説明

スパッタリングのバーンインに要する時間を短縮してスパッタリングの際に発生するパーティクルを最小限に抑える方法、及びこのときに用いられるターゲットアセンブリ

【課題】スパッタリングターゲットの特性を安定させるための動作、いわゆるバーンイン(burn-in)に要する時間を短縮するターゲットアセンブリを提供する。
【解決手段】スパッタリング用のターゲット1製造後、酸化物、不純物、汚染物質を除去する表面処理を実施し、その後、カバー(金属被覆体)5により、後で用いられるプラスチックバッグ23等のパッケージ材料に直接接触しないように封止される。その際、不活性化バリヤ層によって被覆されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲットの特性を安定させるための動作、いわゆるバーンイン(burn-in)に要する時間を短縮する方法、及びこのときに用いられるターゲットアセンブリに関し、特に、スパッタリングターゲットの表面を処理して、その表面処理されたスパッタリングターゲットをパッケージング(packaging)することによって、バーンインに要する時間を短縮し、スパッタリングの際に発生するパーティクル及び薄膜の欠陥を最小限に抑える方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、スパッタリング技術は、特に、超大規模集積回路(VLSI)素子の製造において、相互に接続される金属の薄膜及び接着層を蒸着する際に用いられる主な技術である。半導体素子の製造技術が進歩するにつれて、半導体ウエハが大型化するとともにその線寸法が微細化し、トランジスタの数が増加して回路がさらに複雑になってきた。このような半導体素子の製造技術の進歩に伴い、金属被覆層が増加し、厳密な許容差が要求されてきている。接続回路は、多数の工程で作成されることが多い。スパッタリングによって、連続する均一な薄膜が接続回路の各金属層毎にパターン化された半導体ウエハの表面に形成される。次に、スパッタリングによって形成された層はエッチングされ、所望の回路が形成される。
【0003】
現在、一般的に、スパッタリング装置で用いられるターゲットには、製品化されたウエハに用いる前に、特性を安定させるための動作、すなわちバーンインが行われる。バーンインに要する時間及び他の動作に要する時間は、そのときに用いられるスパッタリング装置によって異なる。バーンイン工程の目的は、ターゲットの表面に吸着又は吸収され、スパッタリングによって形成される薄膜に悪影響を及ぼす残留汚染物質を除去して、発生するパーティクルの量を許容限界値まで低減させることである。残留汚染物質は、ターゲットの梱包、出荷、保管の際に発生する。バーンインの際に除去する必要のある他の汚染物質としては、例えば、ターゲットの最終機械加工工程で損傷を受けたターゲット表面及びターゲットのあらゆる面に形成された残留表面酸化物層がある。バーンイン工程によって、製品化されたウエハにスパッタリングすることのできる清浄された金属表面ができる。
【0004】
バーンイン工程において、特に、汚染物質がターゲット上に存在する場合、ガスが発生したり、パーティクルが発生することがある。このようなガスの発生及びパーティクルの発生により、汚染物質、又は、他の異物及び微粒子がスパッタリングチャンバ内に溜まったり、装置のシールドに堆積することがある。この結果、これらの残留汚染物質によって、スパッタリング動作の性能が影響されることがある。集積回路の製造において、パーティクル及び他の不純物は、素子の歩留まりに直接影響する重大な要因である。素子の歩留まりを最大にするためには、発生するパーティクル及び不純物をできるだけ低く抑える必要がある。
【0005】
バーンイン工程は、スパッタリング工程の一部の生産性を伴わない工程である。この生産性を伴わない工程が全体の製造工程に影響し、スパッタリング装置の運転コストを増大させることにもなる。具体的には、スパッタリング装置は非常に高価(約300万ドル)な装置であり、この装置が休止しているときの損失は1時間当たり50万ドルに相当すると見積もられている(スパッタリング装置によって、1枚当たり約1万ドルに相当するウエハが1時間で50枚処理される)。一般的に、新しいターゲットのバーンインには1〜6時間要し、その間は製造することはできない。バーンインに要する時間の短縮によって生産性が向上し、スパッタリング装置の運転コストの低減につながる。
【0006】
ターゲットをバーンインする必要性に関する不都合な点、すなわち製造時間の増加、並びにスパッタリング動作及び製品の歩留まりへの悪影響の可能性を鑑み、ターゲットをスパッタリングする手順を改善して、バーンインに要する時間を短縮し、工程全体を改善して、歩留まりを上げる必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−118842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、製造されたスパッタリングターゲットの表面を処理し、その表面処理された部分をバーンインの前に保護金属被覆体に封止(パッケージング又は被膜)することによって上述した問題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、バーンインに要する時間を短縮するとともに汚染物質の発生量を低減させる。本発明の一具体例では、アルミニウムターゲットのバーンインに要する時間が5〜6時間から1時間未満に短縮された。このとき、発生するパーティクルは最小限に抑えられ、また処理も完全に安定した状態で行われた。
【0010】
本発明の第1の目的は、スパッタリングターゲットのバーンインに要する時間を短縮することによって、スパッタリング動作及び歩留まりを上げることである。
【0011】
本発明の他の目的は、スパッタリングターゲットのバーンインの際に発生するパーティクル及びガスを最小限に抑えることである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、スパッタリングのために表面処理されたターゲットと金属被覆体とを備えるターゲットアセンブリを提供することである。
【0013】
これらを組み合わせることによって、このターゲットアセンブリは、スパッタリングの初期段階におけるパーティクルの大量発生を防止し、ターゲット表面の酸化物を低減し、また、ターゲット表面が梱包材料に直接接触することや、それらに関連するバーンイン工程中の有機汚染、有機遊離基及び炭素の発生の可能性からターゲットを保護することができる。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、スパッタリングターゲットの歩留まりを上げ、ターゲットの寿命を延ばすことにより、スパッタリングにかかるコストや運転コストを低減することである。
【0015】
本発明の他の目的及び利点については、具体例の説明を進めながら明らかにする。
【0016】
上述した目的及び利点を達成するにあたり、本発明は、一具体例において、ターゲットを薄膜の蒸着に用いる前にターゲットの特性を安定させるための動作、すなわちバーンインを行う方法を改善する。この改善によって、ターゲットの少なくとも一部が表面処理され、この表面処理された部分に存在する変形材料や汚染物質が除去され、この部分の微視的な表面積を小さくする。
【0017】
そして、ターゲットの少なくとも表面処理された部分を、その表面処理された部分を保護する大きさの金属被覆体の中に配置する。この金属被覆体は、後にターゲットの表面処理された部分とターゲット及び金属被覆体を覆う梱包材料との接触を防止する。金属被覆体を用いた表面処理工程により、ターゲット表面の変形材料や汚染物質がかなり除去され、その結果、バーンインの際のアーク発生、有機遊離基及び炭素の発生が低減される。この結果、バーンイン時間が短縮される。
【0018】
金属被覆体及びターゲットは、さらに、クリーンルームで用いられる二重プラスチックバッグ等のプラスチック被覆体に封止するようにしてもよい。また、ターゲットを入れた二重プラスチックバッグに乾燥剤を入れるようにしてもよい。
【0019】
この被覆体は、出荷や保管のために排気するようにしてもよい。
【0020】
表面処理工程は、イオンフライス加工又はイオン洗浄、スパッタリング、化学研磨又は化学エッチング、電解研磨又は電解エッチング、レーザー切断又は電子線切断、機械研磨又は機械化学研磨、あるいは、これらの組み合わせ、並びに、ターゲット表面から汚染物質、酸化物又は他の不純物を除去できる他の技術、さらに、微細な表面仕上げをすることができる、すなわちターゲットの表面積を小さくすることができる技術のうちのいずれかを用いて行うことができる。
【0021】
表面処理工程の後には、不活性化処理を施すようにしてもよく、この処理では、表面処理された部分が白金族金属、貴金属、貴金属グループから選択される金属等の安定バリヤ薄膜コーティング、又はその他の不活性化コーティングによって被覆される。安定バリヤ薄膜コーティングは、ターゲット表面に接触するガスに対する障壁として働き、酸化物が自然に形成されるのを防止又は抑制する。ターゲットのバーンインの目的の1つはターゲット上に自然に形成された酸化物層を除去することであるので、酸化物層が自然に形成されるのを防止することによって、バーンイン処理中に酸化物層を除去する必要がなくなる。具体的な被膜材料として、例えば、金、プラチナ、ルテニウム等がある。
【0022】
本発明の方法の好適な具体例において、金属被覆体は、ターゲットの表面処理された部分を封止するようにターゲットに取り付けられたカバー又はキャップである。カバーは、表面処理された部分との分離、また、取り付け及び取り外しを容易にするという両方の目的のため、ターゲットの周辺部を真空シールする周縁部を有する大きさとする。
【0023】
他の特徴として、本発明の方法は、表面処理された部分を有するスパッタリングターゲットとターゲットの少なくとも表面処理された部分を封止する大きさの金属被覆体とを備えたターゲットアセンブリを提供する。
【0024】
ターゲットアセンブリは、乾燥剤が入った又は乾燥剤なしのプラスチック被覆体を備えることもできる。金属被覆体は、ターゲットの周辺部に取り付けるための周縁部を有するキャップの形式を有する。また、ターゲットの表面処理された部分を保護して、表面処理後のバーンイン工程又はその後のスパッタリング工程でターゲットに悪影響を及ぼすような汚染物質に接触しないようにするものであれば、他の金属被覆体を使用することもできる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、製造されたスパッタリングターゲットの表面を処理し、その表面処理された部分をバーンインの前に保護金属被覆体に封止(パッケージング又は被膜)することによって、スパッタリングターゲットのバーンインに要する時間を短縮し、スパッタリング動作及び歩留まりを上げることができる。また、スパッタリングターゲットのバーンインの際に発生するパーティクル及びガスを最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明のターゲットアセンブリの具体的な構造を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明のターゲットアセンブリの他の具体的な構造を示す断面図である。
【図3】図3は、排気された図2のターゲットアセンブリの断面図である。
【図4】図4A及び4Bは、表面が従来の方法によって機械加工されたターゲットの表面欠陥を説明するための図である。
【図5】図5は、従来の機械加工による表面と本発明による表面とについて、スパッタリングの際に堆積されたパーティクルと堆積時間の関係を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明のバリヤコーティングによって表面処理されたターゲットを示す断面図である。
【図7】図7A、7B、7C、7Dは、チタンターゲットの表面におけるイオンエッチングの効果を示す、倍率×250及び×1000の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図8A】図8Aは、チタンターゲットの表面組織における化学エッチングの効果を示すX線回折パターンである。
【図8B】図8Bは、チタンターゲットの表面組織における化学エッチングの効果を示すX線回折パターンである。
【図8C】図8Cは、チタンターゲットの表面組織における化学エッチングの効果を示すX線回折パターンである。
【図8D】図8Dは、チタンターゲットの表面組織における化学エッチングの効果を示すX線回折パターンである。
【図9】図9は、ターゲット及びカバーとそれらの間のシールとの関係を詳細に示す分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、スパッタリングターゲットの表面の形態、並びにスパッタリング装置に取り付けるまでの出荷及び保管の際の調整及び保存方法に関する。本発明は、スパッタリングターゲットの初期のバーンイン工程の際にスパッタリングターゲットからのガスの発生及びパーティクルの発生を最小限に抑えるとともに、バーンインに要する時間を短縮するように意図されたものである。これらの目的は、ターゲットを表面処理するとともに、金属被覆体でターゲットの表面処理された部分を保護することによって達成される。
【0028】
一般的に、スパッタリングターゲットは、ターゲット合金材料を選出し、溶融し、鋳造して鋳塊を形成するという従来の処理工程によって製造されてきた。その後、鋳塊は、熱間加工、冷間加工、及びそれらの組み合わせのいずれかによって加工され、熱処理されて最終的にターゲットとして製造される。その他の従来の工程には、ターゲットをスパッタリングする前の、機械加工、接着、また、必要に応じて仕上げ機械加工及び洗浄などの工程がある。
【0029】
本発明によれば、従来のターゲットを製造する工程に加えて、さらに1又は1以上の表面処理工程が行われる。表面処理工程の目的は、実際にバーンインを行わずに、バーンインによって得られるバーティクルの存在しない(particle-free)表面と同様の表面を作り出すことである。本発明の表面処理工程では、ターゲット表面に存在する汚染物質及び/又は不純物が除去される。さらに、この表面処理工程では、処理部分の微視的な表面積を小さくする。すなわち、その後の処理であるバーンイン及び/又はスパッタリングのために表面をより平滑に、また、より平坦にする。また、この表面処理工程では、ターゲットの製造中に施された最終機械加工によってターゲット表面に生じた全ての表面の損傷をなくす。このように表面の損傷をなくすことにより、スパッタリングの初期段階におけるパーティクルの大量発生を防止する。また、この表面処理工程では、最終機械加工工程によって汚染物質を除去し、表面の損傷をなくすとともに、ターゲット表面に存在する酸化物も除去する。
【0030】
上述したように、表面処理工程の目的の1つは、バーンインに要する時間を短縮することである。したがって、ターゲット表面をバーンインが施されたターゲット表面と同様の表面にすることができれば、バーンインを行う時間は短縮されるので、スパッタリング装置の製造工程全体の経済性が向上される。
【0031】
この表面処理工程は、変形材料、不純物、汚染物質を除去すること、及び/又は、ターゲット表面の微視的な表面積を小さくすることが可能な種々の工程のいずれであってもよい。これらの工程の例として、イオンフライス加工又はイオン洗浄、スパッタリング、化学研磨又は化学エッチング、レーザー切断又は電子線切断、電解研磨又は電解エッチング、機械研磨又は機械化学研磨、あるいは、これらの組み合わせ等が挙げられる。イオンフライス加工又は化学エッチングが好ましい表面処理であるが、上述した工程及びそれらに類似した工程のいずれであっても、本発明の表面処理工程の一部として利用できると考えられる。例えば、イオンエッチングの処理前及び処理後の走査電子顕微鏡写真を表す図7A、7B、7C、7Dに示すように、イオンエッチングによって表面処理されたチタンターゲットの表面は、明らかに変化している。図7A、7B、7C、7Dからわかるように、本発明の表面処理が施されることにより、機械加工溝及び変形材料(黒点及び裂け目)が著しく低減されている。
【0032】
他の具体例として、機械加工及び化学エッチングが施されたチタンターゲットのX線回折分析がある。これによると、変形材料がエッチング工程によって除去されたことを示すピーク強度が著しく移動していることがわかる。機械加工及びエッチングが施されたターゲットの回折パターンを、図8A、8B、8C、8Dに示す。
【0033】
図8Aは、機械加工後のターゲット表面のX線回折パターンである。図8Bは、化学エッチング処理を1分間行った後のターゲット表面のX線回折パターンである。図8Cは、化学エッチング処理を5分間行った後のターゲット表面のX線回折パターンである。図8Dは、化学エッチング処理を10分間行った後のターゲット表面のX線回折パターンである。
【0034】
本発明によれば、様々な種類のターゲットを製造することができる。すなわち、本発明によれば、様々な材料からなる単一のターゲット又は接着されたターゲットアセンブリを製造することができる。ターゲットは、どのようなスパッタリング装置でも使用することができる。本発明は、スパッタリング装置に依存するものではない。ターゲットは、平板マグネトロンスパッタリング装置で使用されることが好ましい。
【0035】
ターゲットの表面処理が施される部分は、スパッタリング工程によって変えることができる。一般的に、ターゲットの一面がスパッタリングに用いられ、その面に表面処理が施される。しかし、ターゲットの構造及び使用方法によっては、ターゲットの他の部分にも表面処理を施すようにしてもよい。
【0036】
表面処理工程は、粒径、結晶方位、バルク不純物及びガス含有量等、ターゲットの他の重要なパラメータのいずれにも影響を与えない。
【0037】
ターゲットが表面処理されると、少なくとも表面処理された部分は金属被覆体により保護される。金属被覆体は、表面処理された部分が例えば保管や出荷用に用いられるプラスチック包装バッグ、塵等の空気中を浮遊する汚染物質及び水分等の汚染の可能性がある材料でターゲットの表面処理された部分に接触するとスパッタリング動作に悪影響を及ぼすような材料に露出及び/又は接触しないように分離すると共に、隔離する。
【0038】
図1は、本発明のターゲットアセンブリの具体的な構成の断面図である。ターゲットアセンブリ10は、表面処理された部分3を有するターゲット1と、カバー又はキャップ状の金属被覆体であるカバー5とを備える。カバー5は、カバー本体9とともにターゲット1の表面処理された部分3を封止する周縁部7を有している。
【0039】
図9は、ターゲット及びカバーの関係を詳細に示す分解図である。シール又はスペーサ26がターゲット1のフランジ27とカバー5の間に配置され、ターゲット1を損傷から保護すると共にターゲット1の表面を保護する。シールは、シールの表面がターゲット1のフランジ27に係合するような大きさとされる。この係合は例えばシールの働きをし、さらに表面処理された部分を汚染の可能性から分離及び隔離する。
【0040】
カバー5は、再び図1に示すように、周縁部7の内壁11がターゲット1の側壁13を封止するような大きさとされる。この係合又はシールは、さらに、表面処理された部分3を汚染の可能性から分離及び隔離する。勿論、摩擦嵌合又は加圧嵌合以外の他の種類のシール、例えば、ガスケット、Oリング、除去可能な接着剤及びテープ等を用いることも可能である。
【0041】
周縁部7とターゲット1が嵌合するとき、キャップ本体9の下面15と表面処理された部分3の間に十分な間隔が得られ、カバーが取り付け及び/又は取り外しされるときそれらが接触するのを防止するようになっている。また、周縁部7と側壁13が嵌合するときも、側壁13の損傷を防止するように設計されている。
【0042】
特に、ターゲット1の構成によっては、他の構成のカバーを用いることができる。例えば、2つのハーフを取り付けることによって構成される金属被覆体を用いて、ターゲット全体を封止することができる。あるいは、ターゲットを内部に取り付けたり取り外したりするためのドアを備えた容器状の金属被覆体を用いることもできる。
【0043】
また、ターゲットの構成は、当該分野において既知の種類であることが可能であり、例えば、円形、楕円、長方形、正方形、その他の形状とすることができる。
【0044】
カバー5を所定の位置に配置した後、ターゲットアセンブリ10をさらに梱包するようにしてもよい。図2は、更なる梱包、すなわち、一対のプラスチックバッグ21、23からなる二重プラスチックバッグアセンブリ20の具体的な構成を示す断面図である。図示は省略するが、プラスチックバッグ21、23は、ターゲットアセンブリ10をプラスチックバッグ23に挿入し、その後、ターゲットアセンブリ10を収容したプラスチックバッグ23をプラスチックバッグ21に挿入することができる栓を有している。
【0045】
上述したように、カバー5は金属製であることが好ましい。金属製のカバーは、ターゲット表面がプラスチックバッグ23に接触又は露呈することを防止する。カバー5がプラスチック又は高分子材料のとき、スパッタリングやバーンイン工程の際に有害な有機材料を発生することになり、ターゲットの表面を汚染するおそれがある。金属製のカバーは、ターゲットとプラスチックの接触を防ぎ、スパッタリング及び/又はバーンインにおいて発生する有機遊離基及び炭素の発生を低減する。なお、カバーや被覆体に用いられる金属としては、例えば、ラミネート、コーティング又は複合などのいずれかの形態の鉄金属又は非鉄金属であって、十分な強度を有する金属であればよい。カバーは、例えば複合プラスチック等の非金属コアと、そのコアに被覆された金属コーティングによって構成される。金属コーティングは、非金属コア全体、又は、ターゲットの表面処理された部分に隣接する部分のみを覆うようにしてもよい。本発明の目的を達成するため、金属被覆体は、ターゲットの少なくとも表面処理された部分を保護及び/又は隔離する金属体を有するいかなる被覆体をも含むものとする。
【0046】
アセンブリ20には、乾燥剤25を入れるようにしてもよい。乾燥剤の目的は、ターゲットに吸収される水蒸気をなくすことである。これらの乾燥剤は、当該分野においてよく知られている技術なので、本発明を理解するための詳細な説明は省略する。
【0047】
ターゲットアセンブリ10が二重プラスチックバッグアセンブリ20によって封止されると、二重プラスチックバッグアセンブリ20は、排気されて図3に示すようなパッケージ30を形成する。これによって、パッケージ30は、スパッタリングを行う前のターゲットに時間が短縮された最終のバーンイン及びその後の輸送又は保管が可能な状態となる。
【0048】
図2及び図3に示したプラスチック被覆体及び乾燥剤は、本発明の好ましい具体例である。また、他の種類の被覆体及び/又は乾燥剤を用いてターゲットアセンブリ10を封止することも可能である。例えば、単一プラスチックバッグや収縮包装プラスチックフィルムを用いることも可能である。バッグやフィルムに用いられるプラスチックは、ターゲットを別の方式で保護するため、ポリエチレン等の耐湿性及び/又は耐ガス性のものである。
【0049】
図4Aは、典型的な従来の機械加工によって製造されたターゲット表面の形状を示す図である。図4Bは、この機械加工されたターゲット表面を拡大した様子を示す図である。従来の機械加工では、機械加工されたターゲット表面に、変形材料、スミアリング、双晶、及び/又はバリ等、1又は1以上の欠陥が生じることがある。図4A及び4Bは、機械加工されたターゲット表面の汚染物質の存在も示す。本発明の表面処理工程では、上述した欠陥を取り除き、機械加工されたターゲット表面の微視的な表面積を小さくすることが可能である。換言すれば、本発明の表面処理工程によれば、従来の機械加工されたターゲット表面はさらに平坦化され、すなわち、ピークの大きさが小さくなり、全体的な表面積が小さくなる。このように、表面処理の結果、スパッタリング工程中に付着するパーティクルの発生が著しく抑えられる。
【0050】
本発明のターゲット、方法及び装置の改善点を立証するため、比較テストを行った。図5は、テンコア6200(Tencor 6200)ツールによって3mmのエッジを除いた200mmのウエハを測定した結果を示すグラフであり、スパッタリング動作中にウエハ1枚に付着する0.19ミクロンより大きいパーティクルの数を示す。このグラフでは、本発明のターゲットの性能を、同一の金属特性を有し同じ材料からなる従来のターゲットの性能と比較している。それぞれの種類のターゲットを試験する際、同じ装置(Applied Materials Endura 5500スパッタリング装置)を用い、同じバーンイン処理(10ミクロン以下の蒸着膜)、同じ動作条件のもとで行った。グラフでは、バーンイン後の寿命のうち、最初の20kwh(キロワット時)のターゲットの性能を示している。図5から明らかなように、従来の方法で機械加工された表面は、本発明の方法で表面処理されて梱包されたターゲットと比較して、ウエハ1枚当たりに付着するパーティクルの数が著しく多く、ウエハ毎の変動も大きいことがわかる。本発明のターゲットについては、ターゲットのスパッタリング表面をイオンエッチングによって処理している。図7A乃至7Dに示す機械加工されたターゲットの表面とイオンエッチングされたターゲットの表面を比較すると、本発明の表面処理では、汚染物質や機械加工の欠陥を除去し、寿命の最初のパーティクルの発生を著しく抑えていることが明らかである。本発明の他のターゲットについては、化学エッチングによって処理している。図XA及びXBに示す機械加工されたターゲットと化学エッチングされたターゲットの表面を比較すると、本発明のターゲット表面は、機械加工溝及び変形材料が全て除去されて、下の粒子構造が見えることが明らかである。このことにより、バーンイン時間を5〜6時間から1時間未満に短縮することができ、パーティクルの発生しない安定したプロセスを達成することができる。
【0051】
上述したように、不活性化を目的として、ターゲットの表面処理された部分にバリヤ薄膜を被覆するようにしてもよい。金属薄膜は、ターゲットの表面を不活性化するもので、バーンイン及び/又はスパッタリングの際に除去することができ、また、シールド作用等の「裏面スパッタ」された固定物への密着を促進するような種類のものであれば、いかなるものでも使用できる。一般的に、例えば、チタン上のTiO2又はアルミニウム上のAl23のように、ターゲットが製造されると自然に酸化物膜が形成される。これら酸化膜は、バーンイン中に除去されるべきであるが、スパッタリングするのは困難であり、ターゲットの寿命の大部分の間、ターゲットの低速浸食領域に存在することがある。ターゲットの表面処理された部分に不活性化層を被覆することにより、自然には酸化物膜は形成されない。したがって、その除去のためのさらなるバーンイン時間は必要なくなる。金属薄膜としては、プラチナ系又は金系から選択される金属等の貴金属含有膜を用いることができる。しかしながら、ターゲットの表面処理された部分の汚染又は酸化を防止する材料であれば、いずれの材料でも用いることができる。
【0052】
不活性化バリヤ膜を被覆する方法は、既存の金属コーティングプロセスのいずれでも可能である。そのようなプロセスの例としては、フレームスプレー、アークスプレー、プラズマスプレー、レーザーコーティング、静電パウダーコーティング、スラリーコーティング、ロール接着、パウダー圧延、機械衝突、爆発接着、プラズマ転送アーククラッディング、化学気相成長、熱分解、物理気相成長、蒸発又は反応性蒸発等の技術、イオンめっき、スパッタリング及びイオン注入、その他の同様のプロセスを用いることができる。これらのプロセスは、酸化物の形成を防止するために、洗浄プロセスと共に原位置で行わなければならない。これらのプロセスは当該分野においてよく知られているので、本発明を理解するための詳細な説明は省略する。
【0053】
図6は、不活性化及び表面処理が施されたターゲット40の具体的な構造例を示す断面図である。不活性化層41は、ターゲットの表面処理された部分に被覆されている。そして、不活性化層41を有するターゲットは、上述したように、梱包、保管、出荷することができる。
【0054】
本発明の方法及びターゲットアセンブリにより、スパッタリングチャンバ内のパーティクルの量及び異物を抑えることができるとともに、バーンインに要する時間を短縮することによって、すぐれた効果が得られる。その結果、ターゲットの寿命や素子の歩留まりが上がり、このことによって、スパッタリング装置の運転コストを低減することができる。
【0055】
また、バーンイン工程で発生するパーティクル及び不純物を低減させることにより、予防保守/シールドキットの変更を行う必要が生じる前に、ツールの動作可能時間が延長される。さらに、この表面処理方法及びターゲットアセンブリは、スパッタリング装置に依存しない。すなわち、いかなるスパッタリング装置においても用いることができ、特に、平板マグネトロンスパッタリング装置で用いられる。本発明方法は、アルミニウム、チタン、遷移金属、高融点金属、珪化物、酸化インジウムスズ、複合材料、接着されたアセンブリ、また、それらの組み合わせを含むいずれのターゲット材料に対しても有効である。上述した改善は、エンドユーザの工程、並びに、均一性、蒸着速度、パーティクル等の製品仕様を何ら変更することなく達成される。
【0056】
以上のように、本発明を、好ましい具体例を用いて説明してきたが、これらの具体例は上述した本発明の目的の全て達成するものであり、スパッタリングターゲットのバーンインに要する時間を短縮するための新規で改善された方法、及び改善されたターゲットアセンブリを提供する。
【0057】
なお、本発明の主旨を逸脱することなく、当業者が本発明の種々の変更、修正、代替を行ってもよい。したがって、本発明は、以下の請求の範囲によってのみ限定されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットをスパッタリングする前にターゲット表面を処理するターゲットの表面処理方法において、バーンインの前に、
a)上記ターゲットの少なくとも一部に非機械的な表面処理を施してターゲットの表面処理された部分を形成し、該ターゲットの表面処理された部分に存在する不純物のうちの少なくとも1つを除去するとともに、該ターゲットの表面処理された部分の表面積を小さくするステップと、
b)上記ターゲットの少なくとも表面処理された部分を封止する大きさの金属被覆体に該ターゲットの少なくとも表面処理された部分を封止することによって、該ターゲットの少なくとも表面処理された部分を保護及び/又は隔離し、該金属被覆体が該ターゲットの表面処理された部分とその後に用いられる該金属被覆体を収容するプラスチック被覆体との接触を防止するステップとを有し、
c)上記非機械的な表面処理と上記金属被覆体によってバーンインに要する時間を短縮し、
上記金属被覆体は、上記ターゲットの表面処理された部分と当該金属被覆体との間に間隔を設けて封止し、
上記金属被覆体は、少なくとも上記ターゲットに取り付ける大きさの金属体を有するカバーであって、該カバーの少なくとも該金属体が、該ターゲットの少なくとも上記表面処理された部分を封止し、
上記カバーは上記ターゲットの周辺部に係合する周縁部を有することを特徴とするターゲットの表面処理方法。
【請求項2】
上記金属被覆体及び上記ターゲットをプラスチック被覆体に封止するステップを有することを特徴とする請求項1記載のターゲットの表面処理方法。
【請求項3】
上記プラスチック被覆体を排気するステップを有することを特徴とする請求項2記載のターゲットの表面処理方法。
【請求項4】
上記プラスチック被覆体に乾燥剤を入れるステップを有することを特徴とする請求項2記載のターゲットの表面処理方法。
【請求項5】
上記プラスチック被覆体を排気するステップを有することを特徴とする請求項4記載のターゲットの表面処理方法。
【請求項6】
上記非機械的な表面処理を施すステップは、イオン洗浄、イオンフライス加工、化学エッチング、スパッタリング、化学研磨、電解研磨、電解エッチング、レーザー切断、電子線切断、又はそれらの組み合わせのうちの1つによって、上記ターゲットの一部に表面処理を施すことを特徴とする請求項1記載のターゲットの表面処理方法。
【請求項7】
上記非機械的な表面処理を施すステップは、イオン洗浄からなることを特徴とする請求項6記載のターゲットの表面処理方法。
【請求項8】
上記金属被覆体は、金属コーティングが被覆された非金属コアからなることを特徴とする請求項1記載のターゲットの表面処理方法。
【請求項9】
上記非機械的な表面処理を施すステップは、イオン洗浄、イオンフライス加工、スパッタリング、化学エッチング、化学研磨、電解研磨、電解エッチング、レーザー切断、電子線切断、又はそれらの組み合わせのうちの1つによって、上記ターゲットの一部に表面処理を施すことを特徴とする請求項5記載のターゲットの表面処理方法。
【請求項10】
上記非機械的な表面処理を施すステップは、イオン洗浄からなることを特徴とする請求項9記載のターゲットの表面処理方法。
【請求項11】
上記ターゲットの少なくとも表面処理された部分に、不活性化コーティングを被覆するステップを有することを特徴とする請求項1記載のターゲットの表面処理方法。
【請求項12】
上記不活性化コーティングは、貴金属又は他の非酸化材料からなる被覆層であることを特徴とする請求項11記載のターゲットの表面処理方法。
【請求項13】
上記カバーは金属キャップからなることを特徴とする請求項1記載のターゲットの表面処理方法。
【請求項14】
上記非機械的な表面処理を施すステップは、上記ターゲット表面に存在する変形材料、スミアリング、双晶、バリを除去するのに有効であることを特徴とする請求項1記載のターゲットの表面処理方法。
【請求項15】
ターゲットをスパッタリングする前の該ターゲットのバーンインに要する時間を短縮するターゲットアセンブリであって、
a)非機械的な表面処理が施された表面処理された部分を少なくとも有することによって、該表面処理された部分の不純物のうちの少なくとも1つが除去され、該表面処理された部分の表面積が小さくされたスパッタリングターゲットと、
b)上記スパッタリングターゲットの少なくとも上記表面処理された部分を封止する大きさであって、該ターゲットの少なくとも表面処理された部分を保護及び/又は隔離し、該スパッタリングターゲットの少なくとも該表面処理された部分が該スパッタリングターゲットを包含するように後で使用されるパッケージング被覆体から隔離され、上記バーンインに要する時間を短縮する金属被覆体とを備え、
上記金属被覆体は、上記ターゲットの表面処理された部分と当該金属被覆体との間に間隔を設けて封止し、
上記金属被覆体は、少なくとも金属体と周縁部とを有し、該周縁部が上記ターゲットの周辺部に係合して、少なくとも該金属体が少なくとも上記表面処理された部分を封止する大きさのカバーであることを特徴とするターゲットアセンブリ。
【請求項16】
上記パッケージング被覆体は、上記金属被覆体と上記ターゲットを包含するプラスチック被覆体からなることを特徴とする請求項15記載のターゲットアセンブリ。
【請求項17】
上記パッケージング被覆体は、上記金属被覆体と上記ターゲットを包含する真空プラスチック被覆体からなることを特徴とする請求項15記載のターゲットアセンブリ。
【請求項18】
上記真空プラスチック被覆体は二重バッグであることを特徴とする請求項17記載のターゲットアセンブリ。
【請求項19】
上記プラスチック被覆体内に乾燥剤が入れられたことを特徴とする請求項16記載のターゲットアセンブリ。
【請求項20】
上記金属被覆体は、少なくとも上記ターゲットに取り付ける大きさの金属体を有するカバーであって、少なくとも該カバーの該金属体が、少なくとも上記表面処理された部分を封止することを特徴とする請求項15記載のターゲットアセンブリ。

【請求項21】
上記パッケージング被覆体は、上記カバーと上記ターゲットを包含するプラスチック被覆体からなることを特徴とする請求項20記載のターゲットアセンブリ。
【請求項22】
上記プラスチック被覆体は、内部に乾燥剤が入れられた真空二重バッグであることを特徴とする請求項21記載のターゲットアセンブリ。
【請求項23】
上記カバーは金属キャップであることを特徴とする請求項15記載のターゲットアセンブリ。
【請求項24】
上記表面処理された部分はバリヤ層を有することを特徴とする請求項15記載のターゲットアセンブリ。
【請求項25】
上記バリヤ層は貴金属又は他の非酸化材料からなることを特徴とする請求項24記載のターゲットアセンブリ。
【請求項26】
上記表面処理された部分は、変形材料、スミアリング、双晶又はバリがないことを特徴とする請求項15記載のターゲットアセンブリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−189768(P2010−189768A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100806(P2010−100806)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【分割の表示】特願平10−548290の分割
【原出願日】平成10年5月4日(1998.5.4)
【出願人】(510116439)マテリアル リサーチ コーポレーション (1)
【出願人】(510116750)インテル コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】