説明

ステンレス鋼製給湯配管

【課題】オーステナイト系ステンレス鋼と同等の屋外環境における耐食性を有したフェライト系ステンレス鋼を素材とすることで、溶接やろう付けによって加熱されても高い耐食性を有し、配管の周囲に巻かれる断熱材を省略しても、りん脱酸銅製配管に断熱材を巻きつけた給湯配管より高い断熱性能を備えている給湯配管を安価で提供する。
【解決手段】溶接やろう付けによって他の部品と接合される給湯機用の給湯配管において、配管素材として、Nbを0.15質量%以上添加したフェライト系ステンレス鋼を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器に用いた給湯機の給湯配管において、溶接やろう付けによって加熱されても高い耐食性を有し、給湯配管の周囲に巻かれる断熱材の省略が可能なステンレス鋼製の給湯配管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱交換器によって湯沸しを行う熱交換型給湯機は、屋外に設置される場合が多く、その給湯機に組み込まれている給湯配管も屋外の環境に晒されている。給湯配管は、熱交換器で作られた湯を風呂浴槽やキッチンに供給するものであるが、配管の材質としてはりん脱酸銅が使われており、供給途中の湯の温度が低下しないように配管周囲にはポリエチレン等の樹脂を素材とした断熱材が巻かれている。 一般にりん脱酸銅製の給湯配管は、直管を曲げ加工や拡管加工、穴開け、バーリング加工等を施して、配管同士や配管と継手とをりん銅ろう材によるろう付けで接合している。
【0003】
このような状況下で使用される給湯配管に必要な特性としては、供給する温水の温度を低下させない点と、屋外に設置されるために室外環境での耐食性が挙げられる。
【0004】
しかし、りん脱酸銅の熱伝導率は、他の金属と比較しても高いレベルであるため、温水の温度低下を防止するためには給湯配管に断熱機構を付与することが必要であり、その方法としては断熱材を配管に巻きつけている。 また、りん脱酸銅を素材とした給湯配管は、配管同士や配管と継手との接合をろう付けで行っているため、これの加熱により配管の結晶粒が粗大化することによって耐食性が低下する懸念がある。すなわち、ろう付けで使用されるりん銅ろう材の融点は約790℃であることから、前記の給湯配管は約800℃に加熱されることになる。この状態まで加熱されると、りん脱酸銅製の給湯配管は結晶粒が粗大化して孔食感受性や蟻の巣状腐食感受性が高くなってしまうのである。また、ろう付け時の加熱により配管内が酸化されるため、供給する温水が汚染されるという課題を抱えている。
【0005】
このような結晶粒の粗大化によって耐食性が低下し、腐食した状態で給湯配管内に温水を供給すると、供給する温水が汚れて生活水として使用できなくなるばかりでなく、板厚が減少して穴開きや破壊してしまうと給湯性能自体が発揮できなくなる可能性があるため、必要以上に板厚を厚くしなければならない。 しかしながら、りん脱酸銅製の給湯配管の厚肉を厚くするすると重量が増加して施工性の悪化を招いたり、銅の使用量増加によるコスト上昇が問題となっている。
【0006】
給湯配管の耐食性を向上させるためには、加熱された場合でも結晶粒の粗大化を抑えることで改善できる。 例えば、特許文献1においてはCoやP、Sn、Znを一定の割合で添加して、ろう付け時の約800℃の加熱条件下でも結晶粒の粗大化を抑えた銅合金が提案されている。しかし、このような銅合金では、耐食性は改善されるものの、各種の金属を添加する必要があるため素材のコスト上昇を招いてしまう問題をもっている。また、温水の温度低下を防止するには、断熱材を配管周囲に巻きつけることが必要であり、断熱材のコスト低減には繋がっていかない。
【0007】
また、りん脱酸銅よりも断熱材が省略できるような断熱性能を有する材料としては、鉄系材料が挙げられるが、給湯配管は屋外に設置されるため、屋外環境における耐食性を有しておく必要がある。 一般に高耐食性を有する鉄系材料としては、ZnやZn系合金、あるいはAlを表面に被覆しためっき鋼板やオーステナイト系ステンレス鋼板が挙げられるが、めっき鋼板は給湯配管に施される曲げ加工や拡管加工などの加工によってめっき層が損傷を受けてめっき厚が薄くなったり、消失してしまう。したがって、実質的にはオーステナイト系ステンレス鋼板を用いることによってのみ断熱性と屋外環境での耐食性を満足することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3878640号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
溶接やろう付けによって加熱されてもりん脱酸銅より屋外環境における高耐食性を備えたステンレス鋼としては、オーステナイト系ステンレス鋼が適している。しかし、オーステナイト系ステンレス鋼は、Niが添加されているため材料コストが高くなりがちであり、変動しやすいNi価格によって材料自体の価格も大きく変動して使用しにくい面を持ち合わせている。
【0010】
そこで、本発明は、このような問題点を解消するために案出されたものであり、オーステナイト系ステンレス鋼と同等の屋外環境における耐食性を有した素材で、溶接やろう付けによって加熱されてもりん脱酸銅より高い耐食性を備えており、断熱材を省略できるような断熱性能を有する給湯配管を安価で提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の給湯機のステンレス鋼製給湯配管は、その目的を達成するため、溶接やろう付けによって他の部品と接合される給湯配管であって、Nbを0.15質量%以上添加したフェライト系ステンレス鋼を素材として形作られていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱交換給湯機用の給湯配管においては、溶接やろう付けで加熱されてもりん脱酸銅より高い耐食性を有するフェライト系ステンレス鋼を用いることから、長期間使用による腐食での板厚減少で穴開きや破壊が発生することがない。 また、断熱性能もりん脱酸銅よりフェライト系ステンレス鋼の方が高いことから、断熱材を省略でき、これによって断熱材のコストを低減することができる。 さらに、素材であるフェライト系ステンレス鋼にNbを0.15質量%以上添加していることから、屋外環境においてもりん脱酸銅やオーステナイト系ステンレス鋼と同等の耐食性を有する。 つまり、断熱性能や耐食性に優れた安価な熱交換型給湯機用の給湯配管を供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】塩水噴霧試験での一般的なオーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、及び本発明で用いたフェライト系ステンレス鋼の耐食性の違いを説明する図
【図2】断熱性能をりん脱酸銅製配管と本発明で用いたフェライト系ステンレス鋼を素材とした配管とで比較した図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者等は、給湯配管の低コスト化と耐食性向上を図るために種々検討を重ねた。 現状のりん脱酸銅製の給湯配管は、他の配管とのろう付けによって約800℃に加熱されるため耐食性が低下し、それによって供給する温水が管内の腐食物で汚れたり、板厚減少よって穴開きや破壊が起こり易くなる問題である。そのため、加熱されたりん脱酸銅より耐食性が高く、断熱性能も高い鉄系材料のうち、比較的安価で、価格が安定しているフェライト系ステンレス鋼で検討した。
【0015】
しかし、屋外環境下においては、一般的にオーステナイト系ステンレス鋼は使用されているものの、フェライト系ステンレス鋼はオーステナイト系ステンレス鋼よりも耐食性は劣っている。そのため、本発明者らはNbを添加して耐食性を向上させたフェライト系ステンレス鋼に着目した。
【0016】
りん脱酸銅の熱伝導率は約390W/m・Kであるのに対して、フェライト系ステンレス鋼の熱伝導率は約26W/m・Kであり、りん脱酸銅の約1/10であることから高い断熱性能を有している。 また、フェライト系ステンレス鋼の耐食性は、図1に示すように、代表的なSUS430とSUS304での塩水噴霧試験(JIS Z 2371)における比較において、SUS430は耐食性がSUS304より劣るものの、Nbを0.15質量%以上添加したフェライト系ステンレス鋼はSUS304と同等の耐食性を有することが判明した。 なお、図1のレイティングナンバとは、JIS Z 2371附属書1に記載のレイティングナンバ法に基づいて評価した塩水噴霧試験結果の判定である。 この予備試験で用いたSUS430、SUS304及びNbを0.15%以上添加したフェライト系ステンレス鋼(本発明資材)の成分組成は表1に示す通りである。
【0017】

【0018】
これらの耐食性向上に対するNbの作用はNbCを形成することによって粒界へのCr炭化物の析出を抑制してCr欠乏を抑える効果である。Nbの添加量の上限は、0.8質量%とすることが望ましい。Nbの添加量が多すぎると溶接時の耐高温割れ性が低下してしまうためである。 以上に示した効果により、Nbを0.15質量%以上添加したフェライト系ステンレス鋼の使用で、りん脱酸銅を素材とした場合よりも断熱性や耐食性の品質を確保した給湯配管を実現することができる。
【0019】
なお、基本となるフェライト系ステンレス鋼としては、質量%で、C:0.08%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Cr:10〜25%、N:0.05%以下、Nb:0.15〜0.8%、を含有するものが好ましく、必要に応じてさらに、Cu:0.2〜0.8%、Ni:0.2〜0.8%、Mo:0.2〜1.5%、Ti:0.05〜0.5%、Al:0.01〜0.5%の1種以上を含有するものが好ましい。 さらに、Mg、Ca、B、REM(希土類元素)等の元素を含むものであっても良い。
【0020】
C、Nは、耐食性の面からはSUS430やSUS434に含まれる程度でよいが、強度の成形加工や溶接加工が施される場合において、加工性、耐食性ならびに耐粒界腐食性、あるいは靭性の面からC、Nは低ければ低いほど好ましい。一方、C、Nを低めることは精錬時間の延長を来たし製造コストの上昇を招く。これは、C、Nを固定する作用を有するNbを適量添加することである程度の含有は許容される。このため、Cは0.08質量%以下、Nは0.05質量%以下とするが、加工性や溶接部、ろう付け部の耐食性あるいは靭性が要求される場合には、Cは0.02質量%以下、Nは0.02質量%以下にするのが好ましい。
【0021】
Siは、脱酸作用を有しており、後述するように同様の作用を有するMnを耐食性の面から減少させるので多い方が望ましい。しかし、多すぎると鋼を硬化させ加工性を損ない、また溶接時の高温割れや溶接部靭性に対しても有害であるので上限を1.0質量%とする。
【0022】
Mnは、硫化物形成能が強く、鋼中のSと結合し水溶液中で不安定で発錆の起点となりやすいMnSを形成し、耐食性を劣化させるので低いほうが望ましい。Mnが低くなるに従って孔食電位は貴となり、耐食性が改善される。有意な耐食性を得るためにはMnを1.0質量%以下にする必要がある。
【0023】
Pは、鋼材の靭性を損なう要因になる。溶接部を有する温水機器では、特に溶接部の靭性に悪影響を及ぼす。P含有量は0.04質量%以下に制限される。
【0024】
Sは、上述のようにMnと結合し耐食性に有害であり、低い方が望ましい。有意な耐食性を得るためには、Sは0.03質量%以下にする必要がある。特に過酷な条件下で使用される場合には0.01質量%以下にするのが好ましい。
【0025】
Crは、不動態皮膜の主要構成元素であり、不動態効果を得るには少なくとも10質量%のCrを必要とする。Crの増加は鋼の脆化を招き加工時の割れや肌荒れを生じやすくなり、かつ軟質性が損なわれる。またCrの増加により製造が困難となり製造コストの上昇を招く。これらの理由から25質量%を上限とする。
【0026】
Nbは、鋼中のC、Nを固定する元素として知られており、通常加工性および溶接部の諸特性を改善するのに添加されているが、これらの効果の他にNbC形成による粒界へのCr炭化物の析出抑制により耐食性改善効果を有する。Nbの下限は、粒界腐食を防止するためC、Nの固定に必要な量から0.15質量%とする。一方Nbはその含有量が高くなり過ぎると、溶接やろう付け時の耐高温割れ性が低下し、靭性を損なうので0.8質量%を上限とする。
【0027】
Cuは、アノード電流を低下させることによる不働態皮膜の安定化により耐食性改善効果を有する。安定した耐食性改善効果を得るために下限は0.2質量%とする。過剰の添加は、加工性を低下させると共に耐食性も低下させるため0.8質量%を上限とする。
【0028】
Niは、耐食性に対しては腐食の進行を抑制する効果がある。またNiはフェライト系ステンレス鋼材の靭性改善にも有効である。このため、本発明では必要に応じてNiを含有させることができる。上記の作用を十分に発揮させるためには0.2質量%のNi含有量を確保することがより効果的である。ただし、過剰のNi含有は鋼材の加工性を低下させる要因になるので、Niを添加する場合は0.8質量%以下の含有量範囲で行う。
【0029】
Moは、一般的にはCrの存在下でステンレス鋼の耐食性を高める作用がよく知られている。このため、本発明では必要に応じてMoを添加することができる。種々検討の結果、Moによるステンレス鋼の耐食性を高める作用を十分に発揮させるためには0.2質量%のMo含有量を確保することがより効果的である。しかし過剰のMo添加は加工性低下やコスト増を招くので、Moを添加する場合は1.5質量%未満の範囲で行う。
【0030】
TiはC、Nを固定し、粒界腐食を抑制するのに有効な元素である。また、固溶Tiは耐食性向上に寄与するとともに、化学的に安定な硫化物を生成し耐孔食性を改善する。このため、本発明では必要に応じてTiを添加することができる。上記作用を十分に発揮させるには0.05質量%のTi含有量を確保することがより効果的である。ただし、多量のTi含有は鋼材の表面品質低下や溶接性低下を招く。Tiを添加する場合は0.5質量%以下の範囲で行う。
【0031】
Alは、溶接時に鋼の表層に容易にAl皮膜を形成し、Crの酸化ロスを防止することにより耐食性を向上する。しかし、Al量が
0.01%未満ではAl皮膜が形成されにくく、また、0.5%を越えて添加すると素材の表面品質の劣化および溶接性が悪くなるため、Al量は0.01〜0.5%とする。
【0032】
その他、ステンレス鋼にはMg、Ca、B、REM(希土類元素)等の元素が混入する場合がある。これらはスクラップ等の副原料などから不可避的に混入したものであるが、耐食性が損なわれない許容量として、これらの元素の合計含有量は0.01質量%以内とすることが好ましい。
【0033】
上記のように、Nb含有量等が調整されたフェライト系ステンレス鋼を、通常と同じ態様で溶製し、通常の鋳造、熱延、焼鈍、冷延、仕上げ焼鈍を行って所定厚の冷延焼鈍板を得た後、通常の造管方法で所望のパイプ寸法にし、所定の長さに裁断すれば本発明の給湯配管が得られる。
【実施例】
【0034】
供試材として、板厚が0.6mmのNbを0.23質量%添加した上記表1中の本発明資材なる成分組成を有するフェライト系ステンレス鋼を素材とし、TIG溶接で接合した直径φ16mmで長さ2mの溶接鋼管を熱交換型給湯機用の給湯配管として用いた。 このステンレス鋼製給湯配管に対して表2に示す条件でこの配管内に温水を供給して鋼管出側での温水の温度を測定した。
【0035】
また、比較として板厚0.6mmのりん脱酸銅を用いた同じ形状・寸法の給湯配管も表2に示す条件でりん脱酸銅製の給湯配管内に温水を供給して配管出側で温水の温度を測定した。
【0036】

【0037】
温度測定した結果、図2に示すように本発明のフェライト系ステンレス鋼を素材した配管では供給した温水の温度とほとんど同じであったが、りん脱酸銅を素材とし配管では供給時の温水の温度に対して約5%の温度低下がみられた。この結果より、給湯配管に本発明のフェライト系ステンレス鋼製配管を適用することで、これまで給湯配管の周囲に巻いていた断熱材の省略が可能であることがわかる。 また、本発明のフェライト系ステンレス鋼を素材した配管は、りん脱酸銅を素材とし配管と寸法は同じであるが、素材の密度が比較的小さいため約14%の軽量化が可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接やろう付けによって他の部品と接合される給湯機用の給湯配管であって、Nbを0.15質量%以上添加したフェライト系ステンレス鋼を素材として形作られていることを特徴とするステンレス鋼製給湯配管。

【図1】
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【図2】
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