説明

スパッタ装置

【課題】この発明は、基板上の膜厚分布を向上させる新しい構成を有するスパッタ装置を提供する。
【解決手段】この発明は、真空容器と、該真空容器内に配置される基板ホルダーと、該基板ホルダー上に載置された基板に対してスパッタを行うターゲットを有する複数のスパッタリングカソードを具備するスパッタ装置において、前記複数のスパッタリングカソードは、それぞれのスパッタリングカソードに装着されるターゲットの中心軸が、前記基板ホルダーに載置される基板の中心軸に対して、所定の角度で傾斜するように配設されると共に、該複数のスパッタリングカソードによって構成されるスパッタリングカソードユニットが、前記真空容器に対して前記基板の中心軸を中心として回転自在に保持されることにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に薄膜を形成するためのターゲットを有する複数のスパッタリングカソードを有し、前記ターゲットに対してイオン化した気体を衝突させてターゲットの原子又は分子を叩き出し、これらの原子又は分子を前記基板に付着させて薄膜を形成するスパッタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、別個のカソードに取り付けられた複数のターゲットと、成膜すべき円形の基板をその中心周りに自転させる基板回転装置を有し、前記複数のターゲットは前記基板の表面に対して平行であると共に、前記複数のターゲットの中心は前記基板の中心とずれており、複数のターゲットのそれぞれについて、ターゲットの表面の中心と前記基板の表面の中心とを結ぶ線分と基板の表面の法線とのなす角度が40度以上であるスパッタリング装置を開示する。
【0003】
特許文献2は、互いに対向する回転基板と成膜源とを有する薄膜の成膜装置であって、前記基板上に成膜される薄膜の成膜速度を規制する成膜速度規制部材と、前記基板上に成膜される薄膜の膜厚を補正する膜厚補正部材とを、前記基板と成膜源との間にそれぞれ挿脱自在に設けるものにおいて、前記回転基板の半径に沿った複数の計測点で前記薄膜の膜厚を計測する膜厚計測手段を設け、前記狭く速度規制部材に、前記回転基板の半径に沿って傾斜した成膜速度勾配を生じさせる開口部と該開口部の開土を増減可能とする開閉シャッタとを設け、前記膜厚補正部材として前記基板上の薄膜を遮蔽する可動シャッタを用いることを特徴とする成膜装置を開示する。
【0004】
特許文献3は、本出願人によってなされたもので、基板と、該基板を保持する基板ホルダと、前記基板に薄膜を形成するためのターゲットと、該ターゲットが搭載されるスパッタカソードと、前記ターゲットの背面に排されるマグネットとによって少なくとも構成され、前記ターゲットの軸を、前記スパッタカソードの軸に対して傾斜させると共に、前記スパッタカソードを自転させ、前記ターゲットを前記基板に対して揺動運動させるスパッタ装置を開示する。
【特許文献1】特開2002−20864号公報
【特許文献2】特開2003−166055号公報
【特許文献3】特開2004−339547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献から明らかなように、従来から基板上の膜厚分布をいかにして向上させるかが大きな課題となっており、このためにいろいろな工夫がなされてきた。
【0006】
このため、この発明は、基板上の膜厚分布を向上させる新しい構成を有するスパッタ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、この発明は、真空容器と、該真空容器内に配置される基板ホルダーと、該基板ホルダー上に載置された基板に対してスパッタを行うターゲットを有する複数のスパッタリングカソードを具備するスパッタ装置において、前記複数のスパッタリングカソードは、それぞれのスパッタリングカソードに装着されるターゲットの中心軸が、前記基板ホルダーに載置される基板の中心軸に対して、所定の角度で傾斜するように配設されると共に、該複数のスパッタリングカソードによって構成されるスパッタリングカソードユニットが、前記真空容器に対して前記基板の中心軸を中心として回転自在に保持されることにある。尚、前記ターゲットの背面には、ターゲットに対して磁界を発生させるマグネットが配されるものである。
【0008】
また、前記それぞれのスパッタリングカソードには、前記ターゲットの前方に前記ターゲットの中心軸に沿って所定の長さ延出するフード部が設けられ、該フード部の開口端部には、該開口端部を所定の範囲で閉塞する分布修正手段が設けられることが望ましい。
【0009】
さらに、前記分布修正手段は、前記ターゲットの直径の略1/2の直径を有する円形金属プレートと、該円形金属プレートを支持する支持部とによって構成されると共に、前記基板の中心軸側に位置する部分に切り欠き部を有することにある。
【0010】
さらにまた、前記分布修正手段は、前記ターゲットの直径の略1/2の直径を有する底面を有すると共に前記ターゲットの中心軸に沿って所定の長さ延出する円柱部と、該円周部を支持する支持部とによって構成されることが望ましい。
【0011】
また、前記フード部は、前記ターゲットの直径の略1.5倍の直径を有する開口端部と、前記ターゲットの直径と略等しい長さを有することが望ましい。
【0012】
さらに、前記それぞれのスパッタリングカソードは、前記ターゲットの中心軸が、前記基板ホルダーに載置される基板の中心軸に対して、最大45度で傾斜することが望ましい。特に傾斜範囲としては、15度〜45度の範囲内であることが望ましい。
【0013】
さらにまた、前記ターゲットの中心軸に沿った前記ターゲットと前記基板の距離は、前記ターゲットの直径の略3倍から4倍の範囲内であることが望ましい。
【0014】
また、前記基板ホルダーに保持された基板は、それぞれのターゲットの中心軸が交差する交点とずれた位置に配されることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上の構成により、複数のスパッタリングカソードが基板の略中心位置に向かって配設されるスパッタリングカソードユニットが基板の中心軸を中心として自転可能であることから、各ターゲットを順にスパッタすることが可能であり、これによって膜厚分布を向上させることができるという効果を奏する。
【0016】
また、各ターゲットを同時にスパッタすることも可能であり、これによって膜厚方向に合金度合いの良い合金薄膜を形成することができるという効果を奏する。
【0017】
さらに、分布修正手段を、前記スパッタリングカソードの開口端部に設けることによって、開口端部中心部分のスパッタ粒子を制限することができるので、膜厚分布をさらに向上させることができるものである。
【0018】
また、分布修正手段を、前記ターゲットの直径の略1/2の直径を有する円形金属プレートと、該円形金属プレートを支持する支持部とによって構成すると共に、前記基板の中心軸側に位置する部分に切り欠き部を設けることによって、傾斜するスパッタリングカソードの基板中心軸側のスパッタ粒子を増大させることができるので、基板全体の膜厚分布を向上させることができる。
【0019】
さらに、分布修正手段を、前記ターゲットの直径の略1/2の直径を有する底面を有すると共に前記ターゲットの中心軸に沿って所定の長さ延出する円柱部と、該円周部を支持する支持部とによって構成することによって、傾斜するスパッタリングカソードユニットの膜厚の厚い部分を平滑にすることができるので、基板全体の膜厚分布を改善することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、この発明の実施例ついて図面により説明する。
【実施例1】
【0021】
図1に示されるスパッタ装置1は、スパッタ空間3を画成する真空容器2と、前記スパッタ空間3内に基板5を保持する基板ホルダー4と、前記真空容器2に回転自在に保持されるスパッタリングカソードユニット60と、このスパッタリングカソードユニット60を回転させる駆動機構30とによって少なくとも構成される。
【0022】
スパッタリングカソードユニット60は、前記真空容器2にOリング等によって密閉性が保持された状態で回転自在に装着されるカソードブロック6と、このカソードブロック6内に配された複数のスパッタリングカソード10とによって構成される。さらに、このカソードブロック6には、前記基板5に対峙するように、スパッタ粒子の放射孔14がそれぞれのスパッタリングカソード10に対応して形成され、この放射孔14の周囲は、フード部13として定義される。また、前記カソードブロック6内に図示された40は、下記するカソードベースを冷却するための冷却水を導入/排出する配管であり、50はカソード電力ケーブルである。また、スパッタリングカソードユニット10は、電動モータ31、電動モータ31の回転軸に装着される駆動ギア32及び前記カソードブロック6の軸周囲に形成された駆動ギア33によって構成される駆動機構30によって中心軸Ccを中心として回転するものである。
【0023】
前記スパッタリングカソード10は、カソードベース15と、このカソードベース15に囲設されると共に前記カソードベース15と前記カソードブロック6の間を絶縁する絶縁ブロック11と、前記カソードベース15に装着されるターゲット7と、このターゲット7の背面に配され、前記ターゲット7に対して磁界を発生させるマグネット12とによって構成される。
【0024】
また、それぞれのスパッタリングカソード10は、前記基板5側に延出する軸SPcを中心軸として、前記カソードブロック6に装着され、前記スパッタリングカソードユニット60は、前記基板5の中心Csを通過する軸Ccを中心軸として回転可能に設置される。尚、前記スパッタリングカソード10の中心軸Spcは、前記スパッタリングカソードユニット60及び基板5の中心軸Ccと交点Pcにおいて交差すると共に前記ターゲット7の中心Ptを通過する。さらに、前記放射孔14は前記中心軸SPcに沿って延出する。
【0025】
さらに、前記放射孔14の開口端部には、分布修正板20が配置される。この分布修正板20は、例えば、図2(a),(b)に示されるように、前記カソードブロック6に固定される固定部21と、この固定部21から延出する保持アーム部22と、この保持アーム部22に固定される分布修正プレート部23とによって構成される。また、分布修正プレート部23には、前記中心軸Cc側に所定の切欠部24が形成されるものである。
【0026】
尚、スパッタリングカソード10の中心軸SPcと、スパッタリングカソードユニット60の中心軸Ccのなす角度αは、45度以下、特には15度〜45度の範囲内である。
【0027】
また、前記中心軸SPcに沿った前記ターゲット7の中心Ptと前記基板5上の点Psとの間の距離Fは、前記ターゲット7の直径Dtの約3〜4倍に設定される(2.5Dt≦F<4.5Dt)。さらに、前記フード部13の長さLは、前記ターゲット7の直径Dtと略等しい長さに設定される(L≒Dt)。さらにまた、前記放射孔14の開口径Doは、前記ターゲット7の直径Dtの略1.5倍に設定される(Do≒1.5Dt)。
【0028】
さらに、前記基板ホルダー4は、搭載される基板5の位置が、前記交点Pcから所定値ずれた位置(この実施例では、所定値下方)になるように配置される。これによって、基板5の中心Cs近傍での膜厚の成長を抑制するものである。
【0029】
さらに、前記分布修正板20の分布修正プレート部23の直径Dpは、前記ターゲット7の径Dtの略1/2に設定される(Dp≒0.5Dt)。これらの数値限定に基づく配置によって最適な膜厚分布を達成できるものである。
【0030】
以上の構成のスパッタ装置1において、それぞれのスパッタカソード10に搭載されるターゲット7の種類を同一とし、前記基板5に対して順次スパッタするように図示しない電源、排気ポンプ及びガス供給機構、さらに駆動機構30を制御することによって、膜厚分布の良い薄膜を基板7上に形成できるものである。さらに、切欠部24を有する分布修正板20によって、図3に示すように、ターゲット7から遠い部分の膜厚の成長を増進することができるため、膜厚分布をさらに改善することができるものである。
【実施例2】
【0031】
以下、実施例2について説明するが、分布修正手段以外の構成については、実施例1と同様であるため、それらの記載については省略する。
【0032】
図4に示すように、実施例2に係る分布修正手段としての分布修正ブロック20Aは、例えば、図4(a),(b)に示されるように、前記カソードブロック6に固定される固定部21Aと、この固定部21Aから延出する保持アーム部22Aと、この保持アーム部22に固定される分布修正円筒部23Aとによって構成される。この分布修正円筒部23Aの底面の径DpAは、前記分布修正プレート部の径Dpと等しい。
【0033】
以上の構造を有する分布修正ブロック20Aによって、図5に示すように、中央部分の膜厚の成長を抑制できるので、基板5上の膜厚分布をさらに向上させることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本願発明の実施例1及び2に係るスパッタ装置の概略構成図である。
【図2】本願発明の実施例1に係る分布修正板の構成図で、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図3】本願発明の実施例1に係る分布修正板による膜厚分布を示した特性線図である。
【図4】本願発明の実施例2に係る分布修正ブロックの構成図で、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図5】本願発明の実施例2に係る分布修正ブロックによる膜厚分布を示した特性線図である。
【符号の説明】
【0035】
1 スパッタ装置
2 真空容器
3 真空空間
4 基板ホルダー
5 基板
6 カソードブロック
7 ターゲット
10 スパッタリングカソード
11 絶縁ブロック
12 マグネット
13 フード部
14 放射孔
15 カソードベース
20 分布修正板
20A 分布修正ブロック
30 駆動機構
31 電動モータ
32,33 駆動ギア
40 配管
50 カソード電力ケーブル
60 スパッタリングカソードユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、該真空容器内に配置される基板ホルダーと、該基板ホルダー上に載置された基板に対してスパッタを行うターゲットを有する複数のスパッタリングカソードを具備するスパッタ装置において、
前記複数のスパッタリングカソードは、それぞれのスパッタリングカソードに装着されるターゲットの中心軸が、前記基板ホルダーに載置される基板の中心軸に対して、所定の角度で傾斜するように配設されると共に、該複数のスパッタリングカソードによって構成されるスパッタリングカソードユニットが、前記真空容器に対して前記基板の中心軸を中心として回転自在に保持されることを特徴とするスパッタ装置。
【請求項2】
前記それぞれのスパッタリングカソードには、前記ターゲットの前方に前記ターゲットの中心軸に沿って所定の長さ延出するフード部が設けられ、該フード部の開口端部には、該開口端部を所定の範囲で閉塞する分布修正手段が設けられることを特徴とする請求項1記載のスパッタ装置。
【請求項3】
前記分布修正手段は、前記ターゲットの直径の略1/2の直径を有する円形金属プレートと、該円形金属プレートを支持する支持部とによって構成されると共に、前記基板の中心軸側に位置する部分に切り欠き部を有することを特徴とする請求項2記載のスパッタ装置。
【請求項4】
前記分布修正手段は、前記ターゲットの直径の略1/2の直径を有する底面を有すると共に前記ターゲットの中心軸に沿って所定の長さ延出する円柱部と、該円周部を支持する支持部とによって構成されることを特徴とする請求項2記載のスパッタ装置。
【請求項5】
前記フード部は、前記ターゲットの直径の略1.5倍の直径を有する開口端部と、前記ターゲットの直径と略等しい長さを有することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1つに記載のスパッタ装置。
【請求項6】
前記それぞれのスパッタリングカソードは、前記ターゲットの中心軸が、前記基板ホルダーに載置される基板の中心軸に対して、最大45度で傾斜することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のスパッタ装置。
【請求項7】
前記ターゲットの中心軸に沿った前記ターゲットと前記基板の距離は、前記ターゲットの直径の略3倍から4倍の範囲内であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載のスパッタ装置。
【請求項8】
前記基板ホルダーに保持された基板は、それぞれのターゲットの中心軸が交差する交点とずれた位置に配されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載のスパッタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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