説明

スパイラルコンベヤに適した軸受け構造

【課題】低速回転においても回転軸と軸受けとの間の空隙に固液混合相中の固形物が侵入することをより効果的もしくは実質的に完全に防止する。
【解決手段】固液混合相の液面下に配置される軸受け構造において、回転軸10および軸受け部30をいずれも大径部11,31と小径部13,33を持つ形状とすることによってこれらの間に折れ曲がった空隙を与え、且つ、これら回転軸および軸受け部の段部間の空隙Gに伸縮自在リングを配置することにより、固形物の侵入を阻止する。回転軸と軸受け部のそれぞれ段部に面する対向箇所に各々凹溝が環設され、該凹溝に伸縮自在リングの中心軸方向の両端部を嵌め込んで設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に固液混合相を収容した貯槽等の液面下に配置するに適した軸受け構造に関し、特にスパイラルコンベヤに適した軸受け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
スパイラルコンベヤに適した軸受け構造として、出願人が提案した下記特許文献1に記載したものがある。この軸受け構造は、オイル中に切り粉などの粉塵物が多数混在しているような固液混合相を所定方向に輸送するスパイラルコンベヤに好適に適用し得るものであって、スパイラルコンベヤのトレイ基端部に固定される軸受け部と、該軸受け部の内部にベアリングを介して回転自在に収容される回転軸がいずれも大径部分と縮径部分とを有するものとして形成されているため、軸受けと回転軸との間の空隙が直線状ではなく折れ曲がり状に形成される。さらに、この折れ曲がった空隙に積層リングが設けられている。このような構造を採用することにより、固液混合相中のオイルなどの液体が該空隙を通って漏出することが防止されると共に、該混合相中の固形物粉塵物も該空隙への侵入が防止されるので防塵効果を高め、長時間の連続使用を可能にすることができるものであった。
【特許文献1】特公平6−99014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1記載の軸受け構造は上述のような効果を発揮するものであったが、ごく稀に固液混合層中の固形物粉塵物が空隙内に侵入して目詰まりを起こして運転中断を余儀なくされたり、防塵効果が十分に得られないことがあった。
【0004】
従って、本発明の目的は、固液混合相の液面下に配置される軸受け構造において、低速回転においても回転軸と軸受けとの間の空隙に固液混合相中の固形物が侵入することをより効果的もしくは実質的に完全に防止することを可能にするための新規な構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1に係る本発明のスパイラルコンベアに適した軸受け構造は、固液混合相を収容した容器の基端部の容器壁に固定される軸受け部と、該軸受け部の内部にベアリングを介して回転自在に収容されて該容器に収容される固液混合相の液面下において該容器壁を通過して延長する回転軸とを備え、前記軸受け部は大径部分と小径部分とを有してなると共に、前記回転軸は前記軸受け部の大径部分に包囲収容される大径部分と前記軸受け部の小径部分に包囲収容される小径部分とを有してなり、これらの大径部分および小径部分同士の間およびこれらの大径部分と小径部分との境をなす段部同士の間には折り曲げ状に連続する空隙が形成されており、且つ、これらの段部同士の間に形成される空隙に少なくとも一つのシール手段が該段部同士の間の空隙を横断するように設けられていることを特徴とする。
【0006】
請求項2に係る本発明は、請求項1に記載の軸受け構造において、前記シール手段として、一枚の細長い平板状素材がスパイラル状に重ね合わせて複数回巻かれて形成された伸縮自在リングが用いられることを特徴とする。
【0007】
請求項3に係る本発明は、請求項2に記載の軸受け構造において、前記軸受け部と前記回転軸の前記段部に面する対向箇所に各々凹溝が環設され、該凹溝に前記伸縮自在リングの中心軸方向の両端部が嵌め込まれていて、該伸縮自在リングが該段部同士の間に形成される空隙内に固液混合層中の固形物が侵入することを防止することを特徴とする。
【0008】
請求項4に係る本発明は、請求項2または3に記載の軸受け構造において、径の異なる複数の前記伸縮リングが多重的に設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、軸受け部が大径部分と小径部分とを有してなると共に、回転軸が軸受け部の大径部分に包囲収容される大径部分と軸受け部の小径部分に包囲収容される小径部分とを有してなり、これらの大径部分と小径部分との境をなす段部同士の間に形成される空隙に少なくとも一つのシール手段が設けられるため、低速回転においても回転軸と軸受けとの間の空隙に固液混合相中の固形物が侵入することを効果的に防止することができる。
【0010】
このシール手段としては、一枚の細長い板状素材がスパイラル状に重ね合わせて複数回巻かれて形成された伸縮自在リングが好適に用いられる、より好適には、軸受け部と回転軸の段部に面する対向箇所に各々凹溝が環設され、該凹溝に伸縮自在リングの中心軸方向の両端部を嵌め込んで設けられる。また、本発明の一実施形態によれば、径の異なる複数の前記伸縮リングが多重的に設けられる。これらの付加的構成を採用することにより、段部間の空隙内に固液混合層中の固形物が侵入することをより一層効果的もしくは実質的に完全に防止する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の軸受け構造をスパイラルコンベヤのトレイの基端部における回転駆動軸に適用した実施例の部分断面図である。U字状の断面形状を有するトレイ1は底壁1と端壁2とを有し、旋盤などの各種工作機械に付設され、大量の切粉を含んだ切削液を収容する。端壁2には軸受け構造の軸受け部30がボルトBなどの固定手段によって取り付けられている。軸受け部30には回転軸10が回転自在に収容されている。回転軸10は軸径の異なる二つの部分、すなわち大径部分11と小径部分13とを有する。小径部分13はトレイ1の端壁2を通過する先端側に形成され、最先端にはスプロケットホイールSWがスプリングピンSPによって固定されている。回転軸10の主部をなす大径部分11の外周には断面矩形状のスパイラルSがねじSCによって固定されている。大径部分11の小径部分13との段部に近い箇所の外周面には環状溝12が凹設されている。
【0012】
軸受け部30は、回転軸10の大径部分11および小径部分13とに対応して、大径部分31と小径部分33とを有し、軸受け部30の大径部分31に回転軸10の大径部分11を収容し、軸受け部30の小径部分33に回転軸10の小径部分13を収容するように構成されている。軸受け部30の小径部分の大径部分との段部に近い箇所の内周面には環状溝32が凹設されている。
【0013】
これらの環状溝12,32には各々積層リング51,52が嵌め込まれている。図示の実施例では、回転軸10の大径部分11の外周に形成された環状溝12に積層リング51の内径側が嵌め込まれていてその外径側が軸受け部30の大径部分31の円筒状内周面に圧接し、また、軸受け部30の小径部分33の内周に形成された環状溝32にもう一つの積層リング52の外径側が嵌め込まれていてその内径側が回転軸10の小径部分13の円筒形外周面に圧接している。
【0014】
積層リング51,52の嵌め込み形態はこれに限定されるものではなく、たとえば積層リング51について言えば、図1の実施形態とは逆に、軸受け部30の大径部分31の内周に環状溝を形成してこの環状溝に積層リング51の外径側を嵌め込んでその内径側が回転軸10の大径部分11の円筒形外周面に圧接されるようにしても良いし、あるいは、図1と同様に回転軸10の大径部分11の外周に環状溝12を形成すると共に軸受け部30の大径部分31の内周における対向箇所にも環状溝を形成して、これらの環状溝に積層リング51の外径側および内径側を嵌め込んでも良い。また、積層リング52について言えば、図1の実施形態とは逆に、回転軸10の小径部分13の外周に環状溝を形成してこの環状溝に積層リング52の内径側を嵌め込んでその外径側が軸受け部30の小径部分33の円筒形内周面に圧接されるようにしても良いし、あるいは、図1と同様に軸受け部10の小径部分13の内周に環状溝12を形成すると共に回転軸10の小径部分13の外周における対向箇所にも環状溝を形成して、これらの環状溝に積層リング52の外径側および内径側を嵌め込んでも良い。
【0015】
回転軸10と軸受け部30の大径部分11,31と小径部分13,33との境をなす段部同士の間には、軸方向と直交する方向に延長する若干の空隙Gが設けられて、それらの面が互いに接触するのを回避している。この空隙Gにシール手段としての伸縮自在リング20が設けられている。伸縮自在リング20は、一枚の細長い平板状素材がスパイラル状に重ね合わせて複数回巻かれて形成されたものであり、たとえば本出願人である東京精密発条株式会社が商品名「スクリューカバー」の下に製造販売している製品を用いることができる(http://www.to-hatsu.co.jp/products/other_screwcover.html参照)。一例を図3に示す。
【0016】
図1と共に図2を参照して、回転軸10の大径部分11と小径部分13との境をなす段段16には環状溝17が凹設されると共に、軸受け部30の大径部分31と小径部分33との境をなす段部37には、前記環状溝17と対向する位置に環状溝38が凹設される。そして、これら環状溝17,38に両端を嵌め込むようにして伸縮自在リング20が組み込まれる。この実施形態では伸縮自在リング20の大径側の端部が環状溝38に嵌め込まれ、小径側の端部が環状溝17に嵌め込まれているが、もちろん逆の位置関係にしてこれらの環状溝17,18を嵌め込んでも良い。また、環状溝17,18の位置は必ずしも厳密な対向関係になくても良く、伸縮自在リング20の端部を嵌め込むことができる位置に該嵌め込み状態を安定的に確保できるような寸法に形成されれば良い。
【0017】
このようにして配置された伸縮自在リング20は、両端が環状溝17,18に圧縮状態で嵌め込まれており、図2に示すようにスパイラル状に巻かれた一枚の平板状素材が重ね合わされた状態で設けられているので、段部16,37間の空隙Gに切り粉などの固形物が侵入することを確実に阻止する。
【0018】
図示の実施例においては、2個のオイルシール53,54が、積層リング51,52の背後において回転軸10と軸受け部30との間に設けられ、それらの間に2個のベアリング(深溝玉軸受け)55,56が設けられている。更に、オイルシール54と回転軸10との間には金属リングまたはスリーブ57が設けられ、スリーブ57と回転軸10との間には、回転軸10に設けられた溝13に嵌め込まれる形でOリング58が設けられている。
【0019】
図示の実施例による軸受け構造において回転軸10と軸受け部30とを組み付ける要領は下記の通りである。まず、回転軸10の溝12内に積層リング51を、溝13内にOリング58をそれぞれ組み付けておく。このとき、積層リング51は軸受け部30の大径部分31の内周面に圧接される外接型のものであるから、溝12内において僅かな遊びをもって受け入れられており、積層リング51の外径は回転軸10の大径部分11の外周面から外側に突出している。一方、軸受け部30の溝32内には積層リング52を嵌合させ、オイルシール53、ベアリング55,56、オイルシール54、スリーブ57を順次組み付けておく。ここで、積層リング52は回転軸10の小径部分13の外周面に圧接される内接型のものであるから、溝32内において僅かな遊びをもって受け入れられており、積層リング52の内径は軸受け部30の小径部分33の内周面から内側に突出している。
【0020】
そして、回転軸10の小径部13の先端から伸縮自在リング20を挿入し、その段部16に形成されている環状溝17に一端を挿入した状態にして、回転軸10を軸受け部30の右側(図1において)から挿入すると、回転軸10の小径部分13の左側の肩部における斜めの面取り部分15が、積層リング52の内径面に接触して積層リング52を拡径させながら侵入していく。同様に、軸受け部30の大径部分の右側の肩部における斜めの面取り部分34が、積層リング51の外径面に接触して積層リング51を縮径させながら回転軸10が軸受け部30内に侵入していく。伸縮自在リング20の他端(左端)は軸受け部30の段部37に形成されている環状溝38に嵌め込まれる。しかる後、スプロケットホイールSWを装着することにより、回転軸10と軸受け部30との組み付けが完了する。
【0021】
トレイ1の端壁2における開口部分と軸受け部30の大径部分31の外周面との間にパッキング35を介して、それらを嵌合させ、軸受け部30の大径部分31から放射方向に延長しているフランジ部分35と端壁2との間にリング状のパッキング36を介して、それらを圧接させ、ボルトBなどの固定手段によって締め付け固定する。しかる後、スパイラルSが回転軸10の右側端部に適切な固定手段によって固定される。
【0022】
上述の実施例による軸受け構造を設けたスパイラルコンベヤは、通常の稼働条件下において長時間の連続運転に耐え、十分に実用可能であることが確認された。回転軸10および軸受け部30がいずれも大径部11,31と小径部13,33を持つ形状とされることによって固形物の侵入に対して折れ曲がった経路(空隙)を与えていることや、積層リング51,52を配置したことに加えて、段部16,37間の空隙Gに伸縮自在リング20を配したことが、固形物の侵入を効果的に阻止して好ましい防塵効果を長期に亘って持続させているものと考えられる。
【0023】
以上に本発明の一実施例について詳述したが、本発明は上述の実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱することなく様々な変形が可能である。たとえば、上記実施例では段部16,37間の空隙Gに一つの伸縮自在リング20が設けられているが、第1の伸縮自在リングと共に、その最大径よりも大きな最小径を有する第2の伸縮自在リングを用い、これらを同心状に多重的に配することができる。もちろん、同様の径寸法関係を有する伸縮自在リングをより多数用いてこれらを同心状に多重配置しても良い。このようにすることでより一層すぐれた防塵効果を発揮することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による軸受け構造をスパイラルコンベヤのトレイの基端部における回転駆動軸に適用した実施例の部分断面図である。
【図2】図1の実施例における伸縮自在リングの配置状態を示す拡大図である。
【図3】伸縮自在リングの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 トレイ
2 端壁
10 回転軸
11 大径部分
12 環状溝
13 小径部分
16 段部
17 環状溝
20 伸縮自在リング
30 軸受け部
31 大径部分
32 環状溝
33 小径部分
37 段部
38 環状溝
51,52 積層リング
53,54 オイルシール
55,56 ベアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固液混合相を収容した容器の基端部の容器壁に固定される軸受け部と、該軸受け部の内部にベアリングを介して回転自在に収容されて該容器に収容される固液混合相の液面下において該容器壁を通過して延長する回転軸とを備え、前記軸受け部は大径部分と小径部分とを有してなると共に、前記回転軸は前記軸受け部の大径部分に包囲収容される大径部分と前記軸受け部の小径部分に包囲収容される小径部分とを有してなり、これらの大径部分および小径部分同士の間およびこれらの大径部分と小径部分との境をなす段部同士の間には折り曲げ状に連続する空隙が形成されており、且つ、これらの段部同士の間に形成される空隙に少なくとも一つのシール手段が該段部同士の間の空隙を横断するように設けられていることを特徴とする、スパイラルコンベアに適した軸受け構造。
【請求項2】
前記シール手段として、一枚の細長い平板状素材がスパイラル状に重ね合わせて複数回巻かれて形成された伸縮自在リングが用いられることを特徴とする、請求項1に記載の軸受け構造。
【請求項3】
前記軸受け部と前記回転軸の前記段部に面する対向箇所に各々凹溝が環設され、該凹溝に前記伸縮自在リングの中心軸方向の両端部が嵌め込まれていて、該伸縮自在リングが該段部同士の間に形成される空隙内に固液混合層中の固形物が侵入することを防止することを特徴とする、請求項2に記載の軸受け構造。
【請求項4】
径の異なる複数の前記伸縮リングが多重的に設けられることを特徴とする、請求項2または3に記載の軸受け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−150026(P2010−150026A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332183(P2008−332183)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000220457)東京精密発条株式会社 (2)
【Fターム(参考)】