説明

スピロオルソエステル、ジスピロオルソエステル、それらの合成法、及びそれらの重合物。

【課題】
合成が容易で、重合時の体積収縮に起因する問題が少ない樹脂を製造することができるスピロオルソエステル、ジスピロオルソエステル、それらの合成法、及びそれらの重合物を提供すること。
【解決手段】
スピロオルソエステル、ジスピロオルソエステル、それらの合成法、及びそれらの重合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピロオルソエステル、ジスピロオルソエステル及びそれらの合成法、及びそれらの重合物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱可塑性および熱硬化性樹脂は、その重合時に体積収縮を起こすため、成形体の製造や接着物性に多大な影響を及ぼす。極端な場合は、ヒケ、ソリ、ボイド、クラックなどの発生あるいは接着強度の低下を引き起こし、精密部品の製造や接着に適していない。このため、無機フィラーや低収縮化剤と呼ばれる熱可塑性樹脂の添加による低収縮化がなされている。
しかしながら、このようなフィラーの添加により、比重の増大、耐衝撃性あるいは機械的強度の低下を招く恐れがある。また、低収縮化剤として、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル等が知られているが、これらは耐薬品性、耐衝撃性、耐熱性、機械的強度の低下あるいは相溶性不良により透明性が損なわれる問題がある。
【0003】
このような現状に鑑みて、重合時に非収縮性を示すモノマーおよびこれらを用いたポリマーが開発されつつある。例えば、特開昭56−72007号公報、同56−108792号公報、同56−108793号公報、同58−33320号公報、同58−49724号公報、同58−105934号公報、同58−189211号公報、同59−49228号公報、同62−263225号公報、同63−218719号公報、同63−295584号公報、特開平1−259025号公報、同2−187454号公報、同5−310856号公報、同6−322029号公報、同10−108906号公報。
【0004】
これらの化合物は、合成に多段の反応を必要とする、反応条件がきびしい等の難点があり、実用性には乏しいものがあった。また、収縮率に満足のいかないものもあった。双環状化合物は、単環化合物と比べて、合成が複雑であるものの収縮率がより小さく、膨張するものもある。例えば、I.Choらは(Polymer Journal,25(11),1187(1993))、7−メチル−2−フェニル−1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エンを、4−メチレン−2−フェニル−1,3−ジオキソランとメチルビニルケトンを用いて、耐圧容器中、200℃、7日という過酷な条件で反応し、得ている。ここで得られた単量体を重合すると、重合時に6.7%の体積膨張をするという。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、合成が容易で、重合時の体積収縮に起因する問題が少ない樹脂を製造するためのスピロオルソエステル、ジスピロオルソエステル、それらの合成法、及びそれらの重合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における第1発明のスピロオルソエステルは、次の一般式(I) で示される (式中、R1、R2は水素、アルキル基又はアリール基を示す。ただし、R1がメチル基、R2がフェニル基の場合を除く)。
【化4】

【0007】
本発明の第2発明のスピロオルソエステルは、次の一般式(II) で示される(式中、R3は水素、アルキル基又はアリール基、R4はアルキレン又はアリーレン基を示す)。
【化5】

【0008】
本発明の第3発明のジスピロオルソエステルは、次の一般式(III) で示される(式中、R5は水素又はアルキル基を示し、nは3〜5の範囲である)。
【化6】

【0009】
請求項1のスピロオルソエステル(I)は以下のように製造することができる。すなわち、本発明のスピロオルソエステル(I)の製造方法は、アルデヒド化合物と3−ハロゲン化−1,2−プロパンジオールを酸触媒下で縮合させる縮合工程と、該縮合工程で得られた生成物をアルカリで処理して4−メチレン−1,3−ジオキソラン誘導体とするアルカリ処理工程と、該4−メチレン−1,3−ジオキソラン誘導体とα,β−不飽和カルボニル化合物とを、金属塩触媒存在下で反応させて請求項1記載のスピロオルソエステル(I)を得るスピロ化工程とを備えることを特徴とする。
【0010】
請求項2のスピロオルソエステル(II)は以下のように製造することができる。すなわち、本発明のスピロオルソエステル(II)の製造方法は、ジアルデヒド化合物と3−ハロゲン化−1,2−プロパンジオールを酸触媒下で縮合させる縮合工程と、該縮合工程で得られた生成物をアルカリで処理してビス(4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−イル)誘導体とするアルカリ処理工程と、該ビス(4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−イル)誘導体とα,β−不飽和カルボニル化合物とを、金属塩触媒存在下で反応させて請求項2記載のスピロオルソエステル(II)を得るスピロ化工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
請求項3のジスピロオルソエステル(III)は以下のように製造することができる。すなわち、本発明のスピロオルソエステル(III)の製造方法は、エピクロロヒドリンと、ラクトンとを酸触媒下で縮合させる縮合工程と、該縮合工程で得られた生成物をアルカリで処理して2−メチレン−1,4,6−トリオキサスピロ誘導体とするアルカリ処理工程と、該2−メチレン−1,4,6−トリオキサスピロ誘導体これらとα,β−不飽和カルボニル化合物とを、金属塩触媒存在下で反応させて請求項3記載のスピロオルソエステル(III)を得るスピロ化工程とを備えることを特徴とする
【0012】
請求項1〜3のスピロオルソエステルまたはジスピロオルソエステルを重合させた重合体が本発明のスピロオルソエステルまたはジスピロオルソエステル重合体である。重合方法としては、カチオン重合の方法を用いることができる。こうして得られた重合体は、重合時の体積収縮による問題が少ない樹脂となる。このため、ヒケ、ソリ、ボイド、クラックなどの発生がすくなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のスピロオルソエステルまたはジスピロオルソエステルは、穏和な条件下で簡便に合成することができる。また、こうして得られた本発明のスピロオルソエステルあるいは本発明のジスピロオルソエステルを、室温以下で重合させた場合、体積収縮はほとんど起こらず、MPTDEはむしろ膨張した。従って、本発明のスピロオルソエステルまたはジスピロオルソエステルを用いれば、ヒケ、ソリ、ボイド、クラックなどの発生や接着強度の低下を引き起こすおそれが少なく、精密部品の製造や接着剤として適した樹脂材料となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のスピロオルソエステル及びジスピロオルソエステルには以下のようなものが挙げられる。
【0015】
【化7】

(式中、R1、R2は水素、アルキル基、又はアリール基を示す)。
【0016】
一般式(I)に示されるスピロオルソエステル(I)としては、2−メチル−1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン、2−フェニル−1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン、2,7−ジメチル−1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン、7−メチル−2−フェニル−1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン、2−メチル−7−フェニル−1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン、2,7−ジフェニル−1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン等が挙げられる。
【0017】
これらのスピロオルソエステルは、相当するアルデヒドと3−クロロ−1,2−プロパンジオールを酸触媒下で縮合し、得られた生成物をアルカリで処理すると4−メチレン−1,3−ジオキソラン誘導体が得られる。これとアクロレイン、メチルビニルケト、フェニルビニルケトン等との反応を、金属塩触媒を用いて行うことにより得られる。
【0018】
【化8】

(式中、R3は水素、アルキル基又はアリール基、R4はアルキレン又はアリーレン基を示す)
【0019】
本発明の一般式(II)に示されるスピロオルソエステルとしては、1,4−ビス(1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン−2−イル)ブタン、1,3−ビス(1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン−2−イル)ベンゼン、1,4−ビス(1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン−2−イル)ベンゼン、1,4−ビス(7−メチル−1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン−2−イル)ブタン、1,3−ビス(7−メチル−1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン−2−イル)ベンゼン、1,4−ビス(7−メチル−1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン−2−イル)ベンゼン、1,4−ビス(7−フェニル−1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン−2−イル)ブタン、1,3−ビス(7−フェニル−1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン−2−イル)ベンゼン、1,4−ビス(7−フェニル−1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン−2−イル)ベンゼン等が挙げられる。
【0020】
これらのスピロオルソエステル(II)は、相当するジアルデヒドと3−クロロ−1,2−プロパンジオールを酸触媒下で縮合し、得られた生成物をアルカリで処理するとビス(4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−イル)誘導体が得られる。これとアクロレイン、メチルビニルケト、フェニルビニルケトン等との反応を、金属塩触媒を用いて行うことにより得られる。
【0021】
【化9】

(式中、R5は水素、メチル基、フェニル基等、nは3,4,5を示す)で示されるジスピロオルソエステル単量体に関する。
【0022】
本発明の一般式(III)に示されるジスピロオルソエステルとしては、1,6,8,14−テトラオキサジスピロ[4.1.5.2]テトラデカ−9−エン、1,7,9,14−テトラオキサジスピロ[5.1.5.2]ペンタデカ−2−エン、1,7,9,15−テトラオキサジスピロ[5.1.6.2]ヘキサデカ−2−エン、9−メチル−1,6,8,14−テトラオキサジスピロ[4.1.5.2]テトラデカ−9−エン、2−メチル−1,7,9,14−テトラオキサジスピロ[5.1.5.2]ペンタデカ−2−エン、2−メチル−1,7,9,15−テトラオキサジスピロ[5.1.6.2]ヘキサデカ−2−エン、9−フェニル−1,6,8,14−テトラオキサジスピロ[4.1.5.2]テトラデカ−9−エン、2−フェニル−1,7,9,14−テトラオキサジスピロ[5.1.5.2]ペンタデカ−2−エン、2−フェニル−1,7,9,15−テトラオキサジスピロ[5.1.6.2]ヘキサデカ−2−エンが挙げられる。
【0023】
これらのジスピロオルソエステル(III)は、エピクロロヒドリンとγ−ブチロラクトン又は、δ−バレロラクトン又は、ε−カプロラクトンを酸触媒下反応し、得られた生成物をアルカリ処理することでそれぞれ、2−メチレン−1,4,6−トリオキサスピロ[4.4]ノナン、2−メチレン−1,4,6−トリオキサスピロ[4.5]デカン、2−メチレン−1,4,6−トリオキサスピロ[4.6]ウンデカンを与える。これらとアクロレイン、メチルビニルケトンあるいはフェニルビニルケトンとの反応を、金属塩触媒を用いて行うことにより得られる。
【0024】
上記スピロオルソエステルやジスピロオルソエステルを製造する場合に使用する金属塩触媒として、例えばトリス(6,6,7,7,8,8,8−ヘプタフルオロ−2,2−ジメチル−3,5−オクタンジオネート)イッテルビウム(Yb(fod)3)、トリス(6,6,7,7,8,8,8−ヘプタフルオロ−2,2−ジメチル−3,5−オクタンジオネート)ジスプロシウム(Dy(fod)3)、トリス(6,6,7,7,8,8,8−ヘプタフルオロ−2,2−ジメチル−3,5−オクタンジオネート)エルビウム(Er(fod)3)、トリス(6,6,7,7,8,8,8−ヘプタフルオロ−2,2−ジメチル−3,5−オクタンジオネート)ユウロピウム(Eu(fod)3)、トリス(6,6,7,7,8,8,8−ヘプタフルオロ−2,2−ジメチル−3,5−オクタンジオネート)ガドリニウム(Gd(fod)3)、トリス(6,6,7,7,8,8,8−ヘプタフルオロ−2,2−ジメチル−3,5−オクタンジオネート)ホルミウム(Ho(fod)3)等が挙げられる。
【0025】
これら触媒量の使用量は適宜調整すればよいが、一般には4−メチレン−1,3−ジオキソラン誘導体、ビス(4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−イル)誘導体、2−メチレン−1,4,6−トリオキサスピロ誘導体に対して0.1%〜10%が好ましく、さらに好ましくは1〜5%である。
【0026】
また、スピロ化工程は、無溶媒又は有機溶媒中で行われる。使用される有機溶媒は、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、シクロヘキサンが挙げられる。好ましくは、無溶媒またはシクロヘキサンを用いれば収率が高くなるため好適である。
【0027】
スピロ化工程における反応温度も特に限定はないが、25℃から120℃、好ましくは25〜80℃である。25℃では反応完結に長時間かかるが、80℃ではわずか8時間で終了する。
【0028】
スピロオルソエステルの重合は、通常カチオン性触媒により行うことができる。また光、熱潜在性カチオン開始剤も使用できる。
【0029】
カチオン性触媒として、硫酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等のプロトン酸、三フッ化ホウ素、三塩化アルミニウム等のルイス酸、メタンスルホン酸メチル、トリフルオロメタンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸メチル等のメチル化剤等が挙げられる。
【0030】
これらの触媒の使用量は、一般にはスピロオルソエステル単量体に対して0.01%〜10%、好ましくは0.1%〜5モル%である。0.01モル%以下では、重合は進行するものの、反応が完結するまで長時間かかるため好ましくない。一方、10モル%を超える場合、一般式(I)のスピロオルソエステルは重合が急激に進行するため、また低分子量体を与えるため好ましくない。
【0031】
重合は、塊状又は溶液重合で行われる。溶液重合で使用される溶媒は、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素のようなハロゲン化炭化水素、ベンゼン、トルエン、ヘキサン等の炭化水素、ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物が挙げられる。
【0032】
溶液重合の場合、単量体濃度としては、0.5〜10モル/l、好ましくは1〜5モル/lである。
【0033】
重合温度は、重合方法、使用するスピロオルソエステル、触媒の種類および濃度等により異なるため、一般に規定できないが、通常は−78℃〜200℃、好ましくは−30℃〜60℃である。
【0034】
重合時間は、重合方法、使用するスピロオルソエステル、単量体濃度、触媒の種類および濃度により異なるため、一般に規定はできないが、通常0.1〜72時間、好ましくは1〜24時間である。
【0035】
生成した重合体は、これを例えばジエチルエーテル、メタノール、ヘキサン等の非溶媒中に沈殿析出させ、洗浄精製することで得られる。
【0036】
本発明のスピロオルソエステル(I)の重合体は、ポリスチレン換算で数千〜数万の数平均分子量を有する。スピロオルソエステル(II)、ジオルソスピロエステル(III)の場合は架橋体を与える。
【実施例】
【0037】
次に本発明を実施例および参考例により、さらに詳細に説明する。以下の実施例において使用した分析方法は次の通りである。
1.構造解析:赤外吸収スペクトル(日本分光製FT/IR−410を用いて測定した。)、NMRスぺクトル(日本電子製JNM−EX400核磁気共鳴装置を用いて1HNMR、13CNMRスペクトルを測定した。)
2.数平均分子量:ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(日本分光製送液ポンプ880−PU型、昭和電工製溶液ガス除去装置ShodexDEGASKT、カラム高温槽ShodexOVENAO−50、カラムShodex3本、クロロホルムを溶離液とし、1ml/分で測定した。)
【0038】
実施例1
7−メチル−2−フェニル−1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン(MPTDE)の合成
1lのナス型フラスコに、55.3g(0.50モル)のベンズアルデヒド、53.1g(0.50モル)の3−クロロ−1,2−プロパンジオール、500mlのベンゼンを入れ、酸触媒として2.0gのp−トルエンスルホン酸を加え、反応によって生じる水を共沸除去しながら、還流した。反応終了後、反応液をアルカリ水、水の順で良く洗浄し、得られたベンゼン相を硫酸マグネシウムで乾燥した。ベンゼンを減圧下で除去した後、残留物を減圧蒸留し(沸点112−113℃/0.3Torr)、84.8g(収率85%)の4−クロロメチル−2−フェニル−1,3−ジオキソランを得た。
ここで得られた49.6g(0.25モル)の4−クロロメチル−2−フェニル−1,3−ジオキソランと溶媒として300mlのDMFを三口フラスコに入れ、0℃に冷却後、徐々に27.0g(0.50モル)のナトリウムメトキシドを加え、添加後10時間反応した。反応終了後、反応溶液を氷水中に投入し、有機相をジエチルエーテルを用いて抽出した。ジエチルエーテルを除いた後、残留物を減圧下で蒸留し(沸点90−91℃/3.0Torr)、35.0g(収率86%)の4−メチレン−2−フェニル−1,3−ジオキソランを得た。
次に、50mlのナスフラスコに、8.1g(0.050モル)の4−メチレン−2−フェニル−1,3−ジオキソラン、7.0g(0.10モル)のメチルビニルケトン、0.75g(1モル%)のYb(fod)3、0.01gのp−tert−ブチルフェノールを入れ、25℃で5日間反応した。反応終了後、反応液を水中に投入し、有機相をジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテルを除いた後、残留物を減圧下で蒸留した(沸点120−121℃/0.3Torr)。その結果、7.9g(収率72%)のMPTDEが得られた。化合物の赤外線吸収(IR)スペクトルおよびNMRスペクトルの結果、MPTDEであることが確認された。IRおよびNMRスペクトルを図1と図2に示す。また、種々の触媒を用いた結果を表1、また、反応温度と時間の関係を表2に示す。これらの結果からわかるように、スピロ化工程における最適な触媒はYb(fod)3であり、反応温度80℃、無溶媒では約8時間で反応はほぼ完結する。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
実施例2
1,3−ビス(7−メチル−1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン−2−イル)ベンゼン(mBMTDEYB)の合成
500mlのナス型フラスコに、13.4g(0.10 モル)のイソフタルアルデヒド、22.1g(0.20モル)の3−クロロ−1,2−プロパンジオール、200mlのベンゼンを入れ、酸触媒として1.0gのp−トルエンスルホン酸を加え、反応によって生じる水を共沸除去しながら、還流した。反応終了後、反応液をアルカリ水、水の順で良く洗浄し、得られたベンゼン相を硫酸マグネシウムで乾燥した。ベンゼンを減圧下で除去し、31.8g(100%)の1,3−ビス(4−クロロメチル−1,3−ジオキソン−2−イル)ベンゼンを得た。
ここで得られた31.8g(0.10モル)の1,3−ビス(4−クロロメチル−1,3−ジオキソラン−2−イル)ベンゼン、溶媒として200mlのDMFを三口フラスコに入れ、0℃で徐々に21.6g(0.40モル)のナトリウムメトキシドを加え、添加後10時間反応した。反応終了後、反応溶液を氷水中に投入し、有機相をジエチルエーテルを用いて抽出した。ジエチルエーテルを除いた後、残留物を減圧下で蒸留し(沸点159−160℃/0.8Torr)、18.1g(収率73%)の1,3−ビス(4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−イル)ベンゼンを得た。
次に、100mlのナスフラスコに、4.9g(0.020モル)の1,3−ビス(4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−イル)ベンゼン、5.7g(0.080 モル)のメチルビニルケトン、50mlのシクロヘキサン、1.5g(5モル%)のYb(fod)3を入れ、室温で7日反応した。反応終了後、反応液を水中に投入し、有機相をジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテルを除いた後、残留物をカラムクロマトにより分離した。その結果、3.8g(収率49%)のmBMTDEYBが得られた。化合物の赤外線吸収(IR)スペクトルおよびNMRスペクトルの結果、mBMTDEYBであることが確認された。IRおよびNMRスペクトルを図3と図4に示す。
【0042】
実施例3
9−メチル−1,6,8,14−テトラオキサジスピロ[4.1.5.2]テトラデカ−9−エン(MTTDE)の合成
500mlの三口フラスコに34.4g(0.40モル)のγ−ブチロラクトン、2mlの三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、200mlの塩化メチレンを入れ、55.5g(0.46モル)のエピクロロヒドリンを0℃でゆっくり滴下した。滴下終了後、そのまま24時間反応した。反応終了後、反応溶液を氷水中に投入し、有機相を塩化メチレンで抽出した。塩化メチレンを除去した後、得られた粗生成物を減圧下で蒸留し(沸点84−85℃/4Torr)、55.2g(77%)の2−クロロメチル−1,4,6−トリオキサスピロ[4.4]ノナンを得た。これを200mlのDMFに溶かして500mlの三口フラスコに入れ、0℃で、33.5g(0.62モル)のナトリウムメトキシドを加えた。10時間反応後、反応混合物を氷水中に投入し、有機相をジエチルエーテルを用いて抽出した。ジエチルエーテルを除去した後、減圧下で蒸留精製し(沸点90−91℃/25Torr)、31.0g(71%)の2−メチレン−1,4,6−トリオキサスピロ[4.4]ノナンを得た。
次に、100mlのナスフラスコに、3.6g(0.025モル)の2−メチレン−1,4,6−トリオキサスピロ[4.4]ノナン、3.5g(0.050モル)のメチルビニルケトン、0.38g(1 モル%)のYb(fod)3を入れ、室温で5日反応した。反応終了後、反応液を水中に投入し、有機相をジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテルを除いた後、残留物をカラムクロマトにより分離した。その結果、2.1g (収率40%)のMTTDEが得られた。化合物の赤外線吸収(IR)スペクトルおよびNMRスペクトルの結果、MTTDEであることが確認された。IRおよびNMRスペクトルを図5と図6に示す。
【0043】
実施例4
MPTDEの重合
重合封管中に、0.50g(2.3ミリモル)のMPTDE、9.7mg(3モル%)の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、1mlの塩化メチレンを入れ、セプタムラバーで蓋をし、−30℃で24時間反応した。反応終了後、クロロホルムで希釈し、ヘキサンに投入した。得られたポリマーをクロロホルムに再溶解し、ジエチルエーテルで再沈した。0.35g(収率70%)の赤みがかった粉末が得られた。得られた生成物のIRスペクトルを図7に示す。数平均分子量は、ポリスチレン換算で17,000であった。また、ポリマーの密度が1.160g/cm3であり、モノマーの密度は1.202g/cm3であることから、3.5%の体積膨張が認められた。その他に様々な条件で重合を行った結果を表3に示す。その結果、重合温度が室温以下では、重合時の体積収縮が起こらず、膨張することがわかった。
【0044】
【表3】

【0045】
実施例5
mBMTDEYBの重合
重合封管中に、0.50g(13ミリモル)のmBMTDEYB、5.5mg(3モル%)の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を入れ、セプタムラバーで蓋をし、0℃で24時間反応した。反応終了後、重合管にヘキサンを入れ、未反応の単量体を除き、0.48g(収率96%)の重合体が得られた。得られた生成物のIRスペクトルを図8に示す。ポリマーの密度が1.214g/cm3であり、モノマーの密度は1.213g/cm3であることから、ほとんど体積収縮は起こらなかった。その他のモノマーを重合した結果を表4に示す。1,4−ビス(7−メチル−1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン−2−イル)ベンゼン、1,4−ビス(7−メチル−1,3,6−トリオキサスピロ[4.5]デカ−7−エン−2−イル)ブタンをそれぞれpBMTDEYB、BMTDEYBuと略す。これらの結果も先程と同様に、室温での重合はほとんど体積収縮を起こさないが、反応温度を上げると体積収縮が起こることがわかった。
【0046】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】MPTDEのIRスペクトルを示す図である。
【図2】MPTDEのNMRスペクトルを示す図である。
【図3】本発明のmBMTDEYBのIRスペクトルを示す図である。
【図4】本発明のmBMTDEYBのNMRスペクトルを示す図である。
【図5】本発明のMTTDEのIRスペクトルを示す図である。
【図6】本発明のMTTDEのNMRスペクトルを示す図である。
【図7】実施例4のポリマーのIRスペクトルを示す図である。
【図8】実施例5のポリマーのIRスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(I) で示されるスピロオルソエステル(式中、R1、R2は水素、アルキル基、又はアリール基を示す。ただし、R1がメチル基、R2がフェニル基の場合を除く)。
【化1】

【請求項2】
次の一般式(II) で示されるスピロオルソエステル(式中、R3は水素、アルキル基又はアリール基、R4はアルキレン又はアリーレン基を示す)。
【化2】

【請求項3】
次の一般式(III) で示されるジスピロオルソエステル(式中、R5は水素又はアルキル基を示し、nは3〜5の範囲である)。
【化3】

【請求項4】
アルデヒド化合物と3−ハロゲン化−1,2−プロパンジオールを酸触媒下で縮合させる縮合工程と、該縮合工程で得られた生成物をアルカリで処理して4−メチレン−1,3−ジオキソラン誘導体とするアルカリ処理工程と、該4−メチレン−1,3−ジオキソラン誘導体とα,β−不飽和カルボニル化合物とを、金属塩触媒存在下で反応させて請求項1記載のスピロオルソエステル(I)を得るスピロ化工程とを備えることを特徴とするスピロオルソエステル(I)の製造方法。
【請求項5】
ジアルデヒド化合物と3−ハロゲン化−1,2−プロパンジオールを酸触媒下で縮合させる縮合工程と、該縮合工程で得られた生成物をアルカリで処理してビス(4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−イル)誘導体とするアルカリ処理工程と、該ビス(4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−イル)誘導体とα,β−不飽和カルボニル化合物とを、金属塩触媒存在下で反応させて請求項2記載のスピロオルソエステル(II)を得るスピロ化工程とを備えることを特徴とするスピロオルソエステル(II)の製造方法。
【請求項6】
エピクロロヒドリンと、ラクトンとを酸触媒下で縮合させる縮合工程と、該縮合工程で得られた生成物をアルカリで処理して2−メチレン−1,4,6−トリオキサスピロ誘導体とするアルカリ処理工程と、該2−メチレン−1,4,6−トリオキサスピロ誘導体とα,β−不飽和カルボニル化合物とを、金属塩触媒存在下で反応させて請求項3記載のジスピロオルソエステル(III)を得るスピロ化工程とを備えることを特徴とするジスピロオルソエステル(III)の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載のスピロオルソエステル(I)を重合させたことを特徴とするスピロオルソエステル重合体。
【請求項8】
請求項2記載のスピロオルソエステル(II)を重合させたことを特徴とするスピロオルソエステル重合体。
【請求項9】
請求項3記載のジスピロオルソエステル(III)を重合させたことを特徴とするジスピロオルソエステル重合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−63132(P2007−63132A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246912(P2005−246912)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【Fターム(参考)】