説明

スパークプラグの製造方法

【課題】材料歩留まりが高く、設備メンテナンス性が良好であり、かつ、碍子の表面に出来栄えの良好な釉薬層を形成することができるスパークプラグの製造方法を提供すること。
【解決手段】釉薬ガラスと、保形性及び可塑性を付与する成分とを含有するシート状あるいはチューブ形状の釉薬フィルム4を準備する釉薬フィルム準備工程と、釉薬フィルム4を碍子2の釉薬形成領域に相当する外周面全周に密着させる貼付工程と、加熱することにより釉薬ガラスよりなる釉薬層を形成する焼成工程とを有する。貼付工程は、シート状の釉薬フィルム4を、上記碍子2の釉薬層形成領域に相当する外周面全周に巻回する巻付動作により行うことが好ましい。巻付動作において、釉薬フィルム4の端部同士が重複するように巻回することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパークプラグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スパークプラグの構成部である碍子の表面は、絶縁性、碍子強度の向上、及び外観見栄え向上を目的として、釉薬によってコーティングされている。
そして、従来の釉薬塗布技術には、ローラー式塗布、スプレー式塗布、ディップ式塗布がある(特許文献1)。
上記ローラー式塗布は、高速塗布が可能であり、低コストである等の利点があり、また、上記スプレー式塗布は、均一に釉薬を塗布することができる等の利点があり、また、上記ディップ式塗布は、品番切替に時間がかからない等の利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−39733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の3方式は、いずれも釉薬ガラスを水溶液化した釉薬スラリーを取り扱っており、粘度管理、設備清掃が必要となることから、生産設備のメンテナンス性が悪いという問題が生じている。
また、上記ローラー式塗布は、碍子の品番切替作業においてローラー位置の調整に時間を要するという問題や、塗布出来栄えがばらつくという問題がある。
【0005】
また、上記スプレー式塗布は、碍子の品番切替作業において冶具交換に時間を要し、更には設備内に釉薬が飛散するため、材料歩留まりが低い、設備の定期メンテナンスに時間を要するという問題が生じている。また、上記ディップ式塗布は、スプレー式塗布と同様に釉薬が飛散するため、材料歩留まりが低い、設備メンテナンスに時間を要する、更には塗布時間が長いという問題が生じている。また、釉薬が碍子の軸孔内に入り込むといった問題もある。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、材料歩留まりが高く、設備メンテナンス性が良好であり、かつ、碍子の表面に出来栄えの良好な釉薬層を形成することができるスパークプラグの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、釉薬ガラスと、保形性及び可塑性を付与する成分とを含有するシート状あるいはチューブ形状の釉薬フィルムを準備する釉薬フィルム準備工程と、
上記釉薬フィルムを碍子の釉薬形成領域に相当する外周面全周に密着させる貼付工程と、
加熱することにより上記釉薬ガラスよりなる釉薬層を形成する焼成工程とを有することを特徴とするスパークプラグの製造方法にある(請求項1)。
【0008】
本発明のスパークプラグの製造方法の注目すべき点は、上記釉薬フィルム準備工程において、釉薬層となる釉薬ガラスを含有すると共に予めフィルム状に成形した釉薬フィルムを準備することによって、貼付工程において用いる釉薬の形態を、従来の液状ではなく、シート状、あるいはチューブ形状のフィルム状にする点にある。
【0009】
すなわち、釉薬をフィルム状に成形しておくことにより、上記貼付工程においては、釉薬スラリーの飛散が発生しないため、材料歩留まりを高くすることができる。
また、液体を扱うこともないため、釉薬の粘度管理や設備の清掃が不要であり、また、設備メンテナンスに要する時間を短縮することができるため、設備信頼性、メンテナンス性の向上を図ることができる。
また、フィルム状の釉薬を貼り付けるため、碍子の軸孔内に釉薬が入り込むこともない。
【0010】
そして、このようにして得られるスパークプラグの碍子に形成される釉薬層は、均一な膜厚を有することができる。膜厚が均一であることにより、外観品質(見栄え)の向上、エンジン部品への勘合、密着性の向上を図ることができる。
【0011】
このように、本発明によれば、材料歩留まりが高く、設備メンテナンス性が良好であり、かつ、碍子の表面に出来栄えの良好な釉薬層を形成することができるスパークプラグの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1における、碍子を示す説明図。
【図2】実施例1における、スパークプラグの製造工程を示す説明図。
【図3】実施例1における、スパークプラグを示す説明図。
【図4】実施例1における、ローラー式塗布による施釉を示す説明図。
【図5】実施例1における、スプレー式塗布による施釉を示す説明図。
【図6】実施例1における、ディップ式塗布による施釉を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のスパークプラグの製造方法は、上述したように、上記釉薬フィルム準備工程と、上記貼付工程と、上記焼成工程とを有する。
そして、上記釉薬フィルム準備工程では、釉薬ガラスを含有すると共に、保形性及び可塑性を付与する成分(バインダー、可塑剤等)を含有し、シート状あるいはチューブ形状に成形されてなる釉薬フィルムを準備する。
【0014】
上記シート状の釉薬フィルムは、例えば、釉薬ガラス、バインダー、可塑剤、水等を含有するスラリーを用意し、該スラリーを、ドクターブレード法を用いて均一な厚みを有するシート状とした後、乾燥させること等により得ることができる。
【0015】
また、チューブ形状の釉薬フィルムは、例えば、釉薬ガラス、釉薬ガラス、バインダー、可塑剤、水等を含有するスラリーを用意し、該スラリーを、円筒形状の型で成形、もしくは上記のシート両端部を接着し、円筒形状にすることによりチューブ形状とした後、乾燥させること等により得ることができる。
【0016】
また、上記釉薬ガラスとしては、釉薬として用いられる公知の種々の材料を用いることができる。上記釉薬ガラスとしては、例えば、SiO2;35〜49質量%、B23;20〜35質量%、Al23;2〜10質量%、ZnO;0〜10質量%、BaO;2〜25質量%、ZrO2;1〜10質量%、Bi23;1〜15質量%、LiO2;0〜10質量%、Na2O;0〜10質量%、K2O;0〜10質量%を含有する材料等が挙げられる。
【0017】
上記釉薬フィルムに保形性、可塑性を付与する成分としては、上述したように、バインダーや可塑剤を用いることができる。
上記バインダーとしては、例えば、アクリル樹脂、PVB(ポリビニールブチラール)等を用いることができる。
また、上記可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、ポリエステル、リン酸エステル、クエン酸エステル、エポキシ化植物油、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステル、安息香酸エステル等を用いることができる。
上記水、バインダー、可塑剤等の成分の含有量を調整することにより、釉薬フィルムの弾性や、柔軟性等を調整することができる。
【0018】
また、上記釉薬フィルムは、厚みが5〜200μmであることが好ましい。釉薬フィルムの厚みが厚すぎる場合には、上記焼成工程において、上記バインダー等を焼失できず、釉薬層内に炭素成分として残留し、釉薬層が黒化し易くなる。
また、上記釉薬フィルムの幅は、上記碍子における釉薬層形成領域の幅と一致していることが好ましい。
【0019】
上記貼付工程において、釉薬フィルムを碍子の釉薬形成領域に相当する外周面全周に密着させる方法としては、例えば、以下の巻付動作、組付動作等により行うことができる。
そして、上貼付工程は、シート状の釉薬フィルムを、上記碍子の釉薬層形成領域に相当する外周面全周に巻回する巻付動作により行うことが好ましい(請求項2)。
上記巻付動作は、様々な方法を取りうるが、例えば、釉薬フィルムを台紙に配置しロール状に巻きつけた釉薬フィルムロールを用いて行うことができる。この場合、例えば、該釉薬フィルムロールから釉薬フィルムを供給方向に引き出し、その供給方向の延長線上に、碍子を回転させた状態で配置し、該碍子の手前で上記台紙のみを折り返すことにより該台紙から釉薬フィルムをはがすと共に、上記台紙から離れた釉薬フィルムが上記碍子に巻きつけられるように行うことが好ましい。
【0020】
また、上記貼付工程において、上記釉薬フィルムを上記碍子に巻回する際には、上記釉薬フィルムの端部同士が重複するように巻回することが好ましい(請求項3)。重複の長さは1〜10mmであることが好ましい。
【0021】
また、上記貼付工程は、チューブ形状の釉薬フィルムを、上記碍子の釉薬層形成領域に相当する外周面全周に組付ける組付動作により行われてもよい(請求項4)。
上記組付動作は様々な方法を取り得るが、例えば所定サイズに切断した釉薬フィルムチューブを用いることにより行うことができる。
【0022】
また、上記碍子の釉薬層形成領域は、少なくとも、スパークプラグを構成した際に碍子が露出する領域を含む必要がある。そして、上記釉薬層形成領域は、上記碍子の上部端面における内径と外径との中央部分から、後述するハウジングに覆われる部分の上端よりも数mm下側の部分までの範囲であることが好ましい。
【0023】
また、上記焼成工程では、加熱することにより、上記釉薬フィルム中のバインダー、水、可塑剤等、及び後述する上記釉薬フィルムの接着剤を焼失させると共に、その後に釉薬を溶解させる。そして、冷却によって、釉薬ガラスが固化し、釉薬層が形成される。
上記焼成工程は、上記バインダー、水、可塑剤、接着剤等が除去され、その後に釉薬が溶解する温度で行えばよく、例えば、150〜950℃で行うことが好ましい。
また、上記焼成工程後の冷却は、冷却ブロー(常温エアー)により行うことが好ましい。
【0024】
また、上記スパークプラグの製造方法においては、釉薬をフィルム状にすることによって、後述の印字工程、上記貼付工程、後述の軟化加熱工程、押圧工程、熱収縮加熱工程等を連続的に行うことも可能となり、段取り作業を簡素化することができる。
【0025】
本発明の製造方法は、上記釉薬層の形成方法に注目したものであり、スパークプラグの製造に必要なその他の工程は、公知の種々の方法により行うことができる。
また、スパークプラグにおいて、上記碍子は、外周に取付用ネジ部が設けられたハウジング内に固定され、上記碍子内には、上記碍子から先端部が突出するように中心電極が固定される。そして、上記碍子はハウジングの中に挿着し、かしめ固定をすることにより固定され、上記中心電極は、碍子の軸孔に中心電極を挿入し、その後、封着ガラス及びレジスタを充填し、最後に端子を有するステムを挿入し、焼成を行うことにより封着されるものである。
そのため、上記押圧工程後に、上記中心電極の挿入等を行い、その後、上記焼成工程を行うことによって、釉薬層の形成と同時に、上記中心電極、ステム、及びレジスタの封着を行うことが好ましい。そして、焼成後のスパークプラグを、接地電極を取り付けたハウジングの中に挿着し、かしめ固定をすることによりスパークプラグを製造することが好ましい。
【0026】
また、上記碍子の上記釉薬層形成領域には、軸方向に沿って外径が変化する同心円状の凹凸が設けられていることが好ましい(請求項5)。
従来のローラー式塗布、スプレー式塗布、ディップ式塗布等の方法では、上記碍子が上述の凹凸部分を有している場合には、釉薬を均一に塗布することが困難であり、形成される釉薬層の膜厚にバラツキが生じるという問題がある。しかし、本発明のスパークプラグの製造方法によれば、このような形状を有する碍子に対しても、均一な厚みを有する釉薬層を形成することができる。
【0027】
また、上記釉薬フィルムは、柔軟性を有することが好ましい(請求項6)。
上記碍子は、上述したような軸方向に沿って外径が変化する同心円状の凹凸がある形状を有していることが多い。そのため、上記釉薬フィルムが柔軟性を有している場合には、上記押圧工程において、碍子の凹凸形状に対応した釉薬フィルムの変形を良好に行うことができ、上記碍子と上記釉薬フィルムを良好に密着させることができる。
【0028】
また、上記釉薬フィルムの片面に接着剤が設けられていることが好ましい(請求項7)。
上記接着剤としては、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、汎用アクリレート系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、変性シリコン系樹脂等を用いることができる。
そして、上記釉薬フィルムは、上記貼付工程における作業性の観点から、上記接着剤を設けた面を台紙側にして台紙に配置し、さらにロール状に巻きつけておくことが好ましい。
【0029】
また、上記貼付工程後に、上記釉薬フィルムが碍子の表面に密着するように外方から内方に向けて加圧ローラーで押圧する押圧工程を有することが好ましい(請求項8)。
この場合には、効率的に上記釉薬フィルムと上記碍子とを密着させることができる。
また、碍子に釉薬フィルムを押圧し、両者を密着させる際に、釉薬層に気泡が残ることを抑制することができる。気泡を防止することにより、クラックを防止することができ、碍子の機械的強度の向上、碍子の絶縁性の向上、外観品質(見栄え)の向上を図ることができる。
【0030】
また、硬度、及び耐熱性の観点から、上記加圧ローラーとしては、ゴム製のローラーを用いることが好ましい。また、上記加圧ローラーはシリコン製であることがより好ましい。
また、上記押圧工程は、例えば、上記加圧ローラーの形状を、上記碍子の外形形状に対応させた形状とし、上記加圧ローラーを上記碍子に押し付けた状態で、両者を反対の回転方向で回転させて行うことが好ましい。
【0031】
また、上記貼付工程と上記押圧工程との間に、上記釉薬フィルムが軟化する温度まで加熱する軟化加熱工程を有することが好ましい(請求項9)。
この場合には、釉薬フィルムを軟化させて行うことにより、上記押圧工程において、碍子の外形形状に対応した釉薬フィルムの変形を特に良好に行うことができ、釉薬フィルムと碍子の表面とを特に良好に密着させることができる。上記碍子が、上述したような凹凸形状等を有している場合には、上記加熱工程を設けることが効果的である。
また、軟化上記加熱工程は、例えば、ヒータを用いて、上記碍子を50℃〜500℃程度まで加熱して行うことが好ましい。
【0032】
また、上記貼付工程と上記焼成工程との間に、上記釉薬フィルムが熱収縮する温度まで加熱する熱収縮加熱工程を有していてもよい(請求項10)。
釉薬フィルムの熱収縮率を調整することによって、上述のような押圧工程を行うことなく、加熱により釉薬フィルムそのものを碍子表面に密着させることができる。
また、熱収縮上記加熱工程は、例えば、ヒータを用いて、上記碍子を50℃〜400℃程度まで加熱して行うことが好ましい。
【0033】
また、上記釉薬フィルム準備工程と上記貼付工程との間に、上記釉薬フィルムに印字を行う印字工程を有することが好ましい(請求項11)。
上記釉薬フィルムに印字を行うことにより、釉薬層の形成と同時に、品番や社名等の印字を行うことができ、段取り作業を簡素化することができる。
上記印字工程は、例えば、インクジェット、熱転写等により行うことが好ましい。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
本例は、本発明の実施例にかかるスパークプラグの製造方法について、図1〜図8を用いて説明する。
本例の製造方法は、釉薬フィルム準備工程と、貼付工程と、焼成工程とを有する。
以下、これを詳説する。
【0035】
図1に示すごとく、上記スパークプラグの製造方法を行うに当たっては、まず、軸方向に沿って外径が変化する同心円状の凹凸21が設けられており、軸孔22を有する碍子2を用意する。上記碍子2は、材質が成形焼成後のアルミナよりなる。また、同図に示すごとく、碍子2の釉薬層形成領域23は、碍子の上部端面における内径と外径との中央部分(破線231)から、後述するハウジングに覆われる部分の上端よりも数mm下側の部分(破線232)までの範囲とする。
【0036】
そして、上記釉薬フィルム準備工程において、釉薬ガラスと保形性、可塑性を付与する成分(バインダー、可塑剤)とを含有し、シート状に成形されてなると共に、片面に粘着剤が設けられた釉薬フィルムを準備する。
釉薬フィルムを作製するには、まず、SiO2;35〜49質量%、B23;20〜35質量%、Al23;2〜10質量%、ZnO;0〜10質量%、BaO;2〜25質量%、ZrO2;1〜10質量%、Bi23;1〜15質量%、LiO2;0〜10質量%、Na2O;0〜10質量%、K2O;0〜10質量%よりなる組成を有する釉薬ガラスを準備する。
また、バインダーとして、アクリル樹脂を用意する。
また、可塑剤として、フタル酸エステルを用意する。
また、接着剤として、アクリル樹脂系接着剤よりなるシート状の接着剤を用意する。
【0037】
そして、上記釉薬ガラスを50〜90質量%、上記バインダーを10〜50質量%、上記可塑剤を0〜10質量%の割合で混合し、スラリーを作製する。
その後、上記スラリーを、ドクターブレード法を用いて均一な厚みを有するシート状とした後、乾燥させて釉薬フィルムを得る。
そして、上記釉薬フィルムは、台紙に配置し、さらにロール状に巻きつけて釉薬フィルムロールとする。
【0038】
そして、図2に示す製造装置3に、上記釉薬フィルムロール41、及び上記碍子2をセットし、上記碍子2に釉薬層を形成する。
具体的には、まず、上記碍子2は、運搬保持具31に載置された状態で図示しないコンベアによって、矢印a、矢印bの順に搬送する。一方、釉薬フィルム4は、上記釉薬フィルムロール41から巻き解き、供給方向Aに供給する。
そして、上記碍子2は、上記釉薬フィルム4の供給方向Aの延長線上に位置する時、図示しない回転保持具に保持させて上記釉薬フィルムロール41の回転方向Wと反対方向Xに回転させた状態とする。
【0039】
釉薬フィルム41から巻き解かれた釉薬フィルム4に対しては、上記碍子2に到達するまでの間に印字を行う印字工程が施される。印字工程は、インクリボン転写機32を用いて、上記釉薬フィルム4に、例えば「ABCD」という印字43を行う。実際には、この印字工程では、商品名や製品番号の印字を行う。
そして、上記釉薬フィルムと接着剤シートとを貼り合わせ(図示略)、貼付工程に供給する。接着剤シートは、上記釉薬フィルム4の印字43が行われた面に貼り合わせた。
【0040】
次に、貼付工程において、上記釉薬フィルム4を上記碍子2の釉薬層形成領域に相当する外周面全周に巻回させる。上記貼付工程は、具体的には、上記供給方向Aに供給されている釉薬フィルム4の台紙42のみを、折り返しロール35に沿って上記碍子2の直前において方向Bに折り返すことにより、釉薬フィルム4を台紙42から剥離させ、台紙42から剥離した釉薬フィルム4は、上記回転している碍子2に巻きつけられるように行う。また、碍子2の近傍には、上記釉薬フィルム4を上記碍子2に巻回させるように誘導するためのローラー(図示略)が設けてある。また、上記釉薬フィルム4の接着剤シートが設けられている面が碍子2と面するように行う。そして、上記釉薬フィルム4は、末端が1〜10mm重複するように切断する。
【0041】
その後、釉薬フィルム4が巻回された碍子2を上記回転保持具から外して搬送(矢印a)し、加熱装置33内に配置し、該加熱装置33を用いて上記釉薬フィルム4が軟化する温度まで加熱する加熱工程を行う。加熱工程の処理温度は約50〜200℃とする。
【0042】
加熱後に、上記碍子2を加圧ローラー34の位置まで搬送(矢印b)し、図示しない第2回転保持具に保持させ、上記軟化した釉薬フィルム4が碍子2の表面に密着するように上記釉薬フィルム4を外方から内方に向けて押圧する押圧工程を行う。上記押圧工程は、加圧ローラー34で押圧することにより行う。上記加圧ローラー34としては、上記碍子2の外形形状に対応させた形状を有する、シリコン製のローラーを用いる。
また、上記釉薬フィルム4を碍子2の表面に密着させる際には、上記加圧ローラー34を上記碍子2に押し付けた状態で、上記第2回転保持具に保持させた碍子を回転方向Yに回転させ、加圧ローラー34を回転方向Zに回転させて行う。
【0043】
そして、碍子2の軸孔に中心電極を挿入し、その後、封着ガラス及びレジスタを充填し、最後に端子を有するステムを挿入する。
そして、焼成工程(図示略)において、加熱することにより釉薬層を形成する。上記焼成工程は、搬送されてきた釉薬フィルム4付きの碍子2を1100℃以下に加熱することにより行う。
【0044】
上記焼成工程では、加熱により、上記釉薬フィルム4の接着剤、及び上記釉薬フィルム4中のバインダー、水、可塑剤等が焼失されると共に、釉薬が溶解し、その後、冷却により釉薬が硬化して、釉薬層が形成される。
また、上記焼成工程において、中心電極、ステム、及びレジスタの封着も同時に行われる。
【0045】
その後、上記焼成工程後の碍子2を、接地電極を取り付けたハウジングの中に挿着し、かしめ固定をすることにより、図3に示すスパークプラグ1を得る。
上記スパークプラグ1は、外周に取付用ネジ部511が設けられたハウジング51と、上記ハウジング51内に固定された碍子2と、先端部が上記碍子2から突出するように上記碍子2内に固定された中心電極52と、上記ハウジング51に固定されて上記中心電極52の先端部との間に火花放電ギャップ53を介して対向する接地電極54とを備える。
【0046】
なお、上記ローラー式塗布は、図5に示すように、碍子2を回転させておき、碍子2の外形形状に対応する形状を有するローラー71を用い、該ローラー71に液状の釉薬スラリー72を付着させ、ローラー位置を調整して回転させ、ローラー71に付着している釉薬72を碍子2に転写させることにより塗布する方法である。
【0047】
また、上記スプレー式塗布は、図6に示すように、釉薬層形成領域が露出するようにマスキングを行った碍子2を回転させ、該碍子2に対して、塗布装置81を用いて液状の釉薬スラリー82を吹きつけることにより、釉薬82の塗布を行う方法である。
【0048】
また、上記ディップ式塗布は、図7に示すように、碍子2を液状の釉薬91中に浸漬することにより釉薬スラリー91の塗布を行う方法である。なお、浸漬する際に、釉薬91が碍子2の軸孔22に入り込むことを防ぐために、碍子2の上端部分を別部材92で塞いで行う。
【0049】
そして、本発明により形成された釉薬層は、従来の施釉方法と比較しても、膜厚バラツキが小さく、良好に形成される。
【0050】
本例の製造方法は、釉薬をシート状に形成しておくことにより、上記貼付工程においては、釉薬スラリーの飛散が発生しないため、材料歩留まりを高くすることができる。
また、液体を扱うこともないため、釉薬の粘度管理や設備の清掃が不要であり、また、設備メンテナンスに要する時間を短縮することができるため、設備信頼性、メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0051】
また、シート状の釉薬を貼り付けることにより施釉するため、得られるスパークプラグ1において、碍子2の表面に形成された釉薬層は、釉薬が碍子2の軸孔22内に入り込むことがなく、気泡も確認されず、外観品質も良好である。
そして、このようにして得られるスパークプラグの碍子に形成される釉薬層は、均一な膜厚を有し、気泡が抑制された良好な外観品質を有することができる。膜厚が均一であることにより、外観品質(見栄え)の向上、エンジン部品への勘合、密着性の向上を図ることができる。また、気泡を防止することにより、クラックを防止することができ、碍子の機械的強度の向上、碍子の絶縁性の向上、外観品質(見栄え)の向上を図ることができる。
【0052】
このように、本例によれば、材料歩留まりが高く、設備メンテナンス性が良好であり、かつ、碍子の表面に出来栄えの良好な釉薬層を形成することができるスパークプラグの製造方法を提供することができることがわかる。
【0053】
なお、本例では、シート状の釉薬フィルムを碍子の釉薬層形成領域に相当する外周面全周に巻回する巻付動作を行うことにより貼付工程を行ったが、チューブ形状の釉薬フィルムを用い、碍子の釉薬層形成領域に相当する外周面全周に組付ける組付動作により貼付工程を行った場合であっても同様の効果を得ることができる。
また、貼付工程後に上記釉薬フィルムが軟化する温度まで加熱する軟化加熱工程を行い、その後、釉薬フィルムが碍子の表面に密着するように外方から内方に向けて加圧ローラーで押圧する押圧工程を行ったが、熱収縮率を調整した釉薬フィルムを用い、上記貼付工程と上記焼成工程との間に、上記釉薬フィルムが熱収縮する温度まで加熱する熱収縮加熱工程有した場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0054】
2 碍子
4 釉薬フィルム
34 加圧ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
釉薬ガラスと、保形性及び可塑性を付与する成分とを含有するシート状あるいはチューブ形状の釉薬フィルムを準備する釉薬フィルム準備工程と、
上記釉薬フィルムを碍子の釉薬形成領域に相当する外周面全周に密着させる貼付工程と、
加熱することにより上記釉薬ガラスよりなる釉薬層を形成する焼成工程とを有することを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記貼付工程は、シート状の釉薬フィルムを、上記碍子の釉薬層形成領域に相当する外周面全周に巻回する巻付動作により行うことを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項3】
請求項2において、上記巻付動作において、上記釉薬フィルムの端部同士が重複するように巻回することを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項4】
請求項1において、上記貼付工程は、チューブ形状の釉薬フィルムを、上記碍子の釉薬層形成領域に相当する外周面全周に組付ける組付動作により行うことを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、上記碍子の上記釉薬層形成領域には、軸方向に沿って外径が変化する同心円状の凹凸が設けられていることを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、上記釉薬フィルムは、柔軟性を有することを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項において、上記釉薬フィルムの片面に接着剤が設けられていることを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項において、上記貼付工程後に、上記釉薬フィルムが碍子の表面に密着するように外方から内方に向けて加圧ローラーで押圧する押圧工程を有することを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項9】
請求項8において、上記貼付工程と上記押圧工程との間に、上記釉薬フィルムが軟化する温度まで加熱する軟化加熱工程を有することを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項において、上記貼付工程と上記焼成工程との間に、上記釉薬フィルムが熱収縮する温度まで加熱する熱収縮加熱工程を有することを特徴とするスパークプラグの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項において、上記釉薬フィルム準備工程と上記貼付工程との間に、上記釉薬フィルムに印字を行う印字工程を有することを特徴とするスパークプラグの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−225404(P2010−225404A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71254(P2009−71254)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】