説明

スパークプラグ

【課題】火花放電部位において貴金属チップ部材を用いるスパークプラグにおいて、貴金属チップ部材の剥離を抑制することを目的とする。
【解決手段】スパークプラグは、スパークプラグの軸線方向に延在する中心電極と、端部が中心電極の端部と対向して中心電極との間で火花ギャップを形成する接地電極と、を備える。中心電極と接地電極のうち少なくとも一方の端部は、溶接面を有する貴金属チップ部材と、一方の面が前記貴金属チップ部材の溶接面と抵抗溶接され、他方の面が電極母材と抵抗溶接された中間部材と、を備える。貴金属チップ部材における溶接面に垂直な方向の厚さをTaとし、中間部材における一方の面に垂直な方向の厚さをTbとした場合において、Tb>Taを満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
スパークプラグには、メンテナンスフリー達成のための長寿命化のみならず、電極の小型化による着火性の向上や燃焼効率の向上が求められ、こうした要求に応えるため、中心電極や接地電極における火花放電部位に貴金属チップ部材を接合したスパークプラグが知られている。このようなスパークプラグにおいて、貴金属チップ部材と電極母材との間に、貴金属チップ部材の線膨張係数と電極母材の線膨張係数との中間の値の線膨張係数を有する中間部材を配置する技術が知られている。(例えば、特許文献1)。
【0003】
このような構成を採用することにより、貴金属チップ部材の電極母材からの剥離を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−262374号公報
【特許文献2】特開昭59−94391号公報
【特許文献3】特開平6−60959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、さらに、貴金属チップ部材の剥離を抑制することが求められている。例えば、上記の従来の構成では、貴金属チップ部材が中間部材から剥離するおそれがあった。
本発明は、火花放電部位において貴金属チップ部材を用いるスパークプラグにおいて、貴金属チップ部材の剥離を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために、以下の形態または適用例を取ることが可能である。
【0007】
[適用例1] スパークプラグであって、
前記スパークプラグの軸線方向に延在する中心電極と、
前記中心電極との間で火花ギャップを形成する接地電極と、
を備え、
前記中心電極と前記接地電極のうち少なくとも一方は、
貴金属チップ部材と、
第1の面が前記貴金属チップ部材と抵抗溶接され、前記第1の面と反対側の第2の面が電極母材と抵抗溶接された中間部材と、
を備え、
前記貴金属チップ部材の端面に垂直な方向の厚さをTaとし、
前記中間部材における前記第1の面に垂直な方向の厚さをTbとした場合において、
Tb>Ta
を満たす、スパークプラグ。
こうすれば、抵抗溶接された中間部材と貴金属チップ部材との間に発生する応力を抑制することができる。この結果、貴金属チップ部材と中間部材との剥離を抑制することができる。
【0008】
[適用例2]適用例1に記載のスパークプラグにおいて、
前記中間部材のヤング率は、前記貴金属チップ部材のヤング率および前記電極母材のヤング率より小さい、スパークプラグ。
こうすれば、中間部材のヤング率が貴金属チップ部材のヤング率および電極母材のヤング率より小さいので、中間部材と貴金属チップ部材との間、および、中間部材と電極母材との間に発生する応力を抑制することができる。この結果、中間部材と貴金属チップ部材と剥離、および、中間部材と電極母材との剥離を抑制することができる。
【0009】
[適用例3]適用例1または適用例2のいずれかに記載のスパークプラグであって、
前記中間部材の線膨張係数は、前記貴金属チップ部材の線膨張係数より大きく、前記電極母材の線膨張係数より小さい、スパークプラグ。
こうすれば、中間部材の線膨張係数は、貴金属チップ部材の線膨張係数より大きく、電極母材の線膨張係数より小さいので、中間部材と貴金属チップ部材との間、および、中間部材と電極母材との間に発生する応力を抑制することができる。この結果、中間部材と貴金属チップ部材と剥離、および、中間部材と電極母材との剥離を抑制することができる。
【0010】
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれかに記載のスパークプラグであって、
前記中間部材は、
i)パラジウム(Pd)
ii)金(Au)
iii)金パラジウム合金(AuPd合金)
のうちのいずれかを主成分とする材料で形成されている、スパークプラグ。
こうすれば、上記ヤング率の条件と、線膨張係数の条件を満たす中間部材を形成することができる。
【0011】
[適用例5]適用例1ないし適用例4のいずれかに記載のスパークプラグであって、
前記中心電極と前記接地電極は、前記スパークプラグの軸線方向に火花ギャップを形成する、スパークプラグ。
こうすれば、縦放電型のスパークプラグにおいて、貴金属チップ部材の剥離を抑制することができる。
【0012】
[適用例6]適用例1ないし適用例4のいずれかに記載のスパークプラグであって、
前記中心電極と、前記接地電極は、前記スパークプラグの軸線方向と垂直な方向に火花ギャップを形成する、スパークプラグ。
こうすれば、横放電型のスパークプラグにおいて、貴金属チップ部材の剥離を抑制することができる。
【0013】
[適用例7]適用例1ないし適用例6記載のいずれかにのスパークプラグであって、
前記貴金属チップ部材は、厚さ方向と垂直な断面が直径Daの円である円筒形状を有し、
前記中間部材は、厚さ方向と垂直な断面が直径Dbの円である円筒形状を有し、
Db>Da
を満たす、スパークプラグ。
こうすれば、貴金属チップ部材は、中間部材より小さく、円筒形上の底面全体で中間部材と抵抗溶接されるので、貴金属チップ部材の中間部材からの剥離を抑制することができる。
【0014】
[適用例8]スパークプラグであって、
前記スパークプラグの軸線方向に延在する中心電極と、
前記中心電極との間で火花ギャップを形成する接地電極と、
を備え、
前記中心電極と前記接地電極のうち少なくとも一方は、
貴金属チップ部材と、
第1の面が前記貴金属チップ部材と抵抗溶接され、前記第1の面と反対側の第2の面面が電極母材と抵抗溶接された中間部材と、
を備え、
前記中間部材における前記第1の面の面積をSbとし、
前記中間部材における前記第1の面に垂直な方向の厚さをTbとした場合において、
25πTb2>Sb(πは円周率)
を満たす、スパークプラグ。
こうすれば、円筒形状の中間部材と貴金属チップ部材との間に発生する応力を抑制することができる。この結果、貴金属チップ部材と円筒形状の中間部材との剥離を抑制することができる。
【0015】
[適用例9]前記中間部材は、厚さ方向と垂直な断面が直径Dbの円形である円筒形状を有し、
10Tb>Db
を満たす、スパークプラグ。
こうすれば、円筒形状の中間部材と貴金属チップ部材との間に発生する応力を抑制することができる。この結果、貴金属チップ部材と円筒形状の中間部材との剥離を抑制することができる。
【0016】
[適用例10]適用例8または適用例9に記載のスパークプラグであって、
前記貴金属チップ部材の端面に垂直な方向の厚さをTaとした場合において、
Tb>Ta
を満たす、スパークプラグ。
こうすれば、抵抗溶接された中間部材と貴金属チップ部材との間に発生する応力をより抑制することができる。この結果、貴金属チップ部材と中間部材との剥離をより抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例としてのスパークプラグ100の部分断面図である。
【図2】第1実施例におけるスパークプラグ100の中心電極20の先端付近の拡大図である。
【図3】接地電極30の先端部31を軸線方向ODに見た図である。
【図4】中間部材320と貴金属チップ部材310との間(抵抗溶接部)に発生する応力を示すグラフである。
【図5】第2実施例におけるスパークプラグ100Aの中心電極20の先端付近の拡大図である。
【図6】第3実施例におけるスパークプラグ100Bの中心電極20Bの先端付近の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.第1実施例:
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。図1は本発明の一実施例としてのスパークプラグ100の部分断面図である。なお、図1において、スパークプラグ100の軸線方向ODを図面における上下方向とし、下側をスパークプラグ100の先端側、上側を後端側として説明する。
【0019】
図1に示すように、スパークプラグ100は、絶縁体としての絶縁碍子10と、この絶縁碍子10を保持する主体金具50と、絶縁碍子10内に軸線方向ODに保持された中心電極20と、接地電極30と、絶縁碍子10の後端部に設けられた端子金具40とを備える。
【0020】
絶縁碍子10は周知のようにアルミナ等を焼成して形成され、軸中心に軸線方向ODへ延びる軸孔12が形成された筒形状を有する。軸線方向ODの略中央には外径が最も大きな鍔部19が形成されており、それより後端側(図1における上側)には後端側胴部18が形成されている。鍔部19より先端側(図1における下側)には、後端側胴部18よりも外径の小さな先端側胴部17が形成され、さらにその先端側胴部17よりも先端側に、先端側胴部17よりも外径の小さな脚長部13が形成されている。脚長部13は先端側ほど縮径され、スパークプラグ100が内燃機関のエンジンヘッド200に取り付けられた際には、その燃焼室に曝される。脚長部13と先端側胴部17との間には段部15が形成されている。
【0021】
主体金具50は、内燃機関のエンジンヘッド200にスパークプラグ100を固定するための円筒状の金具である。主体金具50は、絶縁碍子10を、その後端側胴部18の一部から脚長部13にかけての部位を取り囲むようにして内部に保持している。主体金具50は低炭素鋼材より形成され、図示しないスパークプラグレンチが嵌合する工具係合部51と、内燃機関の上部に設けられたエンジンヘッド200の取付ネジ孔201に螺合するネジ山が形成された取付ネジ部52とを備えている。本実施例では、この取付ネジ部52を、その外径M(呼び径)が標準的な外径であるM14、或いは、M10〜M18とした。
【0022】
主体金具50の工具係合部51と取付ネジ部52との間には、鍔状のシール部54が形成されている。取付ネジ部52とシール部54との間のネジ首59には、板体を折り曲げて形成した環状のガスケット5が嵌挿されている。ガスケット5は、スパークプラグ100をエンジンヘッド200に取り付けた際に、シール部54の座面55と取付ネジ孔201の開口周縁部205との間で押し潰されて変形する。このガスケット5の変形により、スパークプラグ100とエンジンヘッド200間が封止され、取付ネジ孔201を介したエンジン内の気密漏れが防止される。
【0023】
主体金具50の工具係合部51より後端側には薄肉の加締部53が設けられている。また、シール部54と工具係合部51との間には、加締部53と同様に薄肉の座屈部58が設けられている。工具係合部51から加締部53にかけての主体金具50の内周面と絶縁碍子10の後端側胴部18の外周面との間には、円環状のリング部材6,7が介在されており、さらに両リング部材6,7間にタルク(滑石)9の粉末が充填されている。加締部53を内側に折り曲げるようにして加締めることにより、リング部材6,7およびタルク9を介し、絶縁碍子10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。これにより、主体金具50の内周で取付ネジ部52の位置に形成された段部56に、環状の板パッキン8を介し、絶縁碍子10の段部15が支持されて、主体金具50と絶縁碍子10とが一体にされる。このとき、主体金具50と絶縁碍子10との間の気密性は、板パッキン8によって保持され、燃焼ガスの流出が防止される。座屈部58は、加締めの際に、圧縮力の付加に伴い外向きに撓み変形するように構成されており、タルク9の軸線方向ODの圧縮長を長くして主体金具50内の気密性を高めている。なお、段部56よりも先端側における主体金具50と絶縁碍子10との間には、所定寸法のクリアランスが設けられている。
【0024】
図2は、第1実施例におけるスパークプラグ100の中心電極20の先端付近の拡大図である。中心電極20は、インコネル(商標名)600等のニッケルまたはニッケルを主成分とする合金から形成された電極母材21の内部に、電極母材21よりも熱伝導性に優れる銅または銅を主成分とする合金からなる芯材25を埋設した構造を有する棒状の電極である。通常、中心電極20は、有底筒状に形成された電極母材21の内部に芯材25を詰め、底側から押出成形を行って引き延ばすことで作製される。芯材25は、胴部分においては略一定の外径をなすものの、先端側においては先細り形状に形成される。
【0025】
中心電極20、詳しくは、電極母材21は、その先端部分に、先端に向かって小径となるテーパ状の電極母材台座22と溶融部23と電極チップ90とを備え、この電極チップ90を含む電極母材台座22よりも先端側の部分は絶縁碍子10の先端部11よりも突出されている。電極チップ90は、耐火花消耗性を向上するために、高融点の貴金属を主成分として形成されている。この電極チップ90としては、例えば、イリジウム(Ir)や、Irを主成分として、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)のうち、1種類あるいは2種類以上を添加したIr合金によって形成され、Ir−5Pt合金(5質量%の白金を含有したイリジウム合金)などが多用される。
【0026】
溶融部23は、電極母材台座22への電極チップ90の溶接、例えばレーザを照射してその熱により電極母材台座22と電極チップ90とを溶融させるレーザ溶接を経て形成される。つまり、電極母材台座22の先端面に電極チップ90を配置した状態で、電極母材台座22と電極チップ90との境界面を狙ってレーザを照射しつつ、その照射箇所を境界面全周に亘って一周させる。このレーザ溶接では、レーザの照射により両材料(電極母材台座22の構成材と電極チップ90の貴金属)が溶融して混ざり合うため、電極チップ90と電極母材台座22とが強固に接合されると共に、電極母材台座22と電極チップ90とを繋ぐ溶融部23が形成される。この溶融部23は、上記両材料の溶融により両材料の合金として形成される。
【0027】
中心電極20は軸孔12内を後端側に向けて延設され、シール体4およびセラミック抵抗3(図1参照)を経由して、後方(図1における上方)の端子金具40に電気的に接続されている。端子金具40には高圧ケーブル(図示外)がプラグキャップ(図示外)を介して接続され、高電圧が印加される。
【0028】
接地電極30の電極母材は耐腐食性の高い金属から構成され、一例として、ニッケル合金が用いられる。本実施例では、インコネル(商標名)600(INC600)と呼ばれるニッケル合金が用いられている。この接地電極30は、自身の長手方向と直交する方向における横断面が略長方形を有している。接地電極30の基端部(一端部)32は、主体金具50の先端面57に溶接にて接合されている。接地電極30の先端部(他端部)31の一側面は、中心電極20の電極チップ90と、軸線O上で軸線方向ODに対向するように屈曲されている。そして、この接地電極30の先端部31の一側面と電極チップ90の先端面との間には火花ギャップが形成される。この火花ギャップは、例えば、0.2〜0.6mm程度である。
【0029】
接地電極30の先端部31において、電極チップ90と対向する側面には、2層部材300が電極母材に抵抗溶接されている。2層部材300は、貴金属チップ部材310と、中間部材320とを有している。貴金属チップ部材310と中間部材320とは、電極チップ90と対向する方向(第1実施例では、軸線方向OD)に積層されている。貴金属チップ部材310の下側の面と中間部材320の上側の面との間は、抵抗溶接されている。中間部材320の下側の面は、接地電極30の電極母材と抵抗溶接されている。貴金属チップ部材310には、例えば、Pt(白金)または、Ptを主成分とする合金が用いられる。本実施例では、Pt−20Ir合金(20質量%のイリジウムを含有した白金合金)が用いられている。中間部材320には、Pd(パラジウム)またはPdを主成分とする合金、Au(金)またはAuを主成分とする合金、AuPd合金、Pt合金が用いられる。本実施例では、Pdや、Pt−20Ni(20質量%のニッケルを含有した白金合金)が用いられている。中間部材320は、中間部材320の下側が接地電極30の電極母材に埋設されているのは、2層部材300を電極母材に抵抗溶接する際に、中間部材320より融点の低い電極母材が溶けるため、中間部材320の下側部分が電極部材の内部に沈みこむためである。中間部材320の積層方向(第1実施例では、軸線方向OD)の厚さTbは、貴金属チップ部材310の積層方向の厚さTaより大きい(Tb>Ta)。
【0030】
図3は、接地電極30の先端部31を、軸線方向ODに見た図である。貴金属チップ部材310は、厚さ方向に垂直な方向の断面が直径Daの円形である。中間部材320は、厚さ方向に垂直な方向の断面が直径Dbの円形である。すなわち、貴金属チップ部材310および中間部材320は、円筒形状を有している。中間部材320の直径Dbは、貴金属チップ部材310の直径Daより大きく、貴金属チップ部材310と中間部材320の厚さ方向に垂直な方向の断面は、同心円である。したがって、中間部材320の外縁部は、厚さ方向から見て、貴金属チップ部材310の外縁より外側にはみ出している。
【0031】
ここで本実施例では、中間部材320の直径Dbと、中間部材320の厚さTbとは、10Tb>Dbを満たす。なお、この式を、中間部材320の上側の面の面積Sbは、Sb=π(Db/2)2であるので、10Tb>Dbの式を、Sbを用いて表すと、25πtb2>Sbとなる。
【0032】
以下に、接地電極30の電極母材の材料(INC600)と、貴金属チップ部材310の材料(Pt−20Ir)と、中間部材320の材料(PdまたはPt−20Ni)の特性を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から解るように、中間部材320のヤング率は、貴金属チップ部材310のヤング率および接地電極30の電極母材のヤング率より小さい。そして、中間部材320の線膨張係数は、貴金属チップ部材310の線膨張係数より大きく、接地電極30の電極母材の線膨張係数より小さい。
【0035】
以上説明した本実施例によれば、中間部材320の積層方向の厚さTbは、貴金属チップ部材310の積層方向の厚さTaより大きい(Tb>Ta)ので、貴金属チップ部材310と中間部材320との剥離が抑制される。
【0036】
図4は、中間部材320と貴金属チップ部材310との間(抵抗溶接部)に発生する応力を示すグラフである。このグラフは、シミュレーションによって計算された値である。このシミュレーションでは、中間部材320の直径Daを2.9mm、貴金属チップ部材310の直径Dbを3.0mm、貴金属チップ部材310の厚さTaを0.3mmと設定している。そして、貴金属チップ部材310の材料特性はPt−20Ir、接地電極30の電極母材の材料特性はINC600の特性値をそれぞれ用いている。また、このシミュレーションでは、中間部材320の材料としては、Pd(丸印)とPt−20Ni(四角印)の2種類について計算し、中間部材320の厚さTbとしては、0.2mm〜0.5mmまで0.1mm刻みで計算した。このグラフの縦軸は、貴金属チップ部材と中間部材の間に発生する応力について、Tbが0.2mmのときの応力を1としたときの比を表す。
【0037】
図4に示すシミュレーション結果から解るように、Tb>Taが満たされる領域では、貴金属チップ部材310と中間部材320との間に発生する応力が、Tb≦Taが満たされる領域より、顕著に抑制される。その結果、貴金属チップ部材310と中間部材320との剥離を抑制することができる。
【0038】
また、本実施例では、中間部材320の積層方向の厚さTbと、中間部材320の上側の面の直径Dbとの間は、10Tb>Dbの関係式を満たすので、貴金属チップ部材310と中間部材320との剥離が抑制される。
【0039】
図4に示すシミュレーション結果から解るように、10Tb>Dbが満たされる領域では、貴金属チップ部材310と中間部材320との間に発生する応力が、10Tb≦Dbが満たされる領域より、顕著に抑制される。その結果、貴金属チップ部材310と中間部材320との剥離を抑制することができる。
【0040】
中間部材320は、貴金属チップ部材310および接地電極30の電極母材よりヤング率が低い、すなわち、弾性変形しやすい材料である。このような中間部材320が貴金属チップ部材310と接地電極30の電極母材との間にクッションとして介在することによって、貴金属チップ部材310と接地電極30の抵抗溶接面に発生する応力を緩和することができる。このような応力緩和能力が十分に発揮されるためには、中間部材320はある程度の厚さTbが必要になると考えられる。そして、この応力緩和能力が十分に発揮されるために厚さTbが満たすべき条件が、10Tb>Dbや、Tb>Taであると考えられる。
【0041】
また、本実施例では、中間部材320の線膨張係数は、貴金属チップ部材310の線膨張係数より大きく、接地電極30の電極母材の線膨張係数より小さいので、温度変化により中間部材と貴金属チップ部材との間、および、中間部材と電極母材との間に発生する応力を抑制することができる。この結果、中間部材320と貴金属チップ部材310と剥離、および、中間部材320と接地電極30の電極母材との剥離をより抑制することができる。
【0042】
B.第2実施例:
図5は、第2実施例におけるスパークプラグ100Aの中心電極20の先端付近の拡大図である。第2実施例におけるスパークプラグ100Aが、第1実施例におけるスパークプラグ100と異なる点は、接地電極30Aの構成である。第2実施例の接地電極30Aの先端部31Aは、第1実施例と異なり、電極チップ90の側面と対向するように形成されている。すなわち、先端部31の端面は、電極チップ90の側面と、軸線方向ODと垂直な方向に対向する。そして、先端部31の端面には、電極チップ90との対向方向に2層部材300Aが抵抗溶接されている。2層部材300Aを構成する貴金属チップ部材310Aおよび中間部材320Aの構成は、積層方向が軸線方向ODと垂直な方向であることを除いて、第1実施例と同じである。このように、本発明は、第1実施例のような軸線方向ODに火花ギャップが設けられた縦放電タイプのスパークプラグだけでなく、第2実施例のような軸線方向ODに垂直な方向に火花ギャップが設けられた横放電タイプのスパークプラグにも適用可能である。第2実施例においても、第1実施例と同様の作用・効果が得られる。
【0043】
C.第3実施例:
図6は、第3実施例におけるスパークプラグ100Bの中心電極20Bの先端付近の拡大図である。第3実施例におけるスパークプラグ100Bが、第1実施例におけるスパークプラグ100と異なる点は、接地電極30Bの構成と、中心電極20Bの先端付近の構成である。第3実施例の接地電極30Bの先端部31Bは、第1実施例と異なり、2層部材300が配置されていない。一方、第3実施例の中心電極20Bの電極母材21Bの先端部分には、第1実施例の溶融部23および電極チップ90に代えて、2層部材300Bが形成されている。2層部材300Bを構成する貴金属チップ部材310Bおよび中間部材320Bの構成は、電極母材21Bが上側にあることに対応して、中間部材320Bが上側に貴金属チップ部材310Bが下側にあることを除いて、第1実施例と同じである。このように、本発明は、第1実施例および第2実施例の2層部材300、300Aのように接地電極に適用されるだけでなく、第3実施例の2層部材300Bのように中心電極にも適用可能である。中心電極に適用した場合においても、接地電極に適用した場合と同様の作用・効果が得られる。
【0044】
D.変形例:
・第1変形例:
上記実施例では、2層部材300、300A、300Bは、接地電極か中心電極のいずれか一方に配置されているが、両方に配置しても良い。
【0045】
・第2変形例:
上記実施例では、2層部材300、300A、300Bを構成する貴金属チップ部材310、310A、310B、および、中間部材320、320B、320Aは、積層方向から見た形状が円形であるが、これに限られない。例えば、貴金属チップ部材310、310A、310B、および、中間部材320、320B、320Aは、四角形、六角形などの多角形であってもよいし、楕円形であっても良い。また、中間部材と貴金属チップ部材の形状が異なっていても良い。いずれの形状であっても、全周に亘って、中間部材の外縁部は、貴金属チップ部材の外縁より外側にあることが好ましい。また、中間部材の厚さTbと中間部材の積層方向の上面の面積Sbは、25πTb2>Sb(πは円周率)の関係式を満たしていることが好ましい。
【0046】
・第3変形例:
上記実施例では、10Tb>Dbの関係式と、Tb>Taの関係式の両方を満たしているが、いずれか一方を満たしているだけでも良い。
【0047】
・第4変形例:
上記実施例のように、中間部材320、320A、320Bのヤング率は、貴金属チップ部材310、310A、310Bのヤング率および電極母材21、21Bのヤング率より小さいことが好ましく、中間部材320、320A、320Bの線膨張係数は、貴金属チップ部材310、310A、310Bの線膨張係数より大きく、電極母材21、21Bの線膨張係数より小さいことが好ましい。貴金属チップ部材310、310A、310Bが白金または白金を主成分とした合金であり、電極母材がニッケル合金である一般的な構成である場合、このような条件を満たす中間部材320、320A、320Bの材料としては、i)パラジウム(Pd)、ii)金(Au)、iii)金パラジウム合金(AuPd合金)のうちのいずれかを主成分とする材料がある。
【0048】
・第5変形例:
上記実施例では、横放電型と縦放電型を例として説明したが、接地電極の先端部と、中心電極20の先端部との位置関係は、スパークプラグの用途や、必要とされる性能等に応じて適宜設定することが可能である。また、1つの中心電極に対して複数の接地電極が設けられても良い。
【0049】
以上、本発明の実施例および変形例について説明したが、本発明はこれらの実施例および変形例になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の態様での実施が可能である。
【符号の説明】
【0050】
3…セラミック抵抗
4…シール体
5…ガスケット
6…リング部材
8…板パッキン
9…タルク
10…絶縁碍子
11…先端部
12…軸孔
13…脚長部
15…段部
17…先端側胴部
18…後端側胴部
19…鍔部
20、20B…中心電極
21、21B…電極母材
22…電極母材台座
23…溶融部
25…芯材
30、30A、30B…接地電極
40…端子金具
50…主体金具
51…工具係合部
52…取付ネジ部
53…加締部
54…シール部
55…座面
56…段部
57…先端面
58…座屈部
59…ネジ首
90…電極チップ
100、100A、100B…スパークプラグ
200…エンジンヘッド
201…取付ネジ孔
205…開口周縁部
300、300A、300B…2層部材
310、310A、310B…貴金属チップ部材
320、320A、320B…中間部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパークプラグであって、
前記スパークプラグの軸線方向に延在する中心電極と、
前記中心電極との間で火花ギャップを形成する接地電極と、
を備え、
前記中心電極と前記接地電極のうち少なくとも一方は、
貴金属チップ部材と、
第1の面が前記貴金属チップ部材と抵抗溶接され、前記第1の面と反対側の第2の面が電極母材と抵抗溶接された中間部材と、
を備え、
前記貴金属チップ部材の端面に垂直な方向の厚さをTaとし、
前記中間部材における前記第1の面に垂直な方向の厚さをTbとした場合において、
Tb>Ta
を満たす、スパークプラグ。
【請求項2】
請求項1に記載のスパークプラグにおいて、
前記中間部材のヤング率は、前記貴金属チップ部材のヤング率および前記電極母材のヤング率より小さい、スパークプラグ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のスパークプラグであって、
前記中間部材の線膨張係数は、前記貴金属チップ部材の線膨張係数より大きく、前記電極母材の線膨張係数より小さい、スパークプラグ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のスパークプラグであって、
前記中間部材は、
i)パラジウム(Pd)
ii)金(Au)
iii)金パラジウム合金(AuPd合金)
のうちのいずれかを主成分とする材料で形成されている、スパークプラグ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のスパークプラグであって、
前記中心電極と前記接地電極は、前記スパークプラグの軸線方向に火花ギャップを形成する、スパークプラグ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のスパークプラグであって、
前記中心電極と、前記接地電極は、前記スパークプラグの軸線方向と垂直な方向に火花ギャップを形成する、スパークプラグ。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のスパークプラグであって、
前記貴金属チップ部材は、厚さ方向と垂直な断面が直径Daの円である円筒形状を有し、
前記中間部材は、厚さ方向と垂直な断面が直径Dbの円である円筒形状を有し、
Db>Da
を満たす、スパークプラグ。
【請求項8】
スパークプラグであって、
前記スパークプラグの軸線方向に延在する中心電極と、
前記中心電極との間で火花ギャップを形成する接地電極と、
を備え、
前記中心電極と前記接地電極のうち少なくとも一方は、
貴金属チップ部材と、
第1の面が前記貴金属チップ部材と抵抗溶接され、前記第1の面と反対側の第2の面面が電極母材と抵抗溶接された中間部材と、
を備え、
前記中間部材における前記第1の面の面積をSbとし、
前記中間部材における前記第1の面に垂直な方向の厚さをTbとした場合において、
25πTb2>Sb(πは円周率)
を満たす、スパークプラグ。
【請求項9】
請求項8に記載のスパークプラグであって、
前記中間部材は、厚さ方向と垂直な断面が直径Dbの円形である円筒形状を有し、
10Tb>Db
を満たす、スパークプラグ。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載のスパークプラグであって、
前記貴金属チップ部材の端面に垂直な方向の厚さをTaとした場合において、
Tb>Ta
を満たす、スパークプラグ。
【請求項11】
請求項8ないし請求項10のいずれかに記載のスパークプラグにおいて、
前記中間部材のヤング率は、前記貴金属チップ部材のヤング率および前記電極母材のヤング率より小さい、スパークプラグ。
【請求項12】
請求項8または請求項11のいずれかに記載のスパークプラグであって、
前記中間部材の線膨張係数は、前記貴金属チップ部材の線膨張係数より大きく、前記電極母材の線膨張係数より小さい、スパークプラグ。
【請求項13】
請求項8ないし請求項12のいずれかに記載のスパークプラグであって、
前記中間部材は、
i)パラジウム(Pd)
ii)金(Au)
iii)金パラジウム合金(AuPd合金)
のうちのいずれかを主成分とする材料で形成されている、スパークプラグ。
【請求項14】
請求項8ないし請求項13のいずれかに記載のスパークプラグであって、
前記中心電極と前記接地電極は、前記スパークプラグの軸線方向に火花ギャップを形成する、スパークプラグ。
【請求項15】
請求項8ないし請求項14のいずれかに記載のスパークプラグであって、
前記中心電極と、前記接地電極は、前記スパークプラグの軸線方向と垂直な方向に火花ギャップを形成する、スパークプラグ。
【請求項16】
請求項8ないし請求項15のいずれかに記載のスパークプラグであって、
前記貴金属チップ部材は、厚さ方向と垂直な断面が直径Daの円である円筒形状を有し、
前記中間部材は、厚さ方向と垂直な断面が直径Dbの円である円筒形状を有し、
Db>Da
を満たす、スパークプラグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−253826(P2011−253826A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174442(P2011−174442)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【分割の表示】特願2008−151553(P2008−151553)の分割
【原出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【出願人】(000198709)石福金属興業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】