説明

ステータ

【課題】ステータの巻線の劣化を抑制する。
【解決手段】通電用被覆導線31と、通電用被覆導線31よりも皮膜36の厚さが厚い少なくとも1本のサージ用被覆導線35とがティース13に分布巻されるステータ10であって、サージ用被覆導線35は、0V(ゼロボルト)が印加されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機のステータに巻回される巻線の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インバータによってモータを駆動することが多く行われている。モータをインバータによって駆動する場合には、インバータの発する急峻なサージ電圧が原因となってモータの巻線ターン間に高電圧が発生することが知られている。このような巻線ターン間の分担電圧増加問題に対しては、巻線に使用する絶縁皮膜の厚さを厚くしたり耐コロナ性に優れた絶縁電線を使用したりする方法が用いられている。また、導電素材の上に絶縁皮膜を形成し、その表面に導電性絶縁皮膜を有する複合絶縁皮膜素線により巻線を構成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、スロットの占積率を向上させつつ絶縁電線間のコロナ放電を抑制するために、平角線の表面に設けられる熱可塑性樹脂絶縁皮膜の表面に突起を設けることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−254457号公報
【特許文献2】特開2008−288106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インバータの発する急峻なサージ電圧が原因となって巻線の表面に電子が溜まることがある。インバータによって駆動されるモータの巻線では、インバータによって電圧の極性が反転することが繰り返されるので、巻線に印加される電圧の極性が変化した瞬間にあるターンの巻線の表面に溜まっていた電子がターン間電圧の低い他のターンの巻線の必要面に向って飛びだす。他の巻線の表面に向って飛び出した電子は、他の巻線の表面に衝突してその巻線表面の絶縁皮膜を損傷させる。そして、この電子の飛び出し、衝突が繰り返されると、巻線表面の絶縁皮膜が劣化し、最終的には巻線の絶縁低下、絶縁破壊に至る場合がある。
【0006】
本発明は、ステータの巻線の劣化を抑制することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のステータは、通電用被覆導線と、前記通電用被覆導線よりも被覆厚さが厚い少なくとも1本のサージ用被覆導線とがティースに分布巻されるステータであって、前記サージ用被覆導線は、0Vが印加されていること、を特徴とする。
【0008】
本発明のステータにおいて、前記通電用被覆導線とサージ用被覆導線とは略同一外径であること、としても好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ステータの巻線の劣化を抑制することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態におけるステータの端面を示す説明図である。
【図2】本発明のステータの第1コイルと第2コイルとが隣接した状態を示す説明図である。
【図3】インバータからステータに印加される電圧の変化を示す図である。
【図4】従来技術によるステータのコイル間の電子の移動を示す説明図である。
【図5】本発明におけるステータのコイル間の電子の移動を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1に示す様に、本実施形態のステータ10は、複数のスロット12とティース13が内周に設けられるステータコア15と、ステータコア15のティース13の巻回された各相の巻線20とによって構成されている。図1では、一つ相の巻線20の一部のみを示し、他の相の巻線は省略している。図1に示す様に、巻線20は第1コイル21、第2コイル22、第3コイル23、第4コイル24及び図示しない第5から第8コイルの8つのコイルが分布巻きとなっている。コイルの番号は小さいほうが入力端子側で、番号の大きいものが中性点側のコイルを示し、各コイルはそれぞれ直列に接続されて一つの相の巻線20を形成する。従って第1コイル21は、入力端子に一番近いコイルであり、第2コイル22は第1コイル21に直列に接続される入力端子から二番目に配置されているコイルである。図1に示す第1コイル21から第4コイル24は、電気的には入力端側の第1コイル21から第4コイル24に向って直列に接続されている。一方、インバータのサージ電圧は、入力端子側の第1コイル21が一番大きく、第2コイル22から中性点側の第4コイル24に向って次第に小さくなってくる。従って、第1コイル21と第2コイル22との間のサージ電圧差が最も大きくなってくる。
【0012】
図1に示す様に、第1コイル21は、スロット121とスロット121から反時計周りに5つめに配置されているスロット122との間の5つのティースに巻回され、第2コイル22は第1コイル21が巻回されているスロット122の隣のスロット123と、スロット123から反時計周りに5つめに配置されているスロット124との間の5つのティースに巻回されている。第3コイル23は、第2コイル22が巻回されるスロット124から反時計周りに7つ目のスロット127とスロット127から反時計周りに5つ目に配置されているスロット128との間の5つのティースに巻回され、第4コイル24は、第2コイル22と第3コイルの間のスロット125とスロット126の間の5つのティースに巻回されている。このように、各コイル21から24を順次隣接させないように配置するのは、各コイル間のサージ電圧差を小さくするためである。
【0013】
図2は、第1コイル21と第2コイル22とが隣接しているスロット122とスロット123とを拡大した模式図である。なお、図2では説明のため、図中左側が第1コイル21、右側が第2コイル22となっている。また、各コイル21,22の断面は模式的に記載したものである。
【0014】
図2に示す様に、第1コイル21は、6本の通電用被覆導線31と、6本の通電用被覆導線の中央に配置された1本のサージ用被覆導線35が一体となって図中左側から巻回されている。第2コイル22も同様に、6本の通電用被覆導線31と、6本の通電用被覆導線の中央に配置された1本のサージ用被覆導線35が一体となって図中右側から巻回されている。各コイル21,22の両側には各コイルが巻回されるティース13が配置されている。各コイル21,22の通電用被覆導線31は、電源に接続され、図3に示すような極性の変化するインバータからの電流が流れる導体32の周りを薄い絶縁皮膜33で覆ったものである。図2では円形断面であるが、四角型等他の形状であってもよい。また、各コイル21,22のサージ用被覆導線35は、その外径が通電用被覆導線31の外径と略同一で、絶縁皮膜36が厚く、内部の導体37の断面積が通電用被覆導線31の内部の導体32の断面積よりも小さいものである。サージ用被覆導線35の内部の導体37は、0V(ゼロボルト)の電位となる様に、例えば、中性点に接続されたり、インバータの接地点に接続されたりして0V(ゼロボルト)が印加されている。
【0015】
以上のように構成されたステータ10にインバータから電流が流れた際の各部の電位について説明する前に、サージ用被覆導線35が配置されていない場合の通電用被覆導線31の表面の損傷と劣化について説明する。先にも説明したように、インバータから各コイル21,22の通電用被覆導線31にプラスの電位が掛かる場合、インバータによって発生するプラスのサージ電圧が各通電用被覆導線31に掛かる。そして、第1コイル21に掛かるサージ電圧は第2コイル22に掛かるサージ電圧よりも高くなることから、図4(a)に示すように、サージ電圧による各導線31,35表面の電位は、第1コイル21の通電用被覆導線31の表面が最も高く(++)、次に、第2コイル22の通電用被覆導線31の表面が高く(+)なる。このため、電位の高い第1コイル21の通電用被覆導線31の表面に電子40が滞留してくる。図3に示す様に、インバータから通電用被覆導線31に掛かる電圧の極性が反転すると、サージ電圧の電位も反転する。すると、第1コイル21に掛かるマイナスのサージ電圧が第2コイル22に掛かるマイナスのサージ電圧よりも大きくなることから第1コイル21の通電用被覆導線31の表面の電位は大きなマイナス電位(−−)となり、マイナス(−)の電位となる第2コイルの通電用被覆導線31の表面のマイナス電位(−)よりも電位が低くなってしまう。逆に言うと、第2コイルの通電用被覆導線31の表面の電位の方が第1コイルの通電用被覆導線31の電位よりも高くなってしまう。このため、電圧がプラスの場合に、相対的に電位の高い第1コイルの通電用被覆導線31の表面に溜まっていた電子40は、相対的に電位が高くなった第2コイルの通電被覆導線31の表面に引き寄せられ、第2コイルの通電被覆導線31の表面に衝突し、第2コイル22の通電用被覆導線31の表面を損傷させてしまう。そして、この損傷が繰り返されると絶縁皮膜33が劣化して絶縁破壊等を引き起こすこととなる。
【0016】
次に、図5を参照しながら、サージ用被覆導線35を備えている本実施形態の巻線20にインバータからの電流が流れた場合について説明する。なお、図5では第2コイル22のサージ用被覆導線35の図示は省略してある。先に説明したのと同様、インバータから各コイル21,22の通電用被覆導線31にプラスの電圧が掛かる場合、インバータによって発生するプラスのサージ電圧が各通電用被覆導線31に掛かる。そして、第1コイル21に掛かるサージ電圧は第2コイル22に掛かるサージ電圧よりも高くなることから、図5(a)に示すように、サージ電圧による各導線31,35表面の電位は、第1コイル21の通電用被覆導線31の表面が最も高く(++)、次に、第2コイル22の通電用被覆導線31の表面が高く(+)、サージ用被覆導線35の表面が一番低く(0V)となっている。このため、最も電位の高い第1コイル21の通電用被覆導線31の表面に電子40が滞留してくる。
【0017】
一方、インバータから各コイル21,22の通電用被覆導線31に掛かる電圧の極性が逆転してマイナスの電圧が掛かると、インバータによって発生するサージ電圧の極性も反転する。そして、第1コイル21に掛かるサージ電圧の絶対値は第2コイル22に掛かるサージ電圧の絶対値よりも高くなることから、図5(b)に示すように、通電用被覆導線31に掛かる電圧の極性が反転した際には、サージ電圧による各導線31,35表面の電位は、第1コイル21の通電用被覆導線31の表面が最も低く(−−)、次に、第2コイル22の通電用被覆導線31の表面が低く(−)、サージ用被覆導線35の表面が一番高く(0V)なっている。このため、第1コイル21の通電用被覆導線31の表面に滞留していた電子40は、最も電位が高いサージ用被覆導線35の表面に引き寄せられ、サージ用被覆導線35の表面に衝突する。しかし、サージ用被覆導線35の表面の絶縁皮膜36は、通電用被覆導線31の絶縁皮膜33よりも厚くなっていることから損傷により絶縁性が劣化することは無い。この際、電子40は、サージ用被覆導線35の表面よりも電位が低い第2コイル22の通電用被覆導線31の表面には引き寄せられず、第2コイル22の通電用被覆導線31の表面の絶縁皮膜33を損傷させることはない。以上説明したように、本実施形態のステータ10は巻線20の劣化を効果的に抑制することができる。
【0018】
また、本実施形態では、サージ用被覆導線35の外径と通電用被覆導線31の外径とは略同一の外径であることから、容易に巻線をティース13に巻回することができる。
【符号の説明】
【0019】
10 ステータ、12 スロット、13 ティース、15 ステータコア、20 巻線、21〜24 第1コイル〜第4コイル、31 通電用被覆導線、32,37 導体、33,36 絶縁皮膜、35 サージ用被覆導線、40 電子、121〜128 スロット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電用被覆導線と、前記通電用被覆導線よりも被覆厚さが厚い少なくとも1本のサージ用被覆導線とがティースに分布巻されるステータであって、
前記サージ用被覆導線は、0Vが印加されていること、
を特徴とするステータ。
【請求項2】
請求項1に記載のステータであって、
前記通電用被覆導線とサージ用被覆導線とは略同一外径であること、
を特徴とするステータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−27276(P2013−27276A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162991(P2011−162991)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】