説明

ストランド定着具およびストランドの定着構造

【課題】材料費や加工費、さらには潤滑材の使用コストを抑えながら、必要十分な定着強度を発揮することのできるストランド定着構造を提供する。
【解決手段】ストランド1に外嵌されるスリーブ20と、スリーブとストランド間に圧入される楔状のウェッジ30とを具備し、ウェッジを、スリーブおよびストランドの各材料よりも低降伏点で延性の高い低降伏点鋼により構成し、該ウェッジを、スリーブとストランドの間に圧入することで塑性変形させた状態でスリーブとストランドの間に介在させると共に、ウェッジが周方向に複数の分割ウェッジに分割されている場合は、塑性変形させた状態において周方向に隣接する分割ウェッジ同士を周方向に隙間なく相互に圧接させてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定部材の内方向に向けて引張力が付与されるストランド(鋼線)を、固定部材に定着するためのストランド定着具およびストランドの定着構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的なストランド定着具を図8を参照して説明する。
このストランド定着具は、ストランド1が挿通される固定部材(コンクリート等の構造体)2の外面側に配置され、固定部材2の内方向に向けて引張力が付与されるストランド1の外周に外嵌される筒状のスリーブ10と、このスリーブ10とストランド1の間に圧入される楔状を呈したウェッジ11と、スリーブ10と固定部材2の間に配置されてストランド1からスリーブ10に加わる力を分散させて固定部材2に伝えるアンカープレート3と、から構成されている。
【0003】
この種のストランド定着具では、今までのところ、スリーブ10の弾性変形範囲内で使用されることは勿論であるが、ウェッジ11の弾性変形範囲内で使用されることを前提としているのが普通であった。また、弾性変形範囲内で使用されるウェッジ11は、スリーブ10に圧入されることによってストランド1の外周を強く締め付ける必要があるので、周方向に複数の分割ウェッジに分割された上で、圧入された状態において周方向に隣接する分割ウェッジ間に隙間が確保されるように構成されている。その理由は、スリーブ10内に圧入された状態において周方向に隣接する分割ウェッジ間に隙間が確保されていないと、ストランド1に引張力が加わった際に、それ以上にウェッジ11が窄まりながらスリーブ10内に入り込まなくなってしまい、ウェッジ11とストランド1間の締付力が上昇せず、その結果として、ストランド1の引張力に対抗する抵抗力を十分に発揮できなくなるからである。
【0004】
また、ウェッジ11がスリーブ10内に入り込む際のウェッジ11とスリーブ10間の摩擦が大きいと、ウェッジ10が滑りにくくなってスリーブ10内にスムーズに入り込みにくくなる。そのため、一般には、潤滑材(例えばグリース)をスリーブ10の内周のテーパ面とウェッジ11の外周面との間に介在させている。
このような構成のストランド定着具においては、スリーブ10やウェッジ11に過大な力が加わるため、従来では、これらスリーブ10やウェッジ11の材料として、一般的に鉄系鋼材やステンレス鋼などの無垢の高強度材を使用していた。ところが、無垢の高強度材は、材料コストが高い上に、硬い材質であるが故に、加工がしにくく加工コストも高くなるという問題があった。
【0005】
そこで、それを解消する目的のストランド定着具が提案され、特許文献1に開示されている。
このストランド定着具は、図9に示すように、スリーブ13と、スリーブ13とストランド1の間に圧入されるウェッジ11と、スリーブ13の先端が嵌入されるテーパ内周面4aを有する環状のアンカープレート4と、を有するもので、スリーブ13が、樹脂、セラミックあるいはコンクリートによって形成された筒状の主材14と、この主材14の内周面の全面に配置された金属製の内周金属筒15と、主材14の外周面の全面に配置された金属製の外周金属筒16と、主材14のウェッジ11が挿入される側の端面に配置され内周金属筒15によって固定された金属製リング状のヘッドプレート17と、の組み合わせによって構成されている。
【0006】
特許文献1では、このようにスリーブ13を、主材14と外周金属筒15と内周金属筒16とヘッドプレート17とで構成することにより、スリーブ13を安価に生産できるようになり、ストランド定着具のトータルコストを下げることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−278314号公報(図3、図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のストランド定着具は、部品点数が大幅に増えることによるコスト増の懸念がある上、ウェッジ11をスリーブ13に圧入した状態で更にストランド1に引張力が作用した場合に、かなり大きな力がウェッジ11からスリーブ13に及ぶことになるため、強度的に持たなくなる懸念もある。従って、従来の無垢の高強度材によりスリーブやウェッジを加工する場合の問題を必ずしも解消できないおそれがあった。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、材料費や加工費、さらには潤滑材の使用コストを抑えながら、必要十分な定着強度を発揮することのできるストランド定着具およびストランドの定着構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1の発明のストランド定着具は、固定部材の内方向に向けて引張力が付与されるストランドの外周に外嵌されると共に内周面が前記引張力の付与される方向に窄まったテーパ面として形成された筒状のスリーブと、このスリーブと前記ストランドの間に圧入される楔状を呈したウェッジとを具備し、前記スリーブが前記固定部材の外面に押し付けられることで、前記ストランドを前記固定部材に定着するストランド定着具において、前記ウェッジが、前記スリーブとストランドの間に圧入されることで前記ストランドを定着した際に塑性変形した状態で前記スリーブとストランドの間に介在するように、前記スリーブおよびストランドの各材料よりも低降伏点で延性の高い低降伏点鋼により構成されていることを特徴としている。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載のストランド定着具であって、前記ウェッジが周方向に複数の分割ウェッジに分割され、かつ前記分割ウェッジが塑性変形した状態において前記分割ウェッジ同士が周方向に隙間なく相互に圧接するように前記分割ウェッジ間の初期隙間が設定されていることを特徴としている。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載のストランド定着具であって、前記ウェッジを構成する低降伏点鋼の降伏点が80〜120N/mmであり、前記スリーブのテーパ面のテーパ角度が15°以上に設定されていることを特徴としている。
【0013】
請求項4の発明のストランドの定着構造は、固定部材の内方向に向けて引張力が付与されるストランドの外周に外嵌されると共に内周面が前記引張力の付与される方向に窄まったテーパ面として形成された筒状のスリーブと、このスリーブと前記ストランドの間に圧入される楔状を呈したウェッジとを具備し、前記スリーブが前記固定部材の外面に押し付けられることで、前記ストランドを前記固定部材に定着するストランド定着具を用いたストランドの定着構造において、前記ウェッジを、前記スリーブおよびストランドの各材料よりも低降伏点で延性の高い低降伏点鋼により構成し、該ウェッジを、前記スリーブとストランドの間に圧入することで塑性変形させた状態で前記スリーブとストランドの間に介在させると共に、前記ウェッジが周方向に複数の分割ウェッジに分割され、かつ前記分割ウェッジが塑性変形した状態において前記分割ウェッジ同士が周方向に隙間なく相互に圧接させてなることを特徴としている。
【0014】
請求項5の発明は、請求項4に記載のストランドの定着構造であって、前記ウェッジを構成する低降伏点鋼の降伏点が80〜120N/mmであり、前記スリーブのテーパ面のテーパ角度が15°以上に設定されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ウェッジの材料として低降伏点鋼を用いているので、ウェッジの軟性により、潤滑剤がなくても、塑性変形させながらスリーブの内部にウェッジを圧入することができ、それにより、最終的に必要十分な抵抗力を発揮させることができる。また、ウェッジが柔らかい材料でできているので、ウェッジの加工の容易化を図れるばかりでなく、スリーブに発生する応力も小さくすることができる。そのため、スリーブに使用する材料の強度条件を緩めることができて、スリーブの加工の容易化も可能となり、トータルのコストダウンを図ることができる。
本発明によれば、ウェッジの材料として低降伏点鋼を用いているので、ウェッジの軟性により、潤滑剤がなくても、塑性変形させながらスリーブの内部にウェッジを圧入することができ、最終的な抵抗力を発揮させることができる。また、ウェッジが柔らかい材料でできているので、ウェッジの加工が容易であるばかりでなく、スリーブに発生する力も小さくすることができるので、スリーブに用いる材質も高強度材である必要性がなくなり、スリーブの加工もしやすくなる。従って、トータルのコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態のストランド定着具およびそれを用いた定着構造を示す図で、(a)は側断面図、(b)は上面図である。
【図2】本発明の実施形態のストランド定着具の条件を導き出すためのシミュレーション結果を示す特性図である。
【図3】本発明の実施形態のストランド定着具の条件を導き出すためのシミュレーション結果を示す特性図である。
【図4】本発明の実施形態のストランド定着具の条件を導き出すためのシミュレーション結果を示す特性図である。
【図5】本発明の実施形態のストランド定着具の条件を導き出すためのシミュレーション結果を示す特性図である。
【図6】本発明の実施形態のストランド定着具の条件を導き出すためのシミュレーション結果を示す特性図である。
【図7】本発明の実施形態のストランド定着具の条件を導き出すためのシミュレーション結果を示す特性図である。
【図8】従来のストランド定着具およびそれを用いた定着構造を示す側断面図である。
【図9】従来の別のストランド定着具およびそれを用いた定着構造を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は実施形態のストランド定着具およびそれを用いた定着構造を示す図で、(a)は側断面図、(b)は上面図、図2〜図7は実施形態のストランド定着具の条件を導き出すための検討内容を示す特性図である。
【0018】
図1に示すように、このストランド定着具は、固定部材(コンクリート等の構造体)2の内方向に向けて強い引張力(荷重P)が付与されるストランド1を固定部材2に定着するための装置であり、スリーブ20とウェッジ30とから構成されている。ストランド1としては、例えばPC鋼より線を想定している。
【0019】
スリーブ20は、ストランド1の外周に外嵌される筒状のもので、鉄系やステンレス等の硬質な高強度鋼により構成されており、内周面が、前記引張力の付与される方向に窄まったテーパ面20aとして形成されている。また、ウェッジ30は、ストランド1に外嵌されたスリーブ20とストランド1との間に圧入される楔形状(具体的には、中心にストランド1を挿通する孔の開いた略円錐コーン形状)のもので、内周面がストランド1の外周に噛み付きやすいように凹凸を有した円筒面30aとして形成され、外周面がスリーブ20のテーパ面20aに合致するテーパ面30bとして形成されている。
【0020】
このウェッジ30は、スリーブ20とストランド1の間に圧入されることでストランド1を定着するもので、圧入された際に塑性変形した状態でスリーブ20とストランド1の間に介在するように、スリーブ20およびストランド1の各材料よりも低降伏点で延性の高い低降伏点鋼により構成されている。低降伏点鋼は、添加元素を極力低減した純鉄に近いものであり、従来の軟鋼に比べ強度が低く、延性が極めて高い鋼材である。ここでは、降伏点鋼の降伏点として、80〜120N/mmを想定している。
【0021】
また、ウェッジ30は、周方向に複数(図示例では3つであるが、2つでも4つでもよい)の同形状の分割ウェッジ31に分割されており、塑性変形した状態において周方向に隣接する分割ウェッジ31同士が周方向に隙間なく相互に圧接するように、分割ウェッジ31間の初期隙間が設定されている。つまり、圧入する前から隙間Sがゼロであってもよいし、圧入されて塑性変形した状態で隙間Sがゼロになるように設定されていてもよい。また、圧入する前から隙間Sがゼロであってもよいことから、ウェッジ30が周方向に分割されていず、一体ものであってもよい。但しその場合、ストランド1の外周に外嵌させることができる程度の直径の中心孔が貫通していることが必要がある。また、スリーブ20の内周のテーパ面20aのテーパ角度θは15°以上に設定されている。
【0022】
次に、この定着具を用いてストランド1を定着する方法について述べる。
ストランド1を定着するには、ストランド1に外嵌するように配したスリーブ20の内部にウェッジ30を圧入する。そうすると、スリーブ20のテーパ面20aの作用によりウェッジ30の内径が徐々に小さくなり、ウェッジ30がストランド1を強固に締め付けて保持する。この状態で、ストランド1からウェッジ30に引張力が作用すると、その引張力がウェッジ30をスリーブ20内に更に圧入させる力となり、ウェッジ30が更にストランド1を締め付けて保持する。従って、スリーブ20には、ウェッジ30を介してストランド1から大きな引張力が加わり、その引張力がスリーブ20から固定部材2に伝えられ、それにより、ストランド1におけるスリーブ20との結合部分が固定部材2に定着される。
【0023】
このように定着させた際に、ウェッジ30は、スリーブ20およびストランド1の各材料よりも低降伏点で延性の高い低降伏点鋼により構成されているので、塑性変形した状態でスリーブ20とストランド1の間に入り込んで行く。また、ウェッジ30が塑性変形した状態において、周方向に隣接する分割ウェッジ31同士が周方向に隙間なく相互に圧接した状態となる。そしてこの状態で、ストランド1の引張力に対する必要十分な抵抗力を発揮できるようになる。なお、この場合、ウェッジ30が塑性変形しながらスリーブ20とストランド1との間に入り込むので、ウェッジ30とスリーブ20の密着面には潤滑材を介在させる必要がない。
【0024】
次に、上述した本実施形態のストランド定着具および定着構造の条件を見い出すために行ったシミュレーションの内容について、図2〜図7を参照して説明する。ここでは、材料費や加工費の低減のためにウェッジ30の材料として低降伏点鋼を使用したいという要望があることを前提とし、低降伏点鋼を使用した場合でも必要十分な抵抗力(定着力)を発揮することができるか、そのためにはどのような条件を満たせばよいのかをシミュレーションにより検討してみた。
【0025】
まず、得たい条件の項目として次の項目を取り上げた。
(1)周方向に隣接する分割ウェッジ31間の隙間S(図1参照)はあった方がよいのか、ない方がよいのか。
(2)スリーブ20のテーパ角度θはどれくらいならばよいのか。
(3)降伏点がどれくらいの材料を使えばよいのか。
(4)スリーブ20とウェッジ30の摩擦係数μの影響はあるのか。
【0026】
ここでは、スリーブ20が弾性体(従来同様の硬質の高強度材)で構成されている場合の複数のサンプルについて調べた。このシミュレーションでは、ウェッジ30をストランド1とスリーブ20の間に圧入した状態において、ストランド1に引張荷重Pが働いたときのストランド1の引張方向の変形量δ(mm)と荷重P(kN)の関係を調べた。各特性図の横軸はδ(mm)、縦軸はP(kN)であり、Pは定着構造の抵抗力に相当する。
【0027】
図中および以下の記載中の符号Y.P.は降伏点、μはスリーブとウェッジ間の摩擦係数、θはスリーブの内面のテーパ角度を表す。また、図中に、ストランドとして使用するPC鋼より線の0.2%耐力、PC鋼より線の引張強さを示す。ストランドとして使用するPC鋼より線の引張強さよりも抵抗力(P)が大きければ、十分な耐力(定着力)を発揮できると見なすことができる。
【0028】
図2は、まず参考データを採るために、ウェッジが弾性体(硬質の高強度材)で構成されている場合(従来例に相当)について調べた結果を示す。ここでは、摩擦係数μを違えた4つのサンプルa〜dについて調べた。ウェッジが弾性体であるということで、Y.P.=∞とした。テーパ角度θは7°で共通とし、全部が隙間あり(Sがゼロでない)となっている。4つのサンプルa、b、c、dは次の通りである。
a:Y.P.=∞、μ=0.0、θ=7°、隙間あり。
b:Y.P.=∞、μ=0.3、θ=7°、隙間あり。
c:Y.P.=∞、μ=0.6、θ=7°、隙間あり。
d:Y.P.=∞、μ=0.9、θ=7°、隙間あり。
【0029】
図2に示すシミュレーションの結果、ウェッジが弾性体の場合は、摩擦係数μが大きいほど、抵抗力(P)が大きくなることがわかる。
【0030】
図3は、ウェッジが低降伏点鋼で構成されている場合で、スリーブのテーパ角度θを5°〜9°に変化させた場合の3つのサンプルe〜gについて調べた結果を示す。参考までにウェッジが弾性体のサンプルdについて一緒に示す。
d:Y.P.=∞ 、μ=0.9、θ=7°、隙間あり(前出)。
e:Y.P.=100N/mm、μ=0.9、θ=5°、隙間あり。
f:Y.P.=100N/mm、μ=0.9、θ=7°、隙間あり。
g:Y.P.=100N/mm、μ=0.9、θ=9°、隙間あり。
【0031】
図3に示すシミュレーションの結果、ウェッジが低降伏点鋼の場合は、θが大きいほど、抵抗力(P)が増すことがわかる。
【0032】
図4は、ウェッジが低降伏点鋼で構成されている場合で、分割ウェッジ間の隙間がありの場合となしの場合とでどのような差が出るかを調べた結果を示す。サンプルは、次の2つのg(前出)とhである。
g:Y.P.=100N/mm、μ=0.9、θ=9°、隙間あり(前出)。
h:Y.P.=100N/mm、μ=0.9、θ=9°、隙間なし。
【0033】
図4に示すシミュレーションの結果、ウェッジが低降伏点鋼の場合は、分割ウェッジ間の隙間を無くす(S=0)と抵抗力(P)が増すことがわかる。これは、塑性変形時に分割ウェッジ同士が隙間なしで相互に圧接することにより、ウェッジの周方向の応力が増大し、それによってPC鋼より線(ストランド)に対する締付力が高まって抵抗力Pが増すと考えられる。このことから、ウェッジが低降伏点鋼の場合は、分割ウェッジ間に隙間がないことが有効であるという条件が導き出せる。このことは、ウェッジが弾性体の場合には全く考えられない新規な条件であるということができる。
【0034】
図5は、ウェッジが低降伏点鋼で構成され、分割ウェッジ間に隙間なしの場合で、スリーブのテーパ角度θを変化させた場合にどのような差が出るかを調べた結果を示す。サンプルは、次の4つのh(前出)、i、j、kである。
h:Y.P.=100N/mm、μ=0.9、θ= 9°、隙間なし(前出)。
i:Y.P.=100N/mm、μ=0.9、θ=10°、隙間なし。
j:Y.P.=100N/mm、μ=0.9、θ=12°、隙間なし。
k:Y.P.=100N/mm、μ=0.9、θ=15°、隙間なし。
【0035】
図5に示すシミュレーションの結果、ウェッジが低降伏点鋼で構成され、分割ウェッジ間の隙間がなしの場合は、テーパ角度θを大きくするにしたがい、抵抗力(P)が大きくなり、θ=15°以上であれば、必要な抵抗力を有するようになることがわかる。
【0036】
図6は、ウェッジが低降伏点鋼で構成され、スリーブのテーパ角度θ=15°、分割ウェッジ間に隙間なしの場合で、スリーブとウェッジ間の摩擦係数μを変化させた場合にどのような差が出るかを調べた結果を示す。サンプルは、次の4つのl、m、n、k(前出)である。
l:Y.P.=100N/mm、μ=0.0、θ=15°、隙間なし。
m:Y.P.=100N/mm、μ=0.3、θ=15°、隙間なし。
n:Y.P.=100N/mm、μ=0.6、θ=15°、隙間なし。
k:Y.P.=100N/mm、μ=0.9、θ=15°、隙間なし(前出)。
【0037】
図6に示すシミュレーションの結果、ウェッジが低降伏点鋼で構成され、θ=15°、分割ウェッジ間の隙間がなしの場合で調べてみたところ、摩擦係数μが変化しても、抵抗力(P)に大きな差が生じないことがわかる。このことから、スリーブとウェッジの当接面に潤滑油を供給する必要がまったくないことがわかる。
【0038】
図7は、スリーブとウェッジ間の摩擦係数μ=0.9、スリーブのテーパ角度θ=15°、分割ウェッジ間に隙間なしの場合で、ウェッジの降伏点を変えた場合にどういう差が出るかを調べた結果を示す。サンプルは、次の5つのo、p、q、k(前出)、rである。
o:Y.P.= 80N/mm、μ=0.9、θ= 9°、隙間なし。
p:Y.P.= 90N/mm、μ=0.9、θ=10°、隙間なし。
q:Y.P.= 95N/mm、μ=0.9、θ=12°、隙間なし
k:Y.P.=100N/mm、μ=0.9、θ=15°、隙間なし(前出)。
r:Y.P.=120N/mm、μ=0.9、θ=15°、隙間なし。
【0039】
図7に示すシミュレーションの結果、PC鋼より線の引張強さを超える抵抗力を示す材料の降伏点は95N/mm以上であることがわかる。
【0040】
従って、以上のシミュレーションの結果、次のことが言えることが判明した。
(1)ウェッジの材料として、材料費や加工費を大きく低減できる低降伏点鋼を使用した場合にも、条件さえ整えれば、必要十分な抵抗力(定着力)を発揮させることができる。その場合、降伏点が80〜120N/mmの材料を選択することが必要であるが、95N/mm以上のものを採用すればなお良い。
(2)ウェッジに低降伏点鋼を使用し、塑性変形させながらスリーブとストランドの間にウェッジを圧入する場合、ウェッジの軟性ゆえにスリーブとウェッジ間の摩擦係数の影響が出ないので、潤滑材の供給が不要となる。
(3)ウェッジを周方向に複数の分割ウェッジに分割する場合は、定着時の状態において、周方向に隣接する分割ウェッジ間に隙間が生じないように設定する。
(4)スリーブのテーパ角度θは15°以上に設定する。
【0041】
以上のように条件を定めた本実施形態のストランド定着具およびそれを用いたストランドの定着構造によれば、ウェッジ30の材料として低降伏点鋼を用いているので、ウェッジ30の軟性により、潤滑剤がなくても、塑性変形させながらスリーブ20の内部にウェッジ30を圧入することができ、それにより最終的に必要十分な抵抗力を発揮させることができる。また、ウェッジ30が柔らかい材料でできているので、ウェッジ30の加工の容易化を図れるばかりでなく、スリーブ20に発生する応力も小さくすることができる。そのため、スリーブ20に使用する材料の強度条件を緩めることができて、スリーブ20の加工の容易化も可能となり、トータルのコストダウンを図ることができる。
【0042】
なお、図8、図9に示すように、アンカープレートをスリーブ20と固定部材2の間に介在させてもよい。また、ウェッジ30が塑性変形した際にスリーブ20から大きく抜け出るのを防ぐために、栓状の詰め物をスリーブ20の窄まり端に配置してもよいし、その役目をアンカープレートの孔周縁で行わせてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 … ストランド
2 … 固定部材
20 … スリーブ
20a … テーパ面
30 … ウェッジ
31 … 分割ウェッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材の内方向に向けて引張力が付与されるストランドの外周に外嵌されると共に内周面が前記引張力の付与される方向に窄まったテーパ面として形成された筒状のスリーブと、このスリーブと前記ストランドの間に圧入される楔状を呈したウェッジとを具備し、前記スリーブが前記固定部材の外面に押し付けられることで、前記ストランドを前記固定部材に定着するストランド定着具において、
前記ウェッジが、前記スリーブとストランドの間に圧入されることで前記ストランドを定着した際に塑性変形した状態で前記スリーブとストランドの間に介在するように、前記スリーブおよびストランドの各材料よりも低降伏点で延性の高い低降伏点鋼により構成されていることを特徴とするストランド定着具。
【請求項2】
前記ウェッジが周方向に複数の分割ウェッジに分割され、かつ
前記分割ウェッジが塑性変形した状態において前記分割ウェッジ同士が周方向に隙間なく相互に圧接するように前記分割ウェッジ間の初期隙間が設定されていることを特徴とする請求項1に記載のストランド定着具。
【請求項3】
前記ウェッジを構成する低降伏点鋼の降伏点が80〜120N/mmであり、前記スリーブのテーパ面のテーパ角度が15°以上に設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のストランド定着具。
【請求項4】
固定部材の内方向に向けて引張力が付与されるストランドの外周に外嵌されると共に内周面が前記引張力の付与される方向に窄まったテーパ面として形成された筒状のスリーブと、このスリーブと前記ストランドの間に圧入される楔状を呈したウェッジとを具備し、前記スリーブが前記固定部材の外面に押し付けられることで、前記ストランドを前記固定部材に定着するストランド定着具を用いたストランドの定着構造において、
前記ウェッジを、前記スリーブおよびストランドの各材料よりも低降伏点で延性の高い低降伏点鋼により構成し、該ウェッジを、前記スリーブとストランドの間に圧入することで塑性変形させた状態で前記スリーブとストランドの間に介在させると共に、前記ウェッジが周方向に複数の分割ウェッジに分割され、かつ前記分割ウェッジが塑性変形した状態において前記分割ウェッジ同士が周方向に隙間なく相互に圧接させてなることを特徴とするストランドの定着構造。
【請求項5】
前記ウェッジを構成する低降伏点鋼の降伏点が80〜120N/mmであり、前記スリーブのテーパ面のテーパ角度が15°以上に設定されていることを特徴とする請求項4に記載のストランドの定着構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−211492(P2012−211492A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78423(P2011−78423)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】