説明

ステンレス鋼溶接用シールドガス

【課題】 溶接金属の結晶組織が粗大化することを抑えることが出来ながらも、ランニングコストを軽減することのできるステンレス鋼溶接用のシールドガスを提供する。
【解決手段】 ステンレス鋼の溶接時に使用するシールドガスであって、アルゴンガスと窒素ガスと炭酸ガスとの三成分からなり、アルゴンガスをベースガスとし、10VOL%〜30VOL%の窒素ガスと、0.5VOL%〜20VOL%の炭酸ガスとを混合した混合ガス組成に構成したことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスシールドアーク溶接でステンレス鋼を溶接する際に使用するシールドガスに関し、特にフェライト系ステンレス鋼の溶接に使用するシールドガスの組成に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ステンレス鋼を溶接する場合には、消耗電極式のシールドガス溶接法であるMIG溶接やMAG溶接、あるいは、非消耗電極式のシールドガス溶接法であるTIG溶接などが用いられている。これらの溶接方法に使用されるシールドガスとしては、MIG溶接にあってはアルゴンガスをベースに2VOL%程度の酸素ガスを添加した混合ガスが、MAG溶接にあっては、アルゴンガスをベースに20VOL%程度の炭酸ガスを添加した混合ガスが、また、TIG溶接にあっては、アルゴンガスやヘリウムガスが使用されている。
【0003】
ところが、この場合、ベースとして高価なアルゴンガス等の不活性ガスを多量に使用することからランニングコストが高く、経済的ではなく、溶接されたステンレス製品の使用用途(適用範囲)を抑制する原因の一つとなっていた。また、高純度の品質の原料ガスを高精度に添加混合させなければ成らないことから、シールドガスの生成に高度な熟練技術が要求されていた。
【0004】
そこで従来、アルゴンガスをベースとしながらも、炭酸ガスおよび窒素ガスをそれぞれ数VOL%の添加したシールドガス(特許文献1)や、アルゴンガスをベースとして酸素及び炭酸ガスを添加したシールドガス(特許文献2)が提案されている。
【特許文献1】特開2000−197971号公報
【特許文献2】特開2001−219291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のシールドガス用のアルゴンガスをベースとした混合ガスは、アルゴン混合比率が90VOL%以上の高濃度アルゴンであることから、溶接作業時でのランニングコストが高く経済的ではないという問題は依然として残っている。
【0006】
本発明は、このような点に着目して、溶接金属の結晶組織が粗大化することを抑えることが出来ながらも、ランニングコストを軽減することのできるステンレス鋼溶接用のシールドガスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために本発明はシールドガスを、アルゴンガスをベースとし、10〜30VOL%の窒素ガスと0.5〜20VOL%の炭酸ガスとを混合させた混合ガスに構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明はシールドガスを、アルゴンガスをベースガスとし、10〜30VOL%の窒素ガスと0.5〜20VOL%の炭酸ガスとを混合させた混合ガスの組成に構成していることから、高価なアルゴンガスに代えて安価な窒素ガスを使用することになるから、ランニングコストを安価にすることが出来ながらも、従来と同程度の溶接性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係るステンレス鋼溶接用シールドガスは、アルゴンガスをベースガスとして、窒素ガスと微量の炭酸ガスとをベースガスに添加した混合ガスで構成してあり、フェライト系ステンレス鋼の溶接に使用するものであり、主として、MIG溶接やMAG溶接等の消耗電極式シールドガス溶接法に適用される。
【実施例】
【0010】
板厚3.0mmのSUS430鋼板の突き合わせ部を、1.2mmφのフェライト系ステンレス溶接ワイヤを使用して、溶接電流を150A、溶接速度30cm/min、ガス流量20L/minとし炭酸ガスの混合濃度を1VOL%に固定し、窒素ガスとアルゴンガスの混合比率を変化させてMIG溶接機を使用して溶接し、その溶接部でのブローホールの発現度合い、溶接部での硬さ、溶接部での金属組織を検証した。この場合、溶接部の硬度はビッカース硬さ試験法(JIS Z 2244)で測定し、金属組織はSEMで確認した。その結果を、図1に示す。
【0011】
図1によれば、窒素ガス濃度が10VOL%よりも少ない場合には、ランニングコストの低下につながらないうえ、溶接部の金属組織中にフェライト組織が存在して靭性が低下すると言う問題がある。また、窒素ガス濃度が30VOL%よりも多くなると、溶接部中にブローホールの発生度合いが高くなることがわかる。この結果、窒素ガスの混合濃度は10VOL%から30VOL%が適していると考えられる。
【0012】
さらに、溶接部の硬度を見ると、本発明にかかるシールドガスを使用して溶接した場合には窒素ガス混合濃度の上昇にともに溶接部での硬度が上昇することがわかる。
【0013】
また、窒素ガスの混合濃度を20VOL%に固定し、炭酸ガスとアルゴンガスの混合比率を変化させてMIG溶接機を使用して溶接し、その溶接部でのブローホールの発現度合い、溶接部での硬さ、溶接部での金属組織を検証した。この場合の結果を図2に示す。
【0014】
図2によれば、炭酸ガス濃度の違いではブローホールの発現度合いや溶接部での硬さ、溶接部での金属組織に顕著な差異は生じないが、炭酸ガスの混合濃度が20VOL%を超えるとスパツタが多発し、また、0.5VOL%よりも少ない場合には、アークが不安定となつて、それぞれ溶接性が低下することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、ステンレス鋼の消耗電極式シールドガスアーク溶接法や非消耗電極式シードガスアーク溶接法のシールドガスとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】シールドガスのガス組成とそのガス組成での溶接評価を示す図である。
【図2】シールドガスのガス組成とそのガス組成での溶接評価を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼のガスシールドアーク溶接に使用するシールドガスであって、アルゴンガスと窒素ガスと炭酸ガスとの三成分からなり、アルゴンガスをベースガスとし、10〜30VOL%の窒素ガスと0.5〜20VOL%の炭酸ガスとを混合させた混合ガスであることを特徴とするステンレス鋼溶接用シールドガス。
【請求項2】
ステンレス鋼がフェライト系ステンレス鋼である請求項1に記載のステンレス鋼溶接用シールドガス。


【図1】
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【図2】
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