憶されたステント2は、形状記憶された大きさから径方向に収縮されるにしたがい、図6に示すように、弾性及び形状記憶特性が減少する特性を有する。したがって、本発明が適用されたステント装置1は、図6に示す特性図からも明らかなように、ステント保持部材3が形状記憶された大きさに維持されることにより、ステント保持部材3の弾性及び形状記憶特性がステント2のそれより大きいことにより、ステント2を縮径状態に保持することができる。
【0058】
そして、本発明が適用されたステント装置1がカテーテルのバルーン上に装着されて生体の血管に挿入され、体温等で加温されたときに、ステント保持部材3は形状記憶された収縮された状態を維持するように機能する。このときのステント保持部材3の弾性及び形状記憶特性は、ステント2のそれより大きい状態にあるので、ステント2を縮径した状態に保持する。したがって、本発明に係るステント装置1は、ステント保持部材3が収縮された状態を維持することにより、生体の血管に挿入されて体温等で加温された場合であっても、ステント2は収縮状態を維持し、カテーテルのバルーン上に装着して血管内に移送する途中で、バルーンに対する位置ずれやバルーンからの脱落を生じさせてしまうこと防止することができる。
【0059】
また、ステント保持部材3は、バルーンカテーテルに設けたバルーンの拡張力等の物理的な力により形状記憶された状態から拡張されていくと、図6に示すように、弾性及び形状記憶特性が減少し、収縮した形状記憶した大ききに復帰することなく塑性変形する。そのため、バルーン上に装着したステント2がバルーンの拡張力を利用して拡径され、一定量拡径したところで、ステント保持部材3は弾性復帰することなく塑性変形する。ステント保持部材3が塑性変形するまで拡張されると、加温によるステント2の拡張力がステント保持部材3の収縮力より大きくなる。そして、ステント2は、体温などによって加温され形状記憶された大きさにまで拡径すると、ステント保持部材3の収縮力より大きな自己拡張力により形状記憶された大きさに拡径していく。
【0060】
本発明に係るステント装置1は、ステント保持部材3がステント2を縮径状態に保持する内周径を有する大きさに縮径されて形状記憶されたことにより、拡径された大きさに形状記憶されたステント2を縮径状態に維持でき、ステント保持部材3が形状記憶された状態から一定量拡張されることにより、拡径された大きさに形状記憶されたステント2の拡径を可能とするので、血管への挿入途中でカテーテルのバルーンに対する位置ずれや脱落を防止して所望の植え込み位置まで移送し、この植え込み位置で正確にステント2を拡張して血管を支持するようにすることができる。
【0061】
更に、本発明においては、ステント保持部材3は、ステント2に取り付けられたステント検出用部材8に固定される。この固定は、図7A、図7Bに示すように、ステント保持部材3に穿設した嵌合穴10にステント検出用部材8を嵌合し、嵌合穴10に接着剤11を充填してステント保持部材3をステント検出用部材8に接合することによって行われる。
【0062】
ここで、嵌合穴10は、ステント2を覆ったとき、ステント検出用部材8に対応する位置に設けられる。また、接着剤11としては、ステント保持部材3を構成する材料を溶媒で溶解したものが用いられる。本実施の形態では、ステント保持部材3を構成する材料であるポリL−ラクチド(PLLA)とポリε−カプララクトン(PCL)の共重合体をジオキサン溶液で溶解した溶液が用いられる。
【0063】
なお、嵌合穴10は、ステント検出用部材8が複数取り付けられているときには、ステント2の両端部に取り付けられたステント検出用部材8に対応するする部分に設けられる。そして、ステント保持部材3は、ステント2の両端部で固定される。
【0064】
また、ステント保持部材3のステント検出用部材8への固定は、図8A、図8Bに示すように、ステント保持部材3に穿設した嵌合穴10にステント検出用部材8を嵌合し、嵌合穴10の周縁を溶融し、ステント保持部材3の溶融部10aをステント検出用部材8に溶着することによって行うようにしてよい。
【0065】
更に、嵌合穴10をステント検出用部材8が密嵌し得るように、ステント検出用部材8とほぼ同一若しくはやや小さい大きさに形成し、図9A、図9Bに示すように、この嵌合穴10にステント検出用部材8を嵌合することによって、ステント保持部材3をステント検出用部材8に固定するようにしてもよい。
【0066】
上述したように、ステント保持部材3は、ステント2に取り付けられたステント検出用部材8に固定されたことにより、例えば、血管内への挿入途中で、血管の内壁に接触してステント保持部材3に摩擦力などの負荷が加わったとしても、ステント保持部材3とステント2との相対的な位置ずれを防止することができ、ステント保持部材3とステント2とを確実に一体化してカテーテルのバルーン上に装着することができる。
【0067】
そして、ステント保持部材3は、ステント2を縮径状態に保持する内周径を有する大きさに縮径された大きさに形状記憶されることにより、一層確実にステント2の縮径状態を維持してバルーン上に保持することができ、血管への挿入途中でステント2のバルーンに対する位置ずれや脱落を防止して所望の留置位置まで確実に移送し、この留置位置で正確にステント2を拡張して血管を支持するようにすることができる。
【0068】
上述したように構成されたステント装置1は、図10に示すように、ステント保持部材3とともにバルーンカテーテル11のバルーン12上に装着される。このとき、ステント装置1は、縮径された状態にあるステント保持部材3の弾性力を受けてバルーン12上に圧着支持されている。
【0069】
そして、バルーン12上に装着されたステント装置1は、バルーンカテーテル11とともに屈曲し、あるいは蛇行した血管内を通過して、植え込み位置である病変部まで移送される。病変部まで移送されたステント装置1は、バルーン12が拡張されることにより、図11に示すように、拡径される。そして、バルーン12の拡張によりステント2が形状記憶された大きさ若しくはその大きさの近傍にまで拡径されていくと、ステント保持部材3は、弾性力及び形状記憶特性を喪失し塑性変形するようになる。ステント保持部材3が弾性力及び形状記憶特性を喪失まで拡張されると、ステント保持部材3の弾性力に比しステント2の形状記憶状態への復帰力が優り、ステント2は、形状記憶された拡径された大きさとなる。そして、ステント2は、自己拡張力により血管13の内壁を拡張し支持するようになる。その後、バルーン12に供給された拡張媒体を吸引し、図12に示すように、バルーン12を収縮し、バルーンカテーテル11を血管13内から引き出すことによりステント2の血管への植え込みが完了する。
【0070】
なお、ステント保持部材3は、PLLAとPCLの共重合体からなるシート体を筒状に形成したものであってもよい。ステント保持部材3は、血管内に植え込まれたときに当該血管の内径以上に拡径された大きさに形状記憶されたステント2を外周側から支持し、このステント2を縮径した状態に保持し得るものであれば、筒状のものに限定されることなく、図13に示すように、断面がC字状のものであってもよい。この場合にも複数の透孔9を設けておくことが望ましい。このステント保持部材3においても、嵌合穴10が設けられ、この嵌合穴10にステント検出用部材8を嵌合し、更には接着剤により接合することにより、ステント保持部材3のステント2に固定し、互いの位置ずれを防止するようにする。
【0071】
また、本発明に用いられるステント2は、上述したような生分解性ポリマーよりなる一連に連続する線条体4を折り曲げて形成した複数の管状体形成エレメント7を組み合わせて構成されたステントに限られることなく、直線部分と折り曲げ部とが順次連続する要素を備え、折り曲げ部の開き角を変化させることによって拡径、縮径するように構成され、血管等の脈管内に植え込まれたときに当該脈管の内径以上に拡径された大きさに形状記憶されたステントに広く適用し、上述したと同様の利点を得ることができる。
【0072】
上述したように本発明を採用することにより、拡径された大きさに形状記憶されたステントを、血管への挿入途中でバルーンカテーテルのバルーンに対する位置ずれや脱落を生じさせることなく所望の植え込み位置まで移送し、この植え込み位置で正確に拡張して血管を支持するようにすることができる。
【符号の説明】
【0073】
1 ステント装置、2 ステント、3 ステント保持部材、8 ステント検出用部材、9 透孔、 10 嵌合穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリマー材料であって、形状記憶特性を有するポリ乳酸(PLA)を用いて管状に形成され、脈管内に植え込まれたときに上記脈管を内部から支持可能とする拡径された大きさに形状記憶されたステントと、
上記ステントを外周側から覆って、上記形状記憶された大きさより縮径された状態に保持する生分解性ポリマー材料からなるステント保持部材とを有し、
上記ステントにステント検出用部材を取り付け、上記ステント検出用部材に上記ステント保持部材を固定し、上記ステントと上記ステント保持部材の位置ずれを防止するようにしたことを特徴とするステント装置。
【請求項2】
上記ステント保持部材は、形状記憶特性を有する生分解性ポリマーにより形成され、上記ステントを縮径状態に保持する内周径を有する大きさに縮径されて形状記憶されていることを特徴とする請求項1記載のステント装置。
【請求項3】
上記ステントは、ポリL−ラクチド(PLLA)により形成され、上記ステント保持部材は、ポリL−ラクチド(PLLA)とポリε−カプララクトン(PCL)の共重合体からなり、上記ステントを縮径状態に保持する内周径を有する大きさに縮径されて形状記憶され、上記形状記憶された状態で弾性を有し、上記形状記憶された状態から拡径されるにしたがって弾性力が減少される特性を有することを特徴とする請求項1記載のステント装置。
【請求項4】
上記ステント保持部材は、接着剤により接合されて上記ステント検出用部材に固定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のステント装置。
【請求項5】
上記ステント保持部材は、溶融部を上記ステント検出用部材に接合して固定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のステント装置。
【請求項6】
上記ステント保持部材は、上記ステント検出用部材を上記ステント保持部材に形成した嵌合孔に嵌合して固定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のステント装置。
【請求項7】
上記ステントは、直線部分と折り曲げ部とが順次連続する要素を備え、上記折り曲げ部の開き角を変化させることによって拡径、縮径されてなり、上記直線部分に上記ステント保持部材が固定されるステント検出用部材が取り付けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載のステント装置。
【請求項8】
上記ステントは、一連に連続する線条体を直線部分と折り曲げ部とが順次連続するように折り曲げて形成され複数の管状体形成エレメントを組み合わせて構成され、上記折り曲げ部の開き角を変化させることによって拡径、縮径されてなり、上記直線部分に上記ステント保持部材が固定されるステント検出用部材を取り付けたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載のステント装置。
【請求項9】
上記ステントと上記ステント保持部材は、複数の固定部で固定されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1に記載のステント装置。
【請求項10】
上記ステント保持部材は、上記管状に形成されたステントの両端部に取り付けたステント検出用部材に固定されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1に記載のステント装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−176168(P2012−176168A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41275(P2011−41275)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(391022991)株式会社 京都医療設計 (15)
【Fターム(参考)】