説明

スパッタリング装置

【課題】ターゲット交換に伴う非稼動時間を短縮する。
【解決手段】スパッタリングターゲットと成膜のための基板とが配置される成膜室を有したスパッタリング装置において、退避位置から作用位置へ移動することにより成膜室を互いの間が気密な2つの空間に区画し、かつ作用位置から退避位置へ移動することにより成膜室の区画を解除する可動の仕切りを設け、作用位置を成膜室における基板の配置される領域とスパッタリングターゲットの配置される領域との間の位置とし、区画された2つの空間のうちの基板が配置される領域を含む一方の空間を真空に保った状態でのターゲット交換が可能な構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板上に薄膜を形成するスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネルや液晶ディスプレイといったフラットパネルディスプレイの製造には、対角2メートルを超える大型の基板への成膜が可能なスパッタリング装置が用いられる。この種のスパッタリング装置は、大型基板の搬送に適したいわゆる縦型であり、鉛直方向に沿うように直立配置された基板に対して成膜する。成膜材料であるスパッタリングターゲットも基板と同様に成膜室内に直立配置されて基板と対向する。
【0003】
特許文献1には、スパッタリングターゲットを交換するメンテナンスの作業性に優れたインライン形式の縦型スパッタリング装置が開示されている。この装置では、スパッタリングターゲットの支持体であるスパッタリングカソードがその下端縁に沿った水平方向の軸周りに開閉する扉構造とされている。スパッタリングカソードを開くことによって、スパッタリングターゲットを水平に配置することができる。また、特許文献2には、ターゲット交換に際してスパッタリングターゲットを水平に配置することが可能な枚葉形式の縦型スパッタリング装置が開示されている。
【特許文献1】特公平6−76661号公報
【特許文献2】特開2003−328120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のスパッタリング装置では、ロードロック構成の採用により基板の搬入出に際して成膜室を真空に保つことができるものの、スパッタリングターゲットの交換に際しては成膜室を環境雰囲気(一般に大気)に暴露しなければならなかった。すなわち、上述のスパッタリングカソードを開くことによって成膜室が大気に開放されてしまう。したがって、ターゲット交換を終えた後に、成膜室を清浄化する加熱真空排気を長時間にわたって行う必要があった。この清浄化により装置の稼動率が大幅に低下する。
【0005】
また、交換後にターゲット表面を安定した成膜に適した状態とするために、ダミー基板に対して成膜する必要があった。ダミー基板と正式に成膜する基板とを区別しなければならず、このような区別はスパッタリング装置を使用する成膜工程の管理を複雑にする。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、ターゲット交換に伴う非稼動時間の短縮を目的としている。他の目的はダミー基板への成膜を不要にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するスパッタリング装置は、スパッタリングターゲットと成膜のための基板とが配置される成膜室を有し、退避位置から作用位置へ移動することにより前記成膜室を互いの間が気密な2つの空間に区画し、かつ前記作用位置から前記退避位置へ移動することにより前記成膜室の区画を解除する可動の仕切りを備える。前記作用位置は前記成膜室における前記基板の配置される領域と前記スパッタリングターゲットの配置される領域との間の位置である。当該スパッタリング装置においては、区画された前記2つの空間のうちの前記基板が配置される領域を含む一方の空間を真空に保った状態でのターゲット交換が可能である。
【0008】
仕切りによる区画に成膜室のうちでターゲット交換に際して大気に晒されるのは一部のみに限定されるので、全体が晒される場合と比べて、ターゲット交換後の清浄化の必要な空間が狭い。したがって、比較的に短時間で清浄化を終えることができる。清浄の所要時間を短縮する上で、成膜室のうちの大気に晒される部分をより狭くするのが望ましい。また、不純物の残留が膜質に与える影響をより小さくする上で、作用位置を基板の配置される位置からより遠ざけるのが望ましい。
【0009】
好ましい態様において、前記仕切りにおける前記スパッタリングターゲットの配置される領域の側の表面はターゲット粒子が付着する材料からなる。ターゲット交換後に前記仕切りで成膜室を区画した状態でスパッタリングを行うことにより、ダミー基板への成膜によらずに、ターゲット表面を安定な成膜に適して状態とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ターゲット交換に伴う非稼動時間を短縮することができる。また、スパッタリングターゲットのエージングのためのダミー基板が不要になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1(A)および(B)に模式的に示されるように、本発明の実施形態に係るスパッタリング装置1は、成膜対象の基板5,6が直立させまたはそれに近い姿勢で順に搬入される縦型の成膜チャンバ10を備える。縦型は基板における自重による撓みが生じにくいので、特に大型基板への成膜に適している。例えば、フラットパネルディスプレイの量産で使用されるマザー基板は画面サイズの数倍の大きさをもつ。例示のスパッタリング装置1は、対角50インチの画面の3個分に対応する約2m×1.2mの大きさのマザー基板への成膜が可能に構成されている。
【0012】
成膜チャンバ10は、基板5,6を収容する本体部21とスパッタリングターゲット31が取り付けられる扉部22とからなる。扉部22は図1(B)のように下端縁に沿う軸の周りに回動可能に構成されている。図1(A)において扉部22は閉じており、所定のシール部材を介在させて本体部21と扉部22とが密着している。気密性を高めるため、扉部22は本体部21にねじ止めされる。図1(B)では扉部22が開いた状態が描かれており、この状態においてスパッタリングターゲット31は水平に配置される。水平配置は、吊り上げ運搬を含むターゲット交換の作業性および安全性に優れる。
【0013】
スパッタリング装置1の特徴は、成膜チャンバ10の内部である成膜室を一時的に区画するための可動の仕切り40を備えることである。図1(A)に示すとおり、成膜時において仕切り40は成膜室の外である退避位置に配置される。仕切り40がその機能を奏するのは、図1(B)に示すように作用位置に配置されたときである。仕切り30が退避位置から作用位置に移動すると、扉部22が開いたときに生じる本体部21の開口を塞ぐように成膜室が区画される。すなわち、本体部21の内部空間とその扉部22の側の空間とが分離される。これにより、扉部22が開いた状態においても本体部21の内部空間を真空に保つことができ、本体部21の内部を大気に開放することなくターゲット交換をすることができる。
【0014】
仕切り40の移動は図示しない駆動機構により行われる。駆動機構は、例えば複数のローラと軸シールを介してローラに連結された駆動源とで構成される。スライドガイドと圧力シリンダとで構成することもできる。
【0015】
以上の構成のスパッタリング装置1は、図2に示すようにインライン形式の成膜システム100に組み込まれる。成膜システム100は、同一構成の複数の成膜チャンバ10,11、複数の連結チャンバ15,16,17、および図示しない他のチャンバやゲートバルブなどから構成される。他のチャンバには、ロードロックチャンバ、アンロードロックチャンバ、加熱チャンバなどが含まれる。成膜システム100では、連結チャンバ15,16,17に真空排気系が接続されており、連結チャンバ15,16,17を介して成膜チャンバ10,11の成膜室50に対する真空排気が行われる。また、連結チャンバ15,16,17は、成膜室50を一時的に区画する上述の仕切り40の退避に用いられる。
【0016】
成膜に先立って、成膜室50は10−5Pa程度の真空とされる。その後、アルゴンに代表されるガスが導入された数Pa程度の成膜室50でスパッタリングが開始される。基板4,5,6,7,8は図の右から左へ1〜2m/分程度の一定速度で搬送される。
【0017】
成膜チャンバ10,11にそれぞれ配置されるスパッタリングターゲット31,32の材質および成膜チャンバ10,11の数は、成膜する膜の構成に応じて選択される。例えば、プラズマディスプレイパネルの電極となるCr(50nm)−Cu(3μm)−Cr(100nm)の3層膜を形成する場合であれば、下層のCr成膜に1台、Cu成膜に2台、上層のCr成膜に2台の計6台の成膜チャンバを連ねる。下層および上層のCr成膜レートを同一とし、Cu成膜レートをCr成膜レートの10倍とする。これにより、一定速度の搬送で所望の膜を得ることができる。膜厚に応じてチャンバ数を設定し、同じ材質の膜の成膜レートを同一にすることにより、量産における膜厚のばらつきを低減することができる。成膜レートを調整するには、例えば印加電圧を増減すればよい。
【0018】
以下、仕切り40の機能をさらに説明する。仕切り40は上述のように成膜時には退避位置に在り、ターゲット交換のために扉部22を開くときに、それに先立って作用位置に配置される。図3(A)〜(C)において、仕切り40は作用位置に在る。作用位置は成膜室50における基板の配置される領域とスパッタリングターゲット31の配置される領域との間の位置である。仕切り40が作用位置に在ってかつ扉部22が閉じているとき、成膜室50は互いの間が気密な第1の空間51と第2の空間52とに区画される。第1の空間51は基板が配置される領域を含み、第2の空間52はスパッタリングターゲット31の配置される領域を含む。
【0019】
ターゲット交換に際しては、リーク弁の操作によって第2の空間52を大気に開放し、その後に図3(B)のように扉部22を開く。このとき、第1の空間51の真空状態は仕切り40によって保たれる。なお、図示のように扉部22におけるスパッタリングターゲット31の周囲にはガス導入孔60が設けられている。
【0020】
ターゲット交換が終わると扉部22が閉じられ、第2の空間52が減圧可能になる。仕切り40をそのままにして第2の空間52を所定の真空にし、ガスを導入してプリスパッタリングを行う。プリスパッタリングは、交換直後のスパッタリングターゲット31の表面状態を良好にするエージングのために行う。プリスパッタリングを効率的に行いまた排気系の負担を軽減する上で、プリスパッタリングで生じたターゲット粒子を何らかの部材に吸着させるのが望ましい。仕切り40はプリスパッタリングにおいてターゲット粒子を付着させるダミー成膜面として利用される。このため、仕切り40の少なくともターゲット側の表面をターゲット粒子の付着しやすい材料で構成するのが望ましい。例えばステンレス板を仕切り40とすればよい。
【0021】
以上の実施形態において、スパッタリング装置1および成膜システム100の構成は図示の例に限らない。第1および第2の空間51、52を個別に真空制御できる構成であれば、排気系の接続位置を含む装置構造を本発明に沿った範囲内で適宜変更することができる。成膜システム100において各チャンバ間にバルブを配置してもよい。インライン形式にも枚葉形式にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係るスパッタリング装置の構成の模式図である。
【図2】スパッタリング装置を含む成膜システムの構成例を示す図である。
【図3】スパッタリング装置における仕切りの機能を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 スパッタリング装置であって、
31 スパッタリングターゲット
5 基板
40 仕切り
50 成膜室
51,52 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングターゲットと成膜のための基板とが配置される成膜室を有したスパッタリング装置であって、
退避位置から作用位置へ移動することにより前記成膜室を互いの間が気密な2つの空間に区画し、かつ前記作用位置から前記退避位置へ移動することにより前記成膜室の区画を解除する可動の仕切りを備え、
前記作用位置は前記成膜室における前記基板の配置される領域と前記スパッタリングターゲットの配置される領域との間の位置であり、
区画された前記2つの空間のうちの前記基板が配置される領域を含む一方の空間を真空に保った状態でのターゲット交換が可能に構成された
ことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記仕切りにおける前記スパッタリングターゲットの配置される領域の側の表面は、ターゲット粒子が付着する材料からなる
請求項1に記載のスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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