説明

スピロ化合物の製造方法

【課題】 フォトクロミック化合物等の機能性色素の原料として有用なクロメン化合物の中間体となり得るスピロ化合物を、高収率で効率的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】 アルコキシ基がナフタレン環に結合している特定の構造を有する3級アルコール化合物を、25℃における水溶液中のpKaが0.8〜4.4である酸と反応させることにより、該アルコキシ基が脱離したスピロ化合物の生成を大幅に低減し、その結果、高収率、且つ、高選択率で目的とするスピロ化合物を得る製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な化合物の中間体、例えば、フォトクロミック化合物の中間体として使用されているスピロ化合物の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スピロ化合物は、様々な化合物の中間体として使用されている。具体的には、医薬品、農薬、フォトクロミック化合物等の中間体として使用されている。
【0003】
前記フォトクロミック化合物とは、ある化合物に太陽光あるいは水銀灯の光のような紫外線を含む光を照射すると速やかに色が変わり、光の照射をやめて暗所におくと元の色に戻る可逆作用を示す化合物であり、フォトクロミックプラスチックレンズ材料として使用されている。このようなフォトクロミック化合物としては、退色速度が速く、フォトクロミック性の耐久性に優れた化合物として、スピロ化合物とプロパルギルアルコール誘導体とを反応させて得られるクロメン化合物が知られている。
【0004】
このようなクロメン化合物の中間体として使用されるスピロ化合物の合成は、分子内フリーデルクラフツ反応による脱水によって実施されることが多い(酸触媒を使用して、3級アルコール化合物をビニル化合物とし、次いで、スピロ化合物とする方法で実施される場合が多い。)。具体的な方法としては、下記式(A)に示すように、1−(2−ビフェニル)シクロキサノールをピリジン、塩化チオニルで処理した後に得られる1−(2−ビフェニル)−シクロヘキセンを原料とし、ベンゼン中、酸触媒にp−トルエンスルホン酸・一水和物を使用する方法で、スピロ[シクロヘキサン−9,9フルオレン]を収率84%で得る方法(例えば、非特許文献1)が知られている。
【0005】
【化1】

【0006】
このような方法をフォトクロミック特性に優れたクロメン化合物の中間体であるスピロ化合物の合成に適宜使用することは可能であり、該スピロ化合物の製造方法として、以下の方法が知られている(特許文献1、2参照)。
【0007】
具体的には、酸触媒として酢酸、塩酸、硫酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、又は酸性アルミナ等を使用することにより、前記式(A)の3級アルコール化合物に類似した構造の3級アルコール化合物(ヒドロキシ−フルオレノン誘導体)を、フォトクロミック特性に優れたクロメン化合物の中間体となるスピロ化合物とすることができる。
しかしながら、本発明者等の検討によれば、スピロ化合物の原料である3級アルコール化合物の内、ナフタレン環にアルコキシ基が結合した化合物をスピロ化する際、非特許文献1、特許文献1、及び2に記載されている酸触媒を使用すると、目的とするスピロ化合物以外に、アルコキシ基が切断されたスピロ化合物(以下、脱アルキル体という)が副生する場合があった。また、使用する酸によっては、反応速度が遅くなったり、中間体であるビニル化合物が多く生成する場合があった。さらに、前記脱アルキル体の副生量は、反応液中に存在する水分量に影響され、水分量が多いほど多くなり、また、反応開始時の反応溶液中の水分量を極力減らしたとしても、反応途中で原料の3級アルコール化合物が脱水して生じる水により、脱アルキル体が副生することも分かった。
【0008】
【非特許文献1】Can.J.Chem.、63巻、1985年、2192−2196ページ
【特許文献1】国際公開特許WO2005/028465号パンフレット
【特許文献2】国際公開特許WO2001/60811号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1、及び2にも示されている通り、アルコキシ基を有する3級アルコール化合物をスピロ化したスピロ化合物は、優れたフォトクロミック特性を示すクロメン化合物の有用な中間体として使用することができる。
【0010】
しかしながら、前記スピロ化合物に脱アルキル体が含まれると、脱アルキル体もスピロ化合物と同じく、例えば、プロパルギルアルコール誘導体と反応するため、最終生成物中に、構造が類似した不純物を多く含むようなり、最終生成物の精製が煩雑になる。そのため、前記脱アルキル体の副生量が少なく、収率が高いスピロ化合物の製造方法が求められていた。
【0011】
したがって、本発明の目的は、フォトクロミック化合物の原料として有用なスピロ化合物を製造する方法において、脱アルキル体の副生量が少なく、目的とするスピロ化合物を高収率で製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。そして、使用する酸触媒に着目して検討を行った結果、特定のpKaの範囲を満足する酸を使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、
下記式(1)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、
は、ナフタレン環に結合する基であって、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アミノ基、水酸基、アリール基、ハロゲン原子、窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とナフタレン環とが結合する複素環基、または該複素環基に芳香族炭化水素環若しくは芳香族複素環が縮合した縮合複素環基であり、
は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アミノ基、アリール基、ハロゲン原子、窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とベンゼン環とが結合する複素環基、または該複素環基に芳香族炭化水素環若しくは芳香族複素環が縮合した縮合複素環基であり、
は、炭素数1〜20のアルキル基であって、ORはナフタレン環に結合する基であり、
、およびRは、それぞれ、炭素数1〜20のアルキル基であり、R、およびRは互いに連結して炭素数3〜20の環を形成してもよく、
、およびRは、それぞれ、水素原子、フッ素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基であり、R、およびRは互いに連結して炭素数3〜20の環を形成してもよく、
pは1〜5の整数、qは0〜4の整数、rは1〜4の整数であって、pは0〜5の整数、qは1〜4の整数、rは1〜4の整数であって、pとrの合計が1〜6であり、sは0又は1の整数である。)
で示される3級アルコール化合物と、25℃における水溶液中のpKaが0.8〜4.4である酸とを反応させることを特徴とする、下記式(2)
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、R〜R、及びp〜rは、前記式(1)におけるものと同義である。)
で示されるスピロ化合物の製造方法である。
【0018】
また、第2の本発明は、前記式(1)におけるsが0である3級アルコール化合物を使用することを特徴とするスピロ化合物の製造方法である。
【0019】
また、第3の本発明は、25℃における水溶液中のpKaが0.8〜4.4である酸がギ酸であることを特徴とする前記スピロ化合物の製造方法である。
【0020】
更に、第4の本発明は、前記式(1)で示される3級アルコール化合物と25℃における水溶液中のpKaが0.8〜4.4である酸との反応を、反応溶液中の水分量が5質量%以下となるような条件下で行うことを特徴とする前記スピロ化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ナフタレン環に結合したアルコキシ基が切断された脱アルキル体の副生量を大幅に低減することができる。その結果、目的とするスピロ化合物の収率を高めることができる。また、反応収率、及び目的物の選択率が高いため、精製工程の簡便化が可能となる。
【0022】
以上の通り、本発明は、高純度品が求められるフォトクロミック化合物の原料として有用なスピロ化合物を高収率で得ることができるため、工業的実施において非常に有用な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、フォトクロミック化合物として有用なアルコキシ基を有する3級アルコール化合物をスピロ化する際、25℃における水溶液中のpKaが0.8〜4.4である酸を使用することで、脱アルキル体の副生量を大幅に低減でき、目的とするスピロ化合物を高収率で製造することを可能としたものである。以下、本発明の製造方法で使用する反応物、反応条件や反応手順、生成物等について詳しく説明する。
(3級アルコール化合物)
本発明の方法で使用する3級アルコール化合物は、下記式(1)で示される。
【0024】
【化4】

【0025】
(式中、Rは、ナフタレン環に結合する基であって、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アミノ基、水酸基、アリール基、ハロゲン原子、窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とナフタレン環とが結合する複素環基、または該複素環基に芳香族炭化水素環若しくは芳香族複素環が縮合した縮合複素環基であり、
は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アミノ基、アリール基、ハロゲン原子、窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とナフタレン環とが結合する複素環基、または該複素環基に芳香族炭化水素環若しくは芳香族複素環が縮合した縮合複素環基であり、
は、炭素数1〜20のアルキル基であって、ORはナフタレン環に結合する基であり、
、およびRは、それぞれ、炭素数1〜20のアルキル基であり、R、およびRは互いに連結して炭素数3〜20の環を形成してもよく、
、およびRは、それぞれ、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜20のアルキル基であり、R、およびRは互いに連結して炭素数3〜20の環を形成してもよく、
pは0〜5の整数、qは0〜4の整数、rは1〜4の整数であって、pは0〜5の整数、qは0〜4の整数、rは1〜4の整数であって、pとrの合計が1〜6であり、sは0又は1の整数である。)。
【0026】
このような3級アルコール化合物は、前記特許文献1や2に記載の方法で製造することができる。
【0027】
(基R
前記式(1)において、Rはナフタレン環に結合する基である。そのため、基Rの数を示すpは、前記式(1)で示される3級アルコール化合物において、下記に詳述する基ORが必須のため、0〜5の整数となる。
【0028】
は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アミノ基、水酸基、アリール基、ハロゲン原子、窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とナフタレン環とが結合する複素環基、または該複素環基に芳香族炭化水素基若しくは芳香族複素環が結合した縮合複素環基である。
【0029】
ここで、炭素数1〜20のアルキル基を具体的に例示すると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコサニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等を挙げることができ、この内、特に、得られるスピロ化合物の有用性の点より、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が好ましく、特に、メチル基、エチル基が好ましい。
【0030】
また、炭素数1〜20のアルコキシ基を具体的に例示すると、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、トリデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基、ペンタデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、ヘプタデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、ノナデシルオキシ基、イコサニルオキシ基、メチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基、プロピレンジオキシ基、ベンジルオキシ等を挙げることができ、この内、特に、得られるスピロ化合物の有用性の点より、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、メチレンジオキシ基、プロピレンジオキシ基、ベンジルオキシ基が好ましく、特に、メトキシ基、エトキシ基、メチレンジオキシ基、ベンジルオキシ基が好ましい。
【0031】
アミノ基としては、1級アミノ基に限定されず、置換基を有する2級アミノ基や3級アミノ基であってもよい。かかるアミノ基が有する置換基としては、特に限定されないが、アルキル基またはアリール基が代表的である。アルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基が好ましい。このような置換アミノ基(2級アミノ基或いは3級アミノ基)の好適な例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基等のアルキルアミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;フェニルアミノ基等のアリールアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;フェニルメチルアミノ基、フェニルエチルアミノ基等のアルキル基、フェニル基を有するアミノ基などを挙げることできる。この内、特に、得られるスピロ化合物の有用性の点より、ジメチルアミノ基、ジブチルアミノ基、が好ましい。
【0032】
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基を挙げることができる。またアリール基は、アリール基の水素原子の少なくとも一つが置換基で置換されたものであってもよく、これら置換基を有するアリール基を例示すれば、アルキル基で置換されたアルキル置換アリール基、アルコキシ基で置換されたアルコキシ置換アリール基、アミノ基で置換されたアミノ基置換アリール基、複素環基で置換された置換アリール基等を挙げることができる。
【0033】
アルキル置換アリール基のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、アルコキシ基置換アリール基のアルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましい。アルキル置換アリール基、及びアルコキシ置換アリール基を具体的に例示すれば、2−トルイル基、3−トルイル基、4−トルイル基、2−エチルフェニル基、3−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−エトキシフェニル基、3−エトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、2−プロポキシフェニル基、3−プロポキシフェニル基、4−プロポキシフェニル基、2,4−ジメトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基、2,4−エトキシフェニル基、2,6−ジエトキシフェニル基、2,4,6−トリエトキシフェニル基が挙げられる。この内、特に、得られるスピロ化合物の有用性の点より、2−トルイル基、4−トルイル基、2−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2,4−ジメトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基が好ましく、特に、2−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2,4−ジメトキシフェニル基が好ましい。
【0034】
アミノ基置換アリール基のアミノ基としては、アミノ基以外に、炭素数1〜10のアルキル基、1〜4の酸素原子を有する炭素数1〜10の直鎖状、分岐状のエーテル結合を有する基で置換されたアミノ基が好ましい。アミノ基置換アリール基を具体的に例示すれば、2−ジメチルアミノフェニル基、3−ジメチルアミノフェニル基、4−ジメチルアミノフェニル基、4−ビス(エトキシメチル)アミノフェニル基、4−ビス(メトキシエチル)アミノフェニル基等が挙げられる。これらの内、特に、得られるスピロ化合物の有用性の点より、4−ジメチルアミノフェニル基であることが好ましい。
【0035】
さらに、複素環基で置換された置換アリール基の複素環基としては、窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とアリール基の環とが結合する複素環基、又は該複素環基に芳香族炭化水素基若しくは芳香族複素環が結合した縮合複素環基が挙げられる。該複素環基は、特に制限されるものではないが、複素環基を構成する炭素原子の数が2〜10、特に2〜6のものであることが好ましい。また、該複素環内には、アリール基の環に結合する窒素原子の他に更にヘテロ原子が存在してもよい。該へテロ原子は、特に制限されないが、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられ、中でも、得られるスピロ化合物の有用性の点より、酸素原子であることが好ましい。さらに、前記複素環基、又は前記縮合複素環基は、置換基を有していてもよく、この置換基としては、モルホリノ基、ピペリジノ基、ヘキサメチレンイミノ基等が挙げられる。このような複素環基で置換された置換アリール基を具体的に例示すると、2−モルホリノフェニル基、3−モルホリノフェニル基、4−モルホリノフェニル基、2−ピペリジルフェニル基、3−ピペリジルフェニル基、4−ピペリジルフェニル基、3−ヘキサメチレンイミノフェニル基、4−ヘキサメチレンイミノフェニル基、4−(2,6−ジメチルモルホリノ)フェニル基等を挙げられる。この内、特に、得られるスピロ化合物の有用性の点より、4−モルホリノフェニル基、4−ピペリジルフェニル基、4−(2,6−ジメチルモルホリノ)フェニル基、4−ヘキサメチレンイミノフェニル基が好ましい。
【0036】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素を挙げることができ、この内特に得られるスピロ化合物の有用性の観点より、フッ素が好ましい。
【0037】
窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とナフタレン環とが結合する複素環基、または該複素環基に芳香族炭化水素基若しくは芳香族複素環が結合した縮合複素環基としては、特に制限されるものではないが、複素環基を構成する炭素原子の数が2〜10、特に2〜6のものであることが好ましい。また、該複素環内には、ナフタレン環に結合する窒素原子の他に更にヘテロ原子が存在してもよい。該へテロ原子は、特に制限されないが、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられ、中でも、得られるスピロ化合物の有用性の点より、酸素原子であることが好ましい。さらに、前記複素環基、又は前記縮合複素環基は、置換基を有していてもよく、この置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。これら複素環基を具体的に例示すれば、モルホリノ基、2,6−ジメチルモルホリノ基、ピロリジル基、ピペリジル基、ヘキサメチレンイミノ基等を挙げることができる。この内、特に、得られるスピロ化合物の有用性の点より、モルホリノ基、ピペリジル基が好ましい。
【0038】
(基R
は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アミノ基、アリール基、ハロゲン原子、窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とベンゼン環とが結合する複素環基、または該複素環基に芳香族炭化水素基若しくは芳香族複素環が結合した縮合複素環基である。これらの基は、前述の基Rにおいて説明した基と同様な置換基が好適な例として挙げられる。なお、Rにおける前記複素環基(複素環基、及び縮合複素環基)は、Rが結合する環がベンゼン環である以外は、Rと同じ複素環基である。
【0039】
(基R
は、炭素数1〜20のアルキル基であり、具体的な例示及び好ましいアルキル基としては、基Rで説明したものと同じものを挙げることができる。本発明は、下記に詳述するが、良好なフォトクロミック特性を有するクロメン化合物を合成するために有用なスピロ化合物とするには、このアルキル基と酸素原子が結合したアルコキシ基を有する3級アルコール化合物を原料とする必要がある。本発明は、このような3級アルコール化合物からスピロ化合物を製造する場合に、特に優れた効果を発揮するものである。
【0040】
(基Rおよび基R
、およびRは、それぞれ、炭素数1〜20のアルキル基であり、R、およびRは互いに連結して炭素数3〜20の環を形成してもよい基である。
【0041】
ここで、炭素数1〜20のアルキル基は、基Rで説明したものを挙げることができる。中でも、得られるスピロ化合物の有用性の点より、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が好ましく、特に、メチル基、エチル基が好ましい。なお、この場合、R、およびRは、同一の基であってもよいし、それぞれ互いに異なる基であってもよい。
【0042】
また、R、およびRが互いに結合して環を形成する場合の基としては、環を形成する炭素数が3〜20であり、好ましくは炭素数が4〜20、さらに好ましくは5〜15のものである。このような環としては、炭素数が上記範囲を満足する脂肪族炭化水素環が挙げられ、単環、ビシクロ環、トリシクロ環が挙げられる。
【0043】
さらに、該環は置換基を有していてもよく、その場合の置換基としては、基Rで説明した炭素数1〜20のアルキル基を挙げることができる。その中でも特に、得られるスピロ化合物の有用性の観点より、メチル基、エチル基が好ましい。このような基Rと基Rとにより形成される環は、2つの結合手を有する炭素原子(スピロ炭素原子)の位置は特に制限はされないが、具体例としては、下記のものを例示することができる。ただし、これに限定されるわけではない。なお、下記に示す環において、最も下に位置するスピロ炭素原子が、基R及び基Rが結合している炭素原子に相当する。
【0044】
【化5】

【0045】
(基Rおよび基R
、およびRは、それぞれ、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜20のアルキル基であり、R、およびRは互いに連結して炭素数3〜20の環を形成してもよい基である。
【0046】
ここで、炭素数1〜20のアルキル基は、基Rで説明したものを挙げることができる。中でも、得られるスピロ化合物の有用性の点より、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が好ましく、特に、メチル基、エチル基が好ましい。なお、この場合、R、およびRは、同一の基であってもよいし、それぞれ互いに異なる基であってもよい。
【0047】
また、R、およびRは互いに連結して形成する炭素数3〜20の環基に関しては、R、およびRで説明したものと同じものを挙げることができる。
【0048】
(基の数、p、q、r、s)
前記式(1)において、p、q、r、およびsは、基R、基R、基(OR)、及び基(CR)の数を示すものである。pは0〜5、qは0〜4、rは1〜4の整数であって、pとrの合計が1〜6あり、sは0又は1の整数である。中でも、得られるスピロ化合物の有用性の観点より、pは0〜2、qが0〜2、rが1〜2であって、pとrの合計が1〜4であり、sが0であるのが特に好ましい。なお、pが2以上である場合には、各Rは、同じ基であってもよいし、互いに異なる基であってもよい。また同じく、qが2以上である場合には、各Rは、同じ基であってもよいし、互いに異なる基であってもよい。さらに同じく、rが2以上である場合には、各Rは、同じ基であってもよいし、互いに異なる基であってもよい。
【0049】
(好適な3級アルコール化合物)
上記説明した3級アルコール化合物の中でも特に、下記式(3)
【0050】
【化6】

【0051】
{式中、R〜Rは、前記式(1)のR〜Rと同義であり、
は、ナフタレン環に結合する基であって、炭素数1〜20のアルキル基、アミノ基、アリール基、ハロゲン原子、窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とナフタレン環とが結合する複素環基、または該複素環基に芳香族炭化水素環若しくは芳香族複素環が縮合した縮合複素環基であり、
qは0〜4の整数、sは0又は1の整数、tは0〜3の整数、uは1〜4の整数であり、uとtの合計が1〜4である。}
で示される3級アルコール化合物が好ましい。前記式(3)で示される3級アルコール化合物より得られるスピロ化合物は、特許文献1及び特許文献2に記載されている通り、プロパルギルアルコール化合物と反応させることにより、有用なフォトクロミック化合物(クロメン化合物)となる。
【0052】
(基R、基の数、q、s、t、uについて)
前記式(3)において、Rの炭素数1〜20のアルキル基、アミノ基、アリール基、ハロゲン原子または窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とナフタレン環とが結合する複素環基、または該複素環基に芳香族炭化水素環若しくは芳香族複素環が縮合した縮合複素環基としては、前記式(1)の基Rで説明したものと同じものが挙げられる。
【0053】
q及びsは、基R及び基(CR)の数を示すものであり、前記式(1)で説明した通りである。さらに、tは基Rの数を示すものであり、0〜3の整数であるが、得られるスピロ化合物の有用性の観点より、0又は1であることが好ましい。uは基(OR)の数を示すものであり、1〜4の整数であるが、得られるスピロ化合物の有用性の観点より、1又は2であることが好ましい。また、uとtの合計は、1〜4であり、得られるスピロ化合物の有用性の観点より、1〜3であるのが好ましい。なお、tが2以上の場合には、各Rは互いに異なる基であってもよく、uが2以上の場合には、各Rは互いに異なる基であってもよい。
【0054】
前記式(3)で示される化合物の内、好適な化合物を具体的に例示すると、以下のものをあげることができるが、これに限定されるわけではない。
【0055】
【化7】

【0056】
【化8】

【0057】
(3級アルコール化合物と反応させる酸)
本発明で使用する、25℃における水溶液中のpKaが0.8〜4.4である酸(以後、単に酸ともいう)としては、ギ酸(pKa=3.55)、アクリル酸(pKa=4.26)、蓚酸(pKa=1.04)、クエン酸(pKa=2.87)、o−クロロ安息香酸(pKa=2.92)、m−クロロ安息香酸(pKa=3.82)、p−クロロ安息香酸(pKa=3.99)等を挙げることができる。なお、前記酸において、カッコ内の値は25℃における水溶液中のpKaである。以下、pKaの値は、特別な説明がない場合は、25℃における水溶液中の値を指すものである。
【0058】
pKaが0.8未満の酸を使用した場合には、脱アルキル体の副生量が増加するため好ましくない。一方、pKaが4.4を超える酸を使用した場合には、スピロ化反応の進行速度が極端に遅くなったり、3級アルコール化合物が脱水したビニル化合物で反応が停止するため好ましくない。脱アルキル体の副生量、反応の進行速度等を考慮すると、使用する酸は、pKaが好ましくは2.0〜4.2、さらに好ましくは3.0〜4.0、さらに好ましくは3.2〜3.8である。さらに、この範囲を満足する酸の中でも、特に、得られるスピロ化合物の選択率を高めるという観点から、本発明で使用する酸は、ギ酸であることが好ましい。
【0059】
なお、特許文献1及び2に示されている酸触媒の水溶液中のpKaは、酢酸(pKa=4.56)、塩酸(pKa=−2.2)、硫酸(pKa=−5.0)、市販のベンゼンスルホン酸(pKa=−2.5〜0)、市販のp−トルエンスルホン酸(pKa−2.0〜0)、市販の酸性アルミナ(pKa=4.5以上)である。
【0060】
本発明においては、反応系中、すなわち反応溶液中に水が少ない方が、副生成物である脱アルキル体の生成を抑制することができ、目的とするスピロ化合物の収率を高くすることができる。そのため、前記本発明で使用する酸も、水分量が少ないものを使用することが好ましい。具体的には、使用する酸に含まれる水分量は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。下記に詳述するが、反応を酸のみで行う場合には、反応に使用する溶液は酸のみとなるため、酸に含まれる水分量を極力低減させることが好ましい。そのため、酸に含まれる水分量の下限は、0質量%である。
【0061】
本発明において、酸の使用量は、多すぎると後処理が煩雑となり、少なすぎると反応の進行速度が遅くなるため、3級アルコール化合物1質量部に対して、好ましくは1〜100質量部、さらに好ましくは2〜80質量部、特に好ましくは5〜50質量部である。
【0062】
(反応溶液中の水分量)
本発明おいては、3級アルコール化合物の脱水により反応溶液中に水が生成する。本発明者等の検討によれば、反応溶液中に水が多く存在すると脱アルキル体の副生量が増加することが分かった。そのため、反応溶液中に含まれる水分量(反応により生じる水分量を含む)を好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下とする。反応溶液中に含まれる水分量は極力少ないほうが好ましいため、水分量の下限値は、0質量%であるが、本発明においては、前記酸を使用するため、反応溶液中から下記の方法により水分を除去できる下限であればよい。反応溶液中の水分量を低減するには、前記の通り、水分量が低減された酸を使用したり、蒸留による水の除去、または脱水剤等を使用した水の除去方法により実施してやればよい。中でも、操作性、後工程における精製等を考慮すると、水分量を低減した酸を、反応溶液中の水分量が前記範囲を満足するように使用することが好ましい。また、反応溶液に、有機溶媒を添加して使用する場合には、酸、及び有機溶媒を含む溶液中の水分量が上記範囲を満足するように調整してやればよい。
【0063】
(その他の反応条件)
本発明の反応は、上記反応物(3級アルコール化合物、およびpKaが0.8〜4.4である酸)を混合して実施する。その際、反応を阻害しない有機溶媒の存在下で行なうこともできるし、有機溶媒の非存在下で行なうこともできる。但し有機溶媒を使用する際には、水を除去した乾燥溶媒を使用することが好ましい。
【0064】
有機溶媒を使用する場合、その使用量は、多すぎると後処理が煩雑となり、本発明で使用する酸が固体である場合、少なすぎると反応速度の進行が遅くなるため、3級アルコール化合物1質量部に対して、好ましくは0.5〜50質量部、特に好ましくは1〜30質量部である。但し、前記3級アルコール化合物と反応させる条件下において、本発明で使用する酸が液体である場合、有機溶媒を添加しない方が、反応速度が速くなるため、特に有機溶媒を使用する必要はない。
【0065】
本発明において、前記3級アルコール化合物と酸とを反応させる際の反応温度は、使用する3級アルコール化合物、および酸(以下、単にこれらをまとめて原料とする場合もある)の種類に応じて適宜決定すればよいが、温度が低すぎると反応速度が極端に遅くなり、高すぎると副生成物が増加する傾向にあることから、好ましくは20〜150℃、さらに好ましくは40〜130℃、特に好ましくは60〜120℃、最も好ましくは80〜105℃である。このような温度範囲で反応を行うことにより、本発明は特に優れた効果を発揮する。
【0066】
その他、反応時間も、使用する原料に応じて適宜決定すればよいが、上記温度範囲において、撹拌下、2〜30時間であれば十分である。また、反応を行う際の雰囲気も特に制限されるものではないが、反応溶液中に水がなるべく含まれないようにすることが好ましいため、乾燥ガス雰囲気下、例えば、窒素雰囲気下やアルゴン雰囲気下で実施することが好ましい。さらに、本発明は、常圧、加圧、減圧下の何れの条件でも実施することができる。
【0067】
(スピロ化合物、及び精製方法)
上記のような反応を行うことにより得られるスピロ化合物は、前記式(1)で示される3級アルコール化合物を原料として使用した場合、下記式(2)で示される。
【0068】
【化9】

【0069】
{式中、R〜R、p、q、r、sは、前記式(2)と同義である。}
また、前記式(3)で示される3級アルコール化合物を原料として使用した場合、下記式(4)で示される構造を有するものである。
【0070】
【化10】

【0071】
{式中、R〜R、q、s、t、uは、前記式(3)と同義である。}
前記式(4)で示される化合物の構造は、夫々原料として使用する3級アルコール化合物の構造に対応するものとなる。よって、好適なスピロ化合物を具体的に例示すると、以下のものを挙げることができるが、これに限定されるわけではない。
【0072】
【化11】

【0073】
【化12】

【0074】
なお、本発明の方法で得られる前記式(4)で示されるスピロ化合物の粗体中には、一部、ナフトールの水酸基と使用した酸がエステル結合したエステル化合物が得られる場合がある。例えば、本発明で使用する酸がギ酸である場合は、下記式(5)で示されるエステル化合物が副生する場合がある。
【0075】
【化13】

【0076】
{式中、R〜R、q、s、t、uは、前記式(4)と同義である。}
但し、これらエステル化合物は、スピロ化合物及びエステル化合物を含む反応液に、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類を加え、エステル交換反応を実施すれば、目的とするスピロ化合物へ転化させることが可能である。本発明によれば、前記式(5)で示されるエステル化合物が生成したとしても、前記の通り、目的とするスピロ化合物に容易に転化することができる。
【0077】
エステル交換反応温度は、使用するアルコール類にもよるが、20〜100℃、特に30〜80℃で実施すればよい。また、加えるアルコールの量は、スピロ化合物の収率、後処理等を考慮すると、前記式(5)のエステル化合物1モルに対して、好ましくは10〜1000モル、さらに好ましくは20〜800モル、特に好ましくは50〜600モルである。このエステル交換反応の反応時間は、特に制限されるものではないが、撹拌下、2〜48時間の範囲で行えばよい。また、反応雰囲気下も特に制限されるものではなく、前記式(1)で示される3級アルコール化合物と酸との反応と同じ雰囲気下で反応を実施することができる。
【0078】
また、エステル交換反応の進行が遅い場合は、副生するエステル類(例えば、本発明で使用する酸にギ酸を使用し、アルコールにエタノールを使用した場合は、ギ酸エチルが副生する)を留去しながら反応を行うことが好ましい。また、場合によっては、アルコールを追加して反応を実施することにより、反応の進行を速くすることができる。この場合、アルコールは、前記式(4)で示されるエステル化合物1モルに対して、最初に、好ましくは10〜1000モル加え、さらに、追加分として、全アルコールの量が2000モル以下となる量を加えることが好ましい。さらに、スピロ化合物及びエステル化合物を含む反応液を有機溶媒で抽出、濃縮後、塩基性条件下で加水分解を実施することで、副生したエステル化合物のエステル結合を切断し、目的とするスピロ化合物へ転化させることも可能である。
【0079】
なお、当然のことながら、Rが水酸基でない場合には、前記式(5)で示されるエステル化合物は生成されないため、エステル交換反応の必要はない。
【0080】
このような方法で得られたスピロ化合物は、例えば、次のような方法により反応液から分離することができる。即ち、反応終了後の反応液に抽出溶媒を添加し、分液操作で水層を分離する。その後、有機層を水洗して、中性にした後、減圧濃縮を行なうことにより、スピロ化合物の粗体を分離することができる。このようにして得られた粗体の純度は、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCという)分析により確認することができ、通常HPLC純度90%以上(ここでいうHPLC純度とは、溶媒を除く各ピークの総面積値を100とした面積百分率であり、以後示すHPLC純度も同様の意味を示す)で、目的のスピロ化合物を含有している。
【0081】
また、前記式(4)で示される3級アルコール化合物を、25℃における水溶液中のpKaが0.8未満である酸を使用してスピロ化した場合には、反応条件にもよるが、下記式(6)
【0082】
【化14】

【0083】
{式中、R〜R、q、s、t、uは、前記式(4)と同義である。}
で示される脱アルキル体がHPLC純度で4〜15%程度副生する。すなわち、水溶液中のpKaが0.8未満の酸を使用した場合、反応開始時に反応液中の水分量を前記した範囲まで低減させたとしても、原料となる3級アルコール化合物が脱水し、副生する水により脱アルキル体がHPLC純度で4〜15%程度副生する。これに対して、本発明の方法によれば、上記脱アルキル体の生成を、溶媒を除くHPLC面積百分率で4%未満、さらに反応条件を最適化すれば2%未満に抑えることが可能となる。
【0084】
通常、フォトクロミック化合物は、可能な限り高純度であることが求められている。副生した前記式(6)で示される脱アルキル体は、プロパルギルアルコール誘導体と反応し、目的としないクロメン化合物を副生するので、スピロ化合物の時点で可能な限り脱アルキル体の副生を抑えることが重要である。
【0085】
上記のような方法で得られたスピロ化合物の粗体は、シリカゲル、アルミナ、活性炭等の吸着剤による吸着処理や晶析(再結晶)、減圧蒸留、水蒸気蒸留、昇華精製、カラムクロマトグラフィー等の公知の方法で、さらに精製を行なうことにより高純化することができる。
【0086】
本発明の方法で得られるスピロ化合物は、フォトクロミック化合物等の機能性色素の原料として使用することが可能である。特に、本発明で得られたスピロ化合物は、プロパルギルアルコール誘導体と公知の方法、例えば、特許文献1及び2に記載された方法で反応させることにより、優れたフォトクロミック特性を有するクロメン化合物とすることができる。本発明は、プロパルギルアルコール誘導体と反応する脱アルキル体が少ないスピロ化合物を製造することができる。そのため、得られたスピロ化合物をクロメン化合物の原料とすることにより、効率よく純度の高いクロメン化合物を製造することができる。
【0087】
したがって、本発明は、脱アルキル体を含む副生成物の副生量も少なく、高純度品が必要とされるフォトクロミック化合物の原料を製造する方法として、非常に有用な方法である。
【実施例】
【0088】
以下、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0089】
実施例1
窒素気流下、1000mlの4つ口フラスコに、
【0090】
【化15】

【0091】
で示される3級アルコール化合物を15g(0.0398mol)、1質量%の水を含有するギ酸(pKa=3.55)300gを混合し、102℃へ昇温した。102℃で4時間反応後、HPLC分析を行った結果、原料の3級アルコール化合物は消失しており、溶媒を除くHPLC面積百分率において、目的とするスピロ化合物が72.0%、ナフトールとギ酸がエステル結合したエステル化合物が27.5%、脱アルキル体が0.5%生成していた。反応液を40℃へ降温し、メタノールを350g(10.9mol)投入して、45℃で8時間反応後、HPLC分析を行った結果、溶媒を除くHPLC面積百分率でスピロ化合物が99.0%、エステル化合物が0.5%、脱アルキル体が0.5%生成していた(以下、純度、収量割合を示す%の値は、HPLC面積百分率の値である。)。
【0092】
メタノールを常圧で留去後、トルエンを250g加え、分液操作を行い、水層を分離した。有機層(トルエン層)を水100gで4回洗浄し、pHを中性とした後、減圧濃縮を行った。エタノール及び水で再結晶を行い、12.4g(0.0346mol)の肌色固体(収率:87%、HPLC純度:99.0%)を得た。脱アルキル体のHPLC面積百分率は、0.4%であった。得られたスピロ化合物の分析値は、
HPLC−マススペクトル(APCI):m/z359(M+1)
H−NMRスペクトル(重DMSO中):δ1〜4ppm(14H)、δ3.9ppm(3H)、δ6〜9ppm(8H)、δ10.3ppm(1H)
であり、下記に示される目的物であることが確認された。
【0093】
【化16】

【0094】
実施例2
窒素気流下、1000mlの4つ口フラスコに、
【0095】
【化17】

【0096】
で示される3級アルコール化合物を15g(0.0371mol)、水を2質量%含有するギ酸300gを混合し、98℃へ昇温した。98℃で5時間反応後、HPLC分析を行った結果、原料の3級アルコール化合物は消失しており、溶媒を除くHPLC面積百分率において、目的とするスピロ化合物が70.4%、ナフトールとギ酸がエステル結合したエステル化合物が29.3%、脱アルキル体が0.3%生成していた。反応液を40℃へ降温し、メタノールを350g(10.9mol)投入して、45℃で8時間反応後、HPLC分析を行った結果、スピロ化合物が99.2%、エステル化合物が0.5%、脱アルキル体が0.3%生成していた。メタノールを常圧で留去後、実施例1と同様の操作を行い、13.1g(0.0339mol)の肌色固体(収率:91%、HPLC純度:99.3%)を得た。脱アルキル体のHPLC面積百分率は、0.2%であった。分析値は、
HPLC−マススペクトル(APCI):m/z387(M+1)
H−NMRスペクトル(重DMSO中):δ0.8〜2.5ppm(18H)、δ4.0ppm(3H)、δ6〜9ppm(8H)、δ10.2ppm(1H)
であり、下記に目的物であることが確認された。
【0097】
【化18】

【0098】
実施例3〜7
実施例2において、ギ酸の使用量、濃度、反応温度、表1に示す通りに変更した以外は、同様に操作を行った。結果を表1に示す。なお、表1中の使用量は、原料とする3級アルコール化合物に対する量である。
【0099】
【表1】

【0100】
実施例8
窒素気流下、1000mlの4つ口フラスコに、
【0101】
【化19】

【0102】
で示される3級アルコール化合物を15g(0.0294mol)、水を1質量%含有するギ酸を300g混合し、98℃へ昇温した。98℃で4時間反応後、HPLC分析を行った結果、原料の3級アルコール化合物は消失しており、目的とするスピロ化合物が73.8%、ナフトールとギ酸がエステル結合したエステル化合物が26.0%、脱アルキル体が0.2%生成していた。反応液を40℃へ降温し、メタノールを350g(10.9mol)投入して、45℃で8時間反応後、HPLC分析を行った結果、スピロ化合物が99.2%、エステル化合物が0.4%、脱アルキル体が0.4%生成していた。メタノールを常圧で留去後、実施例1と同様の操作を行い、12.9g(0.0262mol)の肌色固体(収率:89%、HPLC純度:99.3%)を得た。脱アルキル体のHPLC面積百分率は、0.3%であった。分析値は、
HPLC−マススペクトル(APCI):m/z493(M+1)
H−NMRスペクトル(重DMSO中):δ0.8〜2.5ppm(18H)、δ3.7〜4.0ppm(6H)、δ6〜9ppm(11H)、δ10.3ppm(1H)
であり、下記に示される目的物であることが確認された。
【0103】
【化20】

【0104】
実施例9〜14
実施例8において、アルコール投入前の反応時間(98℃での反応時間)、アルコール投入後の反応時間(45℃での反応時間)、アルコールの種類と使用量を表2に示す通りに変更した以外は、同様に操作を行った。結果を表1に示す。なお、表2中の使用量は、原料とする3級アルコール化合物に対する量である。
【0105】
【表2】

【0106】
実施例15
窒素気流下、1000mlの4つ口フラスコに、
【0107】
【化21】

【0108】
で示される3級アルコール化合物を15g(0.0277mol)、水を1質量%含有するギ酸を300g混合し、98℃へ昇温した。98℃で5時間反応後、HPLC分析を行った結果、原料の3級アルコール化合物は消失しており、目的とするスピロ化合物が70.4%、ナフトールとギ酸がエステル結合したエステル化合物が29.1%、脱アルキル体が0.5%生成していた。反応液を40℃へ降温し、メタノールを350g(10.9mol)投入して、45℃で8時間反応後、HPLC分析を行った結果、スピロ化合物が99.1%、エステル化合物が0.4%、脱アルキル体が0.5%生成していた。メタノールを常圧で留去後、実施例1と同様の操作を行い、12.8g(0.0245mol)の肌色固体(収率:88%、HPLC純度:99.2%)を得た。脱アルキル体のHPLC面積百分率は、0.4%であった。分析値は、
HPLC−マススペクトル(APCI):m/z523(M+1)
H−NMRスペクトル(重DMSO中):δ0.8〜2.5ppm(18H)、δ3.7〜4.0ppm(9H)、δ6〜9ppm(10H)、δ10.3ppm(1H)
であり、下記に示される目的物であることが確認された。
【0109】
【化22】

【0110】
実施例16
窒素気流下、1000mlの4つ口フラスコに、
【0111】
【化23】

【0112】
で示される3級アルコール化合物を15g(0.0428mol)、水を1質量%含有するギ酸を300g混合し、98℃へ昇温した。98℃で8時間反応後、HPLC分析を行った結果、原料の3級アルコール化合物は消失しており、目的とするスピロ化合物が68.5%、ナフトールとギ酸がエステル結合したエステル化合物が31.0%、脱アルキル体が0.5%生成していた。反応液を40℃へ降温し、メタノールを350g(10.9mol)投入して、45℃で8時間反応後、HPLC分析を行った結果、スピロ化合物が99.0%、エステル化合物が0.5%、脱アルキル体が0.5%生成していた。メタノールを常圧で留去後、実施例1と同様の操作を行い、12.3g(0.0370mol)の肌色固体(収率:86%、HPLC純度:99.0%)を得た。脱アルキル体のHPLC面積百分率は、0.4%であった。分析値は、
HPLC−マススペクトル(APCI):m/z333(M+1)
H−NMRスペクトル(重DMSO中):δ0.5〜2.0ppm(12H)、δ4.0ppm(3H)、δ5.8〜9ppm(8H)、δ10.2ppm(1H)
であり、下記に示される目的物であることが確認された。
【0113】
【化24】

【0114】
実施例17
窒素気流下、1000mlの4つ口フラスコに、
【0115】
【化25】

【0116】
で示される3級アルコール化合物を15g(0.0416mol)、1質量%の水を含有するギ酸(pKa=3.55)300gを混合し、102℃へ昇温した。102℃で4時間反応後、HPLC分析を行った結果、原料の3級アルコール化合物は消失しており、目的とするスピロ化合物が99.5%、ナフトールとギ酸がエステル結合したエステル化合物は検出されず、脱アルキル体が0.5%生成していた。メタノールを常圧で留去後、トルエンを250g加え、分液操作を行い、水層を分離した。有機層(トルエン層)を水100gで4回洗浄し、pHを中性とした後、減圧濃縮を行い、14.0g(0.0409mol)の淡黄色固体(収率:98%、HPLC純度:99.5%)を得た。脱アルキル体のHPLC面積百分率は、0.3%であった。分析値は、
HPLC−マススペクトル(APCI):m/z343(M+1)
H−NMRスペクトル(CDCl中):δ1〜4ppm(14H)、δ6〜9ppm(9H)
であり、下記に示される目的物であることが確認された。
【0117】
【化26】

【0118】
比較例1
窒素気流下、1000mlの4つ口フラスコに、実施例2で使用した3級アルコール化合物を15g(0.0371mol)、水分量300ppm以下のトルエンを300g混合した。そこへ、水を2質量%含有するメタンスルホン酸(pKa=−1.2)を10.7g混合し、98℃へ昇温した。98℃で4時間反応後、HPLC分析を行った結果、原料の3級アルコール化合物は消失しており、目的とするスピロ化合物が89.0%、脱アルキル体が6.2%、構造不明の不純物4.8%が生成していた。室温へ冷却し、水100gで有機層(トルエン層)を6回洗浄し、pHを中性とした後、減圧濃縮を行った。エタノール及び水で再結晶を行い、11.9g(0.0308mol)の茶色固体(収率:83%、HPLC純度:92.2%)を得た。脱アルキル体のHPLC面積百分率は、5.8%であった。
【0119】
比較例2
窒素気流下、2000mlの4つ口フラスコに、実施例2で使用した3級アルコール化合物を15g(0.0371mol)、水分量300ppm以下のトルエンを300g混合した。そこへ、市販のp−トルエンスルホン酸・一水和物をトルエンと共沸脱水した、水を3質量%含むp−トルエンスルホン酸(pKa=−1.3)21.2gを含むトルエン溶液を混合し、98℃へ昇温した。98℃で4時間反応後、HPLC分析を行った結果、原料の3級アルコール化合物は消失しており、目的とするスピロ化合物が89.2%、脱アルキル体が7.1%、構造不明の不純物3.7%が生成していた。室温へ冷却し、水100gで有機層(トルエン層)を6回洗浄し、pHを中性とした後、減圧濃縮を行った。エタノール及び水で再結晶を行い、12.1g(0.0313mol)の茶色固体(収率:84%、HPLC純度:92.6%)を得た。脱アルキル体のHPLC面積百分率は、5.9%であった。
【0120】
比較例3
窒素気流下、1000mlの4つ口フラスコに、実施例2で使用した3級アルコール化合物を15g(0.0371mol)、水分量300ppm以下のトルエンを300g混合した。そこへ、酢酸(pKa=4.56)を22.3g(0.371mol)混合し、98℃へ昇温した。98℃で4時間反応後、HPLC分析を行った結果、原料の3級アルコール化合物は消失しており、目的とするスピロ化合物が2.1%、脱アルキル体は検出されず、中間体である
【0121】
【化27】

【0122】
で示されるビニル化合物が97.9%生成していた。室温へ冷却し、水100gで有機層(トルエン層)を6回洗浄し、pHを中性とした後、減圧濃縮を行った。エタノール及び水で再結晶を行い、13.9g(0.0359mol)の淡黄色油状物(ビニル化合物として、HPLC純度:97.9%)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、
は、ナフタレン環に結合する基であって、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アミノ基、水酸基、アリール基、ハロゲン原子、窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とナフタレン環とが結合する複素環基、または該複素環基に芳香族炭化水素環若しくは芳香族複素環が縮合した縮合複素環基であり、
は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アミノ基、アリール基、ハロゲン原子、窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とベンゼン環とが結合する複素環基、または該複素環基に芳香族炭化水素環若しくは芳香族複素環が縮合した縮合複素環基であり、
は、炭素数1〜20のアルキル基であって、ORはナフタレン環に結合する基であり、
、およびRは、それぞれ、炭素数1〜20のアルキル基であり、R、およびRは互いに連結して炭素数3〜20の環を形成してもよく、
、およびRは、それぞれ、水素原子、フッ素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基であり、R、およびRは互いに連結して炭素数3〜20の環を形成してもよく、
pは0〜5の整数、qは0〜4の整数、rは1〜4の整数であって、pとrの合計が1〜6であり、sは0又は1の整数である。)
で示される3級アルコール化合物と、25℃における水溶液中のpKaが0.8〜4.4である酸とを反応させることを特徴とする、下記式(2)
【化2】

(式中、R〜R、及びp〜rは、前記式(1)におけるものと同義である。)
で示されるスピロ化合物の製造方法。
【請求項2】
前記式(1)におけるsが0である3級アルコール化合物を使用することを特徴とする請求項1に記載のスピロ化合物の製造方法。
【請求項3】
25℃における水溶液中のpKaが0.8〜4.4である酸がギ酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスピロ化合物の製造方法。
【請求項4】
前記式(1)で示される3級アルコール化合物と25℃における水溶液中のpKaが0.8〜4.4である酸との反応を、反応溶液中の水分量が10質量%以下となるような条件下で行うことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のスピロ化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−263260(P2009−263260A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112776(P2008−112776)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】