説明

スパッタリング装置

【課題】種々の形状と材質とを有する被処理物の全表面に種々の材料による薄膜を好ましく形成する安価で作業性に優れたスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】真空容器1内には被処理物3を収納するバレル5と、ターゲット表面を有するスパッタリングカソード7とを配設し、該バレルに回転と進退と揺動とを組み合わせた動きを与えることにより、該バレル内の被処理物を転動、混合させ、以て該被処理物の全表面にターゲット材の成膜を行うようにしたことを特徴とするスパッタリング装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物の表面に薄膜を形成するためのスパッタリング装置に関するものである。被処理物の表面に薄膜を形成するめっきは、一般に、湿式めっきと乾式めっきとに分類されるが、本発明によるスパッタリング装置は、乾式めっきに属する。
【0002】
本発明における被処理物は、一辺の内側寸法が10μm〜10mm程度の立方体容器中に収納し得る大きさの金属、合成樹脂、セラミックス等により形成されたものとするが、球体、円柱体、円錐体、直方体、角錐体等その形状の如何を問わない。本発明における被処理物には、例えば装飾品、ねじ、ピン、機械部品等が含まれる。
【背景技術】
【0003】
特許第3620842号公報は、ターゲットを内設した内部形状が多角形の真空容器内に微粒子を収容し、該真空容器を回転ないし振動させることにより該微粒子の表面に薄膜を形成するようにした多角バレルスパッタ装置(以下「従来のスパッタリング装置」という。)を提供している。
【0004】
一方、湿式めっきにおけるガラめっき装置も知られている。ガラめっき装置は、細かなワークを容器中に収納した状態で該容器を回転、振動、揺動等させるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3620842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、上記従来のスパッタリング装置においては、微粒子の表面に薄膜が形成される時間の大部分の間、該微粒子は多角形状の真空容器内における水平面上に存在する。したがって、該微粒子の全表面に薄膜を形成するためには、該微粒子の全表面を成膜粒子の飛来方向に平等に向ける必要がある。換言すれば、上記従来のスパッタリング装置においては、微粒子の全表面に薄膜を形成するためには、複数のカソードに複数のターゲットを備えさせた多元スパッタにより薄膜を成膜しなければならないことになる。しかして、複数のカソードを真空容器内に配設するためには、大型の真空容器が必要になる。その結果、大容量の真空ポンプが必要になると共に、装置全体が大型化、複雑化し、製造コスト及び運転費用が嵩むという問題が生ずる。
【0007】
一方、上記従来のガラめっき装置は、複雑な形状を有するワークの表面に均一な皮膜を形成することができるものではあるが、洗浄、乾燥等の後工程が必須であり、イオン化した溶液になる皮膜材料が必要であり、更に化合物、合金、絶縁物等の成膜が困難である等の問題がある。また、乾式で上記従来のガラめっきに相当する方法で化合物、合金、絶縁物等の成膜を行おうとする技術は未だ歴史が浅く、工業的には未完成の域を出ないものである。
【0008】
本発明は、上記従来の技術における上述の如き問題を解決し、種々の形状と材質とを有する被処理物の全表面に種々の材料による薄膜を好ましく形成する安価で作業性に優れたスパッタリング装置を提供しようとしてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、下記のスパッタリング装置を提供するものである。
【0010】
(1)真空容器内には被処理物を収納するバレルと、ターゲット表面を有するスパッタリングカソードとを配設し、該バレルに回転と進退と揺動とを組み合わせた動きを与えることにより、該バレル内の被処理物を転動、混合させ、以て該被処理物の全表面にターゲット材の成膜を行うようにしたことを特徴とするスパッタリング装置(請求項1)。
【0011】
(2)前記真空容器には該真空容器内の真空を維持した状態で該真空容器を内外に貫く回転軸を配設し、該回転軸の内側端を前記バレルに連結し、該回転軸を回転させる手段と、該回転軸を進退させる手段と、該回転軸を揺動させる手段とを配設する(請求項2)。
【0012】
(3)前記バレルは、全部又は一部を多孔体により形成する(請求項3)。
【0013】
(4)前記バレルにおける前記スパッタリングカソードに臨む側を開口して開口部となし、該開口部に多孔体により形成した蓋を着脱自在に備えさせる(請求項4)。
【0014】
(5)前記真空容器内には前記バレルを複数配設し、前記回転軸における内側端に太陽歯車を取り付け、該太陽歯車に複数の遊星歯車を歯合させ、各遊星歯車を各バレルに連結する(請求項5)。
【発明の効果】
【0015】
[請求項1の発明]
請求項1の発明によれば、被処理物を収納するバレルに回転と進退と揺動とを組み合わせた動きを与えることにより、該バレル内の被処理物を転動、混合させるようにしたため、種々の形状と材質とを有する被処理物の全表面に種々の材料による薄膜を好ましく形成することができる。被処理物を吊り下げ若しくは係止することも不要である。したがって、このスパッタリング装置は、安価に提供することができると共に作業性にも優れている。
【0016】
このスパッタリング装置は、被処理物を収納するバレルに回転、進退、揺動等の動きを与えるという点においては、上記従来のガラめっき装置に近いものではあるが、スパッタリング装置であるため、上述した従来のガラめっき装置における諸問題は生じない。
【0017】
このスパッタリング装置は、スパッタリング法を用いているため、ほとんどのターゲット種類のめっきが可能である。すなわち、湿式めっきでは不可能とされるチタンめっき、タングステンめっき、アルミめっき等の他、金とアルミとの合金めっき、タングステンとクロムとの合金めっき、チタンとニッケルとの合金めっき等の2元合金、更には、ターゲットの数により3元合金、4元合金のめっきも可能である。なお、湿式めっきにより行われているニッケル、クロム、銅、スズ、亜鉛、金、銀、イリジウム、ロジウム、パラジウム等のめっき処理が可能であることはいうまでもない。
【0018】
また、スパッタリング装置は、金属塩等の溶液を用いないため、酸化物、酸化ケイ素、アルミナ、酸化チタンのめっきも可能である。更に、これを2層、3層等の多層にめっきすることも可能である。
【0019】
[請求項2の発明]
回転軸を回転させる手段と、該回転軸を進退させる手段と、該回転軸を揺動させる手段とを組み合わせて作動させることにより、バレル内の被処理物を転動、混合させ、以て該被処理物の全表面にターゲット材の成膜を好ましく行うことができる。
【0020】
[請求項3の発明]
バレルは、全部又は一部を多孔体により形成しているため、成膜材料は該多孔体の孔部を好ましく通過し、被処理物の表面に至る。
【0021】
[請求項4の発明]
バレルにおけるスパッタリングカソードに臨む側を開口して開口部となし、該開口部に多孔体により形成した蓋を着脱自在に備えさせたため、該蓋は、成膜材料を好ましく通過させると共に、該開口部から被処理物が落下することを防止する。
【0022】
[請求項5の発明]
太陽歯車に歯合する遊星歯車は、自転しつつ、太陽歯車の周りを公転する。すなわち、各遊星歯車に連結された各バレルは、遊星運動を行う。したがって、各バレルは、進退及び揺動と相俟って複雑な動きを行い、該バレル内の被処理物は好ましく転動、混合する。
【0023】
複数のバレルにそれぞれ異なるロットの被処理物を収納し、これらの被処理物を同一の成膜条件で成膜することができる。すなわち、少量多品種の同時成膜を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明によるスパッタリング装置の一例を示す断面図である。
【図2】図2は、同上スパッタリング装置において、バレルを揺動させている状態を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明によるスパッタリング装置の別の一例を示す断面図である。
【図4】図4は、同上スパッタリング装置において、バレルを揺動させている状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、図1、図2に示す事例について説明する。
【0026】
符号1に示すものは、スパッタリング装置の真空容器である。真空容器1内は、真空排気系(図示せず。)により真空成膜に必要な圧力まで排気する。
【0027】
真空容器1内には、被処理物3を収納するバレル5と、ターゲット表面を有するスパッタリングカソード7とを配設する。バレル5は該スパッタリングカソード7に臨む側を開口して開口部5aとなす。スパッタリングカソード7は好ましくは複数個配設し、各スパッタリングカソード7に印加するパワーを各別に制御することにより、各スパッタリングカソード7に装着されたターゲット材の任意組成の合金、化合物等を成膜することができる。なお、スパッタリングカソード7は、マグネトロンカソードのみならず、非マグネトロン(コンベンショナル)カソード、アークカソード等、成膜材料に適したカソードを用いることができる。
【0028】
真空容器1内には、レフレクタ9とヒータ11とを配設する。ヒータ11は、バレル5内の被処理物3を加熱するものであり、該ヒータ11により、成膜時にバレル5とバレル5内の被処理物3との温度を制御することができる。
【0029】
バレル5に回転と進退と揺動とを組み合わせた動きを与えることにより、該バレル5内の被処理物3を転動、混合させ、以て該被処理物3の全表面にターゲット材の成膜を行う。
【0030】
すなわち、真空容器1には該真空容器1内の真空を維持した状態で該真空容器1を内外に貫く回転軸13を配設する。該回転軸13の内側端13aをバレル5に着脱自在に連結し、該回転軸13を回転させる手段と、該回転軸13を進退させる手段と、該回転軸13を揺動させる手段とを配設する。
【0031】
真空容器1は、該真空容器1内の真空を維持した状態で、すなわち、該真空容器1内の真空を破ることなく、回転軸13の回転を導入することができる回転導入シール15と、該真空容器1内の真空を維持した状態で、すなわち、該真空容器1内の真空を破ることなく、回転軸13の進退と揺動とを導入することができるベローズ17を備えている。
【0032】
回転軸13を回転させる手段として、駆動機構フランジ19に絶縁スタッド21を介して回転駆動モータ23が取り付けられている。前記回転導入シール15は、絶縁ブッシュ25により駆動機構フランジ19とは電気的に絶縁され、絶縁カプリング27により回転駆動モータ23とも電気的に絶縁されている。したがって、バレル5を通して該バレル5内の被処理物3にバイアス電界を印加することができる。
【0033】
回転軸13を進退させる手段及び該回転軸13を揺動させる手段として、複数のリニアアクチュエータ29における一端29aを真空容器1に固定し、他端29bをピボット31を介して駆動機構フランジ19に枢着している。リニアアクチュエータ29は、上下に一対のみが図示されているが、各図の手前側と奥側とに別の一対(図示せず。)を配設してもよい。
【0034】
各リニアアクチュエータ29を同時に同方向に同距離作動させたときには、回転軸13が進退し、該回転軸13の内側端13aに連結されたバレル5も進退する。また、各リニアアクチュエータ29を各別に作動させたときには、バレル5は所望の方向に揺動する。
【0035】
したがって、回転駆動モータ23を回転させると共に、各リニアアクチュエータ29を制御することにより、バレル5に回転と進退と揺動とを組み合わせた動きを与えることができる。バレル5内の被処理物3は、このようなバレル5の動きにより、効率良く攪拌される。バレル5を高速で進退させることにより、被処理物3を回転軸13の前後方向にいわば豆煎りの如き運動をさせることができる。バレル5を揺動させることにより、被処理物3の攪拌効率は上昇する。
【0036】
被処理物3の形状等により、バレル5の回転数、進退速度、揺動角度等を適宜変更することにより、被処理物3の攪拌効率は一層向上する。
【0037】
バレル5は、好ましくは、全部又は一部を多孔体33により形成する。多孔体33は網状体を含む。多孔体33における孔ないしメッシュの大きさは、被処理物3の形状ないし寸法により異なる。
【0038】
バレルにおける前記開口部5aには、好ましくは、多孔体33により形成した蓋35を着脱自在に備えさせる。
【0039】
次に、図3、図4に示す事例について説明する。図3、図4に示す事例については、前記図1、図2に示す事例との相違点についてのみ説明する。
【0040】
真空容器1内には前記バレル5を複数配設し、前記回転軸13における内側端13a’に太陽歯車41を取り付け、該太陽歯車41に複数の遊星歯車43を歯合させ、各遊星歯車43を各バレル5に連結する。
【0041】
符号45に示すものは太陽歯車固定フランジであり、符号47に示すものは太陽歯車固定フランジ45に取り付けられた太陽歯車固定フランジ取り付けカラーである。太陽歯車固定フランジ取り付けカラー47は、回転導入シール15に外嵌される。各遊星歯車43の回転軸49は、公転フランジ51に回転自在に支持されると共に、各バレル5に連結される。
【0042】
回転駆動モータ23が回転すると、回転軸13を介して太陽歯車41が回転し、該太陽歯車41に歯合する複数の遊星歯車43が該太陽歯車41の周囲を公転する。したがって、各バレル5は、自転しつつ公転するいわゆる遊星回転(自公転)動作を行う。
【符号の説明】
【0043】
1 真空容器
3 被処理物
5 バレル
5a 開口部
7 スパッタリングカソード
9 レフレクタ
11 ヒータ
13 回転軸
13a 内側端
13a’ 内側端
15 回転導入シール
17 ベローズ
19 駆動機構フランジ
21 絶縁スタッド
23 回転駆動モータ
25 絶縁ブッシュ
27 絶縁カプリング
29 リニアアクチュエータ
29a 一端
29b 他端
31 ピボット
33 多孔体
35 蓋
41 太陽歯車
43 遊星歯車
45 太陽歯車固定フランジ
47 太陽歯車固定フランジ取り付けカラー
49 回転軸
51 公転フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内には被処理物を収納するバレルと、ターゲット表面を有するスパッタリングカソードとを配設し、該バレルに回転と進退と揺動とを組み合わせた動きを与えることにより、該バレル内の被処理物を転動、混合させ、以て該被処理物の全表面にターゲット材の成膜を行うようにしたことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記真空容器には該真空容器内の真空を維持した状態で該真空容器を内外に貫く回転軸を配設し、該回転軸の内側端を前記バレルに連結し、該回転軸を回転させる手段と、該回転軸を進退させる手段と、該回転軸を揺動させる手段とを配設したことを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記バレルは、全部又は一部を多孔体により形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記バレルにおける前記スパッタリングカソードに臨む側を開口して開口部となし、該開口部に多孔体により形成した蓋を着脱自在に備えさせたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記真空容器内には前記バレルを複数配設し、前記回転軸における内側端に太陽歯車を取り付け、該太陽歯車に複数の遊星歯車を歯合させ、各遊星歯車を各バレルに連結したことを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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